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シナリオ詳細

<咎の鉄条>炎と、嘆きと

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●眠りの集落
「ここもダメか……」
 深緑を包み込む、茨のほど近く。幻想種たちの住まう小さな集落。かつては活気にあふれていた底も、今は静かな寝息の音に支配されている。
 呟いたのは男。ラサと、無事な深緑の幻想種たちで構成された、異変調査団の一人だ。人間種の傭兵である男は、茨の付近に存在する集落まで、仲間共に偵察に出ていたわけだが、そこでも見受けられる光景は、今の深緑と同じくするものだ。
 つまり――皆、眠りに落ちている。物理的、魔術的な手段を用いても、目覚めることはなく、身体を別の場所に移送しようと動かせば、瞬く間に苦しげな表情を浮かべ、実際に生命力の減少を感じた。まるでそこから動かせば命にかかわるぞ、と何者かが警告をしているかのように。
「付近の村は、どこも同じ感じだ。茨の中……ファルカウの方も、どうなっているやら」
「……まさか、深緑がこんなことになるなんて……」
 悔しげに言う幻想種の女性は、森林警備隊の一人だ。たまたま国境付近にまで移動していた一部の幻想種たちは、この度の難を逃れることができていた。
「……警備隊というのに、異変と戦うどころか、気づくことすらできなかったなんて……」
「アンタのせいじゃないさ。よっぽど隠密裏に、敵は動いたんだろう」
 傭兵の男が、慰めるように言う。実際、此度の事件は、まさに青天のへきれき。誰かに予想できたとか、止められたとか、そう言った次元のそれではないだろう。
「願わくば。速く事態を解決する、だよ。その為には、アンタの力も必要だぜ、お嬢さん」
 ラサの傭兵がそういうのへ、幻想種の女性は力強く頷いた――が、その耳を、何か物音が震わせた。彼女自慢の聴力が、この時、異常な音を聞き分けたのだ。
「……なにか、巨大なものがぶつかり合う音がします。片方は……燃えているような、ぱちぱちって言う音も」
「火か? 深緑は、火はご法度だろう?」
「でも、聞こえるんです……どうして……?」
 困惑する彼女に、男は頷いた。
「OK、ならば確認しに行こう。音の方角はどっちだ?」
 女性は、村のはずれを指さした。男は頷き、武器を抜き放ってから、ゆっくりと進む。
 村を抜けて、しばし――森を進むにつれて、確かに、炎が燃えるような熱気が、あたりの空気を包み込むような気配を感じた。
「確かに……こいつは火の熱気だ。だが、何故……?」
 と、男が呟いた刹那! 周りの木々が倒れ、へし折れた! 飛び込んできたのは、背に巨大な『樹木の針』を背負った、ハリネズミのような怪物だった!
「な――っ!?」
 男が飛びずさる。ハリネズミはこちらを一瞥したが、しかし、がぁ、と吠えると再び飛び出していく。その先には、ドロドロに溶けた溶岩の巨人、と形容すべきだろうか、そのような生命体が、両手を掲げてハリネズミを待ち構え、その拳でハリネズミを殴りつけている!
「……! 嘆きです! 大樹の嘆き!」
 女性が叫ぶのへ、男は叫び返した。
「あの、神樹の危機に出てくるってやつか!? 何でそれが同士討ちしてるんだ!?」
「分かりません……! 溶岩の巨人も嘆きのようですが、ですが……普通のそれとは、雰囲気が違います……!」
 男は舌打ち一つ、女性の手を握った。
「ひとまず逃げるぞ! デカブツの共のけんかに巻き込まれちゃ割に合わん!」
「ですが、このまま放っておいていいのですか!?」
 女性が叫ぶ。確かに、このまま放っておいては……二匹の戦いは、先ほどの村を巻き込むほどに拡大するだろう。二匹の実力は同等、戦いあっても千日手、決着はつくまい。そのまま転がりまわり続ければ、確実に、近くの集落に到達する。嘆きの攻撃は、無差別だ。先ほど、男たちは見逃されたが、それはたまたま目の前に溶岩巨人がいたからに過ぎない。嘆きは、足元で眠っている幻想種など、意に介さず暴れ続けるだろう。
「良くない! ……が、俺たちじゃ力が足りん!
 ひとまずキャンプに戻る! それから、ローレットに連絡だ!」
「イレギュラーズの力を借りるのですね! 名案です!」
 女性が頷く。男も頷くと、女性の手を引いて走り出した。背後では、巨大な二つの嘆きが、森を巻き込んで衝突を続けていた。

