PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ぬばたまの君を想ふ

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●刑部卿、執務室
 貯古齢糖、それは異国の甘い菓子である。混沌大陸ではお馴染みの菓子ではあるが、此処、カムイカグラでは貴族であってもなかなか口にすることは出来ない。
 それを嘆く男がいた。
 名は、鹿紫雲・白水 (p3n000229)。大きな戦いの後、空席となった刑部卿の席を帝より拝命された男である。
 白水は暦を見つめ、眉間に皺を寄せた。原因は『如月』と記された月にある。
 如月になれば、とある行事がある。それ自体は喜ばしいことではあるのだが、男には由々しき事態でもあった。何故かと言うと――、
「……『灰色王冠の日』が近い」
 そう、如月になれば灰色王冠の日が来てしまうのだ。
 ――『灰色の王冠(グラオ・クローネ)』の物語。昨年からカムイカグラでもその行事が行われるようになったが、神隠しにあった者や旅人以外にはやはり他国より浸透してはいない。しかし、白水には界隈(刑部省)では有名な鬼嫁がおり、彼女は食道楽の白水のために昨年も張り切って貯古齢糖を用意してくれた。
 せっかくの貯古齢糖が世に山と溢れる行事だ。
 しかし。
「当日、私は細君と娘以外の貯古齢糖を食すことが出来ない」
 叶うことなら沢山口にしたいのに。
 白水は暦を前に、大きなため息を零す。
 愛されている男の、苦悩とも言えるものであった。

 それから暫くの後、何かを閃いた白水はすこぶる機嫌が良さそうな笑顔で執務室に座して居た。墨を乾かした手紙めいたものを丁寧に畳むと、部下へとローレットに持っていくように申し付けたのだった。

●ローレット
 二月が近付いてきたある日のこと。

『神使殿、我が鹿紫雲邸で貯古齢糖の試作など如何だろうか。
 他国の調理器具には疎いため持ち込んで貰わねばならないが、材料費や場所は此方で提供しよう。そしてその暁には、是非試食させて頂きたく』

 と、言った旨の依頼がローレットに貼り出されていた。
「豊穣の今代の刑部卿は他国の食べ物に目が無いそうだね」
 八扇の『顔』である者たちは帝の命で遊学に出ている中務卿は別としておいそれと他国へ行くことは叶わない。特に甘味が好きだという情報は雨泽の耳にも入っていることらしく、チョコレートが食べたくてたまらないのだろうなと察せられた。
「大変な事ではないし、材料費も場所も出してくれるみたいだから、時間があったら行ってみてはどうかな? 面白そうだし」
 そこまで他国の甘味が食べたい刑部卿って、どんな人なのだろうね。
 手の中でくるりと煙管を弄びながら雨泽は軽い調子で口にした。
「僕は……」
 言葉を切った雨泽は、どうしようかなと『珍しく本当に』悩むような仕草をして。
「刑部卿には会ったことがないから気になるけれど、僕はやめておくよ。近くの茶屋までは行こうかな。あんみつの美味しい店を見つけたんだ」
 そこのみつ豆がとびきり美味しいんだ、といつも通りの顔で笑った。

GMコメント

 チョコレートの祭典の気配を感じている壱花です。
 刑部卿がどうしてもチョコレートが食べたいんだってさ、みたいな感じです。(背景)

 Q.因みに当日に他の人から受け取ると?
 A.「……大変なことになる」
 家庭的に大変なことになるそうです。

●迷子防止のおまじない
 一行目:行き先【1】~【3】
 二行目:同行者(居る場合。居なければ本文でOKです)

 同行者が居る場合はニ行目に、魔法の言葉【団体名+人数の数字】or【名前(ID)】の記載をお願いします。その際、特別な呼び方や関係等がありましたら三行目以降に記載がありますととても嬉しいです。

【1】チョコレート作り
 本番に向けてチョコレートを試作しましょう。
 厨も、そこから続く広間も広いので、汚さない範囲で自由にどうぞ。
 洋菓子に使う系の器具がないので、持ち込んでくださいね。
 カカオは素手で粉砕された実なら山盛りに置いてあります。

