シナリオ詳細
<ディダスカリアの門>Medice, cura te ipsum.
オープニング
●『医者よ、自らを治せ』
アドラステイア。
それは天義を否定し、自らの神を称える自称、独立都市である――
都市を構成する住人は多くが子供達。
戦災孤児や難民が中心であり、此処以外に帰る様な場所もない子達だ……
そしてアドラステイアはそんな子供達を尖兵として利用している。
『オンネリネンの子供達』
いうなれば子供だけで構成された傭兵部隊。その一派が各国に派遣される様な事態も少し前にはあったか……イレギュラーズの介入などによって阻まれたオンネリネンも多いが、しかしとにかくアドラステイアの暗躍は日々深く深くなっていた。
この事態に対し天義の中でも率先して対処に当たっている探偵サントノーレは一つの手立てを考えた。アドラステイアを止める為には……現在潜入を成している『下層』から更に先に進む必要があると。
「そのために『アドラステイア中層』に対する『通行証』を入手する作戦が立てられているよ――皆にはそのための誘導作戦を行ってほしいんだ」
言うはギルオス・ホリス(p3n000016)である。
アドラステイアの下層から更に先に進むという事だが……今までソレを成せていなかったのは、続く扉への厳重なる警戒があった為だ。しかしその警戒を突破しうる要素を遂に掴んだのである――それが通行証。
一部の人間が持っているとされるソレを奪取する作戦が計画されている。
これを成す事が出来れば『中層』への侵入も今後可能になる筈だと……
――だが勿論そんな動きを堂々と見せればアドラステイア側も察知しよう。
故に誘導と囮の為に、イレギュラーズにも別件で動いて欲しい事があり……
「その為に皆には下層の一区画で盛大に騒ぎを起こしてほしいんだ――
具体的な方法は任せるけれど、例えばボヤ騒ぎを起こすとか。アドラステイアを支配している大人達……マザーとかファザー、ティーチャーとか呼ばれている人物への襲撃をおこなってみるとか」
「ふむ……騒ぎを起こせばいい、という事は今回は敵を絶対に倒す必要はない、という事か?」
「ああ。もしも多くの敵を倒すことが出来れば、それはそれで十分な騒ぎになるだろうからそれでもいいけどね」
君達に担当してもらいたい場所はここだ――と、指差す先はアドラステイア下層。
多くの家屋が立ち並ぶ、住宅街の様な場所だという。が、乱立しているその地域は入り組んでおり空き家になっている家も多いのだとか……この辺りに火を放てば騒ぎは容易く大きくなるだろう。その他にも『ドクター』という人物が此処には度々訪れているらしい。
「ドクター?」
「まぁつまり大人の一種だろうけどね。アドラステイアで病気になった子供とか、或いはオンネリネンの子供達が帰還した時の傷を治癒する医者の様な人物がいるらしい――その人物を襲撃しても騒ぎになる筈だ」
「……しかし、子供達を治癒している奴を倒すという事は」
それは傷つく子供達が今後増えるという事ではないだろうか?
アドラステイアの子供達は洗脳されている者も多い。
子供達への事を考えれば躊躇う者もいる――が。
「アドラステイアの大人だよ? そんな連中が子供を治癒するのは子供を慮っての事じゃあない――手駒が休んでいるのが気に食わない、という事の方さ」
「――つまり、さっさと次の任務に就かせるために?」
「少なくとも。良心の呵責があるなら、そもそも子供に傭兵なんてさせないさ」
だから。もしもドクターを倒す方針だとしてもその事による影響は気にしなくていい。
むしろドクターが倒れればこそ――罪に手を染める子供が少なくなる事だろうから。
●
「わぁ、ありがとうドクター! すっごく楽になったよ!」
「フン――この程度の治癒で大げさだな。だがもう暫く安静にしている事だな。
塞がったばかりの傷は無理をすればすぐ開く。二・三日は様子を見る事だ」
分かったよ! そう元気よく紡がれる声が、アドラステイア下層の一角で響いている――子供からの感謝の声を受け取ったのは件の『ドクター』と呼ばれる人物だ。
白衣の様なコートを身に纏い、眼鏡をかけているその若い男は正に恰好からしても『ドクター』だと遠目からでも分かるだろう。感謝の言葉を背に受けながら、男は二人の騎士を連れながら歩みを進めて。
