シナリオ詳細
ちょこれいとなるもの、ランアウェイ
オープニング
●
――貴方に幸福を。灰色の王冠(グラオ・クローネ)を。
『Rapid Origin Online』。
季節物のイベントに敏感なMMOのことである。この一大イベントを見逃すはずはなく……ROO内でも、一部ではあちこちにグラオ・クローネの華美な装飾が施されていた。例えば、白いカーネーションや派手なハートバルーンなんかがそうだ。
神光が一角、霧島家に仕える朱槍もまた、「なにやら珍妙な行事が世の中にはあるのだなあ」と思っていた。
浮足立った町の気配に、そわそわと心が揺らがないわけでもないが、とはいえ、門番としてのお仕事をしっかりとこなして主様に少しでも貢献しようと背筋を伸ばしているのである。
と、そこへ現れたのは数人の少女たちだ。
「そこの! 何者だ? ふむ。届け物か……規則ゆえ、中を改めさせてもらおう」
押し合いへし合い、「渡しちゃいなよ! ほらほら!」と、押し出された少女が差し出してきたのは何やらにぎやかな包みである。
「『カイト先生へ?』 ふむ……先生?」
「あのあの、ここの家に入っていくのを見かけたので! ここにいるんだなって……」
師(センセイ)とは、少女が言うにしては奇怪ではあると思ったのだが、なるほど主のこと。センセイと慕われることもあろうと判断した。
「なるほど……。黎斗様に……ちょこれいとを渡したいと申すのだな!」
この場合はカイトを……もっと言えば霧島でなくカイトを指すのが正解だが、同じ容貌を持つ彼らの誰に付け届けをしているのか判別するのは門番には難しかった。
「オールバックを下ろしたらかっこいいカイトさんです!」「N名おりますが」みたいな混沌とした状態である。とはいえ、どう転んでも面倒見の良い彼らのこと、感謝か本命か義理か、そんなものが結構届いていた(誤配含む)。
「俺たちからも世話になっている分、何か差し上げたいものであるがなあ。女人の文化であるかなあ」
「もしもし? 俺だけど俺」
「! あれ。黎斗……様……?」
と、そこに立っていたのは黎斗(?)だった。たぶんそうだ……いや。なんだか違和感があるのだが、特にその時は疑問を抱かなかった。
「お出かけされていたのですか?」
「ああ。まあな。俺宛の荷物が届いてたら渡してくれるか?」
「はあ……」
というわけで、チョコレートを渡してしまったのだった。
●というわけなんだ
「神使殿、ようこそいらっしゃいました。神使様に姿を変え、ちょこれいとを自分宛てだと偽って持っていくキャラクターがいるとのことです」
「迷惑なことよね。どうぞ、よろしくお願いします」
つづりとそそぎが顔を見合わせる。
「みすみす偽物にちょこれいとを渡してしまうとは。不甲斐ない……!」
「で、詐欺にあったのか……。誰がどれ宛てなんだろうな、結局?」
不甲斐なさに震える朱槍に、アカークは首をかしげる。
リアル学園生活のみならず、ROOまでバレンタイン一色か、と。
「と、いうわけなのです神使殿。不肖俺、ちょこれいとを奪われてしまいました! 取り戻してください! で、できれば主にはどうかご内密に……」
キネマに映し出される奥では、チョコレートを集め、豪遊をしている悪党の姿がある。
計画的・組織的な犯行のようだった。
「ヒャッハー! チョコレートパーティーだ! 全部溶かしてフォンデュにしてやろうぜ!」
「丁寧に味わっていこうぜ!」
誰かが心を込めたちょこれいとを、奪取することなど許されまい……。
もしかしたら、あなたたちの中にも、うっかり詐欺集団に間違ってチョコレートを渡してしまったものがいるかもしれない。
あるいは、あなた宛てのチョコレートが届かないのは彼らのせいではないだろうか。
