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シナリオ詳細

<咎の鉄条>怨敵必滅

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●<咎の鉄条>
 生命が息吹く。
 数多の植物が、数多の木々が溢れている。
 それが迷宮森林。混沌屈指の大森林大自然――が。

「な、なんだこれは……どういう、事なんだ……?」

 『茨』に覆われている。見渡す限り木々全てが、だ。
 ラサから訪れていたキャラバンの商人は思わずその光景に、身が震える『何か』を感じたものだ。これは危険だと本能が危険信号を発している……いやそれだけではない。危険こそ感じれど、迷宮森林の奥からは『何も感じない』のも――彼の本能を駆り立てていたか。
 本来ならば鳥の囀り一つぐらい聞こえて然るべき場所なのに。
 小動物が動いている様な気配すら一切なき静寂が其処に在る。
 ……異質だ。最早、普段の迷宮森林を知らぬ者ですら異質だとすぐに分かる。
 何があったのかは知れぬが、とにかくこれは一度ラサに戻って情報でも集めるべきだと。
 商人が踵を返そうとした――その時。
「んっ? 今、何か音が……うわっ!!?」
 瞬間。その商人が先程までいた場所へと、衝撃が突き走った――
 攻撃だ。魔力の奔流が周囲を薙いで、着弾点へと形成したのはまるで氷の結晶。
 何事かと、商人が木の陰に咄嗟に隠れながら見上げれば……其処には巨大な水の玉が浮かんでいる。魔物の様な、しかしどこか精霊の様な雰囲気も感じさせるような……
『――――』
 が。奴は最早無差別であるかのように周囲へと攻撃を続けるものだ。
 まるで全てを更地にするまで止まらぬかのように。
 怒りと嘆きを振りまきながら存在するその個体は――

 『大樹の嘆き』

 R.O.Oで生じていた存在が――現実においても顕現していたのである。


「皆。噂ぐらいは聞いたかな?
 ……深緑が謎の『茨』に覆われて外部から完全に孤立している話を、さ」
 ラサの首都ネフェルストでイレギュラーズを待っていたのはギルオス・ホリス(p3n000016)だった。彼の口から語られた内容は深緑にとっての緊急事態。
 ――謎の茨が迷宮森林すら覆い尽くし、外部を拒む様に遮断しているという。
 あまりにも突然の事態だったこの情報をローレットに伝えてきたのは、迷宮森林警備隊のルドラ・ヘスである。
「彼女は迷宮森林が『茨』に覆われた際に、偶然にも国境線側の警備に付いていた為に難を逃れる事に成功したらしくてね――他にもこういった幻想種とかがいない訳じゃあないらしいんだけど」
「……多くの者達は、未だファルカウの中で囚われていると言う事か」
 そういう事だね、とギルオスはイレギュラーズへと返答する。
 ルドラから齎された情報を纏めた所、茨は迷宮森林ほぼ全土を覆っている様だ。また、強引に内部に入り込もうとすれば急激な『眠り』に誘われそうになり動く事もままならないという――つまり。
「現時点において深緑の中枢、ファルカウに近付く事は出来ない状況だ」
「だけど、イレギュラーズだったら空中神殿経由で……」
「それも試したが無理だった。これは……何か想像以上の力が働いていると見るべきだろう」
 一体何が原因なのか、誰の思惑が蠢いているのか――目下の所想像もつかない。
 しかしルドラや避難してきた幻想種達から依頼が舞い込んでいるのだ。

 ――『深緑に残されている同胞たちを救ってほしい』と。

 その為に、どこからか深緑へ侵入出来る方法がないか調査を行っている。
 ラサの方面から直に近付き、国境線のどこかに穴が無いかと――しかし。
「問題がある。魔物だ」
「――魔物は動いているのか?」
「ああ。全ての魔物が動いているかは分からないけれど、迷宮森林の外周部付近で活動している個体達がいるのは確認されていてね。そいつらが邪魔で調査が進まないんだ……君達にはその撃破を担当してほしい」
 ただ、とギルオスは一息紡いで。
「不可思議、というべきなのかな……いや、これほどの事態があれば『こういう事』もあるのかもしれないけれど……R.O.Oで生じていた『クローズド・エメラルド』事件を覚えているかい?」
「R.O.Oって……たしか『大樹の嘆き』が暴れていた……」
「その『大樹の嘆き』が現実でも確認されている」
 ――まさか。冗談だろう?
 そう一人が声を発そうとしたが、しかしR.O.Oは現実の情報を元に形成されている。
 ……ならば、大樹の嘆きが現実に存在していてもおかしいとまでは言わない、が。
 いや、しかし、まさか。
 深緑の孤立。大樹の嘆きの発生――あの事件と流れが似ている――?
「あの事件では結局、大樹ファルカウが害される事はなかった」
 しかし。もしも大樹ファルカウそのものにもこの茨の被害が及んでいるとしたら。
 クローズド・エメラルドを超える事件に発展するかもしれない。
 ――一刻も早く深緑の調査を行わねば何が起こる事か。

