PandoraPartyProject

シナリオ詳細

わたくしこそが真の悪役令嬢でしてよ!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●出花から失礼、高笑いでご挨拶ですわ!
 おーっほっほっほっほっほっほっほ!
 レイジョー家に響くその声は、最早日常茶飯事と言っていい。朝早くから忙しく働く使用人たちは一度手を止めるが、気にした様子も見せずにすぐに作業に戻っていく。それくらいそれは毎日の『当たり前』となっている。
 目覚めの高笑いを決めた令嬢は広々とした自室でふうと満足げな吐息を溢し、爽やかに澄み渡る蒼穹へ自信に満ちた碧眼を向けている。嗚呼、空を飛ぶ白い鳥もわたくしを祝福しているかのよう!
 美しい金髪の巻き毛をファサァと払った令嬢はカッ! と造形の愛らしいヒールを鳴らして振り返り、令嬢付きのメイドたちに朝の支度をさせた。

「お父様、お母様、お兄様、ごきげんよう」
 令嬢――アクノは完璧な仕草で家族に礼を示し、朝の食卓を囲んだ。おはようと返す家族たちの瞳は慈愛に満ちていて、可愛くも誰が見ても淑やかで完璧なレディに育ったアクノのことを誇らしく思っている。
 けれど、頭を抱えている問題もあった。
 それは毎朝の『発声練習』も含まれることだが――
「……アクノ、お前のデビュタントも迫ってきていることだが、」
 歯切れの悪い父親に、母親と兄の視線がチラリと向けられる。ナイフとフォークを握ったままの美しい姿勢を保ち、表情も崩さず……けれどその瞳は雄弁に語っている。
(あなた/父上、頑張って……!)
 家族の期待を背負った父親はこほんと咳払いをして、家長らしく威厳のある顔でアクノを見つめた。父は今日こそはしっかりと言わねばならない。もうデビュタントも控えているのだからそのような振る舞いをやめるように、と。
「お父様、どうしましたの?」
 嗚呼! ことりと首を傾げる娘が今日も可愛い!!
 その仕草ひとつで父の決意は崩れ去る。
「いいや、お前のデビュタントが楽しみだな、と思ってな」
(あなたーーーーー!!!)
(父上ー! こうなったら俺が……っ)
「ええ、わたくしも。素敵なドレスを手配しましたの」
 家族の前のアクノは、淑女教育の賜物の笑みではなく、幼い頃と変わらぬ心からの愛らしい笑みをみせてくれる。幸せそうに微笑む幻想一可愛い妹の前に屈せぬ兄はいない。
「あら、お兄様。胸を押さえて……どこかお加減がすぐれませんの?」
 心から案じるその顔に、兄は咽び泣きそうになった。嗚呼、俺の妹が今日もこんなにも可愛い! 言えない、こんな可愛い子に『悪役令嬢をやめろ』だなんて! そんなことを言っては泣いてしまうのでは? そもそもこの子のどこが悪役令嬢だと言うのだ!? ……いや、外ではそのような振る舞いをしているようだし、毎朝発声練習も欠かしていないようだが……しかし、しかしだ。まだ完全な悪役令嬢になってはいないのだ。
 原因は、一冊の本だった。異国で流行っているそうですよと持ち込まれた一冊の本『悪の華』に世間知らずの娘は感化されてしまったのだ。強く格好いい女性像に焦がれた娘は、これですわー! とその日から悪役令嬢になることを決めてしまった。
 両親と兄は食後の紅茶を優雅に飲むアクノを見ながら決心する。
 必ずやこの愛らしい娘に悪役令嬢なる肩書きをつけさせはしない!

