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シナリオ詳細

<咎の鉄条>眠れる聖堂の精霊士

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ステンドグラスを貫いた光が、静まり返った聖堂を照らしている。
 カチ、カチと音を立てるのは、聖堂に備え付けられた時計の針の音。
 それ以外の物音を失った森の中の聖堂。
 人々が皆、等しく眠りについてしまったその場所は、静謐なる寂しさを助長する。
 ふと視線を奥の方へ見やれば、祭壇の前に人の影が見える。
 何かを警戒するように、杖を抱えている。
 聖職者を思わせる女性の肩を、銀色の長髪が流れている。
「……――っ」
 スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は、その人物を見て思わず息を飲んだ。
 聖堂を足早に突っ切ってその人物へ歩み寄り、思わず立ち止まった。
「……お母様?」
 まさか、そんなことはあるはずがない。
 死んでしまった母――エイルがここにいるはずはない。
 だが、思わずそう呟いてしまうほどには、見下ろす形となった目の前の聖職者の目鼻立ちが似ていた。
 同時、それはスティア自身とも似た顔立ちであるということでもある。
 身を屈めて聖職者を覗き込んでよく見てから、どうにもよく似た別人であることを悟る。
 聖職者に触れようとした、その刹那、扉が乱暴に開け放たれる音が響いて、旋風が身体を煽る。
 振り返り見れば、聖堂の扉を荒々しく開け放つは旋風を纏う翠色に輝くコア。
 ふわふわと浮かびながら、風が音を立てている。
「大樹の嘆き! あぁ、どうしよう! とっ、とりあえずこの人達をどこかに安全な場所に!」
 聖職者の肩を抱いて立ち上がろうとすれば、彼女の表情が少しばかり険しく変わる。
「拙いな、動かすと危険な気がするぞ」
 仲間の一人が言えば、スティアも頷いて。
「……それなら、この人達に危険が及ぶ前に倒さないとだね!」
 スティアはそっと聖職者を座らせなおすと、前へ出た。
「あの人が誰なのか、分からないけど……これ以上、近づかせないよ!」
 臨戦態勢に入るイレギュラーズに呼応するように、コアが暴風を吹いた。
 返事代わりとばかりに旋風が駆け抜け、スティアの髪が躍る。


「皆さん、深緑が突如として茨に覆われて外界との接触が立たれたことはご存知でしょうか」
 情報屋のアナイス(p3n000154)は君達へそう問いかける。
 突如として謎の茨が迷宮森林を含む深緑の多くを覆いつくし、外界を拒むように遮断した。
 それは迷宮森林警備隊のルドラ・ヘスへとイレギュラーズへもたらされた情報である。
「たしか空中神殿から向かうことも出来ないんだよね」
「ええ、はい。そのため現状、ファルカウや深緑の中枢には近づくことも出来ません。
 ですが、この茨には、本の些細ながら伸長速度に差異があるようなのです。
 それでも国境線の付近に存在する集落に潜入をすることができるだけで、やはり奥へは進めないのですが」
 スティアの言葉に頷いたアナイスはそのまま続けて語る。
 現時点で原因が一切と掴めぬこの状況、ルドラや様々な事情から巻き込まれずに済んだ者や避難してきた者から、残された者達を助けてほしいと依頼がもたらされた。
「皆様に国境線上にある集落の1つへ赴いていただきたいのです。
 この集落は、幸か不幸か茨の伸長が緩く、現時点で潜入することが可能です。
 人々がいるとしたら、集落の中央にある聖堂でしょう……ただ」
「そこに行くまでに何かあるんだね」
「実際に行くまでは分かりませんが、どうやらそこかしこで『大樹の嘆き』なる存在や魔物の姿が確認されているようです」
「……ええっと、たしか大樹の嘆きって、R.O.Oに出てきたやつだっけ?」
「ええ、私はR.O.Oに入ったことがないので正確には知りませんが、情報を纏めた限り、いわば霊樹が持つ防衛機構。
 神秘性を得た深緑の霊樹が持つそれが暴走したものとでも言えましょう。
 であれば、現実側に存在していることに全く不自然性はありません」
「じゃあ、もしもその集落にまだ人が残ってたら……」
「ええ、大樹の嘆きに見つかれば無事では済まないでしょう。
 よろしくお願いします」
 そう言って、アナイスは締めくくった。
 どことなく、歯がゆそうにも見えるのは、彼女も幻想種だからだろうか。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 <咎の鉄条>1本目、よろしくお願いします。

