シナリオ詳細
クラフトジンに憧れて
オープニング
●覇竜のお酒
覇竜領域デザストル。
竜種の住処であるという危険性から人類未踏の地ともされ、地理に関してはほとんど分かっていない場所だ。
外の世界とは全く異なるパワーオブパワーな領域であり、人間など最下層以下の野イチゴ程度にしか過ぎない存在だ。
そんな中、亜竜集落に暮らす亜竜種たちは慎ましい暮らしをしているのか?
答えは否、である。
フリアノン、ウェスタ、ペイト。
3つの集落の住人たちは誰もが相応に純粋であり、強かでもあった。
高台で山菜を育て、狩れそうな肉を狩る。
そして当然……酒も造る。
竜牙草を漬けて造る竜牙酒。
それに……やはり一番造りやすいのはジンだろう。
穀物などを原料とした「原竜酒」の度数を調整し、各種のボタニカルを加え再蒸留を施す酒だ。
名付けるならばフリアノン・ジン。そんなところだろうか?
度数はおおよそ40~60と幅広い。
使うボタニカルによって香りも異なり、味も甘口から辛口まで自由自在。
クラフトジンとも呼ばれるものだが……全酒呑みに共通する事項として「オリジナルのクラフトジンを仕込みたいな」という欲望があるのを否定できるだろうか?
出来るはずがない。
だって、自分の好みの酒を延々と呑みたいに決まってるもの。
好みの酒がない?
そりゃ君ィ……君の愛する酒に出会ってないんだよ。
●源竜酒を呑もうとするんじゃない、度数90だぞ
「本日は此方からのご提案をお持ちしました」
「ほう、聞こうじゃないか」
ディアナ・クラッセン(p3p007179)と話していた黒鉄・相賀は、新田 寛治(p3p005073)のキリッとした様子に面白そうに声をあげる。
「今まで依頼で竜眼草をはじめとする幾つかの香草を採ってまいりましたが、そういったものを使用したクラフトジンの作成をご提案したいと考えております」
「わざわざ儂に話を持ってくるってこたぁ、あれじゃな。イレギュラーズを集めて覇竜トライアルにかこつけて好きな酒を造って呑みたいと。そういうことじゃない?」
「お話が早くて助かります」
「ダメな大人がいるわ……」
前回撃退した「グルメなサイクロプス」の話をしに来ていたディアナ(未成年)は寛治を見ながら息を呑んでしまう。
しかしまあ、酒職人の相賀に話を持ってくるのは正しいので寛治がきちんとその辺のリサーチが完璧な仕事のできる人間であることも確かだった。
「ふぅむ……まあ、さっきの嬢ちゃんの話も合わせれば丁度いいかもしれんの」
「え? 私?」
「うむ。というのも、蒸留所の位置が集落の外にあるんじゃよ」
デザストルの性質上、比較的安全に作業できる場所は基本的に高台になる。
しかし、重たいものを保管したり移動する必要のあるものに関しては、高台に作ると非常に面倒なことになる。
そうしたものは地上の岩山に穴を掘ったり天然の洞窟を利用したりするわけだが……相賀の蒸留所の一部もそうした場所にある。それは何故か?