- ちょこれいとなるもの、ランアウェイ完了
- GM名布川
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年03月06日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●電子のチョコレート
(うーんR.O.Oは久しぶりだな。上手くやれるかな)
『よう(´・ω・`)こそ』ゼロ(p3x001117)は動きを確かめるように、ぐいっと背伸びをした。
長い髪が揺れる。
未だ不完全なバランスを持つこの世界であるが――ゼロのニュートライズがバグを散らし、ノイズを低減させる。
「おお、やるな……」
『結界師のひとりしばい』カイト(p3x007128)もまた不安定なオブジェクトを見つけると、結界で保護した。
「こっちもこっちでチョコレート騒動なのだねぇ。ボクにも一つわけて欲しいよ。
今年は貰えなかったしね」
と、ゼロは肩をすくめる。
「ポストマンのせいという訳ではないが、まぁ、やれるだけの事はやろうか」
「みんなで、なかよく、あまあま、です」
『ちいさなくまのこ』ベル(p3x008216)は、少し考えて不思議なポケットからチョコレートクッキーを取り出す。
「……あ、ボクに? じゃあ、これで一個。なーんてね。ありがとう」
「はい。おわったら、みんなで、食べましょう。ベルは、心のこもった、あまあまほっこり、チョコレートを、取り戻します」
『闘神』ハルツフィーネ(p3x001701)のクマも、ベルからクッキーを受け取ってまじまじとながめていた。
ベルは、ラベンダー色のクマさんだ。
フィーネはほうっとほっぺに手を当てる。
「つまりクマさん宛のチョコを騙しとられているのですか……。なんという不届き者な。クマさんも怒っています。激おこです」
フィーネはぎゅうっとクマさんを抱きしめる。クマさんはきりっと顔をあげ、ふんふんとちいちゃくパンチをする。
「チョコレートを、とられたです? クマさんのです?」
「……? 私宛のチョコなんてあるわけないので、そういう事だと思いますが」
イレギュラーズたちよ。君たちは自分で思っているよりも世界にモテモテだ――。
――ああ、こんなにも世界はやさしさに満ちているはずであるのに。
世界のどこかで、チョコレートが破損している。
非業の死を遂げるチョコレートの音がする。
カンペキなダークチョコレートが、粗雑に扱われてでろでろと溶ける。
「尊き思いを込めたチョコレートを盗むなど、非道にもほどがある」
『無名騎士』ウーティス(p3x009093)はチョコレートの声を聞いていた。 強奪によりぱっきりと割れたそのつらさはいかほどのものか。
(これは全力で始末せねばならぬ……チョコレートは壊さぬままに)
漆黒の鎧を纏い、ウーティスは一人決意していた。
「チョコレート。まあ……。もらえるなら欲しい? のかな? 人のを奪ったところで楽しいのかな。わかりませんけど……」
「だねぇ……なんでとっていくんだろうねえ」
首をかしげる『月の裏側』ヴィオラ(p3x008706)に、『水底に揺蕩う月の花』エイラ(p3x008595)は苦笑する。ベルからもらったクッキーは、大切にしまっておいた。
「あっちににげていったらしいです。ニセモノも、たくさんはしっても、つかれないらしいれすねえ……」
『シュレティンガーの受理』樹里(p3x000692)は足跡を確かめていたが――しゃがんでいてもなお小さい。小さな段差に躓いて、ぺちっとこけかけるのをフィーネのクマちゃんが押しとどめてくれた。
●切なる祈り
さて、偽物をなんとかしないとならない。
「地味にめんどくせー話をしようか。
……俺、そんなに釣られるような要素が思い浮かばねぇってことだよ」
