PandoraPartyProject

シナリオ詳細

覓むるは智

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●本発掘トライアル
 R.O.Oでの冒険を経て、現実世界でも亜竜種たちが暮らす領域へと足を踏み入れることが可能となったイレギュラーズたちは、『フリアノン』の里長である珱・琉珂の提案により『覇竜領域トライアル』を始めることになった。
 覇竜領域トライアル。それは簡単に言ってしまえば覇竜領域での雑用仕事である。雑用仕事を通じて現地の亜竜種たちと友誼を図ったり、危険なこの地でイレギュラーズたちが生き残れるかを試すものであった。
 既にいくつかのトライアルが行われている。
 そして、今回のトライアルの依頼人は――。

「あ、あの……外の方々、ですよね?」
 そろりと尋ねるのは、大きな眼鏡を掛けた少女だ。眼鏡のサイズが合っていないのか、少しずり落ち気味である。
「竜の尾や羽のない人がいるって本当だったんですね……。
 あっ、ごめんなさい。私は奏・詩華(ソウ・シィカ)と言います。外の方々が私たちのお願いを聞いてくれると琉珂さんが仰られていましたので――わ、私も皆さんにお願いをしに、来ました!」
 ああああ、外の方とお話をしてしまいました! と、少女は両頬を押さえた。普段は本と語らってばかりの文芸少女はかなり緊張をしているのか、何度か深呼吸をして。それでもお願いしたいことがあるのか、大きく息を吐き出すとキリッと少しだけ眉を上げ、真っ直ぐとイレギュラーズたちを見つめた。
「私は、『本』を愛しています。本には沢山の知識が眠っていて、私に様々なことを教えてくれるのです」
 それは、どこかの英雄が悪者を倒した冒険譚。
 それは、外の世界を知らないお姫様が盗賊と恋をする物語。
 それは、知らない衣服や習わし、文化が記された書物。
 時折入手できるそれらを、詩華は積極的に集め、読みふけっているのだと言う。
「本当は『外』からのお土産(本)を頂けたら嬉しいのですが、今回はトライアル。
 私たちの領域(さと)を知って頂くためにも、ペイトへ行ってもらいたいと思っています」
 亜竜集落『ペイト』――地竜とあだ名された亜竜種が築いたとされる洞穴の里。
 集落間は地下で繋がっており、フリアノンからは地下通路を通って行くことが出来るが、ペイト周辺の地下洞穴は蟻の巣状になっている。誤った道に踏み込まないようにと詩華はイレギュラーズへと地図を手渡した。地図通りに進めばペイトには安全にたどり着けることだろう。
「ペイトに住む人たちは武闘派の亜竜種です。彼等は本に興味がないようで……」
 詩華は頬に手を当て、はあ、と困ったように吐息を零す。
 入手したけれど、倉庫に放り込んで置いた。漬物石代わりに使っている。頭の上に乗せて落とさない修行に使っている。なんてものから……「ああ、あれ。ふたつくらい積むと昼寝するのに丁度いいよね。固くて短時間で目が覚める」等と言われた時には詩華も目眩を覚えた程だ。
 興味が無い物が所持していても、それは宝の持ち腐れ。彼等が興味を示さなくとも、中身を理解できる『外』の人たちなら価値が解るはず!
「是非! 面白そうな本を発掘してきて欲しいのです!」
 ぐっと拳を握って力説した詩華は、そこでホッと息を吐いた。
 緊張したけれど、ちゃんと最後までお話が出来ました!
「それでは皆さん、よ、よよよよろしくお願いします!」
 最後に深く頭を下げた詩華の眼鏡が滑り落ち、彼女は慌てて「あっあっ!」と手を伸ばした。
 ……どうやら事なきを得たようだ。

GMコメント

 覇竜領域に行きたくなってしまった壱花です、ごきげんよう。
 という訳で、本を発掘しにいくトライアルをお願いします。
 交流がちゃんと持てるようになったら、きっと外の本が手に入り易くなるはずです!