●君も悪役令嬢
「悪役令嬢になってきてほしいんだ」
 お願いだから端折るのやめて。
 そんな視線に気付いたのだろう、『面白いのに』と思ったことを隠す様子もなく劉・雨泽(p3n000218)はゆるく首を傾げてから口を開いた。
「幻想のとある貴族家のお嬢さんがね、悪役令嬢というものに夢を見ているらしいんだ。それをね、家族は止めたいのだって」
 蝶よ花よと育てた可愛い娘が悪役令嬢なるものになりたがっていると知った時、それはもう家族は驚いたのだそうだ。幸いデビュタント前の令嬢が顔を出すのはお茶会のみで、彼女が悪役令嬢になりたがったいることは世間には知られていない。……一部の家には知られているが、両親が手を回している。
 けれどもデビュタント――華の舞踏会へと繰り出すようになれば、そうはいかない。あっという間に噂は広がってしまうことだろう。
 そうなって困るのは、件の令嬢の家である。大切に育てた娘に不似合いな肩書がつくのも、好奇の目に晒されるのも、阻止せねばならない。何故ならレイジョー家の人々は娘を溺愛している。普通に幸せになってほしいのだ。何も黒歴史を背負い人々から奇異の視線を進んで受けなくとも良いではないか。
「そういう訳でね、皆にはお茶会で悪役令嬢っぷりを見せつけてほしいんだ。
 自分よりも悪役令嬢に相応しい人が現れれば、諦めるのではないか――って家族は思っているみたいだけれど、ライバル認定されて切磋琢磨されても困っちゃうと思うんだよね。ちゃんと諦めさせてあげて欲しいな」
 悪役令嬢より普通のお嬢様のほうが良いのだと諭してもいい。
 ちなみに、君たちのドレスは有名デザイナーのドレスをレイジョー家が用意してくれる。
 やり方は任せるよと笑って、雨泽は君たちへお茶会への招待状を渡すのだった。

GMコメント

 ごきげんよう、悪役令嬢の皆様。
 わたくしは今回のお茶会の司会進行役を務めさせて頂きます、イチカーと申します。

●成功条件
 圧倒的悪役令嬢パワーを見せつけるのですわ
 アクノお嬢様が悪役令嬢になるのを阻止するのですわ

●シナリオについて
 このシナリオは悪依頼でしてよ。成功した場合、皆様の悪名が高まりますわ。だって皆様は悪役令嬢なのですから! 当然のことですわ! その代わり、レイジョー家からの『心付け』が少し多めに出ますの。
 皆様は悪役令嬢ですわ。それ即ち、相談の席についた時点で老若男女性別不明問わずお嬢様です。おわかりになって?
 敵はお茶会にあり。あなたが仲間だと思っている令嬢もトップ悪役令嬢の座を脅かす敵かもしれませんわね……流行りのドレスとデザイナーは早めに買収しておきましょうね。本日のお茶会相手のアクノお嬢様は我こそが悪役令嬢の中の悪役令嬢――と思い込んでいるため、圧倒的な悪役令嬢パワーを見せつけ、真の悪役令嬢っぷりを見せつけねばなりませんわ。
 悪役令嬢なお嬢様たち――つまりあなた方の中で格の違いがあっても良いでしょう。悪役令嬢と言えば取り巻きのお嬢様もいるものですわ。その場合は、どのお嬢様付きかをご記載あそばせ!
 美しいお茶会の薔薇! 美しい薔薇には棘がある! さあ、最高の悪役令嬢となり、華麗にお茶会で咲き誇るのですわ!

●お茶会
 レイジョー家が有名サロンの離れ――温室を貸し切りました。
 硝子の鳥籠めいた温室の中には花々が美しく彩り、白を基調とした家具で場を整えてあります。お茶やお菓子はどれも一級品。この日のためにサロンのシェフが腕をふるいました。
 何かございましたら、ベルを鳴らして給仕へとお申し付け下さい。

