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シナリオ詳細

蒼穹のフルフルド

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

 落ちる、落ちる。
 みなが落ちる。この手が落ちる。
 見よ 万物に落下がある。

 クック・クック、懐かしいキミ、
 ボクのふるさと――愛しい大地に、帰ってきたよ。

●蒼穹のフルフルド
 ――旅をしていた。
 慣れない土地での旅だった。
 目的は単純明快で、人々にとって有害な敵を倒しに行く。
 ただ、それだけの旅だった。

 太陽は苛烈に照り付けど北風に未だ勝らず、外套の裾が歩む方角と大気の流れを教えるように後ろへ揺れている。
 風がさらさらと音を立てて足元の砂を流していた。外界大気は生温いあたたかさで、昨晩の雨の名残か湿やかだ。頬を撫でて後ろに抜ける気の流れが乾きかけた土の匂いを感じさせる。人数分の足跡をつけて皆で道なき道を進軍し、振り返れば砂塵積もりてその痕も無し。其れは混沌の戦場千禍を駆け抜ける彼らの生を象徴するようにも思える旅路であった。

 最終防衛ラインの黒旗は、現在遥か遠くに揺れている。旗より更に徒歩3日ほどの距離には、民が避難の準備を進める集落がある。大陸南方、覇竜領域デザストル。フリアノンに程近い小集落メナスの民は、死せる竅土竜の骨を利用して地上の脅威から隠れ住んでいる。その集落目指して巨大な亜竜が進行中だと知らされたのは、数日前の出来事だ。

「あれは……聞きしに勝る威容だな」
 ベネディクト=レベンディス=マナガルム (p3p008160)は頭上に広がる青空とよく似た色合いの澄んだ瞳を前方に向け、敵を視た。濛々と土煙を上げ、岩や泥土を跳ね散らかし刻一刻存在感を増し迫る巨体の姿を。
「ビビるこたぁないよ」
 コラバポス 夏子(p3p000808)は日差しに煌めくロングスピアをクルリと回して背後のタイム (p3p007854)をチラりと振り返り、いつもの表情で「僕が巨像と戦った話したっけ」とそよ風が踊るが如く軽妙に言の葉を紡ぎながら視線を戻した。歩くたびに揺れてさぁ~、と。秋月 誠吾(p3p007127)は夏子が冒険譚に織り交ぜる『アンタの虚像』の概念をなんとなく理解できるようないまいち掴み切れないような感覚で頷いて、敵は二階建ての家ほどの大きさだろうかと遠目に当たりを付ける。タイムが間近な彼の背に守られてうん、うんと相槌を打っていた。タイムの視界を占める背は、とても大きく見えた。
(あの亜竜……)
 以前は、この付近に同種亜竜の巣があったのだという。メナスの長老曰く――彼らは、ある時群れを分かち、少数の個体を置いて集団移動した。残った少数は徐々に数を減らし、軈て全滅した。病が原因ではないかと言われている。

「こっちに来ちゃダメ……!」
「帰ってきたんだね……でも、ここに仲間はもう、……」
 スティア・エイル・ヴァークライト (p3p001034)が自身の呼びかけに続いたフラン・ヴィラネル (p3p006816)の切ない呟きに瞳を揺らした。迷宮森林の異変に不安覚える身には、仲間のいない故郷に戻ろうとする敵の姿が胸に迫るに違いなかった。「いないんだよ」と小さく零す友にそっと手を伸ばして冷えた指先を包みこみ、励ますように小さく前後に揺らした――そんな少女たちに、マルク・シリング (p3p001309)が優しくも落ち着いた声を添えた。準備をしよう。今は、戦うしかない、と。希望を抱いて手を伸ばせども届かない痛みを識るからこその冷静さがある。喪失の悲嘆に肩を落とす男や、中毒症状に苦しみながら悲しい現実を否定する少女の姿が刹那胸に過りて、密かにその手に拳を握るのを視界の隅に、ルカ・ガンビーノ (p3p007268)は赤い三白眼に猛る戦意と勝気を閃かせ、魔剣を抜く。
「ッハハァ! 構ゃしねえぜ! いっちょ遊んでやりゃあいい」
 初めてワイバーンを倒したのは何時だったか。忘れねえぜと誓ったものだ。覇竜領域の竜に憧れ、未だ竜殺しには届かぬが、いつかは亜竜を超え、ドラゴン――竜種と呼ばれる脅威に挑みたい。そのためにも、土竜相手に遅れを取るわけにはいかないのだ。

