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シナリオ詳細

飛来せし新たなる絶望

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 かつて、越えることすら困難とされた静寂の青。
 ただ近年、この海域で繰り広げられた戦いの末、豊穣の地との海路を開拓されたことでその名称すら変わり、海洋の船が時折行きかうまでになっている。

 ある日の昼、静寂の青を航行していた海洋の商船。
 その乗組員は10名ほどで、いずれも海洋の民で海種と飛行種が半々。空と海と両方に対応できるということで編成されている。
「ヨーソロー……」
 船はアクエリア島を出港してしばらく、東南東に向けて舵を取っていた。
 彼らは積み荷を豊穣へと届けに向かっていた。豊穣と海洋。長らく交流のなかったこの2点を行き来し、互いにない物資を売買するだけでもかなりの利益となるのだ。
 アクエリア島を出港し、豊穣を目指すその船の航行は順風満帆……だった。途中までは。
 この海は、突発的な出来事が起こることは珍しくない。例え穏やかになり、頻度が落ちたとはいえそれが変わることはないのだ。
「ん……」
 それに気づいたのは、飛行種の操舵手。
 彼は空からくる黒い何かがこちらへと近づいてくるのを感知し、船員へと伝達する。
 皆、それを肉眼や双眼鏡などで確認していたのだが……。
「空を飛ぶ……馬?」
 黒い瘴気に包まれた馬が空を駆けてこちらへと近づいてくる。
 それだけで、船員らは全身に寒気を走らせて。
「フェデリア島に全速前進。一刻も早くこの海域から離れるんだ」
 接近こそしてくるが、船に気付いていないのが幸いというべきか。商船は加速してその場から去っていく。
 入れ替わるようにしてやってくる空駆ける馬だった。
「吾の呼び声に、応えよ……」
 黒い瘴気を漂わせたそいつはしばらくその海域を駆け回る間に、低い声で海に呼びかける。
 それに応え、巨躯を持つ2体の怪物が海上へと姿を現す。
 ウウウウゥゥゥ……。
 シュルル、シュルルルルル……。
 1体は2つの尾を持つ深海魚。もう1体はひどく細い体躯の巨大イカ。
 最初こそ怪物らは警戒していたが、すぐに黒い瘴気に侵され、苦しそうに悶え始める。
「吾に従え。さすればその苦痛を取り除いてやろう」
 やがて、彼らは苦痛に抗うことをやめ、黒い馬に屈服する姿勢を見せ始める。
 その怪物らの態度に、黒馬は満足気に頷き、それらを従えて海上の少し上を漂っていたのだった。


 海洋に現れた空飛ぶ馬の話はその日のうちに幻想にまで伝わっていた。
「魔種ディジィズの消息がつかめました」
 アクアベル・カルローネ(p3n000045)がその情報をローレットへと持ち込む。それに、アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が興味を抱く。
 なんでも、ディジィズは海洋、アクエリア島付近に現れたというのだ。
「なかなか痕跡が掴めないと感じていたが、まさか海に向かっていたとはな」
 アーマデルもなかなか海に注意は向かないと得心していた様子。
 だが、ディジィズもこのまま海上を漂いはしないだろう。海洋首都首都リッツパーク、あるいは豊穣、カムイグラへと至る可能性もある。
 いずれにせよ、人の密集地にディジィズが至れば、間違いなく大惨事となるあろう。
 その理由は、魔種の纏う瘴気にある。
「ディジィズは目に見えるほど多量の病原菌を全身に纏っています」
 ギフトの効力もあって、真顔で説明するアクアベル。
 その病原菌は未知のものであり、抵抗力のない人は瞬く間に病魔に侵され、苦痛に悶えながら死んでいくという。
 厄災レベルの事態をもたらしかねないこの魔種を放置できようはずもない。
 また、ディジィズを追うように、海中の怪物が2体付き従っている姿が確認されている。
「どうやら、静寂の青に生息していた狂王種や変異種を従えているものとみられます」
 それらとの戦いもあり、戦場は海上となる。
 魔種の討伐は絶対として、服従した2体も病原菌に感染している以上、拡大を防ぐ為にも討伐するしかない。
 討伐に当たっては基本船が必要となるだろう。海洋の港で借りてくるか、自前の船を使いたい。またスキルなども戦いの役に立ってくれるはずだ。