●アクノ・レイジョー
 皆様ご存知(?)レイジョー家の名高きアクノお嬢様でございます。
 毎朝高笑いでの発声練習を欠かせない、悪役令嬢の中の悪役令嬢。御年15歳。
 悪役令嬢たるもの上から見下さねばなりません。そのため流行りのドレスは追いかけるし、美貌を磨くのも欠かさない。礼儀作法は完璧でとても素晴らしい淑女にお育ちのはずですが――どうしてその情熱を普通に抱いてくれないものかとご両親はお嘆きです。
 実は、世間知らずで素直な箱入り娘。とても頑張って悪役令嬢になろうとしていますが、予想外のことが起きると素が出てしまう面も……。

●トリン&マキン
 アクノお嬢様の取り巻き、モブリーノ家のお嬢様でございます。
 アクノお嬢様とは幼馴染。彼女のご機嫌取りならお任せあれ! 常に一歩後ろで左右に並び、「そうよそうよ、アクノお嬢様の言うとおりだわ!」みたいなことを仰られております。双子で御年14歳。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はOです。
 OTYAKAIでOJOSAMA、つまりはそういうことです。

  • わたくしこそが真の悪役令嬢でしてよ!完了
  • GM名壱花
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月21日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
天閖 紫紡(p3p009821)
要黙美舞姫(黙ってれば美人)
ガイアドニス(p3p010327)
小さな命に大きな愛
標・預安(p3p010378)
悩める子竜
柳・黒蓮(p3p010505)
偽窓嘘録