「お疲れ様ですドクター。次は二軒先で……」
「全く。どいつもこいつも傷が浅いな」
「はっ?」
「なんでもない。それよりも次は? 傭兵活動からの帰還者だったか」
さすれば零れた言葉は――思わずの不満であった。
『ドクター』はギルオスの情報通り、アドラステイアの各地で医療活動に勤しんでいる……だが、彼に子供達に対する情はない。むしろ彼は腹を捌くような手術をしたくしてしたくて仕方がなかった。
特に子供の腹の中は最高だ。最高に綺麗であり、大人の様に汚れてはいない。
だから特に――オンネリネンの子供達がどこからか帰還した時など、胸の高揚が止まらないモノである。ああどれほどの大怪我を負って帰ってきたのかと――それが軽傷であれば、顔にはあまり出さないが実に落胆する程であり……
「この街が襲撃でもされてくれた方が面白いのだが――それも無い事か」
吐息。己が護衛をしているアドラステイアの騎士の耳には届かぬ様に。
ああ混沌が欲しい。
盛大に燃え盛る様な、多くの怪我人が出る様な事態がないかと――彼は渇望するものであった。
- <ディダスカリアの門>Medice, cura te ipsum.完了
- GM名茶零四
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年01月24日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
誰かを治すべき筈の医者が『治される』べきとは――笑い話にもならぬ。
「……さてっと、よ。そんじゃあそろそろ行くとするかね?」
「ええ――精々派手に浴びるとしましょうか」
注目を、と。先んじて行動を行うは『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)と『雪風』ゼファー(p3p007625)の二人だ。
まずは周囲に敵影が確認されないかレイチェルの瞳が周囲を捉える。建物の壁を越え、その先を見据える透視の技能が人の姿が無いかを確認し。更にはファミリアーの鷲を使役し空からの索敵も成す。
同時にゼファーは気配を消して人に見つからぬ地を移動し続けるものだ――足音を殺し、己が存在を消失させる程に息を潜めれば彼女が見つかりよう筈もない。
そうして位置を整えた後に始めるは混乱の渦。
「火事よ! 魔女が火を放ったわ――逃げなさい、焼けてしまうわよッ!!」
休んでいる子供らの心の背筋を撫ぜる様に。ゼファーの声が響き渡る――
その声は彼方まで届く様に。さすれば何事かと焦燥の心が生じよう。
無論ソレは虚偽であり実際に火が放たれている訳ではない――が。
「行くぜ。さぁ後はどれだけの事が出来るかね……とッ!」
「うん――騒ぎを起こすならこれがピッタリだよぉ。無視なんて出来ないだろうしねぇ」
直後。合わせる様にレイチェルと『繋ぐ者』シルキィ(p3p008115)が炸裂させるは――花火の一種である。
練達式の魔導花火。目立つ音と光だけを発するソレであるが、まるで一種の爆発音に聞こえなくもない。そしてシルキィもまた各所に設置したクラッカーを起動させていくもの。
己より紡いだ糸を導火線代わりに。着火すれば――時間差で次々と起爆していく。
一発ごと、ではなく連鎖するシルキィの仕掛けは、子供達の心により刻まれるものだ。
――これらが何より良いのは負傷させる心配がない事。
しかしその上で誰しもの目、いや耳にも『只事ではない』とは分かるものであり。
「なんだ、一体何事だ!? 警戒しろ……はっ!?」
故に周囲の状況を確認せんと一人の子が外へと出た――瞬間。
彼の目前に在るはキシェフのコイン。
地に散らばっているが確かにコインがあると。なぜこんな所に――? 疑問を想いつつも、しかしこの地に住む者として、ある一種の誘惑に近いそのコインへと手を伸ばせ、ば。
「……だめだよ、そう簡単に掴もうとなんてしちゃ」
「幻とすら気付かないか。それは心の飢えだ――」
刹那に紡がれるは攻撃。『埋れ翼』チック・シュテル(p3p000932)の光が子供を薙げば、続けざまに『終縁の騎士』ウォリア(p3p001789)もまた撃をなすものだ。