 一通り説明を終え、アクアベルは自らの予知と現地民の見聞きした情報を元に作成した資料を、イレギュラーズ達へと手渡して。
「世界に害をもたらす存在となり果てた魔種……皆さんの手で終わらせてあげてください」
 最後にそう告げ、アクアベルはイレギュラーズへと頭を下げたのだった。

GMコメント

 イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
 こちらは、アーマデル・アル・アマル(p3p008599)さんのアフターアクションによるシナリオです。
 幻想で撃退された後、海洋アクエリア島でその姿を確認された魔種ディジィズ。その討伐を願います。

●目的
 魔種ディジィズの討伐

●概要
 魔種ディジィズは静寂の青へと至っており、ルート的に豊穣へと至る可能性が高いとみられます。海上の戦いとなる為、その対策は必須となります。ご留意くださいませ。
 
●敵×3体
 魔種は2~3mほど。他2体は全長6~7mほどもあります。
 病原菌によって、魔種は高確率で。他2体は低~中程度の確率で反、棘といったダメージを負う為、対策が必要です。

○魔種ディジィズ
 黒い瘴気の様なものを纏う暗紫色の馬の姿をした魔種。
 空を駆けて接近してくるこの馬はあらゆる者に致死性の病原菌を振りまき、迂闊に触れるだけでも手痛いダメージを負ってしまう恐ろしい相手です。
 
○狂王種ツインテール
 2つの長い尾を持ち、数mもの体躯を持つ巨大な深海魚です。
 ディジィズの病原菌に侵されて正気を失いつつ、その力に抗えずに付き従っています。
 その体を活かして直接2つの尻尾を叩きつけてきたり、激しい荒波を起こしたりしてくるようです。

○変異種スクイドボーン
 ディジィズのもたらす病原菌とは別の病魔に侵され、巨大なイカへと姿を変えた人間の成れの果てです。怪物と姿が近づくにつれ、その体は骨のように細く、鋭くなっていることからこの名が付きました。
 こちらもディジィズの病原菌に侵され、苦しみながらその配下に与してしまったようです。
 連続して槍の様な足を突き出したり、広範囲に鋭い足を突き出したり、怪しい力で相手の思考を奪い、厄災をもたらします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 それでは、よろしくお願いいたします。

  • 飛来せし新たなる絶望完了
  • GM名なちゅい
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年02月14日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レッド(p3p000395)
赤々靴
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
シラス(p3p004421)
超える者
冬越 弾正(p3p007105)
終音
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
松元 聖霊(p3p008208)
それでも前へ
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

リプレイ


 海洋、静寂の海を目指すは、イレギュラーズの乗る小型船。
「ディジィズ……」
 赤い靴を履いた女性、『赤々靴』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)がその魔種の名を呟く。
「空を飛ぶ馬……だけならペガサスだとか夢のある話なんだが」
 傾国の美青年にして医者である『ヒュギエイアの杯』松元 聖霊(p3p008208)だが、空に舞う魔種を目の当たりにし、その夢が脆くも崩れ去ったことを実感していた。
「空飛ぶ馬……というのはともかく、あの瘴気は禍々しすぎるな」
 舵輪を握って操船する音楽家の鉄騎種、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は敵の纏う黒い瘴気……夥しい程の病原菌に着目して。
「あんなものをばら撒かれてはたまらない」
 その真下の海には巨大な2体の魔物が魔種に追随している。
 抵抗力のない者なら苦痛を感じたまま絶命する病原菌に耐え、魔種は生き延びる為にディジィズに服従しているようだ。
「未知の病原菌撒き散らすクソ野郎なんざ、医者の俺が見逃せる訳がねぇ」
 聖霊は使命にも近しい物を感じ、今回の事態に当たっていたようだ。
「魔種ディジィズか……」
 改めて、冒険者にして探検家『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)はこれといって直接の因縁のない相手、ではあるのだが。
「彼の目的がなんにせよ、この海を荒らしてほしくはないものだね」
 この海は長らく超えることすら叶わなかった場所。それだけに強い想いを抱く者もいるのだ。それに。
「人里に逃げてなかったのが幸いというべきか」
 旅人風の装いをした『不殺の狙撃手』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)は早くも狙撃銃を取り出す。
 このまま豊穣に至り、被害を出されては厄介だとアルヴァは戦闘準備を整えて。
「確実に仕留めに行くぞ」
「ああ、ここで滅する……!」
 同意するイズマもまたその危険性も再認識し、船を接近させるのである。