【2】試食
 作ったチョコレートの試食をしましょう。庭園や客間等が開放されています。
 家等で作ったり有名店を巡って購入したのをお友達と試食しあって、当日の本命チョコを決める!等をしても大丈夫です。チョコをいっぱいもぐもぐして良いパートです。
 刑部卿は縁側で狆をなでなでしながら試食待ちをしています。嬉しいのでにっこり笑顔で受け取ります。建前『試食』・本音『沢山食べたい』です。沢山貰えると執務の合間の間食が全てチョコになります。

【3】近所の茶屋
 チョコの種類って沢山あって決まらなーい! お友達と恋バナしながらお茶したーい! 等、茶屋で甘味を食べながら自由に過ごせます。
 雨泽は此処にいます。どういうチョコにするか等の恋の相談にも乗るし、恋バナも聞くし、頂けるのならチョコも貰うし、あんみつも食べます。

・メニュー
 お汁粉、善哉、苺大福、あんみつ、抹茶あんみつ、熱い緑茶、熱いほうじ茶、抹茶

●鹿紫雲邸
 刑部卿は屋敷をふたつ所持しています。
 ひとつは、鹿紫雲家を含む『雲の一族』の住まう敷地内にある邸宅。
 もうひとつは、刑部卿に就任した折に部下等の出入りや有事の際に必要になるため新しく建てた邸宅。風光明媚な庭を有しています。
 今回皆さんに来て頂くのは後者の邸宅になります。彼の家族は用事で前者の邸宅の方にいるため、居ません。気兼ねなく自由にお過ごしください。

●EXプレイング
 開放してあります。
 文字数が欲しい、関係者さんとチョコを作ったりお話したい、等ありましたらどうぞ。

●NPC
 刑部卿(鹿紫雲 白水)は【2】
 劉・雨泽(p3n000218)は【3】 に、います。
 御用がございましたらお気軽にお声がけください。
 (グラオ・クローネ当日は、ふたりが出てくる予定はありません)

 それでは、愛らしくも甘い、佳き一日となりますように。

  • ぬばたまの君を想ふ完了
  • GM名壱花
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2022年01月27日 22時05分
  • 参加人数10/∞人
  • 相談5日
  • 参加費50RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
桐野 浩美(p3p001062)
鬼ごろし殺し
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
ハリエット(p3p009025)
暖かな記憶
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女
ユエ・ネージュ(p3p010057)

サポートNPC一覧(2人)