「ボクも、まあ。そうなんだよねえ。うーん、餌、餌かぁ」
と、カイトとゼロは顔を見合わせる。
「ちょっとボク思いつかないからその辺は任せるね。自分が釣られるモノってそうそう出てこないんだ。そもそもボクの偽物っているのかなぁ?」
「あれだねえ。カイトの前に、すごーく困ってる人でも置いてみるとか?」
「どういう意味だ」
エイラはふふー、と笑った。
「私が好きそうなもの。……あの人?」
ヴィオラは優しい表情を浮かべる。
「でもねぇ」
「ねぇ。エイラもねぇー、ひとつ、思い付いてるんだ。でも……」
それは大切な思い出だ。だから、こんなことに使いたくはない。
「……普通にチョコでおびき寄せようかなぁ」
作戦を各人が練っている中……。
「おまかせください。わたしを釣るのはひじょーにかんたんです」
進み出たのは樹里だった。じゅりセンサーがぴこぴこと動いている。
「といいますと?」
こくり、と樹里が頷いた。
樹里が求めるものはひとつだけ。
神聖な唇が、聖句を紡ぐ。すう、と、息を吸って……。
「受理がほしいひとこのチョコとーまれ」
ぽーんと掲げたチョコレートは、効果音を伴ってきらきら宙に浮いた。
「ええと、……とりあえず、お手伝いしましょうか」
ヴィオラの歌声が、窓を開けたことを世界中に知らせる。
受理が欲しい人このチョコとーまれ……。
とーまれ……。
その声にひかれてぽてぽてとやってきたのは、ちいちゃな樹里たちだった。
「さすがわたし、ちょろいですね」
「受理ってなんなんだろ?」
と、首を傾げるエイラ。
「いえ、せいかくには本体たるわたしは受理がほしいのではなく、受理のために祈るだけですが。……れっかばんですし、きっとそのあたりのきびはつかめないことでしょう」
「よし、そうか」
カイトはとりあえず理解の範疇に入れた。
『私が欲しいものは平和、受理、理解。そして何より私よりも大きなチョコボール』
「……祈りに似ている」
と、ウーティスが呟いた。
「切なる祈りだ……」
ころん。ころん、と、道の隙間から小さな樹里が現れる。
ヴィオラがひょいと逃げ出す一人に背後から近づいて、持ち上げた。
聖句を聞くと、チョコレートを残して、ぽんぽんと消えていった。
「心のきずは、チョコがいやしてくれることでしょう。これも受理のおぼしめしです」
樹里はそっと祈りを捧げ終え、ふう、と息をついた。
「チョコが食べたくなりましたが……ほかの方のせんとーのサポートがさきですね。チョコはせんとー後のデザートです」
●真心を込めて
「そうね。普通にチョコレートでおびき寄せましょうか。あなた、冷やしてくれる?」
「結界術? まあ、いいけどな」
「エイラも協力するよぉ。くらげ火でねぇ」
と、チョコレート作りに励むヴィオラとエイラ。
「手作りなら文句も言われないでしょう! 多分!」
「ついでにぃ「最も強い貴方へ」ってぇ添えておこうかぁ?
ふふ、エイラの偽物ならぁこれで釣れるかなぁ」
と、ヴィオラとエイラがチョコレートを作り出す隣で、カイトとゼロは普通にショップで購入した。作っても良かったのだが、たんなるエサだし。
「よいしょ、よいしょ」
フィーネは、自身のクマにリボンで可愛く飾りつけをして、赤のお洋服を着せる。仕上げに、ハートのチョコレートを持たせれば……完成だ。どこからどう見ても完璧な、バレンタイン仕様のクマちゃんである。
「……どうせ生徒のことだろうし俺らの見分けまったく付かねぇだろうしなぁ!!
だからゲーム内で渡すとかまじで勘弁して欲しいんだよ!!!!!!」
「そ、そんなことはない!」
ふーっと息を吐いたカイトが朱槍を見るまなざしはどこか主に似ている。
「黎斗のやつだけじゃなくって俺もいるし非常に紛らわしいだろ?