●オーダー
【1】大樹の嘆きの撃破


●フィールド
 迷宮森林の中でも国境線付近に存在する、いわゆる郊外の田舎町的な集落です。
 辺りは静寂に包まれ、集落の奥へと進もうとすれば茨が覆いつくしており、先には進めません。

 主要な戦場となるのは村の集会所としての役割も担っているであろう大きな聖堂です。
 幻想的かつ荘厳なステンドグラス張りの空間であり、戦闘に支障はありません。

●エネミーデータ
・『大樹の嘆き』エアーズ・コア×1
 旋風を纏う、翠色に輝く球体の存在です。
 常に低空飛行状態にあり、すばしっこく動き回ります。

 豊富なHPに加え、高い反応、防御技術、EXAを持ちます。
 強烈な旋風を巻き散らす攻撃を用い、この旋風は自域相当へと齎されます。
 この鋭利な旋風には【変幻】【恍惚】【窒息系列】【乱れ系列】の効果があります。

●NPCデータ
・ヴィオレット・フォンテーヌ
 スティアさんの母方の叔母にあたる関係者です。
 深緑の聖職者。シナリオ中に出てくる聖堂に出向してきました。
 深い眠りに囚われています。『動かそうとすれば苦悶の表情を浮かべます』

・幻想種×数人
 聖堂の中にいた幻想種。
 ヴィオレット含め、全員が眠りについており、何をしても起きる様子がありません。
 また、強引に移動させようとすると苦悶の表情を浮かべ、命の危険さえ感じられます。

・????
 どこからか視線を感じます。
 手を出してくるつもりは無さそうですが……

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <咎の鉄条>眠れる聖堂の精霊士完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月07日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
優しき水竜を想う
サイズ(p3p000319)
妖精■■として
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
最強のダチ
嘉六(p3p010174)
のんべんだらり