●炎と嘆き
「ローレット、イレギュラーズ! すまん、緊急なんで、手短に話す!」
 あなた達がベースキャンプに到達したとき、傭兵の男が慌てた様子で声をかけてきた。
 あなた達も、既に話は聞いている。溶岩の巨人と、ハリネズミの怪物。二つの大樹の嘆きが、なぜか同士討ちを行っている、という事だろう。
「他のキャンプの連中にも聞いたんだが、どうやら炎を纏う怪物は、茨に味方してるケースがあるらしいな。
 今回の溶岩の巨人もそうなんだろう。そうすれば、茨と敵対してるみたいな嘆きと戦っているのも説明がつく。
 本来なら、どうぞ好きなだけ戦ってくれって所だが、今回はそうはいかない。
 近くに集落があって、そこには今回の異変で眠ってる奴らがいるんだ」
 このままでは、彼らが戦いに巻き込まれる可能性がある。
「いいか、やることはシンプルだ。
 二匹の戦いに乱入して、どっちも倒す!
 ふつうは無理だが、修羅場をくぐってきたローレットのアンタらなら、やれるはずだろう?」
 あなた達は、力強く頷いた。元より、ハードな依頼とは聞いている。ならば、それを遂行するくらいの自信と実力は、持ち合わせているはずだ。
「よし、くれぐれも気を付けてくれ……最悪、集落を見捨てて撤退することも視野に入れるんだ。
 良心が痛むなら、俺が命令した、と思ってくれて構わん。自分達の命を最優先に考えてくれ」
 心配する様子の言葉をかける男に、あなたの仲間が頷く。
「ありがとう。だが、そうならないように尽力するつもりだ」
 仲間の言葉に、男はすがるように頷いた。
「頼むぞ……イレギュラーズ!」
 男に見送られながら、あなた達は戦場へと向かう――!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 大樹の嘆きの同士討ち……?
 いや、溶岩の巨人の方は様子がおかしいようですが。
 いずれにせよ、両方とも討伐する必要があります。

●成功条件
 すべての敵の撃破。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●状況
 異変が襲う深緑。調査隊は、とある集落の調査中に、その付近で戦闘と続ける、二体の巨大な怪物と遭遇します。
 方や、溶岩の巨人。方や、ハリネズミの怪物。どちらも大樹の嘆きと目されますが、何故この二体が同士討ちをしているのかは不明です。
 なんにしても、この二体の戦闘が続けば、集落にまで被害が及ぶでしょう。集落には、身柄を移送されることも不可能な眠りに落ちた住民たちがおり、どうしても、この場を守り切らなければなりません。
 みなさんは、この二体の怪物の戦いに乱入し、そのどちらも討ち取ってください。
 作戦決行タイミングは昼。作戦エリアは、集落より離れた森の中です。周囲は二体の怪物が暴れたせいでほぼ更地になっており、移動などのペナルティは存在しないものとします。

●エネミーデータ
 大樹の嘆き・ヘッジホッグ ×1
  大樹の嘆き、と呼ばれる怪物です。樹木で編み上げた、巨大なハリネズミのような姿をしています。
  巨体の見た目通りに、体力は非常に高く、攻撃範囲も広いです。
  毒や出血をもたらす攻撃も使ってくるでしょう。
  なお、巨体のため、マーク・ブロックを行う際には、二人以上(ハイ・ウォール所持者は二人分と換算)が必要となります。

 大珠の嘆き(?)・溶岩の巨人 ×1
  大珠の嘆きと目される、巨大な溶岩の巨人です。ドロドロに溶けた溶岩に、顔と手足がついているような姿をしています。
  攻撃面での性能に秀でています。半面、体力はやや低めか。
  此方を炎上させる炎や、煙で窒息などをおもたらせてくるでしょう。
  なお、巨体のため、マーク・ブロックを行う際には、二人以上(ハイ・ウォール所持者は二人分と換算)が必要となります。