見分けるコツ? 俺は右目が青で左目が赤な。そんで、たぶん黎斗が赤目で。黎斗が兄貴って言ってる奴……戒斗が青目。どちらもおそらくオッドアイですらない筈……だぜ?」
「ふむふむ……はっ、いや、教えて貰わずとも分かっている!」
「どうだかな。で、そこの偽物。たぶん目の色の組み合わせがたぶんおかしい」
最初に釣れたのは、カイトとゼロのニセモノだった。
配色が入れ替わった、ニセモノのカイト。
「え、……コレ?」
ゼロのニセモノは、どうやら装甲車だ。しかし、ミニカーサイズである。チョコレートを引っかけて持っていこうとしている。
「小さいな。的が。上手くできるかぶっつけ本番に近いのだけど」
「いけるさ」
カイトは既に陣を敷いている。
待ち伏せ、なのだ。この状況でカイトが遅れをとる理由がない。
景気よく弾を撃ってくる戦車の攻撃は、オブジェクトには届かない。
「通さない、です」
そして、ベルが立ち塞がった。
カイトの技は、七星結界・破軍の呪剣……の、威力を限らせた限定版といったところか。場が凍り、あたりはゆっくりと冷えてゆく。
それに比べたらニセモノの術はなんと劣ったものだろうか。それっぽいだけで全く用をなしていない。ほころびだらけの、隙だらけ。
「迷惑かけないうちに……さて始めよう」
ゼロの無限の刃。その幻影は小さなナイフとなっていた。サークルスローターが戦車の装甲部に挟まり、動きを止める。
「危なかったですね」
ヴィオラが突き出す剣がチョコレートを受け止め、それは、カイトの陣の中に素早く収納されてゆく。
これで、保護は完了だ。
「ボクの名誉のためにもね」
装甲車モード。主砲がぐい、とミニカーを向き……。
爆風が降り注ぎ、ニセモノたちは一気に吹き飛ばれた。
姿形は似ているのだけれども、その技の精度を見ていればすぐに分かる。
(自分の偽物がいるのって、なんかイヤだろうしね)
だから、照準は外していた。
「終わりだ」
カイトの一撃が、ニセモノを葬った。
●クマさんとチョコレート、そして勇者と騎士
「私の偽物であれば、これで町中を歩かせていれば必ず釣れるはずです。
むしろ釣られなければ私の偽物を名乗る資格などありません。論外です」
フィーネは満足そうにとことこと歩くクマのあとを追っていく。
立ち止まって片手をあげるとほう、とため息をついた。
「私が今ここで持ち帰りたい位なのに。
はぁ……とことこ歩く姿、とってもラブリーです……。……あのう……ちょっと、一緒に歩いてもらってもいいですか?」
「? はい」
ベルも一緒に歩いていくと……。
びゅっと飛びつく影がある。
「来た!」
ニセモノフィーネに、いち早く気がついたのはゼロだった。ヴィオラが素早く退路を塞ぎ、ウーティスもまた、素早く死角へと回る。
セイクリッド・クマさん・フォーム。神々しい輝きが正義のクマさんを体現する。
「がおー」という勢いで両手を挙げると、コアリクイのようにぺたーっとびっくりする。
果敢なクマさんクローが、ニセモノを壁に追い詰める。
そして……。
「ありました、チョコレートですね」
ニセモノが止まる。いや、それはフィーネではありえない。
「そのクマさん愛は外面だけを装っただけのものではないですか?
心からクマさんを愛していますか?
いいえ、そんなわけがないですよね? クマさん宛のチョコレートを自分の物にする? そこに一体どのような愛がありますか?