「香りがあまりに強すぎるものは『外』でやっとるってわけじゃ」
ついでに言うと、一部のハーブ茶の乾燥などもそこで行っている。
「其処にクラフトジンに使える材料が揃っとる。蒸留をやれば間違いなくグルメなサイクロプスもやってくるじゃろうからな。二度と近づかんように追い返してくれるかの?」
- クラフトジンに憧れて完了
- GM名天野ハザマ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年02月20日 22時21分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●源竜酒を呑もうとするんじゃない、度数90だぞ
「ジンは熟成が不要な分早期に出荷可能なため、蒸留所のキャッシュフローに於いて有利なのです。まあ要するに『すぐ飲める』って事ですが」
フリアノンの新しい銘酒開発とまいりましょう、と。まさに出来る男と言った風情の『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)がそう語る。
なるほど。知識もあるようだし、これだけ出来る男な感じを出しているのであれば全てうまくいくかもしれない。
期待感の高まる中で寛治は源竜酒をグラスに入れる。
そう、まずは原竜酒を味見である。
「酒クズ? いやいや、ベースとなるスピリッツの特性も、ジンの味を決める重要な要素ですから。味わい確認しておく必要があるのですよ……カーッ! やはり効きますね」
度数90を躊躇いなく飲む辺り、安心していい要素か分からない。たぶん大丈夫だろう。
「クラフトジン……か、国柄、酒に酔いたくなる事は少なくない戦うだの殺すだのは呆れるほどやってきたからな さてとびきりの一杯を作るとしようじゃないか」
そんなことを言っているターコイズ・ブルー(p3p006485)の視線は、余韻を楽しんでいる寛治のほうへと向けられる。
「……原酒をスキットルに入れて少量口に含むというのも、興味があるがな」
「そういや儂は酒好きじゃがそう言えば自分で酒を作るのは初めてじゃのう。それが飲んだことがない覇竜の酒と来れば楽しみじゃわい」
『ろくでなし』ナール・トバクスキー(p3p009590)もやる気は満々のようだが……まあ、仕事の内容からして酒呑みが集まるのは当然と言えるだろう。
「ほほう、好みな酒を造れるのか、酒好きとしては垂涎モノだな」
機械を確かめている『帰ってきた放浪者』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)を見ても、その辺りは明らかで。
「酒造りと聞いたら黙ってられないなあ! 製造工程が分かれば量産も利くだろうし。名産が出来れば覇竜の皆の交易材料にも使える。これはもうやるしかないでしょう、おこぼれで酒も呑めるしネ」
「ハッハッハ。面白いのう」
『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)もやる気満々で、それを黒鉄・相賀が見て笑っている。
「何やら面白いものも運び込んだようだしのう」
相賀が言っているのは、ルーキスが『緋狐』チー・フーリィに頼んで運び込んだ秘密道具だ。
「折角ラサにコネを持ってるキャラバン商人がいるんだ。使える時に使うとも!」
具体的には今回の作戦で大量に作る羽目になるであろう「カレーを含めた様々な料理材料の運搬」を頼んでいた。
あまりの量だと私たちが運ぶには荷が重い故に、移動商人であるチー達に運んでもらおうとしていたのだが……幸いにも、フリアノンまで運んでもらうだけでなんとかなっている。
しかし、何故カレーの材料を運んだのか。ここでカレーパーティーをしようというのだろうか?
否。酒の香りを目指してやってくるネオサイクロプス相手にカレーを仕込もうというのだ。
「私はリフィヌディオル、あなたの望みを叶えます」
カレーの材料を見ていた相賀に、リフィヌディオル(p3p010339)が声をかける。
「依頼人、黒鉄・相賀のオーダーはグルメなネオサイクロプスを追い払うこと。それも出来れば二度と近づかないように」
「うむ、そうじゃな」
「これは痛い目に遭ってもらう必要があるでしょう。けれども戦いによってではありません。皆さんと知恵を絞り合ってみました」