 なお、二体の実力は拮抗しています。イレギュラーズ達が介入しない限り、決着はつかずに延々と戦い続けます。
 放っておけば、確実に集落に向かうほか、時間をかけ過ぎれば、最悪、他の増援が現れるかもしれません……。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <咎の鉄条>炎と、嘆きと完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年03月17日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)
復讐の炎

リプレイ

●巨獣と巨獣
 轟! 炎に燃える、溶岩の巨人、その燃える拳が、樹木のハリネズミ(ヘッジホッグ)を殴りつけた! その余波、飛び散った溶岩が、辺りの木々を燃やす。ぼう、と燃える樹木の痛みを感じ取ったのか、ヘッジホッグは怒りの声をあげた。背には、巨大な樹の様な針が生えている。それらが一斉に、ミサイルのように飛び出した! 枝のミサイルは溶岩の巨人に突き刺さる!
 深緑。突如現れた茨の壁、その近辺に存在する森林地帯である。発見された二体の怪物、『大樹の嘆き』は、斯様にいつ終わるともわからぬ戦いを続けていた。いや、実際、二体の実力は拮抗している。このままでは、戦いは決して終わらないだろう。
 その程度なら、放っておけばいい。だが、問題があった。付近には、集落があり、異変に巻き込まれ眠り続ける住人たちが、避難も出来ずに村に残っている。このままでは、二体の戦いは村にまで及び、そして住民たちを巻き込む形でその命を奪うだろう。
「これ、は……」
 『金色の首領』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)が、たまらず硬い表情を浮かべた。
 目の前でくりひろげられる、怪物の死闘。その主役である怪物は、仮想世界でも見た、『大樹の嘆き』に間違いないと、経験が告げていた。
「大珠の嘆き……! 現実でも、遭遇することに、なるとは……」
 エクスマリアが呟く。かつて、仮想世界(R.O.O)で遭遇した、森の防衛機構。危機に際して現れ、無差別に攻撃を繰り出すかの存在が、まさか現実にまで現出するとは。
「出やがったか、『大樹の嘆き』! やっぱリアルの深緑でも出るんだな!
 ……けど、片方は明らかにおかしい。森を護る存在が、森を傷つける火と熱の塊みたいな姿をとるなんて……本来の大樹の挙動じゃない?」
 『嵐の牙』新道 風牙(p3p005012)が、いぶかし気に声をあげた。報告によれば、大樹の嘆きは無差別に攻撃を行えど、大半は茨に敵対しており、ましてや同士討ちなどは行うようには思えぬ行動をしていた。
「おかしい事ばっかりだ! そもそも、深緑を覆う茨って時点で――」
 風牙が飛びずさる。入れ替わる様に、ヘッジホッグの背中の針、その流れ弾が着弾する。
「おかしすぎるんだけどな! しかしこいつ等、本当に無差別なんだな……!」
「R.O.Oの時点で、完全に無差別に攻撃を行っていたからね」
 『全てを断つ剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)がそう答えた。
「けれど、同士討ちをしていた個体はいなかったと思う……パラディーゾに操られていた個体はいたはずだけれど」
「うん。確かに、操られた大樹の嘆きはいたよ」
 『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)が言った。R.O.Oにおいて、大樹の嘆きが現れた事件……現実でのそれは、まるでその事件と奇妙な符号を見せている。もちろん、R.O.Oをそのままなぞっているわけではない以上、原因も黒幕も別だと考えるべきであるが、
「ならば、現実に、大樹の嘆きを操れるような存在が居ても、おかしくはない」
「それが、茨側に与している……という事かな」
 ヴェルグリーズの言葉に、ラムダは頷く。とはいえ、現時点で、それはただの予測に過ぎない。
「考察は、いずれにせよ後にすべきだろう」
 『復讐の炎』ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)が声をあげる。ちらり、と背後をみやる。木々に隠れて直視はできないが、このわずかに先に、守るべき集落があるのだ。
「……ことは急を要する。確かに、こいつらの実力は拮抗している。決着はつくまい。
 だが、これだけ大規模に、周囲に被害を及ぼすならば――」
「……集落への被害は、免れない、ね」
 『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)が頷いた。その言葉通り、このまま二体を放置していれば、周囲は間違いなく大きく巻き込まれ……逃げることのできない、集落にいる異変に巻き込まれた人々は、その命を無残に散らすことになる……。
「おかしな事ばっかりだけど、今は討伐を優先しなきゃ、だね」
「うん。作戦は、事前に打ち合わせた通り。溶岩の巨人から討伐しよう」
 マルク・シリング(p3p001309)がそういうのへ、仲間達は頷く。
「……作戦はあるとはいえ、二体の怪物を相手取る。綱渡りのようなミッションだよ。くれぐれも、油断はしないで」
「言うまでもないね」
 『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)が、自身を振るわせ、そういう。
「森に溶岩なんてのは、場違いだよ。あんなデカイハリネズミもね……すぐに退場してもらおう」
 サイズの言葉に、仲間達は頷いた。
「よし……いくぞ、皆!」
 風牙の叫びに、仲間達は応じるように武器を抜き放つ。構えと共に、暴れる二体の下へと突撃! この時、二体はそれぞれ異なる反応をとった。
 方や、ヘッジホッグ。突如現れた乱入者に、苛立ちとも、鬱陶しいともとれる鳴き声をあげる。
 方や、溶岩の巨人。突如現れた乱入者に、しかし歓迎するかのように、身体の溶岩をぎらつかせる。
「……! やっぱり、炎に関連するものは、私達の介入を歓迎している……ううん、立ち向かう何かが居るのが嬉しいの……?」
 アリアが呟いた。先日の報告書などを見れば、今回の件にて現れた炎の嘆き・精霊のような敵は、此方が介入し、己に立ち向かう事を歓迎しているようなそぶりを見せている様だが……。
「だとしたら、その誘い。乗ってやるしかない」
 エクスマリアが言う。もしもその長い髪が健在であったら、今どのような動きを見せていただろうか? 少なくとも、その誘いに乗って討伐してやるという気概を持って、エクスマリアがそう言った。他の仲間達も、同じ気持ちだ。この場、この事件、なにが相手であろうとも、突破する!
「すべて、たおして、すべて、すくう」
 エクスマリアの言葉が、幕引きの合図となった。
 そして、三つ巴の激闘が始まった。

