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シナリオ詳細

<咎の鉄条>進めスイカロード!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●スイカはいつでも食う
「ウオオオオオオオオオまじかよおおおおおおおお! 雪スイカの旬なのに地元帰れないじゃんかーーーーー!」
 ぐぎゃおーといいながらローレット酒場で転がりまくる少女がいた。
 出亀炉 スイカ (p3n000098)。深緑生まれスイカ育ちのスイカ娘である。
 ちなみに転がる方向は縦方向である。でんぐり返しをしまくりながら酒場の壁に背中から激突すると、そのばにどべーんと寝転んだ。
「終わったわ……アタイの人生……」
「人生の線が細すぎない?」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)が依頼書の束を整理しながら振り返る。
 スイカは寝転んでままの姿勢で片足をあげ、ちょいちょいと動かす。
「アタイの人生はスイカと共にあるんだぞ。夏は夏スイカ、冬は雪スイカ、秋はもみじスイカで春にはタイラントスイカWX-FUTUREを食うんだ」
「春だけいかつい」
 テキトーなツッコミを入れたのは、スイカちゃんがいいかげんな事をいうのがいつものことだからである。このまえは『ジェットスイカリー功夫最強ファイトを食う』とか言っていたはずである。
 そんなテキトーが許されるくらい、スイカちゃんの地元には様々なスイカがありそれを毎日のように食っては豊かに(かつテキトーに)過ごすのが普通なのだという。
 そんなスイカちゃんが地元に帰れないというのは、人生が途切れることとほぼ同義であった。
「ちっくしょおおおおおおおお! 入ーれーろよー! 茨とかしらねーよー!」
 うつ伏せになってジタバタし始めるスイカちゃん。
 このままだと彼女が一生説明しそうにないので、代わりに話そう。

 あるときから深緑を正体不明の茨が覆った。壊す燃やす突き破るは勿論上を飛んだり土を掘ったりしても通り抜けることは叶わず、無理に通れば最悪死ぬという謎な上に凶悪な茨である。
 国境線付近の村落は茨の呪いか全ての住民が眠りに落ちており、そこから動かすことも難しいということだ。おそらく茨の向こうも同じようになっているだろうと見られている。
 当然ながらというべきか、空中神殿からのポータルも起動していない。
 また、霊樹から『大樹の嘆き』が出現している報告からROOでおきた事件との類似性も疑われている。
 とにかく今やるべきことは道中の危険を払いのけながら深緑側へと進んでいくことだけなのだ。

「ということで説明しよう。今回トライするのはスイカロード。
 アタイの地元と外を繋ぐルートの一つだぜ」
 いきなりむくりと復活したスイカが語り始めた。

●スイカロード
 か弱き者は突破不可能。力で押し通る強者のみに許された道。それがスイカロードだ。
「スイカロードにはタイラントスイカやジェットスイカ。ボンバースイカやスイカ売りつけおじさんが出現する危険な道だ。
 ここも塞がれてるかもしれねーが、そいつは通ってみなくちゃわからないだろ?」
 スイカちゃんがいうには、タイラントスイカは牛を食っちゃうような巨大なスイカ型モンスターでカボチャランタンみたいにギザギザの歯型の皮でがぶっとしてくるという。
 ジェットスイカは妙に長持ちするスイカ液のジェットてツッコミものすごい反応速度で体当たりしてくるモンスターだ。高い機動力と【移】攻撃も相まって射程外からいきなり先制攻撃をしてくるというのも厄介ポイントである。
 ボンバースイカに至っては固い防御とそこそこの回避そして40だか50だかっていうビミョーな特殊抵抗をもってじりじり迫り、溜め攻撃である自爆をしかけてくるというイヤなモンスターである。なにがイヤかって、この自爆には【識別】能力がついてるので群がってきてもダメージをくらうのがこっちだけなのだ。
「あとスイカ売りつけおじさんはスイカロードに現れるなぞのおじさんだ。精霊だって言うやつもいる。どこからともなく現れてスイカを売りつけようとしてくるんだ。……相場の1.5倍くらいの嫌な金額でな……」
 なぜかそこだけ深刻に語るスイカちゃん。
「だが上手に交渉したり値切ったりして相場金額以下で買い取るとお得だし相場以下で買うと称賛と共にHPやAPをちょっと回復してくれるから、嫌いな奴はあんまりいない……」
 なんでそんな要素があるのか微妙に謎だが、利用できるならするにこしたことはないだろう。
「アタイが実家に帰るため、深緑のへーわを守るため! さあいくぜー! 戦いの時d――痛ってえ!?」
 走り出したスイカちゃんは足元においてあったぶんちんにつまづいてスッ転んだ。顔からいった。

