PandoraPartyProject

シナリオ詳細

誰が為の冒険

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●元気な少年とつれない少女
「しゅーりん」
「…………」
 手元に集中している少女に、少年が暇だと思っていることを隠そうともしない声で話しかける。しかし、そうすることが当然のような自然さで、少女はそれに無視を決め込んだ。
「なあ、雪玲。無視するなよ、聞こえているんだろ?」
 少女は応えない。……けれどもほんの少し、諦めたような吐息を零した。
「……何よ。今忙しいの。見れば解るでしょ?」
 少女は少年の顔を見ない。ずっと手元に視線を向けたまま、小さく両手を動かし続けているのだ。
 けれどそれは、いつものことなのだろう。少年は気にせず口を開く。
「折角俺が遊びに来てやったんだぜ」
「アンタが勝手にきたのよ」
 つれない言葉に、普段はウェスタで暮らしている少年は、この集落――フリアノンに住まう別の幼馴染の元にでも行こうかと思い口を開きかけ……閉じる。そうだ、件の幼馴染と言えば――。
「そういえば聞いたか? 詩華と明霞、『外』の奴らにトライアルを頼んだらしいな」
 共通の幼馴染の話題に、初めて少女の手が止まった。
 赤い大きな瞳をパチパチと瞬かせて手元の布を見つめた少女――朱・雪玲(シュウ・シューリン)は、少し考え込むような間を置いてから「ワタシには関係ないわ」と顔を背けた。まるで、湧き上がってくる気持ちを絶とうとでもするかのように。その姿を見つめた少年――柊・弥土何(シュウ・ミドカ)は頭の後ろで手を組んで、ふぅんと鼻を鳴らす。少女が何を考えたのか、幼馴染の彼には解ったのだろう。
 雪玲は服作りが好きな少女である。弥土何や他の幼馴染たちも、時折彼女に、作った服や小物をプレゼントされている。彼女の頭の中はいつだって服作りに関することでいつもいっぱいだった。
「……まあいいや。また来るぜ」
「こなくていいんだから」
 つんとそっぽを向いたままの少女の言葉は、つれない。けれど少女の大きな尾が『またね』と告げるように振られたことに、弥土何は気付いていた。いつもそうだ。この少女はいつだってこんな態度を取るのだが――弥土何は知っている。彼女が友達想いの優しい子であることを。本当は外の人たちのことが気になっているし、服に使える素材が欲しいから頼んでみたいと思っていることを。けれど素直になれなくて、『皆が頼んだのなら、じゃあワタシも』なんて言えないことを。
 彼女がせっせと取り組んでいる作り始めたあの服も、もしかしたら自分たちにプレゼントするために作っているのかもしれない。
 だから弥土何は考え、そうして良いことを閃いた。そしてそれは、雪玲には伝えないと決めた。伝えたらきっと雪玲は素直になれなくて、余計なことしないでと言ってくるだろうし、そんな自分の態度を後から気にするかもしれないからだ。
「一石二鳥だぜ」
 弥土何は機嫌よく口の端を上げ、ウェスタへと続く地下通路を駆けていった。

●水晶採取トライアル
「そういう訳でさ、頼むぜ!」
 ウェスタに戻った弥土何はイレギュラーズたちにことの説明をすると、パンっと高い音を立てて両手を合わせた。
「あいつのためってだけじゃないんだ。俺、冒険がしたくてさ――」
 本当は、覇竜の未探索地域への探検がしたい。けれどそれは大人たちが駄目だと言うし、未探索地域へはイレギュラーズたちが一緒でも行けない。イレギュラーズたちでも簡単に死んでしまうからだ。
 だから今回の行き先は、ウェスタの近くにある氷の洞穴だ。
 そこにいる『ビッラウラ』という亜竜が落とす水晶を集めに行く『冒険』をしよう。
「俺と一緒に冒険してくれよ! な!」
 弥土何は明るく、屈託なく笑うのだった。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 覇竜トライアル、三回目になります。

●目的
 『ビッラウラ』の水晶を集める

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●シナリオについて
 弥土何と一緒に冒険をしましょう。
 今回はビッラウラの水晶探しの冒険です。巨大な亜竜が闊歩する場所から、こっそりと目当ての水晶をゲットして来ましょう。

