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シナリオ詳細

<咎の鉄条>ニガサナイ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 深緑は茨で覆われた。
 その一報は隣国であるラサを通じてローレットにも齎される――
 明らかなる異常事態。深緑に住まう幻想種は元より、ラサから取引の為に訪れていたキャラバンなども巻き込まれていれば、事態の調査や救助依頼がローレットを飛び交うものである……
 深緑の中枢たる大樹ファルカウまで接近できる道のりは発見されていないが。
 外周部に近い場所であれば――まだ動ける所もあるのだから。
「うう、にーちゃん怖いよ……」
「大丈夫、大丈夫だからな……きっともうすぐ助けが来るはずだ……!」
 そしてその一角にて、幻想種の兄弟が――歩を進めていた。
 兄はクィエン、弟はリーン。二人は、普段は迷宮森林の中ほどにある村に住まう幻想種である。謎の『茨』が深緑を覆った際、偶然にも遊びに出ていて為に……辛うじて茨の発生とその効力から逃れる事が出来ていたのだ。
 ……茨に覆われた村には戻れぬと分かった時には焦燥と悲観に包まれたものだが。
 それでも兄が弟の手を引き――とにかく今は安全な所に往こうと歩いていた。
 他に無事な者がいないかと。茨がまだ薄い、外の方へと……
 しかし。
「はぁ、はぁ……苦しいよ、にーちゃん……うう……」
「……! どうした、おい! 怪我したのか!? いつの間に!?」
 一瞬の油断。いや、子供であれば仕方のない事ではあるが……
 茨の棘が知らぬ間に弟の脚へと傷を刻んでいた様で――彼の様子がおかしいのだ。
 苦悶の表情を浮かべている。毒でもあったのか、顔色が悪くなっており……
「なんてこった……! もうちょっとで外だからな! 頑張れ――んっ!?」
 刹那。弟を励ましたクィエンが――気付いた。

 茨が――動いている――?

 気のせいかとも思ったのだが、間違いない。
 近くの茨が蠢き、兄弟を逃がさんと行く末を塞ぐ動きを見せているのだ……
 この茨には意思でもあるのか――!?
 真偽は分からないがいずれにせよ、このままではまずい。
「はぁ、はぁ……! やめろ、来るなよ! 何するんだ! 来るなぁあああああ!!」
 弟を抱きしめながら、まだ包囲が薄い方へと走り往く。
 恐怖の色に心が染まりながらも、しかし守るべき者の為に力を振り絞るのだ――
 後ろは振り返らない。
 茨がこちらへと這いずり近付いてきている音がしているのだから。
 アレに捕まったら――終わりだ。
 だから、駆け込んだ。目前に見つけた洞穴の中へ。
 そこは迷宮森林外周部に程近い場所にある遺跡――名を、マルクス遺跡。

 地下へと続く遺跡であり。其処に逃げ込んでも尚、茨たちは獲物を追い詰めんとしていた……


「――同胞の救助を、お願いしたく思っております」
 ラサの首都ネフェルストにいたのは迷宮森林警備隊の一人と名乗る者だった。
 迷宮森林警備隊は長のルドラ・ヘスを始めとして、茨が覆った当時、外周部の警備に当たっていた者の中には――被害を幸運にも受けなかった者もいたのである。
 しかし無論、その数は決して多いとは言えない。
 数多くの同胞は未だファルカウの中に取り残されたままであり――故に、彼らは同盟を結んでいるラサを経由し、ローレットに助けを求めている次第だ。
「外周部付近に、マルクス遺跡という場所があります。
 ここで――幻想種の子供の悲鳴を聞いたという者がいるのです。
 茨が多く、近付いての確認は出来なかったそうなのですが……」
「子供か……こんな状況だ、さぞや不安だろうな」
「ええ、魔物の類は動けているという情報もあります。それで皆様に、マルクス遺跡に赴いて子供たちの救助を行って頂きたいのです。ただ――」
 彼がイレギュラーズに話すには、この地帯の茨には妙な点があるという。
 端的に言えば――『動く』のだそうだ。
「目の錯覚かとも思ったのですが、間違いないそうです」
「動くって言う事は、森に残ってる連中を捕まえようとする動きでも?」
「お察しの通り。現状、茨の仔細に付いては不明であり……攻撃してもすぐに再生する様な力も見せているとの事ですので、伐採していくにはキリがありませんし、可能かも分かりません」
 ただ、再生すると言っても一瞬で傷が治る程の再生力ではない。
 邪魔な茨は斬り捨てれば暫く時間を稼ぐことは出来るだろう、との事だ。
 しかしそれでも注意せねばならぬ点も存在する……実は。
「茨の棘を受けた者からは――苦しみに悶える者も出ているのです」
「――毒か」
「はい、恐らくはそうかと。毒や、体が麻痺する様な痺れなど……もしも子供達もまた被害を受けていればそのような傾向が出ていて、身動きが取れていないかもしれません」
「動けなければ茨から逃げるのは不可能、だな」
 ……これは一刻も早く救助する必要がありそうだと、思案するものだ。
 目標は一つ。マルクス遺跡に侵入し、子供達を救助する事。
 同時に邪魔をする様な茨は全て斬り捨て――突き進む事。
 この事態。一体どこの誰が引き起こしているのか知らないが。

