シナリオ詳細
竜の食卓に身を献じよ
オープニング
●きらめく剣、炎、情熱
強く。
強く。
もっと強く、燃え盛る炎のように――。
覇竜領域デザストル。
この世界で最も『過酷』な地域。
その山脈の、火山地帯である。
あちこちから噴出する熱水。間欠泉から噴き出した湯は、ごつごつとした岩にぶつかって、もうもうと湯気をあげて蒸発する。並の人間が触れてしまえばそれこそ熱傷を負うだろうそれを、『亜竜』たちはシャワーを浴びるかのように鱗ではじくのだった。
1人の少女が、亜竜に取り囲まれている。
亜竜種の少女、美華(みか)。
じりじりと方位の輪を狭め、迫る二足歩行の亜竜たち。しかし、美華が呼び出した無数の剣が、亜竜の背後から彼らを貫いた。
奇襲を受け、奇妙な悲鳴をあげながら、モンスターたちは四散していった。
「!」
次なる一撃に備えていた美華は、防御から攻撃に転身し、剣の一つを投擲する。
「貫けっ、あたしの『ハイパーアルティメットブラッドブレード』!」
ざしゅ。
その一撃は一体を仕留めるが、残りは逃がしてしまった。
「一昨日来るといいわ!」
さいきん、亜竜集落ペイトを荒らしまわっているモンスターの群れ。どうにも、やってくるのを迎え撃つだけでは仕留めそこねる。
ぶんぶんと剣を振った美華は、それからふっとため息をついた。辺りに満ちていた火がぽつぽつと消え、白い煙がもうもうと上がった。モンスターが口からぽろりとこぼした金属の破片。それは、ただの金属のかけらで、狙っていたものではない。
美華が探し求めていたのは、料理人たる父親の鉄鍋だ。きらきらしたものが好きだという習性のモンスターに持ち去られてしまったのだ。
このままじゃらちが明かない。なら、どうするか。
(そうだなあ、懐まで飛び込んで、一網打尽にすればいいか)
と、足跡をたどり始めた。
●キラキラしたもの
「なんだって!? 女の子がさらわれたのか!?」
「いや、自分で向かった」という返答が返ってくるのは、さすがに覇竜領域デザストルというところだろうか。
情報屋・キータ・ペテルソン(p3n000049)は「……そっか!」ととりあえず納得の棚に入れたらしい。
もはやこの地域は規格外だし、そして、こんなところまでやってきたイレギュラーズのすごさというのも、すごすぎてだんだん麻痺してきた。
美華の両親は、それは心配そうな顔をしてはいたが、今すぐ娘の命が危険と考えているわけでもないようだ。ここの人間は「強い」。それでも、父親の方はどこか落ち着かない様子だったのだが……。
「ええと、この辺りの集落を荒らしてるのが、亜竜のステゴロノドン、だな。キラキラ光るものとか。おいしそうな奴とか、そんなのが好きらしいぜ!
それで、娘さんはそいつを追いかけていってしまったと。
巣の場所はおおむね分かってるらしいけど、はっきりした位置が分かっているわけじゃないから、時間が心配ってところだな……」
ところで、このステゴロノドンは……見つけたものは巣に持ち帰る習性があるらしい。食事も、巣でしかとらないという。きらきらしたものとか、おいしそうなものとか、ともかく魅力にあふれるものであればなんでもお持ち帰りするというのである。
「だから、もしかしたら、うまいことやったら潜入できるんじゃないかとも思ったんだけど、並みのおいしさ、並みのものであれば途中で飽きて放り出してしまうらしいんだよなあ」
試そうとしておにぎりを奪われたキータであった。死ななくてよかったと思うべきだろう。
つまり、もしも、あなたたちがきらきらとしたような魅力を持っていたり、めちゃくちゃ美味しかったり、あるいは一芸を持っていたような場合は……わざとにステゴロノドンの巣にお持ち帰りされることができるかもしれないのである。
- 竜の食卓に身を献じよ完了
- GM名布川
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年02月23日 22時35分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●捜索願
「自分から亜竜の巣に向かうなんてすっごい勇気のある子なんだね!」
『今を写す撮影者』浮舟 帳(p3p010344)は、冒険の予感にきらきらと表情を輝かせている。
「いやぁ、妾の言う事では無いがペイトの里の者達って血の気が多すぎんかのう……?