●目的
 亜竜集落『ペイト』へ向かい、本を見つけてくること

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 渡されている地図通りにペイトに向かえば、想定外の事態は絶対に起こりません。

●シナリオについて
 詩華からの依頼を受けたあなた方はフリアノンを発ち、ペイトへと向かいます。道中は地下通路となります。光源があると良いかも知れませんね。
 ペイトに住む亜竜種たちは武闘派。彼等が興味を示さない本を発掘してくるのが今回のお仕事です。戦術の指南書等ならいざ知らず、恋物語や外の国の絵本や風習の本等は入手したけどどうしようかなぁと持っている人たちが居ます。ありそうな場所を探し、見つけ、時に交渉し、フリアノンで待つ詩華の元へと持ち帰ることが依頼内容となります。

●本
 内容・装丁等、どんな本か、を記してください。ひとり一冊で大丈夫です。
 内容は他の人と被らない方が依頼主は喜ぶことでしょう。『ジャンルが一緒』は大丈夫です。例えば『恋物語』でしたら、それが誰と誰との恋物語で、どういう展開があったか等の違いがあると良いです。詩華はフリアノン内で作られた書物ではなく、『外の世界』の本を欲しています。
 あなたがどのようにしてその本を入手し、そしてその内容をプレイングに記してくださると嬉しいです。

●亜竜集落ペイト
 地竜とあだ名された亜竜種が築いたとされる洞穴の里。
 暗い洞穴に更に穴を掘り、地中深くに里を築いたこの場所は武闘派の亜竜種が多く住まいます。
 フリアノンを始めとした他の集落とは地下通路で繋がっています。

 それでは、イレギュラーズの皆様、素敵な本をお待ちしております。

  • 覓むるは智完了
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年01月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
優しき咆哮
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
ディアナ・クラッセン(p3p007179)
お父様には内緒
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
一条 夢心地(p3p008344)
殿
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女

リプレイ

●本を探して
 イレギュラーズたちはペイトへと向かうため、地下道をいく。
 何処かで水が流れているのか、何処かからサアアと聞こえる水の音。
 時折聞こえる地響きめいた音、何かの生き物やカラリと転がる石の音。
 それ以外は静かで視界は狭く、目ぼしいものと言えば通路に生えている見知らぬ草くらいだろうか。『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)はそれを気にしつつ、けれど出来るだけよそ見をせず、地図と鬼灯の燈會を手に先頭を歩む『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)の背を追いかける。
「まさか、本を探しに行く依頼だなんて!」
「本探しかぁ、思ったより平和な依頼だね」
 常よりも興奮気味に話す『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)に、『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)はくすりと笑みを零す。外の人間が立ち入ることの出来なかった秘境。その集落で受ける仕事なのだから、もっと怖かったり危ないことなのかと思っていたけれど、そうでもない依頼でよかった、と。
「本の回収かあ……気持ちよく提供してくれると嬉しいけどなあ」
「ペイトとやらは猛者揃いらしいからの」
 問題が起きないのが一番じゃと『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)言葉に『殿』一条 夢心地(p3p008344)が頷きを返す。
「本は好きよ。読んでる間はその世界に浸っていられるもの」
 ああでも、と『お父様には内緒』ディアナ・クラッセン(p3p007179)は一度言葉を区切って、礼儀作法の本は嫌いだとツンとそっぽを向いたディアナに、『夜咲紡ぎ』リンディス=クァドラータ(p3p007979)がくすりと笑う。詩華から渡された地図通りに向かえば危険はないらしく、進む一行は実に気楽なものだった。

