シナリオ詳細
副産物は洞窟に吼える
オープニング
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『亜竜集落ウェスタ』――ピュニシオンの森と呼ばれる深き森の近く、地底湖周辺に築かれた集落。
その一帯には地底湖へとつながる湖を始めとする多くの水場や、溶けることのない氷で出来た洞穴、氷の華が咲き誇る場所など、美しく幻想的な風景が広がっている。
そんな幻想的な風景の広がるウェスタの周辺、その一角にある氷で出来た洞穴は、透明な氷で出来ている。
地上からの微かな零れ日は、洞窟内部で反射してその中を照らしてくれている。
ちりちりと光る壁面へ、ツルハシのようなものが当たる音が、外まで響いていた。
そう、ここは付近に住まう亜竜種にとって仕事場の1つであった。
掘り起こすのは氷である。それも、永遠に解けぬウェスタの洞穴で採られた氷だ。
中でも良質な魔力を帯びた物は、様々な用途で使えるのだとか。
「今日の分はこれぐらいでいいか……おい、お前ら!
今回は上がりだ! 戻って鑑定士に分別してもらうぞ!」
現場を監督していた壮年のリザードマン風の亜竜種は、大声で声をかけた。
反響したその声は内部へと浸透し、中からも同じように反響した返事が返ってくる。
多くのリザードマンが、ツルハシと盾を抱えて戻ってくる中で、不意に声がした。
「ま、マローズが出来てるぞぉぉ!」
それは警告するような声だった。
「なにぃ!?」
その声を聞いた途端、監督の亜竜種は傍らにあった盾と槍を握る。
「まだ働ける奴はいるかぁ! 危険手当だ! 働きてえ奴は着いてきやがれ!」
それに答えたのは、5人ほどのリザードマンだ。
彼らもツルハシを置くや、代わりに剣やら槍やらを構えて戻っていく。
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洞窟の奥へと進んでいった監督と5人の亜竜種は、反響する音を頼りに、直ぐにそれを見つけ出した。
『ぎゃぎゃぎゃ!』
『ぎゃぁぁ!』
同じようにリザードマン型の6人の亜竜種が、盾を構えて相対している。
その相手は、どちらかというとワニのような形をした存在だった。
体長は4、5mはあろうか。大口を開ければ人一人丸呑みに出来そうな顎と鋭い眼はその凶暴さを目に見えて伝えてくる。
だが最大の特徴はその身体が全てが氷で出来ていることであり、下手をすれば周りに溶け込みかねないほどに美しい。
それもそのはず、この亜竜は『この洞窟の環境故に生まれ落ちるモノ』なのだ。
「よぉし、油断するなぁ。盾を構えて武器を突き出すんだ。
じっくり、ゆっくり下がるぞ。全員で生きて帰るんだ!」
「「おうっ!」」
落ち着きはらった様子でそう指示を出した監督に従うように、計11人のリザードマンが頷けば、隊列を組んで徐々に下がっていく。
飛び掛かってきたそいつらを、盾で何とか押し返して、口を横にして足元を狙ってくる別個体を槍で突いて後ろに下げる。
そんなことを繰り返しながら12人のリザードマンはゆっくりと後退していく。
その視線の先、洞窟の奥から相対している4匹よりも一回りは大きくなりつつある個体が見えた。
「おいおい、前の時に殺し漏らしたのがあったのか?」
『――――ッ、ギャァァアア!!!!』
最奥の個体が、咆哮を上げた刹那、他の4匹が怯えたようにすくむ。
その瞬間、12人は一気に走り出した。
●
「おっと、あんたらがこの件の対処をしてくれる奴らかい?」
そういうのはどことなく歴戦さえ思わせる隆々とした筋肉のリザードマンだ。
「おらぁこの採掘場で現場監督してるもんだ」
そう言って、男が後ろ指で自分の背後を示せば、そこには美しくきらめく氷の洞窟が見える。
「おっ、見た感じ、何が取れるんだって顔だな? ここで採るのは、こいつさ」
そういって男が君達の方へ軽く投げてきたのは、手のひらサイズの氷の塊だ。
ひんやりとした冷気はそれが氷だと教えてくれるが、不思議なことに体温で溶けた感じがしない。
「見ての通り、氷の洞窟なんだが、ここは龍脈とかいうのの上にあるらしい。
んで、中の氷はそこからあふれ出る気だか魔力だかを浴びて溶けない氷になるっつーもんだ」
溶けない氷――なるほど、そう言われれば、採掘という表現もおかしくないか。
だが、見た限り、今は採掘場の入り口近くに柵が建てられているではないか。
「んで、さっきも言った通り、この採掘場はその気だか魔力だかを帯びてやがる。
そのせいで――まぁ、環境的な問題でよ。
その魔力だかが周囲にある氷と反応を起こして、生まれちまうことがあるんだよ」
「生まれる……?」
「おう、亜竜がさ。こいつのことを俺達は『霧氷の亜竜』マローズって呼んでるんだが。
最近もまた、5つほどできちまっててよ。あんたらにそれの討伐を頼みたい。
はえーうちなら俺らでも倒せるんだが……あんたらはこの辺のことを慣れる予定なんだろ?