「思う様にさせるかよ――」

 さぁ――生意気な茨を懲らしめ、幻想種を救い出すとしようか。

GMコメント

●依頼達成条件
 幻想種の兄弟の救助。

●フィールド
 深緑の迷宮森林、その一角に存在するマルクス遺跡です。
 マルクス遺跡自体は小さな地下遺跡であり、そこそこ程度の広さがあるようです。ただ、出入り口が極端に少ないらしく……全ての出入り口が潰されれば袋小路と化してしまいます。

 皆さんにはまだ茨に覆われていない遺跡の入り口から侵入してもらいます。
 茨の妨害を乗り越え、幻想種の兄弟を救助してあげてください――!

●『茨』
 深緑のほぼ全土を覆っていると目されている謎の茨です。
 今の所詳細は完全に不明ですが、今回の依頼における地帯の『茨』に関しては、独自に動いている様子を見せているという情報があります。(簡単に言うと、茨型のモンスターがいると思ってください)

 茨はどのように人間を知覚しているのか不明ですが、周囲に人間がいると気づけば攻撃を仕掛けてきます。
・巻き付き:ダメージ大。出血系列のBSアリ
・棘飛ばし:ダメージ小~中。毒系列、麻痺系列、足止系列のBSアリ
 このほかに攻撃方法があるかもしれませんが、不明です。

 また、攻撃してもやがてはその身は再生してしまうようです。
 壊し切る事は叶わない……かもしれませんが、しかし一瞬で再生する訳でもないので、動かなくなるぐらいまで攻撃を加えれば、暫く時間を稼ぐことは出来るでしょう。

●幻想種の兄弟
 偶然にも茨の被害に巻き込まれなかった幻想種の兄弟です。
 兄はクィエン、弟はリーンと言う名前の様です。
 外見年齢は10歳前後に見えますし、実際幼いようです。
 今のところは遺跡の奥に逃げんとしています。
 しかしこのままでは茨に飲み込まれてしまうのは時間の問題でしょう……また、弟の方は棘が刺さって毒か麻痺の被害を受けているのか苦悶の表情を浮かべています。可能な限り早めに救助してあげてください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <咎の鉄条>ニガサナイ完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年02月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)
死を齎す黒刃
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)
花に願いを
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
リースヒース(p3p009207)
黒のステイルメイト
煌・彩嘉(p3p010396)
Neugier
小鈴(p3p010431)
元ニートの合法のじゃロリ亜竜娘

