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シナリオ詳細

<Sprechchor al fine>親しき『隣人』は闇の顎に

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『怪猫』の集団
 幻想貴族『アルフラド・ノウェル』が治める領地内では、謎の霧が発生していた。
 メフ・メフィートから西、ラサ国境北部に座するその場所で何故それが発生しているのか、領民達には皆目見当がつかない。
 困惑の日々を迎えるはずだった彼らを、突如襲う悲劇。
 それはあちこちで起こり、その一画であるこの町でも同様だった。
 一人の大人の悲鳴が上がる。
「な、なんだ……?! うわぁぁぁぁ!!」
 霧の中に浮かび上がる影。
 それは猫の形をしていた。違う点を上げるならば、大人の身長まである大きさを有している事と、尻尾の数が多い事。
 二本、もしくは三本の尾を持つ猫達数匹が顔を見せる。彼らは茶トラだったり、白猫だったり、サバトラだったりと、模様に違いがある。それほどの大きさとなれば、もはや猫と呼べるのかは怪しい。だが、彼らが突然変異によって生まれた存在だという事は明らかだった。
 一匹の猫が手を上げる。そのまま振り下ろした手からは爪が覗いていた。足がすくんで逃げられなかった人間の男に対する一片の慈悲も無く、血を散らす。
 体をくの字に折り、人間の男は傷の浅さに少ない安堵を覚えつつも、逃げようと試みた。だが、その動きを阻むように、喉元からせり上がる鉄の味。そして二重にブレる視界。
「なん――――」
 疑問は最後まで口に出来ず、口の端から赤黒い血を流して地面へと倒れ伏した。
 息絶えた獲物へと群がる猫達。
 咀嚼音が響き、血生臭い匂いが漂う中で、子供の声がした。
「ミーニャ……?」
 反応した一匹が振り返る。四本の尾を持つサバトラ模様の猫が見たのは怯えと困惑の表情を浮かべた少年であった。
「やっぱりミーニャだ……。なんでこんなに大きくなったの……?」
「しらぬ」
 少年の質問に対し、簡潔に答える猫。
 他の猫が少年を襲おうとするのを猫が遮る。
「やめろ。手出しは許さぬ」
 恐らくはミーニャがボス猫なのだろう。素直に従う猫達を一瞥して、ミーニャは顎で後ろを示した。
「お前には長らく餌を貰った恩がある故に、この場は見逃してやる。
 早く行け。そしてもうこの場所には戻ってくるな」
 動こうとしない少年に、再度「行け」と、今度は凄みを加えて促す。
 漸く踵を返して何処かへと消えた少年を見てから、ミーニャは同胞に違う場所へ行く事を示し、歩を進めた。
 霧の中に猫達の姿が消える。
 全てが霧に呑まれていく。
 切り裂く音も、咀嚼音も、少年の嗚咽や駆ける足音も。

●二度と帰らぬ知己と知るか
 先日、イレギュラーズが魔種達に襲撃された。
 戦いの末、イレギュラーズは彼らから『ヴィジャ盤の破片』と『ダウジングストーン』を入手。
 それらを使用した結果、『幻想』のとある座標と『フラド』という文字が浮かび上がった事で、メフ・メフィートから西、ラサ国境北部に座する幻想貴族『アルフラド・ノウェル』の領地がシュプレヒコールの本拠地である可能性が高まった。
 襲撃してきた魔種達等に関する可能性を開示し、兵士が派遣されたが、「霧に包まれていて領地の場所が掴めない」「仲間が何名か忽然と消えた」という報告が入る。
 これらの事から幻想王国への反抗とみなし、ローレットへ正式にノウェル領への介入が依頼として持ち込まれた。
 こうして、『不完全なヴィジャ盤』を持つイレギュラーズがノウェル領に足を踏み入れる事となった。