GMコメント

●オーダー
 スイカロードを通り抜けその奥を調査します。
 あとスイカちゃんは顔からいった時気を失ったのでお留守番です。

●フィールド
 スイカロード
 妙にスイカのツルで覆われたトンネル状の通路です。
 横道とかはなく一本道ルートなのですが、逆にいうとツルをどかしたりしてショートカットしたりはできないようです。別にする必要もないので今回は素直にいきましょう。

 出現する敵はOPで大体説明しましたが、ちょっとおさらいします

・タイラントスイカ
 ナチュラルに強めの敵。デカくて攻撃力もつよい。まあまあヤバイ。
 アタッカーを何人かたてておいて、こいつが出たら優先的に戦うようにするとスムーズやも。

・ジェットスイカ
 高反応かつ射程範囲外からいきなり迫ってきて先制攻撃を浴びせてくるヤバイやつ。
 こいつのせいで仲間のダメージコントロールが若干狂うので、味方が危ないときは庇う作戦を立てておこう。

・ボンバースイカ
 高い防御力でじりじり迫ってきて爆発するスイカ。爆発は【範】範囲なので味方が固まってると更に厄介。
 自爆までには2~3ターンかかるので、高火力攻撃で倒したり効き目が強いタイプのBSで固めたりする作戦がそこそこ有効。

・スイカ売りつけおじさん
 普通のスイカを定価1.5倍で売りつけに来るおじさん。どこからともなく現れる。
 値切ったり交渉したり『お~ねがい☆』て上手にすると定価以下にマケてもらえることがある。そういうときは「グッジョブ!」とかいってHPとAPを回復してもらえる。
 スイカロードは長いので、スタミナ温存のためにも使えるなら使っておこう。非戦スキルの輝きどきだ!

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <咎の鉄条>進めスイカロード!完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月05日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
ハンナ・シャロン(p3p007137)
風のテルメンディル
ロロン・ラプス(p3p007992)
見守る
ソニア・ウェスタ(p3p008193)
いつかの歌声
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女
ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)
陽気な骸骨兵
レオナ(p3p010430)
不退転

リプレイ

●スイカロードってなに
 青い空に、スイカちゃんのダブルピース笑顔が浮かんでいた気がした。
「か、かわいそうに、スイカちゃん……」
 『炎の守護者』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)はスゥーって消えていく笑顔から視線をおろし、森の小道を凝視した。
 通常の手段では見つけられないように魔術的な偽装が施されたこの小道は、少し進めばスイカのツルによって覆われたトンネル通路に入ることができる。
 こうした植物操作系の魔術はいかにも深緑といった感じだが、スイカに偏っているのは本当になんでだろう。
「故郷の人たちが茨に覆われて眠ってなければスイカちゃんへのおみやげにもらってこれるかな?」
「どうでしょうなあ。無事であればよいのですが、他のケースを聞く限り……」
 『陽気な骸骨兵』ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)が骨の指で骨の顎をかりかりとやった。たぶん顎を撫でているのだろうが、肉も肌もないのでただカルシウムがこすれる音がした。
「しかし雪スイカは栽培されている筈! 必ずやたどり着き、持ち帰ってあげたいですぞ~!」
 革の手袋をシュッとはめてやる気を見せるヴェルミリオ。
「けどそうなるとファルカウまでだから、ちょっと道のりは遠いよね。今回はその第一歩ってことなのかな?」
 『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)の問いかけに、チャロロたちが頷く。
 そこで話題は切り替わったようで、キルシェは見えてきたスイカロードのツルに手を触れた。見た目よりも頑丈で、すこしのスキマもなくトンネルが形成されている。
「すごい魔法。きっと対象を制約することで力を高めてるんだね。そういう魔術師もいるって聞いたことある……」
 故郷の事を考えると流石に胸のざわざわが大きくなるが、キルシェはつとめてゆっくりと呼吸することで自分を落ち着かせた。
「鋭く強くは力の基本ですからね」
 彼女の不安を察したのだろうか。元の話題にのっかることで『風のテルメンディル』ハンナ・シャロン(p3p007137)が気持ちをそらしてくれた。
「正直この……スイカロードですか? この道に入ったらちょっとほっとしてしまいました。周りに見えるのが茨じゃないだけで随分安心するものなんですね」
「そうだな……」
 『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)が何事か色々と考えながら頷いた。
「ところでさ」
 『苛烈なる星輝』ロロン・ラプス(p3p007992)がまるいスライム状態でぽよぽよしながら転がった。跳ねたりシャクトリムシスタイルをとったりして移動することもできるのだろうが、なんだかめんどくさがっている感じがした。
「ボクの領地でもスイカを育ててるけど、いつかこんな風に暴れだしてしまうのかな」
「え、そうなのか……?」
 『特異運命座標』レオナ(p3p010430)が急に不安になったらしく問いかけてきた。
 ペイトは地下暮らしなために野菜の栽培設備は限られている。野菜知識に偏りがあるのも仕方ないところだろう。そもそも問題でレオナはスイカ自体知らなかったようだが。
「勉強になるな」
「あ、あ、別に全部のスイカがこうなるわけじゃないよ? むしろ特殊な例っていうか、特別な品種っていうか。多分みんなちょっと困惑してるんじゃないかな」
 ね? とロロンが顔(?)を向けると、『いつかの歌声』ソニア・ウェスタ(p3p008193)が眼鏡の奥で半眼をつくった。
「ふ……スイカと戦うのも何度目でしょうね。そろそろ私は驚かなくなってきましたよ」
 それに結構美味しいですし、と過去に倒した(そして食べた)スイカのことを思い出す。
 新鮮さとみずみずしさ、そしてさっぱりとした甘さをもったスイカは物理的な危険さを差し引いても絶品であった。美味しさを突き詰めた結果暴れるようになったと説明されてもちょっと納得してしまう出来だったのである。
「いきますよスイカ。食べられそうなスイカはそのままお弁当代わりにしてあげます!」
 ぐいっと腕まくりをして、ソニアは歩き出した。