 空駆ける馬、魔種ディジィズ。
 そして、連れ従う狂王種ツインテールと変異種スクイドボーン。
 イレギュラーズは3体全ての討伐を目指す。
「狂王種なら多少の知識はあるよ」
 接敵までの間、ゼフィラがツインテールに関する生態弱点について話す。
 ツインテールは深海魚。生物の少ない深海を棲家とする為、効率よく捕食しようとする点を抑えれば、対しやすいとのことだ。
 戦場は海で相手のホーム。こちらもイズマが操縦する小型船があるがが、高々10m程度の足場では分が悪い。
「もっと足場を広く、自由に戦いたいな」
 幻想スラムの出身『竜剣』シラス(p3p004421)はもっと戦場を広く利用できるよう定められた印を切り、術式「白魚の陣」を展開する。
「海がテメーらだけのものと思うなよ?」
 陣によって乗船員全員が水上、水中に適応し、レッドなどは早速、船から降りていく。シラス自身もまた海面を歩き、海にいる2体の敵を間合いに収めようと接敵する。
 なお、飛行して戦う者もおり、大柄で細身の精霊種『長頼の兄』冬越 弾正(p3p007105)もその1人。
 病原菌を予防すべく、ぴかぴかシャボンスプレーで身体を清潔にするなど対策も万全に行う弾正には、ディジィズを放置できぬ理由もあって。
「豊穣には秋永一族……俺の一族が移り住んだばかりだ」
 彼らの為、弾正は魔を断つ者になると誓う。
「豊穣には領地があってな……守りたい者達がいる」
 無表情でドライな印象を抱かせる『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)もまた、ディジィズを豊穣へと近づけさせぬよう強い意志を持ってこの戦いに参じている。
「行くぞアーマデル。俺達の恋路を邪魔する奴は、俺達に蹴られて地獄へ落ちるべきだ」
「ああ、行こう弾正……って、俺達が蹴る側なのか?」
 弾正の呼びかけに戸惑いつつも、アーマデルが敵を注視する。
「幻想国へ攻め入ろうとした次は何処へ行くつもりっすか?」
「吾は本能のままさすらうのみ……」
 レッドの呼びかけにディジィズは怪しく目を光らせ、大きく嘶く。
 ヒヒィィン!!
 それはひどく耳障りなノイズとなり、周囲へと広がる。
 理性を失うディジィズに呼応して瘴気が周囲へと広がり、狂王種、変異種も奇怪な声を上げた。
「俺は病毒を司るものの使徒。お前のようにばら撒くだけのモノとは違い、それを抑制するものだがな」
 アーマデルが名乗りを上げるが、反応はあまり見られない。やはり、自ら思考を断っているようである。
「海洋国にせよ、豊穣にせよ、瘴気撒き散らしに駆けるなら、今度こそ此処で脚を止めてもらうっす!」
「絶対に誰も死なせねぇ、ここで徹底的に叩きのめしてやろうじゃねぇか」
 レッド、聖霊の声を合図に、海上での戦いが幕を切ったのだった。


