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シナリオ詳細

<Jabberwock>蒼穹なるメテオスラーク

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●電撃戦
 この世の終わりのような風景と称して尚、生温い。
 その日、セフィロトの観測した『敵』は紛う事無く練達の長い歴史の中でも『最悪』と称するに相応しいものだった。
「見ての通りです。先の問題が解決してから然程も経たぬ内に――皆さんに頼る事になるのは大変心苦しく思うのですが」
 集められたイレギュラーズの精鋭を前にしても安心している様子はないようだった。重く言葉を発したクラリス=セフィロトマザー(p3n000242)の表情は硬く、事態の逼迫を何より物語っている。己を『機械』とする彼女が心を口にしたのは成長の表れと言えるのかも知れないが――
「セフィロトは地政学的リスクを抱えてきました。
 言わずと知れたあの『覇竜領域』が近隣に存在しているからです。
 竜種については謎が多く、私達もその多くを把握してはいません。
 唯、今回出現したあの個体――『Jabberwock』については『別』でした」
「別?」と聞き返したイレギュラーズにマザーは言葉を続けた。
「かの『怪竜』は以前一度セフィロトで観測されているのです。
 それだけならば『野良』の紛れも疑う所でしたが、アレは違った。
 詳細を知る事は出来ませんでしたが、それは『冠位魔種』らしき気配を伴って現れたからです。
 誇り高き竜種は必ずしも魔種と手を組むような事はないでしょうが、『Jabberwock』の存在は条件が整った時、魔種と共に行動する竜種という可能性を疑わせるに十分だったという事です。だから私達は長く『Jabberwock』への警戒を続けていた。
 座標情報を把握し、おかしな動きが無いかの調査にかなりのリソースを注いできました。それが」

 ――この間のIDEA問題の余波で情報がロストしちゃったってワケ!

 マザーの言葉を継いだのはこの場にある『もう一人』。
 相変わらず声だけでの参加を続けるクリスト=Hades-EX(p3n000241)だった。
 イレギュラーズとも因縁浅からぬマザーの『兄』はR.O.O事変における最大のトリックスターだった。
 紆余曲折の上、可能性を信じて妹を救う選択をした彼は現状では味方のような面をしているが……
 敵に回せば大層面倒くさいが、味方にしても大層面倒くさいのは変わらない。

 ――まー、そんでもって気付いた時には御覧の有様!
   ジャバchangどころか『竜の軍勢』がセフィロトにいらっしゃーい! と。
   折角助けて貰ったトコ申し訳ないんだけど、こりゃあ軽く十回は滅べるレベルだよねえ!

 ……それは他人事のようにこの事態を面白おかしく言う辺りを聞けばすぐに分かる事である。
「聞いての通り、この兄さんが全て悪い訳ですが――事態は大変深刻な状況を示しています。
 セフィロトには元々他国や、或いは竜種にも対抗出来る強力な防衛システムが存在します。
 都市機能を私が統括する事で強力なバリアを張り、自動迎撃システムを展開する事が可能です。
 相手が竜種では心もとない部分もありますが、防衛システムの強靭さは皆さんも実感している筈です」
「……確かに『揺り籠』は酷かった」
「はい。その節は大変ご迷惑をおかけしました。あれを超大型にしたようなものと考えて頂ければ結構です」
 R.O.O事変の最後にマザーと対決したイレギュラーズだからこそ、その性能は痛感している。
 確かにセフィロト全土が同等の防衛システムを繰り出せるとするならば、相手が竜の軍勢でも対抗位は出来るかも知れない。
「しかし、此方にも問題がありました。
『セフィロトの防衛システムには私が必要不可欠ですが、私は現在故障しています』。
 機能は凡そ17%強しか取り戻せていません。現状では高度なセフィロトの防衛システムを問題なく運用する事は不可能です」
「……俺達や通常兵力だけで勝てる見込みは?」
「限りなくゼロに近いでしょう」
「だよな」
 問いは『一応』の通過儀礼のようなものである。
「じゃあ、代打はクリストって訳だ」

 ――流石に勘がいいねぇ。クラリスchangが「お兄ちゃん大好き! お願い、皆を守って!」とか言うもんだから。

「言っていません」
「言ってないだろうな」

 ――言ったってば!!!

 抗議じみたクリストはさて置いて。
 マザーは淡々と説明を続ける。
「兄さんの性能は私とほぼ同等ですが、セフィロトは私のコントロールに最適化されています。
 兄さんはそれを扱えますが、雑です。要するに精度が低いのです。
 従って、付け焼刃が通用する期間は限られていると認識するべきでしょう」
「短期で撃退しろと? 可能なのか?」
 籠城戦は基本的に長期戦になりがちである。
 ましてや攻め手が明確な意志を持つ竜達ならばそう簡単な話になるとは思えない。
「……兄さんは私より精度が低いですが、私より『器用』です。
 飽きっぽく雑で集中力が低いですが、創造性が高く、無茶苦茶な事を得意とします。
 私がコントロール出来るならばリスクの小さい防衛戦を選びますが、不本意でも兄さんに頼らないといけない以上は」

 ――確率的に『最良』な方をセレクトしちゃうってワケよ。それが攻勢。
   分かってると思うけど俺様、守るの苦手なんだよねぇ。ブチのめすのはクラリスchangよりうめーけど?

「結論から言えば今回の戦いにおいて最も強力な竜種個体は『Jabberwock』。
 しかしながら力に任せ、前線で暴れるそれは『指揮官』ではありません。
 今回のセフィロト攻略に参加した竜種は七体ですが、内一体――モニターの個体は後方に陣取って動かない構えです。
『蒼穹なる』メテオスラーク。それが今回の指揮官個体です」

 ――先に攻めさせて『簡単には攻め落とせない』って調教する。
   そんでもって、その後コイツをボコせば軍勢自体が怯む可能性が高い。
   一旦仕切り直しにさえ出来れば次はクラリスchangが間に合うかも知れないしね!