リプレイ


 イレギュラーズ達は迅速に現場へと向かっていた。
 兄が弟を守る――その意志は美しく尊い物だ。恐怖とてあるだろうに。
「それでも恐怖を押し殺し守らんとする魂は気高い――ならばその意志に報いねばな」
「どこを見ても茨だらけとはな……面倒クセェ臭いが漂ってくるが、ガキ共の救助が先決か!」
 故に、遺跡へと辿り着いた『獏馬の夜妖憑き』恋屍・愛無(p3p007296)は周囲の音の反響をその耳に捉えながら地形を把握せんと努めるものだ。幸いと言うべきか地下遺跡であるならば音の反響の効果は大きい――
 同時に『死を齎す黒刃』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)も優れた聴覚によって兄弟の声がせぬかと集中を込めるものだ。この悪意の塊の様な茨がなんなのか……実に気になる所ではあるのだが、今は兄弟の救出こそが優先と。
「あれがなんだとしても、人達の命を奪わせるわけにはいかない……!
 まだ兄弟は茨に飲み込まれてはいない筈……なら、間に合う筈だ。急ごう!」
「おおよ――全部蹴散らして進むぜ! 邪魔すんなら斬り倒してでも、な!」
 さすれば『カモミーユの剣』シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)や『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)も続くものである。兄弟はきっと今頃不安なる感情に包まれているはずだとシャルティエは感情を探知する術を走らせて、ルカは周囲を目視する。
 暗闇すら見通す目をもってすれば隅々まで観察できるものだ――
 それは、兄弟の姿がないかの捜索が一番ではあるが同時に茨の警戒の意もある……独立して移動する性質を持つ面もあるとは、いよいよ厄介な代物だと。一体全体どこの誰がこんなものを用意したのか……
「……私達幻想種にとって、自然は常にともにある優しい存在。
 それがこんな風になってしまうとは……あの美しい迷宮森林が、よもや……」
 さすればその歪なる光景に嘆きの感情を見せるのは『永訣を奏で』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)である……彼女は深緑に縁の深い幻想種の一人だ。
 彼女が深緑にいたのは六歳頃までの話。しかし十年ほどをある修道院に閉じ込められ――外に出ることのなかった身としては『こちら』の方が馴染み深い。
「必ずや原因を突き止め、元の森に。かつての姿を――必ず。
 ……参りましょう。幼き同胞達を助けねば」
「うむ。遺跡はそんなに大きく無いみたいなのじゃ。なら、遺跡の中央を目指せば、妾のセンサーに引っかかる可能性が、高くなると思うのじゃ。茨がなければ其方の方を目指してみるとしようかの。後は兄弟がどこに潜んでおるか……」
 森に助けを。大自然と意志を交わす術をもってしてクラリーチェは『幼き姿の同胞』を見なかったかと問えば、更に『元ニートの合法のじゃロリ亜竜娘』小鈴(p3p010431)は助けを求める声がどこぞから生じていないかと索敵するものだ。
 遺跡の小ささから考えても、兄弟たちは必ず近くにいる。
 茨よりも先に見つける事が重要なれば……往くものだ。
「幼い命を死なせるわけにはいかぬ。急いで向かおう。茨の浸食がまだ完全でない内に」
「しかし、元々は……R.O.Oでしたっけねェ。あのテのものはさっぱり触れていませんが……練達の影響力ってのは凄いもんです。この事態を予知していたかのような投影をかの世界に果たしていたとは――ええ、ええ、勿論褒めてますとも」
 同時に『葬送の剣と共に』リースヒース(p3p009207)は移動を止めぬままに、遺跡の構造を推察しつつ――戦略的な視点からルートを模索するものだ。自然の洞窟でないのであれば、設計者の『癖』があるものであろう。見破れば歩を進める一助となる。
 そして『Neugier』煌・彩嘉(p3p010396)もまた優れた三感にて常に周囲を窺いつつ――思考を馳せるものだ。『クローズド・エメラルド』なる事件に似ている所がある、など。
 遺跡に入る前、周囲を飛行しながら確認したが――
 どこまでもどこまでも茨が敷き詰められていた。
 まるで外界を拒む様に……国境を閉鎖するかのように……

 ……まぁ、いずれにせよ守るべき子供の柔肌を、こんな茨に傷つけさせてたまるものか。

「さァてさて。どちらにいらっしゃる事ですかねぇ……」
 彩嘉は言を零す。この遺跡のどこかにいる――兄弟の安否を、気に留めながら。


 小鈴は助けを求める声を探しながら、同時に敵意を感知する術も走らせていた。
 茨も今回は、人を認識し襲い掛かってくる者共……
 つまり敵意の類はあって然るべき存在だと。
「まぁこっちに気付かないのが一番ではあるのが――そうもいかんじゃろうしの」
「ああ。早速のお出ましだぜ……!!
 聞こえちゃいねぇだろうが、斬り刻まれたくなかったら道を開けやがれ、茨ども!」
 さすれば。こちらに気付いた茨が敵意を向けてくれば、感知できるものだ。
 ――眼前。道を塞ぐ様に茨が存在していた。
 ここを迂回すべきか否か――しかしリースヒースの戦略的な視点からすれば、ここを迂回しては恐らく時間がかかるという判断もあった。はたして兄弟たちにどれ程の猶予があるか……故にシュバルツは即座に動いたのだ。
 奴らを切り刻み、道を切り開く為に。
 その一閃に込められた力は全霊と共に。開幕より――手は一切抜かぬ。