 狭く暗い地下通路の脇道へと逸れること無くを通り抜けていくと、灯りが漏れていることに気が付いた。イレギュラーズたちは顔を見合わせ、誰からともなく駆けていくと――広い空間へと繋がった。
「ここがペイトですか……!」
 洞穴内の集落のため青空は広がらず、見えるのは地下通路と変わらない土壁ばかり。けれど通路とは違う広々とした空間に、思わずリンディスは手首を掴んで大きく伸びをした。
 フリアノンで依頼を受けてそのままペイトに向かっているイレギュラーズたちが所持している持ち物は少ない。何せどんな依頼を受けるかは現地に着いてからでないとわからないのだ。『最初にフリアノンに向かった際に所持していてもおかしくない』少ない手持ちで交渉をしなくてはいけないのが、今回のトライアル。話術・技術・普段から持ち歩いている交易品等を使ってどのように交流をするのか、そして詩華はきっとその過程の土産話も期待しているはずだ。人と人との間に紡がれた話が、物語となって本に綴られていくのだから。
「こんにちは、ルシェはキルシェです!」
 広場の隅で子供を見ていた母子たちを見つけたキルシェは、そちらに駆け寄ってご挨拶。元気に走り回る小さな男の子が「変な格好!」と言ってもキルシェは気にしない。文化が違えば服装も違う。況してやここは余所者が来ない土地。珍しげにしげしげと見つめてくる子供たちにも明るく笑顔を向け、母親たちに話しかける。
「あのね、ルシェ、ペイトでは小さい子がどんな本読んで貰ってるのか気になるの」
 代わりにキルシェが差し出せるのは、覚えてきた絵本の話。
「坊やたち、お姉ちゃんがお話をしてくれるって」
「何の話? つまらなかったらやだよ」
「『泣き虫ドラゴン』っていうお話なのよ」
「えー、ドラゴンは強いんだよ!」
「強くっても泣き虫なの。そのドラゴンはね……」
 キルシェが話すのは、お母さんドラゴンのために頑張る弱くて泣き虫なドラゴンの話。泣き虫だけど修行を頑張って強くなり、本懐を果たす。けれど強くなったのに、ドラゴンは無事で良かったと安堵するお母さんドラゴンの涙を見て泣いてしまうのだった。
 話を聞いた子供たちはお母さん泣かないでと母親にくっつき、母親たちはくすぐったげに笑った。
 そんな母親たちの様子、広場に集まる人々の様子、鍛錬に勤しむ人々――リンディスはまずはゆっくりと里を見て回り、ペイトのことを識ることにした。どんなものが大切で、どんなものが足りなくて、尊重すべき文化と、そして交流の対価を。
 里の中を歩いて回れば、時折絵本を読んでいる子供たちを見かけた。武術の型が描かれている紙を見ながら同じポーズを取る者も居て、ペイトに伝わる書物はちゃんと大事にされていることが解る。
 だからこそリンディスには少し残念だと感じられた。自分たちでは価値が解らない本を良い状態で保管しないことを。
「こんにちは。貴方達があまり読んでいない本とか持ってないかしら?」
 ディアナは、ぴょこんととある家を覗き込んだ。中から女性の楽しげな笑い声がたくさん聞こえてきたから、交渉できそうだと踏んだのだ。
「あれば譲って頂けると嬉しいのだけれど。良ければ私のアクセサリーと交換して貰えないかしら?」
「あら。アンタはもしかして……外から来た子かい?」
「それ、外で流行っているの?」
「これは自分で作ったのよ」
「手先が器用なんだねぇ。いいよ。どんな本が欲しいんだい?」
「恋のお話の本、てないかしら? 苦難を乗り越えて、想い人と結ばれた……なんて、ハッピーエンドな本があれば読みたいわ」
 14になったら知らない男性と結婚させられる予定だったディアナは、召喚されていなければ今頃どこかの屋敷で花嫁修業をさせられていたことだろう。だからこそ、夢ばかりが詰まっているだけの恋物語は憧れよりも昔は嫌いで――今は少し、違う。
 具体的な話を口にしたディアナを見て、里の女たちは顔を見合わせ合った。
「そうだねぇ、自由に探してくれてもいいよ。けれどその飾りよりも、アンタの話をもっと聞かせておくれよ」
 ディアナはえっと、と気後れしたように少し頬を染めてから、勧められた席に座って話し出す。
 ハッピーエンドの果てまでも、ふたりであれることを願っている。

 どうしようかなととりあえず人が多そうな酒場へと向かったアリアは、珍しいことをしようと決めた。
「皆様もっと近くへ。異国の者に恐怖はあるかもしれませぬが共通項もあるもので御座います」
 席につくなり唐突に語りだしたアリアへ向けられるのは好奇の視線と、胡乱げな視線。
 まずは興味を引けさえすればいい。向けられた視線に笑みを浮かべ、アリアは講談師のように板で机を叩き、鉄帝の闘技場の話を語りだす。本を読まなくとも、耳から入る気になる話にならきっと食いつくはずだから。
「重い一撃を受けた筈のチャンプだがその顔には余裕の笑顔!(ばんばん)
 次の刹那! 挑戦者の腕をむんずと掴み、勢いよくぐぐいーっと引き寄せそのまま膝蹴りをどぅと一撃!!(ばんばん)
 さあさ戦況は一進一退予断を許さぬ大接戦!!(ばんばん)
 この結末は如何に……と言ったところでお時間と……」
 良いところで話を区切って、アリアは頭を下げた。
「そこで終わりか?」
「おいおい、今からが一番いいところだろ!?」
「この続きを聞きたい方は如何でしょう? 次の小咄の元となる書物を頂ければお礼として話して差し上げましょう」
「ちょっと待っていてくれ、俺に心当たりがあるぞ」
 できれば冒険記がいいとカラリと笑ったアリアに男がそう言い置き、背中を向けて酒場から出ていく。きっと駆けていく先は彼の家なのだろう。
(ふふ、やっているわねぇ)
 賑やかなアリアを見て微笑んだアーリアも早速地元のお酒を――『交流』をしに、ひとつのテーブルへと向かう。
「こんにちはぁ、お近づきの印に一杯どぉ?」
「お。姉ちゃん見ねぇ顔だな」
「そうなの、お姉さん遠くから来たの」
 異国の酒を手に近寄れば、酒好きらしい男たちはアーリアを明るく迎え入れてくれた。
「その酒はここいらで見ねぇ酒だな」
「これはねぇ」
 酒好きたちは酒の話で花が咲く。豊穣の米酒に鉄帝のウォトカ、海洋のラム、それからカクテル等の呑み方。お近づきに一杯とヴォードリエワインを勧める美女に、嫌な顔をする男はいない。
 弾む会話の中でほんの話を持ち出せば、いつの間にか混ざっていた酒場の店主が「そういえば『外』の本があったなぁ」と持ってきてくれた。