 竜種の知性は人間をも上回る場合がある。
 敢えて前線に出ない指揮官を叩ければセフィロトへの警戒は強くなろう。
 攻略自体を諦めないにせよ、『撃退』すれば今回は百点と言える。
「理屈は分かるが、最後方だろ?
 外が竜だらけなら、到達するのは無理だ。ついでに言うなら相手が竜じゃ――」
 イレギュラーズの脳裏に過ぎるのはあの滅海竜の暴威であった。
 精鋭が集まった所で僅か数人では焼け石に水にもなりはしない。

 ――まぁ、リヴァchangよりは全然弱い。
   っつーかリヴァchangは全竜種の中でもトップクラスでしょ。
   最強決める大会やるなら間違いなく優勝候補。
   ……まぁ、でも分かるよ。まずカチ込むのが無理だし。
   小型だろうととても勝てない。勝てるレベルじゃあない。フツーならね。

「何かあるのか?」

 ――俺様changが転移で飛ばす。
   後、防御リソースと並行してキミらの戦いに強化(バフ)をかけるよ。
   生半可な奴じゃない。本気の本気、マラソン大会で全力疾走するヤツだZE!
   ペース配分何て知ったこっちゃないっつー大技だから、必然的に長引くとセフィロトは滅びちゃうって思って頂戴!

 クリストの言葉にマザーは苦笑を浮かべた。
「……大変申し訳ありません。
 兄の言い様は最悪ですが、彼なりに大真面目なのです。
 皆さんには兄の支援でメテオスラークに電撃戦を仕掛けて頂く。
 三塔主にはセフィロト側のコントロールで兄の支援をして貰う形になります。
 強化(バフ)が切れない間に『彼』に迫り、セフィロト側の防備で竜種全体を押し返せば……
 ……直接脅威に相対した『彼』は撤退の判断をする可能性がある。
 現状の持ち札で最良の確率を計算した結果の作戦です」
「まるで決死隊だな」

 ――難易度Nightmareですから!
   つっても妹の為に頑張るキミ等だもん。出来るだけ何とかするよ。
   出来なかったらゴメンだけどNE!

 クリストの言葉にイレギュラーズも苦笑した。
 全く一難去ってまた一難――折角助けたんだから、もう少し素直に助かっていろよ!

GMコメント

 YAMIDEITEIっす。
 出す気は無かったんですが、SD総出でVHEX6本!
 ……とかいう話になったので、折角なのでNightmreを。
 以下詳細。

●依頼達成条件
・『蒼穹なる』メテオスラークに打撃を与え、脅威と認識させる。

※撃破は不要です。というか逆立ちしても出来ません。

●状況
 セフィロトは今、メテオスラークの率いる竜の軍勢に攻められています。
 竜の軍勢を食い止めるのはセフィロト自慢の防衛システムですが、マザーが故障している事から100%が発揮出来ません。
 代打で統括するクリストは持久戦が苦手な代わりに『器用』なので奇襲作戦を計画しました。
 皆さんはクリストの支援を受けてメテオスラークを強襲し、彼に脅威を与える役割を負います。
 これはセフィロトにおける粘り強い防御と合わせ竜達を撤退に追い込む為の手段です。
 尚、クリストは防御システムの統括と皆さんへのバフを同時進行します。
 数が多いと一人一人への支援が疎かになる為、八人というのは最大可能数です。
 同時進行は曰く「マラソン大会の全力疾走」だそうで、そう長くはもたないらしいです。

●クラリス=セフィロトマザー
 故障中のマザー。或る程度はセフィロト側の管理を手伝いますが性能は17%強に留まります。

●三塔主
 今回は戦っている場合ではありません。マザーと共に防御システムの補佐に入ります。

●クリスト=Hades-EX
 セフィロトの統括を代打しつつ、マルチタスクで皆さんを支援します。
 最後方で余裕を見せるメテオスラークの眼前まで皆さんを運び、信じられない位の高性能バフで皆さんを強化します。
「最長五分までNE!」との事。時限式ですが、皆さんは普段とはまるで違う力を出せるでしょう。
 又、クリストの支援により自由自在に飛行し、問題なく戦闘を行う事が可能です。
 クリストの支援時間は皆さんの戦況に左右されます。戦いが苦しい程に短くなるでしょう。
 又、バフが限界を迎えたらクリストは皆さんを強制的に『回収』します。
 しかし、『回収』が働くのは限界時間を迎えた時です。戦いの最中に死にそう、なのを助けられるかどうかは分かりません。

●『蒼穹なる』メテオスラーク
 今回の竜の軍勢の事実上の指揮官。
 人間の尺度からすれば対軍、超巨体と呼んで良い青い竜種。
 高い知性を持ち、どちらかと言えば慎重派ですが、『興が乗る』と本来の闘争心の高い気質が表に現れます。
 誇り高い竜であり、強きものを好みます。
 大昔『暴風』なる勇者と相対し、彼を気に入ったからだそうな。
 極めて堅牢な防御能力、再生能力を有します。
 オールレンジ、全方位の攻撃性能を持ちます。
 反面、重戦車、兵器の如きその巨体は鈍重であり、回避能力は無いに等しいでしょう。
 というか、人間の攻撃を避けるなんて事は彼のプライドが許さない。
 行動不能系のBSと割合系のダメージは無効化します。
 本来はそれ以外(例えば氷結とか)も人間のサイズなりなのですが、今回はクリストがいるので通ります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。