 ――辿り着いた時には手遅れだった、なんて光景見たくねぇからな。

「うむ。時間をかける暇はない――早々に突破し、退いてもらおうか」
「棘には気を付けろよ。何が含まれてるか分かったもんじゃねぇからな……!」
 同時。愛無とルカも茨へと撃を紡ぐものである。
 愛無が敵の注意を引き付ける様に跳躍すれば、茨が射出するは――棘が一つ。
 鋭利たるその一閃に含められし負は一体何か。
 ――故に警戒していたルカは棘を斬り払うものだ。
 そのままに踏み込み、三撃三閃。殺人剣の極意が一端を茨へと振り注がせれば、奴めの抵抗が本格化する前に無力化せんばかりの勢いである――邪魔をするな、そこを退け、と。さすれば。
「――ッ! あそこ、見てください……人影が!」
「待たせてごめん! 大丈夫、怪我はない……!? もう大丈夫だよ…! お兄ちゃんもよく頑張ったね! 間に合ったのはきっと、君が頑張って逃げてくれたお陰だ」
 その道の果てに――人の気配をクラリーチェとシャルティエは感じるものであった。
 イレギュラーズ達の総出における捜索の数々が身を結んだのか、かなり早い段階で兄弟を見つける事に成功していた――シャルティエは即座に周囲を警戒し、彼らを狙う茨がないか素早く視線を巡らせて。
 同時に、クラリーチェはしゃがんで目線を合わせ、弟の方に怪我があると分かれば治癒の術を降り注がせるもの。
「もう大丈夫。よく頑張りましたね……私達と一緒に安全な場所へ参りましょう」
「う、うう……貴方達、は?」
「クィエンにリーンだな。俺らはルドラ・ヘスに依頼されて助けに来たイレギュラーズだ。
 ここまでよく弟を守ったな。偉いぞ……お前は立派なアニキだ。
 ――後は俺たちに任せときな」
「よく耐えた。ここからは安心せよ――我々イレギュラーズが訪れたが故に」
 次いでルカもクィエン達に声を掛け、彼らに『助けが来た』のだと伝えるものだ。ここまで絶望の中で……しかし弟を護るために力を尽くした兄をほめる様に、頭をくしゃりと撫でてやれば――リースヒースも彼らへと言を紡ぐ。
 彼らの焦燥を少しでも解きほぐし、茨に襲われていた混乱を解消する為に。
 シンプルな言葉にて伝えよう。イレギュラーズが――助けに来たのだと。
「おぉー。うむうむ、偉いのじゃ、弟を連れてよくぞ無事だったのう。もうひと踏ん張りじゃぞ。歩けるか? ここを抜けるまではまだ安全とは言えんからのう――妾らの後ろにいれば良い」
「君達は必ず助ける。故にクィエン君はリーン君の手を握ってやっているといい。
 ――温もりを与えてやるんだ。決して離れない、温もりをな」
「……はいっ!」
 そして。簡易なれど弟たるリーンの治癒も完了すれば動き出すものだ。
 小鈴に愛無が兄弟へと声を掛け、小鈴は更に頭も撫でてやるもの。
 んっ? なんじゃ? 背丈はともかく妾はお主らよりも上じゃぞ――?
 ひとまず合流は果たした。かなりスムーズにと言える程に。
 ――だがこれで終わりではない。むしろここからが本番だ。
「……ふむ。流石に周囲は囲まれておりますねぇ。
 ま、あちらこちらに茨が張ってるんです――無理もありませんか」
 彩嘉の優れた感覚が周囲を感知する……さすれば茨があちこちから入ってきている事が分かるもの。行きはよいよい……と言う程気楽でもなかったが、まだある程度入りやすかった状況ではあった。
 しかし帰りはどこを進んでも――強引に突破する必要がありそうである。
 罠にかかった獲物を逃さんとする様な意志を感じる程に……
「つっても。出遅れた茨に何が出来る――って話だよなぁ」
「うむ。奇怪な茨ではあるが……奴らがどう動こうが、こちらはそれを上回り突破する」
 それでもイレギュラーズ達の間に絶望などない。
 シュバルツが刃を構え直し、リースヒースも魔力を収束させいつでも迎撃出来る様にするものだ。
 さぁ――そこを退いてもらおうかと。まるで茨に語り掛ける様に。