リプレイ


 吹き荒れる暴風は扉を荒々しく開け放てば、そのまま乱雑に移動しては収束と炸裂を繰り返す。
(無差別攻撃機構に変わり無いのなら、迎撃出来るのは都合が良いという所ですが
 聖堂にやってきたという事は、私達の侵入を感知して接近してきたか、或いは……)
 荒々しく扉を開け放ち姿を見せた風の塊を見据え『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は落ち着いた様子で戦乙女の槍を構える。
「ひとまず、ここで暴れてもらっては困りますね……」
 吹き荒れる暴風に意思があるのかすら分からないが、穂先に籠めた魔弾を一斉に放つ。
 悪意を以って生成された赤き魔弾が吸い込まれるように暴風へと炸裂し、核へと浸透する。
「任せて!」
 セラフィムに手を翳す『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)がそう言えば、スティアの周囲を舞い踊る魔力の羽根が美しく輝きを増していく。
「大人しくしろー!」
 エアーズコアが動きを止めた一瞬、スティアは掌に浮かべた氷結の花を咲かせた。
 ほろほろと解けた氷の花弁が魔弾となってエアーズコアへと吸い込まれていく。
 必中を期す赤き魔弾に次いで放たれた終焉の花を受けたエアーズコアは魅了されたようにスティアの方へ飛んでくる。
(大樹の嘆き。ROO世界では意図的にこれを引き起こそうとする悪意がいましたが、現実でも起こってしまうとは……
 早急にこの場を治めて、深緑の置かれている現状を把握しなくては!)
 荒れる暴風に思いつつも、『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)の頭にはもう一つ別の事がある。
 それは、眠りについている人々の事だ。
 知り得る限り、大樹の嘆きにはそんな機能はない。
(眠り……確か、過去にザントマンを騙る偽物がこう云った眠りを引き起こす砂を扱っていたような)
 眠りと聞いて思い起こされるのは、やはりそれだった。
 自らの身体能力を叩きあげ、一閃。
 蒼い刀身より放たれた斬撃はエアーズコアへと傷を刻む。
 魔力の塊のようにも見えるそれが纏う風に、威力そのものは殺されるが、ドラマの技の真骨頂はそこにはない。
(眠りに落ちて、動かすと苦悶の表情を浮かべる? ザントマンの眠り砂の改良版?
 グリムルートの拘束効果と複合強化した感じがする?)
 考察を進める『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)も、ドラマ同様にそこへたどり着く。
 だが、まずは目の前の存在身体。
(大樹の嘆きか……ROOでもあったが……あっちは情報が少なかったからな……
 今回の依頼で多少は嘆きの理解が深まればいいが……)
 己が身でもある鎌を構え、肉薄してスティアの方へ。
「悪いが、さっさと終わりにさせてもらうぞ!」
 振り払う連撃はつかみ取った未来を貪り喰らうように、鮮烈な連撃を刻む。
「なーんで深緑がこんなことになってるのかしらねぇ。
 こんなんだったらR.O.Oもうちょっと真面目に遊んでおくんだったわ……」
 保護結界を張り巡らせつつも、サイズの様子を気にかける『スピリトへの言葉』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は思わず言った。
「ともあれ、寝てる人を永遠の眠りにさせるわけにもいかないし、申し訳ないけどさくっと追い払わせてもらおうかしら。
 本当は話が聞けたらよかったんだけどね」
 その背に光輪を以って背負うは無限の紋章。
 循環効率を上げ、描き出す多重魔方陣より一斉に放つ四重の魔弾。
 各々が籠められた術の異なるそれらがエアーズコアの中へと吸い込まれるように炸裂する。
「まるで御伽噺だが、現実は現実だ。
 ROOでの『大樹の嘆き』についてはおれは調べられなかったが、あちらはこちらの世界のシミュレートだ。
 何らかの関連性があるだろうな。防衛機構ということは、何かが入って暴走しているか。暴走させられたか――」
 考察を後にして、『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)も愛銃に手を乗せ――引き金を引く。
 その手の動きさえ見えぬほどの早撃ちののち、すぐに愛用のギターでもって一曲を振り舞う。
 それは無頼の心を与えるいくさ歌である。
「眠らされて動けないのに、『大樹の嘆き』が襲ってくるっていくら何でも殺意高過ぎじゃない……!?
 しかも安全な場所に避難させてあげることもできないし……ああもうっ!
 アタシたちに助けてほしいのか、それとも痛い目に遭ってほしいのか、どっちかにしなさいよ!」
 そういう『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)の言葉もさもあらんと言うべきか。
 暴れる風の塊のせいでジルーシャのもつ香の香りが溢れる。
 風の中心に球体をもつそれには、よく見れば風の流れがある。
 その流れに沿って放たれた攻撃はエアーズコアの中心に導かれるように核を穿ち、流れに乗れなかったものは風の奔流に弾かれれているようだ。
「それなら――食らいつくしなさい、ジェヴォーダンの獣!」
 竪琴を鳴らし香りが漂えば、姿を見せた『何か』が雄叫びに似た何かを上げて疾走し、風の流れに乗って核へと食らいついた。
「深緑……とんでもねえことになってるみたいだな」
 そういう『のんべんだらり』嘉六(p3p010174)はここに来る前のことを思い出す。
「あんな別嬪さんに難しい顔させてんだもんな」
 情報屋に向けてついでにしたナンパは遊ぶ約束をこぎ着けるまでは至らなかったが。
 聞いた話じゃ彼女も深緑の出身らしい。気分が乗らないのも仕方はないか。
 宙狐を抜いた嘉六は銃口をエアーズコアへ固定する。
 まずは一発とばかりに銃弾を放つ。撃鉄に妖しき狐火を残した弾丸はエアーズコアの中心へ炸裂する。
 その勢いに押されてエアーズコアが後方へ飛んでいく。
「よう、無抵抗の相手にいきがってんなよ。あー、わかるかマリモ? これ挑発だぜ」
 挑発を告げれども、眼も耳もありはしない球体の何かの注意を引けてるかは少しばかり分かりづらい。