 誰ぞの胸の内に微かに生まれた感情は只の焦燥か、それとも……


 おぉぉ森を害する者を許すまじ――

 ソレは暴れる。自らの全てを賭けて敵対者を滅ぼさんとする。
 ――大樹の嘆き。
 永き年月を経て神秘性すら伴った大樹に危機が訪れた際に放出される防衛機構の様な存在。
 彼らは暴れる。この事態を齎した者を許さぬかのように。
 ……しかし少なくともこの個体に他者と会話する様な知性はなく。
 ただ怒りと嘆きの感情のままに――周囲を滅さんとしている。
 放つ魔力が氷の力を宿らせ。
 穿つ一閃は茨や木々すら諸共打ち砕かんとしているのだ。
 ――このままではあまりにも危険。ただ暴れるだけの魔物と化している存在など……
「……終わらせてやるのが慈悲ってものなのかもしれねぇな」
 故に、イレギュラーズの一人は言う。
 見据える『大樹の嘆き』の悲しき慟哭を――終わらせてやらんと。

GMコメント

 深緑で新たな動きが……一体何が起こっているのでしょうか。
 それでは以下詳細です。

●依頼達成条件
 大樹の嘆きの撃破。

●フィールド
 迷宮森林の外周部の一角です。時刻は昼。
 周囲は大自然に囲まれています……が。妙な『茨』に覆われていて不自然なまでの静寂に包まれているのが今の迷宮森林です。戦闘区域まではまだ問題ないようですが、奥に進みすぎると途端に『眠気』の様な、或いは気色の悪い様な感覚に襲われ始めます。
 何が起こるか分かりませんので、あまり奥に進むのはお勧めしません……

●敵戦力
・『大樹の嘆き』ティアーズ・エンブレス×1
 その姿は巨大な水の球体です。中心部にまるで『核』の様な球体がもう一つ存在しており、恐らくコレが大樹の嘆きとしての本体かつ弱点だと思われます。常に低空飛行していますが、それ以上の高度へ往く飛行能力は無いようです。
 非常に高いHPと、強力な再生能力を宿しています。
 しかし反面、あまり素早く動く個体ではない様です。

 『核』を覆う水は『核』を護る役目もしている様です。
 奴へ攻撃する際は『核』を覆う水を攻撃してもダメージがありますが
・『水部分』を攻撃するとダメージが0.5~0.8倍(ランダム)となり。
・『核』を攻撃出来るとダメージが1.5~2.0倍(ランダム)となります。
 なおこの水はHPが減れば減る程に面積も減っていきます。

 攻撃方法として、魔力の込められた水を高速射出してきます。貫通能力に優れており、木々すら薙ぎ倒す力があり、これらの攻撃では【凍結系列】のBSを付与することがあるようです。
 ただし、この水の攻撃を行う際は自分のHPを削っている様です。
 身を削りながらも全てを滅ぼさんとしています。

●『茨』
 迷宮森林を覆っている謎の茨です。
 戦闘区域内の木々も覆われており、迂闊に触れれば肉すら斬る様な鋭利さを宿しています。また、茨を躱して奥に進もうとすると途端に気分が悪くなるような、眠くなるような衝動が襲い掛かってくるようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <咎の鉄条>怨敵必滅完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年02月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華