リプレイ

●悪のお茶会……?
 春めいてきた風に甘く花の香りが香る頃、そのお茶会は開かれました。
 幻想国の貴族の方々に人気な此方のサロン――流石に全てを貸し切ることは叶いませんでしたが、離れの温室はレイジョー家が貸し切って、お嬢様方をお迎え致します。
「あら……? わたくしとしたことが早く着きすぎてしまったのかしら……?」
 案内係に招待状を渡して温室へとカツリと足を踏み入れたアクノ・レイジョーお嬢様は、開いた扇子でそのかんばせを半分隠し、不思議そうに首を傾げました。悪役令嬢として登場するために全員が席についた時間帯を狙い、予定の時刻よりも少し遅れてきましたのに、とその表情が告げておいでです。
 レイジョー家が用意した今回のお茶会。通常お茶会は主催者であるお嬢様が手ずから手紙をしたためて懇意にしているお嬢様を誘うものであるため、今回のように家がイレギュラーズたちを呼んで用意してお茶会はその作法から外れることとなります。そのため、必ず行ってくるようにと父君から招待状を渡されただけのアクノお嬢様は、主催者が誰であるかをしりません。通常ならばホストのお嬢様がいらっしゃるはずなのですが――ちらりとアクノお嬢様が視線を向けた席、いわゆるお誕生日席に座るお嬢様の姿はまだありません。
(……? 後から来るのかしら?)
「アクノお嬢様、あそこの席が空いていますわ」
「アクノ様がお好きなラズベリーのマカロンが近い席よ」
「そうね、席に着きましょうか」
 アクノお嬢様は不思議に思いながらも、モブリーノ家の双子の令嬢、トリンお嬢様とマキンお嬢様を伴い、空いている席へと向かいます。
 既に席に着いているのは三名のお嬢様。アクノお嬢様方が席に着かれ、挟む形で双子の令嬢が席に着き、空席はいつつ。本日のお茶会の席は計十一席です。
「挨拶をさせてもらっても良いかしら? ごきげんよう、ヨアネット・シルヴェですわ」
 アクノお嬢様の右隣に座ったマキンお嬢様。更にその隣の席に先に着いていた美しい黒髪と儚げな微笑の愛らしい『迷える小竜』標・預安(p3p010378)――ヨアネットお嬢様が優雅に挨拶をしました。その愛らしいかんばせにマキンお嬢様は「まあ」と仄かに頬を染め、同性であろうとも――いいえ、同性である(と思っている)からこそ、なんて可愛らしいお嬢様なのかしらと思う程度で済んだのでしょう。常ならばアクノお嬢様のみを称えるマキンお嬢様が「ボンネットから覗く角が素敵ですわね」と微笑むのを見て、アクノお嬢様が少しだけ瞳を丸くします。その口元は扇で半分隠されているため覗えませんが、きっと驚いたのでしょう。
「あなたがアクノたそ?」
 アクノお嬢様の左隣のトリンお嬢様の隣席からもお声が掛かります。
「脚役令嬢だか悪役令嬢だか知ったことじゃねーですが、とりあえず脚役令嬢というからには脚を観察し合うのがマナーでしてよー?」
 白髪に特徴的な角(アクセサリー)をお持ちの『《戦車(チャリオット)》』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)お嬢様のお言葉に、アクノお嬢様は更に驚かれたのでしょう。……と言うよりも、何を言われているのか理解が追いついていないのでしょう。トリンお嬢様と一緒に固まっていらっしゃるアクノお嬢様は頭の中では解らない単語を必死に噛み砕いていらっしゃいます。脚役ってなんでしょうね……。
「脚は露出してなんぼですのよー」
 椅子を引き、テーブルクロスの下から白い脚を徐に抜き出し、大胆に脚を見せるピリムお嬢様。
 固まっていたアクノお嬢様も流石に眉を顰め、窘めます。マナー違反の人に対してしっかり指導するのも悪役令嬢の嗜みです。
「お茶会にそのようなマナーはありませんわ? それにあなた、品が無くてよ。貴族の子女たるもの、そんな……脚を露出させるだなんて……信じられませんわ」
「そうよそうよ、アクノお嬢様の言うとおりですわ。一体どんな教育をされてきたのかしら」
 いつもならもうひとり、マキンお嬢様も「わたくしだったら恥ずかしくて家にこもってしまいそう」と追従するのですが――ヨアネットお嬢様の微笑が愛らしくて、反対側のお話が聞こえていなかったご様子です。
(オレ悪役令嬢っつーより黒幕愛妾ってカンジじゃね……???)
 眼前のテーブルに並ぶ美しくも愛らしい甘味たち。そして着飾ったご令嬢方へと視線を向けた『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)お嬢様は少しご自分が場違いなのではないかと思っていらっしゃるようですが、音をたてずに茶器を持ち上げて口元へと運ぶ姿はとても様になっており、淑女らしい立ち振舞いで席についていらっしゃいます。お席はピリムお嬢様の前の席。一瞬だけチラリと向けられたアクノお嬢様の視線を、ニコリと妖艶な笑みで受け止めておいででした。
(早速アクノちゃんが戸惑っているわね!)
