シナリオ詳細
混沌ダービー!<練達篇>
オープニング
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――さあ、最終カーブに差し掛かりました!
此処で先頭を切ったのはオレハナニモノ! オレハナニモノです!
続いてカーブを曲がってきたのはミルキークイーン! 此処で二者の差が開いていく! オレハナニモノ、流石速い! 一気に逃げの体勢に入った! このままゴールまで逃げ切るのか!?
――おっと!?
此処で伸びてきた、アレナンダッケ! 瓦礫の撤去で一時後方に下がっていましたが、今、一気に後方から前へ出てきました! ミルキークイーン伸び悩む、アレナンダッケ、2位に躍り出た! このままオレハナニモノを捉えるか!?
オレハナニモノ! アレナンダッケ! もつれるようにゴーーーーール、イン!
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「練達で復興が始まっているのは皆知っているかな」
グレモリーは地図を一枚持って来ると、広げてみせた。再現性東京“Latest街”の地図だ。
「其処でね、一つレースが行われているんだ。誰が始めたのかは判らないけど、“混沌ダービー”って呼ばれてる。練達の疲れた人たちに娯楽を提供しようと思ったのかな」
グレモリー・グレモリー(p3n000074)は首を傾げる。
ジャバーウォックたちの襲撃は、Latest街の一般人に対しては“火山の噴火”や“前代未聞の地震”である、という事になっている。あの街では超常的現象は起こり得ないのだ。
練達は小さな島国だ。マザーの暴走に竜の襲撃、とあらゆる不幸の欲張りセットのような事が起こったこの国に、次の脅威が迫らないとは限らない。
けれども、人々の想いにも限界がある。
復興させるのは人々の力。疲弊してしまっては、復興は進まない。
混沌ダービーはそんな彼らに熱狂と活気を与えてくれる催しなのだという。
「今回は君たちに、其の出場者になって欲しいんだ。名前は隠しても良いし、本名でも構わないよ。Latest街を一周するコースで走るんだけど、途中には色々と――うん。色々と障害がある。其れを排除しながら進む訳になるから、純粋なスピード勝負にはならないね」
勿論、其れ等を避けて通っても良い。
だが其れでは民衆からの支持は得られないだろう。
「重要なのは順位じゃなくて、人々の感動だ。例え最下位でも……一生懸命走って、一生懸命救ってくれたら、人々は勇気付けられる。そういうものだよね」
大人が心を込めずに書いた巧い画よりも、子どもが一生懸命描いた画の方が評価されるのと同じだよ。
グレモリーはそう言って、イレギュラーズを送り出す。
- 混沌ダービー!<練達篇>完了
- GM名奇古譚
- 種別EX
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年02月28日 22時06分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(10人)
リプレイ
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――さあ始まりました、混沌ダービー!
舞台は此処、復興の進みつつある再現東京です!
突如この東京を襲った天変地異。火山の噴火。ご来場の皆さまの中にも被害を受けた方はおられるかと思います。まずは心よりお見舞い申し上げます。
という訳で今回の勇気ある出走者はレースで我々を勇気づけてくれるだけでなく、其の復興のお手伝いもして下さいます!
レースコースには其の為、復興の追い付いていない場所を選んでおります! 安全の為、今回の観戦は此処、災害にも負けなかったTOKYOニュースタジアムでのライブビューイングとなりますことご了承ください! 沿道での応援は禁止されております! 選手たちを間近で眺めたいなら此処! TOKYOニュースタジアムでどうぞ!
今回のコースは……画面をご覧ください! まずはこのTOKYOニュースタジアムをスタートし、こちらの崩壊ビル群を回ります! そうして其の後はこちら、ある程度安定した河原を伝って、最後はTOKYOニュースタジアムにて勝敗が決します!
繰り返します! 沿道での応援は禁止されております! 選手たちのスタートとラストスパートを見たいなら此処! TOKYOニュースタジアムでお願い致します!
ルートは短めですが、其の分障害が多く残されています! 荒れ果てたビル群の地面、暴走する調整ロボ! 野生の猫や不審者をみたという目撃情報もあり、ビル群での選手の活躍に期待が寄せられます!
道中の観戦はドローンからの上空撮影です! 選手たちの雄姿を空から存分に眺める事が出来ます!
更に、こちらのドローンにはスピーカーを搭載! 皆さんの歓声は直接選手へと届けられます! 選手へのエールをどんどん叫んで下さい!
