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シナリオ詳細

<咎の鉄条>アルブレウ調査依頼

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●深緑完全封鎖
 『クリムゾンズ』は幻想とラサを繋ぐ赤色商路(レッドライン)の中間地点にある宿場町である。
 馬を休ませるための施設を備えた宿と、道具の調達や修繕が行えるいくつかの店。そして人と情報が行き交う酒場。
 イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)はそんな酒場のカウンター席で、ぼうっと壁を見つめていた。
 土地の名前も、この建物の佇まいも、彼には覚えがあった。いや……厳密には初めて来た場所だし、知らない場所の筈なのだけれど。
「R.O.Oと一緒だ……」
 思い出されるのは、ROOネクスト世界で砂嵐砂漠と翡翠の森を中継していた宿場町のこと。翡翠の森(ROOにおけるファルカウ)が『大樹の嘆き』なる存在によって閉ざされ、森の民たちもその原因が余所者にあるとして激しい諍いが起きたことがあった。
 イーハトーヴ(その世界ではアダムという名の可愛いぬいぐるみだった)は友であり出身世界で死に別れたコウという人物との再開を目指し、森の精霊やハーモニアたちに挑んだのだったが……。
「同じだけど、少しずつ違うんだなあ……」
 かつての世界で自分を残し死んでいった、先輩騎士にして『ドールマイスター』、コウ。
 この世界と仮想世界のささやかな共通点を見つけるたび、もしかしたら彼がこの世界にいるのではという気持ちがふわふわとわいて、そして同時に彼が死んでしまった時のことを思い出して期待ごと拭うということが繰り返されていた。
「『誰かの死に心を引き摺られるな』……だよね」
 出身世界で教わった教訓は、仮想世界という場所で実感となった。言葉ではなく心で、イーハトーヴは理解したのだ。だから、もう立ち止まったりはしない。
「やあ、イーハトーヴさん。今日はどこの依頼だい。幻想かい?」
 酒場に寄ったらしい、駅馬車の御者がイーハトーヴの顔を見て声をかけてきた。ROOではこの酒場の店主をしていたはずだが、この辺りも違うらしい。初めは混乱しそうになったものだが、徐々に慣れてきた。
「ううん。深緑。薬草採取のお仕事があったから」
 空中神殿のポータルを使えばすぐにワープしていける場所だが、今回は旅の気分を味わいたかった。だからラサでもポータルから遠いこの場所から首都を横切って旅をしようなどと思ったわけだが……。
 そんなイーハトーヴに、御者の男は複雑そうな顔をした。
 なぜそんな顔を? 不思議そうにするイーハトーヴに、言いずらそうに顔をしかめて男は続ける。
「その様子だと知らないみたいだね……。いま、深緑には入れないんだよ。『茨』に阻まれてさ」

