PandoraPartyProject

シナリオ詳細

瑞雪、積もりて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●黄泉津の愛し子
 第一の子は瑞と云ふ。
 神意の瑞兆は黄泉津の草木を茂らせ花啓く。
 枯れ泉は湧き出て蓮華は車輪が如く花咲かす。
 中天彩る天つ雲は揺蕩う流れに平穏の気配を宿す。
 其は神の愛し子。

「皆さま、善くぞ戻られました。
 ……此れでも心配をしておりました。庚より報告を聞いており、永きを生きた私には難しき言葉ばかりで」
 そう告げた白髪の娘の前で神使は首を捻った事だろう。
 獣を思わせたその耳に真白き髪。水晶の如く澄んだ瞳は丸く穏やかな色を帯びている。
 さて――彼女は誰であろうか。

「……瑞神、時に彼らを驚かして居る自覚はあるだろうか」
「まあ。そうでした。『神逐』より幾許か。
 神使達の黄泉津でのけがれ祓いにより私も幼き姿以外も形取る事が出来るようになったのです。
 全盛の頃の姿を模したのですが……他にお好みの姿があれば、その様な姿になることもできます」
 黄泉津瑞神は神霊と呼ばれた大精霊の一種である。即ち、地の精霊である彼女は黄泉津に蓄積された『けがれ』が薄まることで力を回復することが出来たという事だろう。
 呆れ顔の霞帝に「だって、賀澄は驚きませんでしたでしょう」と瑞神は首を捻る。
 彼ら黄泉津の民にとっては赤子の姿よりも此方の方が慣れた姿だったのだろう。
「気を取り直して。私はある目的を胸に、力を取り戻すことを優先しておりました。
 その目的というのも神逐の際に巫女姫と長胤が牢とし皆を捕らえた自凝島の浄化です。
 ……あと少し。もうすぐ手が届きそうなのです。その為に、少し散歩をしながらけがれ払いを手伝ってはいただけませんか?」
 自凝(おのころ)島。
 それは黄泉津と呼ぶ彼らの住まう島に隣接した小島である。罪人を流す場所として穢れの蓄積するその場所に黄泉津瑞神は大神霊として黄龍を産み――地より喚んだと云うべきだろうか――彼にその身を分かつように指示をしたのだという。
 黄龍はその身を分かち、『麒麟』を島の防人としたが、その権能が黄泉津瑞神の権能の低下により機能しなくなっていたらしい。
 それが神使を閉じ込める肉腫の牢となり、一人の反転を生み出した切欠でもあったのだが――
「……我ら黄泉津は大地の癌、肉腫の浄化を計画しております」
「ああ。此の儘では先の帝達にも申し訳が立たぬ。神使達よ、僅かでも良いのだ。瑞神に力を貸してはくれぬだろうか?」

●雪積もりて
 シャイネンナハトが近付けば黄泉津にも雪がちらりちらりと降り注ぐ。
 民達からは黄泉津瑞神による吉兆のしらせとされ、初雪は瑞雪として特に親しまれてきた。
「黄泉津の民は雪を好む者も多いのです。……そう、偲雪もそうでした」
「しゆき?」
 神使の言葉に黄泉津瑞神はこくりと頷く。霞帝の前にも幾人かの『帝』と呼ぶべき治政者が居る。その中の一人が彼女が名を呼ぶ『偲雪』なのだという。
「私も此れでもうんと長生きをしてきたのです。……この平穏の雪を、護りたいものです」
 黄泉津瑞神はちらちらと降り注ぐ雪を眺めてから一点を指さした。
「此処からうんと先に複製肉腫となった獣がいます。其れ等を倒し、この地のけがれを祓いたいのです」
 目を伏せった瑞神は黄泉津の平和を守ることこそが民草の平穏に繋がるとよく知っているのだと目を伏せる。
「さて、少しばかり散策致しましょう。
 この先に存在するのは万年雪。あの子……偲雪の頃より溶けては居ない場所なのです。
 氷の花が咲く美しい場所なのですよ。我が瑞兆の花をよければ、一輪……愛しき方への贈り物にしてみては如何でしょうか?」