それらは須らく命を奪わぬ一撃。騒ぎを起こす妨害はさせまいとするだけのモノだ。
子供達は傭兵部隊として連携に優れている事が想定される。故に戦闘が本格化する前に、少しでも数を減らしておくが吉だ……数が減り、混乱が続けば続くほどに彼らの心中もまた乱れよう。
「むっ。ここは……他よりも随分と清潔さを感じる場所だな――頼めるか?」
「ン。任セテ 塗料バラマキ 派手 塗リタクル ネ」
そしてスラム内において比較的『綺麗』であると感じる場所をウォリアが見つければ――『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)が、持ってきた塗料にて汚染の対象とするものだ。件のドクターにとっては斯様な行い、きっと見過ごせまい。
更には。次々と姿を現し始める子供達をも、フリークライは見据えるものだ。
彼らが如何な『状態』であるのか――確認する為にも塗料の散布を引き続き行いて。
「子ドモ達 幻覚 見テイル 加味。
認識 デキテイルカ 重要。
錯乱状態 ダト 危険ダカラ」
ここの子供達は常に『正常』とは限らぬものだと。
ぶちまける塗料。それを見て、必要以上に恐れる挙動を見せぬか――
或いは、まぁ陽動として。
壁に塗りたくられた塗料を見て驚くだけでも意味はあるだろうと。
それで更に騒ぎが起これば上々。後は大人がいそうな清潔な場所も見つける事が出来れば――と。
「中層へと向かう面々の援護の為にも、ですね。
……こちらがどれだけ陽動できるかで、他の作戦の成否もまた変わるでしょう」
「ええ。そして後は……件のドクターがどこにいるか、ですが」
次いで『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)と『抱き止める白』グリーフ・ロス(p3p008615)もまた周囲の注意を引くべく動き出すものだ。他の動きに呼応するように声を出し、行動を派手に――音もなにも隠さずに繰り出すは、強烈な音を弾き出すクラッカーが一つ。
同時。グリーフもまた周囲へと己が存在を誇示するように駆け抜けるものだ。
名乗り上げるかの如くに曝け出す気配に――引き付けられる者もあらば、思考するはこの周辺にいるであろう『ドクター』の事だ。
己が欲望の為に子供達を切り刻む。
……結果としてそれは医療行為。場所が違えば、何が正しいかも変わるものだ、が――
「それが、相容れない事もあるものです」
当然の事ながら難しいものだと、グリーフは言の葉を零しながら。
往く。
いずれなる意味があろうとも――果たさねばならぬ事があるのだから。
●
――なんだ。なにが起こっている――?
件の騒ぎはすぐに周囲へと伝わり、そして『ドクター』の耳に入るも必然だった。
何かが破裂する様な音と光。『火事』だと叫ぶ女の声――
伴って生じる混乱。
ドクターは壁に塗りたくられた目立つ色の塗料に指を這わせ、て。
「ドクター、伏せてッ!!」
瞬間。ドクターへと至る撃が一つ――
反射的に護衛の騎士達がドクターを庇わんと割りこむ、が。元よりソレは、そうなる事を見越した上で聖銃士へと放った一撃だ――闇夜に光る眩き星の輝きを宿したソレは、正純が導く空の煌めき。
「かかってきなさい、アドラステイアの子供たち。
盲目にこの城塞の中に従う貴方達に――教えてあげましょう」
己が身で滾る、この熱を。
イレギュラーズ達が各所で起こした騒ぎにより、オンネリネンの子供達の統制は未だ取れておらぬ――ならば今の内だ。混乱ひしめく中で目的を果たさんと動き出す。子供達に関しては殺さずの意志と動きを鈍らせる負の要素を降り注がせて。
「――貴様らがアドラステイアに認められし騎士か。
ああ……そうなるまでに、幾つの命を捧げて鎧を纏った?」
さすれば。ウォリアもまた、ドクターを守護する聖銃士へと往く。
彼らを挑発する様に。先のチックと同様に――地へと散らばるコインの幻影を紡げば。
「いつからか、告発には抵抗やためらいが無くなったろう?
それとも、最初からそんなものは無かったか? 身内を売る事が至上だったか?」
神への奉仕?