 ――生き残りたい。
 ――だから、殺す。
 声が蘇るようで、誠吾は異世界の大地に両足を付けて立つ等身大の自分を意識した。生まれも歩いてきた道も様々なれどいつしか集い共に道を歩むこととなった仲間達の一員としての眼差しに熱持つ自分を自覚した。
 迫りくる壁にも似た敵を前に布陣する全員が数日前を思い出す。ひとりひとりに声をかけ、信頼の眼差しをまっすぐに向けてくれたベネディクトを。これから守るために行くのだと語った声を。その力を頼りにしているのだと差し出された手のあたたかさを。

 ベネディクトは自然と肌に感じるような責感を背負うように片手をあげた。仲間たちを振り返らずとも、ひとりひとりが今どのような表情をしているかが目に見えるようにわかる。気心知れる友を集めたのだ。戦う理由は明確で、衝突が避けられないと判明したからには後は単純明快だ。故に、放つ聲は高らかに、簡潔に――万感籠めて。
「――勝利を!」

GMコメント

透明空気です。このたびはリクエストありがとうございます。
今回は「集落に接近する竅土竜を倒して欲しい」という依頼です。

●オーダー
竅土竜の撃破

●ロケーション
覇竜領域、小集落メナスの北側に広がる山岳地帯。敵は北からメナスに向かっています。
この一帯には植物はほとんど生えていません。岩山がえんえんと続きます。
大物が岩や土砂をまき散らして存在感露わに派手に爆走してくるので、一帯にいた他の魔物や亜竜は巻き込まれないように逃げています。地上敵は竅土竜のみとなります。
上空を飛ぶワイバーンなどの飛翔敵も、巻き込まれるのを恐れて基本的に高度を下げて参戦することはありません。
竅土竜を撃破した後、一定時間が経過すると、逃げていた地上の生物が元々の縄張りに戻ってきたり、上空や地中の生物が目立つ竅土竜の死体を喰らいにくるかもしれません。

・小集落メナス
フリアノン周辺にある小集落です。死せる竅土竜の骨を利用して地上の脅威から隠れ住んでいます。
人々は迫りくる竅土竜に気づき、ローレットに撃破を依頼しました。
倒してくれるだろうと信じつつ、万一に備えて避難も完了しています。

●敵
・竅土竜x1体。
名はフルフルド。
誠吾さん曰く「二階建ての家サイズ」の亜竜です。
詳細な敵方の事情は不明ですが、人々が住む集落に向かっています。
体表は長剣のように鋭い剛毛で覆われています。
視力は低く、頭部は土竜に酷似しています。
太い腕、鋭い爪を持ち、巨体にふさわしい耐久力と攻撃力。思考能力や感受性、視覚痛覚は鈍く、稀に「何してたんだっけ」と戦闘中にぼんやりする事があります。また、精神的な働きかけに対して通常の人や獣と比べて2ターンほど遅れて効果を見せます。

〇攻撃手段
・モグラ叩き
トンネル掘りをして地中に潜り(1ターン使用)地中で潜伏し(1ターン使用)狙った獲物の近くから飛び出して土砂と共に体当たりします。

・キミはボクの宝物
PCを穴に落とし、岩や土で埋める動きをします。

・大地の贈り物をキミに
穴に落とさず、近くの岩を投げたり掘った土砂を浴びせてくれます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

以上です。
それでは、よろしくお願いいたします。

  • 蒼穹のフルフルド完了
  • GM名透明空気
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年03月18日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
※参加確定済み※
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
※参加確定済み※
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
※参加確定済み※
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
※参加確定済み※
秋月 誠吾(p3p007127)
虹を心にかけて
※参加確定済み※
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
※参加確定済み※
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
※参加確定済み※
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
※参加確定済み※

