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シナリオ詳細

真意は沼底に

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 天より降り注ぐ小粒が窓を打つ。幾重にも、幾重にも。
 自然が捧ぐ合唱――その音を耳に捉えるは幻想貴族が一角、クリス・フランドルだ。
 彼女は思考を巡らせていた。深く、深く。
 ある『イレギュラーズ』に対する――思考を。
「……さて、如何したものかしら」
 そのイレギュラーズは己にとって恋敵とも言える人物だ――いや、もしかすればクリスの視点からすれば『彼女』の事は恋敵ですらないかもしれない。只の羽虫が、己が至高に、己が宝石に、擦り寄ってきているだけだと。
 苛立たしい、煩わしい――
 如何にか出来ないか。しかし彼女自身がイレギュラーズとなれば、簡単に手は出せぬ。
 ――ならば。
「ああ――そうですわ。そういえば斯様な一件がありましたね――」
 ならば『アレ』を利用させてもらうとしようか。
 これをもってしてあの小娘が如何なる器を持つかの試金石としてみせよう。
 さぁ。精々足掻いてみせるがいい……
 掌の上で。


「――密猟者の逮捕、ですか?」
「ああ。なんでも今から向かうシュターベン地方という所はな、中々珍しい鳥がいるんだそうだ――その鳥の羽は高級品にも使われるらしくて、需要はかなり高いらしいんだが……」
 それ故に乱獲される事もあるそうでな、とリディア・T・レオンハート (p3p008325)に語るのはブレンダ・スカーレット・アレクサンデル (p3p008017)だ。彼女達は幻想王国の中でも東に位置する、シュターベン地方へと赴かんとしている。
 依頼があったのだ。先にブレンダが告げたように勝手に鳥を狩らんとしている密猟者を逮捕する為。
 かの地方には『ケトラン』と呼ばれる、希少な青い鳥が生息している――のだが、最近この鳥が狩られている事件が発生しているのだそうだ。ケトランから獲れる羽毛は高級品として取り扱いされる事もあるらしく、それ故に勝手な狩猟は禁じられている。
 にも関わらずケトラン狩りを行う人間がいるとは嘆かわしい限り――と。
 故にローレットへと依頼が舞い込んだのだ。密猟者を『逮捕』してほしいと。
「成程! これは引いては鳥を護る依頼でもあるのですね! ふむふむやりがいがありそうです!」
「……」
「……んっ? 師匠?」
「ああ、いやなんでもない。うん――そうだな、やりがいのありそうな依頼だ」
 しかし――ブレンダはなんとなし、この依頼には『妙』な点があると感じていた。
 そもそもこの依頼ローレットに持ち込まれたのは確かだが……なぜかブレンダが指名されたのである。彼女の手も空いていたが故に打診も飛んだし自らも承諾したが――しかし何故己であったのか?
 そしてこの依頼内容自体も少しおかしい所がある。
 あまりにも簡潔すぎるのだ――依頼主から齎された情報が。
 森に密猟者がいる。探し出して『逮捕』してほしい。

『それ以外の事は――後は、現地に赴けば全て分かる事ですわ』

 ……あの言葉がどうしても耳に残る。
 リディアにとっても良い経験になるだろうと思っていたのだが――早まっただろうか。
 どこか。心のどこかに何かが引っ掛かっている。
 コレには何か見えぬ影があると――しかし。
「頑張りましょうね師匠!」
「ああ。そうだな……丁度いい、経験を積む場にもなるだろうさ」
 微笑むブレンダ。今はまだ、彼女は知らぬ。
 この依頼に潜む――悪意の影を。


 シュターベン地方森林地帯。その一角で、弓が引き絞られる音がした。
 狙い定め。矢は空を裂いて高速へと至る――
 さすれば撃ち落とす。青き鳥を。件の希少種……テトランを。
「すまんなぁ。娘の為なんや……許しておくれ」
 テトランの口から短い声が発せられたと思えば――地へと落ちる。
 距離があったにも関わらず一発で仕留めてみせたその腕……素人ではない。恰好からして周囲の景色に溶け込む様な自然色の衣装であり、恐らくはハンターの系譜か何かだろうか。テトランを回収し、手持ちの籠の中に放り込んで。
「よぉ。お前さんの所も順調か――あとどんくらいや?」
「うむ……もうちょいと言った所かの? まぁもうすぐ仕舞やろ、こんな事は」
 さすれば仲間もいたのか、陰より現れたもう一人に言を紡ぐものだ。
 ――彼らは知っている。テトラン狩りは禁じられている事を。
 しかし彼らは知った上でこの狩りに勤しんでいるのだ。
 その理由は様々だ。病気の娘の為、どうしても苦しい生活の為……などなど。
 もしもコレが露見すれば己らが裁かれる事も分かっている――が。
「黙っていてくれる『あの方』にも、なんか礼をせねばの――」
「おおそうじゃそうじゃ……テトランを送ったらいかんかの?」
「いかんじゃろ。一応、ほれ『禁じている側』やし」
 彼らはそこまで恐れていない。なぜならばコレは『非公式のお墨付き』があるのだから。
 あの、若く麗しい貴族が――己らに許可をくれた。