 霧が立ちこめるノウェル領。その中央を目指して進軍するイレギュラーズだが、ある町を通ろうとしてその入口に佇む一人の少年と遭遇する。
 彼はイレギュラーズの姿を見つけるとすぐに駆け寄ってきて、涙声で叫んだ。
「お願い! ミーニャを止めて!」
「ミーニャ? それは君の家族か?」
 質問に対し、首を横に振る少年。
 泣きじゃくる少年をどうにかなだめ、幾分か落ち着いてきた所で再度問う。
「まず、君はこの町の住人か?」
「うん、そうだよ」
「お父さんやお母さんは?」
「わかんない。霧が出てきて過ごしてたんだけど、そしたらさっき急にあちこちで悲鳴が出て、お父さんが外に様子を見に行ってそのまま……。
 お母さんは、裏口から出なさいって言って僕を逃がして、それからどうなったか、わ、わか、わからなくて……」
 言いながら思いだしたのか、再び泣きじゃくる少年。
「しっかりしろ。私達の行動は君からの情報にかかっている」
 少年と同じ目線にまで足を曲げてしゃがみ、両腕を掴んで言い聞かせる。
 しゃくり上げながらも頷き、イレギュラーズに促されて深呼吸を数度行なうと、ようやく落ち着きを取り戻した。
「それで、ミーニャというのは誰なんだ?」
「猫なんだ。でも飼ってたわけじゃなくて、町に住んでる野良猫なんだ。家じゃ飼えないから餌をいつもあげてて……」
「そうなのか。で、その猫を止めてほしいというのは、どうしてだ?」
「えっと、ミーニャね、何故か大きくなってた。それに、尻尾も一本から四本になってて、おまけに言葉を喋るようになってたんだ」
 少年の説明を聞きながら、イレギュラーズは顔を見合わせる。もしかすると、怪王種なのかもしれない。
 慎重に言葉を選びながら、少年に尋ねる。
「そのミーニャが、誰かを襲おうとしてるのかい? それとも、何かと戦っているのかい?」
「違う……多分、襲ってるんだと、思う。
 僕の事は、『餌を貰った恩があるから見逃してやる』って、逃げるようにって、言って……」
「そうか……」
「お願い! ミーニャが他の猫達と一緒に町の人を襲うのを止めて!」
 この少年は、その意味を理解しているだろうか。
 人を襲った怪王種を止めるという事は、討伐する事に繋がると。
 また、怪王種が元の姿に戻る事も無い事を。
 真実を知る覚悟を少年に問う事も出来ぬまま、イレギュラーズは彼の頭を撫でる。
「わかった」
 その一言を受けて、少年は深々と頭を下げた。

GMコメント

 これもまた一つの残酷な別れと言えましょう。
 そんな訳で、町を襲う怪王種の討伐を行なう事になりました。
 少年がイレギュラーズに同行する事はありません。怪王種となった猫に、少年が再度遭遇する事はありませんので、その点はご安心ください。

●達成条件
 怪王種となった猫達の殲滅

●敵情報
・『怪猫(けびょう)』ミーニャ
 四本の尾を持つサバトラ模様の猫。野良猫達のボス。猫達の中で唯一人語を操る。
 噛みつき(物・至・単):【致死毒】を伴う。
 風爪迅(神・中・域):爪で空中を薙ぐ動作にて斬撃を放つ。【足止】【流血】を伴う。
 咆哮(神・中・範):威嚇の咆哮。【足止】【混乱】を伴う。

・その他の『怪猫』×四体
 二本尾が茶トラと白猫、三本尾が黒猫と三毛猫。どちらも大きさは人間の大人ほどあるが、人語を発する事は無い。
 爪研ぎ(物・至・単):【致死毒】を伴う。
 猫パンチ(神・中・範):殴る動作をする事で拳の風圧を起こしてダメージを与える。【足止】【ショック】を伴う。
 地鳴り(物・近・域):跳躍し、全体重を乗せたキックで地面を揺らす。【足止】【崩れ】を伴う。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <Sprechchor al fine>親しき『隣人』は闇の顎に完了
  • GM名古里兎 握
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月13日 23時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

志屍 瑠璃(p3p000416)
遺言代行業
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
蒼剣の秘書
ライ・ガネット(p3p008854)
カーバンクル(元人間)
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
霞・美透(p3p010360)
霞流陣術士
玖・瑞希(p3p010409)
深き森の冒険者
嶺 繧花(p3p010437)
嶺上開花!
オクタヴィア・ルリエ・クルールゥ(p3p010511)
グレート・ワン