ちょうどいい腕試しになるんじゃねーかと思ってよ」
そう言えば、男は柵の周りにいた亜竜種へと指示を出して――設けられていた柵が静かに左右へと引いていく。
「よろしく頼むぜ! 1匹はちょいとデカい。多分、そいつはそこそこ強いだろうが。
なぁに、基本は生まれたばっかのやつらだ。いうほど怖かねえ。安心して挑んでみな!」
そう言い終えれば、監督は豪快に笑う。
- 副産物は洞窟に吼える完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年02月10日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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亜竜種達によって開けられた柵を越えてその洞窟に入ると、ひんやりとした空気が身体を包み込んだ。
陽の光が辺りに反射して、洞窟の各地はキラキラと輝いている。
踏みしめる足音は氷に反響して響いている。
『ぎゃぎゃぎゃ!』
『ぎゃぎゃっ!』
姿を見せた2匹の大きなワニのような姿をしたそいつらが吼える。
意思疎通と共に仲間達へイレギュラーズの侵入を告げるようなニュアンスがありそうだった。
(サイズ的にこいつらは小さめだろうな。
他の個体が来るまではこいつらを抑えておこうか)
盾を押し立てるようにして『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)が前に出れば、マローズたちがひときわ大きく騒ぎ立てる。
それは盾――より正確にはそこに取り付けられた青い印章に向けられている。
滄竜璽――竜種の体内で精製されたとされる宝玉から削り出された印章には、亜竜たちも興味があるらしい。
「しかし、解けない氷、というのは面白い、な。氷像、建材、装飾、武器類、どれにも使える、か」
洞窟から取れる氷に興味を抱いていた『……私も待っている』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は、姿を見せた亜竜に視線を向ける。
「覇竜領域で無ければ、とっくに掘り尽くされていそうな逸品ではないか。
是非とも、交易で流して貰いたいものだが――」
その利用価値を考え『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)も頷こうというものだ。
特に、ラサやら海洋やらで重用されそうな代物ではないか。
「氷の亜竜、か。ワイバーン以外にも、多種多様なものがいる、な。
魔力によって生まれるとなると、精霊種にも近しいように思える、が」
エクスマリアも戦闘態勢に移行しつつ改めて目の前に姿を見せられれば、そんな可愛らしい物ではないことは明白だ。
「まぁ、まずは目の前の仕事だな」
ほぼ同時、汰磨羈も愛刀をすらりと抜き放ち構える。
「氷から生まれる亜竜……そんな存在もいるんだねえ。
なんだか、亜竜って想像していたよりもっと自然現象に近いものなのかな?
そうだとしたら、自然と生きる幻想種としてはちょっぴり親近感が湧くかも」
そう言うのは『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)だ。
美しくも恐れるべき姿をしたワニ型の亜竜。
その姿に親近感を抱くアレクシアもハッとして。
「なんて、のんきなことを言ってる場合ではないね!