 死亡判定の可能性は難易度なりにあります。
 以上、宜しくご参加下さいませ。

●重要な備考
 これはEX及びナイトメアの連動シナリオ(排他)です。
『<Jabberwock>死のやすらぎ、抗いの道』『<Jabberwock>金鱗嶺竜アウラスカルト』『<Jabberwock>アイソスタシー不成立』『<Jabberwock>灰銀の剣光』『<Jabberwock>クリスタラード・スピード』『<Jabberwock>蒼穹なるメテオスラーク』は同時参加は出来ません。

  • <Jabberwock>蒼穹なるメテオスラークLv:58以上、名声:練達30以上完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別EX
  • 難易度NIGHTMARE
  • 冒険終了日時2022年02月01日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
リズリー・クレイグ(p3p008130)
暴風暴威
佐藤 美咲(p3p009818)
無職

リプレイ

●青天の霹靂I
 ――難易度Nightmareですから!
   つっても妹の為に頑張るキミ等だもん。出来るだけ何とかするよ。
   出来なかったらゴメンだけどNE!

 八人のイレギュラーズの『受難』は実に気軽に、実にいい加減に訪れたものだ。
 人生には幸運の二倍の不運がある、とは誰が言った言葉だっただろうか?
 実際の所、主観に大きく左右される『禍福』を数量で表現する事は難しいのだろうが――
「これまでも何度も決死隊の真似事はしてきたものですが、いやはや今回は一段とです」
 行く先を持たない呆れを半分、強い興味をもう半分に含ませた『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)の言葉は『今日という日』に臨む――臨む事を余儀なくされた八人の良い代弁になった事だろう。
「この人数で竜を強襲とは。クリストさんも無茶振りが過ぎるのですよ」
 たった八人で竜を強襲する。
 それも子供の使いではない。『蒼穹』の異名を持つ指揮官個体である。
 救ったばかりの練達を滅ぼさんとセフィロトに向かってきた竜の軍勢を退ける事が今日の勇者達の仕事。守るに向かないクリストが出した苦肉の提案は、自身のバックアップのもと精鋭のイレギュラーズが動かぬ本陣を強襲する事であった!
「良く言われる」
「……はて、どちら様ですか? と申し上げた方が宜しいでしょうか」
「いけず。分かってるでしょ、ヘイゼルchangは!
 赤いブーケは届いてるから。それってもう運命の糸だから!」
「はて?」とヘイゼルは小首を傾げる。
 閑話休題――準備を済ませたイレギュラーズの前に現れた『軽薄な男』は確かに見慣れぬ姿だった。
 しかし声と口調は嫌という程その存在感を物語る。何処かマザーにも面影のある兄は実体を有したJokerであろう。
「何時だったかな。Hadesロボと戦ったのを思い出すけど――
 あの時より確実に、冥府に、近い。近い所か入り口より先に踏み込んでるかもな」
「まぁ、どのような相手であろうと――叩きのめせと言われれば分かり易い。
 同等と思う必要は無いが、負けると思わば勝てるも勝てぬし」
「いや、そもそも『竜狩り』だろ?
 そう言われて滾らないヤツって居るのかね?」
「ああ! 冥府ぐらい脱出してこそ大怪盗ってもんだよな。
 相手が竜だろうが何だろうが――倒れてなんか、やるもんか!」
 戦士にとっては――少なくとも『暴風暴威』リズリー・クレイグ(p3p008130)の価値観からするならば、目前に迫った困難はむしろ嫌気ばかりの話ではない。挑む敵が無いよりも剣ヶ峰が聳えている方が余程マシというものだ。豪放磊落に笑った彼女に触発された訳でもなかろうが、『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)の言葉に『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)は「うむ。その意気や良し」と満足そうに頷いた。
 余人には荒唐無稽に思える話も、同情されるような無謀な試みも、当事者からすれば譲れないばかりの結論である事は少なくない。
 滅海竜(リヴァイアサン)と同等ではないにせよ、同属である事は間違いない。
 だが、かの『絶望』と相対しても乗り越えたからこそ今がある。
『ついこの間まで』相対していたのは原罪の魔種であり、それも等しくとても勝てるような相手では無かった筈だ。
 可能性を捻じ伏せ呑み喰らうからこその特異運命座標(イレギュラーズ)なれば、竜との戦争も意味は等しい。
 良くぞ挑んだ、と迎え撃ってやるのは此方の方であるべきなのだ!
「成る程。中々いい感じのメンバーだ。
 俺様も可愛い妹のおうちを預けるんだから、そうじゃなきゃスッキリしねートコですYO。
 ……ま、そろそろかな。外の戦いも進んでるし、いい感じの抵抗で奴さんたちも焦れてきてる。
 そうしたら後は予定通り君等がメテオchangを凹ませて、竜はセフィロトバイバイ!
 ……でHappy End、クラリスchangは『おにいちゃまだいすき!』って寸法DEATH。Are You OK?」
「Hades氏、ちょっと人生見つめ直した方がいいでスよ。
 無事に終わったらなにか禊したほうが良いって言うか……悔い改めるべきって言うか。
 私はー……去年混沌に来てからは片手で数えられる数のやらかししか無いですからアレですけども」
『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)の『マジ過ぎるアドバイス』にも何処吹く風。
「大丈夫ですわ! 自分を信じて生きていけば――私なんてやらかしてすらおりませんからね!」
『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)の言葉に美咲が「うわあ」な顔をした。
「何時も清廉潔白ですわ! 神もマリィもそう言っておりますわよ!」
「見習いたい自己肯定感!」
 口笛を吹いて知らん顔をするクリストはしかし今日の仕事自体にはかなり真剣なのか『外』を探り、タイミングを精査しているらしい彼の整った眉は不意のタイミングで上下している。悪ふざけと高等な演算を両立する辺りはまさに完璧な分割思考。究極のAIの面目躍如といった所か――
「……いい塩梅だ。じゃあ、今から『飛ばす』から気ぃつけて。
 なるたけ気をつけるけど、『空間転移(とっきゅう)』はあんまり乗り心地良くねーし……
 もうすっ飛んだら奴さんの目の前YO。乗り物酔いしてる暇はねーからね?」
「今日は吐いたりいたしませんわよ!」
「相手もそれ相応だからNE。俺様も頑張るけど油断したらマジ乙だから気ぃつけて」
「……練達も心配だけどね。覇竜へ向かうならあんな竜種だってゴロゴロしてるんでしょう。
 この先へ進むなら、どっちみち避けては通れない話なんだから」
 時間は一杯か。
 タイミングを測っていたクリストに声を掛けられれば『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)は苦笑交じりに結論付けた。
「ごく普通に生きている人たち。知り合ったたくさんのダチ達。
 もう今は……特に今は皆疲れてるんだよ。その笑顔をこれ以上失わせないために!
 みんな行くぜ! あのトカゲどもをこの手でセフィロトから叩き出す!」
「一生は死ぬまで終わりませんし。生きている限りどうせ死亡率は十割です。
 竜が相手でもいつもの如く――精々、ゆるりと参りませうか」
『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)の気合の一声、マイペースなヘイゼルにクリストは満足そうに頷いて。