●巨獣VS巨獣VS英雄
「作戦通り、溶岩の巨人から!」
 マルクが叫ぶ。その目が、アナザー・アナライズの術式を発動し、眼前に数層の術式紋様を展開。その陣を通してみる世界が、マルクに情報を与える。
「溶岩巨人……その性質、調べさせてもらうよ……!」
 観察を続けつつ、跳躍。飛び掛かってきた溶岩弾を回避。二体の嘆きの攻撃は、もはや完全な無差別なものとなっている。元々の相手に当たれば好、足元に動くイレギュラーズ達に当たればなおのこと好。そもそも、巨獣のケンカに殴り込む形になったのだ。巨獣同士が殴り合うその余波だけでも、人間にとっては致命打になりかねない。
「ヴェルグリーズ! 溶岩の足元に!」
 風牙が叫んだ。
「了解だよ」
 ヴェルグリーズが頷く。二人が飛び込んだのは、溶岩巨人の背後、その脚元。巨体を、2人が取り囲み、その動きを封じる。
「さて、敵の敵は味方……ではないけれど、利用させてもらうよ」
 ヴェルグリーズの持つ剣が、ぼう、と仄かに光を放った。青白いような、燐光。寂しさを思わせる、光。それは、『別れ』を思い起こさせる、別離の燐光。ふっ、と息を吐きながら、ヴェルグリーズはそのほの輝く刃を振り下ろした。根源の断絶。その名を冠する、ヴェルグリーズの本質を乗せた斬撃! 青白い燐光は、この時確かな断絶の光となって、溶岩巨人の溶岩を吹き飛ばし、その内部に見える核のようなものを傷つける! 轟! 溶岩巨人が吠えた。身をよじり、逃げ出そうとするのを、ヴェルグリーズ、そして風牙が抑え込む!
「悪いな、逃がさない! そんで!」
 風牙が槍を振り下ろし、叩きつけた。溶岩巨人、その通り、上半身は人間のような形をしているが、風牙の槍は、その巨人の顔面を殴りつけた! がん、と振り下ろされた槍が顔面を切り裂き、鮮血のごとく溶岩を噴出させた。溶岩巨人が反撃せんとばかりにその手をふり上げた刹那、待ち構えていたようにヘッジホッグが、その腕に食らいつく!
 これは、勿論イレギュラーズとヘッジホッグの共闘ではない。三つ巴の戦いとなった場合、必然、最も弱ったものが脱落する。敵の敵は味方ではない。だが、この時、敵の敵は確実に、敵の敵、であり続けるわけだ。
 溶岩巨人が、ヘッジホッグを振り払う。叩きつけられたヘッジホッグがすぐに飛び上がり威嚇するのへ、溶岩巨人がヘッジホッグへ向けて溶岩弾を放つ――そのタイミングを狙い、ロックが一気に肉薄する!
「その炎の鎧、引きはがさせてもらう!」
 ロックが鋭く突き出した腕が、溶岩の皮膚に突き刺さる! ぼうん! と破裂音を立てて、分厚い溶岩を貫通し、その芯の芯へと衝撃が伝わった! ロックの掌打が、衝撃を伝わらせ、溶岩巨人の内部を粉砕する! 溶岩巨人が身をよじる。
「悪いな、森にとって最も悪影響を及ぼすのはお前だ。先に仕留めさせてもらうぞ!」
 再度のロックの掌打! ばぐぉん、と破裂音が鳴り響き、溶岩巨人が苦痛に身をよじった! 溶岩巨人は、お返しとばかりにその身体から溶岩の弾丸を発射する。ロックが両腕を掲げた弾丸から飛びずさり回避を試みるが、擦過する高熱が、ロックの化ケ之皮を焼き払い、その内から獣の本性をむき出しとさせた。
「ふん……長くはもたなかったな。だが、この姿をさらけ出させたなら、もはや容赦はせんぞ」
 ロックが吠える! 溶岩巨人は、背後から迫るイレギュラーズ、そして前面のヘッジホッグ、その両面からの攻撃にさらされることとなった。これもイレギュラーズの作戦である。もちろん、ヘッジホッグの攻撃の余波は、周囲のイレギュラーズ達にも降り注ぐ。ミサイルのような樹木の針は、溶岩巨人もろとも無差別に大地に突き刺さり、その衝撃波がイレギュラーズ達を叩いた。