GMコメント

夏あかねです。大人に成長した瑞ちゃん。

●目的
 複製肉腫 10体の撃破

●場所情報
 カムイグラ。黄泉津瑞神が案内するとある辺境の村付近です。
 美しい氷花が咲いた集落付近の洞穴には複製肉腫と思われる獣が10体存在しています。
 氷の花畑の傍には万年雪と呼ばれた薄らと積もった雪が存在し、普段よりも冷ややかに感じる空間が広がっています。

●複製肉腫 10体
 ずんぐりむっくりとした巨大な獣です。雪男を思わせる巨大な其れは打ち倒すことで命を奪うことなく正気に戻せるようです。
 また、複製肉腫を倒すことで瑞神が周辺のけがれ払いを行ってくれます。
 複製肉腫は基本的には殴る、凍りの息吹などでの攻撃を行い、とても堅牢であることが推測されます。

●氷の花
 黄泉津瑞神の権能である瑞兆が形作ったと言い伝えられる氷の花です。溶けることなく年中美しい花を見ることが出来ます。
 瑞神は一輪お土産に持って帰ってみてはどうか、と皆さんに提案してくれたようです。

●同行NPC 黄泉津瑞神
 自分の身は自分で守ります。けがれ祓い要員。皆さんの戦闘の補佐として少量ですが回復を行ってくれます。
 また、戦闘後に氷の花を摘む際に交流を行って頂く事も出来ます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 瑞雪、積もりて完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年01月06日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

武器商人(p3p001107)
闇之雲
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
メイメイ・ルー(p3p004460)
ひつじぱわー
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
笹木 花丸(p3p008689)
可能性を連れたなら
ルーキス・ファウン(p3p008870)
忠義の剣