貴方はクマさんも、クマさんのファンも侮辱しました」
はっきりとした、意志の強い瞳がニセモノを射貫いた。
「ふふん。なにせぇ毎週闘技場でぇ本物のみんな相手にぃ最強を競ってるぅエイラやくまさんだからねぇ。足元にも及ばない劣化版だなんてぇ敵じゃないんだよぉ?」
だから、愛をもって、改心するまで――容赦なく。
エイラは体を揺らして微笑む。
「安心して下さい。クマさんのツメは例え不届き者であっても命までは取りませんので」
ニセモノを蹴散らしたあと、フィーネのクマがひょいと無事なチョコレートをフィーネに渡す。
「え、クマさん……これは、私に?」
「しかし、ニセモノは本当に性質を真似ているようだな」
「だとすると、ウーティスさん」
言いかけるゼロに、ウーティスは頷いた。
「ああそうだ。私と似た技を使う者がいるとなると厄介だ。知っての通り、私は足が速い。劣れども機動力もある、つまり……だ。しかし……」
「作戦があるんですね」
ヴィオラが言い、ウーティスは肯定する。
「貴殿はどうだ?」
「ベルのニセモノさんは、きっと、ニセモノ勇者さん、です。
きっと、助ける代わりに、チョコを貰うような、悪い人、です」
「……貴殿を真似ているだけで、貴殿そのものではない」
「分かっています……」
フィーネのクマにはげまされるようにして、ベルはすう、と息を吸った。
「誰か助けて下さい。助けてくれたら、チョコレートをあげます」
叫んだところで、ベル――いや、容姿端麗の勇者が現れる。
「ニセモノさん、勝負です。
ベルに勝ったら、チョコレートクッキーを、あげますよ」
「ああ、クマさんがもらえないものでしょうか……」
フィーネがクマとともに応援をする。
「あれは……」
皆の勇者になりたいと願うベルの気持ち、それが、勇ましくも可愛らしいオーラとなって降り注ぐのだ。
「がおーっ」
ニセモノが吠えていた声は小さくなり、ぴゃあ、と泣きそうな顔になる。
「えいやー」
くま斬りが、奪われた包みをぽすっと落とさせて、それをエイラが回収する。
……ほっとしたところで、またしてもの戦いの気配。
雷鳴が響く。
ウーティスのニセモノだ。素早い剣が振り下ろされようとしたが、クマに戻ったベルはなんとか受け止める。
ゼロの刃が、続けての攻撃を弾き飛ばした。
ウーティスを引き寄せるもの、それは勿論……。
「――よかろう、決闘と参ろうか」
ウーティスは、高所からその戦場を見下ろしていた。
「人の思いを踏みにじる盗人よ、私を騙る者よ、どちらが正しいか黒白を剣によりつけようではないか――チョコレートをかけて、貴殿に決闘を申し込む!」
名もなき騎士の名乗り。颯爽とマントをなびかせつつ、ウーティスは衆目を集めていた。
無論、これは作戦の一つ。
(チョコレートが破壊される恐れはこれで少なくなるだろう。向こうも騎士を気取っているならば、な)
「手出しは野暮か」
カイトは慎重に結界を張り巡らせておいた。
丁重に預けられたチョコレートの箱を横たえ、二人の騎士が向き合っている。
ウーティスは包みに小さく口づけると、聖なる誓いをチョコレートに込める。
二筋の光が、空間を斬り裂いた。
カキン。
カキン。
剣が音を奏でる。漆黒の影が二つ、舞踏する。
勝利を分けたのは、騎士道の精神。
追い詰められたウーティスの影がチョコレートのもとへと走る。貪欲な姿勢は嫌いではない――が、間違っている。
ウーティスが剣先ではねあげた包み。それに気をとられているニセモノに切っ先を突きつける。
「ほい」
超しゃてー聖句が、ウーティスの影の目をくらませる。ルールを逸したなら、手助けしたってかまわないだろう。
「盗人よ。チョコレートを貰えぬが故に犯行に走ったのか?
グラオ・クローネの菓子は、渡すものの幸福を願うもの。貴殿らは、思いを奪い、そして幸運を盗み取ろうとした――。
だれからも思われぬが故に」
がくりと膝をついた騎士は、でろでろと影に戻っていった。あとに残ったのはチョコレートだ。
落ちてくるチョコレートを、エイラがパスして、空中を跳ねたヴィオラが受け止めた。
●ホントの気持ち
さて、残ったのはエイラとヴィオラだった。
「……来ますね、私なら」
「そっかあ。あれが、エイラのニセモノかあ」
ふよふよと漂っている、エイラのニセモノ。
大切な貴方へ。大切な人への思い出。文字に惹かれる……読みは間違ってない。エイラがぽっと火をともすと、エイラもゆらゆら揺れた。
「こっち、見てくれたねぇ」
そして、影から飛び出した紫のネコを、ヴィオラは後ろから捕まえる。
「ネコさん、です、ね」
ベルが気合いを入れるように構える。
「いいでしょう、樹里も、きあいをいれます」
聖句が満ちる。
「エイラぁ何気に苦手なタイプってぇ自分と同系統の相手なんだよねぇ。
千日手になっちゃうからぁ。
つまりぃ本来ならぁ自分が互いに天敵なんだけどぉ。
劣化版ということはぁエイラぁ完全に有利なんだよぉ?」
同じようなすがた、けれども違う思考回路。
相手がくらげ火を選んだのに対して、エイラの返答は美しい氷結のメデューサだった。
電気クラゲのびりびりが、取り囲んでいる。
エイラは途切れない。
――どうしてこんなに、真剣なのかって?