『――そう。いいですわ。そんな事情があるのなら特別に許可してさしあげましょう』

 ただし。
『誰かに事が露見しても、わたくしは守りません。
 決して誰にも見られぬ様に事を進めるのですよ……いいですわね?
 もしも貴方達が捕まれば採取した羽毛も全て――奪われてしまう事でしょう』

GMコメント

 嘘は言っていない。
 大事な事を言っていないだけだ。

 と言う訳でリクエストありがとうございます、以下詳細です!

●依頼達成条件
 密猟者を全員『逮捕』する事。
(死亡などした場合、失敗になります)
(が、別に不殺スキルが必ずないといけない訳ではありません)

●フィールド
 幻想の一角、シュターベン地方に存在する森林地帯です。
 ここには後述する『テトラン』という希少な鳥が生息しているそうです。
 森の中、どこかに密猟者たちがいて、今もテトラン狩りをしている事でしょう。
 彼らを撃退し、テトランを守ってあげてください――!

●テトラン
 青い体を持つ鳥です。『幸運』を齎す鳥ともされ、その羽毛は高級品にも使われる事があるそうで、かつては乱獲の対象にもなってしまったのだとか……数が減って以降狩る事は(少なくともシュターベン地方の)法に反する事になります。
 戦闘能力はなく穏やかな鳥です。
 空を舞うその姿はとても美しいのだとか。

●敵戦力
・『密猟者』×4人
 テトランを狩っている密猟者たちです。
 何らかの事情によりテトランの羽毛を入手せんと狩りに勤しんでいます。ハンターとして優れている様で、弓矢やサバイバルナイフを所持しているようです。ただし、対人戦の能力に優れているかは不明です。

・猟犬×2匹
 密猟者達に忠実な猟犬です。
 とても鼻が利き、いざという時には相手が熊であろうと立ち向かっていく勇敢さと忠誠心を宿しています。基本的に密猟者の近くにいて、テトラン狩りの補佐をしている様です。

●クリス・フランドル
 幻想貴族の一人、フランドル家の令嬢になります――
 今回の依頼主です。密猟者たちの『逮捕』を依頼してきました。
 依頼自体は真っ当な様に感じますが……? 密猟者を逮捕した場合、その確保の為に私兵と共に現れます。(恐らくシナリオ後半ぐらいで登場する事でしょう)

●真相
 もうお分かりかと思いますが、大体全部クリスが裏で糸を引いています。
 裏側ではクリスが別の貴族から個人的に依頼を受けているのです――狩りが禁じられている、しかし新しきテトランの素材が欲しいと。金額そのものではなく市場に出回らぬ程、希少であるという事から求める者は多くいるのです――
 その仕事の一端をイレギュラーズに担わせている形です。(とはいえ、この依頼が悪依頼かと言うと、テトラン狩りという違法行為をしている者を逮捕するだけですので、悪依頼ではありません)
 ちなみにテトラン狩りは重罪であり、最悪縁者まで逮捕されるそうです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、全ての情報が話されている訳ではありません。
 よろしくお願いします。

  • 真意は沼底に完了
  • GM名茶零四
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年02月28日 23時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
シラス(p3p004421)
超える者
秋月 誠吾(p3p007127)
虹を心にかけて
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
※参加確定済み※
リディア・T・レオンハート(p3p008325)
勇往邁進
※参加確定済み※
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す