●相手がスイカでもキメるときはキメる
「さて――」
 レオナは竜骨からなるとされる短剣を皮のホルスターから抜くと、それを逆手にゆっくりと構えた。
 呼吸は遅く、深く、やがて呼吸そのものが意識から外れていく。
 意識は戦いのそれへと切り替わり、音も匂いもそのためにのみ知覚されはじめた。
 身体にたたき込んだ動きが幾十通りもの型として現れる。
 そしてその意識を示すかのように、レオナの体表に紋様が浮かび上がった。
 『人が変わったような』という表現は正しいようで、すこし違う。
 獰猛な獣のような声で、レオナは呟いた。
「どこからでもかかってこい」
 トンネルのはるか向こう。ドッというジェット噴射の音と共に急接近するのはジェットスイカの機影であった。肉眼でとらえて構えるまでの時間は許してくれない。対応するよりも早く距離を詰め、流星の如くレオナの腹へと直撃した。
 が、常人なら吹き飛ぶであろうところをレオナは両足をしっかりと地面に押しつけたまま、3mほど後方へ押されるのみでとどめた。
「一度ぶつかってしまえば――」
 ざくりと短剣をジェットスイカ側面に突き立てる。ボーリングのボールのごとく固かったが、逃がさず捕まえる程度のくいこみかたはできた。
「この通りだ。やってしまえ」
 レオナの呼びかけに答えたのはサイズとハンナであった。
 サイズの『黒顎魔王』がジェットスイカの側面をとらえ、レオナから離れトンネル壁面へと叩きつけられる。
(このロードをとっとと突破して、道を開拓しよう。スイカどもよ道をあけろー!)
 バウンドしたところへ、ハンナがガンエッジのトリガーを引き魔力を爆発。切断魔法が剣の表面に展開し、流れるような軌道が空中のジェットスイカをすぱんと切断した。
 キッと視線を道前方へと向ける。
「来ます、ボンバースイカです!」
 導火線から火花を散らすかのようなエフェクトをかけながら、バウンドによって接近してくる二体のスイカ。
 その行く手を阻むようにして、ヴェルミリオとチャロロが前衛に立ち塞がった。
「破壊なら任せて!」
 ロロンはぴょんとバウンドして飛びかかると、ボンバースイカへと密着した。
 固いスイカとやわらかいロロンであればロロンのほうがぽにょんとへこむのは道理なのだが、その接触部分がジジッと奇妙な反応を見せる。
「ぷるるーんぶらすたー!」
 凄まじい爆発がおきた。ボンバースイカが破裂したのではない。ロロンの表面が魔力爆発を起こしたのだ。
 吹き飛んだボンバースイカがバウンドし、半壊した身体をそれでも近づけようと迫る。導火線が最後まで燃え尽き、今度こそ爆発がおこる――かに見えたところで、ソニアがビュンと剣を払った。
 はるか後方からだというのに、青白い刀身の閃きが空間を越えてボンバースイカのボディをはげしく切りつける。固いボディにも関わらずがりがりと削るように斬り割いた『斬撃』が、ボンバースイカをついに真っ二にした。
「むん!」
 お見事ですぞ! と叫んだヴェルミリオは残る一体のボンバースイカを両手でがしりと掴み、己の胸(というかあばら骨)へと押しつけた。
 ついに爆発するボンバースイカ……だが、それによって巻き込まれたのは至近距離にあったヴェルミリオただ一人。
 もくもくとあがる煙のなか、バラバラになった骨パーツが勝手にぱきぱきと組み上がり、しまいには元のヴェルミリオの全身がくみあがってしまた。
 完全に組み上がったわけではないようで落ちそうになった頭をキャッチしすげ直すと、位置を微調整する。
「なかなかの爆発。しかし」
 骨の眼孔の奥で、赤い光が強さを増した。
「このスケさんを破壊し尽くすほどではありませんぞ」
「お疲れ様っ、頼もしいわ!」
 自爆する敵を処理する最大の方法は『勝手に爆ぜて貰う』ことであり、その際のリスクを軽減することだ。キルシェはやれやれと汗を拭うような仕草をするヴェルミリオに向けて杖を翳し、治癒の魔法をかけてやった。
 スケルトンモンスターに治癒ってどうなんだろうと一瞬おもったが、ヴェルミリオはサウナに入ってサッパリしたおっさんみたいな爽やかなリアクションをしていた。効いてる効いてる。
「けど問題は……」
 と呟いたところで、通路の奥から巨大なスイカが出現した。
 人の身長より大きく、バガッとギザギザの口を開くその姿は間違いなくタイラントスイカだ。
「みんな下がって。ここはオイラが!」
 チャロロは両腕を広げるような姿勢から突撃するための姿勢へと切り替えると、燃え上がる炎の中から機煌宝剣・二式を、そして機煌重盾をそれぞれ召喚して両腕に装着した。
 盾の折りたたみ式のパーツが広がり全身を覆うカイトシールド状に変化すると、チャロロはそのまま突進。
 タイラントスイカはそれに対抗するように突進し、二人はズガンという衝撃波をおこしながら激突した。チャロロの髪が、そして後ろで治癒魔法の支援を始めていたキルシェの髪までもが靡く。
 タイラントスイカの噛みつきを盾をつっかえるようにして防御し、チャロロは素早く盾をパージ。相手の側面に回り込むと、剣から炎のオーラを噴き出しながら思い切り斬撃をたたき込んだ。
「今だ!」
 チャロロの呼び声に答えたのはハンナとソニアだった。
 同時に剣で斬りかかり、その巨体を強引に切断していく。
 爆発が起こり、そして――。