 トリンお嬢様の正面の席。淑やかな笑みを浮かべながら心の中で瞳を輝かせていらっしゃるのは『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)お嬢様。お茶会の席についているため抑えられてはいるものの、ピリムお嬢様よりも座高が高いことと流行りのドレスが気になるのでしょう。何度か『気にしてませんよ』を取り繕ったアクノお嬢様の視線が向けられています。
「お、お嬢様、困ります……!」
「招待状は出しましたわ。何も問題ないはずですわ」
「そうは申されましても……」
 にわかに温室の入り口が騒がしくなりました。何度かの問答と、そしてそれを振り切るような声。闖入者でも来たのかと、席に着いているご令嬢方の視線も自然とそちらへと向けられます。
「……ふう、今日の『お紅茶』も良いお味。あら皆様、お揃いで?」
「よ! 流石お姉様!悪役令嬢一の飲みっぷりに痺れる、憧れますわ!」
「お姉様、本日のお飲みっぷりも大変豪快さゆえに美しいですわ!」
 オロオロとする案内係を引き連れながらゴッゴッと豪快に喉を鳴らして『紅茶』(瓶入りウォッカ)をラッパ飲みで呑んだ『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)お嬢様が手の甲で口元を拭えば、そんな姿も素敵だとヴァレーリヤお嬢様の取り巻……仲良しの『要黙美舞姫(黙ってれば美人)』天閖 紫紡(p3p009821)――シホーニャお嬢様と『偽窓嘘録』柳・黒蓮(p3p010505)お嬢様が両の手を合わせて微笑みます。
「さあお姉様、こちらにお座りになって」
「ありがとう、黒蓮」
 ささっとテーブルへと近づいた黒蓮お嬢様がガイアドニスお嬢様のふたつ隣の椅子を引けば、それがさも当たり前だと言わんばかりの表情でヴァレーリヤお嬢様が座ろうとし――唐突に「ウッ」と口を抑えました。
「お姉様!」
 すかさずレインボーシャワー用エチケット袋を手に近寄るシホーニャお嬢様と、他のお嬢様方に見せないようにと駆け寄って盾になる給仕係の素早いファインプレー。
 しかしどうやら事なきを得た様子で、ヴァレーリヤお嬢様は蹲りかけた身を正しました。
「ぜえぜえ、私としたことが、優雅さが胃からまろび出るところでしたわ」
 胃から優雅さをまろび出したら最期、給仕係たちの手によって退場させられる気配を察したのか、お嬢様方は大人しく席に着きました。こちらもアクノお嬢様たちと同様、ヴァレーリヤお嬢様を真ん中に、左右にシホーニャお嬢様と黒蓮お嬢様が着きます。
「黒蓮、スコーン(ソーセージ)を取って頂戴。ついでに火で炙ってくれると、とっても嬉しいですわ」
「はーい! お姉様の大好きなスコーン(ソーセージ)ですわ」
 ヴァレーリヤお嬢様の声に黒蓮はスコーンに手を伸ば――さずに、何故か持参していた袋からお酒にとても合いそうなソーセージを取り出します。ヴァレーリヤお嬢様たちの間ではソーセージはスコーンと呼ばれているようです。
「火加減もバッチリお姉様好みに炙りましたの、オホホホ!」
 ……前言撤回。大人しく席に着いていないですね。
 キャラがとても濃い三人の様子に、アクノお嬢様は唖然としていらっしゃいます。蝶よ花よと育てられたアクノお嬢様にとっては庭園の中でゴリラに出会うくらいの未知との遭遇と言っても過言ではない状況なのでしょう。
「あら。皆様もうお揃いでしたのね」
 ヴァレーリヤお嬢様が取り巻きのおふたりと大変仲良く過ごしているところへ、淑やかな声が増えました。案内係へと上品に手を掲げて下げさせた『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)お嬢様(何故かヘンテコなロバを連れている)が静々とひとつだけ空いている席――アクノお嬢様がホストが座ると思っておられるお誕生日席へと向かいました。
(あの方が、ホストですのね)
 しかし――。
「……え?」
 席へとたどり着いたシフォリィお嬢様が唐突にドレスの肩口へと手を掛けると、バッと一瞬で早着替え! 美しいドレスから一転、長ラン! サラシ! ボンタン! な所謂特攻服(イブニングドレス)になったではありませんか。
「悪役令嬢という型にはまった事をして何が悪役令嬢! 真の悪役令嬢ならば既成概念を破壊し突き進む! 私達ワルの特攻(ブッコミ)ロードは決まった道をブッ壊して自分(テメェ)の道をツッパしる事にほかならない! お茶会、いやここ今から集会になるから夜露死苦ゥ!」
「ええ? しゅ、集会ってなんですの?」
「集会を知りませんの? 非常識でしてよ!」
「そこの貴女、見ない顔ですわね。新入りだと言うのに、私達に挨拶もショバ代も無しかしら。あまり調子に乗っていると、コンクリ詰めで海水浴をしてもらうことになりますわよ? おおん?」
「そうですわ! コンクリ海水浴したくなければ身の程を弁えな! ですわ!」
「ねえ、さっさとその邪魔な長い布切れ……スカートでしたっけ、たくしあげて下さらない?」
 シフォリィお嬢様の啖呵を皮切りに、お茶会はもう混沌(カオス)。
 アクノお嬢様は可哀想に思えてしまいそうなほどに目を丸くしておいでです。
 きっとこの日のお茶会はアクノお嬢様にとって忘れられないものとなることでしょう……。