リプレイ


「どうにも臭いんだよな」
「ああやっぱそう思うか? 依頼は依頼だ、やるこたぁやるがよ。ちっと、臭ぇな」
 かの森へと赴いた『竜剣』シラス(p3p004421)に『探す月影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)は思わず呟かざるを得なかった。ローレットに依頼を持ち込むのは良い。密漁だろうがその逮捕だろうが何でもやってやる。
 ローレットに善悪の概念は無いのだ。
 ――だがブレンダを指名した理由が分からない。
 誰でもいい訳ではなかった理由はなんだ?
 どことなく漂う気色の悪い感覚――その正体が一体何なのか。
「密猟者の逮捕って聞いたから来てみたが……そもそもこれってローレットに頼むほどのものなのか? いや、別にどんな依頼が持ち込まれようがいいけどよ……」
「それにわざわさブレンダちゃんをご指名って、ねぇ。
 ブレンダちゃんの大ファンか――それともはたまた――」
「……さて、な。この道の果てに鬼が出るか蛇が出るか……というやつだな」
 同様に『虹を心にかけて』秋月 誠吾(p3p007127)や『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)も疑問があれば件の『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)へと視線を向けるものだ――が。
 ブレンダ自身分からぬのだ。依頼主のクリスとは会った事もない。
 ……故に今は気に病んでも仕方ないのだと思考するものだ。
 いずれにせよ密猟者の逮捕と言う依頼は受けたのだから。
 それを果たす事こそが――目下の事情。
「密猟者の逮捕! ええ、ええ、非常に大事なお仕事でしょうとも!
 決められた法は、必ず守られねばなりませんからね!
 人の定めし法を破る密猟者……決して許しません!!」
「しかし、殺さずに密猟者を捕縛ね……。幻想貴族にしてはお優しい処遇なこって」
 故に『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)は意気揚々と現地へと歩んでいくものだ。騎士の端くれとして全霊で挑むとばかりに――彼女の心は晴れやかのままに在る。
 一方にして『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)は……あぁ。
 お優しい幻想貴族様からの依頼に感動過ぎて涙が出そうなモノ。
 普通の幻想貴族なら殺しても構わないとか言われそうだが、今回の依頼主様はさぞ慈愛に満ち溢れた御方のようだ。本当に。世の中こういう善人ばかりだと――いいのだが。
「……ふむ。なにはともあれ、参りましょうか。
 密猟者を捕えるだけならさほど難しい依頼では無いかと」
 ともあれ。森を進む『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)は周囲を俯瞰するような広き視点と共に――往くものだ。貴重な生物を狩る、それが法に触れるのであればどのような理由があれど裁きは受けなければならないのだから。
 そう。これはきっと――正しい依頼なのだから。