リプレイ

●霧の中の約束を果たさんがために
 深々と頭を下げた少年に、オクタヴィア・ルリエ・クルールゥ(p3p010511)は己のタコ足の一つで背中を叩く。
「よぉし、任せな。お姉さん達が何とかして止めてくるさ」
「はい、必ず止めると約束するであります!」
 力強い目で熱く言葉を紡ぐ『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)が何度も首を縦に振った。
「大丈夫でありますよ。……この宇宙保安官、ムサシ・セルブライトがミーニャを止めて、戻ってくるでありますから! 約束であります!」
 こくり、と頷きが一つ。
 それを確認したオクタヴィアは、他の足で涙目の少年の体の向きをくるりと振り向かせた。彼の先にあるのは出口の先にある霧。
 少年の背中を強い力で少しの間引いたかと思うと、押して一歩前へと進ませた。
 その意図を察した少年は、もう一度「お願いします」と頭を下げた後、走り出した。
 霧の中へ姿が消えたのを見届けてから、息を一つ吐き出すイレギュラーズ。
 オクタヴィアがタコ足の先を揺らしながら仲間に今の自身の行動を伝える。
「一応印はつけたから、今後の動きはわかると思うよ」
 少年の背中につけた吸盤跡。位置を察する為の彼女のギフトだ。
 『深き森の冒険者』玖・瑞希(p3p010409)が、「ありがとう」とオクタヴィアに伝える。もし戻ってこられたら困るからだ。
 彼女の行動に礼を述べる近くでは、『霞流陣術士』霞・美透(p3p010360)が胸の内にて言の葉を紡ぐ。
(……ああ。少年、君の願いは確かに聞き届けたよ)
 それがどのような結果であろうと、少年は受け入れるしかないけれど。
 隣では『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)が、ミーニャと呼んでいた猫の事について仲間に確認を取っていた。
「急に巨大化したという事は、怪王種でしょうか」
 頷いて返答するは、『カーバンクル(元人間)』ライ・ガネット(p3p008854)。
「まあ、そうだろうな」
「『一個の王を中心として周囲の怪物を統率し、同類へと変異させる。これらを総称して怪王種と呼ぶ。彼らは共通して世界廃滅の本能を持つ』……でしたか。
 被害が出てしまっている以上、容赦はできませんが……まったく、勘弁してほしいですね」
「本当だな。でも、俺達に出来るのは同情せずに全力で戦うことだけだ」
「はい」
 ライの言葉に同意する瑠璃。
 『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)もまた、嘆息を一つ。
(とても残念なのだわ)
 怪王種となった者を元に戻す力など無い。
 出来る事と言えば、その命を終わらせる事のみ。
 同じ事を考えていたのか、『嶺上開花!』嶺 繧花(p3p010437)が唇から言葉を零した。
「ミーニャを止めてと、彼は確かに言ったもの……。
 なら私は、その願いを必ず叶えるよ。
 そうする事しかできないのは、とても悔しいけど、ね……!」
「気持ちは、少しは分かるよ。さ、早く探しだそう。
 これ以上の犠牲者を増やさないためにもね」
 美透の促す言葉に、仲間達が一様に頷いた。
「それで、どうやって探す?」
 ライの質問に答えてくれたのはオクタヴィアだ。彼女は自分のタコ足を見せつけて、口の端をを緩やかに持ち上げた。
「ネコの手ならぬタコ足を貸そう。
 食材適正のあるたこゲソだ、煮るなり焼くなりするがいいさ。でもタタキは勘弁してくれ。わさびが染みるんだ」
 おそらくは、彼女なりの精一杯のジョーク。
 ほんの少しだけ、場が和んだ。