さあ、倒すべき相手は、きっちりと倒しましょう! 張り切っていくよ!」
氷の洞窟に花の魔術が彩りを加える。
「氷晶の採掘場とそこの魔力から湧いてくる亜竜の討伐……流石覇竜、自然現象も規格外だ。
文字通りの龍脈って奴かね? 依頼のためにも、俺の興味のためにも排除しないとな!」
式符を地面へと設置しながら『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)は職人としても氷の亜竜への興味を持っていた。
構築されるは赤き火砲。流星を描く炎の星を打ち出す準備は良好だ。
溢れ出す炎でさえ、周囲の氷を溶かすには至らないが――だからこそ遠慮なく打ち出せるというもの。
「溶けない氷か、神秘的でいい品だね。洞窟もとても神秘的で美しいね」
壁面に触れてみれば、ひんやりとした冷気が伝わってくる。
「でも、確かにこの副産物はちょっと厄介かな」
眩く光を反射する空間の内部を見渡していた『全てを断つ剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は、マローズの姿を見つけ次第、剣を抜いた。
己が身を映す精霊剣の放つ霊気が氷の洞窟に色を映し出す。
踏みしめる足元の問題はまるでない。
溶けないおかげで殊更に滑ることを考えなくていいのはありがたい。
「ほう、よくわからんがともかく普通には溶けない氷じゃと
つまりロックで飲んでも最後まで酒が薄くならず冷たいまま飲めると言う訳じゃな。
いやー今から酒が楽しみじゃのう。酒の為に亜竜共を蹴散らしてくれるわ、ヌーハッハッハッ」
今晩の酒に目を輝かせる『ろくでなし』ナール・トバクスキー(p3p009590)は魔導銃の銃口をマローズへ向ける。
「監督さんはいうほど怖くない、と仰ってましたが、わたしにはこれほど大きな敵は怖いのです。
ましてや、不思議な魔術がかかっている魔物なんか」
姿を見せたマローズを向いて、『春を取り戻し者』プラハ・ユズハ・ハッセルバッハ(p3p010206)はふるりと身体を震わせた。
それでも、きっといつまでもこんな調子ではいけないのだ。
ぎゅぅと、ヤギの人形を抱きしめ自らを奮い立たせて、プラハは前を向いた。
今のところは2匹だけ。情報にあったのは5匹。
それを考えれば、まだ後続があるのだろうが、まずは前の2匹からだ。
最速で飛び出したヴェルグリーズは一気に片方へと肉薄し、斬撃を見舞う。
神威なす攻勢防御はマローズの関節辺りを穿ち、揺蕩う冷気が刺すように剣と触れた部分が薄く凍結。
一瞬の後、振るわれた尻尾がヴェルグリーズを強かに撃てば、その威力によって凍結した部分が破砕する。
「流石に硬いね。でも問題が起こるほどじゃなさそうだ」
手ごたえは悪くない。
追撃を果たすのはアレクシアである。
アレクシアは1匹だけいるという大きめの個体の注意を引くことだが、現時点で周囲に這いない。
「大きめのが来るまでサポートするよ!」
告げると同時、抜群の魔力制御より繰り出された淡い白と赤の混じった大輪の花が開く。
戦場の美しさにも負けぬ美しき輝きが、戦場に文字通りの花を添えれば、傷を受けたばかりの仲間の傷を強烈に癒す。
「抑え込みは任せろ!」
一歩前に出たエイヴァンは微かに小突くように絶えず盾へ突撃を繰り返すマローズを抑え込むように押し出しながら、もう片方の手で斧砲を構えた。
壁面に反射した砲撃の火花が眩いばかりの閃光となり、放たれた砲弾が一斉に2匹へと叩きつけられた。
着弾した弾丸はマローズの身を炎に焦がし、食い込んだ部分から氷が零れ落ちる。
2種類の爻を持って自らの力を高めた汰磨羈は、次へ移っていた。
刹那、跳躍と共に横一列にマローズが並ぶように移動すると同時に跳ねるように肉薄する。
妖刀が抱くは極限まで密度を高めた陽気。
スパークする刀身もろともに繰り出した斬撃は白桜の花弁が如く霊気を散らす。