 どこからか小動物の鳴き声が聞こえてくる。
 これがテトランの鳴き声か? それとも別のか……
 分からぬがこの地帯のどこかに密猟者がいるのは確かなのだと。
「とりあえず精霊を放って探索してみるかね――どっかに引っかかればいいんだが」
「今の所人間の通る足音みたいなのは聞こえねーな……ま、もうちょい探してみるか」
 ともあれ世界は簡易式召喚陣を用いて精霊を使役。
 遠くに人影でも見えぬかと遠方を索敵するものだ――同時にルナは己の優れた感覚、その中でも聴覚を用いて森にそぐわぬ『音』がないかと調査だ。或いは密猟者であれば狩った獲物の放つ血や死臭が微かに残っているやもしれぬと……
「後は――情報通りだと猟犬がついてるんだ。
 近づいたら匂いで感づかれてしまうだろう。勘付かれたら逃げられそうだな」
「って事は……極力気配は消しとくか。
 戦えば負ける気はねーけれど、匂いまでは隠しづらい上に……
 万が一逃げの一手を打たれたら面倒だしな」
「そうねぇ。静かに固まって移動しましょ。向こうは気付いてないでしょうし――ね」
 次いで誠吾が密猟者達と行動を共にしているであろう猟犬を警戒し――故にシラスは足音と気配を殺しながら森を移動し、アーリアも周囲で物音が無いか聞き耳を立てながら追随するものだ。
 狩る側だと思っている密猟者側には大なり小なり油断がある筈。
 猟犬の警戒網を超え、こちらが先に索敵さえ出来れば大きく優位になると確信して。
 ――往く。森の中を、静かに。
 さすれば段々と分かるものだ。動物ではない気配が、微かにどこかに感じると。
「……! 師匠、この先に、いますよ……!!」
「ああ。こちらでも確認できた――だがまだ待て。足並みを揃えるんだ」
 そして見つけた。密猟者達の姿だ。
 声を出さぬ様にリディアはハイテレパスによる意思の疎通によってブレンダと会話を成し。同様の手段によって他のメンバーにも情報を共有していく――敵は少数だ。逃さぬ事に気を付けさえすれば、こちらの方が優勢なのは疑いない。
 故に整える。足並みを。呼吸を。
 そして――
「――さぁ。法の裁きのお時間ですよ」
 正純が成した。それは星々の輝きにして天より降り注ぐ絶技が一つ。
 天狼星。先手を取るべくけしかけたその一撃を皮切りとして。
「プロつっても油断はあったか――? 悪いが、アンタラはここまでだぜ」
「く、くそなんだ!!? 逃げろ、逃げるんだ!!」
 直後。ルナの歩みが一気に密猟者の下へとまで進むものだ。
 彼の機動力はイレギュラーズの中でも群を抜いている……
 その超速へと至りし足から何人が逃れなられる事か――更には。
「はぁい。捕まえる側が縛られて捕まる気分はどう?」
「そこまでですよ、密猟者! 我が名はリディア・レオンハート!
 逃げられるなどとは思わない事です! 自らの罪を悔い改めなさいッ!!」
 そのルナの歩みに連鎖する形で他の面々も立ち塞がるものだ。
 アーリアが橙色の糸を展開し、彼らの脚を縛らんとして。
 リディアの注意を引くが如き名乗りが逃げんとする足を止める――
「グルルルルッ!!」
「犬っころか。忠誠を誓うってのは自由だが――相手が悪かったな」
「殺しはせん。だが……少し大人しくしてもらうぞ」
 さすれば猟犬らが主人を護らんと唸り声をあげてシラスらへと向かう、が。
 気付かれるか否かと言うだけならともかく、単純な戦闘において猟犬らに劣る筈もない。手加減した一撃をもってして猟犬らを無力化せんとし、ブレンダもまた振るう二刀の連撃がその抵抗の力を奪わんとする――
 さすれば。密猟者達も抵抗の力を見せんとするものだが。
 相手が悪すぎる。数の上でも劣勢では、とても押し返せない、し。
「殺すな、って言うオーダーなんだよ。だから、その辺りでやめておこうぜ」
 更には与えた傷も世界による治癒術があらば、塞がれる方が早い。
 弓矢もナイフも猟犬の牙も――馬鹿な、ここまで届かぬか――
「ぐああ!!」
「さて。然らば、大人しくして頂きましょうか」
 さすれば一人、また一人とあっという間に――無力化されていく。
 正純もまた彼らの手足を狙いて挫き、その戦闘力を奪えば。
 後は縛り上げて――さぁ後は依頼主に引き渡すだけだと、思考するのであった。


 依頼主側の者達が、来るらしい。
 森の外で密猟者達を捕まえたアーリア達は、件の人物を待っていた――
 まだ姿は見えない。もう少しぐらいかかるのだろうか? ならば。
「話せよ――密猟しても、その物品を買ってくれるやつがいないと意味がない。
 誰に売るつもりだった? お前らに話を持ち掛けたヤツがいるんだろ?」
 その前にと。密猟者達に話を聞いてみようとするものだ。
 誠吾は元より疑問であった。そう、彼らが売買の為の独自ルートを持っているとは思えないのだ――雰囲気が異なるというべきだろうか。幻想に巣食うマフィアの様な連中ならまだしも、彼らはそういう類ではなさそうで。
「貴方達は法の下に裁かれることになるでしょう――
 その前に。仮に言い訳でもあるのならば、聞いておきますよ?」
「む、むぅ……! な、ない! 俺らに話す事なんぞ、なにも……!」
「――全く。強情よねぇ」
 と、その時。正純に次いで言の葉を紡いだのは――アーリアだ。
「ケトラン、すっごく綺麗な鳥よねぇ。私も見た事はあるわ。
 綺麗な物を欲しがる気持ちは解るんだけど――でも、密猟はだめよねぇ」
「む、むぅ……分かっておるわ。しかし、家族の為なんや……!」
「へぇ。家族の為なら無断で他人の領地に侵入してもいいの?」
「い、いやそれは……うぐ……」
「――ねぇ」
 密猟者達に。何か、言い淀んだその瞬間に――頭の中を覗く術を用いる。
 顎に指を。その脳髄を覗き込む様に、視線を合わせれば……
「ごめんなさいねぇ、私の前では隠し事は出来ないの」
「き、貴様……!」
「まぁお前らにも事情があるのか知らねぇけどよ。
 ツイてねえなお前――クリス様は密漁なんてお見通しだったぜ」
 と。刹那。
 シラスは口にした。一人の依頼人の……名を。
 その時の彼らの表情の変化を見逃さなかった――のだが。