「なるほどのう……では期待しようかの」
笑う相賀にリフィヌディオルは一礼する。
リフィヌディオルが狙っているのはクラフトジンの香りに釣られて料理を食べたら酷い目に遭う経験をさせたい……というものだ。
相手がグルメであるからこそ、そういうものは効くだろうという判断だが……やってみなければ分からない。
「材料も機材も揃ってるので香料は調香のスキルで作成可能と期待しています。不味い料理の研究も抜かりありません。まさかこんな知識(料理(悪))を仕入れることになるなんて思いませんでしたが……」
言いながら、早速リフィヌディオルは調理を始めていく。
わざわざマズイものを作るのだから、早めの準備は必要というわけだ。
(外見はシンプルにお団子にしましょうか、中身の餡が肝です。なにせ食べものである必要すらないのですから何だって使います。いわゆる苦渋と辛酸というもの具現化してみせましょう)
「ふむん。いや、グルメなサイクロプスを、二度と近づかんように追い返すってのは意外と難しいのじゃ。けど、まぁ、せっかくの酒だしのう、ちょっと作ってみるのじゃ」
その一方で、『元ニートの合法のじゃロリ亜竜娘』小鈴(p3p010431)は酒でグルメなネオサイクロプスをどうにかする手段を考えているようだった。
「霞・美透、小集落の出だ。お酒好きでね、作らせて貰えるのは嬉しい。今日はよろしく頼むよ!」
「うむ。儂は今回見とるでの。頑張っとくれ」
「頑張る、か。クラフトジン……酒造りか。初めてだが楽しみではあるなだがその前に邪魔者を片付けなければ。向こうも悪気があるわけではないしできるだけ丁重にお帰り頂こう」
『霞流陣術士』霞・美透(p3p010360)もそんな挨拶をしながら『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)と説明書を確認し始める。
そうして大人たちが色々やっているのを『お父様には内緒』ディアナ・クラッセン(p3p007179)は複雑な表情で見ていた。
「覇竜でお酒造りねぇ……私あと5年くらい飲めないのよね。こういう時、子供って不便だなって思うわ」
むくれていても、年齢は……年齢差だけはどうにもならない。
誰との年齢差か……と聞かれれば「そんなの内緒よ」とディアナは答えるのだが。
そんなディアナは美透とカレーを作る予定だが……そうして、準備は着々と進んでいくのだった。
●たのしいお酒造り
「私が作るのは蛇眼苺のお酒にしようか。覇竜での数少ない甘味なら、甘くて良い酒になりそうじゃない? 勿論此処で開けるなんて無粋な真似はしないさ」
「よし、まずは原竜酒の調整だね。度数は50位にしようか。そして竜牙草と蛇眼苺をハーブで繋ぐようなイメージでボタニカルを。香りと甘味がうまく合わされば良いのだけれどね?」
そうやってルーキスと共に最優先でクラフトジンの「素」を作った美透は、ディアナと共にカレーを作りに来ていた。
「前回はカレーなる料理を作ったと聞いた、一度口にしたものなら引きつけやすさも上がる筈だ。ディアナ君の助けもあるし、作り方は調べた。大丈夫だろう、きっとね」
「じゃあサイクロプスを遠ざけるためのお料理を作るわね。お手伝いさせてね?」
言いながら、ディアナは調理器具を用意していく。
「個人的な事情はさておき、グルメなサイクロプス……本当に美味しいものへの興味が尽きないのね。何だか可哀想な気もするけれど、今回もお帰りいただきましょ」
「そうだな、それがいい。さて、玉ねぎや肉を炒めてから刻んだルーと一緒に鍋で煮込む……これならそれ程時間はかからない、出来立てを用意してやろう。水を吸わせた米を飯盒で炊けばカレーと同時にできる筈。うーむ、外の国には便利なものがあるんだね……」
「んん。前回は美味しいカレーを(大量に(めちゃくちゃ大量に)作ったから、今回もかしら。これ、かなり重労働ね……!」
出来たカレーは離れた場所に設置する予定になっている。
そして念のためにとルーキスも別の料理を準備していた。
「暴力で解決するのはスマートじゃないからなあ。前例はあることだし、料理を食わせてお帰り願おう」
覇竜においては中々新しい概念ではあるが、知識とはこういう時に使うものだ。