リプレイ


「お集まり頂き、有り難うございます。その……驚きましたか?」
 ふわりとした白髪を揺らした女人――黄泉津瑞神に「瑞ちゃん」と呼びかけた『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)ははた、と思い直す。ぐんと背が伸びた彼女の姿を見るに『瑞さん』と呼ぶべきであろうか。
「それにしても……ホントに瑞神さんなんだよね?
 以前見かけた姿から見違えてて言われるまでわかんなかったよっ! 前の姿も小っちゃくて可愛かったけど、今の姿もとっても素敵かもっ!」
 まあ、と目を丸くする瑞神に『可能性を連れたなら』笹木 花丸(p3p008689)はにんまりと微笑んだ。赤子の如き姿であった彼女が今は自身と変わらぬかそれ以上の背丈なのだ。どうにも慣れないがそれが黄泉津の再建に繋がると思えば『その先へ』ルーキス・ファウン(p3p008870)は喜ばしいと感じていた。
 豊穣に渡ったイレギュラーズが相対した大地の癌、そして蔓延った差別意識から膿のように蓄積したけがれを溜め込んだ黄泉津瑞神が其れ等を引き受けた神逐は記憶にもこびり付く。そこから一歩でも進むことが出来たのならば、それだけでもルーキスにとっては故郷への救いなのだ。
「わ、わ……瑞さまの尊みが、増しています……。こんなにも、御力を取り戻されているのです、ね。とても、喜ばしいことです」
 見上げるほどだとぱちりと瞬く『ひつじぱわー』メイメイ・ルー(p3p004460)に瑞神は「わたしの方が大きいのですね」と不思議そうにメイメイを見下ろして。
「相対した二回はもっと幼い姿だったからなぁ。まさか瑞神が力を取り戻すとこうなるとは……」
 どうにも不可思議なのだというような『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)に瑞神は「お好みであらば幼児の姿にもなれますよ」とくすりと笑う。
「わたしは神霊ですから、姿くらいは容易に変化できるのです。それだけ、この身に権能が取り戻されたという事なのですが」
「それは結構。やァ、健勝かな黄泉津瑞神。順調に権能を取り戻している様で何より。今日はヨロシク頼むよぉ?」
 頬に手を伸ばす『闇之雲』武器商人(p3p001107)の掌に子犬のように擦り寄った瑞神は「つい、癖で」と恥ずかしそうに肩を竦めた。
 一瞬あっけにとられたがびょーんと頬を引き延ばす武器商人は嘆息する。憎らしい訳ではないが神格である彼女が犠牲の上で再誕した事を武器商人は決して忘れやしない。
 犬の姿を取ることが多い彼女はまるで飼い犬のようにそうして可愛がられてきたのだろう。恥ずかしげに笑った様子を見れば、常人ではあるが彼女は黄泉津と呼ばれた此の地に根付く大精霊――神霊なのである。
『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は「ぶはははッ!」と笑った。瑞神がぴん、と背筋を伸ばして大人ですよとアピールしたからだ。
「さあて、瑞の神さんと肩並べて戦えるなんざ喜ばしい話だ! こりゃ見損なわれねぇように気合入れねぇとな!」
「ええ、わたしも皆様に幻滅されぬように努力致しましょう」
 幻滅なんて、と慌てたのはルーキスとメイメイ。その言葉を聞き「ま、お互い力を尽くすしかねぇさ」と笑ったのは『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)。
「いよいよあの島の浄化に動くんだな! 待ってたぜぇ~~! そのために必要なことなら何だって手伝うぞ! 任せろ!
 あの島には、やり残したことがたくさんあるんだ。貸しも借りもな。どれも必ず返すって決めてたんだ。この国をより清浄にするためにも、ほっとけないしな」
 あの島、とそう呼ばれた場所に思いを馳せた花丸は「自凝島……鳴さんが反転する事になった場所」と呟いた。
 手伝って欲しいと言われれば、手伝わせてと彼女は帰す。過ぎ去った時を戻すことは出来ず、彼女の居場所は定かではない。それでも、あの場所を何とか救える手立てがあるならば。
「ともあれ、ついに穢れの集積地の浄化か。豊穣には色々と世話になってるし頑張らないとな!」
「あの島には行ったことがないけれど、浄化の作業となればお手伝いするよ!」
 錬に続いて頷くアリアはぼそりと「氷の花なんて物語ウケしそうだしね」と呟いた。物珍しき黄泉津の物語、屹度語るにも素晴らしいものだばかりだ。
「自凝島の、肉腫の浄化……大切な、やり遂げなくてはならないことです、ね。わ、わたしも、瑞さまのお手伝い、頑張ります……!」
「この地のケガレが祓われるのは商人ギルド・サヨナキドリにとっても益になるからね、力を貸す理由として不足はないとも」
 メイメイと武器商人の言葉を聞けば不足なし。行こうかと腹を叩いて太鼓判を押したゴリョウに頷いて風牙は拳を振り上げた。
「今回の件は、その手始めだな! よーし、やるぜー!!」