「――ご苦労様ですわ、イレギュラーズ。密猟者はこちらで引き取ります」

 同時。馬車が複数台、その場へと到着するものであった。
 馬車からは幻想の騎士らしき者達が複数至り。
 しかし、一つだけ小奇麗な馬車からは――誰ぞの声だけが響いてきていて。
「も、もしや依頼主のクリス・フランドルさんですか!?
 よもやご本人まで来るとは……え、ええと。
 とにかく! 密猟者は此方に――捕まえていますよ! これで一件落着ですね!」
「――ええ。そうですわね、ご苦労様でしたわイレギュラーズ。後はお任せを」
 さすれば使いの者でもなく本人が来るとは思っていなかったリディアが、慌てながらも――一呼吸置き、言葉に詰まらぬ様にしながら言を紡ぐものだ。これで、私欲に溺れた密猟者は誅され、法とテトランは守られる……
 彼らが狩っていたテトランの遺体も馬車から覗けるように見せれ――ば。
「ば、馬鹿な……どうして、どうしてフラ――ぐぁ!」
 瞬間。密猟者達の反応が変わった。
 先程まで捕らえられた事に対する焦燥はあれど、慌てふためく事は無かったというのに……冷静さなど一切なく、何か口にしようとした――その時。クリス・フランドル配下の騎士が密猟者達を強引に抑えつけた。
 何も喋れぬ様に猿轡も付けて。
 ……拘束自体はイレギュラーズがとうの昔にやっていたというのに、これは。
「幻想のお貴族様からの依頼かよって思ってたら、案の定な展開になってきやがったな」
「クリス・フランドル――ああ。その名前については調べておいたよ。色々とコネはあるんでね。幻想貴族フランドル家のご令嬢で、色々な『事業』を展開されてる御人、ってね」
 その光景を見据えたルナは吐き捨てる様な言を呟き――
 世界は事前に調べていた事を、皆に共有するものだ。
 クリス・フランドル。最近自家の勢力を拡大させるために様々な手腕を見せている人物。
 しかし――噂では『後ろ暗い』事にも、手を染めているとか。
 ……世界は別に目を付けられたい訳ではないが故に、大声で斯様な事を述べたりはしないが。ノータッチ。こちらに関わらないのならお好きにどうぞ、幻想貴族様。
「まぁまぁ依頼人さんがわざわざ出向いてくれるなんて!
 光栄すぎて涙がでてきちゃいそうですわ――ああ、そういえばこのケトラン――混乱に乗じて売り飛ばされないようにしないとよねぇ。これ、そういえばどうするのかしら? この後回収なさるんです?」
「――無論。彼らの家も捜索し、全て回収して然るべき所へと提出する事になるでしょうね」
「然るべき所、とは?」
「さて。シュターデン地方の領主か、それとも王都か。知る必要はない事ですわ」
 直後。アーリアが平常心と共にクリスへと言を。
 テトランをどうするつもりなのか……
 彼女は然るべき場所へと持っていくと言っていたが……しかし。もしかしたらこの後。その運搬馬車が奪われたなり盗まれたなり――など『そういう事』になるかもしれぬ。
 ……いや断言していないだけで、きっと腹の内ではそういう事を考えているのだろう。
 アーリアには、理解できた。
 世に出回らぬ高級品がそうして出回るのだと。
「――気に入らねーな。現れるタイミングが良すぎねーか? まるで見張ってたみたいだ。
 そもそもここの領主でもないのに、人の領地に私兵派遣していいのかねぇ」
「シュターデン地方とは話が付いていますわ。
 ええ。色々と『ご縁』があって私が出向く事になっただけですのよ――」
 その『ご縁』って濁しまくってる部分が聞きたいんだよ。
 飲み込んだが。しかし、誠吾の顔には抑えきれぬ不服な顔が出ていたかもしれぬ。
 何もかもが妖しいのだ。どうにもすっきりしないのだ。
 ブレンダの指名の事も。この地方での動きも。密猟者達の動揺も。
 ――お前がどこまで関わっているのかと。
「事実確認ぐらいはさせて頂きたい所ですけれどもね。
 こうも強引に下手人の方々を連れていかれるなど……なんとも」
 キナ臭いですね、と正純も紡ぐものであれば……さて。