リプレイ

「おかえり、それと……皆で、おやすみなさい」
 ――……あたしも会いたいなぁ、家族に。
 フランが祈りを捧げると、誠吾も冥福を願った。

 俺――『帰れる日が来ても残ることを選ぶよ』
 親や友人を思い出せば寂しい日もあるけれど……自分を置いてくれる優しい人たちのために。
「最近やっと、そう思えるようになったんだ」



「来る」
 『竜撃の』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)はメナスの民の信頼に応えようと胸に誓い、敵を視る。大地の震動が大きくなり、敵影が視野占有率を拡大していく。
 伏せた姿勢のタイニーワイバーンがじっと指示を待っている。頬を撫でてやれば、心地よさげに目を細めてふしゅると鼻息を吐いて。
「生存競争だ。どちらがこの土地に生きていくのか、決めるとしよう」
 跨れば竜の翼が力強く風を叩いて飛翔する。青い大空がパノラマに広がる視野。大空を悠々と飛ぶ相棒は生命の活力と羽搏きの喜びに満ちていた。
「亜竜達の代理人としてではあるが、手は抜かない──自分の譲れない物の為に戦おう!」
 凛然と言い放つ。太陽の熱さを常より近く感じて。
「これだけの巨体に見てわかる頑強さだ、容易くは無いが──必要であれば成し遂げるだけの事だ!」
 譲れない物の重みはよく解っていた。例えば友人、想い人。心の中の天秤が断固として譲れないと叫ぶのだ。敵も或いは、そうなのだろう。

 ふわり、優婉な香りが風に揺蕩う。
 ――あの亜竜は生まれた土地を旅路の終わりに選んだのね、と『揺れずの聖域』タイム(p3p007854)は優しく呟いた。大地の薫りに包まれて、流れる砂塵に時を想う。
(故郷にはもう彼の同胞はいなくて、今更ここを明け渡すこともできないけど)
 ――せめて見届けるくらいは、この目で。

 飛翔するワイバーンの影が日陰を落とす地上で少女が謳う――悪戯なる風、あたしの友達、ご機嫌いかが?――『青と翠の謡い手』フラン・ヴィラネル(p3p006816)の呼びかけに風が遊んで、仲間達をふわりと浮かせた。

「大タンク! 俺!」
 バ、ダ、タ、タラララ、ダダダ!
「説明! この俺夏子は目立つのだ!」
 銀鋼の槍を小粋に突いて爆音連ねる『イケるか?イケるな!イクぞぉーッ!』コラバポス 夏子(p3p000808)の勇姿に誠吾は故郷の暴走族を思い出した。
 土煙の中に凍て花が舞い、刹那の電光を弾けさせている。
「帰るべき所なのに誰も待ってはいない……そんなことを思うと悲しくなるけど」
 【純白の聖乙女】スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は空と大地のあわいを滑るように翔び、大地の贈り物を柔らかに受け止め、呟きを零した。
 ――止まらないなら、容赦しないよ。

 土砂の雨を縫うように飛ぶワイバーン。確りと乗りこなす騎手は『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)。
(故郷に戻ってきたら既に故郷はなく、か。やりきれねえ話だ)
 苛烈な日差しに輝くような浅黒い肌の面差しは侠気溢れ、猛る相棒の首を撫でる手は熱い。
「初陣だ。落ち着いていけよ!」
 くるると喉鳴らす相棒は翼をひときわ強く上下させ、速度を増した。
「今お前に戻られちゃ迷惑なやつがいるんだ。だから悪いが、自分勝手にぶちのめさせて貰うぜ」
 後ろに流れる山岳風景。風が耳元を通り過ぎていく。
 ルカの背にしがみつくフランはしっぽみたいに後ろ髪を揺らして緑の蔦が絡まる杖の先をえいっと下に向けた。ヒマワリ妖精さんがせっせとあつめた太陽の種がぽかぽか、夏子の頭の上に燈る。