 ――じゃあ、いってらっしゃい。死ぬなよ、イレギュラーズchang達!

 まるで『仲間』みたいな事を言う。
 そして言ったと思ったら。面々の意識は一瞬だけ遠のき、強く『何か』に引きずられていた。

●青天の霹靂II
 果たして、クリストの支援で転移した八人は間近に相対し、今仕掛ける蒼穹竜に少なからぬ驚きを与えていた。

 ――退屈な話と思ったが、幸運というものは思わぬ所に落ちているものだな。

 青き巨竜(メテオスラーク)はその状況に少なからぬ衝撃を覚えていた。
 人間の都市(セフィロト)への襲撃に何故『軍勢』が必要なのか、正直を言えば納得はしていなかった。
 自身を含め純粋なる竜種複数を含んだ大部隊、それもあのジャバウォック(おもちゃ)まで持ち出しての攻撃である。
 要請と言えば要請だし、竜王には竜王の都合もあろうが――それでも感情的な退屈さは拭えなかった。
 メテオスラークが真に望むのは常に相応しき闘争であった。
 同種相手でも無ければ叶わぬ願いだが、素晴らしき決闘の結果、『同種を何体も屠ってしまえば』大人の自重も必要になろうというものだ。
 故に彼は満たされず、常に乾き、退屈で長閑な日常に『何時か』を夢見る位しかやれる事も無かったのだが――
「―― 闘志全開、さあ、やるわよ!
 そちらからすれば『レベルが十倍』もあれば満足なのかも知れないけどね!」
 残念ながら近しい奇跡はあったとしてもそこまで具体的な奇跡がない以上、持てる札で戦わねばならぬのは明白だ。
 気を吐いたイリスが、イレギュラーズが『俄かに信じ難い風景』を作り出している。
「退屈であろう? その巨体、暴威。さぞ嘆いた日もあろう。
 されど、我ら精鋭。今日は一人では敵わぬも八人合わされば貴殿と同等! いざ! 尋常に勝負せよ!」

 ――確かに。理由は知らねど、貴様等は幾ばくか強い。

「まぁ、そちらは竜故。吾等を同等など思わんな。実際の所、吾も思わんぞ!
 ……だが、かつてその判断を裏切られた時楽しかっただろ
 それにつまんなかっただろ、こんな戦い。その気持ちは分かるから、吾達とたっぷり遊べ!」
「勝負しましょう、メテオスラーク!
 貴方に手傷を追わせれば、私達の勝ち。その前に私達を全滅させれば、貴方の勝ち。
 まさか十人に足りない小勢を相手に、尻尾を巻いて逃げたりはしませんわよね!?」
 混沌最強とさえ称される竜種を向こうに言い放つには余りにも肝の据わった言葉であった。
 されど『それを臆面なく言えるからこそのヴァレーリヤである』事に間違いはあるまい。
 そして、向こう見ずを前にした蒼穹に浮かぶのは怒りではないようだった。

 ――いや? 侮っているのは俺ではないのではないか。
   俺は貴様等を侮らぬし、俺を理解していないのは貴様等の方だろう。
   いじましく挑発めいて……俺がこの奇襲に仲間を呼ぶとでも考えたか。
   実に無意味な心配だ。それは実に愚かな推察なのだ。
   貴様等は俺に意味をくれるという。
   小生意気にさえずって、天上の歌を聞かせてくれる。
   ……聞けるかは知らぬが、少なくともその心算なのだろう?
   夢にまで見た暴風の調べを。竜種の中でも最も人間に好意的であろう、この俺に。
   思い出させてくれるのだろう? 人間共!