劉・雨泽(p3n000218)
浮草
鹿紫雲・白水(p3n000229)
刑部卿

リプレイ

●甘い香りに、甘い味
 鬼の居ぬ間に何とやら、とはよく言ったものだ。
 細君が居らぬ故と言いおいた『刑部卿』鹿紫雲・白水 (p3n000229)は、普段は血縁か刑部省以外の者を招かぬ邸内へとイレギュラーズたちを招き入れた。
 厨房から香る甘やかな香りに、楽しげな鼻歌。
 愛した吸血鬼はこの世界には多分居ないけれど、『囂々たる水の中で』桐野 浩美(p3p001062)は小さなハートの型にとろりとチョコレートを落とし込む。心の中に浮かぶのは、愛するひとの面影。もしこの世界で出逢えたら、西洋式の花と日本式のチョコで祝福したいなと、チョコレートが固まりきる前にカラフルなカラースプレーを散らして彩った。
「さあ、出来たっす」
 可愛らしい五つのハートは、『ご縁』の語呂合わせ。
「白水様も、ニルのチョコケーキ、食べてみてください」
 浩美に差し出されたチョコレートのこの鮮やかな物は何かと尋ねながら口にしていた白水の元へ『おかえりを言う為に』ニル(p3p009185)が訪れた。
 昨年も自分でチョコを作ったニルは、今年はもっとおいしくなるようにと想いを込めた。『おいしい味』は解らないけれど、ニルが作った料理で『おいしい』になってくれる人も、誰かといっしょに『おいしい』を味わうのも、ニルは大好きだから。
「頂戴する」
 静かに薄い口元へと運ばれて、喉が動く。
 息を詰めて見守れば、「美味だ」と上がる白水の口角に、ニルは飛び跳ねたくなった。ニルが贈りたい相手も、きっと喜んでくれることだろう。
「白水様も、あとで一緒に作りませんか?」
「私が?」
「はい。白水様の大切な人もよろこんでくれるのではないでしょうか?」
 顎を撫でた白水が視線を少し逸らすのは、想う相手を心に描いたのだろう。
 その表情に、ニルの胸はポカリと温かくなった。
「白水お兄さん、これもどうぞ! ルシェも味見したいから、一緒に食べましょう?」
 また後での約束をしてニルが離れると、『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)が可愛らしい小包を差し出した。深緑で買ってきたと言うそれはキルシェの姉のお勧めだ。
「白水お兄さんは、お嫁さんと娘さん以外からは当日にチョコを貰わないの?」
「不和を招くよりは円満の方が良いのだ」
 美味しいねとチョコを口にしたキルシェは難しい事言ってる……の顔で首を傾げて。
「ルシェの父さまと兄さまたちは『家族で食べるけどそれで良いなら』って宣言して貰ってくるのよ!」
 勿論当日口にするのは、母と姉からのチョコだけだ。
 だからこれ家族で食べてね、とキルシェは違う包みを白水へと手渡した。
「おれも……試食……お願い、します」
 お店の味の後に出すのは少し恥ずかしいかもしれないけれど、と前置いた『燈囀の鳥』チック・シュテル(p3p000932)が差し出すのは、丸や四角、様々な形のチョコレート。
「貴殿が作られたのか?」
「そう。……形は少しだけ、不格好になる……しちゃったけど」
「粉の掛かったものに、砕いた豆、目を楽しませるには充分だ」
 頂こう。短く告げて口にする白水を、チックはジッと見守った。
 菓子を作る機会が以前よりも増えたから、きっと味は大丈夫。そう思っていても、誰かが口にする瞬間は緊張してしまう。
「美味だ」
 上がる口角に吐息を零したチックが当日は友達にあげるのだと告げれば、白水は「貴殿のような友から贈られる友は嘸かし幸せなことだろう」と涼やかに咲うのだった。
「刑部卿。はい、良かったら」
「感謝する」
 海洋王国でチョコレートを買い込んだ『「Concordia」船長』ルチア・アフラニア(p3p006865)はたくさんのチョコレートの入った包みをガサゴソとし、白水へと一箱差し出した。
 嬉しげに受け取る白水は、妻子ある身。家族がいるとチョコを貰うにも色々な気遣いや問題があるのだなぁ……とルチアの傍らで他人事のように『鏡越しの世界』水月・鏡禍(p3p008354)は思っていた。実際他人事だし、鏡禍が誰かから貰う予定もない。――のだが。
「はい、鏡禍も」
「えっ?」
「どうせ当日チョコレートなんて貰えないんでしょ。取っておきなさい」
「……いいんですか?」
 問い返しはするが、受け取らないのもきっと失礼だ。ありがとうございますと受け取れば、ルチアは自分が買い込んだチョコを試食しながら頷いて返した。
 包みを丁寧に開いて箱を開ければ、淑やかに並ぶトリュフチョコたち。
 それは灰色の王冠に無縁な鏡禍でも知っている銘柄の――。
(これかなり高いものなのでは?!)
 慌ててパッと彼女を見れば、魅力的なウィンクひとつ。
「来月は、期待してるから」
「……お返し、頑張りますね」
 赤くなりながらも腹をくくった様子で返す鏡禍。からかい甲斐のある鏡禍にルチアは楽しげに笑い、その姿を見守った白水は熱い茶をすすった。


 そうしてチラリとルチアと白水が視線を向けるのは、縁側に居る彼等の背後の和室。
「珠、珠。これも試食してみて」
 ルチアの友人――『スピリトへの言葉』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)が、彼女の心の内を表すかのように羽根をパタパタと動かしながら珠へとチョコレートを勧めていた。
 ――珠はと言うと、ここで会ったが百年目と言わんばかりに強制連行されてきたので、現状がよく解っていない。何か偉そうな人の屋敷に連れてこられ、何故か知らないがチョコを勧められているのだ。
「これがねー、トリュフ。あとはスタンダードに冷やして固めてみたのだけどどうかしら?」
「おいしいけど、これ誰宛てなんだ?」
 ピンクの苺味のチョコを勧めたオデットがうぐっと息を呑む。
(珠宛、なんて言えるわけないじゃない!)
 混沌世界で再会できた大好きな珠は、オデットのことを忘れていたのだから。
 気持ちを押し付けるようなことはしたくない。
 けれど、チョコレートくらいなら――。
「どうした? 顔が赤いぞ」
「顔が赤い? うるさいわね、ちょっと暑いだけよ!」
 くわっと吠えたオデットの額に、大丈夫かと案じる優しい手が伸びるのだった。