「前回に引き続きカレー続きだとグルメを謳うからには食べ飽きてそうな気もするんだよなあ。予防線で甘いものでも作ろうか。丁度時期が時期だし、チョコレートなら腐るほどあるしね。大量のパンケーキでもこさえてあげよう」
「ほうほう、それでは儂も手伝うとするかの」
「助かるよ。甘いものは得意分野だ、幾らでも作ってあげるよ」
そうしてルーキスと相賀はチョコパンケーキを作り始めて。
そして、その作業が進む中……全員のボタニカルジン作りが進んでいく。
「こりゃ良いかもな、どれ高めの酒精が好みだが源竜酒本来の味わいもほしいからなぁ。75%ぐらいに抑えておくか取り敢えずどんなもんの味になるか試飲でも……やっぱだめか? ちっ」
「例のサイクロプスも酒が飲みたいなら飲ませてやれば良いのだ。ただし、度数90オーバーの火がつくようなやつをね」
「これが調整装置か……不要といいたい所だが、奈落の如く酒が飲めるわけでもない。推奨の上限、60としておこう」
「作る方は詳しくないが中々良い設備じゃのう。度数? 勿論限界まで高くするに決まっておろう、高い分には薄めて調整できるのじゃから低いよりは良かろうてさて先ずは作る前にちょっと味見を……」
ナールが源竜酒をラッパしようとして相賀に軽く叩かれていたが、何気に小鈴も源竜酒をそのまま使おうというのだから、結構な無茶をやっている。
そして小鈴は度数はそのままに竜牙草と辛みがさらに強まる調整用ハーブを入れていく。
可能であれば匂いも少し強めにでるような感じが良いが……上手くいくかは分からない。
だが、相当辛口かつウッディで……火が付き喉も焼けるような酒が出来るはずだ。
まあ、寛治が呑んで平気なので大丈夫かもしれないが。今もケロリとした顔をしている。呑み慣れた顔だ。
「それでボタニカルってので調整するんだな?」
バクルドも小鈴の後でボタニカルを見回すと、香りを確かめ選んでいく。
まずは竜眼草多めに加えて竜牙草を少し、これで煙の香りの中の程よい樽仕込の風味を出していく。
後は微調整用のハーブを加えてガツンとした辛味のあとに残る甘みを残す。
「調整してて酒が欲しくなってきたな、ちょうど目の前にいい酒が……まだ駄目なのか? はぁ……」
気が早過ぎである。
「キツい酒に脳が透き通るような甘い香りを。蛇眼苺をたんといれて蒸留してやるとしよう」
一方のブルーは、とことん甘口でフルーティなものにするようだ。
「コーヒーにどろどろの砂糖を溶かすようにだ。栄養のとりすぎということは、ないからな」
ついでに仲間の料理を手伝えないか見回してみるが……そろそろ完成に近いようだ。
そうしてボタニカルをブレンドすれば、いよいよ蒸留器にセットする番である。
ちなみに寛治だが……かなりのこだわりを見せている。
蒸留は竜眼草、竜牙草、蛇眼草を分けて行い、最後にブレンドして味を決めるつもりだった。
つまり……余っている他の蒸留器をも使い、3つのジンを作っているのだ。
そう、寛治が目指す味は覇竜領域を表すような、力強くも複雑玄妙なドライ・ジン。
竜牙草から引き出したウッディな甘みを土台に、竜眼草は生と干した物の二種類を使い風味の広がりを生み出す。
これらのブレンドの最後に蛇眼苺から抽出した甘みを加えることで、ドライさが引き立つよう仕上げる。
このジンをプレーンとし、またプレーンをベースに調整用ハーブのブレンドを変えることで、フルーティーやスパイシーなど複数のバリエーションを持つジンを開発する。
更に度数にもこだわりがある。
一般的なジンは加水し45度前後だが、原竜酒らしさを活かすため、寛治は度数60~70でのボトリングを選択していた。
「ボタニカル毎に分けて抽出し最後にブレンドする手法は、ここ最近のクラフトジンのトレンドなんですよ」
「なるほどなあ……」
バクルドが感心したように声をあげるが……この工程までいくと、例のアレが寄ってくる。
故に、すでにカレーやパンケーキ、そしてリフィヌディオル特製の激マズ団子も用意している。
「蒸留所から離れた場所には仲間がまた別の良い香りのするカレーを用意してます。前回はこれで美味しい思いをしたそうですね……そちらはちゃんとしたカレーです。蒸留の香りのする私のお団子とのギャップが肝心なのです。蒸留所の外のほうが美味しい思いが出来ることを刷り込んでくれることでしょう」