●咎の鉄条
 すぐさまラサの首都にあるローレット支部(と呼ばれがちな酒場)へとやってきたイーハトーヴ。
 そこには仲間のローレット・イレギュラーズたちが既に集まっていた。
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)は資料をボードに貼り付けながら説明をしている最中だ。
「――というわけで、不思議な茨に覆われたいま深緑には誰も入ることができないんだ。
 元々交易をしていた商人やラサの傭兵たちは勿論、ローレットが繋いでいたポータルも機能してない。空を飛んでの探索も失敗してる。
 内部から連絡があればまだいいんだけど……今のところなにもない。
 中がどうなってるのか、全くわからないんだ」
 この様子に、ローレット・イレギュラーズたちは口々にROOの話をしていた。イーハトーヴもそれには同感だ。記憶に新しい事件だし、連想するのは当然だ。
 そして彼らの連想は、ただの偶然ではないことをショウが示してくれた。ある事実――つまり。
「茨周辺。いわゆる国境線エリアに『大樹の嘆き』が確認されてる。霊樹たちの意志として現れる精霊のような存在だ。ROOでの事件を連想してる皆もいると思うけれど……当時のように無差別に攻撃を行ってる」
 ざわ、とイレギュラーズたちの声が広がる。『なら原因は同じか?』『ROOでは茨なんてなかった』『他に情報は?』などと。
 ショウは一度皆が静かになるのを待ってから話を続けた。
「他に気になるのは……茨を越えて強引に中へ入った調査員がいたんだけど、急速に眠りについたり酷い時にはそのまま命が失われるケースもあった。だから、茨そのものへの接触や強引な突破はしないほうがいいだろうね。
 まずは外側から徐々に調査していきたいし……」
 と、そこでボードに貼り付けていた地図に手を当てる。トンと指を、あるポイントでとめた。
「『アルブレウ』という村落がある。国境線エリアに存在する小さな村で、霊樹から離れて暮らすハーモニアたちが住んでいる。交易に訪れた商人が休むために使われることもあって、外に対して好意的だ。
 けれど、この村では『大樹の嘆き』が出現していて近づく存在を無差別に攻撃しているんだ。
 それに建物の外に誰も歩いてる様子がない。皆建物の中に居るのか、あるいは村のどこにも残っていないのか……」
 ショウはそこまで言ってから、首を振る。
「それを確かめてくるのが、今回の依頼内容だよ。
 大樹の嘆きを倒して、村を調査する。それ以上の深入りは禁物! いいね?」

GMコメント

 こちらは戦闘半分調査半分といったシナリオです。
 村をうろついている『大樹の嘆き』を倒してから、村の調査にあたりましょう。

・『大樹の嘆き』との戦闘
 人型の高位精霊です。『大樹の嘆き』だとされているのはその性質や外見特徴がROOでのそれと一致したためです。
 攻撃方法は氷の槍や鎖による格闘や射撃、氷塊の爆発といった形で行われます。
 BSには凍結系、出血系が主に用いられます。
 攻撃方法には個体差があり、【摩耗】【多重影】【復讐】【鬼道】といった特殊な殲滅手段をもつものばかりで構成されています。
 個体数は4~5体です。

 先行したチームが一度調査を行っていますが。精霊疎通を拒絶するため操作には応じず、当然会話にも応じてくれる様子はないようでした。
 また専門家の話によればこの手の精霊は霊樹本体ではなくそこから派生した意志のようなものなので、破壊しても霊樹を直接傷つけることはないとのことです。

・村落の調査
 木造家屋ばまばらに建っている村で、畑や家畜をかこった柵があります。家畜(山羊)は皆倒れていますが、どうやら眠っているとのことです。畑も荒れていないという報告があがっています。
 家々は離れているので、調査をするなら手分けをしてあちこちに散って調べたほうがいいでしょう。調査方法も様々あるとよさそうです。

 村の奥(ファルカウ側)は茨の壁に閉ざされそれ以上進めず、ファミリアーや飛行種による空からの調査は重傷(あるいは死亡)といった酷い結果に終わっているとのことです。
 これ以上の調査は断念され、ローレットへ依頼が回ってきました。
 今回の調査は村の中のみであり、茨の向こうへの進行は(どんな影響があるか分からないので)禁止されています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <咎の鉄条>アルブレウ調査依頼完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年02月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
シラス(p3p004421)
超える者
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)
流星の狩人
サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)
砂漠の蛇