そしてそして~~~~~、此処でサプライズ!
レース後には観客の皆様による投票が行われます! 最も美しかった選手、最も勇敢だった選手、最も素晴らしいレースプランニングを行った選手、どれでも構いません! 貴方の心に残った選手に投票をお願い致します!
レースの結果に反映は致しませんが、別途“特別賞”として表彰させて頂きます!
選手たちの雄姿が少しでも皆様の心の助けになりますように!
選手一同、運営一同心から願っております!
実況はわたくしエーデルワイス! 解説はこちら、東京復興委員会の萩原さんをお招きしております!
『宜しくお願い致します』
では選手入場まで、今しばらくお待ちください!
……まもなくレースが始まります……席に着いてお待ち下さい……
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まずは一枠。
アグネスココロンこと『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)。
控室に通され、元々来ていた学校の制服の上から白衣に着替える。ぶかぶかの白衣の袖をくるりと回す。普段は白衣をこんな風に着る事はなくて、なんだか気分が高揚してくる。
ココロは足の速さこそ常人並みだが、体力は抜きんでているスタミナタイプだ。最初は中団で足を溜め、ゴール付近で一気にスパート。作戦を頭の中で繰り返し、己の体温と脈拍をチェックする。……少し脈が速い。緊張、或いは高揚しているのかもしれない。くるくると白衣の袖を回して冷静を務める。
――今回のルートは未復興地域だ。まさかとは思うが、瓦礫の下に取り残された人がいるかもしれない。医学校に通う者、医者の卵としてそれらを見過ごしてはいけない、と思う。其れはレースの勝敗よりも大切な事で、今回一緒に走る者たちも其の心は同じだと信じている。
多少遅れても構わない。大事なのは最後のスパートだ……!
二枠。
ウマガホンキダスこと『神馬』グランドル(p3p009346)……馬じゃん?
彼は本名で出馬する予定だったのだが、何らかのトラブルで源氏名がついてしまったようだ。代筆を頼んだのが悪かったのか。多分そうですね。仕方ありません、とグランドルは溜息をつく。もう変更は聞かないだろうし、少しくらい面白い名前の方が観客にも判りやすいだろう。
グランドルは馬である。なので勿論、走りには自信がある。優勝は当然某に決まりでしょ? と思うがそうはいかないのが混沌ダービー。其の為の障害走なんですよ!
勿論グランドルだって其れは判っているので、敢えて最初は後方集団に固まる事を選ぶ。障害を排除して、最後に一気に追い上げていく。これもまた男の浪漫。一気にごぼう抜きする其の様に、観客は熱狂するという訳ですねぇ!
三枠。マッハローニンこと『刀身不屈』咲々宮 幻介(p3p001387)。
狙うは大逃げ。最初に一気に突き放し、そのまま先頭を走り切る。其れは男の浪漫!
「普段は賭ける側なんだが……たまにはこういうのも悪くないで御座るかね」
彼は敢えて、悪役(ヒール)を演じる心づもりでいた。少々卑怯ではあるが、いざとなれば仲間に技を使う事も厭わない。
何故なら、これは娯楽だから。嫌われ役が一人くらいいないと、盛り上がらないで御座ろう?
――勿論、人命に勝るものはない。多少錘にはなるが、其の為の刀も持っている。だが、負ける訳にはいかない、いかないのだ……! 己に応援バ券を託してくれた某宇宙保安官のためにも!
四枠。
ギゾクノハシクレこと『隻腕の射手』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)。彼は騎士から義賊へと身をやつした過去があるが、其処には今回は触れないでおこう。折角のレースだ、楽しんで欲しいからね。
目元以外を隠した黒の装束は、まるで黒い影のよう。だが彼は影のように誰かの後ろにつくつもりはなかった。作戦は逃げ。一気に引き離し、そのまま走り切る心づもりだ。飛ぶことが得意な彼は、高所のトラブルを片付ける心づもりでいた。例えばネコチャンを助けるとか。暴走ドローンの撃墜とか。
あの災害(けっせん)の後だから、良からぬ事を考えるものもいるかもしれない。そんな彼らに生きる希望を託したい。其れは義賊たるアルヴァが生きている一つの理由でもあった。
モード・スレイプニル。己に更なる速さを課しながら、アルヴァは其の時を待つ。
五枠。
ノリアソリアクトンこと『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)。刺し……じゃなかった、差しの作戦である。美味しそう。
「や、やってしまったですの、やってしまったですの~……!」
恥ずかしそうに宙を舞うノリア。出した源氏名は、己の名前に愛する彼のファミリーネームを借りたもの。これはイーリンが是非とも、というので採用したのだが……まだまだ結婚なんて考えてもいなかったノリアは、名を借りるだけでもとっても恥ずかしい。
ゴリョウさん、見ておられますか? わたし、頑張りますの! このレースはただ優勝すればいい、というものではないはず。ですから、人助けも頑張りますの。頑張りながら……わたしとゴリョウさんの事を皆様にあ、アピール……きゃ~!