 予想外の返答にヴァレーリヤは「上等ですわ」と腕をぶす。
「――どっせえーーいッ!!!」
 聖職者とは思えない位の裂帛の気合で強烈極まる一撃を叩きつけた彼女に轟々と風が逆巻く。
 イレギュラーズがそれが彼の笑い声である事を自覚するのに掛かった時間はたっぷり一秒。
「いいじゃねぇか。思った以上に『話せる』おっさんで――」
 ベアヴォロス、そしてランドグリーズ。
 クレイグの一族とベルゼルガの戦士の誇りを体現した獰猛な爪牙が 覇竜を穿つ。
「――こんなもん、戦士に生まれたなら死ぬまでに一度はやっておきたい相手だろ!」
 高い知性を持つ竜種は個によってその在り様もまるで異なろう。
 リズリーのような女にとってそういう意味でもこの戦場は最適だった。
(さあ、何処まで保つか。
 命を燃やす闘争を望むは戦士の性。
 逆立ちしたって倒せない相手? 上等じゃないか。
 加減なんて要らないなら――願ったり叶ったりって奴さ。
 どうせ『勝つ』なら、張り合いがあった方が面白いに違いないんだからさ!)
 果たしてパーティはこの瞬間もクリストの支援で高速飛行を続け、悠然と話を続ける蒼穹を攻め続けている。

 ――それで、これはどんな仕掛けなのだ? 人間達よ。
   少なくとも俺の記憶では人間は『こう』では無かった筈だが。
   称賛すべき蛮勇は変わらぬようだがな、第一がその力だけではない。
   俺達ならば兎も角、人間が……しかも同時多数の空間転移を達成するとは知らなかったぞ?

「案外、お話に付き合ってくれるのは――いや、まだ反撃らしい反撃すら来てないのはラッキーなのかも知れないですけど」
 美咲の表情が困ったように微かに歪んだ。
「『確か私達ってメテオスラークに痛打を与えるのが目的でしたよね?』」
「……なのよね。『暇』なのは今だけかも知れないけど」
「いやいや。このまま『暇』でも一向に構わないんだけどな!」
 美咲の応えるようにイリスは小さく肩を竦め、逆にサンディはわざとらしく冗句めいた。
(……そう、今だけね)
 パーティの壁であり、防御役であるイリスやサンディは状況を冷静に見つめていた。
「何せあんな性格でも練達最高の知性と同等って言うし――きっと上手くやってはくれるんでしょうけど」
「『動かす』必要はあるよな。真っ当な手段だろうと、『横紙破り』だろうと――」
 戦闘状況によってクリストの支援(バフ)の保ちが変化するならばパーティが攻められず、攻めているのは良い事だ。
 しかし蒼穹がイレギュラーズを面白がっている現状は作戦目標から考えれば有り得ない話である。
 状況は取りも直さずクリストの信じ難いバフを乗せた上でも、まだ竜の脅威には遠いという現実を示しているのだろう。
「……思ったのと違うけど、これはこれで厄介だぜ」
 更に間もなく『思った通りの厄介』も来る事を知っている――サンディは思わず苦笑した。
 パーティは蒼穹に痛打を与え、彼の判断を撤退に近付けねばならない。
 だが、『案外話せる竜』は大凡天地がひっくり返ろうとも畏れて退くような性格には思えない!
 状況は結論から言えば『奇襲』の心算、そのあては早々に外れていたのも大きいだろう。クリストによる空間の歪みを『察知』した蒼穹は『何が起きるかを待っていた』らしく。現れたイレギュラーズに悠然と問うたものだった。「貴様等が俺の相手なのか」と。
 蒼穹は恐らく――パーティを待ち受けて先手を打つ事さえ可能だったのにしていないのだ。
 竜の長い時間に付き合う意味も義理も、そして暇もないイレギュラーズの猛攻は当然ながらに始まったのだが――

 ――いや、仕掛けなぞどうでも良いか。答えぬで構わん。唯、全力を出せ!

 並の敵ならば跡形も残らぬ猛撃を大量に浴びてその言い草だ。
「足りない、ってか――?」
 風牙にとって、その言葉にはカチン、と来る。

 ――俺の知る『最高の人間』にもまだ遠い。
   だが、急くな、嘆くな娘。先程のは『まあまあ』だった。
   もっと何度も打ち込め。もっとその生命を燃やせ。
   悪くはないのだ。貴様等は人間にしては十分強いぞ!

「余裕見せやがる……!」
 誰に限らず、普段と比べれば『とんでもない力』が出ているのは間違いない。
 先程風牙が突き刺した『八塩折』――彼女渾身の奥義は『馬鹿げた位の威力』を誇っていた。
 まさにそれこそ蒼穹の言う所の『仕掛け』、即ちクリストの支援の影響に違いないのだが……
 その馬鹿げた力で挑まねばならぬのは見て分かる通りに正真正銘の怪物であった。
(クリスト、妹にいいとこ見せるチャンスだ! 手ぇ抜くなよ!)
 風牙の脳裏のクリストが肩を竦めて舌を出した。
「お喋りも良いですけれど――」
 竜より距離を取り、その頭上から『見下ろして』。
「――こんな時は個の力で対抗するのではなく、連携こそを命綱にです」
 温く笑ったヘイゼルの言葉は仕掛けの合図になる。
 相手がどうあれ、パーティは事前のプランを果たすのみだ。
『切り札』を含めても通用するかどうかは全く読めない。
 だが、今回に関してはそれでも多彩な手札がある事は間違いないのだ。
 相手がその気なら、余裕の内にありとあらゆる手管を叩き込んでやれば良い。
 その内一つでも、何か一つでも通ずるのならば岩を穿つ水滴の如く運命に風穴を開ける事も不可能ではあるまい。
 困難に挑む誰しもが、可能性の獣(イレギュラーズ)であるならば!
「――じゃあ、行くッスよ!」
 その図体からそう素早いようには思えない蒼穹を相手に声を上げた美咲が用意した手段はスピードを生かした連鎖攻撃と封殺である。
 能力の問題かプライドの問題かは知れないがこれまでもメテオスラークはパーティの攻撃に回避行動を取っている様子はなかった。
 要塞を穿たんとする試みの大半は余り効力を上げているようには思えなかったが、例えこの格上が相手でも、クリストの支援を受けた封殺が通用するなら少なくとも敵の脅威を大きく削ぐ事が出来ると考えた――それは一つの賭けであった。
 果たして美咲に連なった猛攻は先程よりも規律正しく見事に蒼穹を攻め立てた。
「――効いてっ!」
 祈りを込めて気を吐いた美咲の願いが叶う確率は最良でも僅か63%。
 この怪物に常識が通用するかも分からない――だが。

 ――ほう? そちらの娘も実に面白い手品を使う!