 茨は人間を狩らんとしていた。
 小さな人間が二人。元々はその予定で。
 後から幾人か増えたようだが問題ない――纏めて狩るだけだ、と。しかし。
「邪魔だよ……! この二人は絶対に奪わせないッ! これ以上好き勝手させるものか!」
「燃えたいのなら掛かってくるか? おおう。思う存分に燃やし尽くしてやろうではないか」
 シャルティエが薙ぎ払う。子供達を狙わんとする、茨の矛先を。
 基本的に二人を迫りくる茨から庇う様に立ち回る彼の守護に隙は無い。暇があらば得物を旋回させ、まるで暴風が如き苛烈さを生み出して茨を退けよう。更には小鈴の災厄の炎にて追撃すれば――おおよく燃えるものである。
「おぬしらは中央におるのじゃぞ。どこから茨が来ると知れぬのでな」
「う、うん……ありがとうお姉ちゃん!」
「ほっほ、素直素直」
 弟。リーンも歩ける程度に回復していれば――兄弟の布陣はイレギュラーズの中央程度の位置だ。周囲をシャルティエなどが守護し、どこから来ても対応できるようにしている――こうしていれば、即座に兄弟たちが茨に襲われる事は少なかろうと。
「とはいえ、いくらでも再生するのならずっと相手はしていられませんねぇ……
 穴を開けてしまえれば御の字ですか!」
「なぁにそこまで堅い代物じゃねぇ……巻き付かれねぇ様にだけ気を付ける必要はありそうだけど、な!」
 更に彩嘉が魔力を収束。集中力を高め、茨に触れれば――生じる生命の逆転現象が茨の身を破裂させるものだ。それでも尚に茨は人間を逃すまいと棘を飛ばし、あわよくばその足に纏わりつかんとする――が。警戒していたルカは跳躍しながら体を回転。
 捻りを利用しながら斬撃を結ぶものである。
 ――見れば付けた傷が回復する様な動きを見せている。情報通り……再生能力がある様だ。一体どこからそれだけの量の魔力や神秘を持ってきているか分からないが……しかし今は脱出が優先か。
「……アタシは勿論子供達にはさっさと外に出て貰いたいモンです。ええ!」
 次いで更に襲い掛かってきた茨の棘があらば、辛うじて小鈴躱しつつ。
 もう一撃ぶち込むものだ。ああ、攻撃に関しては他の優れし者に任せたい所だが……この切羽詰まった状況ではそうもいかぬかと。
「大丈夫。私達が付いていますからね――手を離さないで。一緒に行きましょうね」
「う、うん!! 大丈夫……ちゃんと、付いていくよ!」
 急がなければならないと、クラリーチェは兄弟に声を掛けながら思考するものだ。
 とは言えそれを口にすれば彼らを焦らせる要因になるかもしれぬと、あくまでも彼らには優しき、穏やかな口調にて言を紡ぐ。特に弟の方には傷の後遺症がないかも改めて確認をするもの。
 同時に。傷ついたイレギュラーズにも治癒の力を施すものだ。
 茨の棘は厄介。傷が付けばそこから浸蝕する様に……負の要素を齎すのだから、と。
 その時。
「チッ! 前後から来やがったな……! いよいよ逃がす気はねぇってか」
 シュバルツの耳が察知した。茨の這いずる音が――前と後ろから響いてきている。
 囲まれたか。もう少しで出口だという所で、足止めされている暇などない……!
「ふむ――ならば背後の方は僕が時間を稼ごう。目前の突破を頼む」
「任せたぞ。出口はもうそう遠くない筈だ……ここが正念場だな」
 故に。愛無が後方側へと赴くものだ――
 愛無であるならば茨が如何な負の要素を持っていようとも、無力化する事が出来る。
 故に止める。先頭切って進んでくる茨の注意を引く様に――足止めの幻覚を、一閃。
 その間にリースヒースは前方側の茨を薙ぎ払わんと魔力を投擲するものだ。
 精神の力を弾頭に。穿つ一閃が茨へと穴を開けん――
 同時に。場の状況を整えるべく全体を立て直す号令あれば皆に活力が満ちるものであり。