 イレギュラーズの行動に置いて、特筆すべき効果があったものは、多段に用意されていた吹き飛ばし効果だったといえる。
 どでかい一発を叩き込むタイプの高火力アタッカーと言う形ではないメンバーが多い分、高度な防御技術と豊富なHPを持つエアーズコアとの戦闘は多少ではあるが長期戦になっている。
 結果として時折は上手く注意を引けない時もあったが、多数用意された吹き飛ばし効果の採用により眠っている人々に攻撃が良く事は全くなかった。
 戦場は大いに前進し、イレギュラーズとエアーズコアが戦っている場所は既に聖堂の外側にある。
 徐々に動きの鈍りつつあるエアーズコアには多数の状態異常も組み込まれている。
 いくら豊富なHPと防御があろうと、押し付けられたものを解き放つ術がほとんどないエアーズコアの動きは鈍いものだ。
「いい加減に、倒れろ――!」
 飛び掛かるのはサイズである。
 浴びせかけられる状態異常を振り払うように血色の鎌を走らせ、その勢いのままに魔力によって増幅した斬撃を見舞う。
 それは強烈なる3連撃。二度に渡って振るわれた質の増した魔性の斬撃を叩きつけて、間合いを整える。
 その身体に傷は多い。その分だけ、どこからか溢れる力を振るい続けていた。
 そんなサイズを支えるはヤツェクである。
 奏でる哀歌は陽気な曲調と歌詞をしたその曲でサイズや前衛にいる面々に再起の力を与えていくのだ。
「すばしっこいたぁこんなにも面倒なんだな、やれやれ……」
 奏でる複数の歌は仲間を支え、仲間を救う戦線維持のための歌である。
「擽るような弾ばっかでもどかしかったろ? ほら本命だ、受け取りな」
 それに続くは嘉六の銃弾だった。
 嘉六が撃ち込んだ弾丸は、堅牢なる風の守りに負けずに真っすぐに走る弾丸である。
 深紅の瞳が見据えるは風の奔流。
 何物にも邪魔されず、爆ぜた弾丸が核を貫いた。
 吹き荒れる暴風は、炸裂と共に見えない傷をもたらし、圧迫感を叩きつけてくる。
 それの殆どを受け持っていたスティアの身体から、光が溢れ出す。
「ドラマさん、お願い!」
 輝く天使の羽根が幻想の鐘の音と共にスティアへ降り注がれる。
「任せてください。ここからは私の番ですよ――」
 スティアの傷が癒え始めるのとほぼ同時頃、エアーズコアの身体が揺れた。
 それはドラマが振り払った蒼き剣閃。
 魔力を以って構築された斬撃は大気に振動を起こして空気を揺らし、その向こう側に浸透する。