 脳裏のクリストがウィンクした。
 美咲の渾身の一撃は確かにメテオスラークの巨体を縫い止めていた!

●青天の霹靂III
 信じられないような空中機動が展開していた。
(ありがとうございます、と言うべきなんでせうかね?)

 ――お礼はデートしてくれたらそれでいいYO!

「やはり、云うのはやめましょう」
 唇を皮肉に歪めたヘイゼルの長いおさげが間合いで揺れる。
 無数に瞬いた小さな光は『見て』避けられる類のものではない。一番距離を取っていて、一番避けるに適した彼女の影を焼き焦がした火線は戯れのようでいながら半端な部隊なら壊滅させるだけの威力を持っているのだろう。
(しかし、自由自在――というのは中々)
 闘技場の幻影(ヘイゼル・ゴルドブーツ)は、この瞬間竜種さえも翻弄するのだ。
 イレギュラーズは皆、超巨大戦艦に立ち向かう戦闘機のようであり。
 成る程、それは誰も見た事のないような戦いだった。
 少なくとも法則に支配されたこの混沌で、人間が演じるにはとてつもなく無理がある戦いだった。
「……やっぱり、忙しくなってきたじゃない!?」
「悪ぃな、恩に着る!」
 リズリーの『直撃コース』を受け止めたイリスが声を上げた。
 ヘイゼルの敏捷性が強化されているのと同様にイリスの防御力も圧倒的だった。
 蒼穹の攻撃を受け止めて、嘯くだけの時間がある。
 とはいえ、その余力もクリスト次第で左右されるのは違いない。
「やっぱそう甘くは無いッスね――」
 美咲はもう幾度目とも知れない苦笑を噛み殺して呟いた。
 彼女の封殺は確かに暫くは奏功した。凡そ二十秒もの時間を稼ぎ、パーティに安全を提供したのだから称賛するしかないだろう。
 だが――現在のメテオスラークは彼女の手管を否定している。
 理由は簡単だ。『何も強化された封殺が効かなくなった訳ではない』。

 ――いいぞ、俺も芸を見せてやろう!

 一声と共にメテオスラークのステータスが『変わった』のは衝撃だった。
 先手を取り封殺とするならば先手を譲らなければいい、と言わんばかりである。
 かくてパーティの速さを完全に超越した彼は同時に全方位、全レンジを危険に巻き込む無数の砲撃を瞬かせ、戦場を想像通りの死線に変えていた。
 爪牙による攻撃も得手だろう。しかし高速で飛び回る『戦闘機』を相手にするには対空砲火に勝るものはないという事か。
「……頼むぜ、百合子!」
 魔光の一条をサンディが食い止めた。
 振り返らず声を向けた先には彼が役割を背負う百合子が居た。
「かたじけない!
 楽しいか? 竜! 言っておくが、吾はまだ楽しくないぞ!
 だって今は『遊んでやってる』んだからな! 『勝負』にしたいなら本気で来い!」

 ――囀りよるわ! だが、まだ生きている! なれば許すぞ、娘!

(ああ――)
 余りに色濃い咲花の血が見せる極彩色の世界。
 物質の違い、エネルギーの偏差、一つの次元に存在する全てを色に変換し強制的に知覚する――
 目を見開いた百合子は己が嘗て見ていた世界を垣間見えた気分だった。
(――嗚呼、もし吾が『元のままなら』)
 失われたものを、過去を悔やむような性格ではない。今に満足しない美少女ではない。
 だが、文字通り無数とも言える残影を残し、有り得ざる手数を巨体に突き刺す百合子は思わずにいられなかった。
(今、この時ばかりはこの非力さが口惜しい!)
 本当の百合子ならば、あの細腕が混沌にあったなら。この竜の鱗を撃ち抜く事は出来たのだろうか?
 試したいと思ってしまったのだ。これ程に滾る相手に、こうまで求められたのなら――
「そう! まだ生きておりましてよ!
『蒼穹』の竜も存外にだらしない――大したことがありませんのね!?」
「案外『通用』してるんじゃねーの!」
 言葉は相変わらず挑発的だが、この戦いにおいてヴァレーリヤや風牙を含めたイレギュラーズは上手い(クレバーな)所を見せていた。
 頭部周辺で『一瞬』を狙うのは変わらないが、実に巧みに正面に入る事は避けていた。
 かの滅海竜との戦いを知るイレギュラーズはあの大顎の脅威を、軍艦を薙ぎ払った真の脅威を知っていた。
「……この程度……!」
 例えば、強く唇を噛み締めたヴァレーリヤにしても、国軍に如何なる感情を抱こうと、祖国の精強さを誰よりも知る一人である以上は新鋭の鋼鉄艦を壊滅させた竜を低く見積もる事等有り得まい。
「流石に正面から睨まれたら――ぞっとしないからね、正直」
 海洋の民であるイリスにしても同じ事だ。
 因縁浅からぬ竜――それに、どうしてか。本当にどうしてかは分からないが、この蒼穹には既視感さえ覚えている。
 神話の出来事。物語の中のノスタルジィ、畏怖と、そして尽きない逃せない、強い興味。
 イリス、美咲、リズリー。サンディ、百合子、風牙、そしてヴァレーリヤ。それに別にヘイゼルが一人。
 パーティは戦力を三つに分けて的を絞らせない状況を展開し続けている。
 つまる所、的が散る程にメテオスラークは『全レンジへの対応を余儀なくされる』。
 彼の力を考えれば牽制代わりの砲撃すらも容易に致命傷に届き得るのは間違いないが、ターゲットを絞られるよりは圧倒的にマシであった。
「やれやれ、なのです」
 細かい攻撃を綺麗に撃ち分け、敵の隙を縫い続けるヘイゼルが溜息を吐いた。
 戦いが激しくなる程に攻め手だけではない。支援役としての役割が大きくなっているのも感じていた。
 役割を演じる程度では到底済まない戦いである。
 竜という連中は何時もこうなのだ。何時かもそうだったし、今回もそうだ。きっと次会ってもこればかりは変わるまい。
「衛生兵から狙えば良いなど、定石が古いのですよ!」
 蒼穹の気配が危険を帯びるも、むしろ引きつけるようにしたヘイゼルは紙一重で直撃を回避する。
「――それは悪手というものです」