●霧に浮かぶ殺意
 オクタヴィアが用意したタコ足は、思った以上に効果があった。
 用意し、少し火で炙ってからあちこちに飛ばしてみた所、すぐに現れたのだ。
「いや、食材に適してるとはいえ、本当に釣れるとはね……」
 肩をすくめてみせるが、鋭い眼光は敵へと注がれている。
 今、イレギュラーズの目の前に居るのは怪王種となった五体の猫。大きさは人間の成人男性程。割と大きく、尾もそれなりに太い。
 二本尾を持つ茶トラと白猫。三本尾を持つ黒猫と三毛猫。そして彼らの中央に立つ、四本尾を持つサバトラ模様の猫。この一匹だけが四本尾な事から、ボス猫だろうか。
 猫の怪王種達を前にして、今更ながらイレギュラーズはミーニャという猫の特徴を聞き忘れた事に気付く。
 両者が睨み合う中で、美透が声を張り上げる。
「ミーニャ、という猫は誰だい?」
 その質問に対し、前に一歩進み出た四本尾の猫。
「私だ。誰からその名を聞いた?」
「この町に住む少年からだよ」
 眉を顰める四本尾の猫――――ミーニャ。
 ミーニャが問う前に、ムサシが答えを送る。
「宇宙保安官、ムサシ・セルブライト見参ッ! ミーニャッ! 少年との約束で……お前を止めに来たでありますッ!」
「……ほぅ」
「イレギュラーズとして……宇宙保安官として! お前達を止めるであります!」
 細められた目からの敵意にも臆する事無く言い放つムサシへ、他の猫からも敵意が向けられる。
 ムサシに同意するように、オクタヴィアも言葉を紡いだ。
「よぉミーニャちゃん。偶々気が乗らなかったのか、あの子に恩義を感じてるのかは知らないが。あの子本人からの直々の『お願い』だ。止めさせて貰うよ」
「大した自信だ」
「そうだね。それに、止めてくれって言ってきた時のあの子の目はそりゃもういい物だったよ。アンタの覚悟はどれほどだい? 口元から血の匂いがしているよ」
 煽るような言葉に対し、ミーニャは鼻で笑うのみ。
 他の猫と共に敵意を隠さぬまま睨み合う中で、少し離れた場所に移動した瑞希が大きく声を張り上げた。
「さぁ、ボクの名前を聴いて! キミ達を止めるボクらの名前を! ボクの名前は玖・瑞希!
 大丈夫。たとえキミたちが束になっても、ボクは倒れない」
 自信満々に言う瑞希へと集まる注目と敵意。
「本官も忘れないように、であります!」
 二本尾の二体がムサシの方を向く。
 オクタヴィアが二本尾の方へと移動する。
 まずは尻尾の少ない者からの各個撃破を目指す。とはいえ、三本尾への注意も怠らない。
 距離をある程度取った者が数名。
 その内の一人、華蓮は常に仲間との距離を測りながら移動をしている。
 他にも距離を取っている仲間達は居るが、彼らは攻撃手段の為に少し離れた場所に散開していた。
 だがそれがどうしたと、猫達の攻撃が開始される。
 地面を蹴る。上へと跳び、着地すれば、地面が揺れた。
 倒れぬようにイレギュラーズが足を踏ん張る。その隙にとミーニャの爪が空中を薙ぐ。周囲のイレギュラーズへと向けられた攻撃は、一部に着弾した。腕もしくは足に少しばかりの傷を負い、血を流す。
 二本尾の二体の内、白猫へと瑠璃の血が飛ぶ。彼女が自身の血を用いて飛ばした刃は下半身へと直撃した。
 悲鳴が上がる。
 それは霧という視界のノイズの中で、場所を知らせるに等しく。
 ライが白猫を絡め取る。氷の鎖が巻き付き、締め付けた。冷たい感触と傷ついた箇所から伝わる痛みが、更なる悲鳴を誘った。
「そこ!」
 瑞希の毒手が白猫の体へと差し込まれる。離れた所から命中したそれに、白猫は「何故?」の疑問符を浮かべるばかりだ。
 霧の中、自分の悲鳴も一因とはいえ、こうも正確に射貫くものなのか。
 その答えが分からないまま、白猫に更なる一撃が重なっていく。
 白猫へこれ以上攻撃を与えぬとばかりに、茶トラが地面を跳ぶ。既に他の猫がした事で多少の足止めとなっているのは分かっている。故に繰り返す。
 再び揺れる地面。足が止まるイレギュラーズ。
 反撃せんとする茶トラに、風の刃が飛んできた。ライからの攻撃だ。飛んでいる彼に先程の地面の衝撃は全く無かった。
 茶トラも攻撃を浴びながら疑問符を頭に浮かべる。
 白猫のように悲鳴を上げたわけでも無いというのに、何故当たるのか。
 答えをイレギュラーズが教える事は無いままに、二本尾の猫達は多くの血を流して地面に横たわった。