 其処へ――シュバルツが前方の穴を広げるべく、跳躍。
「邪魔をするってんなら存分に暴れさせてもらうぜ……? 覚悟しとけよ」
 クソ茨如きがよ――
 自らの得物に込める魔力が力を宿す。超速のままに放たれる一撃は――黒き軌跡と共に。
 斬撃一閃。続けざまに放つ嵐の如き攻勢もあらば、茨がまるで怯む様に。
「抉じ開けるぞッ……! 今だ! 脱出しろ!」
「二人とも一緒に! さぁ――ッ!」
 さすれば。更にその怯みの隙間を広げる為にルカが粉砕の一撃を加えれば。
 見える外。そこへとシャルティエらが――導いていく。
 息を切らす兄弟。迷宮森林を覆う茨は、周囲にやはりまだまだ存在しているが……しかし、わざわざ遺跡の中にまで追ってくるような茨ばかりでもない様だ。動かぬのであれば茨の棘に誤って傷つけられぬ様に、更に国境線を目指すのみだ。
「クィエン君、リーン君、行け! ここは我らイレギュラーズが受け持った……!」
「は、はい――! ありがとうございます、イレギュラーズ!!」
「さぁこっちへ! 脱出しよう――!」
 であれば。獲物が逃げてしまうと怒り狂った茨が大攻勢を仕掛けてくる。それでももう届かない。もしも愛無を退けたとしても、彼を鼓舞しながらその周辺にて守り抜くシャルティエをも突破できるものか。
 故に。その怒りは後方で足止めをしていた愛無の身に絡みつく様に……
 しかし。こんな程度がどうしたとばかりに愛無は踏みとどまるものだ。
「彼らは恐怖を受けても尚進み続ける意思があった――その彼らに情けない姿は見せられまいよ」
「愛無さん、御無事ですか――二人は外に出る事が出来ました、私達も行きましょう!」
 そして。クラリーチェの治癒術が愛無を満たせば、その命を奪う程の傷は茨に与えられなかった。
 ――退いていく。イレギュラーズ達も、続けざまに遺跡から飛び出して。
 茨に追いつかれぬ様にと国境線を目指し往く。
「……全く。相変わらず謎の茨だけどよ、こいつら自体がここまで動くとはな」
「本当に……ええ。何なんでしょうね、この茨は……」
 道中。呟くルカとクラリーチェ。
 最早到底、只の植物でないのだけは確かだが――尚に出処も正体も気になる所だ。
「……でも。これらがなんだとしても、人達の命を奪わせるわけにはいかない……!
 ましてや、こんな小さい子達の命なんて……!」
 同時。シャルティエは奥歯を噛みしめながら言を零すものである。
 兄弟たちを苦しめ、怯えさせ続けた茨――
 今もきっと、深緑では被害に遭っている者達がいるのだろう。
 中心部であるファルカウでも一体どうなっている事か……気になる事は山の様に。
「さァて……現場を離れる前にもう一度だけ見ておきますか」
 故に。彩嘉はもう一度だけ――この地に視線を巡らせるものだ。
 どこを見ても茨ばかり。大自然の迷宮森林とは思えぬほどの光景。
 ――誰が、一体どうやって茨を動かしているのか。
 そして何より――何の為に。
「……まるで外を拒絶して閉ざすようですねぇ」
 これには意志がある様な気がしていた。
 誰も近付いてくるなと――言っているかの様であると……

成否

成功

MVP

恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣

状態異常

恋屍・愛無(p3p007296)[重傷]
終焉の獣

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
 それぞれ様々な非戦を活用されていてお見事だったかと思います。
 深緑を襲い掛かっている謎は――またその内追及される事でしょう。

 ありがとうございました。

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