「そしてさむーい! 体動かさないと寒さで凍っちゃうよ! ……あの肉腫をなんとかすればいいんだよね!」
 凍っちゃうくらい寒いと身を揺すったアリアはこそりと目の前に見えた肉腫の姿を確認する。其れなりの広さのある場所ではある。瑞神もある程度の地形的知識があるのだろう。錬に「此の辺りならば隠れられるでしょう」と提案を行ってくれる。
 冒険知識を有する花丸が物陰に身を潜め「大仕事の前の一仕事、頑張っていこうかっ!」と微笑めばルーキスは大きく頷いた。
「国と民を脅かすモノは許してはおけません!」
「ああ、そうだな。さて……これでいい。攻撃の余波で氷の花が被害受けたりする可能性は万が一でも無くしておかねぇとな!」
 保護の結界を敷いたゴリョウに頷いたルーキスは虎視眈眈と狙いを定める。広域より肉腫の布陣を確認する武器商人は「そろそろかい?」と囁いた。
 もこもことした暖かな外套に身を包むメイメイは「小鳥たちが、怯え出しました、ね……」と息を吐く。
「瑞さま、こちらに……」
「はい。皆さまの邪魔にならぬように気を配りましょう」
 頷いた瑞神に「頼りにしてるぜ」と笑いかけた風牙がアリアを一瞥する。切り込み隊長二人は、息を合わせ、武器を構えて。
 一方は女神の宝珠のレプリカに魔術行使の力を込めた。物語は心たる気となって白銀の乙女のその身に魔的な力を循環させる。
「いっくよー!」
 ――そして、もう一方は。降り注ぐ隕石の如く、それは地を灼き溶かす一撃と変じた。麒麟の加護を帯びた組紐が揺らぐ。
『気』が齎す解脱。本命はアリアであると風牙が直ぐさまに離脱する。神秘的破壊力がゼロ距離で飛び込んだ。ちり、と掠めた髪先に「ひゅう」と口笛を吹いた風牙は見上げる程の雪童を睨め付けた。
「まるでイエティだな」
「いえ……てぃ……とは?」
 首を傾いだ瑞神に「雪男、です」とメイメイがこくりと頷いた。言葉を重ねるのも用意。不意を付いた痛打に呻いた肉腫の前へと響き渡るのは急き立てる危機感。武器商人は『力』の暴威と化して彼らの視線を奪う。
「――さ、我(アタシ)達の出番さ」
「ぶはははッ! 良い場所だな、天井が高くて其れなりに広い! 寒さも好ましいなら、良い立地だ!」
 笑うゴリョウが滑り込む。武器商人の声から逃れんとした肉腫達へと力強く響かせた声は攻性防禦守護獣術・『性』の一。
 何方も自身等が脅威であると認識させる声である。肉腫達の注意を引付ける二人に「任せたよ!」と声を掛けた花丸が地を蹴った。
「花丸ちゃんは『あの場所』の為に出来ることを重ねたいんだ――!」
 金の髪に燃えるような炎の少女。救世の焔が世界を壊し続けるその恐ろしさが花丸の心を灼くような。傷等だけの拳を叩きつけた花丸が地を蹴って跳ね上がる。
 叩き込まれた拳に肉腫がその姿勢を崩したか。ならばと、ルーキスはゴリョウの前へと滑り込んだ。風牙の狙った相手、そしてゴリョウの元へと集まった肉腫へ向けて抜き放った白百合。無形の術、それは師より教え給わった基本の剣術。
 ルーキスの剣を受け止めた肉腫の咆哮が響く。その身を滑り込ませるように地を駆け、身を翻せばその位置へと叩き込まれたは真銀の刃。式符は弾かれれば直ぐにその形状に戻るが無数に渡る。陰陽術符を手繰り寄せ、錬は唇を吊り上げた。
「さて、それだけで済むとは思うなよ?」