●一度始めれば、命尽きるまでは
 三本尾の内一体に肉薄するは、オクタヴィア。
 周りに仲間が居ない事を確認してから、彼女は黒猫の懐に飛び込んだ。
 次の動作に移る前に黒猫からの爪が彼女を襲う。
 肩にそれを受け、呻くオクタヴィア。瞬間、視界が滲む。
(あ、やべ……)
 これが毒の類いだと察したのは、彼女自身にもそれに覚えがあるからだ。
「オクタヴィア君!」
 接近してきた美透が手をかざす。現れた魔方陣。それがオクタヴィアの体内を巡る毒を消す。
「ありがとうね。でも、すぐに離れて」
「わかった」
 彼女の忠告を受けてすぐに後ろへと跳ぶ美透。
 自分の毒がすぐに無効化された事に対して衝撃を受けている黒猫へ、オクタヴィアがタコ墨を放つ。それに含まれるのは毒だ。
 見た限り、敵側に回復出来る仲間は居ない様子。ならば、毒に耐性は無いだろう。
 そう考えての攻撃だったが、黒猫の目に当たり、悲鳴が上がったのを見て間違っていなかった事を知る。
 毒はじわじわと命を蝕むだろう。
 もう一匹の三本尾を探す。確か三毛猫だったはずだ。
 そう考える彼女の耳に届く悲鳴。先程から聞こえていたのとは別のもの。
 霧の中、光の柱が見えた気がした。
 その軌跡は悲鳴の方へと向かっていったように見える。
 そちらへと進むにつれ、先程の光の主が判明する。
 繧花による攻撃だった。体内の気を左右の腕に着けた手甲へと集め、そこから光を放って他の三本尾の猫へと当てたのだ。
 悲鳴が聞こえたのか、二本尾を片付けたイレギュラーズが集まる。
 オクタヴィアが黒猫に毒を与えた事を伝え、先に三毛猫を倒す事とした。
 視界の悪い霧の中で容赦なく与えられる攻撃に、三毛猫は二本尾の猫達と同じ疑問を抱いたままその命を刈り取られていく。

 悲鳴が収まり、気配が消えていくのを察してか、ミーニャは舌打ちを一つした。
「どうやら侮っていたようだな」
 賢い手としては、この場から立ち去るのが一番だろう。
 しかし、敵対する彼らは自分を逃がす様子は無さそうだ。
 氷の鎖が足に絡みつく。その冷たさに熱を奪われていくのが分かる。
 しかし、この氷の鎖もそうだが、霧の中でどうやって自分達を正確に捉える事が出来ているのかと、疑問が浮かぶ。
 眼前にイレギュラーズの姿は無い。少し離れた場所からミーニャを狙っている。
 血を纏う刃が、激しく瞬く光が、ミーニャの体に傷を付けていく。
 誰も答えを言わぬが、怪王種達への狙いを外す事が無いのは、華蓮のサポートがあっての事だ。仲間の攻撃が通るようにサポートした事で、この霧の中、場所さえ分かればほぼ当たるようになっている。
 そんな事は露知らぬミーニャが毒づく。
「小賢しい。直接も来ぬのか」
「ならば、お望み通りに!」
 ミーニャの言葉に呼応して、繧花が横から現れる。
 手甲を着けた掌を体に叩き込む。衝撃が内部に伝わり、咳き込んだ。
 氷の鎖が巻き付いたのとは別の足に、茨が絡みついた。この辺りに伸びるような茨は無かったはず、と思う間もなく、思考が急激に鈍る。
 フラつく足を気力で持ち堪えたミーニャに、華蓮の声が届いた。
「申し訳ありませんが、あなたに毒を与えました」
 言葉を返そうにも立つ事で一杯で、唸り声しか出てこない。
 息を吸う。そして、精一杯の咆哮が霧の中に響いた。
 少しは時間稼ぎになるかと思ったが、その考えは甘かったようだ。
 弾丸のようなものが体に当たり、口の端から血が滲む。
 気付けば、正面に一人の男が立っていた。その両手には光る剣を握っている。
「ミーニャ……どうか安らかに……ッ! ゼタシウムブレイザーァァァッ!」
 ムサシの光剣に更なる光が纏い、ミーニャの体を貫いた。