汰磨羈の圧倒的な手数の多さもあり、それは宛ら桜吹雪のようでさえある。
花弁のようなそれが氷の洞窟に舞い散る最中、汰磨羈は目を開く。
「ただの氷ではないだけある。随分と斬り応えがあるじゃないか……!」
存外と硬いことと弾かれる刃に思わず呟けば、反撃の尾が汰磨羈を打った。
「やはり氷相手となれば炎だな!」
照準を合わせた錬が火砲を打ち込む。
炎球は洞窟の反射も加わり、鮮やかに輝いて弧を描く。
降り注ぐ隕石の如き弾丸にマローズたちが悲鳴を上げた。
この環境を考えれば、空から炎が降ってくることなどあるまい。
その驚きもさもあらんと言ったところか。
『ぎゃぎゃぎゃっ!』
『ぎゃぎゃっ!』
激しい一方的な猛攻撃にマローズたちが吼えた。
それはまるで何かを呼ぶようではないか。
そのまま2匹は大盾を構えるエイヴァンめがけて突撃を仕掛ける。
1匹目が突撃をかまして動きを捉え、もう1匹がエイヴァンに食らいつく。
盾捌きでそれらをはじき返しながら、エイヴァンは構えを崩さない。
「此処からなら反撃もこない、だろう」
藍方石の目に2匹のマローズを写し取り、描き出すは金色の星。
渦を巻いて球体へと形作られたそれは洞窟の中を金色に彩る輝きを放つ。
流星となった金色の天体がマローズを穿ち砕けば、ヴェルグリーズの攻撃を受けた分だけ傷の多かった1匹が砕けて散った。
(近くで見ると、やっぱり怖いですね)
プラハは射程範囲に汰磨羈を含めるように動くと、怯んだように呻くマローズを見ながら思う。
それの気持ちを振り払うように汰磨羈の方へ向いて、自身の魔力を分配して彼女の余力を増やす。
「くっくっく、蜥蜴共め氷でできとるらしいが儂の魔導銃の炎をその身に味わうがいいわ」
視線を巡らせ、マローズの動きを観察していたナールは魔導銃【炎怒狼流】を構え、魔弾を撃ち込んでいく。
2発の弾丸のうち、1発目はその喉の辺りに食い込み、次の1発が目のあたりを撃ち抜いた。
多数の状態異常をもたらす魔弾にマローズが苦しそうに呻いた。
●
洞窟の奥から大型のマローズが姿を見せたのは、戦闘が始まってからすぐの事だった。
『ギャァァアア!!!!』
咆哮を上げる一回りは大きな個体に連れられるようにして姿を見せる2匹の先程までと同程度の大きさをしたマローズ。
「アレクシア、あっちは頼むぞ!」
「うん、任せて――さぁ、こっちを見て」
エイヴァンに答えるように言えば、アレクシアは静かに魔力を練り上げていった。
「あなたの敵は、私だよ! コルチカム・アウトゥムナーレ!」
美しき紫色の魔力が花弁のように舞い散り、鋭い刃となって一斉に大型のマローズへ殺到すれば、浸透した強烈な毒がマローズの身体をおかす。
「ここまで磨いてきた力は、亜竜(あなた)にだって通じるんだって見せてあげるんだから!」
『ガァァアア!!!!』
啖呵を切れば、咆哮の矛先が自身に注がれていることを確かに感じてアレクシアは真っすぐに前を向いた。
「他の小物は俺に任せろ!」
エイヴァンは斧砲をやや前へ向けるようにして構え、空砲を鳴らす。
洞窟の中を反響して響き渡った砲声に、マローズたちが一斉にエイヴァンを向いた。
「来いよ、全員相手してやる」
『ぎゃぎゃぎゃ!』
『ぎゃぉぉぉ!』
「さあて、本番だな。採掘の邪魔はさせないぞ。副産物らしくお前たちも素材にしてやろうか!」
跳びこんだ錬はその手に真銀の太刀を握り締める。
煌く刃は定型を持たず、されどその一撃は強靭にして流麗。
まだ辛うじて生きていたマローズへ斬撃を見舞えば、美しき軌跡を描く刃は鮮やかにマローズの鱗の間を抜けて強かに傷を入れた。
ミシリと音が立ち、そのマローズが崩れ落ちた。
「アレクシア、念のためだ」
汰磨羈は大型のマローズと相対するアレクシアへ夜噛饕餮を刻んだ結界札を渡してからそのまま再び閃くは白桜。
陽の気充実する氷結の洞窟を、温かく輝かせる鮮烈の太刀。