敵がうじゃうじゃ居るところに一人で乗り込もうとするとか、正気とは思えんのじゃ」
『元ニートの合法のじゃロリ亜竜娘』小鈴(p3p010431)は対照的にローテンションだ。めんどくさいことになりそうだと内心思っている。が、働きはする。小遣いを止められたからには仕方ない……。
「突撃亜竜の晩御飯、って感じだけど
単独無策で突っ込んだってホントに? 無茶するわね……」
「さすがこの地で生きる人らはみんな逞しいというか……」
苦笑する『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)は、だよなあ、という表情の『嵐の牙』新道 風牙(p3p005012)は顔を見合わせた。やはり、この集落の人たちもどこかぶっ飛んでいる。
「なんか事情があんのかい? あー、なるほどな。大事にしてた鉄鍋か」
どーんと前に出たのは、『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)だ。料理人であるゴリョウには使い込んだ調理器具への思い入れも分かる。
「そっか
家族思いの良い子だよね
そんな子に悲しい想いをさせる訳にはいかないよね!」
『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は、大きく頷いた。
「安心しな親父さん! オレらでちゃちゃっと無事に連れ戻してくっからさ!」
「うん、ボクらがちゃんと連れ帰すから安心してね!」
「鉄鍋も取り返してあげるよ」
風牙と帳に、スティアが続けて言った。
お願いします、と父親が頭を下げる様子は、自分たちが知っている親の姿とそう変わらない。
(娘が危険な目にあってたらそうなる。どの国どの地域だって変わりゃしない、か)
だから、「任せとけよ」と風牙は言った。
●エサをぶら下げ追う者たちと
恐ろしい脅威があちこちにひしめいているだろうここで――。
「覇竜領域にも色々なところがあるんだね」
『今は未だ秘めた想い』ハリエット(p3p009025)は、単にそう感想を漏らした。素直な感想だった。並の人間なら戦意を失いそうなほど苛烈なこの場所で。
とはいえ、現状を理解していないワケではない。
「巣ってことは。そいつらの根城。
鉄鍋見つけてさっさと逃げるに越したこと無いよね」
「私の実力を持ってすれば完璧に見事な囮ができるものと思っているけど」
ふふん、とイリスは微笑んだが、暑さに眉をひそめてぱたぱたと手で仰いだ。
「でもまあ、陸の上ではね」
「水の中、恋しいなあ~。海洋もすごいところなんだよね? 見てみたいな」
「来ることがあったら案内するよ」
などと、海のいきもの談義に花を咲かせつつ、……やはり心配なのは依頼人の娘だ。
「早いとこさがしてやんねーとな」
「なんとか見つけないと」
「そうだね。お父様も心配してたしね。どうせ戻るように言っても止まらないというのは分かりきってる。それなら一緒に行く方がマシかと思うのよね」
「働き者じゃのう。羨ましい事じゃ」
と、さして羨ましくもなさそうな様子で小鈴が言った。
「うん、そっか。こっちの方にいるみたいだね。ありがとう」
植物と語らったスティアは、ついでにと、邪魔になっていた木の枝どけてやる。植物はありがとう、というようにざわめいた。
「ふーむ、宝物を欲しがるドラゴンというのは鉄板だが、ロートル詩人でもいいのか……?」
『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)がギターを鳴らす。
「ロートル……?」
「美丈夫ってこった。なーんてな! ぶわっはっは」
考え込む様子のスティアに、ゴリョウが冗談めかして言った。
「まあ、アンタらがいりゃだいじょうぶだ。間違いない。おれはせいぜい、花に音楽でも添えるとしよう」
「うん、そうだよね。聞いたことがないはずだから、歌ったらきっと興味を引けるよね。この衣装もちょっとキラキラしてて、目立つと思うし」
「そういう意味じゃないんだがなあ?」
「?」
歌姫を放っておくワケもなかろうという意味だ。
「まあまあ、きっと分かる。だって見る目あんだろ、料理人の鉄鍋持ってくなんてよ!」
「俺からはセレナーデを贈ろう。ゴリョウ、アンタは……聞くまでもないな」
「そっりゃあもう、コイツしかねぇなっ」
どかっと、ゴリョウが大鍋を広げる。
「ちっと特殊な鋼でな。ちょっとやそっとじゃ壊れねぇぞ。唐辛子と、そうだ。親父さんに香辛料を分けて貰ってな」
ゴリョウが手早く作り上げていくのは、肉野菜炒めである。
「わあ、すごいね!」
「おっと、オメェさんよぉ、料理しちまうぜ?」
小鈴から預かったネズミが顔を出して、野菜くずをねだっている。
「酒でも持ってきた方が良かったか? 匂いだけでもアテになる」
「ぶはははッ、終わったら腹一杯食わせてやんよ!