リプレイ

●嘆きのワケを聞かせて
 青白い霧をひいて空へと飛び上がる半人型の実体群。
 雲のわずかな青空を背景に両腕を広げるような姿勢をとると、一体につきひとつずつ大きな氷塊を生成させ、超高速で槍を削り出す。
 それがミサイルのような速度と軌道を描いて飛来するのを、『黒鋼二刀』クロバ・フユツキ(p3p000145)は直感した。
(まるで大樹の嘆きのような存在……。今深緑に一体何が起こっている? 大樹に何かがあったというのか?
 リュミエ様とか現地の今が気になるが……そのためにもここは知ることから始めるしかない!)
 ガンブレードのトリガーを握り込み、右手には紅黒の太刀を水平に構えるクロバ。
 回避行動も防御行動も――この際とらない。突っ込んでくる槍が自らの腹に突き刺さるのを痛覚ごと無視すると、爆発した魔力を元に五つの仮想分体を出現させた。
 漆黒の体に赤い片目だけを備えた仮想分体たちは一斉に走り、そして跳躍し、『大樹の嘆き』めがけて一撃ずつ太刀によって斬り付けた。
 流石の連撃に飛行能力を失ったのか『大樹の嘆き』は墜落。
 砕けて散る氷の破片に、クロバはかつて妖精郷が冬に閉ざされた日を思い出した。
「グッ……!」
 腹に刺さった槍の痛みが遅れてやってくる。
 それでも踏み出そうとする彼の背に、『諦めぬ心』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)の温かい手が触れた。
 氷の冷たさと痛みと流血。その全てを奪い去っていくかのような温かさがクロバに広がっていく。
 イーハトーヴは頷き、そしてクロバに一旦下がるように空いた片手でジェスチャーした。
 防御に弱いが体力は多いというクロバはヒーラーとの相性が非常に良い。
 イーハトーヴはそのことを分かって彼の支援を行ったようだ。
 そして一方で、自分なら一発二発程度は『大樹の嘆き』からの攻撃を防御できると踏んだのだろう。
 指にはめたプラスチックの指輪に、どこかぎこちなく口づけをする。キャンディ製の宝石がパッと散り、代わりに込めていた『愛らしき魔法』が炸裂した。
 赤い半透明な魔術障壁が展開し、氷の槍が突き刺さるように空中で止まる。
 回転しながら無理矢理に突破しようとする槍に対し、手をかざし障壁の力を強めるイーハトーヴ。
「『大樹の嘆き』か……どうしても、思い出しちゃうな」
 よぎるのは思い出だった。
 ――うさぎのぬいぐるみになって歩いた森の中。馬車からアタッシュケースをおろして振り返る、白絹のような髪をした彼。振り返る、モノクル越しの目尻は優しく垂れていた。
 木漏れ日に重なったその風景を、イーハトーヴは『守りたい』と思った。
 現実に存在しないのだとしても、同じ木漏れ日が、おなじ森が、この先にはあるはずだから。
「ううん。それだけじゃない。苦しんでる人が目の前にいるんだ。そうした筈だよね、コウ!」
 バキンと音を立てて砕ける魔術障壁。
 が、時間は稼げた。充分だ。
「――伏せろ!」
 『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)の声だった。
 広げた白鳥のような翼でほんの僅かにだけ浮かび上がると、翳した両手をぐわりと開く。
 まるで万年筆のペン先のような溝がはいった黄金の爪がすべて上向き、『世界に書き殴る』かのように魔術文字が描き出されていく。
「あまり長く相手をしている時間もないんでな。速攻で片付けさせてもらうぞ」
 完成した『存在しない戯曲』が世界を破壊し、『大樹の嘆き』とその周囲の風景を滅茶苦茶に引き裂いた。
 そんなTricky・Stars(稔サイド)へと弧を描き氷の槍が飛ぶ――が、それを『竜剣』シラス(p3p004421)が横から思い切り蹴り飛ばした。
 機動を外れて飛んだ槍がターンすると同時に、『大樹の嘆き』はパキンと綺麗に10分割された槍を両腕に爪のごとく装備するとシラスめがけて急加速をかけ突撃する。
「『大樹の嘆き』――って部分はネクストでおきた現象と同じだな。霊樹の免疫機能だったか? 手がかかるぜ、まったく」
 繰り出された爪を紙一重で回避すると、地面に手を突きブレイクダンスのような華麗な動きで相手のボディを蹴り上げる。
「問題は、免疫を『起こさせてる原因』ってとこかな」
 ぴょんと直立姿勢に戻ると、振り返りざまに振った手でがしりと別の氷槍をキャッチ。素場やくり付いた筈の腕が、逆再生のように解凍されていく。
 シラスはその見事な戦闘技能によって二体の『大樹の嘆き』を相手に互角に戦っているようだ。
 その状態は、『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)にとって好都合。
「そのまま引きつけておいてくれ。一体ずつかき氷にしてやろう」
 ゼフィラは両腕を突き出すように構えると、腕を覆っていた手袋と袖を内側から焼き切るようにして破壊。露わとした義手には白花の装飾が成され、腕に通ったレイラインが流れるように発光した。
 キュキュンというガラスを引っ掻いたような音がしたが、それは魔術詠唱を極めて短縮化しかつ連続したものだ。その証拠に緑の光によって魔方陣が展開しその周囲に無数の魔方陣が展開。それらがレンズを重ねる天体望遠鏡のごとく一列に連なると、高速回転する巨大な魔方陣によって連鎖した魔術弾がガトリングガンの如く放出された。
 ハッとして振り返る『大樹の嘆き』だが、もはや回避も防御もする暇はない。いや、おそらくどちらもしたのだろうが、苺の皮を獣が容易にかみちぎるかのように、構うことなく削り尽くしてしまったのだ。
「『大樹の嘆き』に、『謎の茨』。不謹慎だがこういった未知の現象にはワクワクするね。冒険とはこうでなくては……!」