ゼラチン質の尻尾をふわふわと煌めかせながら、ノリアは暫く恥ずかしさでのたうちまわっていた。
六枠。
ミコミコマデルこと『Utraque unum』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)。
「え?」
はい、ミコミコマデルです。
「え?」
おかしいな、とアーマデルはエントリー用紙の控えを見下ろす。確かに自分はフライングスネークと書いた筈。……書いた筈なんだけどな????
こうなっては仕方ない、とアーマデルは衣装を取り出す。其れは……! 虎巫女! お前其れ着る気満々じゃないか!!
「源氏名の所為だ。俺は悪くない」
といいつついそいそと着替えるアーマデル。彼は余り戦闘に加わるイメージはないが、其の実、ちゃんと鍛えた肉体をしている。更に必要なタイミングで必要なスキルを撃てるように、普段から計算は怠らない。つまり、其れはスタミナ配分にも言えるという事だ。
何処で息を入れ、何処で本気を出すか。
全力全開は得手ではないが、時にはその計算が勝利を導く事もある。だよね! ミコミコマデル!
七枠。
ホワイトナリリーこと『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)。種族は美少女。
「ふむ……つまりは民を元気づける為の催しという事であるな!」
そういう事です。百合子は見目こそ美少女であるが、得意なのは肉弾戦。何故なら種族:美少女とは、強くなればなるほど美しくなる特性を持っているのだ。ちなみに大分美少女な百合子の後ろには後光が輝いていてちょっと眩しい。
百合子の作戦は先行。先頭集団で前についたものを風除けにしながら、道中の体力消費を抑える。壊す必要のない瓦礫は優雅に飛び越えて行けばいいだろう。
集中すべきは暴走ロボットの排除。民の為ならば、仲間の手を借りる事も厭わない。其の為に順位が落ちようとも、其れは寧ろ百合子にとっては誉である。
あくまでレースは娯楽。人の命より大事なものはありはしない。だが――どうせ獲るならば一位。其れこそが最強の先を目指す美少女の宿命なり!
八枠。
ステラビアンカこと『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)。ちなみにステラビアンカとは、彼女が働く店の名前である。ちゃんと宣伝も怠らない、其れがモカという女。
彼女はかつて行われた再現性首都高ミッドナイトバトルの勝者である。そんなレースあったんだ…すごいね…
モカは一度レースというものを経験しているからか、他の選手からの妨害を既に計算に織り込んでいる。勿論、妨害されたら返り討ちにする心持だ。
作戦は差し。先行争いには加わらず、中団で足を溜める。勿論一筋縄でいくとは思っていない。救助活動を行っている間に大きく引き離される事だってあるだろう。だけれども――其れでも、悔いが無いよう走り切る。
ぐっと拳を握り、モカは己の手を見詰めるのだった。
九枠。
オーシャンルビーこと『レディ・ガーネット』海紅玉 彼方(p3p008804)。彼女は希望ヶ浜でアイドル活動をしているので、ある程度知っている者も多いのではないだろうか。
「此処でいい戦績を上げれば、ステージへ……」
なんかそういう事になってるのでそういう事にしよう。ウイニングライブはレースの嗜みだからね。
ちなみに彼女の戦略はかなり物騒である。初手で誰かに技を打ち込む気満々だ。うーん、アイドルとは。いや、アイドルだからこそステージのセンターは譲れない……! という事だろうか。
マッハローニンよ、お前を越える悪役(無自覚)候補が此処に居る事を忘れてはいけないぞ。
大外の十枠。キヘイマックイーリンこと『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は、黒いドレスに身を包んでいた。
ドレスのような様相ではあるが、前は大胆に短くカットされており、走る分には問題ないだろう。
「……」
大外からの位置取り。熾烈になるのは判っている。
自分は先行、先頭集団に食らい付いていく作戦だ。だが先頭を走る者に引っ張られてスタミナを消耗する事は避けたい。最も安全な位置は先頭からやや後ろ。後ろを走る者の進路を妨害しつつ、出来るだけコースの内側を走るのが最優先。
「注意するべきは――ココロ、かしらね」
彼女は何より人命を優先するタイプだが、これはあくまでレース。恐らく最後に障害物は存在しない、純粋な脚力勝負になる。
其の時脅威になるのは、スタミナが豊富な、まさにココロのようなタイプ。だが、他の者も油断は出来ない。
レースプランニングは丹念に。静かにイーリンは其の時を待つ。
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――お待たせいたしました! いよいよ選手たちの入場です!