●フィールド
 ウェスタからほど近い場所にある氷の洞穴です。洞穴内の壁は氷で出来ており、キラキラと輝いています。布を巻く等して靴を滑りにくくしておくと安心安全ですね。奥に行けば行くほど危険な生き物がうようよ居ますので、遭遇しないルートで向かいます。
 メインルートはたまにウェスタから亜竜種の大人たちが来るせいか、安全です。時折小さな獣に遭遇するかもしれませんが、基本的には驚いて逃げていきます。
 ビッラウラの水晶が落ちているのを見つけたら、そこがビッラウラの歩くルートです。ビッラウラは巨体なので、基本的に広い道しか歩きません。が、大きな氷の塊や細くて暗い横道等、隠れられるような場所も探しておくと良いでしょう。

●ビッラウラ
 亀のような甲羅を持つ巨大な亜竜。背の甲羅は水晶です。丸くはなく、水晶が生えてきた水晶の山のような形をしています。水晶は新しく生えてくるため、古い水晶は歩く振動で時折割れて落ちていきます。
 戦ってはいけません。頑張っても倒せません。
 基本的に近付いてくれば振動で解りますし、大きいので目視できます。見つかる前に隠れてやり過ごしてください。弥土何が大興奮するかもしれませんが、隠れさせてください。
 ビッラウラの目は動くものに対しては素早く反応しますが、そうでなければあまり反応しません。ですが集中している時のビッラウラは、音にとても反応します。
 見つかってしまった場合は、ビッラウラのご飯にならないように頑張って逃げてください。捕食行動時のビッラウラの動きはとても早いです。ですが前述の通り、動いていない&音がほぼない状態になってしまうと見失いがちです。

・ビッラウラの水晶
 大きさは様々ですが、青~水色をしています。
 この水晶を細かく砕いて服の飾りにしたり、粉になるまで砕いて染料にして服を染める事が出来ます。服を染めた場合、晴れやかな青空のような色になります。

●柊・弥土何
 亜竜集落ウェスタ出身の少年。夢はこの手で世界地図を完成すること。
 ずっと冒険に憧れていたため、わくわくしっぱなしです。
 ビッラウラに遭遇すると「やばい! 想像よりも何倍もすごい!」と目が輝いてしまいます。

●朱・雪玲
 亜竜集落フリアノン出身の少女。服作りが好きで、その素材になりそうなものについ視線がいってしまいます。
 外の文化を知らない彼女たちは知らない言葉ですが、所謂ツンデレ。素直になれませんが、いつも幼馴染たちのことを考えています。
 お留守番――弥土何の企てを知らず、フリアノンで服を作っています。

 それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。

  • 誰が為の冒険完了
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月12日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
シラス(p3p004421)
超える者
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ディアナ・クラッセン(p3p007179)
お父様には内緒
カフカ(p3p010280)
蟲憑き
シャム=E=ロローキン(p3p010306)
うら若き姫騎士
ライオリット・ベンダバール(p3p010380)
青の疾風譚