「……ふむ、なるほどな」
 『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)は感心したように頷いていた。
 ブレンダは『大樹の嘆き』はこっちでも出るんだなあ程度に思っていたが、どうやら色々と意味があることであるらしい。
 頭のいい人間は色々と考えているな……などと思考をわざと切り離し、そして……。
「聞こう、精霊殿。おまえは質問をして答えてくれる相手か?」
 右手で『大樹の嘆き』の顔面を掴み、そしてめきめきと指をその頭部に沈めつつあった。
 氷の針が無数に作り出され、ブレンダの全身に突き刺さる。血が流れ、氷だけが溶けたことで血塗れのブレンダが残される……が、ブレンダの姿勢は一ミリも変わっていない。
 どころか、指は更にめり込んだ。
「なるほど。そちらのほうが分かりやすくて助かる」
 一方でその横を走り抜ける『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)。
 両腕を氷の巨爪にかえて追いかける『大樹の嘆き』に距離を詰められるも、サルヴェナーズはキュッと地面にブレーキをかけながら反転。頭上で暗い輝きをはなつ輪の力を強めると、冠から溢れた泥が彼女の身体を覆い尽くすしフルプレートの如き鎧へと固まった。
 いや。固まってなどいない。
 なぜなら『大樹の嘆き』が放った爪が一切抵抗されることなく泥を貫きサルヴェナーズの肉体へと突き刺さったからだ。
 つまるところ、これは鎧ではない。
 『歩く沼』だ。
 ドッとあふれ出した蛇や蠍の群れが腕をつたい『大樹の嘆き』を飲み込んで行く。
 鎧の内側からギラリと闇のような眼光が溢れ、一方敵に攻撃していた筈の『大樹の嘆き』は徐々にその力を失いしぼみ始めていた。
「ミヅハさん」
「OK、任せろ!」
 『竜の狩人』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)は大弓に矢をつがえ、そして『大樹の嘆き』へと急接近した。
 弓を射るにはあまりに近すぎる距離から、めいっぱいに引いたつるから手を離す。
 通常の弓ではありえない威力で放たれた矢は『大樹の嘆き』を貫くとそのままブレンダへと飛び、ブレンダは長い前髪の間からそれをチラリとみると片手でもちあげていた『大樹の嘆き』を盾にするかのように翳した。
 ドッと胸を貫く矢。
 はらはらと崩れていく『大樹の嘆き』。
「ふう、これで――」
 ミヅハはフウと息をつき、そして何気ない手付きで弓を水平に持ち矢筒から一本の矢を取り、歩きながらそのへんに小石を投げるかのような気軽さで弓につがえて、そちらを見ることもなく放った。
 地面に横たわっていた『大樹の嘆き』が起き上がり氷の魔法を放とうとしていたが、その身体に突き刺さりそして鏃に仕込まれていた爆弾が炸裂。『大樹の嘆き』は爆散した。
「終わったな」
 念のため耳を澄ませてみるが、新手の様子はない。
「『大樹の嘆き』は……何のせいだ? 深緑に竜が向かってるって噂だけは聞いていたが、そのせいか? だとしても『茨』が謎だよな……」
 もっと早く駆けつけていればと弓をしまいながら考えるミヅハ。
 時は戻らないが状況を戻すことはできる。必要なのは今すぐ動くことだ。
「まずは、この村を調べよう」
 ここまでの異常事態だ。手がかりが……あるいは、この状況を詳しく知ることができるはずだ。