リプレイ


 怒り。嘆き。悲嘆。
 ソレはいずれなる感情をも内包している。敵対者を滅さんと――行動しながら。
「大樹の嘆きが動き出したって事は、深緑中枢やファルカウにも何かあったと考えるべきだよね……この茨は、きっとそこまで続いているんだ」
「茨、眠りから覚めない住民――あぁ。ザントマンを思い出すな」
 その渦中を往くはマルク・シリング(p3p001309)に『獏馬の夜妖憑き』恋屍・愛無(p3p007296)の両名だ。周囲は迷宮森林……ではあるが、見慣れぬ『茨』に包まれ、普段からの光景とは一変していた。
 その上にR.O.Oで出現していた大樹の嘆きまで出現しているとは――
「大樹の嘆き。これと似た事が『あーるおーおー』とやらで起きたと聞くでござるが……まずは今の状況を正しく理解する為にも彼奴を鎮めなければ。この森のどこぞを悠長に調査も行かぬでござろうな」
「眠りの茨……いったいなんなのでしょう。死や眠りを誘うとなると……
 怠惰の魔種、でなければいいのですが……いえ、今はとにかく目前の精霊、ですね」
 さすれば『闇討人』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)に『抱き止める白』グリーフ・ロス(p3p008615)も、近くを浮かんでいる『大樹の嘆き』を視認するものである。この茨の事態に思う事は勿論ある――が。まずは奴からが先だ。
 動く。まずは奴に接敵をする前にマルクが位置取りを確かめ。
 愛無が周囲を保護する結界を施し――グリーフと咲耶も一撃の準備を。
 合わせるのだ。一度戦いが始まり、奴が此方を視認すれば……再度位置を整える余裕があるとは限らぬから。

「R.O.Oで関わったあのクエストが巡り巡って……
 こうまでいろんな場所に影響してくるなんて思っても見なかったよ、本当に」

 故に。その先陣として往くのは――『可能性を連れたなら』笹木 花丸(p3p008689)だ。
 大樹の嘆き。そのクエストに関わった身としては幾つかの想いがあるものである……翡翠の国を巻き込む大イベントとなり、果てはこのように現実にまで出現してくるとは……
 ともあれ。やるべき事に変わりはないと――彼女は跳躍する。
「さぁ――こっちだよ! 花丸ちゃんが相手をしてあげる!!」
 名乗り上げる様に奴の注意を引き付けんとするのだ。
 であれば、大きく動いたその流れに――当然嘆きは反応する。
 高圧縮された水撃が放たれれば、地を抉りて花丸を穿たんとし。
「さて、出遅れましたが攻撃の準備が整いました。狙っていきますよ」
「ふぅ……! 一体何に怒っているのかは知らないけれど、これ以上周囲を破壊させる訳にもいかないのよね。悪いけれどゲームでもないんだし――倒させてもらうよ!」
 直後には射撃準備を整えた『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)の一撃が彼方より飛来し、更には『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)の特製の魔石もまた投じられるものだ――
 それは嘆きの再生能力を封じるが為の、蝕みの力を宿した一石。
 一手で成せずとも二手でも三手でも投じよう。毒が巡りて水を濁すまで。
 無論、嘆きの側も反撃を齎してくるものだ――
 全てを塵にするまで止まらぬが如く。木の陰に隠れようとも逃がせぬとばかりに。
「命を削ってでも、全てを滅ぼす……か」
 その光景。かつて見たことがあるのは――『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)だ。
 怒りに支配され、命を削りながら壊れるまで戦い続ける。
 例え未来に在るのが自壊の果てであろうとも知った事かとばかりに。

 ……あの『大樹の嘆き』は昔の俺と一緒だ。

 復讐の焔に焼かれていた、かつての己と――
 ならば。
「これ以上、何か壊してしまう前に。滅ぼすのが唯一の慈悲か」
 滅びるがいい復讐の同族よ。
 優れし視覚をもってして奴めを見据え。放つ一閃が――嘆きを貫いた。