「このまま、畳みかけるよ!」
 花丸が地を蹴った。頷いた錬の符が剣を形作った。敵を見通すその瞳は、真っ正面から肉腫を捕らえる。
「なら次――!」
「行くぜ、アリアさん!」
 風牙が唇を吊り上げれば、アリアの声が響き渡る。
 神秘的破壊力を集約し、放ったのは極撃。剣の複製品に乗せられたそれは蜂のように刺す神髄へと近付いた。
 仲間が深く傷つく前に全てを倒しきるのだと攻勢に転じる風牙の後方より舞い込んだのは妖精、その一刺しは牙の如く。
「わたしの力はわずか、ですが、確実に打ち倒すように立ち回り、複製肉腫を元の身体に戻してあげたいと思います。彼らにも瑞さまの、恩寵があらんことを」
 願うようにタクトを振るうメイメイの囁きは精霊達へと声を届けた。ファミリアーの小鳥と友に後方から少しずつと削り取るメイメイの優しき声音を届けるように、妖精達は飛び回る。
「ぶはははッ、いい拳ではあるが意志なき拳じゃあ俺は倒せねぇぜ!」
 肉腫を受け止めて、ゴリョウが腹を叩いて笑った。武器商人が少しばかり厳しくなった頃合いに花丸が盾を交代し、一度攻勢を立て直す。
 花丸が受け止め始めるが、肉腫の数も減ったか。武器商人は余裕綽々とした様子で獣の如く目を細めた。獰猛なる気配が牙を立てる。
「さて、寄ってたかって攻撃してくれてドウモ。今度は我(アタシ)の番だよぉ?」
 それは笑った。恐れを、畏怖を、狂気を手繰り寄せるように朝のひばりも鳴かせやしない。
 武器商人の銀の髪が揺らぐ最中、メイメイの不可視の刃が鋭くも肉腫を切り裂いた。
「これ以上、誰も、傷ついて欲しくは、ありません」
 願うような少女の声音に頷いて、風牙が「アリアさん!」と叫んだ。それは結人渡。気を結びつけ、感覚を同調する。「うん」とアリアが答えた刹那、ぐん、とその体は動いた。まるで風牙の肉体が有する感覚のように。素早くも前を走り抜ける。
 アリアの絶対的な一撃が叩きつけられると同時、風牙は唇を吊り上げた。
「これで終わりだ――!」
 ゴリョウが受け止めた肉腫。花丸の手を離れ、全てを受け止めた彼が余裕だと頷いた。錬の刃が鋭く引き裂けば、残穢を逃しはせぬとルーキスが剣を振るう。
「豊穣と我らが主上が為、此処で祓われて貰おう」
 静かに告げたその言葉と共にけがれは霧散する。地に残された大地の癌を見据えた瑞神は「此処よりはわたしが」とイレギュラーズを振り返った。
「今回の肉腫は、元は猿みたいな動物かな。倒せば元に戻るのは嬉しい。余計な殺生をせずに済む。
 瑞様、浄化よろしくな。また一歩、この国が良くなる。双子の負担も減るってもんだ」
「ええ。承知致しました」
 ずんぐりむっくりとした毛むくじゃらの白き猿。そう思わせる外見の獣を見詰める風牙に瑞神は承ったと『けがれ』を祓う。
 その真白き姿が穢れなき国を表していると思えばこそ、双子巫女は責務を果たしているのだと風牙は何故か誇らしかった。
「攻撃をして傷付けてしまったお詫びです。それに、冬場は食料も少ないでしょうしね」
 干し肉を手渡すルーキスに獣は涎を垂らして感謝をするように平伏した。どうやら、そうした知性を有しているようだ。
 これにて一件落着か。残るは獣等の背後に存在した氷の花畑。冷ややかな気配が身を包み込んだその洞穴で、それらは一等存在感を示していた。