はたして俺の料理は御眼鏡に叶うかな?」
「うん、この匂いなら間違いないよ!」
スティアが頷いた。
綺麗な歌声と、詩情にあふれる静かなギター。思わず聞き惚れてしまうほどだった。
「これなら間違いない、と、思うんだけど、はてさて。ついでにあの子も寄ってきてくれたらラクなんだけど、そうはいかないか」
イリスは、その調べに耳を傾ける。
(ちょっと一眠りしたくなるね……心地が良すぎて)
と、ハリエット。
「綺麗な声だなあ。それに、ギターも。なんだろう。聞いたことがない調べだなあ」
「ふ。美しい物なら任せとけ、こちとら本職詩人だ。竜よ、銀河辺境風の不思議な響きは聞いたことはないだろう?」
「その銀河の辺境ってのは、うまいもんはあるのかい?」
「星の数ほどな」
「しかし、ゴリョウさんのメシ……いい匂い過ぎる!」
くう、と風牙の腹が鳴る。
ゴリョウはもっちもちの腹を揺らして笑った。
「ぶははは。ありがとなあ。いっそ、腹ごしらえってこって味見してくかあ?」
「あー、ダメだ。今食べたら我慢できない気がする!」
風牙が頭を抱えているそばで、小鈴がそっと一匙すくっていった。
「上手くいくかどうかはこれにかかっておるわけじゃからな。必要じゃろう、何ごともな。のう?」
「もうだめだ! ゴリョウさん! 仕事終わったらメシ作って! ちゃんと金払うから!!」
「おうよ! なあにが食いてぇか考えておいてくれよ!」
「首尾良くやりゃあ、依頼人がおごってくれたり、なあ?」
スティアの歌声に、ステゴロノドンが集まってくる。
……危機的な音楽に転調したのはヤツェクの遊び心だろうか。
「意外と余裕あるみたいね」
と、イリスが言う。
「まっ、無事にこしたことないよな」
「きゃあ」
まっさきにさらわれたのはスティアだった。ぽいっと背中に放り投げられて、そのまま走り去っていく。
「やれやれだ。おれも招待してくれるんだろう?」
ヤツェクの回りをうろうろ回り、音楽を嗅ぐようにして確かめたあと、吟遊詩人も連れて行かれた。ゴリョウに至ってはペロリと肉野菜炒めを平らげたあと、本体ごとぱくっとくわえられた。
「おおっと!」
鍋の取っ手にぶら下がろうとしていたゴリョウがぽんっと放り上げられる。
「ゴリョウさん、大丈夫!?」
「ぶっはっは。食欲旺盛だな。大丈夫だ。もってかれてるだけだな。よーしよしよし、ほいっとな」
ゴリョウは、腰につけた包みを切り裂いた。赤唐辛子がぽつぽつと落ちていった。
「あれなら鳥に食われたりもしねぇだろうしな。いや、ここの鳥はどうだかしらねぇけどな」
「これで根城までひとっ飛びか。やれやれだ」
「ええと、洞窟まではこっちで……」
地図を書くスティアを邪魔されないように、ヤツェクはギターをかき鳴らす。
「あ、寄り道しちゃだめだよ!」
「にしても、器用だなあ、オメェさんよぉ」
「おれの武器はこれだ。きらきらしたお嬢ちゃんならともかく、演奏を止めたらそこでぽい、なんて目には遭いたくないからな。とはいえ、控えめにした方がいいだろうな。あと何匹いることやら」
「で、よーし、これで見えるかい、オメェさん」
ゴリョウはくわえられるときに、小鈴のネズミを庇っていた。
「おや、ありゃ」
「待ちなさい、こらーーっ!」
遠くに見えるのは、依頼人の娘ではないのか。
「うむ、かかったようじゃ」
小鈴がぱちっと指を鳴らす。
「しかし、依頼人の娘もおるようじゃ」
「何匹くらい?」
「5匹。追っ手もおる」
彼女の大声にかぶせるように、ヤツェクが驚くような大音を奏でる。