「敵の炎や、ダメージは僕が抑える……!」
 マルクが声をあげ、その手を掲げる。聖なる唱歌、輝く光が仲間達を包み込み、イレギュラーズ達の身体を焼く、炎を吹き飛ばした。
「攻撃を優先してほしい。とにかく、一対一の状況に持ち込みたいんだ!」
「了解、だ」
 エクスマリアが頷く。その手にした刃を掲げるや、輝く刀身に魔力が巻き起こる。刃を振り下ろせば、斬撃は魔力斬撃と化して溶岩巨人の顔面を切り裂く。ばぢゅん、と音を立てて、溶岩が飛び散った。大地を熱で焼く。その高熱にさらされながらも、エクスマリアは攻撃の手を緩めない。
「時間をかければ、マリア達には、不利になる……多少は傷ついても、いい。突破しよう」
 エクスマリアが、斬撃を繰り出す! 聢唱ユーサネイジア、その術式は、溶岩巨人の顔面を貫通しつつ、前面のヘッジホッグの右腕を切り裂いた。
 意図した不意の連携、敵と敵の挟撃に、溶岩巨人は雄たけびを上げた。このまま沈んでなるものか、そのような怒りの叫びが、その全身から溶岩の弾丸を流星のごとく振らせ、ヘッジホッグを、イレギュラーズ達を、叩く!
「ちっ……最初から言おうと思ってたけど、溶岩巨人とは完全に生まれる土地を間違えてるよ、火山系の大地に帰れ……といって帰るわけないから斬るしかないよな!」 
 サイズが身体を振り上げ、溶岩巨人に斬撃を見舞う!
「いくら溶岩とは言え、俺を溶かせるほどの熱は持ってないだろ!?」
 サイズの魔鎌が溶岩巨人の右腕を切り落とした。大地に落着した溶岩の巨腕が、じゅう、と煙をあげながら地に染みるように消えていく。サイズの攻撃に続くように、ヘッジホッグが残る左腕にかみついた。ぐじゅう、と木々が焼ける音をあげ、自身を見に焼かせながらも、巨人に食らいつき、その体力を消耗させる!
「ちょうどいい、抑えておいて、ヘッジホッグ!」
 ジョーク交じりの声をあげるラムダが、大地を疾走する。振り上げた機械刃が、ヘッジホッグの顔面もろとも、巨人の腕を切り落とした。ずん、と落着する左腕。
「この森を荒らされるわけにはいかないの、ごめんね!」
 アリアが手を掲げ、一気に術式を解放した。ゼロ距離から放たれる、衝撃術式! 爆発するように放たれるソニックブームが、溶岩巨人の身体を吹き飛ばした! その中心、溶岩の核のようなものがさらけ出されるのへ、
「トドメをお願い!」
 アリアの叫びに応じ、足元で巨人を足止めしていたヴェルグリーズが跳躍。核に向けて、刃を振り下ろした。断絶の刃が、巨人の核を断ち、その存在を断ち切る。おお、と声をあげた巨人が、どろどろと身体を溶かし、地に染みて泥のように朽ちていった。
「まずは、一体……」
 ヴェルグリーズが声をあげる――だが、一息ついている暇もない! 目の前のヘッジホッグは、最後に残った敵であるイレギュラーズに、すぐさまターゲットを定めた。
「同じ相手と戦ったんだし、仲良くは……してくれないよね」
 アリアが苦笑しつつ、細剣(ナイフ)を構えた。
「一気に仕留めた分、消耗は激しい……けれど、やるしかない!」
 アリアの言葉に、風牙が頷く。
「ああ。いくら大珠の防衛機構でも、無差別に暴れるなら放っておけない!」
「行くぞ……最後の詰めだ!」
 ロックが叫ぶ。再び駆けだすイレギュラーズ達へ、ヘッジホッグは樹木の針を撃ちだした。