 死ね。死ね。死ね――森を汚す者らよ。
 嘆きは放つ。己の損壊など厭わぬ様に。
 超出力の水撃は戦場を貫き――全てを穿たん。
「やれやれ、この寒い時期に水撃とはこの年になると辛いものがあるでござる。
 早めに終わらせねば後々に響きそうであるな――」
 躱せども、余波の水滴が体を濡らせば咲耶は冷気に体を震わせるものだ。
 直後に放つは殺意の具現。ぬばたまの業炎を纏わせた手裏剣の一投、であれば。
「攻撃が積み重なれば、核を覆う水の面積も減る……なら、とにかくダメージを与えて核の露出を増やしていくのは最善手のはずだ。花丸さんが引き付けてくれている今の内に、削れるだけ削り取ろう」
「奴の射撃はそれなりの脅威だ――散開状態を維持し続ける事は忘れぬようにな」
 更に続けてマルクや愛無も続くものである。マルクは周囲の――特に嘆きの攻撃を積極的に引き付けんとしてる花丸やグリーフの状態を見据えながら、暇があれば魔力を収束。水を穿つが如き閃光の魔砲を放ちて核を狙う――
 彼の言う通り、仮に核に当たらなくても水の面積を減らすのが重要なのだから。
 故に愛無も只管に攻撃を重ねる者である。
 高速の貫手が抉りて破砕。火力の高い者達の行動の支援となる様に、奴の隙を作らんと。
『――!!』
「おっとぉ。花丸ちゃんはまだまだ動けるよ! 余所見なんてさせないんだから!!」
 直後。嘆きへの攻撃が連なる場所へと放たれる水撃――
 だけれども、花丸は見逃さぬ。
 再度奴の視界へと入る様に常に動き続け、誘導叶わば撃をも放とう。
 不可能なる幻想すら解き穿つ竜撃の一手が水をも貫きて、数多の拳の連打が圧を加え続けるのだ。
(……もしも。R.O.Oと同じ存在だとするのなら……貴方が生まれたって事は、きっと森を傷つける何かがいるんだよね?)
 同時。彼女の思考は――嘆きへと注がれる。
 大樹の嘆きの存在が、かの世界と同じなら。彼らは暴力の為には出現しない。
 何らかの存在による害意を防ぐ際に現れる。
 ……今は貴方を倒す事しか私達には出来ないけど。
「いつか必ず――貴方の代わりに絶対に」
 森を傷つける何かを見つけてみせるから――
 只、今は眠ってとばかりに。彼女は放たれる水の撃を捌き続けるものだ。
「花丸さん。ご無理なさらず……万一の際は、いつでも」
「うん、ありがとう! その時は――お願いね!」
 が。如何な花丸といえど連続的に水撃を受け続ければ疲弊はする。
 故に――グリーフはいつでもその場を変われるようにと近くへ。只管に耐えるならば、グリーフは尋常ならざる堅牢を宿しており……数多の神秘を無効化する術をも持っているのであれば更に耐えるもの。
「……それにしても森の精霊とも言えるべき存在を手に掛けなければならなくなるとは」
 嘆きの抵抗激しく、戦いが激化する中――しかしグリーフはどうしても思ってしまう。
 深緑の領地すら預かっている己が森と敵対してしまうなど。
 ――ごめんなさい。
 心の中で謝罪一つ。それでも成すべきことを成す為に。
 収束させた魔力を――嘆きへと放とう。被害を少しでも少なくする為に。
『――■■! ■■■■■――!!』
「奴さん、怒り狂ってやがるなァ……! 水の射出速度が上がってるぞ! 注意しろ!」
「左右に開いたほうがいい――更に散開しましょう。纏まれば危険です」
 で、あれば。イレギュラーズの攻勢に嘆きは更に憤怒するものだ。
 故に更に出力を挙げている。自らの身を削る速度を速めようとも、敵を滅する事を優先しているのだ――気付いたレイチェルと寛治が警告を発しつつ、レイチェルは己が血液を振るいて魔術を形成。
 交差する。煉獄の焔と、復讐の流水が。
 痛みしかない。攻撃を受ける側も、攻撃をする側も。
 怒り。嘆き。悲嘆。憤怒。怨嗟。激昂。
 ――嘆きより感じる感情の渦は更に深く染まっていて。
「しかし、その怒りの増幅は追い詰められている証左でもありましょう。
 ――このまま数の優位をもってして押し込むのです。凌ぎ続ければ……
 限界が来るのは必ず向こうが先ですから」
「ええ。最初と比べれば、随分と減ってきているし――ねっ!!」
 それでも。どれだけの感情を撒き散らそうと奴は無限の存在ではない。
 己のすぐ傍に着弾する一撃――に一切動じずに寛治は狙いを定め続けていた。、核が少しでも水の守りから露出していれば、そこを穿つのだ。戦いを始めた折は奴の水にも余裕があり、中々そういった状況は訪れなかった、が。
 ジルーシャの蝕む投石が功を奏しているのか――確実に水の量は減りつつあった。
「ふふーん、アタシの力を舐めるんじゃないわよ、いくらでも撃ち出せるんだから!
 ほーら悔しかったら反撃して見なさ――うひゃああ!?」
「おっと。ジルーシャさんご注意を。まだまだ闘志には漲っているようです」
 それは後の事を考えずとも只管に――全力を投じていける、ジルーシャの卓越した充填力がある故にこそだった。思わずドヤッてしまう程に……まぁそんな事してたら苛立たれたのか、水撃もめっちゃ襲い掛かっては来るのだが。
 故にグリーフが位置取りを意識。ジルーシャへの狙いを逸らすように跳躍すれば、防ぎきるものだ――
 そして、やはり全体の戦況はイレギュラーズ側に優勢であった。
 嘆きの一撃は時に木すら抉りて、身を隠す場所として機能するかも怪しいが。されど元より散開し、一直線にならぬことを重要視していれば集中的に狙われても被害は薄い。何より花丸とグリーフが的確に奴の攻撃を防がんと立ち回れば全体の被害は尚に減る。
「あと一歩だ――もうほとんど核の周囲に余力はない。今なら容易く届く!」
「なら行きましょ。これ以上、こんな悲しい存在を残し続けるのは、不憫だもの」
 故に。花丸らの治癒を行っていたマルクは攻勢に転じる。
 幸いと言うべきか核は特別に堅い、と言う訳ではない様だ――ならばあとは力の限り全力で攻め立てるだけでも効果があろう。再度破壊の力を宿す砲撃を打ち込み、ジルーシャはその攻勢へと向かう者達の活力を満たす香術を一つ――
 美しい音色も響けば皆に戦う力を齎すものだ。
 そして己もまた、紫香に導かれ姿を現した黒き獣にて――核を狙えば。
「痛いよね。ごめんね――でも。必ず花丸ちゃん達が、元凶をいつか倒してみせるから」
 だから、もう眠ってと。花丸は五指を握りしめ、紡ぐものだ。
 膂力を一閃するは暗雲を貫くほどの威力を秘めており。
 空へと手を伸ばさんばかりの昇拳は――核を撃ち貫く。
 さすれば走る。核に、亀裂が。
「そこです。見逃しませんよ」
「もはやこれまでと悟ると良い。安らかに過ごせ――」
 直後。間髪入れずに寛治の一弾が亀裂の中心点へと襲い掛かり。
 愛無の奪命たりうる一閃は――最後の再生の余力すら奪うものであり。