思い出は。
その一挙手一投足は。
(主と一緒にぃお菓子作ったり食べたりしたなぁとか思い出したり。
主と旅していた時代のもののアレンジだからねぇ)
だから。
だからね、真似されるのは。
「自負もあるしぃ誇りもあるんだよぉ」
悪いことをするというのは。
(偽物ぉチョコ泥棒もだけどぉ)
「それぞれ拘りのアバターの真似をされてぇ犯罪に使われるというのはぁ。
とても悲しいことだからねぇ」
その通りだ。
ウーティスの判決の刃が、降り注ぐ炎を弾き飛ばす。カイトの氷結が、場を凍てつかせる。
たとえ、イタズラのようなちょっとした被害だとしても――それは、誰かの大切なチョコレートだ。
(大事な誰かの心のこもったチョコレートが壊れないように)
ヴィオラのしなやかな動きは美しい舞いだ。
足音はしない。
「私の姿で悪いことをするのはめっ、ですよー! お仕置きです! にゃん!」
不意打ちの一撃が、チョコレートを無事に取り戻す。
「チョコはせんとー後のデザートです」
と、樹里はチョコレートをぽりぽりと小さな口で頬張っていた。
項垂れるネコはヴィオラの姿になるが、ヴィオラはチョコレートを差し出す。
「これは紛れもなく、貴方に差し上げる貴方の分です。だからもう人の分を奪っちゃだめですよ?」
ぴょん、と喜ぶ表情に、
「……あっ、義理ですから!」
とつけたした。
「人騒がせだったな、ホントに」
と、カイト。
大切なものはなんだっただろう。この世界のこだわりを、自分がアバターを待とう意味を、それぞれが頭に浮かべながら、無事に取り返したチョコレートを見つめる。
「これで、主様に喜んでもらえる!」
と、朱槍が微笑み。
誰かを喜ばせるための贈り物。……まあ、そういうことではないかと。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
イレギュラーズのみなさんにチョコレートを配りたい……配りたい……。
そんな欲求からのシナリオでした。
ありがとうございました!
GMコメント
●目標
チョコレートを取り戻す(食べられる前に)
●状況
『ポストマン』と名乗る集団が、姿を変え、チョコレートを人々からだまし取っています。
●敵
偽ポストマン×偽物の数だけ
「俺俺、俺だよ! 〇〇だよ!」
偽のPCに擬態し、預かっていたチョコレートを奪い取っていった迷惑NPCです。もしかするとPCの中にも騙された人がいるかもしれません。
不完全な擬態能力があるようです。語尾も微妙に違ったりします。人によっては全然違うかもしれません。
魔法少女の変身に気が付かないようなものです。お約束です。
いまもROO内で猛威をふるっているようなので、なんとかしておびき寄せてやりましょう。
チョコレート、もしくは自分ならこれに釣られるな……という餌でおびき寄せることが可能です。みなさんを真似してはいるものの、すごく騙されやすいです。
生意気にも偽のそれっぽい技を使ってきたりするようです。が、精度はみなさんの足元にも及びません。
チョコレートが破損しないように注意して倒しましょう。
●ROOとネクストとは
練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、バグによってまるでゲームのような世界『ネクスト』を構築しています。
R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に自分専用の『アバター』を作って活動します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline3
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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