「――お待ちをフランドル卿。」

 と、その時。シラスが一歩前に出て。
「私も幻想の民です、王陛下より領土を預かる身ならば公正さをお示し頂きたい。
 貴方の言に一片の曇りもないと誓えるのでしょうか? 貴方は」
「我らの公正を疑うと? 我らは王家より信を受け爵位を頂いている身――
 その我らを疑うのであれば、国王陛下を疑うに等しい事。覚悟はあるので?」
「その言葉。もしも王陛下の前でも――もう一度述べる事叶いますか?」
 ――緊迫。
 今、両者の間に何か一つの線が出来ていたのかもしれぬ。
 切れるか、或いは踏み越えるか。
 その際どいライン――の中で。シラスの脳裏は高速で回転していた。
 万が一戦闘になった時はどう切り抜けるかと。
 ……周囲の状況も動く。関わらぬつもりの世界であったが、万が一これ以上雲行きが怪しくなれば、好青年を演じて場に介入する事も辞さぬつもりで緊張が走り。周囲に備えていたルナも――幻想の騎士らの雰囲気が変わるのを感じて、動きを思考するものだ。
 気に入らぬ。故に激突するか――?

「……待て。依頼は依頼だ。密猟者は引き渡す――ああ。それでいいだろう?」

 が。その時。
「だが一つ伺いたい。この依頼、どうして私を指名した?」
「――――ブレンダ・スカーレット・アレクサンデルですか」
「いかにも」
 ブレンダが、クリスへとどうしても問わねばならぬ事を問うた。
 最初からの疑問だ。
 『これ』が仮にお前の一種の自作自演であろうと――百歩譲ってそれはいい。
 だが。何故だ?
 何の為に自作自演に巻き込んだ?

 『お前は誰だ?』

 ……直後。馬車から降りようともしなかったクリスが――その姿を晒す。
 ブレンダをまっすぐ見据える様に。或いは、見下すようにしながら。
(――んっ?)
 刹那。ブレンダは常に発動させていた敵意を感知する術に――反応があった事を感じた。
 まさか。このタイミングで? まさか、まさか……
「貴方を指名した理由ですか。ええ――お会いしたかったからですわ」
「……ほう?」
「し、師匠……!」
 クリス・フランドルは己を敵視している?
 だから。探りを入れんとしていたのか。こういう折にどう対応するのが『ブレンダ』なのかと。
 見たかったのか。そんな事の為だけに――こんな事をしたのか?
 思わずリディアが傍に位置する。
 彼女の心中に胸騒ぎが生じているのだ……一歩間違えれば『何か』が起こると。
(……師匠ッ!)
 しかし彼女の心は固まっている。もしも『何か』があったとしても。
 私は必ず師匠の側にあり、その意向に従う――ッ!
 一拍。二拍。
 続いた静寂が、永遠とも感じられるほどの長さ――だったが。
「このような女の、どこが……」
 その静寂は。クリスが呟いた言の葉を皮切りに、終焉を迎える。
 何と言ったか。風に蕩けて消える程の小声――の後に。
「……結構。貴方の、貴方達のお手並みは拝見させて頂きましたわ。
 ――また何かのご縁があれば依頼を頼みたい所ですわね」
「そうか。ならば――そうだな」

 ――クリス・フランドル。その名を。

「覚えておこう。ああ、忘れんよ――だからお前も忘れるなよ」
 私の顔を。私の魂を。
 ……さすれば一瞬。クリスは眉を顰めて、再び馬車へと戻るものだ。
 ああ分かるぞ? 今必死に呑み込んだが、お前は
 『下賤な。不愉快ですわ――』
 そう紡ぎたかったのだろう? ……あれは私を敵視する目だった。
 何はともあれこれで仕舞だ。テトラン狩りの密猟者は逮捕され、この地にも平穏は戻ってこよう。依頼主にも下手人は引き渡し――これで一件落着だ。少なくとも表向きは。
「はー……さてとんだ依頼になったわね。
 もーやめやめ! 私達もローレットに戻りましょうか!」
「ああそうだな。ったく、やっぱ幻想の御貴族様は一癖も二癖もあるもんだな……」
 故に。場の雰囲気を和ませんとアーリアとルナが言を紡いだ。
 そうだ……ひとまずこれで依頼は終了。一端帰還するとしよう。
 全く。一体どこでクリスとの縁が紡がれていたのか。ああ――

 今度、シルトにでも相談してみるべきかと、微かに思考を馳せるのであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 今回は裏のある依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
 幻想王国は形は違えどこういった貴族の事情にまつわる依頼は、結構多いのかもしれませんね――
 紡がれた縁はどこへと往く事か。

 ありがとうございました。

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