彼らの超常的な能力に期待が持たれます! 未復興地域は立地と瓦礫撤去が遅れ、一切人の手が入っていない場所です! 未だに助けを求める人がいる可能性もあります!
……
さて、一同の紹介が終わり、位置に付きました!
このTOKYOニュースタジアム、第一回混沌ダービー! 勝利の栄光を手にするのは果たして誰なのか!
終了後には観客投票による特別賞授与もあります!
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――スタート! 各人一斉に走り出しました!
先頭に飛び出したのはマッハローニン! 初手で一気に突き放すか!? 続いてギゾクノハシクレ、其の後ろにキヘイマックイーリンがつきます!
おっと? ウマガホンキダスは後方集団に位置しました! 解説の萩原さん、最も期待されそうだったウマガホンキダスですが……
『足を溜めているんでしょうね。此処で突き放す事も出来ますが、そうなると終盤のスタミナに影響します』
なるほど! これは終盤のどんでん返しにも期待ですね!
順位を振り返ります。飛び出したのはマッハローニン。ぴったりと其の後ろにギゾクノハシクレ! そしてキヘイマックイーリン、ホワイトナリリー、ミコミコマデル。僅かに空けてアグネスココロン、オーシャンルビー、ノリアソリアクトン、ステラビアンカ。其の後ろにウマガホンキダスが位置しています。今のところ一直線の隊列です。この先の障害でこの順位がどう変動するのか……
「――ステージは、誰にも譲りませんッ!」
ああーっと!? オーシャンルビー、ここでノリアソリアクトンに攻撃を仕掛けた!? ノリアソリアクトン、何か黒い靄のようなものに一瞬包まれました!
僅かに体勢を崩すノリアソリアクトン! 其の隙をついて外からステラビアンカが抜き去っていく! これはアリなんでしょうか萩原さん!
『禁止はされていませんが、投票に影響がありそうですね』
ノリアソリアクトン、調子が悪そうだ! しかし走るのはやめない!
一団がTOKYOニュースタジアムから外へと出て行きます! 以降はドローンカメラによる撮影になります、皆様メインスクリーンでご観戦下さい!
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瓦礫の量が増えてきました!
順位は未だ変わらず! 先頭をひた走るのはマッハローニン! 続いてギゾクノハシクレ! どうなんでしょうこの展開は?
『瓦礫での救出作業で息をつくという事もあり得ます。やろうと思えば一気に逃げ切れる環境ですね』
其の後ろは僅かに順位が変動しています! 三番手はホワイトナリリー、キヘイマックイーリン、四番手! 此処からは瓦礫が転がる危険なゾーンに入ります。如何にして選手は瓦礫を乗り越えていくのか――おっと!? ホワイトナリリー、瓦礫をアクロバティックに乗り越えていく! まるで踊るような動き! 観客も沸いています、これは素晴らしい!
『エンターテインメントとは何かを熟知した動きですね。思わず見とれてしまいます』
「うう……負けませんの、走り抜くですの……!」
ノリアソリアクトン、九番手まで落ちているが滑るように瓦礫の中を泳いでいく! 透明な尻尾が美しいですね……! 先程の騒動もあってか、彼女への応援の声が大きくなっているように感じます! ところであれは何の尻尾なんでしょう?
『透明な尻尾と言えば、魚類の幼生が考えられますが……ちょっと此処は判りませんね』
ウマガホンキダスはノリアソリアクトンに並ぶように走っています! 瓦礫を飛び越える様は勇壮ですが、矢張り僅かに走りづらそうだ!
「……う」
「!」
おっと!? 此処で五番手に位置していたアグネスココロンが立ち止まる! 何かトラブルでしょうか?