「お前はよ――この森を守りたかったんだろ?」

 であれば、レイチェルもまた向かうものだ。
 奴さんが命を削って全てを壊すなら。
 ――俺もこの命を燃やして、その暴挙を止めよう。
 森をも傷付けるのは、本望ではないはずだ。自らを抉るなッ――!
「止まりやがれ!! どうしても止まれねぇなら、俺がやってやるよ――ッ!!」
 確実に葬らんとする程の全霊を此処に。
 己が肉体の限界を超越し、至高至大の焔にて――焼き尽くさん。
 さすれば残った水も欠片の如く。最早水撃を放つ余裕もあるまい……
「突如訪れた死への恐怖と理不尽への強い怒り、その胸中察するに余り有る。
 理解不能なモノに襲われ意図も分からぬ痛みに襲われるは――納得できぬであろうな」
 直後。『で、あれば』と咲耶は紡げば。
「ならばその無念の怒り、必ずやお主の怨敵へ届けよう。
 その魂は拙者が持っていくッ――!
 然らば眠れ、大樹の亡霊よ! せめて拙者達の手で安らかに逝くがいい!」
 最後の一撃を穿つものだ。
 完全に露出した核を狙いすまし、陰の者たる象徴の一閃を――此処に。
 紅牙流暗殺術。