「ほわあ、ワイバーンを乗りこなしてるルカさん格好いいなあ」
 風に流れる金糸の髪を緩く押さえてタイムは後ろを振り返る。安全な場所で待ってるのよ、と言い含めれたポメ太郎は遥か後方で応援してくれている様子。遠目に視える顔付きが心なしか勇敢だ。日焼けを知らぬ白い腕を柔らかに揺らせば近くで精霊が歓び、夏子に福音を届けてくれた。
「夏子さん、なんだか張り切ってる?」
 小鳥みたいに首を傾げる。風が運ぶ呟きは「ワイバーンはモテるのか」? 手厚く治癒を贈れば、健在の証立ての如く爆音が連鎖する。
「互いに生存圏が重なってしまった。それだけなのに、命のやりとりになる。覇竜領域の厳しさは理解しているつもりだけれど……それでも、哀しいね」
 マルク・シリング(p3p001309)は垂目がちな茶色の瞳に真摯な色を湛え、手の甲を天に向けて前に突き出した。指輪が煌めいて展開する立方体群は魔力の濃塊めいていた。

「ああ。あいつは嘗て住んでいた場所に帰ってきただけ。その場所に住んでいる者がいるから近づくな、なんて本当は酷なことだ」
 ――俺は、俺なら。
 『虹を心にかけて』秋月 誠吾(p3p007127)が自身に置き換えて考えながらも親指で不知火の鯉口を切る。それが戦う意思の表明で、酷な事を実現しようとしているのだと自覚しながら、仲間と肩を並べて刀紋を陽光に晒す。
「誠吾さん、あまり緊張しないで」
 タイムがそっと寄り添う声色で安心させてくれるから、温かさに誠吾は確りと頷いて。ふとノートを巡る夏子との会話を思い出す――まさか緊張を解そうとしてくれていた?――視線を向ければ、本人からサムズアップ付きの無駄にイイ笑顔が返された。



 針の山のような亜竜が吠えている。
「――叩き砕く!」
 魔剣『黒犬』のレプリカである重厚な剣を肩に担ぎ、ルカが相棒の背を踏み台に跳ぶ。弾丸めいて片手で至近に振るうは猪突に棘毛に挑む豪快な袈裟一閃。返す刃は優れた体幹と膂力で斬り上げて。恐るべき膂力で血華を導き、血噴きの肉を蹴ってくるりと回転しながら跳び退く。離れるルカの身を捉えて地に引きずり込もうと縋る敵の腕より疾く、緑の蔦がしゅるりと絡まり風が巻き、ルカを僅かに引き上げる。 一瞬、懸命なフランの声が聞こえた――「ごめんね、この人は君の宝物じゃなくてあたしの宝物なの」ワイバーンがひらりと飛翔して主人を背に攫い、上へ逃れる。交差するようにベネディクトのワイバーンが高度を下げて声を降らせた。同時に、と。
 手を振り応えるマルクの立方体が冬の流星めいて虚空を翔ける。熱を増す閃波を見送りながら法衣の裾を揺らして距離を保つマルクは、着弾速度に時間差をつけた。初弾で右足に気を引き――接近するワイバーンがよく見ると体に傷を負っている。ベネディクトの槍の切っ先が届けば、巨体が揺れた。上に反撃する気を挫くように離脱を助ける追撃を左足に当てた。夏子が「本当に鈍いね」と音を轟かせる中、大地の贈り物が勢いを増した。
 スティアが味方のワイバーンに福音を贈る中、誠吾は岩を除け、礫を掃除していた。敵の腕爪が土煙に紛れて羽休め中のワイバーンに命中する軌道を奔るのに気づいて、タイムが駆ける。

 ――みんなを支えるためにいるんですもの。
 身を挺して庇おうとして。
「文句いわないでね、夏子さん――」
 爪が柔肌に届き、切り裂くかと思われたその時。ぐいっと細い腕が引かれた。え、と意表を突かれたタイムが熱い体温に抱きしめられる。呼吸に合わせて前後する胸に汗と血の匂いがして、抱かれたまま衝撃を一度感じて、気付けば地面に諸共転がっている。やったねタンク、とふざける聲が誰のものかはすぐに分かった。
「文句いわないでね、タイムちゃん!」
 ぽたぽたと赤い血を垂らし、夏子が全身で覆い被さるようにしてタイムを庇っていた。おひさまが近くで弾けたような向日葵色の光が一瞬咲いて、光の中で間近に熱い吐息で笑む顔は悪びれない。
「回復期待しちゃいまァすッ☆」
 ――目に見えて負傷しているのに、してやったりという顔で笑うのだ。