……コース外へと走り去っていく! サブドローンさん、アグネスココロンを追って下さい! 何かを見付けた様子です! 同じく先頭を走っていたマッハローニンも同じ方向へ走って行く! あれは……! 瓦礫の下に誰かが挟み込まれています!
「う……た、たすけ……」
「いま助けるよ! 痛むのは足だけ?」
「あ、脚だけだ……あんたらを見たくて、此処に居たら、瓦礫が……」
「だからアナウンスで言っていたで御座ろう、観戦はニュースタジアムでと……! ココロ殿、下がってくだされ!」
マッハローニンが構えた! あれは矢張り本物の刀だったのか!? いえ、人命救助に関してそんな事を問うのは無粋でしょう! ――おっと! 凄まじい音と共に砂煙が……! 怪我人は無事なのかー!?
「瓦礫は砕いたで御座る! ココロ殿!」
「うん! さあ、足を見せて。……大丈夫、折れてはいないみたい」
「いてえ……すまねえなあ、兄ちゃん姉ちゃん……折角アンタらが走ってたのによお」
「人命以上に大切なものなんてないよ! ね、ローニンさん」
「うむ。如何にも。速さ勝負で負ける事、そして命を見捨てる事。そんな事をしたら姉上に殺され……げふんげふん。叱られてしまうで御座る」
「包帯を……少し酷い打ち身だとは思うけど、変に歩いて癖になったら大変だから添え木をしておくね。さあ、これでよし! 立てる?」
素晴らしい!
アグネスココロンの素早い対応に、歓声と応援がやみません!
そしてマッハローニンの技に対する称賛の声も上がっています!
「此処からは俺一人でも大丈夫そうだ……ありがとうなあ、姉ちゃん、兄ちゃん!」
「よし! これで大丈夫そうだね。じゃあレースに……」
「ふっふっふ……! 喰らえ! 霹靂!」
「えっ!? えー!?」
ああーっとお!?
此処でマッハローニンまさかの裏切り! アグネスココロンに真っ向から攻撃を仕掛けました!
マッハローニンそのまま走り去っていく! 速い! 速い! しかし会場からはブーイングの嵐です! アグネスココロンはなんとか持ち直した様子ですが、かなり引き離されています! 果たして追い付けるのか!?
――フッ……
――悪役(ヒール)としての役割、これで十分で御座ろう……
――卑怯だ、卑劣だ、と罵られても……勝つために全力を尽くさぬのは共に走る皆に対して失礼というもの……
――なにより、此度は民衆への娯楽提供が主目的。スタート直後に誤算はあったが、こういう役割は拙者が一番適任でござろう。
「という前置きはさておき! 勝てばいいのだ勝てば! ふははははは!」
「こっ、このおーー!! 待ちなさいー!!」
●
一方こちらは先頭集団! 先頭をひた走るのはギゾクノハシクレですが、此処には立ち止まらざるを得ない関門があります!
『街を調整するロボットが暴走していますね。これは恐らく全員で対処しなければどうにもなりません』
更に此処で不審者の情報です! ビルの上に立っていて危ないですね、こちらはどう対処するのでしょう!
「待て」
「!」
此処で高所への救助に入ったのはミコミコマデル!
不審者を引き留めます!
「俺はただの通りすがり、そう、一年半ほど前からいる特異運命座標」
「だ、だから何だ……! 俺は、俺は此処で死んでやるんだ!」
「まあ待て。何故死ぬのか理由を話してからにしろ」
「……ピザを食われたんだ……酔っていたじゃ済まされない! 俺の財布の有り金全部使って、アイツらはクアトロフォルマッジをたらふく……! 俺が寝ている間に、ううっうっ……!」
「あの地獄のようなチーズか……寧ろ寿命が延びて助かったと考えるべきでは?」
「俺は寿命が縮んでも良いからあの悪魔のピザを食べたかった!!!」
「そうか……英霊残響!」
「グワーッ!?」
ミコミコマデル、非情な一撃ーッ!!
……おや? 男から携帯を奪うと何処かに電話していますね……
「ピザ屋さんか。クアトロフォルマッジをありったけ、斜めになってるビルの下に持ってきてくれ。え? 何処だって? 東京にある斜めになってるビルの下だ。では頼む。支払いは冬越弾正宛てで」
これは……!
『やさしさ、ですかね』
歓声が上がっています! ミコミコマデル、一人の男を救っただけでなく、其の願いまで叶えてくれました!