「えっと、これが氷の花? 素手で触れて大丈夫?」
 凍て付く気配を感じさせた花をまじまじと見詰めていたアリアが緊張したように瑞神に問いかけた。
「ええ。見た目こそは寒々しいですが触れても大丈夫です」
「もしよかったらこれを二輪貰っていきたいなあ! ……駄目、かな?」
 恐る恐ると言った調子で問いかけるアリアに瑞神はこてりと首を傾げた。一輪、瑞神の髪飾りに差し込まれたそれに驚いたからだ。
 もう一輪は自身の髪へと飾ったアリアは「どうかな? 似合うかなあ?」とどこか恥ずかしそうに問いかける。
 そんな様子を眺め、錬は「職人らしく何かに加工して、ってのも無粋なもんだなぁ」と笑った。領地に飾れば、それは瑞兆の証となるだろう。
 瑞兆――黄泉津瑞神の齎す幸福の兆し。それを告げるような氷の花は美しい。
「愛しい番への土産物にしようかな。
 とても美しい花だし、もう少し整備すれば観光地としても栄えることができそうだねぇ」
 氷の花を見遣る武器商人にゴリョウは「違いねぇ」と頷いた。客間に飾るという其れはその部屋をよく利用する妻の為のモノだ。
 ひやりと涼やかな気配が水場を好む愛しい妻にとっても喜ばしい物であろうとゴリョウは彼女の喜ぶ顔を思い浮かべる。
「二輪、いいかな? つづりとそそぎに一輪ずつあげたいんだ」
「双子にですか? ええ、構いません。彼女らも此の地は知らないでしょうからさぞ喜ぶでしょう」
 懇意にしていることを思い出したか、瑞神は喜ばしいとでも言うように微笑んだ。双子巫女は瑞神の『けがれ』を祓う地の守人である。
 故に、彼女も可愛がっている巫女二人が笑顔になるところを想像したのだろう。
「これって写真を撮ってもいい?」
 練達のカメラを持ち込んだ花丸に「その場を止める機械とは凄いですね」と瑞神は瞬いた。花丸の写真は時を切り取るように。美しき氷花を映し込む。
「しかし、初見で瑞神とは気付きませんでした。神様はやはり凄いですね……」
 そう呟いたルーキスに瑞神は何処か照れくさそうに肩を竦めた。風牙が「こっちこいよ」と手招いていることに気付き、ルーキスはエスコートするようにそっと手を差し伸べた。
「偲雪さん、って人の時代からずっとこの土地に咲いてたんだな。昔から変わらず……
 でも、変わっていくものもある。これからの豊穣は、きっともっと優しく、綺麗になっていくもんな?」
「俺たちにとって帝と言えば今の霞帝だけどそうだよなぁ、人に歴史があれば神や国にも歴史は積み重なっていくもんだからな」
 風牙へと頷く錬は妙な心地だと呟く。瑞神は地に寄り添った。人は死に絶える物ではあるが、彼女は其れを眺め続けた。
 故に、彼女は『嘗ての帝』を語ったのだ。ルーキスはそっと瑞神へと目線を合わせる。
「歴代の帝のお話、とても興味深いです。『偲雪様』のこと、宜しければ聞かせて頂けないでしょうか?」
「偲雪さまの愛した、瑞さまの護りたい、大切な、雪。
 いつまでも変わらぬそこにある、雪。その地に咲く、氷の花。瑞さま、もし良ければ、思い出のお話、聞かせていただけますか?」
 一輪、晴明に見せてやるのだとひっそりと摘み取ったメイメイに、そしてルーキスに。瑞神はぱちりと瞬く。
 驚いた様子の彼女は「本当に懐かしい名前です」と揶揄うように笑って。その表情を見るだけで、彼女にとって『偲雪』は、否、自身が加護を与えてきた歴代の帝は愛しい友であったのだろう。
「……というか、神様から直接聞く歴代治政者の話とか、歴史の研究者とかが聞いたら卒倒しとうな案件なんですが……自分も少し緊張してきました」
 ルーキスのその一言にアリアは「聞きたいなあ、瑞ちゃ……瑞さん!」と微笑んだ。瑞ちゃんで良いと手を差し伸べる瑞神は「少しだけ、思い出ではありますが」と口を開いた。
 それは何時の話だったのだろう。『偲雪』を追いかけて、歩幅の違いから遅れる瑞神を待つように手を差し伸べた偲雪の後ろ姿。顔も、形も、思い出せるのに。随分と昔のことで声が思い出せないのだ。それは歴代の帝、誰もが同じ。
「いつかは、賀澄のことも、そうして少しずつ忘れて行くのかも知れませんね」
 悲しげに目を細める瑞神の肩をぽんと叩いたのはゴリョウ。
「しっかしこんだけ寒いと鍋の一つでもしたくなるな!
 どうだい、元に戻った雪男も含めていっちょ美味い鍋でも食っていかねぇか? 腕を振るうぜ!?」
「折角ですから御所の客間を場所に使って下さい。賀澄もわたしの手伝いをしてくれた皆を無碍にはせぬでしょうから」
 ゴリョウの提案に、丁度良いと言わんばかりの瑞神にメイメイは「ご相伴に、預ります、ね」と頷いた。
「ならば、この花を賀澄様に献上させて頂きましょう。
 歴代の帝も、同じ雪景色や氷の花を見たのかもしれないと思うと、何だか不思議な気分ですね」
 国に思いを馳せたルーキスは氷の花をふと見遣る。歴代の帝、それはどのような姿をしているのだろうか。
「黄泉津瑞神」
 呼びかける武器商人にぱちりと瞬き瑞神は振り返る。首を傾げる様は赤子の姿と変わりない。
「我(アタシ)のギルドの商品さ。誰か好きなコとお食べ」
 手渡したのはジェイル・エヴァーグリーンの果樹園からとれたプルーンを使用して作られたビナールテルタ。
「良いのです、ひゃ」
 頬をびょーんと引き延ばして武器商人はくつくつと笑った。幼い姿であれば、悪戯めいた事もし辛かった。彼女の姿が告げるようにこの国は、一歩先へと進もうとしているのだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。
 瑞神とのけがれ祓いは少しずつ増えてくるでしょう。また、近々、『嘗ての帝』の話も聞けるかもしれませんね。

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