リプレイ

●いざ、めくるめく大冒険へ!
 キラキラ煌めく洞窟を、びゅうと冷たい風が吹き抜けた。
 同時にひゃっと身近な悲鳴が上がる。『うら若き姫騎士』シャム=E=ロローキン(p3p010306)の声だ。
(ほらほらほらほら~、思った通り寒いじゃないですか~!)
 賢いシャムには最初っから解ってましたけどね!
 ……でも言わなかった。「寒いのなんて余裕ですよ!」と見栄を張って柊・弥土何から『やっぱりイレギュラーズは一味違うんだな!』と言う憧れの眼差しを受けたせいだ。その視線は正直気持ちよくて、防寒具を用意しようなんてシャムは仲間たちに提案できなくなったのだ。
 陸鮫を風が吹いてきた方へ移動させて風よけに使ったシャムは、チラリと仲間たちを見る。布を巻いた靴と大きな青いマントを用意した『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が温かそうだ。視界は確保できているが、何か獣が来た時用に武器の先に火を灯してくれている彼女の側に寄れば少しは温かくなるかも知れない。シャムはさり気なさを装って、白くてモコモコの小さなウサギに少し離れて後ろを着いてくるようにと指示を出している焔の側に身を寄せた。
「それじゃあ、出発だぜ!」
「……皆でゆっくりいきましょ」
 腕を振り上げて元気に進もうとする弥土何にすかさず『お父様には内緒』ディアナ・クラッセン(p3p007179)が声を掛ければ、弥土何はうんうんと頷いた。ちゃんと聞いてはいるようだが彼は楽しくて仕方がないという表情をしている。そのため、きっと何度か声を掛けなくてはいけなくなることだろう。イレギュラーズになるまでは屋敷の外に出ることがあまりなかったディアナには彼の気持ちが少し解るため、『竜剣』シラス(p3p004421)へと軽い足取りで近寄った弥土何の背中に小さなため息を零すのみに留めた。
「俺もイレギュラーズになったのはお前位の歳の頃だぜ?」
「え。本当か?」
「ああ。それまでずっと、狭っ苦しい世界で生きてたよ」
「俺と一緒だ!」
 弥土何の一歩前を意識して歩くようにしているシラスがイレギュラーズになってからの四年間の話をしてやれば、弥土何はもうそれに夢中だ。
「俺もお前たちみたいになれるかな」
「いつか俺達みたいになれるよ。今日はその為の第一歩だ、覚えろよ、いいか?」
 氷の洞窟内は足音が響く。人差し指をひとつ立てたシラスが歩調を緩め、そろりと歩いて見せれば足音が消えた。
「どうやったんだ? もう一回! もっとゆっくり教えてくれよ!」
 何度も何度もシラスにねだる弥土何の隣を、『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)がくすりと微笑ましげに笑んで追い抜いていく。シラスが相手をしている間は、弥土何は前に出たり横道に逸れることはないだろう。
 弥土何に注意を向けていなくても済む状況下で行うのは、退避や脱出に使えそうなルートの把握だ。勿論、此処まで逃げ込まないのが一番だというのを念頭に、けれども『もしも』に備えて使えそうな横道は覚えておくに越したことはない。
「こういうのワクワクするっスよね!」
「私も探しものをしているので、解るのです」
 マッピングを手伝いながら『青の疾風譚』ライオリット・ベンダバール(p3p010380)が告げれば、クーアが包容力を感じさせる笑みを浮かべた。水晶が見つけた後はその情報を皆で共有しようと話し合いながら、バラバラに逃げる場合も想定し、ふたりは合流場所に良さそうな場所には拾った小石や氷を積んで予め目印もつけていく。
(自分の冒険心を満たすため、ついでに仲のいいあの子にプレゼントをって、ええなぁ。青春しとるなぁ)
 なんて、ジジくさくなってもうた。と、心の中で自分にツッコミを『ケイオスイーツ』カフカ(p3p010280)入れたカフカは、そこで思わず「お」と声を上げた。
「なぁ、アレ、水晶やない?」
 大きな生き物が歩けそうな道を選んで先導していたカフカが青い輝きを見つけた。
「弥土何くん、ほら見てみぃ。ほら水晶が落ちてるで」
「本当だ! これ、絶対ビッラウラのだ!」
 ワッと駆け寄る弥土何に合わせて、イレギュラーズたちも移動する。
(この高さがないと進めないんやろなぁ)
 それは指先で摘めそうな小ささだったが、洞窟の天井に傷が着いている。カフカは自分たちが歩いてきた道の方が天井が低いことを確認し、それを仲間たちにも伝えておく。
「とても綺麗ね。アクセサリとして加工してもいいし、服に縫い付けてもきっと綺麗」
「だよな! 雪玲、喜んでくれるといいなー!」
 出来れば形は綺麗な方が喜ぶよなと、楽しげな顔をして時折落ちている小さな水晶を拾いながら進む弥土何の背を見守るイレギュラーズたちの視線は優しい。「これなんてどう?」と焔が拾った欠片を見せれば、「これは形がとっても綺麗ですよ!」とシャムが見せてくる。
 イレギュラーズたちと弥土何は、一緒に拾い集めながら楽しげに洞窟の奥へと進んでいく。
「お前さんたち、そろそろ気をつけな」
 楽しげに集める見守りながら抜け目なく隠れやすい道や場所を探していた面々――『帰ってきた放浪者』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)がどっしりと重みのある声で注意した。
 彼の視線の先には、何かが粉々になったような痕があった。そう、まるで『大きな水晶が何か大きな生き物に踏まれて粉々になった』ような――。
「お喋りもここまでだ」
 身から零れ落ちた水晶が踏み潰されるには、ビッラウラ――もしくはそれに準ずる巨大な生命体――が再度そこを通る必要がある。つまり、巨大な生命体の活動領域に踏み入れたことを意味した。
 ビッラウラらしき姿は見えないが、何処かを歩いているのか、それとも何処かで休憩しているのか――それが直ぐ側にいる可能性だってある。『静かに』を指をひとつ立てて示したバクルドに仲間たちが頷き返す中、シラスは拳を握りしめて目を輝かせている弥土何に向き直る。
「さっきの約束、覚えているか?」
「ああ、シラスより前に出なければいいんだろ?」
「そうだ。それだけは絶対に守れ。男同士の約束だ」
 それ以外にもいくつか注意をしているが、それだけは絶対に。
 シラスの発したフレーズに、弥土何の口角がムズムズしながら上がっていく。
 大人たちが許してくれない洞窟への冒険。仲間たちと協力しあい、そして交わされる男同士の約束。その冒険の果てに俺は――と、脳内で繰り広げているであろう弥土何に、シラスはわかり易すぎると苦笑した。