●茨のこちら側
 ゼフィラは義手を翳し、優しい光を眠るハーモニア女性へと注がせる。
 怪我をした仲間の傷や異常状態を治癒させる力をもつこの光だが、ハーモニアの様子を変えることはない。
 すやすやと寝息をたてている。
「効果はなし、か。まあこれは予想できていたことだ」
 ゼフィラは手帳にさらさらとチェックをつけていき、そこに内容をひとつ付け加えた。
 『眠った対象を動かさないこと』の文字である。
 調査や保護をしやすいようにと地面に倒れるように眠る女性を移動させようとしたところ、突如苦しみ始めたのだ。身体がゾッとするほど冷たくなり、無理に動かせばこのまま死にかねないと医術の心得をもつ仲間が診断したので眠った者たちは動かさないことに決まったのだった。
 更に手帳に目をはしらせると、井戸の水や土、食品などの項目にチェックがついている。
 ゼフィラはこれらのサンプルをとり、試験管のような形のサンプルケースへと密封してポーチに詰め込んである。彼女の予想だが、土壌や水質に変化はない……と考えている。試しに舐めるなどした結果特に異常が出なかったからだ。
「そちらの確認は済んだか?」
 奥から歩いてくるTricky Stars(稔サイド)。手には戯曲の書かれた数枚の紙がのっている。ここで見つけたものではなく、書いたものだ。厳密には、ここであったことを過去にわたって追跡し『脚色』した戯曲である。なので事実をそのまま読み解くことは難しいが、真実を見つけるには適していた。
 それらをぱらぱらと捲りながら目を細めるTricky Stars(稔サイド)。
「奥の部屋だ。外から来たであろう旅の者を見つけたが……同じように昏睡している。それだけだ」
 『それだけ』というのは、調べた限り異常はなく、この村のハーモニアと全く同じように眠っているということだ。
 だが、気になることもある。
 Tricky Starsが調べた中に、『常夜のような鎧のひと』という存在があった。それだけならば見過ごすところだが、宿を提供したハーモニア女性はその存在に強く不安を感じたと記されている。脚色も入っているので鵜呑みにはしづらいが……無視もできない。
「常夜の鎧……か」

 目を閉じていたクロバが、ゆっくりと目を開ける。
「村に異常は?」
「見た限りは……特にないな。あちこちで村人が倒れているくらいだ」
 サルヴェナーズの問いかけに、クロバは首を振る。倒れた人々を全て調べてみたが、全員等しく眠っていた。死んだ人間は『ひとりだけ』しかいなかった。
 というのも、この村に先行調査にはいったラサの傭兵が茨に絡まるようにして死亡していたのを発見したのである。ローレットへ依頼を発行するにあたって村の様子を調べていた人間がいたのだろう。ペアで行動し、その一方がここで死んだということは事前に聞いていたし持ち物の内容からも確かだった。
「おかしなところは無く、ただ眠っているだけということか……?」
 クロバの質問に、サルヴェナーズは否定の意味で首を横に振る。
「いいえ、異常です。霊魂の視点から見れば」
 サルヴェナーズは傭兵の死体に対して霊魂疎通を行ったが、傭兵から『霊魂を感じることができなかった』のである。
 言い方は悪いが死んで間もなく、伝えたいこともやり残したことも山ほどありそうな存在がポッカリと成仏するとは思えない。
 その状態に対し、サルヴェナーズは個人的に、死体の肉だけを綺麗に食べて骨だけ残していったかのような印象を受けていた。
「……茨は霊魂を食うと?」
「わかりません。『他のケースでも同じように霊魂が抜かれていたなら』、茨のせいだとわかるでしょう。ですが『他のケースでは霊魂が残されていた』なら、茨とは別の要因が存在することになります」
「別の……」
 クロバは、思わず周囲を見回してしまった。
 この村に、茨の呪いや大樹の嘆き以外の『何か』が訪れたというのか……?

