シナリオ詳細
白百合の香りは血の匂い
オープニング
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恋に『落ちる』とはよく言ったもの。落ちてしまったら戻れないの。
戻れないのに――他の人を見そうだから。わたくし、不安で、怖くて、嗚呼、眠れないほどに!
だから、だからね。わたくしを見て。わたくしだけを愛して。いくら貰ったって満たされないの。満たされたいの。満たされないの。ねえ、貴方が欲しい。
貴方が、貴方の命ごと、欲しいの。
貴方の赤がわたくしの白い肌を色づける。なんて素敵でしょう。赤を全身から被ってしまえばまるで貴方に抱きしめられているみたい。うっとりしてしまうわ。
けれど、ええ、ええ、わかっているの。もう貴方はわたくしを見てくれないのね?
わたくし、もう昇っていく事なんてできないのに。渇きを知ってしまったのに。
満たされたい。満たされない。満たされたい。満たされたい。満たされたい。満たされたい。満たされたい。満たされたい。満たされたい。満たされたい。満たされたい。満たされたい。満たされたい満たされたい満たされたい満たされたい満たされたい満たされたい満たされたい満たされたい――。
だからわたくしは。もっと、『恋』という名の奈落の底へ、墜ちていく。
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「『白百合の君』を殺して欲しい」
第一声は非常に不穏なそれであったが、集まったイレギュラーズに動揺の色は見受けられない。元よりそういう依頼だと知って集まっているのだから。
『黒猫の』ショウ(p3n000005)は彼らの様子を一瞥し、一枚の羊皮紙をテーブルへ滑らせた。送り主は監獄島だ。
その通称がついた小島は幻想沿岸部に存在している。治外法権が当てられ、あのアーベントロートすら暗殺の手が届かない場所だ。監獄島には数多くの囚人が収容され、各自にドッグタグがつけられている。囚人というと酷く拘束的な響きだが、監獄島についてはいくらかの自由が存在するのだ。
その自由を握るのが島の実質的な権力者であるローザミスティカ。元社交界の花である彼女は、監獄等内部で『薔薇のコイン』という貨幣を流通させているのだ。それらを使えば、囚人たちはローザミスティカの管理のもとで、嗜好品や娯楽を楽しんだりすることができる。
その島から出された暗殺依頼。『白百合の君』もロクな人物ではないだろう。
「No.46『白百合の君』。……察しの通り、彼女は脱獄者だ。このままだと足取りを眩ませ、再び混沌中で暗躍することになるだろう」
彼女は恋するシリアルキラー。イイ人を見つけると殺して自分のものにしようとする癖がある。可憐な佇まい故に白百合などという通り名を付けられてはいるが、その気質は凡そ花の見かけと離れているだろう。
「1人を定めてしまえば他を狙う事はないが、殺してしまえば次を探すらしい。まるで宝物を集める子供のようだね」
しかしそれを指摘したとて、彼女が止まることはないだろう。恋とは落ちてしまえばどうしようもないもの故に。
「監獄島から逃げおおせた囚人だ。たかが1人と思わず、気を付けて事に当たってくれ。それと――あくまで他者から見れば、キミたちが行うのは殺人だ。くれぐれも大衆の前で事を成すようなことは避けてくれ」
数人であればもみ消せるかもしれないが、大々的に殺人を行えば後ろ指をさされるのはイレギュラーズだ。そのことを念頭に、イレギュラーズは殺人の計画を練り始めた。
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嗚呼、この人、素敵。
でも心配だわ。わたくし以外を見てしまうかも。ええきっとそうなの。そんなの怖いわ。嫌よ。絶対嫌。
だからお願い。こっちをずぅっと見ていて?