「こんな硬貨がその証か?」
――片腹痛いな。
踏みつぶす。あくまでそれは幻影によるモノであり実際には踏みつぶすは出来ぬが――
彼らにそう見えるだけでも十分と。
貴様ッ、と激昂する様が見て取れる。ああ、かくも愚かか心の病は。
かの行動は、全てドクターとの分断を目論んでの事。
彼の守護が失われれば撃を通すも容易くなり……同時。
「わぁ、な、なんだ! 皆、武器を急いで――ぐぁ!!」
「させないよぉ。ちょっと痛いかもしれないけれど……それは我慢して、ね」
別の場所では誘導に努めるシルキィが、子供達を再び光で包んでいた。
それは敵だけを穿つ聖なる一撃。故、味方を巻き込む恐れ無くば遠慮はいらぬと。
態勢が整う前に放たれたソレは彼らの無力化を狙う――
「く、くそぉ、狙いはドクターか……!? させないぞ……!」
「……元気がいいのは良い事だけれども、今はだめだよぉ」
が。力を絞り上げてシルキィの脚を掴む一人の子供――
……この場所では肩書なんてなんの意味もなさない。ましてや大人が持ってる肩書など。
分かってる。分かってるけれど――それでも、わたしは先生だから。
子供達の命は取りたくない。
だから、振り切る様にしながら彼女はドクターの下へと急ぐ。
目的は達成するし――子供達は死なせない。
その為に騒ぎはあくまで偽装。本当に火などは放たなかったのだから……
「ン。医療従事。ヤッパリ 来タ? ドクター 不清潔 見過ゴセナイ?」
「――お前か。私の『手術室』にこんな泥をぶちまけてくれたのは」
直後、フリークライはドクターと言を交わす。
数打てば当たるモノだと、只管に速度と範囲を重視し塗りたくり続けていたフリーフライ――その行いはドクターにとって看過しうるモノではなかったか。曲がりなりにも医者の領域にいる者として、ドクターの視線はフリークライに注がれており。
直後。振るわれるは魔術の一閃。
手術で用いるメス――の様な小道具が空を舞い、フリーフライの身を切り裂かんとするものだ。一方のフリークライは跳躍し、メスの斬撃から逃れんとしつつ――味方へと治癒の一端を施そう。
ドクターもまた治癒を振るえるのであれば長期戦になるやもしれぬ。
その戦線を支える為にも――と。さすれば。
「お医者さんでありながら、切るのが趣味だなんて……
おれは、そんな『大人』の在り方は、あんまり……好きじゃないや」
チックもまた、かの戦場へと到達する。周囲に他に敵意を――つまりこちらを認識している者がいないか探知の術を張り巡らせながら。万全たればドクター達にも仕掛けよう。まずは、ドクターを守護する聖銃士を除かんと。
振るうは魔性の茨。彼らの脚を留め、ドクターへの射線を通すのだ。
勿論ドクターや聖銃士も反撃の一手を紡ぐもの。
チックやフリークライなどに撃を放ちて――しかし。
「如何なる理由が奥底にあろうとも、結果として治療を成し、多くを救う結果を齎しているのであれば――私にとって貴方は敬意を払う対象ですよ。尤も、立場が相容れない以上やむを得ませんが」
「ほう――その言い草、どうにも同じ医療畑のものかな?」
そこへとグリーフが到達する。決死の盾とならんと、前へ。
さすれば数多の衝撃を遮断する術がその一手を防ぐものであり。
「ですが、治療を通じて何がしか『して』いるのであれば話は別ですが」
「んん? ああ、なるほど。なぜ斯様な事をしなければならん?
――そんな事をしたら怪我を負わずに帰ってくるかもしれないじゃあないか」
その意図は、ドクターが医療行為以上の『何か』をしているのではないかという疑問。
……アドラステイアには様々に不穏な要素が存在している。それは例えば『イコル』であったりと、だ。聖獣へと導かせる要素が仕込まれていないかと――
しかしドクターは否定する。斯様な行いは己が趣味に合わぬから、と。
誰かが強くなれば、それはつまらない事だ。
「……あぁ、胸糞わりぃ。
全ての医者が善とは思ってねぇが、やはり、腸が煮え繰り返るぜ。
なぁ。他人を治す前に――もっと別の病気を治すべきなんじゃねぇか?」
ドクター、と。言葉を放ったのは――レイチェルだ。
陽動役として別箇所で派手に騒ぎを起こし。子供達へと干渉をし続けていた――
それも全てはドクターの下へと向かう援軍を減らす為に。ああ、家屋の中では触れもせずに物を動かしたりと、散々に騒ぎを起こしてやったものだ……
彼らが態勢を再び取り戻す前に――往く。
刹那に至るは超常の速度。共に攪乱を務めていたゼファーを連れて。
「おおっとぉ。これは中々に快適な旅だったわ? ええ。お礼は後で――ねっ!」