「ほー、エグいこと考えるのう……うむ、面白い」
リフィヌディオルに相賀が頷き、ナールも魔法瓶に入っている酒を一気して集中力を上げていく。
「あぁん、儂の酒を狙ってやって来ると許せねぇ奴らじゃのう。少々痛い目に合わせてお帰り願おうかのう、サイクロプスだけに……」
サイクロプスとかかっているのは目のあたりだろうか。点数については議論が必要そうだ。
「ぷはー……食前酒ならぬクラフトジンを飲む前の酒前酒と言った所じゃな」
言ってることが酒クズ理論だが大丈夫だろうか、きっと大丈夫だろう。
「やれやれ。この場に関しては荒事は俺より遥かに得意な連中が多いようだが、仕方ない。仕掛けた飯を食ってもまだ来るようなら……俺がやれることをやろうとしよう」
ブルーも呟き武器を構えるが……こちらに近づいてくるグルメなネオサイクロプスは疑いもなくカレーを口に流し込み、ぺろりと平らげる。
中々に気に入ったようだが……次は団子だ。これで帰らないなら、戦闘になるが……。
「グッ!? ゲアアアアアア!」
団子を口に入れたその瞬間、余程不味かったのかネオサイクロプスは団子を吐き出し岩山に穴を開ける。
恐るべき吐きだしパワーであるが、そのまま何処かへと走り去ってしまう。
「これ以上ないくらいに上手く釣られて、上手く引っかかったわね……」
「できればもう邪魔をしに来ないでくれると助かる……来たらまた誘導しなければいかんしな……」
呟くディアナにブレンダも頷いて。
そうして、一行はフリアノンへと戻っていく。
「すぐには飲むな、か。戦いで昂ぶった血を慰めるところに一口だけでも…といいたいところだがな。仕方あるまい、ここは大人しく退散するとするか……もっとも、他の連中が何かしでかしたらそのスキにいただくというのも、悪くはないがね」
ブルーがそんなことを言っている横で「此処で呑む」と言い張ったバクルドが引っ張られていたが……さておいて。
「では、乾杯!」
「よっしゃ、完成祝いに飲むぞぉ!」
乾杯の合図とともにバクルドが呑み出し、ぷはあと良い声をあげる。
その様子を見て、ディアナもウズウズしてしまう。
「おさけ…。ねぇ。ひとなめだけでも……駄目? やっぱり? そう……じゃあお茶と蛇眼苺を頂きましょ」
ディアナはちょっと寂しそうに、そう呟いて。
「……これ、酔っぱらいが出たら私が介抱することになるのかしら? みんな、程々にね?」
「そんなお嬢ちゃんに、特別にコイツをやろう」
相賀がディアナにこっそりと渡したのは。
「え……これ、苺のクレープ?」
「他の連中には内緒じゃぞ。なあに、酒の話ばかりで詰まらんかったじゃろう」
そのクレープは、蛇眼苺茶にはかなり合う味で。
「こういう各々の好みが出るのは面白い。スイーツもあるようだし至れり尽くせりだな。意外と甘いものがよく合う」
ブレンダは他のメンバーが作った酒を……小鈴が攻撃用に作った酒は寛治とバクルドが呑んでいるので、それはさておいて色々な酒を呑んでいるが、どれも各々の工夫が見られる素晴らしいものだ。
「しかし酒造りというのは意外と面白い。これからちょっと手を出してみるのはいいかもしれないな……今回は楽しい経験をさせてもらった。お土産に少し貰って帰ろうか」
「あんなモノを飲んで普通の状態でいられるわけがないと思ったんじゃがなあ……」
小鈴は自分用に作った蛇眼苺に調整用ハーブと砂糖を2%ほど加えたオールド・トム・ジンを呑みながら、寛治とバクルドを見ているが……思い出してほしい。寛治は初手で源竜酒を呑んでいる。
「やはり酒は甘いモノが最高なのじゃ、苦いのとか臭いのとかはどうも苦手なのじゃ」
言いながら小鈴はつまみに蛇眼苺をつまむ。これはこれで中々酒に合う……のだが。
「やはり飲み会の時のツマミは甘いものが良いのう。チョコとか齧りながら飲みたいのじゃが、どっかから仕入れてこんとダメじゃろうか?」
「あ、パンケーキの余りのチョコがあるよ」
「おお、これは助かる」
「いえいえ」
言いながらルーキスは、ニコニコと笑う。
作った酒は持ち帰って旦那と楽しむつもりだ。そして、今日たくさん持ってきた材料費だが……。
(料理の材料費と運搬出張費はローレットにツケる! いやあ我ながら完璧な布陣だね!)