 静寂の青へと至ったイレギュラーズは魔種ディジィズの討伐に当たる。
「今度は子のお守りの必要がない……」
 レッドの呟きは、前回のディジィズ戦に立ち会っていたオンネリネンの部隊を指す。
 今はアドラステイアに戻っているらしく、今回は魔種討伐に専念できそうだ。
「……今度こそ逃がさず、仕留めなくては」
 アーマデルは船から飛び上がり、病原菌を纏う魔種を注視する。
 海上で暴れ出す狂王種ツインテール、変異種スクイドボーンも放置すれば危険な存在だが、ディジィズは取り逃がせば新たな手下を調達されるだけ。逃すわけにはいかない。
「よぉ、テメェのことが恋しくて、遥々逢いに来ちまったよ」
 吹き荒れる疾風を纏って飛行するアルヴァが高機動で魔種へと肉薄し、挨拶を交わしながら雷撃を叩き込む。
 聖霊はエスプリ「クェーサードクトリン」を働かせ、出来るだけ交戦を始めた仲間達をできるだけ多く支援すべく効果範囲内に位置取ろうとしていた。
 仲間達が動く間、シラスは空中のディジィズを注視し、戦況を見守る。
 敵の数を減らすべく配下から倒すのは定石だが、シラスは今回、敢えて魔種ディジィズから討伐に当たる。その為の機を窺っていたのだ。
 同じく、弾正も現状は船の陰から状況を注視していたが、その船上からイズマが存在感を示したのは海の魔物達に対してだ。
「ディジィズの討伐を邪魔されては困るんでな」
「「…………?」」
 難儀そうに船を振り返る変異種と狂王種へ、イズマはさらに声を張り上げて。
「スクイドボーン、ツインテール、お前達の相手は俺だ。さぁ、かかってこい!」
 シュル、シュルルル……。
 ウウウウゥゥ……。
 ならば望むところとばかりに近づいてくる海の魔物達。
 イズマはできる限り船上に位置取るが、飛んでくる槍のような足や叩きつける2つの尻尾を受け止める。
「絶望の青から生きる強者っす。気をつけるっすよ」
 多少の地の不利はあるが、仲間の支援で海上を歩くレッドは抑え役となるイズマを癒すべく、聖体頌歌を響かせていた。
 仲間に支えられ、海の魔物2体を抑えるイズマ。
 特に、ツインテールの攻撃は広範囲に及び、船の転覆も懸念して飛行したり、レッドと同じく海上へと移動することもあったようだ。
「我々が挑み、切り拓いたこの島を荒そうというのなら容赦はしないよ」
 ゼフィラはこの海域にある島々にまで、魔種の脅威が及ぶことが我慢できずにいた。
 仲間とタイミングを合わせて動きつつ、ゼフィラは負担の大きいイズマへと大天使の祝福をもたらして癒しに当たる。

 改めて、対魔種ディジィズ側。
 シラスが魔種を抑えつけようと奮戦する間、他メンバー達ができるだけ相手の高度を下げ、水面近くにまで引き寄せようと画策する。
「テメェをこのまま行かせたら沢山の人が不幸になっちまう、それだけは許さねぇ」
 アルヴァは飛行によるリスクを武具によって軽減させつつ、水面側から積極的にディジィズに空砲を叩き込んでいく。
 同じくアーマデルも飛行し、高く飛ばぬようにしながら敵の死角から強襲する。
 アーマデルが武器を使って奏でる音色は志半ばで倒れた者達が残した未練。この海域には多くの者達が眠っており、そうした霊魂に彼は呼びかけながら、魔種に焦燥感を抱かせようとする。
 ブルルルル……!
 理性はなくとも、激しい怒りを漲らせるディジィズ。
 相手を煽るアルヴァ、アーマデルはできるだけシラスの方へと敵を誘導する。
 とはいえ、相手もこちらの誘い水には素直に乗ってくれない。
 そこで、アルヴァは強引に敵へと組み付いて。
「お仲間二人は海に居るのに、テメェだけ空でボッチなんて寂しいだろ?」
 ヒィン!?
 思わぬ手段にでたイレギュラーズに荒ぶるディジィズだが、すぐに海へと落ちていく。
 すぐに浮上する両者だが、交戦の為に高くは上がらない。
 それでも、ある程度仲間の攻撃が繰り出された直後を見計らったシラスが近場から声を上げて。
「かかってきな」
 ブルルルルル……!!
 一直線に突進を仕掛けてくる魔種をシラスは全力で抑えつけ、素手で相手の体に傷をつけ、深く、深くその傷を抉っていく。
 だが、魔種も纏う病原菌を直接浴びせかけようとしてくる。密度が濃くなればそれだけダメージは大きくなる。
「その黒ん坊を本当の灰にしてやるぜ!」
 シラスは攻撃に耐えながらも、強くディジィズの注意を引くべく相手を高熱で包み込み、行動衝動を引き起こさせる。
「どんな被害を出してでも、この魔種だけは……」
 放置など許されぬ存在。シラスは全力で抑えつけようとする。
(俺が相手を直接怒らせられれば……)
 それを見計らい、少し移動する聖霊は無限の紋章を顕して。
「相手は魔種だ、モタモタしてたら逃げられる可能性が高まる。……さっさと仕留めねぇとな」
 自己強化しつつ、さらなる仲間の強化。加えて疲弊する抑え役のシラスの体力回復に努める。
 それまで身を潜めていた弾正も動き出し、敵より高く位置取っていた。
「反撃でかえせぬ物とは搦手よ」
 相手が瘴気のように撒き散らす病原菌に、弾正は少し顔を顰めて。蛇鞭剣を振り回す。
 繰り出すは赤と黒の連撃。炎と毒を馬の体へと刻み込みつつ、相手の体力を奪うことで病原菌によるダメージの軽減に努める。
 また、弾正は回復支援を受けられるようゼフィラの位置を気にかけ、位置調整も行っていた。