そして、彼女に向かってシッと指を立てるヤツェク。気がついて追ってくる分は織り込み済みだ。その間には、ハリエットが虚空に向かって弓を構えている。
幾度となく湾曲した矢は、追ってきたステゴロノドンに突き刺さった。襲撃者の姿を求めてステゴロノドンは去って行くが、それは見当違いな方向となる。射撃が、恐ろしく不可解な軌道を描いていた。
「オレは大丈夫。そのままやっちまえ!」
「うん、わかった。信じるね!」
風牙の姿がない。かと思えば、姿勢を低くしすぎていて見えていなかったのだ。
帳の魔法によって、何か……ステゴロノドンが大きく姿勢を崩したような気がした。どういう理論によってなのか考えるより先に、風牙の一撃がステゴロノドンを打ち倒していた。
臥龍這。
倒れたかに思えるほどの低い姿勢からの一撃は、ステゴロノドンを地面に打ち倒す。脳しんとうを起こし、そしてそのまま立ち上がることはない。
「いいね」
夜の帳に潜んだイリスが、小鈴への攻撃を受け止めて後退する。
「すまんな」
その間に、美華はその場に残った一匹を仕留めている。主に向かって、ネズミは頷いて見せたような気がする。
「すごいね、あっという間だったよ」
「まあね。このくらいなら余裕だよね?」
ハリエットは眠そうに瞬きした。
イリスは、咄嗟に自分を戦力に入れて組み立てたのか……と、美華は気がついた。
●奇遇の遭遇
(見れば分かる……強い)
「あんたが美華さん? 私達は話を聞いてここまで来たんだけどね」
美華はごくりと唾を飲む。ただ、緊張をする前に、風牙が人なつこい表情を見せた。
「なあ、親父さんの鉄鍋探してんだろ? 手伝わせてくれよ。こう見えて、オレ達は結構強いぜ?」
「え?」
「何、ただのお節介焼きだ。オレら、そういうタチのが多いんでね」
「一人で取り戻しに来るなんて、とっても勇敢なんだね!」
帳が尊敬のまなざしを向ける。
「一緒に行動できたら心強いな」
「うん、あれ? 私を……止めに来たんじゃなくて?」
「んー、近いけどね」
と、イリスが進み出る。
「止めても聞かないでしょ。だから、探しに行って貰ってるの。で、あの人たちは、囮兼潜入班ってところかな」
「そうじゃ。きっとなにもしなくてもなんとかしてくれるはずじゃ。……わかっておる、ちゃんと仕事はするのじゃ」
小鈴はぐににーと伸びる。サボっているわけではなく、ファミリアーと五感を共有し、しっかり働いている最中である。
「お仕事つらいのじゃー……。
早く家に帰って布団にくるまって寝て過ごしたいのじゃ……。むっ、おぬし、寝ておらんか」
ハリエットがぱっと顔を上げる。
「ねてないよ」
「まあここで寝るっていうのは結構豪胆よね」
イリスにこくこくとハリエットが頷いた。寝れるけど。寝れるのだ。
「しかし、捜索班の皆は凄いのう。あんなに苦労して先に進んでのう……無事じゃろうか?」
まだ会ったことのない自分のために、あそこまでしてくれるというのか。
美華はぐっと拳を握りしめた。
「よっぽど腕に自信があるんだ。ぜひ手合わせをして貰わないと」
「あ、そっち?」
「やっぱりここの人って変わってるよな」
と、風牙。
●鍋を探しに
索敵を担当するのは小鈴だ。なるべくラクに仕事を終わらせたい。苦労はしたくない。勿論その中には人助けの意思もあろうが、小鈴の探知は上手かった。最小限といってもいい。
「よし。左に行こう。右はデカいのがおるのじゃ。ちとルートは逸れるが、こっちじゃ。迂回していきたい」
「わかった。こっちだな」
風牙がぐんぐんと進んでゆく。
「あとで必要があれば大物とも戦わなきゃいけないかも、だしね」
動き出しそうな美華に、一応イリスは釘を刺しておく。