 敵味方の血の匂いに鼻が慣れる頃、土砂と土煙の中、敵が大地を掘り潜っていく。
「巻き込まれぬように!」
 ベネディクトの声が不明瞭な視界に凛と響いた。
「えへへ、この隙に怪我を治せるね!」
 フランが前向きに笑えば全員が表情を明るくした。
 藍晶の栞がベネディクトの肩にひらりと降りて青年の声が一瞬響く。「助けとなりますように」――福音の治癒。マルクだなと笑むベネディクトは敵の攻撃予測地点を報せた。黒狼王の血統が齎す天啓めいた聲に仲間達が一斉に安全圏に移動する。

 ――退避が間に合わないメンバーもいるな?
 先読みした夏子が敵の誘導を試みる。攻撃予測地点を僅かにずらせばいい、と。
「少し潜ったくらいじゃマトだろ。ウチの大砲スゴいぜ~?」
 夏子が爆裂音と発砲音を敷き、マルクが式神の跫を合わせて敵を誘く。
(黒狼出張って負け戦なんて数えるくらい少ないワケよ。まあ狼橇に乗った気持ちで集落でドンと構えててちょ)
 槍を風車めいて廻し土砂を弾きながら夏子が遥か後方のメナスを想う。戦闘能力を有する孫達が丁度出払っていると語った爺さんを。

「風の精霊さんっ、おねがいっ!」
 フランの声に戦場の風がひゅるりと吹く。夏子は音が氾濫する鉄火場にステップを踏んだ。
「一本釣り ってんだっけぇ?」
 巨体が飛び出す勢いは凄まじく、広範囲に土砂を跳ね上げ、降り注ぐ中をずしんと落ちる敵は自重でダメージを負っている。伴うダイナミックアタックは人の身で受けるには余りに重く、事前の予測で避けた点と飛行による回避有利が全員に勝敗の天秤を傾けた手応えとして感じられた。
「こっちも釣れたよん!」
 報せる夏子の聲は昆虫採りに成功したやんちゃ坊主に似て。
「ホント音に反応してんならスマンな」
 作戦勝ちだね! と笑う。
 できたら諦めて去って欲しかったけど、とスティアが掌を胸元でひらいて神聖な光を練る。敵の周囲に一筋の光条が奔り、大きな円陣が描かれていく。
 空から滑り落ちるように距離を詰め、ベネディクトが槍のリーチを活かして放つは絶技・黒顎。捨て身といってもいい苛烈な突撃に従う相棒ワイバーンの目にも恐れはなく、好戦闘気が強かった。鋭い切っ先は陽光を反射して清廉に煌めき傷を与え、空中に血の軌跡を走らせて旋回する。ルカがワイバーンを並ばせ、フランが双ワイバーンと騎手を癒した。
「強敵だ、俺も出し切れる物以上の物を出さねばならんからな」
 ベネディクトの声にマルクが頷き、指輪を填めた手をさっと横に払いて立方体を敵に放った。
「守りは固く、回復も手厚い。なら、僕は遠慮なく攻撃に回らせてもらうよ」
(……長く苦しめるのは、本意では無いしね)

 皆が頼もしい――安心して戦える。誠吾は上体を捻って土塊を避け、マナガルム卿、と声をかけて彼の死角を埋めるように刀を閃かせる。死角なんて以前は意識出来なかったと考えながら、刀を槍撃にクロスさせるように躍らせ。同時に退くだろうと考えてベネディクトさん、と呼びかけた。

 ――人は変わるんだ。
 そう思いながら。

 光陣に絡め取られる敵は蜘蛛の巣に囚われた獲物に似ている。足掻く爪が土を掻いている。
「この子もきっと、帰りたいんだね」
 フランがぎゅっと目を瞑り、首を振った。泣くもんかと杖を握る手に力を籠めて。
(あたしもね、今故郷のあの森に帰りたくて、でも帰れなくて)
「ほんとは君を、おかえりって待ってた仲間が居たはずなのに」
 帰ってきたらみんな病気に、なんて――こわい。

 でもね、と瞬く瞳は優しかった。
「ここが故郷の人もいるの……」
 言わずにはいられなかった。
「だから、もうやめよう?」
 ――暴れないで、こっちに進むのをやめて!