●甘いひととき
 甘味が口にできる茶屋はこの時期でなくとも乙女たちで賑わっているが、今日は特に人が多そうだ。席が足りていない様子なのを窺えば、入り口でどうしようかなと入店を迷うものも多い。
 ユエ・ネージュ(p3p010057)もそのひとり。賑わう店内にどうしようかなと迷えば、ひらりとローレットで見かけた顔が手を振った。
「僕の前でよければどうぞ」
「ありがとうございます、劉さん。えっとえっと、こんにちは。ユエといいます」
 こんにちはと返した劉・雨泽(p3n000218)はユエに品書きを渡して笑った。
「実はわたし、最近起きたばかりで……その、お世話になっている方たちにお礼がしたくて」
「イベントは良い機会だものね」
「はい! それで、チョコレートをどうするか悩んでいるのです」
 買った物が良いのか、手作りが良いのか。
 手作りはあまり自信がない、と頭を垂れさせたユエに雨泽は「買った物で良いんじゃないかな」と軽い口調で告げた。本命相手ではないのなら、君の気持ちが伝われば充分だよ、と。
(灰色の王冠……ねぇ。召喚された年は、菓子を食べたりましてや人に贈るだなんて、思いもしなかった)
 隣の席から聞こえるチョコレートの相談を聞きながら、『今は未だ秘めた想い』ハリエット(p3p009025)は机に広げたチョコレートを眺め、ひとり思う。
 まさか自分の人生に、こんなイベントが起きるだなんて。
 孤児だった頃の自分に教えたら、信じるだろうか?
 いいや、きっと信じない。
「雨泽さん……だっけ? いきなりで悪いけど、大人の男の人はどういうものを好むのかな」
 隣席の男に気付いていたハリエットは、そう雨泽に声を掛けた。
 相手への気持ちにはまだ名前をつけたくない。けれど、光をくれたひとに――。
「感謝の気持を、贈りたいんだ」
「贈りたい相手のことを、詳しく教えてほしいな」
 酒は好むタイプ? ネクタイはする?
 意識されたくないのなら、敢えて相手の好みを気にしないシンプルなものも良い。
 良いグラオ・クローネになるように、と雨泽は笑うのだった。
「今日は豊穣のお散歩に付き合うてくれて、おおきに」
 少し離れた落ち着いた席に、しとりと声が落とされた。
「生まれ育った土地なので、これくらいは……いただきます」
 『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)の前の席にちょこんと座ったひまりは、遠慮がちに苺大福へと手を伸ばした。
 柔らかな大福は、顔に寄せれば瑞々しい果実の香りを運んでくれる。少し照れくさそうな顔に瞳が嬉しげにキラキラと輝くのを見つけた蜻蛉は、緩やかに弧を描く唇を隠すように湯呑を持ち上げた。
「……ねぇ、ひまりは好きな人はおらへんの? んふふ」
「きゅ! 急に何をおっしゃるのですか!」
 大福を食んでいる時に落とされた爆弾。パッと慌てて顔を上げたひまりの唇には白い粉がついてしまっている。
「……まだ、その、ひまりにはよく分かりません」
 興味を向けてくる楽しげな瞳から逃げるように苺大福をぱくりと食めば、その顔を暫く見つめた蜻蛉も苺大福へと形良い唇を寄せた。
(蜻蛉さんはお姉さんだから、恋お味はもうご存知なのでしょうか……)
 それはきっと、この苺みたいに酸っぱくて。
 それはきっと、お砂糖よりも甘くて。
 酸いも甘いも知ったような蜻蛉の顔をチラと眺め、視線が合う前にひまりは苺大福へと視線を落とした。
 恋の味を知るのは、きっとまだ先。
 今はただ、それぞれの甘いひとときをたっぷりと味わって。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

素敵な一日となっていたら幸いです。
甘くて、皆さんとってもキュートでした!

ご参加、ありがとうございました。

PAGETOPPAGEBOTTOM