 魔種ディジィズの抑え込みがうまくいっていることもあり、海の魔物を抑えるメンバー達の立ち回りにも変化が。
 まず、ゼフィラはシラスの支援を受けて船から水上へと移行していた。
 主として前線で耐えるイズマを支えていたゼフィラは、仲間の体力が十分と判断すれば、機械義手から弾丸を連射し、攻撃の集まるツインテールから攻撃していた。
 レッドもまた船の外へと出て海面に立っており、素早く詠唱を完了させて。
「解き放つ大容量の魔力を一発、受けてみるっす! せいやっ!」
 直後、レッドは敵陣へと万物を砕く鉄の星を降り注がせる。
 その威力は絶大。深海の水圧に耐えるツインテールの鱗や、鋭く硬く研ぎ澄まされたスクイドボーンの体に亀裂を入れ、貫通してダメージを与えていく。
 シュルルルル!!
 ウウゥ、オオウオウゥゥ!!
 痛みに苦しむ魔物達は一層激しく攻撃を仕掛けてくる。
「くっ……」
 1体の気が逸れ、再び気を引く間に魔物が強力な攻撃を仕掛けてくる。
 激しく2つの尾を動かしたツインテールが荒波を起こせば、イズマの操縦する船が大きく煽られてしまう。
 その荒波は抑える前線のイズマだけでなくレッドやゼフィラにも及び、さらにスクイドボーンが怪しい光を瞬かせ、こちらの思考を奪い、厄災をもたらさんとしてくる。
「ゼフィラさん、元気まだ余ってるっすかー!?」
 水上歩行の力もあって海に杖を突き立し、身を起こすレッド。
 一方、ゼフィラは一瞬の不意を突かれ、ツインテールの尾に殴られてしまう。
 ウオオオオオォォゥゥ!!
「…………っ!」
 ダメージが蓄積していたところに尾の連撃をもろに食らってしまい、ゼフィラはパンドラを砕いて堪える。
 多少傷口は開いてしまったが、魔種相手ではなりふり構っていられない。ゼフィラはなおも大天使の祝福で自身と仲間の癒しを再開する。
 なおも暴れるツインテールがディジィズへと向かおうとしていたが、イズマがすぐさま進行方向へと回り込んで。
「そっちには行かせないぞ!」
 行く手を遮ったツインテールの気を強く引き、イズマは再び黒と赤の連撃を繰り出していく。