「援軍参上っと! ドクター、その首、貰うぜ。
これもお前の内から出た膿だ――自分の所業を数えてなッ!」
「チィ……! イレギュラーズ、鬱陶しい連中だ!」
到達する。と、同時。
彼女らの全霊がドクターへと放たれるものだ――飛来する速度の儘に金銀妖瞳を持つ銀狼へと変ずるレイチェルが咆哮一閃。ドクターを圧し潰さんばかりの撃と共にゼファーが万物を薙ぎ棄てる。
その閃光、百花の如く。咲き乱れ散るは魂か闘争の意志か――
「ドクター、ここは形勢が悪い。退きましょう!」
「無論だ。こんな連中に付き合っていられるか――数を集めろッ!」
その攻勢たるや怒涛にして苛烈。子供達には不殺の意志で挑むがドクターへは文字通りに全力だ。先述の通り事前に陽動の為の騒ぎを起こしていたが故にこそ、駆けつけてくる子供達がいるにはいるが――そう多くはない。
が、ドクターにしてみればこの不利な状況で無理に戦う理由もまたなかった。
もしも互角程度の状況か、そう見える状況であれば力強く反撃したかもしれないが、ここはアドラステイア内部。
少し時間を稼げば混乱も収束し、あちこちから援軍が駆けつけてこよう――そういった戦場の理由もありドクターは周囲へと治癒の魔法を紡ぎつつ後退して。
「いいえ。そう簡単には逃せませんよ……
貴方を逃せば、貴方はまた子供達の命を玩具にするのでしょう?」
「改心するならまだしも、だけど――昔からこうも言うしねぇ。
『バカは死んでも治らない』ってね」
が。そうはいかぬと正純とゼファーが追撃の一手を仕掛けん。
ドクターを護る子供達をゼファーの斬撃が押しのけ――正純の魔砲が一閃するのだ。
収束された全霊が悪意を穿つ。子供達を検体としか見ぬ、医者の魂を、だ。
「医者? ソノ称号 オマエニハ モッタイナイ。
医者 時ニ 患者 見送ル者。デモ オマエハ 死 ドウデモイイ 軽視。
尊重セズ 敬意モ払ワズ ソンナノハ ―― 只ノ 解剖魔」
「きっちり縛るからねぇ。逃がさないよぉ……!!」
次いでフリークライが皆に活力を齎す号令を一つ。
さすれば闘争の為の力が再度宿ろう――故、同時にシルキィも動くものだ。
彼女が放つは蚕の魔導。両の手より放たれし魔力の糸がドクターを狙う。
超速の詠唱が然るべき時を吹き飛ばし、術の形成を可能とするのだ――
縛り上げようその身、その魂を。
「クッ――小賢しい糸だ。この程度で……!!」
「ドクターを護れ! 敵を討つんだ!!」
「やれやれ……斯様な状況に至っても尚、大人を護らんとするか」
さすればドクターは巨大なメスを具現化。シルキィの糸を防がんと立ち回り、子供達もまたその動きを援護する様に身を挺してイレギュラーズ達に立ち向かうものだ。
――その様を見てウォリアはまるで吐息を零すように。
幼子は支配される家畜が如く、無知蒙昧の内に飼い慣らされる歪な国が此処だ。
……故にこそ、咎無き者も痛みと言う罰を受けねばならない。
「無知は罪。知れ、己を。知れ、世界を」
己の脚で歩み、叛旗を翻す事も出来ぬ哀れな子羊達に。
異界の『神』として慈悲たる炎を振るおう――
邪魔立てする子供達を薙ぎ払う。混沌に来る前ならば、死すべき者を生かす医者など似非神を信仰する街ごと根絶やしにする所だが……今の同胞たちの願いもあらば、無下にはすまい。
例え子供らを想いても、それはひと時の先延ばしでしか無いとしても――
お人好しな事だと思考しながら。
「待て――! 侵入者め、これ以上はやらせないぞ……!!」
「チッ。子供達が来るかよ、案外早かったな……!」
「うん、でも……十分に騒ぎは起こせている、かな?」
直後。駆けつけてくるのは――オンネリネンの子供達か。
どうやらイレギュラーズの起こした騒動が収束している様だった。いっそのこと花火だけでなく本当に火でも放った方が消火活動の手間暇がかかり、より時間を稼げたかもしれなかったが……
その場合、無用な犠牲が出るかもしれなかった事を考えれば無為ではない。
それに目的の一つであった騒ぎは十二分に起こす事が出来たのだ。
戦闘の余波で戦闘不能になった者も多い――これほどの事態を引き起こせば中層の為の作戦に向かっている者達からの目を逸らす事もチックの言う通り出来ているだろう。この辺りで――十分か。
レイチェルは更にドクターへと一撃叩き込むが、治癒に優れる彼を崩すにはまだ足りぬ。
「無駄だ――私は医者だぞ。どこを損傷しなければまだ生き延びられるかなど、計算できる」
「それほどの腕をお持ちなら、もっと真っ当に使えば宜しいものを」
「性だ。それ以上の理由が必要か?」