連撃の終着点に大型を置き駆け抜ければ、大物の眼前へ。
「大きさの割には斬った手応えは変わらないか……ならば、こちらはどうだ――」
凝縮された水行のマナは手の形を成した。水銀めいたそれを、大型のマローズへと叩きつければ、その肉体の一部を削り取って握りつぶす。
霊力へと変換されたそれは、汰磨羈の力へと循環する。
苛立つように咆哮を上げた大型のマローズが、自身の行動の邪魔をするアレクシアを見据え雄叫びを上げた。
そのままマローズの尻尾が彼女の身体を薙ぎ払うように叩きつけられれば、魔力障壁に邪魔をされ、勢いが大きく削り落とされた。
続けるように動き出したマローズがエイヴァンを狙うも、こちらもまたその堅牢な守りによってさほどの損害を受けはしない。
「やはりアレクシアなら問題ない、だろう。
だが無理はさせられない、か」
再度生み出した金色の星。
「俺に構わずやっていい」
エイヴァンの言葉を聞くや、襲い掛かるマローズめがけて振り下ろす。
流星というにも恐ろしき高質量、絶大なる神秘の妙技。
広域を破砕する星の墜落に中心地のマローズが砕け散った。
(マローズというのはそれほど強くないらしい。
だからこのままなら何事もなく片付いてしまうでしょう)
プラハは思う。事実として、既に3匹は倒された。
残るは大型と通常が1匹ずつ。
だから、この調子であればきっと、その時は直ぐに来るのだろう。
「……でも、わたしは」
脳裏に浮かぶは、此処ではない戦場で初めて亜竜と相対したあの日。
あの時はまだ前線へ行く勇気は出なかった。
「……けれど。わたしは、このままではいけないと思うのです」
それは、嘘じゃない。この気持ちは、本物だから。
術式が剣を描いた。
「わたしは、皆に守ってもらいっぱなしでいたくない!
真っ二つにします!」
速度を上げて肉薄すれば、そのまま全力で剣を振り下ろした。
マローズの身体が罅が入る。
「もうそろそろ終いかの。
速く終わらせて酒が飲みたいんじゃがのう」
そこへ放たれたのはナールが放った2発の銃弾。
既に罅の入ったマローズの身体。
その罅をこじ開けるようにして撃ち抜かれた2発は間違いなくマローズの身体へと炸裂し、その身体を大きく傷つけた。
あと一歩、そのあと一歩を繋ぐはヴェルグリーズ。
「――終わらせよう」
踏み込みと同時に放たれた上段からのシンプルな振り下ろし。
攻勢防御の神髄を以って撃ち込んだ斬撃はマローズの身体を致命的に断ち割り、ずるりと落とす。
●
その後は最早特筆するに当たるまい。
圧倒的優勢と堅実なる防御、鮮烈たる猛攻。大型のマローズが砕け散るまでそう多くの時間はかからなかった。
戦いが終わった後、仕事の打ち上げとしてイレギュラーズは近くにある飲食店に案内された。
なんでも、幾ら一口に溶けない氷と言っても質はピンキリらしく、ここは良質の氷をドリンク用に使っているのだという。
「っかぁ~~やっぱこれじゃのう! この一杯のために働いとったんじゃ!」
ゼシュテル・スピリッツをロックで。
文字通り喉の焼けるようなアルコールを飲んで戦場帰りに言うのはナールだ。
「爺さん、あんた良い飲みっぷりだなぁ! そんなにうまいのか、その酒は」
この店に案内してくれた現場監督の亜竜種が言えば、ナールは顔を上げ。
「旦那の飲んどるんはなんじゃ?」
「これかい? こいつはこの店の名物さ。良く冷えて美味いぞ」
そう言って光に当てられたグラスの中身は、見るにビール類のようだ。
よくよく見れば、グラスそのものも氷で出来てるように見える。
「なるほどのう、溶けぬからグラスそのものも氷でいけるわけじゃな?」
「そういうことだ。アンタも頼むかい?」
「せっかくじゃから頂こうかのう!」
プラハは氷を天井にかざしてみた。
「不思議な色ですね」
天井からつるされた明かりを反射させる小さな氷。
溶けない氷の一部、譲ってもらったそれ。