 眠る山羊を、ブレンダとシラスが協力して調べていた。
「この方法でも目覚めない、か」
 二人は医学的観点から眠りの原因を調べようとしていた。外敵刺激や、軽く眠りを妨げるような薬品の使用をしてみたが覚醒はない。
 血液などを採取することで昏睡状態をもたらす薬物がないかを調べてみたが、(これは後の精密な検査の結果もあえて記してしまうが)異常は見られなかった。
「科学ではなく魔法……あるいは呪いによる眠りということだな」
「そんなこと可能なのか?」
 シラスは問いかけ……てから、すぐに自分で思い至った。
 ブレンダがローレットへ加入するよりずっと前、『常夜の呪い』という事件が天義で起きた。住民が突如眠りに落ち、悪夢の世界が広がったという事件である。
 怠惰の魔種による犯行であり、その混乱に付け入るようにしてベアトリーチェの月光事件が蔓延したという見方もされているが……確か怠惰の魔種はベアトリーチェ支配下になかった筈だ。
「当時の魔種は倒されたが……同種の魔種が存在しているとでも? いや、それにしては規模が大きすぎるよな」
 もう少し調べてみる必要がありそうだ。と、二人は頷き合った。

 民家の外鍵を壊し、家の中へと入る。
 木造家屋だ。ミヅハは普通に生活する人々がある日突然停止したかのような風景に不気味さをおぼえていた。
 当然だ。何の予告もなく突然眠りの呪いに覆われてしまえばこうなる。食卓の上にはシチューがあり、当然ながらダメになっている。
「調べてみたが、起きてる人は俺たち以外にはいないみたいだ。イーハトーヴ、そっちは――」
 振り返ってみると、イーハトーヴが部屋の一角をじっとみつめたまま固まっているのが分かった。
 問いかけられないような雰囲気を放ち、イーハトーヴはゆっくりと歩いていく。
 棚の上。ガラスケースの中に大事そうにしまい込まれた、それはビスクドールだった。
「ぁ……」
 大きく目を見開き、震える手でガラスケースを取り外す。
 伸ばした手が、繊細に描かれた陶器製の顔へと触れる。
 大幅に強化し、更にミヅハによる増幅もうけた『無機疎通』能力がひとつの物質がもつ様々な情報を読み解いていく。
 たとえば小説に描かれる名探偵は地面に落ちたパンひとつではるか前の出来事を読み解くというが、今のイーハトーヴはそれに似ていた。能力の増幅だけでは説明がつかないほど。
「……コウのだ」
「ん?」
 イーハトーヴのつぶやきには確信と驚きと、そして少しの悲しみがあった。
「コウって人が作ったのか?」
「ううん……ちがう。コウの『作り方』なんだ。可愛さの魔法を込めて作る人形だよ。癖が……うん、受け継がれてる。作ったのは、深緑のハーモニアさんかな。指のやわらかい男の人だ。塗料にすこし草のにおいがする。これは知らない匂いだから、この世界の素材で新しく作ったんだ」
 あまりに繊細に調べる様子に、ミヅハは息を呑む。
「ずっと昔に技術だけが伝わったんだ。どうやってかわからないけど」
「コウって人がこの世界に来たワケじゃないのか?」
「それは『ない』よ。断言できる」
 すこしだけ悲しそうに微笑み、イーハトーヴは振り返る。
 そして、目尻をこすって笑みを深めた。
「この国を守る理由。増えちゃったな」
 ミヅハは何も言わず、頷く。
 この深緑という国がおかされた呪いを、解かなくては。
 そのために……茨の内側を目指そう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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