 戦いの流れが途切れる時がきた。
「燃料切れですか」
 その様子を見つめ、重ね掛けてきた物が実を結んだと理解したのはドラマだ。
 目の前の荒れ狂う暴風が、突如としてその勢いを殺す。
「ですが、こちらは止まりませんよ」
 切り開く小蒼剣に充実した魔力が纏われ――一閃。
 追撃を紡ぎ、流れをそのままに次が走る。
「小妖精よ、踊り狂うのです」
 槍を立てるようにして構えた穂先より現れた無数の妖精たち。
 それをアリシスがけしかければ、球体にひびが入る。
「風を捉えて、駆け抜けなさい――おいで、《リドル》!」
 竪琴を奏でるジルーシャに命じられたチャーチグリムが、彼の影から飛び出して走りだせば。
「そろそろ退治と行きましょうや。
 聖堂に眠れる美女、抜群のロケーションが台無しだぜ、緑ボール」
 そろそろと判断した嘉六が宙狐より銃弾を放てば、狐火ちらせて弾丸が続く。
「よし、駄目押しだ、決めてやれよ、サイズ!」
 言うや、ヤツェクは再びいくさ歌を奏でる。
 粗野な勇気を掻き立てる魔法の歌が数多の傷を最前線で受けていたサイズに力を与える。
「無茶だけはしないでよね、サイズ」
 オデットが魔術砲撃を以って最後の支援を果たせば。
「大丈夫ですよ、オデットさん。これで終わらせます」
 構えなおした妖精体を軸に『本体』を振り抜いた。
 美しき軌跡を描いた血色の軌跡が残像を残し――球体が罅割れ、砕けて霧散した。