 敵影が視えて、交戦に至るまで何度呼びかけただろう。けれど、想いは通じなかった。止まらなかったから、戦っていた。それでも、最後まで呼びかけずにはいられなかった。
 敵は咆哮して光条を破ろうと抗い続ける。少女の声など知らぬと敵意を向けて、メナスの方角に手足を伸ばし、少しでも近くその体温を寄せようと這うように――。

「止まってよぉっ!」

 タイムが夏子を膝枕で癒しながら語る声が柔らかに響く。
「この子、もう正常な感覚があまりないのかしら」
 其は、悠久の自然と生きる者の優しい声。
 時の砂がさらさらと落ちるのを見守る声。
「それでも帰りたいって気持ちはこんなにも強いのね」
 あたたかな響きに、スティアが頷くのが視えた。
 ――わたしも昔のこと思い出せたら、同じ気持ちになるのかな。
 『貴女は元の世界に帰りたいのか』問われた聲を思い出す――答えは「わからない」。残念だけど、仕方ない。そう思えるのがタイムだった。
 誠吾は時の女神めいた彼女の声を耳に、妖刀を走らせた。
「兎に角俺はできる限りの攻撃をあいつに叩き込む! 他にできることねーからな!」
 叫んだのは、半ば自分を叱咤する意味もある。仲間のため――皆の腕を知るだけに。

 ――俺は生まれたところに帰りたいとずっと思っていた。……はず、だったんだ。

 味方が傷つけた針毛の薄い箇所に一撃を与える手応えはリアルだ。風精霊の恩恵で、羽が生えたみたいに身軽だった。吶喊は他人のようにで紛れもない自分のものだ。この戦友達のように、経験を重ねて、俺もいつか――そんな思いが強まっていく。人情味溢れる仲間達との絆が屹度自分を成長させてくれたんだ。肉を断つ刃に力を加えて、返り血に身を染める。
「張り切ってるじゃないの!」
 夏子がぴょこんと跳ね起きて駆けてくる。夏子を案ずる乙女の気配に益々調子付くは一見凡庸なる槍。両腕を振り挙げ大雑把にも見える大廻しをするのは、刈残しの針毛を剥く腕が迫ったから。腕が降るのを別方向に跳んで逃げる一瞬、二人の目が合った。夏子は挟撃を提案し、敵を後ろに向かせるべく音で釣り移動を始めた。
 地上と蒼穹と、戦友が同時に攻めている。
 ルカの雄叫びが盟友を鼓舞する。幼き憧れは色褪せぬまま、覇竜の誓いは今もここにある。
「ベネディクト。一気にキメるぜ!」
「終わらせよう、ルカ!」
 声を掛け合って旋回したワイバーン2頭が挟撃空路を駆け降りる。翠玉の守りを煌めかせ、ベネディクトが背から跳んだ。口の端を吊り上げてルカも飛ぶ―― 一緒に!

 『いつか竜と戦い、認められてみせる』
 巨体がのそりと動いた。濡れた躰に意思を感じる。視られている、と思った。ルカは一瞬幼い少年に戻った気がした。大きかったアイツを思い出したから。

「どっか行ったって仲間のもとにたどりつけりゃあ良かったんだがな」
 ――景色が流れる。落下は現象で、意思だった。
「だけどそうはならなかった! どちらかの我儘しか通らねえなら、俺は俺の我儘を通させて貰う」