他にも各所で選手が活躍しています! あちらでは……
「やあ、子猫ちゃん」
「なーう」
ステラビアンカです! なんと! 超能力で浮き上がり、子猫を救出しています!
猫派からの歓声がやまない! 犬派も涙を流しています!
『わたしは犬派ですが動物愛護の精神は素晴らしいと思います』
「にゃー!」
「そんなに怖かったかい? もう大丈夫。そら、地上だ。これからは高い所には……ってこら」
「なーう」
「こらってば、ほら、地上に降り……」
「にゃあー」
「……仕方ないな」
猫がステラビアンカから離れません! すっかり懐いてしまった様子!
ステラビアンカ、そのまま走り出しました! 猫が懐く程のイケメンぶりに会場の女性陣が熱狂しています!
そして、地上では戦闘が繰り広げられています! 調整用のロボットと選手たちが遭遇した模様!
「うわああ!?」
「まったく、決められた場所以外で観戦するからこうなるのだ。しっかりと載っているがいい」
「ひゃ、ひゃいぃ」
ウマガホンキダスの背にいつの間にか鞍が!? 逃げ遅れた人々を安全な場所に避難させています! 観戦はこちら、TOKYOニュースタジアムまでくれぐれもお願い致します!
ウマガホンキダスが人々を避難させている間に、ホワイトナリリー、ノリアソリアクトン、キヘイマックイーリン、ルビーオーシャンがロボットの前に並びました!
「さ、て……」
「た、盾は任せて欲しいですの。頑張りますの!」
「では私たちが」
「うむ。ロボットの処理であるな」
「任されました。魔砲で道を切り開きます!」
ノリアソリアクトン、ふわりと泳ぐ! 非常に幻想的な光景ですが、ロボットに情緒という言葉は存在しません! ロボットが宙を泳ぐノリアソリアクトンへと接近しています! ああっ危な……!?
「大丈夫ですの!」
棘!? あれは……棘です! 水で出来た棘が、ノリアソリアクトンを護るようにロボットを攻撃しました! これは美しい……! 会場からも歓声が上がっています!
『あちらではキヘイマックイーリンとホワイトナリリーが動きましたね』
そうですね、まるでロボットを避けるかのような……? 其の先にはルビーオーシャンが控えています。何をするつもり――
「てぇッ!!」
「……!!」
ひゃあ!?
カメラが閃光に包まれました! 一体何が起きているのでしょうか!?
『……まるで砲弾の跡のような……』
え? あっ、本当だ! 一直線に瓦礫とロボットが消え去っています! 今の閃光で砕けたのでしょうか!?
「ぬうん!」
おっと、ホワイトナリリーがロボットに仕掛けました! 傍目に見れば勝敗は歴然ですが、これまでの彼女の走りにはただの美少女らしからぬ威風堂々たるものがありました! 一体どうするのでしょうか!?
「ユ……」
ゆ?
「リ、ユリユリユリユリユリユリユリユリユリユリユリィィィィーーーーーーーッ!!!!」
これはーッ!!
凄まじい連撃です! あの細腕から繰り出されているとは思えない連撃が、ロボットをたちまちに行動不能にしました!
「丁度お茶会の椅子が欲しかったのよ。その鉄塊、頂いていくわ?」
キヘイマックイーリンも仕掛ける!
優雅な動作ではありますが一気に斬り込み、一瞬でロボットを真っ二つに! 正直言ってこのナイチンゲール、何が起きたか判っておりません! 紫色の光が輝いたかと思うと全てが鉄くずに変わっていた、正に其れを目の当たりにしました!
「ライブも頑張るから、楽しみにしててね?」
「――ドローンまで暴走しているとはな。だが、俺達の目をかいくぐれるとでも思ったか?」
あっ!? 皆様ご覧ください! 上です! ドローン上にあげて!
ギゾクノハシクレがドローンを撃ち落としています! あれはライフルでしょうか?
『恐らくそうですね。素早く動くドローンを撃ち落とすとは、かなりの技能の持ち主でしょう』
みるみると暴走ロボットの数が減っていきます! そして其の間にマッハローニンとアグネスココロンが追い上げて来る! これが混沌ダービーの醍醐味だ! 一度戦線から外れてもまた戻れる可能性がある!
「怪我人は!?」
「いませんでしたよ。全員レースの野次馬だったようですねぇ」
「……ならよかった!」
アグネスココロン、勝敗よりも怪我人の有無を優先! 素晴らしいです!