「スイカ買わない?」
 いつのまにかチャロロの背後に現れたおっさんが肩をポンと叩いた。
 反射的に振り返り剣を振るが、異常な回避能力によってかすりもしない。
「これは……スイカおっさん!」
「いいスイカあるよ」
 片手にスイカを持ってずいずいしてくるおっさんに、チャロロは武装を解除した。
 解除したっていうか、セーラー服にポニーテールというどうかしてる格好になった。
 そして両手でがしっとお祈りポーズをとる。
「おねがいですわ……ケガをして来られない友達がどうしても雪スイカを食べたいって頼みこんできたんですの……」
「え、その友達大丈夫?」
 普通に対応してくるおっさん。チャロロはさっきの連係攻撃と同じくらいの真剣さでハンナとソニアに視線を送った。
「今は持ち合わせが少なくて……どうか、もう少しお安くしていただけないでしょうか?お願いします……」
「見てくださいこの大人数! 多少割り引いたとしてもなかなかの売り上げではないでしょうか!」
 二人は剣をしまってズズイッとおっさんに詰め寄った。
 おっとっとと言いながら後退したおっさんは、スイカを庇うように手をかざす。
「こっちも商売なんでね。おいそれと値引きはできないんだよ」
「そこをなんとか!」
 後退したおっさんに更に詰め寄るハンナ。同じ距離だけ下がろうとしたおっさんに対し、ソニアが回り込むように側面から肩を掴んだ。
 その時ソニアがチラッチラッて懐から見せたのはなんと紹介状。おっさんがごくりと息を呑むのが感じられた。
(あ、効果あるんですねこれ?)
 ソニアは『いけます!』というアイコンタクトを仲間達に送った。
 キラリとめを光らせるサイズとキルシェ。
 サイズは素早くおっさんの手に持ったスイカを鑑定すると、おっさんが提示した額にもうちょっとオマケしても大丈夫なんじゃないかと言い始めた。
 おっさんのもつルートは定かでないが、サイズの商業知識をもってすれば流通過程で上乗せされて然るべき金額を差し引いてもおっさん側に利が出る取引が可能だと判断できたのである。
 Win-Winが成立するなら、あとは気持ちの問題だ。
 キルシェが両手をあわせてちょっと目をうるませた。
「あのね、スイカおじさん。
 ルシェ、スイカ三つ買いたいの。
 家族と、スイカ食べたがってるお姉さんと、リチェの分」
「ずいぶん食べるね」
「でもね、ルシェのお小遣いだとお金足りなくて買えないの」
 いつの間にかススッて後ろに現れたジャイアントモルモットのリチェルカーレがうるんだ瞳でおっさんを見つめる。
 キルシェが取り出したコインはおっさんが提示したスイカ二つ分。
 とても三つ目が買える金額ではない。
「……家族っていうのは?」
 おっさんがそう問いかけたところで、キルシェが僅かにうつむいた。
 その微妙な違いを、おっさんは読み取ったのかもしれない。
 帽子をぬぎ、ちょっと薄くなった頭をかりかりとかいてから苦笑した。
「しょうがないね。おじさんちょっと応援したくなっちゃったな」