●英雄VS嘆き
 打ち放たれた、樹木の針が、大地に突き刺さる。その衝撃だけで体を吹き飛ばされるほどに、それは強烈な一撃だ。
「くっ……相手も消耗しているはずだが……」
 ロックが空中で体勢を整え、大地に着地する。が、それを狙ったかのように、小さな針がロックを追って放たれた。間髪入れず、ぎりぎりで回避するが、付近を擦過した針の衝撃に、身体を叩きつけられるの感じる。
「流石は、深緑の防衛機構か。一筋縄ではいかない様だな」
「けど、追い込んでるのは確かだよ」
 ラムダが叫んだ。大地を疾駆、翻弄するようにヘッジホッグの周囲を跳躍しながら、針を回避しつつ、機械刃を叩きつける。ぎゅう、とヘッジホッグが悲鳴をあげ、樹液の血液が吹き出した。ラムダはそれを受けつつ、再度の斬撃を見舞う。
「このまま押し込んで……!」
 叩きつけられる斬撃が、ヘッジホッグの体力を奪う。ヘッジホッグは怒りに震えながら、しかしその巨体をふるい、ラムダを振り払った。ラムダは舌打ち一つ、跳躍、地に勢いよく着地。
「とはいかないかな。でも、やるしかない……!」
 ちらりと見やる視線の先には、集落がある……あそこ迄、ヘッジホッグを行かせるわけにはいかないのだ。
「俺が体勢を崩す! 一気に叩き込んでやれ!」
 風牙が叫んだ。大地を走り、ヘッジホッグの背後へと飛び込む。そのまま跳躍し、ヘッジホッグの背中へと、槍の穂先を叩き込んだ! ぎゅおう、とヘッジホッグが悲鳴をあげ、身体をのけぞらせる。むき出しとなった腹に、ロックとラムダが跳躍。
「沈め――」
「嘆きよ!」
 骸槍、
 機械刃、
 二つの攻撃が、ヘッジホッグの腹部に叩き込まれた! 樹皮のような皮膚、そして生木のような肉を切り裂いて、ヘッジホッグの身体を抉る! ぎゅうぅ、と悲鳴をあげたヘッジホックが、身体を大地にたたきつけた。しかし、その眼は死んではいない。すぐに四肢に力を巡らせ、怒り爆発ばかりに体中の毛針(樹枝)を巻き起こす! 刹那、弾雨のごとく放たれた樹針を回避しつつ、イレギュラーズ達は最後の攻勢にうつる。
「ヘッジホッグを抑えきれれば、僕たちの勝ちだ!」
 マルクが叫んだ。
「もう一息……たとえ傷ついてでも……!」
 守る……この大地を! イレギュラーズ達の一斉攻撃が、ヘッジホッグへと叩き込まれた。かろうじての反撃を繰り出すヘッジホッグだが、イレギュラーズ達の戦意を挫くには、遠い!
「ごめんね……! あなたが生まれた理由は分かる、けれど……!」
 アリアが細剣を手に突き出した。放たれる、魔術衝撃。ヘッジホッグの身体を叩く、ゼロ距離衝撃波。衝撃に、背中の針がぶちぶちとちぎれ、飛び散った。
「だからこそ、あなたに誰かを、傷つけさせたくない!」
「おわりだ、嘆きよ」
 エクスマリアが、その刃を掲げる。巻き起こる、魔力。振り下ろす、刃。斬撃が、ヘッジホッグの身体を真っ二つにないだ。
「……怒りも、嘆きも。今は、大地に……」
 静かに、エクスマリアがそう言った。身体を斜めに滑らせて、ヘッジホッグが断末魔の悲鳴をあげる。地に墜ちたヘッジホッグの身体が、ずぶずぶと枯れて、腐って、とけて消えていく。やがてその残骸だけを残して、嘆きはその悲鳴だけを世に残したまま、世界から消え失せていた。