(しかし、ここに来てからずっと感じているこの視線は一体……)
 眠っている人々へ寝具を掛けつつ、アリシスが思うのは、この聖堂に入ってきてからずっと感じている視線について。
 誰かが、見ている。その感覚を、イレギュラーズはずっと感じていた。
(深緑全土を包み込むほどの状況ともなれば、
 十中八九、冠位クラス……怠惰の冠位が関わってると考えるべきでしょう……が)
 あくまで気にしてない、という風を崩さず考え続けている。
 これが魔術であるのなら、一国へと直接的に影響を及ぼすほどの大魔術なんてものが出来る存在は、そう多くない。
 そしてその『そう多くない』の『多くない』ほうをイレギュラーズは既にあったことがあるのだ。
(例えば、部下なりが活動をしているのはなにもおかしくはありません。
 しかし、この視線は……こちらを観察している、というよりは、警戒しているようにな気も……?)
 考えれども答えはない。
「起きる様子はないみたいだし、どこか他の場所に避難させることも出来そうにないわね。
 やっぱりここに残していくしかないのかしら?」
 ジルーシャは一つ溜息を吐いた。
 スティアにもよく似た女性以外にもいる人々の様子を確かめる限り、やはり目覚める様子はなかった。
「……早く何とかしなくっちゃね。
 このまま眠り続けて食事も水もとれないなんて身体に悪いもの」
 魔術的どうこうを以前に、生き物である以上、飲食をしないわけにはいかないだろう。
 そちらの方面でも危険ではある。
「それにしても、動かそうとすると苦しそうにするのが気になるわね。
 まるで――見えない茨に絡みつかれているみたい」
 ジルーシャは一つ息を吐く。
 この茨に関わってから、どうしても頭から離れないあることに思いを馳せつつも。
「……茨、邪魔だな」
 苛立ちをほんのりと交えながら言うのはサイズである。
 依頼に出発する前に妖精郷の扉は閉ざされているだけでひとまずは妖精郷は無事だという話は聞いた。
 だが、『妖精郷』はそうでも深緑国内に移った妖精については必ずしもそうとは限らないのが歯がゆいところ。
(一応、刈り取ることはできる。けど他の依頼の話によればここから遠ざけたら消えてしまうし、
 下手に攻撃しても又すぐ元通りになる……ここで何かっていうのは難しそうだな)
「ひとまずは周囲に魔物のような存在がいるようには思えませんね」
 ドラマは目を閉じて試みていたエコロケーションを終えて一息を吐いた。
「なんらかの医術的見地から治療を施せればよかったのですが」
 眠っている人々の様子は、病気などに起因するモノではない。
 それが分かった事じたいも十分な収穫ではある。
 だが医学的見地から『どこまで動かしても大丈夫か』を試すのは眠っている人々を危険に晒しかねない。
「何か見ている存在が気になるな。生き残りならば保護をしたいが、この状況下だとその可能性は低そうだ」
 小さな声でヤツェクは言う。
 対話に持ち込もうかと思ったが、視線こそ感じるが相手がどこにいるのかさえ分からない。
 それは相手が対話を望んでということに他なるまい。
(こっちのコネなりを使えればいいが、相手が見えない以上どうしようもないか)
「薄気味悪いねえ」
 ファミリアーを空へ飛ばしながら、嘉六が言う。
「仕掛けてくるでもなくじいとこっちを見てるなんてよ……」
 そのざわつくような視線はイレギュラーズがエアーズコアを倒してスティアとよく似た女性の近くに行ってからというもの、敵意が覗いている。
「どこからかさっぱりわからないが……痕跡の一つや二つ残ってると良いが」
 視界をそれと合わせた。
 ――その刹那、どこからともなく伸びてきた茨がファミリアーを捕捉し、鋭く伸びてきた。
(この手の方法は通用しないってわけか)
 絡めとられて意識の接続が失われ、茨の力によって殺されるか眠らされてしまったことだけが分かる。
「あなた達は何か知らないかしら?」
 オデットは精霊との意志疎通を試みていた。
 高位の――人間以上の知性を持つような精霊からの返答は殆どない。
 唯一、助けて――とそう告げたのは、スティアによく似た女性の周囲にいた精霊のみ。
 しかし、その助けては精霊自身をではなく、その女性のことをだった。
 自然知識を生かした茨の調査については、他の所でも分かっていつつあったが、やはりこれは『植物ではない』のだろう。
「あなたはこの人の友達か何かかしら? あるいは、何らかの契約を交わしてるのかしら?」
 ふわふわと浮かぶ、小さな光に問えば、眠る女性の周囲を守るように或いは心配そうに回っている。
「目覚める気配とかは……ないよね? うーん、治癒魔術の効果もないみたいだね」
 同じように女性の様子を確かめるスティアの方も、調子は良くない。
 大樹の嘆きが消滅しても、女性が目覚める様子はない。
「何か、手掛かりになるものとか持ってないかな?」
 近づいて、彼女に触れた。その周囲を飛ぶ精霊が、スティアの肩辺りで止まった。
「あ、なにかある……?」
 よく見れば、マントの下にチェーンのようなものが見えて、そっと見てみる。
 そこにはロケット付きのペンダントが1つ。
 開いたそこにはスティアの知る女性の姿があった。正確には、その人の魂を持つ人形ではあるが。
「お母様とこの女の人と……あと、1人……男の人?」
「大切な、家族、らしいわね?」
 オデットが言うのに顔を上げてみれば、視線はスティアではなくその肩に止まる精霊を見ている。
 精霊がオデットに告げたのだろう。
「お母様の家族?」
 流石に親子のように見えないのを考えれば、この人はきっと。
「……お母様の妹さん」
 昔の母のことをよく知ってるであろう女性を見て、スティアは少し目を伏せた。
 ペンダントをそっと元のところにしまって、ひとまずの寝具をかける。
「スティア、その子も連れてってあげたら?」
 オデットに言われてそちらを向いたとき、スティアの目の前に光が姿を見せる。
 それは女性の周囲を飛んでいた優しい光。
「私と一緒に?」
「ええ、その子、彼女と一緒にいる自分の力を少しだけ分けて、あなたについていこうとしてるわ」
「そうなんだ。……うん、行こうか! あの人を助ける方法を探さないとね!」
 スティアの声に、光が飛び回る。
 それはまるで、喜んでいるように見えた。

●????
 あれが彼女を苦しめるようであれば、消し飛ばしてやるつもりだった。
 あいつがせずとも、やってやるつもりだった。
 気に入らない。気に入らない。
 ――どうして、エイルを殺したおまえが。
 おまえさえ。おまえさえ!
 ■■に狂った呼び声は、それを耳にするにはあまりに遠く。
 茨の向こうに埋まっている。

成否

成功

MVP

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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