「お手合わせ、していただけますか?」
 武闘派、と聞いて来たドラマが向かったのは、彼等の修練場だ。
 武闘派の彼等と『言葉』を交わすのならば、やはり『力』であろう。それに、負けない剣を標榜とするドラマの剣が、覇竜の大地に生きる強者たちに何処まで通用するかも知りたくて。
 知らない戦い方をしているのならば、学びたい。『外』になり戦術ならば尚の事。
「ところでこの戦闘技術の継承は口伝が中心になるのでしょうか?」
 剣を合わせて汗を流し、一息ついた頃。素晴らしい技術を纏めた奥義書にしては? とドラマは尋ねてみるが、屈強そうな男たちは少し顔を見合わせ、首を振る。口伝であるものは、口伝にせねばならない理由がある。そこに血脈を繋がねばならない強い理由も発生する。けれど紙に残して良いとされているものは書き留めてあるから見ていくかと誘われ、ドラマはありがとうございますと笑みを見せた。
 同じ考えでシキもまた修練場で彼等と拳で語り合っていた。ドラマが立ち去った後も、シキは彼等と話し合う。
 ペイトの人々は普段は洞穴で暮らしているが、普通に里の外にも出るし他の里との交流とてある。ただ数少ない安全地且つ人がたくさん住める場所が此処ら辺ではこの洞穴だったのだろう。
「本は読まないのか?」
「俺らが作った本は読むが、『外』のはな……」
 覇竜領域内で使える物にしか、彼等は興味がないのだ。外には出ないし、外からも人が来くる訳ではない。けれどたまに外から入ってきたそれらは『有効活用』している。……彼等なりの方法で、だが。
 それじゃあさ、とシキは彼等に話を持ちかけた。
 本を欲しがっている子がいるから、その子にあげてもいいかな、と。
「これ、これ。その方等。ちいと良いかの」
 修練場の隅で筋トレをしていた集団へと声を掛けるのは夢心地だ。走り込みするまでならいいぜと白い歯を光らせて笑う筋肉の逞しい男たちに、夢心地はそれでよいよいとホホと笑うのだった。