「まぁ、なんて無礼なのかしら!」
 ガチャンと甲高い音を立て、ことほぎお嬢様が悲鳴に近い声を上げられました。すぐさまことほぎお嬢様に給仕していた女性が申し訳ありませんと頭を下げますが、ことほぎお嬢様は怒りを抑えられない様子。――しかしそれは、ことほぎお嬢様がわざと魔眼で給仕係にミスをするように指示を出したもの。つまり、自作自演でございます。
(わ、わたくしも、あのようにすべきだったのかしら……)
 その姿にアクノお嬢様は内心何やら感銘を受けたご様子。此度は誰かの家でのお茶会ではなくサロンという一般の店――の一部を借りてのお茶会ですので、アクノお嬢様は強く言ってはその人の職を奪ってしまうのではないかと、実は何度かミスを見つけたものの口を出さずにいたのです。
(わたくしよりもあの方の方が悪役令嬢の名に相応しい……? い、いけないわ、アクノ。悪役令嬢たるもの弱気になっては駄目よ!)
 カップの取っ手に触れる指先に一瞬力を入れたアクノお嬢様は自身を奮い立たせます。
「ことほぎ様、そんなに怒らなくても……もしかして何か焦っておいでですの?」
 例えば……と何かを探すような姿をアクノお嬢様がすれば、マキンお嬢様がお隣のヨアネットお嬢様の可愛らしいかんばせを見て微笑み、その姿にトリンお嬢様がくすくすと笑います。まるで、年若いヨアネットお嬢様と比べるように――。
「遅れても逃してもおりませんわよ」
「そうは申しておりませんわ。それよりもわたくし、経験豊富そうなあなたとはもっとお近づきになりたくて――」
「シェフ! シェフを呼んでちょうだい!!」
「お紅茶(アルコール度数50%)が足りていませんわよ!」
「お姉様にお紅茶(アルコール度数50%)を振る舞わないなんてどういうつもり!?」
「お茶はテーブルにある、ですって!? こんなお茶、お姉様に相応しくありませんわ!」
「ふふ、賑やかですわね。モブリーノ様のお嬢様――マキン様?」
「間違えずに名前を呼んでくださいますのね? 嬉しいですわ。ヨアネット様、こちらのマカロンとても美味しいですよ、召し上がってくださいな」
「シェフ! 来ましたわね! こちらのスコーン(ソーセージ)がとても美味いですよゴルァ! 自分の料理じゃない? じゃあなんですの! どうしてここにありますの、説明するのですわゴルァ!」
 いつの間にか椅子から降りて地面にガラ悪く座っている主催(だとアクノお嬢様が思っている)シフォリィお嬢様。
「アクノお嬢様ったら葉っぱ(紅茶のこと)ばかり! まあソレも仕方ありませんわね。悪役令嬢への道を踏み出した貴女はまだカタギも同然。わたくしと同じ盃を交わせずとも許して差し上げましょう」
「まぁ、お姉様さすが御心が寛大ですわ! 悪役令嬢の度量を見せつけているのですね!」
「ふふ、流石お姉様。引く位のヤクザ……もとい悪役令嬢っぷりですわ!」
 あまりの混沌(カオス)っぷりに、アクノお嬢様はことほぎお嬢様とお話が出来ません。
 何故か主催はベルを鳴らして度々シェフを呼ぶわ、ヤのつく自由業めいたお嬢様方がいるわ……で、幻想に住まう一般的な貴族のお嬢様しか知らないアクノお嬢様にはもうどうしていいのかわかりません。
(悪役令嬢として諌めるべきですわよね!? 毅然とした態度で非常識でしてよって言うべきですわよね!?)
 愛読書『悪の華』に描かれる悪役令嬢のお嬢様は、時に厳しく、時に孤高に、誰にも理解されなくとも正しい自分の道を美しく歩んでいったのだから。
(でも、でも……)
 アクノお嬢様はチラリと左を見ます。トリンお嬢様が怯えています。
 アクノお嬢様はチラリと右を見ます。マキンお嬢様はこちらを向いてもいません。
(どうすればいいの……!?)
「ふふ、アクノ様ったら、お可愛らしいこと。これしきのことで音をあげてしまうだなんて」
「そうですわよー。そんなことで音を上げていては悪役令嬢など夢のまた夢でしてよー? フフフフっ……」
「だめよ、ピリム様。そんな風に笑ってしまいましたらアクノ様が可哀想……ふふっ」
 ピリムお嬢様が片手を口元に当てて高笑いをされ、それをガイアドニスお嬢様が窘めますが笑みが漏れ出てしまっています。
(ど、どうして皆様はこの状況で動じませんの……? わたくしが悪役令嬢としてまだまだ青いからですの?)
 上背のあるふたりはテーブルや人を挟んでいながらも見下ろすように笑い、アクノお嬢様は扇で口元を隠したままオロオロと混沌(カオス)と化しているテーブルを囲む面々を見つめることしか出来ません。不安そうに左腕にくっついてくるトリンお嬢様をなだめることもできず、右隣のマキンお嬢様が労ってくれないことへ一言言うことすらできません。
「くすくすくすくす。ええ、本当に可愛らしいわね」
 高い位置から、ガイアドニスお嬢様が笑います。そのお顔は愉悦に染まっており、アクノお嬢様は格の違いを見せつけられたような心地となりました。
(な、なんでこんなことになっていますの!? だって今日はお茶会で……も、もしかして、悪の花道を進みすぎるとこうなってしまうんですの!?)
 そういう訳ではありません――が、アクノお嬢様は悟りました。
 悪役令嬢の道を突き進むと、こういう人ばかりに囲まれてしまうのだ、と。
(わたくし、わたくし……! 悪役令嬢の道は諦めますわ――!)
 お茶会終了までの数時間を耐え凌いだアクノお嬢様は、もう誰とも話したくないと言いたげな表情で……というよりもこんな人たちに一秒だって囲まれていたくないとでも言いたげにそそくさと逃げるように馬車に乗って帰宅し――こうしてアクノお嬢様にとって悪夢のお茶会はお開きとなりました。
 余談ですが、もう少しヨアネット様とお話したいとマキンお嬢様が残っていたため、彼女は黒蓮お嬢様から何やら本を預かったそうです。