 太陽を頭上に降りる2者は天下る雷霆に似た。青空に際立つ黒と白金が降り狙うは仲間達が集う敵の頭上。
 びゅう、ごうと風を裂き剛毅に大剣を振る、槍を奮う。槍が鮮血を噴出させて切っ先を沈める隣で大剣が荒々しく突き立てて新たな赤を飛沫かせる。頭蓋の硬さを感じながら割っていく。2人、一緒に。
 悲鳴が鼓膜を痺れさせる。同時にスティアの氷結の花がキラキラと輝いて右側面を突き、マルクが左側面を空間歪曲の魔術刃で突いていた。夏子が前面で足元で痛恨打を浴びせていて、誠吾は後輩を突いていた。
「ダチが居るってソレだけで一財産だよなあ!?」
 ルカの裂帛に相棒の咆哮が重なる。咆哮の中、ベネディクトが隣で――同じような事を言ってるじゃないか?

「「せめて故郷で眠れ!!」」

 暴れていた巨体はぐらりと傾き、超振動を最期に静寂を呼んだ。喝采する仲間はいなかった。何処かしんみりとした空気が流れて――全員が敵の死を悼んでいた。



「いざ料理ー!」
 そして、スティア先生による弔いお料理教室が始まった。ざくっ、大きい肉片を串に刺し、どぉん! どさーっ、ぱっぱっ! 塩胡椒で味付けして焼く。じゅうぅ。

「せめて天国では仲間と一緒に過ごせますよう」。
「全力を出し切って戦った相手に敬意を表して」
 ベネディクトが炎を見つめて礼をして。ポメ太郎を膝に抱くマルクも黙祷して、串に手を伸ばす。
(――供養なんて殺した側の身勝手でしか無い。
 けれど、それは生きるために命を奪ったことを忘れない事を、自分に課すための儀式なのだと思う)
「君を殺したことを、僕は……僕らは忘れないよ」
「頂いて命の輪を繋ぐ――わたし達はずっとこうやって生きてきたんだから」
 いただきます、とタイムが。
「ってなんだこの量! どーすんだこれ!」
 誠吾が悲鳴をあげた。ツッコミ役がいてくれた!
 ルカは串を掴み、肉に齧りついた。からりと晴れた青空の下、気心知れた戦友一同で食べるのだ、悪くない――ただし量が多い――
(こんなんでアイツが浮かばれる訳じゃねえだろうが、気持ちの問題だ)
「ただ倒すよりは俺の血肉になって貰った方が良いだろ」
 ルカが「遺骨をメナスに」と提案すれば皆が賛同した。
 いのちを巡らせるんだ、とフランも弔いをして、頭部位に防腐措置を施した。
「この爪は俺が持たせて貰う。いつか巣から離れた仲間を見つけた時に渡してやりてえからな」
 ルカが爪を掲げると、ベネディクトは静かに首肯した。その時は共に、と微笑んで。

 香ばしい匂いと火を囲む仲間の輪。そんな中、夏子は何故か――ぞくりとした。
(――何故だろう何時も何か……サメ? スティスペの時って喰われてる気がする、ケド)
 肉をぱくっと頬張る。美味いね~! 背中をツンツン何かが突く。どきっ。
「……んなバカな話あるワケねっか! サメなn、アアアアアアアアアッ!!?

成否

成功

MVP

ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

状態異常

コラバポス 夏子(p3p000808)[重傷]
八百屋の息子

あとがき

 おかえりなさいませ、黒狼の皆様。討伐お疲れ様でした。
 初めてのリクエストシナリオでしたが、お好みに合いましたでしょうか。
 重傷は名誉の勲章という事で、介抱やお見舞いRPに繋げて美味しく召し上がれ。MVPは素敵な仲間を誘い集めたあなたに。
 メナスでは今後、フルフルドの頭蓋骨が仲間と寄り添って民を雨風や外敵から守る役割を果たしてくれそうです。余ったお肉も運搬可能な分はメナスの民にお裾分けとなりました。人々は皆様にとても感謝しています。
 深緑の情勢も動いていますね。転戦される方は、ご武運を祈っています。
 このたびは魅力溢れる皆様を描くご縁をくださり、ありがとうございました。

 透明空気より

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