 ――吹けば飛ぶ、そのか弱き身で良くも粘る!

 称賛か感嘆か。メテオスラークが轟と笑った。
「雨垂れ石を穿つって言うし――実際に見たことあるのよね、『そういう』の」
 場違いな程に華やかに傷付きながらもイリスが微かな笑みを見せる。
 一念は時に岩盤さえも貫き得るもの。先の戦いも、海洋王国大号令もそうだった。
「親父の跡も継がなきゃならないからね、生憎と死ぬつもりはサラサラないのさ!」
 伸びる魔光の網を潜るように今一度肉薄したリズリーが一撃を叩きつけた。
「……けどもし、命を張る必要があるなら、そいつはアタシの役目だ。
 ――はっ、『そんな美味しいトコ』ガキ共にはくれてやれないね!」
 美咲もまた嘯く。
「私は死にたくない。死なないためならプライドでもなんでも捨てられる。それは間違いない、けど」
 友人の――赤毛の可愛い『自称』虎の事を思い出し――
「……私のプライドなんて安いから、味方のために捨てるのも、まあ、有りでしょう。
 そうしたら、あとは『優先順位の問題』じゃないですか?」
「ここは――セフィロトは、簡単に譲れるような場所じゃないんだよ!」
 風牙もまた吠える。
 戦いが続けば消耗は著しく、クリストの防御に関係なく大半のイレギュラーズが酷く傷み始めていた。
「確かに強い。確かに竜だ。だけどな、人間だってそう捨てたもんじゃないだろ?」
 だが、サンディの言う通り。彼等の戦いは全く終わっていない。闘志は尽きないし、落ちてもいない。身体が動き、心が燃えて。何よりあの露悪的な割に案外面倒見のいいクリストがこの戦いを引っ込めないのならば、まだ敗北の時は来ていないという事だ。
(少しでも長く、少しでも鋭く――)
 自身で爪を突き立てる事が出来ずとも、一秒でも長く仲間を活かすのも戦いだった。
「――行けッ!」
 短く、そして強い声は幾度目か。
 運命さえ削り取らんとする竜威に身を晒すサンディの決死の覚悟がまた一筋の道を切り開く。
 空を、間合いを縫うように駆けた風の牙が馬鹿げた程の巨体に傷を刻み付けた。
「ここから……出ていけッ!!!」
 猛然たる戦いは続き、その応酬は否が応無く面々の運命さえ削り取った。
 クリストが悲鳴を上げているのが手に取るように分かっていた。
 過剰な破壊力、通常ならば一種で幾度も死ねるようなそれを浴びているのはイレギュラーズだけではない。
 彼が合わない帳尻を合わせ続ける動機は偏に妹(クラリス)の為なのだろうが――こうまで粘るならば、そこに他の理由がないとは言えなかっただろう。本人に尋ねたとて、ふざけてかわすだけなのは間違いないが。
『どうあれ彼は全力でイレギュラーズを死なせまいとしている』。
 イレギュラーズが生き残っているのは本人を含めた全ての努力がそこに集中しているからだった!
 大方の予想通り、何をどうしても竜に勝つ事等出来はしない。
 残り幾ばくか――心もとなくなってきたクリストのバフが途切れれば勝負は終わりだ。
 セフィロトは滅びを余儀なくされる。
「『蒼穹なる』メテオスラーク、良い名前ね。
 例え一つの青を越えた私達でなくとも――いつか、その蒼穹を誰かが越える日が来ると信じるわ」
 戦線が持たない、そう考えた時。イリスの身体は勝手に動いていた。
 アトラスの守護を煌めかせ、全ての攻撃を受けてゆっくりと堕ちてゆく。
 悲鳴を上げる事すら無く。或いは別の誰かもそれを必死で飲み込んで――イレギュラーズは仕掛ける必要があった。
 事これまでメテオスラークに積み重ねてきた戦いと。
 今、同じく何処かの戦場で力を振るう一人のイレギュラーズの機転が僅かな希望を繋いでいた。
「本気でやっておりますの?」
 ヴァレーリヤが不敵に笑う。
「『本気でやっても倒せませんの?』
 それとも――『言い訳は残しておきたい』で宜しいかしら?」

 ――聞き捨てならぬな、娘。
   撤回を許すが、どうする? それは竜種の誇りに触れるぞ?