●動く水晶氷山
 水晶が落ちている広い通路を進んでいくと、突然視界が開けた。
 道中でも広場のような空間に出た事はあったが、ここはかなり広い。そして、水晶の塊や、粉じみた欠片が沢山落ちていた。
 大きな横穴が幾つかと、小さな横穴が沢山。常に注意を向けて置かねばならないのは大きな横穴の方だ。ねこのように素早くクーアが覗き込みに行けば、大きな横穴の先にもまた広い空間があるようだった。
「俺はこれの設置をしてるから、水晶取りは任せたぞ」
 ロープを引くことで任意で発動できる揺れる鳴子を設置しに、バクルドが離れてく。
 イレギュラーズたちは横穴の調査をする者と、弥土何のお目付け役兼水晶を拾う者とで役割を分担することにした。
「雪玲ちゃんって、綺麗なものが好きなの?」
 水晶を拾いながらの焔の問いは声量を絞ったもの。
 周囲の警戒や地形把握に専念していないイレギュラーズたちは弥土何の側か、弥土何が見える範囲で水晶を拾い集めている。
「好きだぜ。外の世界の……なんだっけ、カフカ?」
「俺?」
「もしかして、カフス?」
「そう、それだ! ボタンみたいなやつ。そういうの良いよなって言ってた」
 ビッラウラの水晶も形を整えたらそう出来るんじゃないかと思って。
 そう口にした弥土何は、大きさと見た目の綺麗さはどちらを優先すべきか……と、真剣な表情だ。
 微笑ましげな笑みが、小さく、小さく、さざなみのように広がった。
 氷の洞窟内の色も相まって、水底でぷくぷく笑い合う貝殻たちのようだとクーアは思った。
「カフスどころか、これだけあればシャツの全てのボタンを水晶にすることができるわ。……そういえばこれ、私も貰ってもいいかしら?」
 私もアクセサリを作ったりするのよとディアナが身につけている装飾を見せれば、弥土何が勿論だと告げた後「雪玲と話が合いそうだな」と笑う。
「いいんですか? シャムも何か……ああ! 陸鮫くん、噛まないで!」
 シャムと陸鮫のやり取りにドッと笑いかけ、慌ててシーッシーッと声を潜め合い――そしてそんな姿にまた、くすくすと笑い合った。
 そうして暫く水晶を拾い集め、空気が緩んできた頃に。
「来たっスよ!」
 横穴の調査をしていたライオリットが駆け戻ってくる。
 隣の広い空間に、巨大な何かが歩く気配を感じたのだ。
 まだ、距離はある。
「出番ですよ、陸鮫くん!」
 その声に素早く反応したのは、シャムだ。陸鮫に騎乗して素早く横穴へと駆け込むとひょこりと顔を出してみんな早くと手招き、焔が走りながら白いウサギを拾い上げ、シャムと同じ横穴へと駆け込んでいく。拾い集めている内にいつの間にか距離が空いてしまったいた弥土何へとチラリと視線を向ければ、クーアが彼を連れて行くところだった。焔は仲間たちを信頼して、自分とシャムを隠すように青いマントを広げた。
 どれだけ事前に教えておいても、驚きに直面すると動けなくなることはままある。訓練を重ねてきた者でさえも寸の間動きを止めたりするのだ。冒険が初めての少年にとっては尚の事だ。
「さあ、急ぐのですよ」
 突然動き出したイレギュラーズたちに驚き、目を見開いて立ち尽くしてしまっている弥土何の手を引いたクーアが、彼を抱きかかえるようにして移動する。ライオリットが手招く狭い路地へと彼ごと滑り込めば、もしもの時のための守るための壁にならんと殿をシラスが務めた。
 そこが、ビッラウラを見るための最前列で、VIP席。
 イレギュラーズたちは弥土何が隙間から外を覗えるように、冷たい氷に身を寄せた。
 息を潜めれば、吐息さえもキラキラとアイスダストになるような気さえした。
 どれだけそうしていただろうか。
 パラパラと氷の欠片が天井から降ってきた。
 ズン、ズン、と腹に響くような振動と音が身に伝わった。
 何か大きな存在が近づいてくる気配に、弥土何は心臓が口から飛び出そうな気持ちになってギュッと口を引き結んだ。