 と、その時である。
 通路の向こうから猛烈な速度でタイラントスイカが転がりながら出現した。
 前衛を務めていたレオナとヴェルミリオ、そして戦闘に集中していたロロンがそれぞれ構える。彼らの防御を、まるでボーリングのピンのごとくはねのけて転がるタイラントスイカ。
「くっ! これまでの個体とはワケが違いますぞ!」
「スイカロードのボスというところか?」
 吹き飛ばされながらもなんとか空中でバランスをとり着地したヴェルミリオとレオナ。
 あとふつうにぼよーんてバウンドしたロロンが地面にひらたく広がる。ダメージがきつすぎるという意思表示だろうか。
 が、そんな彼らに突如としてふわりと涼しいものが包み込んだ。
 爽やかな、そしてさっぱりとした甘みが口に広がり、遠くで風鈴の音がした。
 ハッとして振り返ると、おっさんがうっすらと透けているのが見える。
「まさか……スイカ売りつけおじさん殿、あなたは――高位精霊!?」
「君たちがどういう存在か、見させてもらったよ」
 おっさんが微笑むと、ヴェルミリオたちの力に活力が戻った。それも急速に。
 今ならば勝てる。ヴェルミリオとレオナは吠えるような声をあげながらタイラントスイカの表面に短剣を突き立てた。鋼のような表皮を、しかし短剣がつらぬいていく。
 そこへロロンがとびつき、ぎゅるんと螺旋状に己をねじった。一本の槍と化したロロンがタイラントスイカへと突き刺さり、己の回転でもってそのボディを貫いていく。
 破壊され、散っていくタイラントスイカ。
 フウと息をついたロロンやレオナたちに、おっさんがスイカをぽんと手渡した。
「それは、ファルカウ特製の雪スイカだよ」
「何、これが……?」
 しげしげと見つめるレオナに、おっさんが頷いた。
「あいにく、持ち出せたのはこれだけだったけどね」
 その言葉に含まれた意味を察し、レオナやキルシェたちが顔を見合わせる。
「里のみんなは眠ってこそいるけど、無事だよ。外に心配している人がいるなら、これを持っていっておあげ」
 おっさんはそう言うと、支払うべき金額よりもはるかに安いコインだけをとってスゥッと消えていった。

●雪スイカ
 後の調査によって、スイカロードの先が茨で塞がっていることがわかった。
 このルートも使えないかとチェックシートに書き込みながら、隣にある雪スイカを見つめる。
 スイカは元気に育ち、里の皆は眠ってこそいるが無事だという。
 その言葉がどこまでを指しているかはわからないが、ひとまずの安心を得たといってもいいだろう。
 それに、あれだけの魔術を維持する高位精霊に認められたというのは大きい収穫だった。
 やがて深緑の中へと攻め込む時がくるだろう。
 その時のために、いまはこの美味しい雪スイカを食べておこう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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