- 白百合の香りは血の匂い完了
- GM名愁
- 種別通常(悪)
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年03月01日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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夜の帳が降りきって、生きとし生けるものたちが静かになり始めた頃合い。とある貴族の邸宅へ近づく8つの影は、かの屋敷の照明が灯っていないことを確認する。流石にもう就寝しただろうか。
「それにしても……フフフ、見知った方が多いと安心ですねー」
「ええ、ええ、まあこの手の仕事に集まる面子といったら……ね?」
『《戦車(チャリオット)》』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)と『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)は意味深に視線を絡める。
ローレットは持ち込まれた依頼が善だから、悪だからと拒絶する事はない。けれどもローレットに在籍する大多数のイレギュラーズは『善人』なのだ。こうした依頼を受ける者というのは、おのずと限られてくる。性格なども知っている分、ある程度決まった面子というのは逆にありがたい。
でもよぉ、と『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)はため息をついた。悪人が貴族で、美人の救出劇になったほうが格好良いし役得で最高だったのだが――現実はそう甘くない。
此度の標的は美人の方。監獄島からの脱獄犯であり恋するシリアルキラーだ。
「ムショの中くらい、大人しくできないものかね」
呆れたような『フレジェ』襲・九郎(p3p010307)の言葉にできないんだろ、と『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)が返す。大人しくできるような性格であれば、今頃脱獄などしていなかっただろう。
(恋に生きるオンナなんて、物語の中だけにしとけっつーの)
あれで幸せになどなれるわけもないだろう。最も、『彼女』はだいぶ歪んでいるようだが。
「ま、オレとしちゃ金が貰えりゃいいんだよ」
「私は脚が欲しいですねー……ウワサの色白な美しい脚……」
人によって欲するものは様々だが、それはそれ。目的がクリアできさえすれば良いのだ。
「それじゃあ行きましょうか。もう良い時間です」
ライの言葉にイレギュラーズたちは作戦を開始する。闇夜に紛れ、邸宅へと忍び込むのだ。
(白百合の君、どこにいるのかな……?)
『Merrow』メル=オ=メロウ(p3p008181)は闇に乗じながら邸宅を見上げる。彼女を殺したなら、恋をしているという貴族は哀しむだろう。強盗団に殺されてしまったという悲劇の女性は彼の心へ永遠に刻まれる。その貴族も亡くなったなら、その恋は永遠になるだろう。
(それって案外悪いことじゃない……ううん、寧ろ素敵な話だよね……♪)
くすり。忍びやかな笑い声は、誰にも聞かれず零れ落ちた。
邸宅に入ると『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)がわぁお、と声を上げる。
「さすが幻想貴族ってやつだねっ!」
「しーっ……あたしたち、強盗団だよ……?」
「あー、そういえばそうだっけ?」
めんごめんご、と小さく手を合わせる秋奈。幸いにして、人の気配はなさそうだが……ターゲットである白百合の君もどこにいるのかはわからない。
「誰の気配も……なさそうだね……♪」
メルは唇に弧を描く。これなら動きやすそうだ。ことほぎが暗がりへと手招きするままに一同は移動を開始する。
(室内となると、囲まれちまったら面倒臭いェな)
ことほぎは素早く暗がりから暗がりへ、できるだけ私兵に見つからないようにと歩を進めていく。秋奈は息を止めて――呼吸なんて私にはいらないのだ!――出来るだけ気配を殺し、見つからないようにと勤めた。
(誰かと遭遇するかしないか……運次第ですね)
先陣を行く仲間たちを追いかけながらライは視線を巡らせる。点々と非常灯が設置されているものの、視界は悪い。しかし仲間の――九郎の暗視をもってすればそれも大したことはない。全く見えない場所ならともかく、ぼんやりとでも灯りがあるのだから十分だ。
不意に、彼の耳へ小さな物音が届く。メルも同じだったようで2人は顔を見合わせ、敵の気配を察知できるサンディへ視線を送る。しかし彼は小さく首を振った。
(敵意はない……?)