 全力足り得る一撃が――悲しき嘆きを討ち果たした。


 激戦終わりて森は静寂を取り戻す――が。
 当然、周囲を覆う謎の茨はそのままである。
「普通の茨とは違うみたいだけれど……何かしら、これ。
 精霊達もほとんど活動出来てないみたいだし、不気味よね……」
「茨……『拒絶』の意思とは違う『眠り』の現象。何か拒絶をするならあの嘆きの様に殺せばよい筈。わざわざ眠りを選択するとは一体……いや、とにかく調査してみるでござろうかな」
 故に。ジルーシャや咲耶は思考を巡らせるものだ――
 これは一体何なのか。調べてみようとし、ジルーシャは精霊と意志を疎通させる術をもってして。咲耶は生物や精霊ではない式神によって――奥の方へと。どこまで進めるかと試してみて。
「ふむ。奥へと進んでみるか。虎穴に入らずんば虎子を得ず――とも言う」
「ああ。奥に踏み入れるのは危険と分かっているけれど……危険を冒さなければ分からない事もある。幸い、この近くには他に魔物の類はいない様だし、調査するなら今が好機だ」
 同時。愛無は心の平常を保つ意識と共に奥に進まんとし、マルクは式神を使役して先行させるものだ。何か異変があらばすぐさま感知できるようにと未知の解明を試みる技能も用いながら。
 このまま奥に進んでタダで済むとは思わぬ。
 しかしそれでも――この目で見うる何かが微かにでも見えればと。
「……この森は、何を拒んで閉ざされている?」
 意思を感じ取らんとするのだ。この茨を発生させた者がいるならば、その意思を。
 今この森には何が起きている?
 分からぬ。分からぬが、しかしこれが自然発生とだけは思えなかった。
 必ずいる筈なのだ――何者か。黒幕の様な何者かが。
 見渡す限りどこまでも茨が続いているのは分かるが――そもそもこれは植物なのか?
「……いや、違うな。これは……なんだ? 魔術の一端かなにかか……?」
「そうね……少なくとも植物じゃないわこれ。もっと何か別の……」
 さすればマルクや植物を調べていたジルーシャは微かに気付くものである。
 これは――茨は植物ではない、と。形の上では植物に見えるが内面は恐らく違う。
 ……では正確に何かと言われればまだ分からぬが。
 しかしマルクの身にも何か気色の悪い雰囲気が纏わりつくのが分かり始めて……
「茨に閉ざされた世界、襲う眠気──ったく。まるで御伽話の様な話だ」
 同様に、レイチェルも茨に微かに触れて調査を行っていた。
 普段の植物と違う所があるのか否か。
 気配は感じている――これは危険な雰囲気が内包されている、と。
 ……一体どのような人物であれば迷宮森林を覆う程の力を成せるのか。
 分からないが。が、ギリギリまで踏み込んでみるとしよう――情報を少しでも――と。
「うん――花丸ちゃんもチャレンジしてみようか。ファミリアーの子で見てみる!」
「……むっ、待つでござる。式神の動きが鈍くなって――ぬ!?
 茨に襲われているでござる……!!」
 直後。花丸もファミリアーを介して周囲を偵察。
 優れた三感をリンクさせ、素早く索敵してくのだ――が。
 その時見えた光景は、先行していた咲耶らの式神が茨に襲われている光景。
 ……どうやら奥の方では茨が襲い掛かってくる事象も在る様だ。
 厄介だ――これでは仮に眠らなくても進むのは危険。あのような茨が体に突き刺されば激痛にも苛まれよう……いや、それだけではなく。花丸のリンクした視界からは、どうにも魔物の類は幾らか動いている様にも見える……
 このままでは直接奥に先行したマルクも危険だ――
 彼を救出すべく呼び戻しに赴けば。
「……むぅ。これ以上の立ち入りは、危険な気がしますね。
 一度ラサの方に戻り、皆さんと情報を共有しましょうか」
「そうですね――私も賛成です。
 此処に留まり続けていて、また別の存在が襲い掛かってこないとも限りませんしね」
 であれば。周囲を警戒していたグリーフや寛治が撤退を勧めるものであった。
 この、近くの茨自体からはまだそこまで妖しい様子は見られない……しかし奥もそうであるという保証はないのだ。茨の向こう側に、共鳴に反応する何かがいれば――ともグリーフは思ったのだが、此処からでは位置が悪いのか分からないが特に反応も見られなければ。
 ここは一度撤退し、また別の地域を調べるべきではないかと。

「……それにしても、茨に覆われた森に、眠くなる呪いだなんて……

 ――小さい頃に読んだ童話を思い出しちゃうわね。
 去る直前。ジルーシャは一度だけ森を振り返り――言を零すものだ。
 あの童話はなんと言っただろうか。

 たしか――と。記憶の奥底を探りながら帰路に着くのであった……

成否

成功

MVP

ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら

状態異常

マルク・シリング(p3p001309)[重傷]
軍師
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)[重傷]
ベルディグリの傍ら

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ――
 謎の茨に覆われた深緑。
 R.O.Oのクローズド・エメラルドとは異なりますが、しかし閉鎖されたという観点では似ていますね……
 一体何が起こっているのか――それはまたいずれ。

 ありがとうございました。

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