●霧は祈りでは晴れず、ただ吸い上げるのみ
 他の猫達は既に事切れ、あとは虫の息のミーニャが居るだけ。
 巨躯を地面に横たえ、浅い呼吸を繰り返すミーニャに対し、数名のイレギュラーズが近付く。地面を濡らす血の花は少しずつ広がっており。
 虫の息でもなお睨みつけるミーニャへ、繧花が問いかける。
「ねえ。何か、あの子に伝えたい事とか、ある?」
「……」
 無言でゆっくりと瞬きをするミーニャ。その動作が何を意味するのか、猫の生態を知る者なら分かる動作だ。同時に、何を話すか、迷っているようにも見えた。
 返答を待つ事無く、美透が声を掛けた。
「……ここへ私たちをやったのは、君の友人だ。
 けれど、彼は『ミーニャを止めて』と言った。ただ、止めてほしいと言ったんだ……怒りでも恨みでもなくね」
「……そうか」
「……君にも事情があったのだろう。けれど、それだけは知っておいてほしい」
「ああ」
 浅い呼吸の間を縫って紡がれる短い返事。
 オクタヴィアが、理解出来なかった部分について問う。
「なあ、怪王種ってのは人間を襲うもんだろ? なんであの子だけは『特別』なんだい? 格好の獲物だろ? 自分に懐いて寄って来る人間なんてのは」
「…………飽き、も、せず……ご飯を、く、れた……。それだ、け……だ」
 途切れ途切れで語る声には、どこか過去を懐かしむような響きがあった。
 怪王種にも情というのがあるのか、もしくはこの個体だけの感情なのか。
「そうかい」
 タコ足を揺らし、後ろへと下がる。
 入れ違いに瑠璃が進み出て、口を開いた。
「遺言があるなら聞いてあげるわ。あの少年に、恨み言のひとつでもあるなら、想っておきなさい」
「そん、なも……あ、る……のか……」
 声が少しずつ掠れていく。
 命の灯火が少しずつ消えかけているのが分かる。
 瑞希が促すように声を掛けた。
「さぁ、おやすみの時間だよ
 伝えたい言葉があれば、聞いてあげる」
「……………………ふ」
 尻尾が揺れる。
 それ以上は何も発さずに、ミーニャの目は閉じて。
 ほんの少しだけ、顔が上に向いた。イレギュラーズには、それが、撫でられるのを待つような仕草に見えた。
 尻尾が一度だけ地面を優しく叩いて、そして繰り返していた浅い呼吸が止まった。
 比較的血の花がそこまで広がっていない箇所に足を踏み入れた瑠璃がミーニャの額を撫でる。彼女のギフトは、そこから何を読み取ったのだろうか。
「もし再会する事があれば、伝えましょう」
 呟き、仲間のもとへ戻る、瑠璃。
 華蓮が目元に浮かんでいた涙を拭き取って、両手を胸の前で組む。
 息を吸い込み、顔を上げた彼女が紡いだのは、一曲のバラード。
 鎮魂歌と名付けられたその曲を歌う彼女の傍にて、瑞希と繧花が両膝をついて、指を組む。
 祈りを捧げる。
(生まれ変わりがあるのならば、次は君が望む生を……。さようなら、安らかにね)
(猫達の眠りが幸せでありますように)
 胸の中に秘めし言葉達。
 彼らの後ろに控える仲間達も、各々の祈りのポーズを取って目を閉じていた。
(ミーニャ……どうか安らかに……!)
 ムサシが敬礼を祈りとして送る。
 ライは下唇を軽く噛む。
(あの少年は、この結果をどう思うだろうか。俺的にはちゃんと伝えたい所だけど……)
 少年から聞いた状況を思い返すと、ただでさえ大変な状況なのにこれ以上は心がもつだろうかという心配が胸を押し寄せる。
(話さない方が、いいんだろうなぁ……)
 流石に追い打ちはかけられない。
 そう判断したライは、たとえあの少年と再会したとしても言わない事に決めた。
 鎮魂歌はまだ続く。
 耳に届くそれを聞きながら、瑠璃は指を解くと顔を上へと上げた。
 相変わらず霧は上空も隠していて。不意にこみ上げてきそうになるものを堪えながら、猫というものについて考える。
(野良猫は嫌いです)
 他所の家に粗相はするし用意した食事を食べずにあげようと思っていない物を持っていくし。
 身体が汚れていても洗わせようとしないし怪我した子を治療しようと近づいても唸って威嚇するし。
 急に馬車の前に飛び出すし恩返しのつもりで虫や小鳥の死骸を置いてくし。
 急に姿を見せなくなって、そのまま帰ってこなくなるし。
 口を固く結ぶ。
(もし面倒を見ていたら、防げたのでしょうか。ねえ)
 その呟きは、誰に、何に、対してのものか。
 口には出せぬ答えを胸に秘めて、もう一度指を組む。
 霧は、まだ晴れない。
 命と鎮魂歌と祈りだけを飲み込んで、続いていく。

成否

成功

MVP

オクタヴィア・ルリエ・クルールゥ(p3p010511)
グレート・ワン

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
仕方の無い事とはいえ、胸が痛みますね。
読み取ったものが何だったかは、あなたの胸へ。
猫を釣る餌を用意するのは良いアイディアだと思いました。どうやって的を探すのか、という視点も地味に大事な要素だと思います。故に、あなたへ。

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