「いたしませんわよ。これは喧嘩ですから、目を逸らした方が負けでしてよ?」
 パーティの目的はメテオスラークに痛打を加える事。
 これまでの真っ当な戦いで、寡兵でそれが不可能である事は知れていた。
『だから隙を作る必要がある』。
 残り全てのリソースを叩きつけ、蒼穹を揺るがすだけのチャンスが。
 シュペルが悪態を吐きながら寄越した『完全なるシュペル』は決死のパーティに託された最後の切り札であった。

 ――至極道理だ。この美しき戦いへの褒美がまだだったな。

 竜の纏う気配が変わる。

 ――望まば見せてやろう、勇者達。
   喜べ、誇るがいい。人なる身で我が外砲を見るは僅かに二度目だ!

 青い巨体が禍々しい光を帯びていた。
 全周に瞬いていた魔光が収束し、全てをさらう破滅の色を強くする。
 光の球が大きく大きく膨れ上がる。まるでセフィロトごと更地にでもしてやろうかとでも言うかのように!
「外砲……メテオスラーク!」
 誰かが警告を発したが、ヴァレーリヤはむしろ構わずこれに飛び込んだ。
 至近距離で弾ける文字通りの『破局』は果たして――
「生きた心地もいたしませんわねッ!」
 ――果たしてヴァレーリヤの小さな身体を砕く事は無く。その暴威を巨竜本体に跳ね返した!

 ――ごああああああああああああああ――ッ!

 弾けた光が竜の全身を撃ち抜き、貫き、傷付ける。
 恐らくは何が起きたのかも分からぬ内、彼は長い生の中ではじめてといっていい位の『生命の危機』を感じた筈だ。
 聡明なる竜が『気付く』より先に勝負を決める必要があるのは確実だった。
「――目を!」
 ヘイゼルの放った砂嵐が痛みに猛る蒼穹の目眩ましとなる。
 指揮官役の彼の判断を後退させるには、並々ならぬ手傷を負わせる必要がある。
 戦場を俯瞰する目はそれに相応しかろうという狙いだった。
 咄嗟に彼はヘイゼルを追い払おうと動作を向けるも、むしろパーティが狙っているのはその反対だ!
「ありったけだ! ここでやれなきゃ――意味が無いぜ!」
「クリスト!  最後の一踏ん張り頼むぜ!」
 自らも切り込んだサンディの号令に風牙が続く。
「待ってましたってな!」
「死んで、たまるかッ……!」
 リズリー、美咲。
 パーティの総攻撃がメテオスラークの逆の目を狙った。
 痛みと目眩ましに判断の遅れた竜の貌に幾つもの傷が刻まれた。
 竜の目はダイヤモンドより尚堅い竜玉だ。それは人の目を狙うような簡単なものではなく、本気で荒れ狂う竜に美咲の身体が吹き飛ばされる。
「意気や十分。覚悟も然り!」
 ――だが、この時の為に力を残していた百合子が間近を薙ぐ死の颶風さえ振り切って『そこ』に届いた。

 ――『カミキリ』は体の一部を昇華してリソースにする技術
   美少女にとっても髪は生命である。切った先からはもう伸びない、それは二度と全盛期が取り戻せぬ事を意味している。

「よもやである! これもまた――死継錬というものなのであろうな!」
 長い黒髪をバッサリと『捨てた』百合子の手数が今日、いやこれまでで最大に到達した。
 惰弱にも『恋』とやらをして、美少女たるを喪った者が『髪切る』姿を幾度と見た。
 だが、風を吹かせるにはそれしかないのなら。今の百合子はこれを惰弱とは思わなかった。
 白百合清楚殺戮拳が光のように瞬く。
 首を大きく後ろに仰け反らせたメテオスラークが咆哮し、その衝撃波で百合子の身体は紙のように吹き散らされた。

 ――限界だ! 脱出!

 クリストの声が響き、堕ちたイリスや安否も分からぬ美咲や百合子を含めたイレギュラーズが転移する。
 全く信じ難い光景と、手傷を負ったメテオスラークは夢幻の如き結果、そして零れ落ちる竜血に構わずに呟いた。

 ――暴風か。成る程、確かに暴風だ。
   懐かしく愉快な風だ。人の身、有限の時間なれば。
   詮無き話、故無き話よ。俺は二度と叶う事はあるまいと思っていたのだ!

 熱っぽく、嬉しげに。

 ――感謝するぞ、人間!
   俺に『次』をくれたのだ。貴様等にもそれをくれてやろうではないか!

成否

成功

MVP

咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳

状態異常

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)[重傷]
旅人自称者
サンディ・カルタ(p3p000438)[重傷]
金庫破り
イリス・アトラクトス(p3p000883)[重傷]
光鱗の姫
咲花・百合子(p3p001385)[重傷]
白百合清楚殺戮拳
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)[重傷]
願いの星
新道 風牙(p3p005012)[重傷]
よをつむぐもの
リズリー・クレイグ(p3p008130)[重傷]
暴風暴威
佐藤 美咲(p3p009818)[重傷]
無職

あとがき

 YAMIDEITEIです。
 あ、すごい。クリア出来ちゃった。

 ……まぁこのシナリオはVery Hard以上に天地がひっくり返っても勝てないのですが。
 勝てなくて下手打ったらこれ死ぬよな、って状況でガッツリ頑張れるとメテオスラークが好意的になるというギミックがありまして。
 そういう意味でも大変良かったと思います。
 メテオスラークは理由はどうあれ今回のセフィロト攻略を諦める事にしたようです。

 シナリオ、お疲れ様でした。

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