●帰還
「あ、皆さん。おかえりなさい」
 フリアノンへと戻ってきたイレギュラーズたちへと向けられる視線には、抑えきれない気持ちが篭められていた。どんな本を見つけてきてくれたのだろう、と眼鏡の奥の瞳がキラキラと輝いて。
「それでは早速……」
「その前に。これは本を愛する友人への『お土産』です」
「えっと……その、今渡されては困ります」
 心象が変わるかもしれないから、それを先にもらっては賄賂になってしまう。それに、フリアノンで依頼をしてすぐにペイトに向かってもらったのに、『いつ』お土産を用意したのだろうかと詩華は心を悩ませた。本好きだから、普段から持ち歩いているのかな? 『第二十二回海洋王国大号令』なんて書かれた本を?
 本に対して真摯な詩華は悩ましげに眉を下げ、大慌てで両手を振ってドラマを遮った。
「私から渡してもいいかい? 私が譲り受けたのはこれさ」
 シキが手渡すのは、茶色い表紙に金縁の本。それなりの厚みと重たさで、修練場に顔を出していた男が漬物石に使っていた。匂いが少しするかも知れないが……それもその内気にならなくなるはずだ。
「わあああ、装丁もとても素敵! 触り心地も重さも良いですね! 内容は……」
 ぱあっと表情を明るくした詩華がワンブレスではしゃぎ、こほんと咳払いをした。ぱらっとめくった感じでは少年が空の青さを知る話だった。似た冒険の話は知っているが、兎角装丁が気に入ったと詩華は大切そうに本を撫でた。
「麿が見つけ出したのはズバリ、料理のレシピ本じゃな」
 表紙は椀が描かれたシンプルなもの。素朴なタッチながらも料理のイラストと、その隣のページには作り方が簡単だが分かりやすく書かれている。使われる食材は、夢心地が知っているものから知らないものまで。どこかの地域の家庭料理を紹介しているようだが、旅人である夢心地にはそれがどこの地域までかは解らなかった。これを見つけたペイトの者は家で調理してみたようだが――どうやらペイトで手に入らない食材の方が多かったようだ。
「故にフリアノンでも手に入らない食材の料理本になるが、よいかの?」
「知らない食事を知れるだけでも楽しいです!」
「麿もその気持ち、解るぞ。食事を通し、そこで暮らす者達の人となりを想像する。なんとも心浮き立つひと時じゃ」
「やはり文化を識るには食事ですよね」
 夢心地と詩華はうんうんと頷きあった。
「私からはこれです。外の世界……幻想という国を中心とした誰かの旅の記録の本です」
 それは少し――かなりぼろぼろの年季の入った見聞録だった。記されている時期は勇者王の伝説の時期ととても古いが故に、ところどころ損なわれて読めなくなっていたりもする。
「とても古い書物ですね……。欠けているところもありますが、それこそがこの本の味なのだと思います」
 それに、欠けている点を想像する楽しみもある。
 詩華は貴重な本を見つけてくれてありがとうとリンディスに微笑んだ。
 他のイレギュラーズたちからも受け取って、最後はそれじゃあ私のとアーリアが手渡した。これもまた、古い装丁の本だった。
 それは、主人公の少年が山奥でとある少年と出会う話だ。他の子とは見た目の違う少年を、大人を始めとした周囲の人間は隠そうとする。けれど少年だけは違った。異形の少年の手を引いて、光の指す場所へと連れ出した――。
「最後には、みんな仲良くなれるのですね」
「いいお話でしょ? ふふ、私たちもこうなりたいわぁ!」
 明るく笑うアーリアを、詩華はまぶしげに見る。
 詩華も、そうなりたいと思う。けれどそれは、詩華だけが思っていても駄目なのだ。
 ずっとずうっと、外の世界に憧れていた。外に出たくて、何度もフリアノンを抜け出しては見つかって。それでもと手を伸ばして本を読み続けた。
 小さく「私も」と呟いた声は、イレギュラーズたちに届いただろうか。詩華はパッと本を盾にして顔を隠してから、こほんと咳払いをした。
「ドラマさんとキルシェさんのお持ちになった本は、私も既に知っているものですね」
 受け取った本をはらりとめくってから、詩華は顔を上げた。集落間の交流はあるから詩華がこの歳まで探し尽くして見つからないような珍しいものでない限り、集落に伝わるものなら読み尽くしてしまっている。それ故に、『外の世界』の本を求めていた。
「ですのでドラマさんからは先程の本を代わりに頂いて、キルシェさんには子供たちにお話したという物語を聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 ――――
 ――

「今回はこんな感じ、でしたが……その、もしよかったら……」
 眼鏡を抑えた詩華が頬を染める。
 視線が左右に動いて、唇を開いてはきゅっと閉ざす。
「こういった依頼は喜んで、今後も手伝わせて下さいな!」
「今度、たくさん本を持ってきますね! 写本もできますからお任せください!」
 詩華の気持ちを読んだドラマとリンディスの言葉に、詩華に笑顔が灯る。
 今はまだ本格的に交流が始まっていないから出来ないが、いずれは物の行き来がもう少し頻繁になった際は、覇竜領域への本の流通を本格化したいものだと夢心地も思っている。本だけでなく、物資の流通はあってもよいものだ。そのためには安全なルートの確保であったり、イレギュラーズたちでなく一般の商会と詰めなくてはいけない問題は多々あることだろう。近い将来、そうあれるように邁進しようと心に秘めた。
「いつでも読みたい本があれば貴女を外でエスコートするからね!」
「は、はい! 是非!」
 いずれ、外に自由にいけるようになったのなら。
 外の世界には、きっとたくさんの未知が詩華を待っている。
 その日を夢見、文学少女はキラキラと瞳を輝かせるのであった。

成否

成功

MVP

アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯

状態異常

なし

あとがき

シナリオへのご参加、ありがとうございました。
本が大好きなので、覇竜一発目は本! でした!

おつかれさまでした、イレギュラーズ。
交流が盛んになって、詩華さんがたくさん外の本を読んだりお出かけできるようになりますように。

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