ウマガホンキダスの素早い避難活動が功を奏しました!
ロボットの一掃も終わり、ここから再スタートです!
先頭を行くのは高層から降りてきたギゾクノハシクレ! 此処からは純粋な脚力勝負です!
『各所戦闘でのスタミナ消費も気になるところです。まだ決まった訳ではないですよ』
●
――心臓が、張り裂けそうだ。
脚が前に出ない。ただただ走る、其の事が、こんなに辛い。
腕を振って、足を挙げて、大地を蹴る。
其の度に大きく心臓が鼓動して、酸素を求めて来る。お望みどおりに息を大きく吸うと、ひゅう、と喉が鳴った。
脚が痛む。ただただ走る、其の事がこんなに辛いなんて、久し振りに感じた。
でも、負けられない。
負けたくない。
勝ちたい。ただ其の一念が、己の脚を、この身体を前へ前へと押し進める。
勝ちたい。
――勝ちたい!
●
「入ってきました!! 選手たちが集団となって此処TOKYOニュースタジアムへと戻ってきました!!」
割れんばかりの歓声が選手たちを出迎える。先頭を走るのはギゾクノハシクレ。だが其の息は上がっている。事前にスキルを入れて置いてこれか。まだ鍛錬が足りないと、己を脳内で叱咤する。
「先頭はギゾクノハシクレ! 其の後をキヘイマックイーリンが追う! 三番手はマッハローニン、続いてオーシャンルビー!」
「……行きます……!!」
オーシャンルビーが仕掛ける。仕掛けると言っても、二重の意味だ。前を走っていたマッハローニンに向けて、黒いキューブを放つ。あらゆる苦痛がマッハローニンを苛み、思わず膝が折れた。
「ぐおおおああっ!? しまっ……!!」
「すみません……でも、勝つ為には!」
「マッハローニン転倒! オーシャンルビーが抜き去っていく! しかしオーシャンルビーは未だ三番手! 其の後ろからアグネスココロン、ステラビアンカ、ノリアソリアクトン! ホワイトナリリーは七番手、続いてミコミコマデル、そして最後にウマガホンキダス! ウマガホンキダス、このまま最後方で終わってしまうのか!?」
「そんな訳……ないでしょう!」
馬は馬であるがゆえに。なにしろ神馬であるが故に、走る事に関してはプライドはピカイチといってもいい。持てるものは全部使う。そう、例えば……背負っていた高機動バーニアとかね!!
「おおおおおお!!」
「ウマガホンキダス、一気に追い上げてきた!! 速い、速い、というかバーニア背負ってませんあれ!?」
『禁止はされていないので大丈夫ですね』
「ウマガホンキダス、一気に躍り出る! だが後続も負けてはいない!」
「奇跡は……起きる……? はっ……甘く見るんじゃないわよ! 起きたものは全部! 私の! ……ッ、実力なのよッ!」
「吾の足取りに一切の失策なし! 真っ向勝負である!!」
「これは、わたしの可能性……! 広げてみせる! 光よりも速く!」
「此処まで、本気で走る事は、そう、なかったけれど……! 仲間だけれど……やっぱり、負けたくないな!!」
「お前の歌が、……聞こえる……! だから俺は、負けない……!」
「負けたくないですの……! だって、わたしは……! ゴリョウさんのお名前を、背負っているのですから……!」
「センターは……! 譲りませんッ!」
「……義賊は、人々に希望を与える存在だ……! このまま逃げ切る……!」
●
「はい、という訳でこちらウイナーズサークルです、ギゾクノハシクレ選手に来て頂いています! 最後のスパートはお見事でしたね!」
「……ありがとう」
「高所でのドローンの撃破、そして其れをアピールしない点にも一定の観客票が集まりました。いかがお考えですか?」
「別に、……自慢する事でもないだろう。人々に害を為すかもしれないから排除した、其れだけだ」
「ありがとうございます! これで市民の安全も護られますね! では見事観客票で一位を取った方へのインタビューへ移ります! アグネスココロン選手! おめでとうございます!」
「ありがとうございます! 観客票なんて初めて知ったんですけど?」
「サプライズですからね! この度はアグネスココロン選手のあくなき人助けへの意欲、そして更に勝ちを追い求める姿勢に投票が集まりました。確か選手は別の国で医学生をなされているとか」
「あ、はい。だからやっぱり、怪我人をみると身体が動いてしまうというか」
「素晴らしいです! 此処TOKYOの医学会からも、医師になる事があれば是非にという声が寄せられています。戦地での素早い手当が評価されましたね!」
「あ、ありがとうございます」
「という訳で以上、優勝者・特別賞インタビューでした! では解説の萩原さん、実況をお返しします!」