九郎は訝しみながら音のする方を向く。こちらに気が付いていないか、もしくは全く情報外の――。
やりすごせないかと一同は息を詰め、気配を殺し。しかし流石に逃れるのは難しいか。
「っ!? なん――」
「しーっ。声を上げちゃダメ」
2人組か。メルがすかさず私兵の前へ滑り込む。しぃと唇に手を当てたなら、その瞳が妖しく光って。
「ぐっ……な、なんだ……?」
「邪魔しないで、何も言わずに道を空けて…♪」
歌うようなメルの声。続いて『キリングガール』玖珂・深白(p3p009715)が堂々と――案内の一つもなくいる客人だというのに――自身らの目的を述べる。
「この屋敷に女性が匿われていますね?」
その女性は元貴族であり、暗殺者に狙われている。身の内を明かしていないものの、追手を撒いたわけではない。故に、自分たちが助けに来たのだと告げた。
「是非面会願えればと人目を忍んで参じたのです」
ことほぎもちらりと魔眼をちらつかせ、あたかもお忍びで来た従者のような雰囲気を見せる。ライの強化もあって、相手は細かいことは気にしていないようだ。こちらとしても一時的に凌げれば良いのだ。
「本当か……?」
「大丈夫……大丈夫。力を抜いて」
身構えることはないのですとライが優しく諭す。まさしく敬虔で優しい聖職者であるのだと言わんばかりに。
(いけるか……?)
サンディはその後ろでこそこそ隠れつつ、それとなく注意を周囲へと伸ばす。他にも巡回の私兵が来ないとは限らない。来るのであればことほぎたちに相談して、早急にこの場を離れた方が良いだろう。
「私たちは聞きたいことがあるだけなのです。あなた方がそれを話しても話さなくても、結果に変わりありません。変わらないのであれば……ご自身の無事を優先した方が建設的でしょう?」
「自分の、無事……?」
「ここで言っても、あなたは何も悪くない。むしろ、真に勇気ある正しい判断ですよ」
「そう……言えないなら、ただ道を開けてくれるだけでもいいの……♪」
ライとメルが重ねがけるように言い募る。
まるで、彼女の場所を教えることが悪いことであるかのような。
まるで、ここで彼らを『見逃す』ことが正しいとでも言うような。
彼らが本当に彼女を守りに来たのであれば、その部屋へ行くことは正しい事ではないのか――?
「ちがう……何か、おかしいぞ……!」
「あーあ、だめかぁ」
様子を見ていた秋奈は小さく肩を竦める。だが、ここで応援を呼ばれるわけにはいかない。彼女が口上を述べようとして、メルが掌に昏き月を顕現させ。また九郎が腰に差した日本刀の柄へ手を当てる。
――その間に、1人の首がごろんと転がった。
「う……うわああ!!」
「あ、ちょっと間に合いませんでしたねー」
もう1人も叫び終わる前に切り伏せて、ピリムは絶命した者たちの脚を見やる。白百合の君ほど綺麗ではないだろうが、折角の脚だ。頂いて行こう。
「殺さなかったら……居場所を聞き出せたかもしれないのに……」
「あー……その可能性もごぜーましたか。でもほら、面倒になるんだったらその前に始末しちまったほうが良いと思うんですよー」
小さく口を尖らせるメルにピリムは頬を掻く。どうせ全部殺るつもりだったのだ、後か先かなど誤差ではなかろうか。とはいえ、彼女の言葉も一理あるもので。
何はともあれ、新たな私兵がすぐさま向かってくる様子はなく、早々にイレギュラーズはその場を移動することにした。手がかりはなし、振り出しに戻ったことになる。
そこから何度かの説得なり交戦なりを経て、どうにか彼女の居場所を突き止めたイレギュラーズは、揃って顔を見合わせた。
今、彼女の部屋を貴族が訪れているらしい。
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「最近はよく眠れているかい?」
――ええ、ええ。貴方のおかげよ。
「欲しいものがあったら言うんだよ。可能な限りなら叶えてあげよう」
――本当に?