同時。ドクターを再び言を交わすのはグリーフだ。
グリーフは引き続き味方の守護を務めながら、撤退の為の位置取りをも務める。
ドクターはどうやらある程度守備にも長けている様であった――どこまでの負傷はまだ大丈夫か、見極める力に長けている。もしかすればグリーフの様な盤石の守護の力も、その系統であるのかもしれない……
医術に富んでいれば見える境地もあるか、さて。
――いずれにせよ子供達も増えてきた。これ以上は撤退にも影響が出てくるだろう。
故に、退く。
「――子供達をこれからも切り刻むのならば、次こそ許しませんよ」
「私の行動をお前に制限される謂れはない」
「ならばいずれお覚悟を。貴方の魂は、暗すぎますから」
直前。正純は――ドクターと微かな言を。
彼の魂は暗い。斯様な暗闇は誰ぞの輝きを包んで消しかねん。
正純は、己を包む熱を噛みしめながら――足を外へと向ける。
アドラステイア。
この城塞を包む暗闇をいつか必ず晴らす事を……切に、胸に刻みながら。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
かくして目的の一つを達成し、依頼は成功となります……! おめでとうございます!
アドラステイア中層へはどうなるか。それはまた別の依頼の結果にもよりますが……さて今後どうなる事か。
MVPは激しく花火を点滅させ、注意を大きく引いた貴方へ。ギフトの使い方も面白かったです。
ともあれ、お疲れさまでした!
GMコメント
●依頼達成条件
1:派手に騒ぎを起こし続ける事(具体的な時間は定められていませんが、ある程度のタイミングで撤退してもOKです)
2:オンネリネンの子供達(騎士含み)を20人以上戦闘不能にする事
3:『ドクター』の撃破
いずれか一つを達成してください。
●フィールド
アドラステイア下層部です。
その一角、住宅街の様な、家屋が乱立している地域での舞台となります。
廃屋も多いらしく潜む場所はあちこちにある事でしょう。
またそういった所には火なども点けやすいかもしれません。
皆さんは潜入までは出来ていますので、その後どう動くかはお任せします。
派手に騒ぎを起こすか、子供達を戦闘不能にするか、ドクターを倒すか。
いずれかを成してください。
●敵戦力
・『ドクター』
アドラステイアでは数少ない大人側の人物であり『ドクター』とも呼ばれている若い男です。なんらかの理由で傷ついたり、病気になった子供達を治癒する役目を担っている様ですが、それは子供達への情から来るモノではなさそうです……
医療、医術に優れた人物の様で治癒系統のスキルを所持している様です。また毎ターン開始時、R2範囲内に存在する味方のHPをほんの少し回復するリジェネ的な魔術をも有しています。
これは『ドクター』の特殊なパッシヴ扱いの様です。致命などで効果を防ぐ事は可能です。
その他に攻撃の類があるかや、全体的な戦闘能力は不明です。
・アドラステイアの騎士×2
別名『聖銃士』。多くの功を成した子供達が昇格される存在です。
フルプレートの鎧を着込んでいます。後述するオンネリオンの子供達よりは戦闘能力が高めでしょう。戦闘の際は剣などで反撃してくる事が想定され、基本的には『ドクター』の警護についています。
・オンネリネンの子供達×10~
傭兵的に活動するアドラステイアの者達です。
当然その構成員は子供が多いのですが、訓練を受けている為大人にも負けぬ戦闘能力がある事でしょう。武器は剣に槍に弓とそれぞれまちまちですが、連携されると厄介な面があったりするかもしれません。
彼らはアドラステイアの住民を『家族』として認識しており、彼らやアドラステイアそのものを害する存在を許そうとはしません――それが巧みに誘導された洗脳の一種であったとしても、彼らにとってはソレが真実なのです。
最初に現場で明確に動いているのは10人のみです。
が、ここはアドラステイア。戦闘や騒ぎが始まって以降、暫くすると騒ぎを聞きつけた他の者が駆けつける事でしょう。場合によって数が増えたりする事があり得ます。が、周囲の混乱が激しければ激しい程に、その増加傾向は緩やかになるでしょう。
ちなみにシナリオ開始段階では、家屋の中にはリラックスして休んでいたりするオンネリネンの子供達がいたりします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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