 再び魔種戦。
 シラスがタイミングを見て、周囲へと白魚の陣を更新する中、メンバーは水上も戦場としながらも立ち回り、ディジィズの抑えつけに注力する。
 ヒヒイイィィィ……ン!!
 嘶くディジィズが響かせる原罪の呼び声は混沌で生まれ育った者を狂気に誘う。
 ただ、声と合わせて撒き散らされる病原菌は狂気に染まる前に並の生物を絶命へと追い込んでしまう。
 傲慢の魔種……この混沌で自らの存在を示すディジィズは、全てを災厄で包もうとしているのかもしれない。
 そうはさせじと抵抗するイレギュラーズ。
 ディジィズの禍々しさに眉を顰める弾正は、後々を考えて残像を生じるスピードで蛇鞭剣を叩き込み、その機動力を奪う。
「モード・スレイプニル……」
 機動強化したアルヴァは敵の真上に位置取って敵を自由に移動させない。
 さらにアルヴァは赫焉瞳を使い、病原菌による攻撃を無効化しながらも、華麗な空中殺法を披露して傷を増やしていく。
 聖霊はゼフィラが倒れかけたのを視認し、練達の治癒魔術を振りまく。
 そこで、ディジィズが一層濃く病原菌を撒き散らす。
 瘴気はもはや視界を塞ぐ霧の如く。
 頭上のアルヴァは耐えていたが、少し距離をとっていた聖霊もまた広がる病原菌に包まれ、並みの生物を死に至らしめる力で瞬く間に体力を奪われてしまう。
 聖霊は運命の力に頼り、意識を強く持つ。
「俺が支えきってやる! 全力であのクソ野郎にぶちかましてやれ!」
 聖霊は改めて無限の紋章を顕しつつ仲間達へと叫ぶ。
 圧倒的な力を持つ魔種は気を抜かずとも体力を奪いつくす恐ろしい相手。
 アーマデルは相手の機動力を削ぎ、さらに鮮やかな朱の液体を浴びせかけていた。
 それは相手に与えた傷より血を流させ、致死毒を与え、さらにはその身を燃え上がらせ、呪いで癒えぬようにしつつ、魔種の体力を大きく削っていく。
 ヒヒイイイイイイィィィン!!
 痛みに悶えるディジィズは自身の後方に陣取っていたアーマデルを強襲しようと急加速する。
 だが、アーマデルはすでに周囲に漂う霊魂から敵の奇襲を教えてもらっており、相手の動きを先読みしてその死角に回り込む。
 そして、刹那の悪夢に飲み込み、一気に敵の気力を削ぐ。
 ブルルルル…………。
 さらに高度を下げ、水面につくほどにまで降りてきたディジィズ。
 この隙をシラスが見逃さない。
「かかったな! もう逃がさねえぞ、クソ野郎がッ!」
 海の中へと飛び込んだシラスはすぐに相手の足元から急上昇し、敵の胴体……腹をブチ抜くように猪・鹿・蝶の三連撃を叩き込む。
 ヒヒイイイイィィン!?
 大きく腹を裂かれて驚くディジィズのどす黒い血が海へと流れだす。
「病をもって他人の生死を握り楽しんでいるようだが、侮るなよ……命を」
 溜まっていた想いを晒しだす弾正は武器を強く握りしめて。
「我が神イーゼラー様の加護の元、貴様に死をくれてやる!」
 敵の病原菌で体力をすり減らす弾正は、万死の一撃を汚れたディジィズの体へと刻み込み、身体の炎や体内の毒がすぐには消えぬよう呪いも与える。
 ブルルルル……。
 さすがに危機を感じたディジィズはこの場から離れようと浮上を試みるが、アーマデルが相手を頭上から抑えつけて逃さない。
 彼は攻撃集中し、強烈な一撃を叩き込む。
 本来は空に打ち上げる技だが、逆に海へと叩きつけて態勢を崩す。
 そこで、レッドがこちらへとやってきて。
「魔種でない元は何であれ、その生きざま此処で留まれ止まれ止めっす!」
 夥しい病原菌を撒き散らすディジィズだが、それらに蝕まれようとも、レッドは耐えきって見せる。
 同時に、レッドが相手を夢想から現実を侵食すると、ディジィズの体が明らかに崩れ始める。
 ここぞと総攻撃を仕掛けるメンバー達。
 魔物達は主を助けるべく近づこうとするが、イズマが許さない。
「行かせないぞ!」
 イズマが口上によって船で魔物達をを押し留める間に、アルヴァが速さを活かしてディジィズを仕留めにかかる。
「俺もお前達も、あっちの勝負を邪魔するなんて無粋な真似はしちゃいけないのさ」
 邪魔をするなら俺を潰してからと自らを強く主張するイズマ。
 遠慮なくとスクイドボーンが鋭い骨で彼を貫き、さらにツインテールが船ごとイズマを叩きつける。
 パンドラを消耗するイズマだが、その甲斐はあった。
 居寤清水を使ったシラスがディジィズの背から思いっきり飛び込んでいて。
「病原菌だか何だか知れねえが、この程度で俺が止まるかよォ!」
 その首、脚、胸部と3連打を見舞う。
 敵の纏う病原菌によって、意識が途絶えかけたシラス。
 しかし、ディジィズも全身をどす黒い血で濡らしていて。
「く、口惜しや……」
 ついに意識を手放し、身体を崩しながら海へと沈み始めたのだった。