「頼りにしてるね!」
帳がにっこり微笑む。
天然というか、なんというか。これでは先走ることもないだろう。
さて、洞窟の前には見張りらしき数体が立ち上がっていたが……。
「ちょっと敵の数が多いのじゃが。ここは避けられん」
『光鱗の姫』の名前は伊達ではない。イリスが攻撃を受け止め、弾き飛ばす。逃げ場のないそこへ、ハリエットが鉄の雨を降らせる。
ちらっと小鈴が美華を見る。
「うん、任せて!」
「うむうむ、妾としても大変な仕事はさっさと終わらせたいしのう。
できるかぎり頑張るのじゃ」
先へ進みかけた小鈴は、巣の奥にきらりと光るものを見て立ち止まった。指輪だ。おそらくは誰かの……。
「……ふむ」
「あれ、とりたいんだな? オッケー」
「援護しかできんが、いいのか?」
「これは必要な労働だろ」
と、風牙が頼もしく言った。
「そう、戦闘するのね。待ってたの! こういうのを!」
「しー。待って、いくよ。さん、にい、いち」
帳の魔法で、生成された毒が立ちこめる。
それで美華は、帳の見た目に惑わされていた事を思い知った。この子もまた、強者なのだ。ここへやってくるほどの。
(イレギュラーズ……面白いじゃない!)
「盾は任せて、逃がさなければ騒ぎも大きくならないわ」
「おぬしがいれば背中は安心じゃのう」
「あ。オレでもわかる。あっちだ」
とても良い匂いがする。風牙は素早く近寄っていった。
「さあさあよってらっしゃいみてらっしゃい。ゴリョウ特製野菜炒めだぜぇ! ぶはははは!」
皿の上に盛り付けをするゴリョウ。
ステゴロノドンは、幸いにも料理に夢中のようだった。
「アンコールかあ。うん、いいよ! でもちょっと、待っててねぇ……」
「尽きないかって? 歌は無限にある、それこそな」
彼らの演奏を聴いているステゴロノドンもとても大人しい。
「散らばった骨を見るに人を襲うような獰猛な生き物ではあるんだろうが、な。芸ってのはあいにく食えやしない。さて、この『財宝』の山のどこかにあるのか、鉄鍋。なんとか隙を見て探すしかないな」
「おかわり一丁!」
「という様子じゃな」
「……結構平和だなぁ」
「奪われないものなのがよかったのかな?」
まだ鍋は見つかっていない……らしいが。
ただ、近づいてはいる。彼らの巣は思いのほか整理整頓が行き届いている。金属質な武具の欠片、その集まりを探せば良いようだ。
彼ら潜入班は、ちょっとずつちょっとずつ、捕獲された場所から移動しているようだ。
「……ボス、いるね」
ハリエットが立ち止まり、武器を構える。できることなら戦闘を避けて通りたい。
「っし」
果敢に戦陣を切った風牙が、見張りを締め上げ、声なきままに打ちのめす。
イリスが静かに歩いて行き、部屋の反対側で小石を放った。
(今じゃ)
小鈴が静かに合図をすると、ネズミがくいっと後ろ足で立ち上がる。
「脱出、成功。隠密任務、なんとかなったかな」
ボスは避けたものの、まだ数体のステゴロノドンがいる。
ただし、敵は、対応はできていない。助けを呼ぼうと開けた大口で、帳の魔法を吸い込んでしまった。
「なんかすまねぇがな、まあ、余計な殺生はしねぇよ」
怒濤の如くゴリョウに押し寄せてくるのだが、ゴリョウはぱあん、と手を打ち鳴らし、受け止めるために構えをとる。
「来おい!」
「みんな、ごめんね!」
スティアの神気閃光が3体をのす。
「よっし! 帰ったらみんなで美味いメシ食おうぜ!」
「へへっ、腕が鳴るなあ! こりゃ、ケガもできねぇってな」
「ゴリョウさん、平気?」
「まーかせとけって」
(……うん。強いのは分かってる。でも、私も……!)