試すような、けれどどこか冗談めかした言い方に青年は破顔した。もちろんだとも。愛する人の為ならば、共に幸せになるならば、尽くそうじゃないか。
――それじゃあね、ひとつだけ欲しいものがあるの。
「なんだい? 言ってごらん」
――きっと貴女は無理って言うわ。
拗ねた表情も可愛らしいけれど、君には笑っていて欲しい。だから青年は大丈夫だよと返した。何の根拠もなく、彼女の願いならそれもまた可愛らしいものだろうと。
彼女は青年の言葉を聞くと、ようやく花が綻ぶように笑った。それからすぐに悲しい顔をしてみせる。部屋の外の音だろうか。守るよと告げればそうではないと返ってくる。
悪い夢を見るの、と呟いた。それはこれまでより一層小さな声で、青年が触れるくらいに近づかなければ聞こえないくらいに。だから青年は彼女をそうっと抱きしめて、どんな夢なのか問うた。
彼女から青年が離れていく夢だという。そんなことあるはずもないけれど、真剣に悩んでいる彼女にそんな軽い言葉はかけられない。故に、彼は自分がどうしたら良いのかと彼女へ聞いてみる。
「あなたの命……その命を捧げてもまだ、愛せるというのなら。わたくしはきっと、信じられるわ」
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「……ここか」
やれやれと言いたげにことほぎは目の前の扉を睨みつけた。『彼女』の部屋はここらしい。
(大人しく殺されてくれるようなタマじゃねーよなァ……)
ここまでも何だかんだ面倒臭かったので、さっさと終わらせたいところだが、そうもいかないだろう。
「……うん。いるみたい……♪」
耳を澄ませたメルがにっこり笑う。深白は皆をそっと手で制すと、小さくノックをした。
暫しの静けさ。応えはない。メル曰く気配はあるものの物音はないそうなので、2人で仲良く眠ってしまっているのか。深白は扉をそうっと開いた。
大きな窓から差し込む月明り。影が抱きしめ合う2人を逆光で照らす。お熱いことで、と思いながら深白は私兵たちにしたのと同じ説明を2人へ始めた。
まずは貴族を引き離し、彼女をあたかも自分たちが守るように信じ込ませることが大事だ。屋敷のどこか別の場所へ移動してくれてさえいれば、殺す必要もない。
説明は手短に。1分もかからない程度の尺で説明し、だから屋敷の奥へ避難して――と言いかけたところで。
ずるり。
重なっていた片方の影がゆっくりと絨毯へ崩れ落ち、真っ白な顔が月明りに照らされる。2人を分け隔てた空気が鉄錆の臭いを伴ってイレギュラーズの方へ流れた。
「――嗚呼、やっぱり、あなたもそうなのね」
立ちすくんでいた彼女はゆっくりとイレギュラーズを振りむく。その頬を流れる涙は美しく、されどこの現状は紛れもなく彼女が青年を殺害したのだと知らしめた。
「辛そうね? 『白百合の君』さん?」
「ええ、ええ。わたくし、とっても辛いわ」
青年が倒れたその瞬間。彼女が動き出すより先にイレギュラーズたちは部屋へとなだれ込む。サンディは全員が入ったのを確認するとすかさず扉を閉めた。
(取り逃がすわけにはいかないからな)
ぐるりと回り、開かれた窓も締めにかかる。バリケードになりそうなものは――手近にある椅子くらいしかないか。しかしこれに時間ばかりかけるわけにもいかないだろう。
そしてその間にピリムが深く床につくほどにかがみこみ、しなやかに床を蹴って白百合の君まで素早く肉薄する。薄皮1枚を裂いた彼女へことほぎは紫煙をくゆらせる。魔力の籠った吐息は術式を構築し、彼女の元へ。
「その魂、剥き出しにさせてもらうぜ?」