●アクノお嬢様の日記(一部抜粋)
 今日は本当に散々な目にあいました。

(中略)

 家に帰り着いたわたくしがあまりにも疲れ切っていた顔をしていたのか、お父様が謝りながら真相を教えて下さいました。精神的に疲弊していたとはいえ、淑女教育を受けた身でありながらそこまで顔に出していただなんて……と恥じ入るばかりでしたが、それよりも。……わたくしってばお父様をそこまで心配させていたなんてしらなかったの。不出来な娘でごめんなさい、お父様。
 黒蓮様から頂いた『悪役令嬢がやり直して強く自立した立派な淑女になる物語』という書物を読んで、再出発といたしましょう。不快な思いをさせててしまった人との仲直りの仕方も載っていると聞きましたの。しっかりと完璧にデビュタントを成功させ、素敵な淑女になりましょう。
 ……それにしてもヨアネット様が殿方だったなんて。あんなにお可愛らしいのに驚いてしまいましたわ。マキンは喜んでいましたけれど……わたくしは幼馴染としてこの小さな恋を応援すべきかしら?

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お茶、会……? お茶会とは……。
お茶……お茶……ティーがブレイクですわ。

あまりにも皆さんがリンリンしたりガシャーンしたりワアワアしたので、サロン勤めの人やサロンで楽しんだ後にお庭散策をしていた一般貴族、騒ぎを聞きつけて見に来た一般貴族たちによって皆さんの悪名が広がったようです。

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