当初は呑み込んでみようと思ったものの、それに関しては亜竜種に止められてしまった。
「食べて取り込むことが出来ればいいのですが、残念ながらそれは食べられないのです。
溶けない氷のせいで、消化も出来ませんからね。どうしても使いたいなら、ブレスレットなりにした方が良いでしょう」
――なんてことを、鑑定士だという女性の亜竜種は言っていたか。
ちなみに、プラハのように氷を貰ったものは他にもいる。
その一人のエクスマリアはマローズの破片でグラスを作ってもらうことになった。
自分で加工しようと考えていたが、見慣れぬ溶けない氷、加工も慣れた職人に任せた方が良いと言われてしまった。
「加工の仕方が削る以外にないとは、な」
溶けない以上、工程が全て削るという作業になってしまうらしい。
設計図を提出したし、ちょくちょく意見も聞いてくれるようだが。
「職人としては興味深いな。今度、見学の1つでもさせてほしいところだ……」
錬は鍛冶師としての性分を疼かせながら、ぽつり。
技術の進化が異なるのなら、気になってしょうがないというところか。
「亜竜の身体もついでに持ち帰ってきたことは喜んでもらえたようで何よりだな。
仕事が完成したことの証拠にもなって一挙両得といったところか」
そう言うのは汰磨羈である。想像通り、マローズだった氷を持ち帰ったことは評価してもらえた。
とはいえ、マローズになるほど魔力の密度が高いと、質で言うとあまりいいものではないらしい。
魔力と純粋な氷のバランスが重要、なんだとか。
もちろん、逆にそれを好む好事家もいるようだが。
「これからも仕事を重ねていけば、亜竜種の人達とこうして笑い合えることがもっと増えるだろうね。
イレギュラーズになったひともいるみたいだし」
持ってきていた暖かいお茶に合うお菓子を貰って、ヴェルグリーズはそれを味わうものだ。
見慣れぬそれは良く冷えている。ほんのりと甘い口どけで程よくお茶の風味と合っていた。
「そうだね、もっと張り切っていこう!」
頷くアレクシアもお茶と一緒に菜食系の料理を貰っている。
亜竜種との交流しながら、仕事終わりの休息を経て彼らは各々の次に赴くのだろう。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
美しき氷の洞窟と神秘的な特産物、と言った雰囲気ですね。
GMコメント
こんばんは、春野紅葉です。
氷で出来た亜竜を叩き潰すお話です。
●オーダー
【1】『霧氷の亜竜』マローズを討伐する
●フィールド
永遠に解けぬ氷で出来た洞穴の1つ。
中から魔力を帯びた良質な氷の塊が作られるできるらしく、その採掘場でもあります。
僅かな光の反射が内部を照らすことで光源もばっちり。
幻想的な風景が広がっています。
また、並大抵の炎では溶けないため、容赦なく炎を扱う魔術の類も使用できます。
●エネミーデータ
・『霧氷の亜竜』マローズ×5
龍穴からあふれ出した魔力が洞窟内部の氷と反応を起こして産まれた氷で出来た亜竜です。
環境上、生まれてしまうのは仕方ない事、そのたびに討伐してきたとのこと。
1匹だけ、辺りの氷を食べて成長した個体がおり、その個体は他の個体よりも強力です。主に攻撃力と命中が上昇している個体となります。
その生まれ通り、全ての攻撃手段で【凍結】系列のBSが付与されます。
また、氷で出来た身体は非常に滑りやすく、防技が高め。
身体から溢れる冷気は近接以下の攻撃へのみ【反】相当の効果を持ちますが、これは【凍結無効】で無効化できます。
攻撃は主に身体を使う近接戦闘に加え、冷気を氷柱に変えて吐き出す遠単をもちます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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