一切の不浄を漂白し、劇薬のような効果を起こす意地悪な魔弾。的確なそれが白百合の君の足をもつれさせる。その余裕をさらに削るように、九郎の狙撃銃が火を吹いた。しかし翼を広げた彼女は天井近くへと逃れながら暗器でイレギュラーズたちを翻弄する。
「――やあやあ、殺しちゃったのかい? 人ってのは脆いもんだぜっ?」
秋奈の奇襲を狙った攻撃を宙で回避した白百合の君。着地した彼女へ負けじと肉薄した秋奈はにぃっと笑う。
「戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! 有象無象が赦しても、私の緋剣は赦しはしない! 大人しくボコられな!!」
「まあ、」
彼女の言葉に顔を軽く顰めた白百合の君ははっと横から飛んできた攻撃に半身ずらす。ロザリオを握ったライは邪気の欠片もない顔で微笑んだ。
「ねえ白百合たそ、その脚もらえませんか? 綺麗なお洋服で隠れてしまっていますけれどシミひとつなく色白ですべすべな美しい曲線を持っているんでしょう?」
ねえ? と足の付け根を露骨に狙った攻撃が彼女を襲う。対するピリムは洋服の下に隠された脚を想像してか恍惚とした表情を浮かべ始めていたが、あくまで頭の底は理性的に。彼女の攻撃に直撃しないよう気を付けながら、それがどのようなものであるのか解明するように少しずつ自身へ掠らせる。
「ふうん。その暗器、毒が塗ってあるんですね?」
そう告げれば、部屋の中にいる仲間たちには伝わるから。
ことほぎの手にした煙管から燻る煙は、彼女を黄泉へ連れて行かんとする亡者の群れを起こす。狙う先の彼女を大きく逃してしまわないよう、秋奈は身体を張って邪魔をしながらすかさず一閃を叩き込んだ。
「私ちゃんとダンスに付き合ってよ」
「こんな悲しいのにダンスなんて。それに『ぼこる』つもりなのでしょう?」
そうだぜっ! と元気な秋奈。メルは窓際へと移動しながら流れた血を操り、彼女へ仕掛けていく。狙うは足か、翼か。支援するように続けて九郎の銃撃が白百合の君を襲い、その白い肌に朱を散らした。
しかし彼女は随分と身軽なもので、そのくせ攻撃力も油断ならない。傷を負っていく秋奈にサンディは回復を施す。
「まだへばるには早いだろ?」
視線だけで秋奈は肯定する。8人がかりで殺害を依頼されるだけあって強い。手抜きをするつもりはないけれど、すこしでも気を抜いたら負けてしまうだろう。
少しずつ彼女のスカートが裂け、チラ見えする脚にピリムがほうとため息をつく。
「流石に噂通り美しい、是非欲しいですねー……その脚」
「……この方、どういった性癖の持ち主でいらっしゃるの?」
先ほどから並々ならぬ『脚』への執着に、さしもの白百合の君も敵であるイレギュラーズへ聞いた。問われたイレギュラーズはイレギュラーズで――見たままですとしか言いようがないのだが。
「いいえ、どのような方でも構いませんわ。だって、わたくしを殺しに来たのは変わりないでしょう?」
秋奈からひらりと距離を取り、その視線はことほぎへ。肉薄してくる彼女へ、ことほぎは咄嗟に迎撃をかます。先ほどから後方で戦っているから、このような距離で戦う術を持っているとは思わなかったか。確かに彼女の領分ではあろうが、思わぬ反撃に白百合の君の瞳が軽く見開かれる。
――が、ことほぎにとって不利な事は変わりない。距離を取ったことほぎは、不意にバンと開いた扉へ顔を向けた。
「これは……! 皆、お嬢様をお守りするんだ!」
残っていた私兵が異変に気付いたらしい。そういえば途中に殺した者は特に隠すなどもしていなかったか。
しかしその乱入にメルは落ち着いて――言い換えれば躊躇いなく、一網打尽にせんと高火力の魔砲を放つ。だって、強盗団ってそういうものでしょう?