 ひとの瞳が一等輝くのは、どんな時だろうか。
 叶わないと思っていた願いが叶った時。――異世界に飛ばされるだなんて。
 掴めないはずの夢を掴んだ時。――手を伸ばした先の感動を忘れない。
 揺らめく炎の中に何かを見た時。――熱情を、恍惚を、『当たり前』を感じた。
 勇気を持って踏み出した時。――視界いっぱいの青空が広がって。
 想いはそれぞれ違う。けれど瞳は、光を弾くように煌めき、揺れる。
 弥土何が息を呑むのが、彼に触れているクーアには解った。
 弥土何の瞳が一等煌めくのを、彼の側のイレギュラーズたちは見た。

 まさにたった今、彼の『初めての冒険』が成ったのだ。

 めいっぱいに開かれた瞳には水晶の煌めきが反射して、より一層キラキラと輝いているようだった。重すぎる足音を響かせてビッラウラが通り過ぎていく間、彼は一度も瞬きをしない。
 この感動を、この情動を、今感じている全てを心に刻むかのように。
 瞬きのその一瞬でさえも惜しんで。
 弥土何は美しくも巨大な生命体を見つめていた。
 一度きりしかない彼の『初めて』を、イレギュラーズたちは共有した。
 瞳の中の一等星を、君たちは見たのだ。
 そのひと時は時間にすれば僅かな時。けれど彼にとっては、これからの一生の内に何度も何度も繰り返して長い時になっていく。いつまでたっても、きっとこの記憶は色褪せない。何度も思い出して、宝石みたいに磨かれていく記憶だ。
「行ったみたいっスね」
 そろりとダンボールから顔を出したライオリットの声に、騒いでしまわないようにと抱きとめていたクーアが手を離す。彼等が最高のロケーションを用意してくれたおかげか、弥土何は感嘆さえも飲み込んでいた。
「ボウズ、大丈夫か?」
「……ああ。うん」
 ぱちり、ぱちり。妙にゆっくりと瞬きをした弥土何は、まだ些か呆けているようだ。
 けれどもいつビッラウラの気が変わって戻ってくるかも解らない。イレギュラーズたちはハンドサインで合図を送り合い、その場から撤退していく。

「弥土何くんどうやった? 楽しかったか?」
 行きに見た天井に傷のある地点まで戻ってきたことを確認したカフカが近寄って弥土何の顔を覗き込むと、「あ、うん」とこくりと頷きが返ってくる。感動がまだ目まぐるしく彼の中を渦巻いているのだろう。
「ま、今回は運が良かっただけや。冒険したい時は今回みたいにちゃーんと準備していくんやで」
 大人に無断で飛び出さず、イレギュラーズに頼むという『準備』をした。次回もその次も、ひとりで飛び出すようなことをしてはいけない。
「世界は間違いなく広く、俺達が知らないことは未だに増え続けている」
 もうはしゃいでも大丈夫だぞと告げたバクルドを弥土何が見上げる。
「イレギュラーズでも?」
「ああ。時には命知らずなことをせにゃならんこともある。だがそれを超えた先に思い焦がれた宝っていうやつが待っている。だから俺は冒険――もとい放浪がやめられないんだ」
 イレギュラーズであろうとも、いくつ齢を重ねようとも。
「それにしてもビッラウラ、ありゃでっかくてすごかったな!」
「すごかった! 俺、今日寝れないかもしれない……!」
 まだ、心がビリビリ震えている。尻尾の先が震えてしまいそうになるくらいに。
「雪玲ちゃん、お土産喜んでくれるといいね」
「これだけ集めたんだぜ? 喜んでくれるに決まって――」
「多分そのお友達に凄く叱られるから覚悟しとけよ?」
「えっ!?」
 白いウサギを抱えた焔に大きく頷き返そうとしていた弥土何が、バッとシラスを見る。
「怒られないようにするアドバイスをくれよ!」
「それは俺にも解らないな」
「え~、シャムは喜んでくれると思いますけど~? だってロマンスじゃないですか!」
「ロマンスってなんだ?」
 彼女ならきっと怒って……それからきっと、喜んでくれる。
 彼の無事を、彼の想いを、幼馴染の優しさが詰まったお土産を。
 焔は確信めいた思いを胸に、ワアワアと騒ぐ弥土何たちを見守っていた。

成否

成功

MVP

カフカ(p3p010280)
蟲憑き

状態異常

なし

あとがき

男の子の初めての冒険は、幾つになっても思い出す宝物だと思います。
幾つになっても色褪せず、何度も宝箱を開いて、誰かにその時の話を何度だってするかけがえのないもの。
少年の初めての冒険に、そして少女のために、お付き合いくださりありがとうございます。

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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