●静の森
「……さっきまでの戦いが、嘘のように……静かだな」
 エクスマリアが言う。集落には、いざという時に備えていた、調査隊のメンバーの姿があった。家々を覗いてみれば、倒れ、眠る幻想種たちの姿もある。
「どうやら、動物たちにも被害が出ているみたいだ」
 マルクが、近くにいたリスに話しかけつつ、言った。たどたどしい言葉ではあるが、眠ったまま目覚めぬ仲間達がいると、リスは教えてくれた。
「人間だけじゃない……森の生命、すべてに影響のある……呪い、なのかな?」
「茨の呪い、か……まるでおとぎ話のようだね」
 ヴェルグリーズが言った。
「確認したけど、やっぱり、被害者を動かそうとすると、苦しむみたいだ。ここから、動かすこともできない……歯がゆいよ」
 ヴェルグリーズの言う通り、被害に陥り眠った幻想種たちは、起こすことはもちろん、動かすこともできない。となれば、今のように警備のモノを置く以外に対処方法もなく、結局は、根本的な解決が求められているようだった。

「近くに神樹があったみたいだね」
 ラムダが言う。戦闘エリアの近くには別の神樹があり、先ほどの戦いが長引けば、新たな嘆きが生まれ、乱入してきてもおかしくはなかっただろう。
「電撃戦は成功だったわけだ。まぁ、元からさっさと倒すしか手はなかったけれど」
「嘆きの死体はどうだ?」
 ロックが声をあげる。
「いや……どっちも、泥みたいになってとけてるだけだ」
 風牙が言う。嘆きの死体は、どちらも泥のようになってとけ堕ちていた。
「……特段、変わったところは無いみたいだね」
 サイズが、ふむ、と唸る。
「でも、少しだけ……精霊の干渉の残滓……を感じる」
 アリアが言うのへ、サイズが首をかしげた。
「精霊……? たとえば、冬の王みたいな?」
「それとは違うと思う……属性も関係ないからね。でも、なんだろう……嘆きと混ざり合ってるみたいな……?」
「情報を持ち帰って精査するしかないだろうな」
 ロックが、ふむ、と唸った。
「もしかしたら、深緑の伝説とかにも、何かあるかもな……とにかく、今は調査を続けるしかないか」
 風牙がそういうのに返事をするみたいに、涼やかな風が森を撫でた。それは、これからの行く末に、一筋の光明を見いだせる事を現すような、静かな風だった。

成否

成功

MVP

ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 激闘でしたが、皆様の活躍により、二つの嘆きは消え、集落の危機は去りました。

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