スティアの氷結の花が舞った。
一手、浮いた。
そのぶん、イリスは前に出ても良いと判断した。小鈴が安全な位置を保っているのが大きい。
イリスが跳ねて、戦場に踊り出す。アトラクトス印の舶刀がひらめいた。
小鈴の魔砲が一体を仕留め、イリスがもう一体を仕留める。
「オッケー」
イリスの盾は揺るがない。前後、……美華は問題ない。
そうでしょう、という声に応えて、美華の剣もまた一体を焼いた。
ハリエットの銃口は……天井を向いている。じきに、鉄の雨が振るだろう。ならば、自分のやるべきことは、とヤツェクは逡巡した。
「よし、最終局面だ。詰めるとするか。E-A」
『了解』
Elegantiae arbiterは笑う。
早抜きで呼び出したのは、フレイミング・スターである。
『今回は出番がないって事ですね? マスター』
●あとは宴
「つかれたのじゃー! 三日分働いたのじゃー!」
「……まあ、頑張ったよね」
「ちょっとドキドキして、楽しかったなあ。ありがとう」
と、帳は笑顔で言うのだった。
「助けて貰ったのはこっちなんだけどなあ。こちらこそ?」
「ちゃんと、次は最初から頼ってよ」
イリスの言葉に、美華は素直に頷いた。
「うん、次はみんなの戦い方見たい!」
「やけに素直だなと思ったら」
「さて、スニークミッションの後は腹が減るな?」
ヤツェクこれ見よがしにいうと、ゴリョウが笑った。
「ご注文は?」
「唐辛子を利かせて、あと、酒だ。ここの酒に合う奴だ」
「そういうと思って、ここにタレにつけ込んでおいたチキンがあってなあ!」
「ひゅーーー!」
喜びの声を上げる風牙。
「料理人の親父さんも鉄鍋が戻って来たら本調子で飯が作れるだろうから、今日はご馳走だろう。おぢさんご馳走がいいなー」
もちろん、と、娘の命を救われた父親が。さらに、拾われた結婚指輪の主が現れ、酒を奢ってくれる。鉄鍋を振るう二人の料理人の影がある。
「この地の料理を知れるのは嬉しいねぇ!」
「そうだ、ここに旨いパンがあるんだが、それで汁を拭うのも悪くない。そうだ、酒も欲しいところだ……ああ、ただ飯は食わんさ。対価はステゴロノドンをも魅了したおれのオンステージということで」
「私も、一曲」
「歌も、物語も、竜だけにくれてやるにゃもったいないな。どうだ。竜殺しなんてのはちとハクがつくじゃないか」
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ステゴロノドンの接待、お疲れ様でした!
うっかり奪い返せないものに夢中になってしまったステゴロノドンでございました。
GMコメント
布川です。
突然ですが、亜竜の巣に飛び込んできてください。よろしくお願いします。
●目標
ステゴロノドンの巣に潜入・カチコミ&美華の救出。
●場所
覇竜領域デザストル。火山地域。
入り組んだ山脈の中に、ステゴロノドンの巣があります。1人向かった美華さんを追い、共闘してください。
●潜入
何人でも可能です。全員でもいいですし、仲間が連れていかれるのについていくのでも可能です。
おいしそうだったり、きれいだったり、歌声がきれいだったり、とにかく魅力があるものなら節操がありません。
●登場
キングステゴロノドン×1
ステゴロノドン×20
小さめの個体です。数は多いですが、巣の中では眠っていたり、油断していたりします。広い巣なので、餌場や寝床など分かれています。入り口はいくつかあるようです。でかいやつはHPが高くて注意です。
気に入ったものをくわえて巣に持ち帰る習性があります。
●味方NPC
美華
「さすがにこれは数が多いなあ。ねぇ、アンタって強い?」
覇竜領域デザストルに存在する亜竜集落ペイトで生まれ育った少女です。
幼少期から周辺に存在するモンスターの狩り方を徹底的に教え込まれており、そこそこ戦えるはずですが、さすがに数が多い模様。
とくに小細工なしで正面から向かっているところです。首尾よくいけば、ちょうどよく巣の前くらいで出くわすでしょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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