「はい。こちら実況の萩原です。この度は緊急でインタビュアーをしてほしいとの事で。……こちらには選手へのサプライズ、喫茶“ステラビアンカ”様から提供されたケータリングサービスが並んでおります。ではまず、2着のキヘイマックイーリン選手にお話を伺いたいと思います。宜しくお願い致します」
「ええ、宜しく」
「矢張り2着というのは悔しいですか」
「……勿論。スパートのタイミングは完璧だった。あと少しというところだったんですが」
「そうですね。頭一つの攻防、我々も固唾をのんで見させて頂きました。三十分後にはウイニングライブが控えております。ギゾクノハシクレ選手は辞退という事で、キヘイマックイーリン選手がセンターになりますが」
「悔しいですけど、一つの思い出として精一杯務めます。……次は負けません」
「……ありがとうございました。では……3着のウマガホンキダス選手にお話をお伺いします。お疲れ様でした」
「ああ。お疲れ様でした」
「その……バーニアを付けて疾走する、というのはよくされるんですか?」
「はは。いいえ、やりませんよ。でもあの面子の中では、そういう切り札を切らなければならない程だったという事です」
「成る程。それほど強敵揃いだったと」
「そう言う事ですね。バーニアまで付けて走ったのに勝てなかった……勿論悔しいですし、其れ以上に皆さんが素晴らしかったという事ですね」
「成る程。ちなみにウイニングライブはどうなされるおつもりでしょう」
「ダンスは得意ではないですが、折角ですから立ってみようと思っていますよ。ステップくらいは踏めるんじゃないですかね?」
「楽しみにしています。ありがとうございました」
「ええ」
「萩原さん、ありがとうございました! 選手へのサプライズはお名前の通り、ステラビアンカ選手のお店からの提供となっております! ちなみにステラビアンカ選手は猫ちゃんが離れてくれないようで、折角なので……とお名前を募集しているそうです! ウイニングライブの時間まで、折角なので考えてみてはいかがでしょうか! 其れでは、一旦此処で休憩に入ります! 混沌ダービーの観戦お疲れ様でした、ありがとうございました! 実況はわたくしナイチンゲール、解説は東京復興委員会の萩原さんでお送りいたしました! では、また!」
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
Finished the Race!
See you again...
GMコメント
こんにちは、奇古譚です。
いつかこういうの書きたいと思ってたんですよね。
やっと形になりました。
●目標
勝利の女神のキスを受けよ
●立地
「再現性東京 Latest街」です。
ジャバーウォックに襲われた傷跡も徐々に復興のお陰で薄れて行っています。
ただ、人々の心は少し疲弊しています。
この混沌ダービーはそんな人々への娯楽提供として行われます。
(裏では賭けなども横行しているようです)
レースルートとしては、敢えて未だ復興が進まない場所がルートとして規定されています。
イレギュラーズは数々の障害を排除しながら1位を目指す事になります。
●予想される危険
・ロボットが暴走している。人々を脅威から救い出せ!
・人々が瓦礫の下に! どうにかして救出しよう!
・高所にネコチャンが! 放っておくわけにはいかない!
●記載事項について
一行目:源氏名(本名でも構いません)
二行目:脚質(下記4種からお選びください)
三行目:何処で集中するか(作業や走る速度が上がりますが、スタミナが烈しく減少します)
四行目:意気込みや途中での相手の妨害など
【記載例】
オレハナニモノ
脚質:逃げ
ロボットの排除
さて、今日も俺は走るぜ!!
●脚質
逃げ:初手から先頭に飛び出して、そのまま先頭をキープします
(瞬発力に自信のある方向け)
先行:最初は先頭集団でスタミナを温存し、スパートで一気に先頭を目指します
(瞬発力、スタミナに自信のある方向け)
差し:最初は中ほどの集団で温存し、スパートで一気に先頭を目指します
(持続力、いざというときの根性に自信のある方向け)
追込:後方でぎりぎりまでスタミナを温存し、徐々に押し上げます
(粘り強さ、押し上げるパワーに自信のある方向け)
●
此処まで読んで下さりありがとうございました。
アドリブが多くなる傾向にあります。
NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
では、いってらっしゃい。
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