 ディジィズを倒したものの、その後の戦いも決して楽ではなかった。
「ウェルカム悪夢っす……!」
 依然、元気なスクイドボーンへと、レッドがディジィズ同様に夢想を現実へと侵食させて、その身の滅亡させんとする。
「コイツらは被害者、なんだよな」
 アルヴァが言うように、魔種の被害者である魔物達は未だ身体を病原菌で侵され、苦しんでいる。ディジィズが死んでもなお、だ。
 アルヴァはその魔物達を放置できぬにいた。
「こういうのは理屈じゃ、ねーんだよ」
 彼はそのまま身を挺してスクイドボーン抑え込もうとする。無益な殺生は望むところではないのだ。
 しかし、病原菌による浸食は早い。抵抗する魔物達は主を失ったことで病原菌を抑えられなくなり、一層苦しみだしている。
 ツインテールは仲間達の攻撃も重なり、すでに助かる傷ではない。
 医者である聖霊は元人間であるスクイドボーンを治療できればと治療しようと施術を試みる。
(ああそうだ、目の前にいるのは敵だ)
 自らがさぞ滑稽に見えるだろうと自虐しつつも、目の前の患者を放置できずにいたのだ。
(病に侵されたと聞いたら、目を背けるわけにはいかないんだ)
 医者であることを諦めたくない。いくら傲慢と言われようが、その信念だけは曲げられぬ聖霊である。
 オオオォォウウ!!
 悪あがきをするツインテールは荒波を立て続けるが、相当弱っていたようで。
「そろそろ終わらせようか。……楽になれ」
 船上からイズマが先に弱ったその敵へと細剣を一閃させ、苦しみから解放させた。
 残るスクイドボーンにはしばらく聖霊が相手を抑えたままで治療を施そうとする。
 仲間達もそんな彼を支えていたが、相手は変異種。強大な力を得て人外となり果てた存在。それを御しつつ、未知の病原菌を治療することはあまりにも難しすぎた。
 精霊がその骨に貫かれ、意識を失ったところで、アルヴァも諦めがついたようで。
「いいんだな?」
 アーマデルの確認に首肯したアルヴァはその手で、介錯することに決めたのだった。


 討伐を終え、船上へと戻ったイレギュラーズ一行。
 聖霊が倒れたままだが、イズマは病原菌のサンプルを採っていた。
「今度は病魔の災厄を防げるように」
 これが後に医学の発展につながるかもしれない。そう願って。
 また、その病原菌を振りまいていたディジィズについて、レッドは。
「もしかしたら……この件もシュプレヒコールが関わってる可能性あるかもしれないっす」
 ようやく一難去ったばかりだが、レッドは自らの推論を確かめる為に動くことに決めたようだった。

成否

成功

MVP

シラス(p3p004421)
超える者

状態異常

黎明院・ゼフィラ(p3p002101)[重傷]
夜明け前の風
松元 聖霊(p3p008208)[重傷]
それでも前へ

あとがき

 リプレイ、公開です。
 MVPは水上での戦いの為の支援に加え、魔種を討伐した貴方へ。
 今回はご参加、ありがとうございました。

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