なるほど、中々に抜け目がない。
「ヌーハッハッハッ、覇竜の酒も中々にいいのう!」
ナールは漢豚丼と共に酒を流し込んでいくが、これもまた酒の楽しみ方の1つだろう。
そして……リフィヌディオルも。
「子供の様に見えるかも知れませんがご安心ください。私の身体はかれこれ200年以上前に作られたとされています。亜竜種の基準に準えてもきっと成人しているでしょう」
一応周囲にそう念押ししていた。ちなみに年齢換算すると大体214くらいらしい。
「とは言え飲酒が初めての経験には変わりません。慎重に味わってみます」
舌先で少し触れたり、少量含んで口の中で転がしたり。
(やはりボタニカルの香りが一番に突き抜けていきますが、酸味、甘み、アルコールの複雑な苦み……)
適切な言葉を探すが、見つかりはしない。
「なんと、これは一言で言い表せません。でも美味しいです」
残った材料でつまみを作っていた美透も、ようやくそこで酒を呑み始める。
「さて、これが私のオリジナルのジンになる訳だが……ふむ、まずはストレートで頂いてみようか」
(思い通りの味になっているだろうか……? ああ。それと、水割りにも挑戦してみよう。きっと飲みやすくなる筈だ、飲み過ぎに注意しなければね)
初めてのオリジナルジン。
それで行う呑み会ほど楽しいものはない。
ふと美透が寛治を見てみれば、何やら相賀とやっている。
まずは出来上がったジンをテイスティングしつつ、相賀に振舞うカクテルを寛治は作っていく。
「有名なカクテルでレシピも多種多様ですが、私の行きつけのお店のレシピでお作りします」
ミキシング・グラスをよく冷やしてドライ・ベルモットでリンス。そこにフリアノン・ジンを入れステア。口の広いカクテルグラスに注いでレモンピールを軽く絞り、ピックに刺した干し竜眼草をグラスに鎮める。
「名付けるなら、ドラゴニア・ドライ・マティーニ」
「ほう、これは……! 見た目も美しいが、味も良いな。先程の工程もそれなりの技がなければ出来んと見た……やるのう!」
「お、なんだなんだ。カクテルか?」
「ほう、いいのう!」
「なんだか美味しそうだね」
次々に仲間たちが集まってきて、寛治のバーテンダー稼業が始まるが……そんな光景を見ながら、ディアナがクスクスと笑う。
そんな、楽しいパーティーであった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
黒鉄。相賀からの好感度が少し上がりました!
GMコメント
覇竜でクラフトジンを造ろうのコーナーです。
一般的なクラフトジン作成工程と異なり、シナリオ中に全て終わります。
工程1:原竜酒を「度数調整器」に入れて好みの度数にメモリを合わせる。調整原竜酒完成。まだ呑むんじゃない。
工程2:好きなボタニカルを入れて蒸留器にセットする。
工程3:最蒸留の香りに惹かれてきたグルメなサイクロプスをボコって追い返します
工程4:完成! まだ呑むんじゃない。持って帰るんだ。
備考:全ての機器は成人の皆さんの数だけ存在します。
用意されているボタニカル
・竜眼草
スモーキーな香り。これを使うと燻したような香りと苦みが出ます。
・竜牙草
ウッディな香り。これを使うと樽仕込みのような香りと辛みが出ます。
・蛇眼苺
フルーティーな香り。これを使うと華やかな香りと甘みが出ます。
・微調整用ハーブ
香りや味を調整する為のハーブです。これを使うと好みの香りや味を調整・強化できます。
ちなみに未成年の方は違う部屋にハーブ茶の葉乾燥室があります。
フルーティな甘みのある「蛇眼苺茶」、スーッとする「飛竜茶」を此処では作っているようです。
好きな方を袋に詰めてフリアノンに戻りましょう。
●モンスター
・グルメなネオサイクロプス
覇竜領域デザストルを闊歩する強大なモンスターのうちの1体。
1つ目の巨人で、その辺で引っこ抜いてきた巨木を槍に加工しています。
攻撃方法は突き刺しと連続突き。
蒸留が始まって少ししたあたりのタイミングでやってくるでしょう。
完全に倒そうとすると周囲の強大なモンスターの興味を引いてしまうので、なんとか向こうには諦めて頂きましょう。
●黒鉄・相賀(くろがね・そうが)
亜竜集落フリアノンで酒職人を営む亜竜種の老人。
それなりに戦えるらしいです。
気の良い酔っ払いに見えますが、概ねその通りです。
義理には相応の友好を、不義理には相応の冷徹さを返してきます。
●フリアノンに戻ったらどうするの?
呑み会以外に何をすると?
未成年はお茶と蛇眼苺でお茶会です。貴重なスイーツです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
地図通りのルートに沿っている限り、想定外の事態は絶対に起こりません。
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