「……死んだら終わりの恋なんて、分かんない。でもね……殺してでも自分を見て欲しいのは少しわかるかも」
「俺には理解できないがな」
九郎は銃を白百合の君へ向ける。『それ』が人を殺すための原動力になるなど、到底解せない事だ。
白百合の君が逃げ回る先で私兵たちが次々と犠牲になっていく。彼らが突入してきてからは怯えた風を装っているのだから余計質が悪い。私兵たちも正確に状況を把握はできておらず、主の大事にしているお嬢様が狙われているという事実のみで動いている筈だ。
「ま、立ち向かってくるんじゃ仕方ないってね!」
秋奈の魔刀がその命をひとつ狩る。他の私兵がライへ襲い掛かったのを見ると、サンディは滑り込んで彼女を庇った。秋奈が引き付けてくれているおかげで、想定より傷は浅い。しかしこれだけの数に襲われたなら、一気に押し込められる可能性もある。
「まあ、この程度でも良いでしょう」
ライはそう妥協して、自身を追い込んでいく。そうして火力を上乗せした魔砲が、私兵たちをも巻き込んで部屋の一部を破壊した。
「どうだ……?」
「んー。まだっぽいね?」
サンディの言葉に秋奈が首を傾げ、再び彼女へ肉薄する。壁となる彼女も、挑発も全てをすり抜けて。
「――皆殺してくれて、ありがとう。手間が省けたわ」
白百合の君はこの場に似つかわしくないほどに美しく笑う。猫を被った彼女を知る者は、もう誰ひとりとしていなかった。
(なるほど、ご執心の君を殺しても逃げなかったのはそのせいか……!)
九郎はすぐさま銃を構え、ことほぎも術式を編む。ピリムとサンディが肉薄し、窓際を張っていたメルは接近してくる彼女に宝玉を掲げ、押しとどめようとする。
だが――機動力に富んだ彼女が『本気で逃げるのならば』、その程度は障壁にもならない。
けたたましい音を立ててガラスが割られ、彼女が外へと飛び出していく――何者も縛ることのない、自由な空へ。
成否
失敗
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
白百合の君はどこかへと逃げおおせたようです……。
またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●注意事項
この依頼は『悪属性依頼』です。
成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。
また、成功した場合は多少Goldが多く貰えます。
●成功条件
白薔薇の君の殺害
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。不測の事態に気を付けてください。
●フィールド
白百合の君が潜伏する貴族邸となります。
彼女はその貴族に恋し恋され、かくまわれているようです。
相手の貴族は彼女の罪を知らず、行く先がないという彼女を泊めている認識です。
屋敷の周囲、及び屋敷内には私兵がいますので、昏倒させる等して無力化させる必要があります。
●エネミー
・No.46『白百合の君』
監獄島から脱獄した囚人。金糸雀のスカイウェザー。色白な肌と淡い金髪、その儚げな佇まいから『白百合の君』と呼ばれていました。とても恋に落ちやすく、殺す度に失恋します。
収監される前は幻想貴族で、『白百合の君』として多々の男性を魅了する女性でした。しかしその周囲では不幸な噂も絶えないとされ、噂に離れていく男性と、それでもお近づきになりたい男性で二分化されていました。
その不幸な噂は大体が本人の仕業であり、永遠に自身だけのものにしたい望みから起こしています。
暗器を隠し持っており、至近~近接戦闘を得意とします。機動力と回避に秀でており、その他のステータスも油断はできません。
通常攻撃に【復讐150】を持ち、戦闘が長引くほど攻撃力は各段に上がるでしょう。その他、付与BSについては不明です。
・貴族私兵
貴族邸を守る兵士たちです。門の前に立っていたり、屋敷の中にいたりします。
プレイングによってはある程度スルーすることもできるでしょうが、8人も貴族邸へ侵入するとなれば全く戦わずやり過ごすことは不可能に近いでしょう。
至って普通の人間なので、戦わざるを得なくなった時は適当に伸してください。数で囲まれるとちょっと面倒かもしれません。
●ご挨拶
愁と申します。
殺人集団を装って屋敷の関係者を全員殺すのも、作戦としてはありですよ。悪依頼ですから。
それでは、よろしくお願い致します。
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