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シナリオ詳細

【水都風雲録】クリスマスの民 苦しますは闇

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●司馬公苑のクリスマスイベント
 冷え込む夜の中、深々と雪が降りしきる。そんな中であるにもかかわらず、豊穣は水都(みなと)の司馬公苑(しばこうえん)は、数多の人々で混雑していた。
 かつて肉腫に感染したことから枝のほとんどを失った名物の千年桜は、人工のモミの枝に覆われて、その上から色とりどりのライトや金銀の球のような装飾で飾り付けられている。あたかも、巨大なクリスマスツリーの如く。
 さらに東西南北の四方それぞれには、クリスマス風の料理や装飾、プレゼントを販売する売店が設えられて、そのそれぞれに長蛇の列が出来ていた。
「ねぇねぇ、早く食べようよう!」
 ローストされたチキンとターキーの盛り合わせ、それと人数分のクリームシチューを買った親子連れが、売店を離れて用意された飲食スペースに向かう。元気な男の子は、珍しい料理に早くかぶり付きたいと言った様子だ。
 もっとも、それは両親の方も同様だった。ローストされた肉の香ばしい匂いに鼻腔を擽られ、すっかり食欲を刺激された様子で空いているスペースを探し回る。
「向こうの方では、乾杯、ってするんだってさ」
「そうなのね。じゃあ、乾杯♪」
 飲食スペースの空きを見つけた恋仲らしき男女は、ホットワインの入った木のコップを互いに掲げ、コン、と触れあわせた。そしてホットワインと共に、ラムのステーキとビーフシチューを堪能する。やや癖のあるラムステーキのしっかりとした歯応えと、口の中でシチューと同化するように蕩けていくビーフのそれぞれの食感が、二人を楽しませている。
「婆さんには、きっとこれらが似合うじゃろう」
「あらやだ。この年になって恥ずかしいですよ、お爺さん」
 仲睦まじそうな老夫婦の、夫の方が流麗な細工の入った髪飾りを選んで、妻に贈るべく購入する。妻の方は口では恥ずかしながらも、何処か満更ではないような様子で、その髪飾りを着けた自身の姿を想像した。
 そんな光景が、司馬公苑の至る所で見られていた。

「よっしゃよっしゃ。ホンマ、ええ感じや」
 その様子を、満足そうに眺めている商人がいる。この催しを開いた水都領朝豊(あざぶ)の商人、外村 伝衛門(とむら でんえもん)だ。
 伝衛門はかつて、グラオ・クローネの風習を水都に持ち込み、チョコで儲けた。そして、今度はシャイネンナハトに目を付けて、クリスマスイベントと言うべき催しを司馬公苑で行ったのだ。
 グラオ・クローネでのチョコ販売で名を売った伝衛門が、今度はシャイネンナハトに因んで催しを行う。その報せは瞬く間に水都中を駆け巡り、こうして多くの人々を集めることになった。
 だが、伝衛門には一つ気がかりがある。
「これを成功で終わらせるためにも、頼んまっせ。ヒィロはん、美咲はん――」
 西の空を見上げながら、伝衛門は縋るような口調で独り言ちた。

●沙武四天王、動く
「――ふん、下らぬ! 我が領土に、斯様な催しは不要!」
 時はシャイネンナハトより少々遡る。水都に隣接する沙武(しゃぶ)領の沙武城では、玉座に座した沙武領主が激昂しながら、手にした紙をビリビリに引き裂き、投げ捨てた。その紙は、シャイネンナハトに合わせて伝衛門が開く催しを宣伝する、言わばチラシだった。
 民に娯楽など不要と考える沙武領主にとって、いずれ自領として併合する水都でこのような催しを開かれるのは、不快極まりないものだ。
「貴様らの中で、この催しに集まりし者共を鏖にする者はおらぬか?」
 豊穣になかった娯楽を覚えた民など、領民となったところで邪魔でしかない。ならば、血祭りに上げて見せしめにしてくれよう。そう考えた沙武領主は、側に侍る三人――沙武四天王達に問いかけた。
「では、某が空より攻め入り、殺戮をくれてやりましょうぞ」
 それに応えたのは、沙武四天王の一人にしてフクロウの飛行種の魔種、夜々 喜元(よよ きげん)だった。喜元は、入り組んだ渓谷が多く難攻の地と思われた西の多賀谷瀬(たがやせ)を、空からの夜襲によって難なく攻略・占領している。
 それだけに喜元は伝衛門の催しへの襲撃にも自信満々だったし、沙武領主も喜元なら間違いあるまいと見て、催しへの参加者を血祭りに上げるべく出撃を命じた。

●ヒィロと美咲への指名
 伝衛門の催しを狙って喜元が動いたと言う報は、沙武に潜入していた密偵によって水都にも伝わった。水都領主である朝豊 翠(みどり)(p3n000207)は、これまでの経緯から沙武四天王には神使でなければ太刀打ち出来ないと判断し、ローレットに喜元撃退の依頼を出した。

「その依頼に、ボク達をご指名って事?」
「ええ。伝衛門さんから翠さんに、そう言う話があったそうです」
 ギルド・ローレットにて、ヒィロ=エヒト(p3p002503)の問いに『真昼のランタン』羽田羅 勘蔵(p3n000126)が答えた。翠がローレットに依頼を出したのを知った伝衛門は、そのメンバーにヒィロとそのパートナーである美咲・マクスウェル(p3p005192)を加えるように強く要請していた。何故なら、ヒィロ達は過去に二度伝衛門の窮地を救っており、伝衛門は神使の中でも特にヒィロ達を信頼しているからだ。
「それなら、伝衛門さんの期待にしっかりと応えて、イベントを護らないとね!」
「そうね。平和にイベントを楽しんでいる人々を虐殺しようなんて、させられないもの」
 ヒィロ達としても、伝衛門の催しが狙われているとなれば、指名に応じない理由はない。これまで数ヶ月の間、シャイネンナハトに向けて伝衛門が準備してきたのをヒィロ達は知っている。沙武四天王だろうが何だろうが、伝衛門のこれまでの努力を無に帰させるわけにはいかなかった。
 ましてや、その手段がシャイネンナハトの催しを楽しむ無辜の民衆を血祭りに上げるとあっては、なおのことである。
 ただ、問題は空から襲撃してくる喜元を迎撃するため、高高度での空中戦が予想されることだが――。
「……そこで、彼らが手伝ってくれるのね?」
 そう勘蔵に尋ねる美咲の視線の先には、十数名のミサゴの飛行種達の姿があった。勘蔵が度々海洋軍から借り受けている輸送部隊『オスプレイズ』だ。
「ええ、仮に自力で飛べなくても、彼らが空まで運んでくれます」
 これまで幾度も依頼の遂行を手伝ってもらったこともあり、勘蔵は自信満々に頷いて、美咲の問いに答えた。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。
 伝衛門が開いたクリスマスイベントと言うべき催しを潰そうと、沙武が四天王の一人夜々 喜元を送り込んできました。喜元を撃退し、伝衛門のイベントも、そこに集まった人々の命も、守って下さいますようお願いします。

●成功条件
 夜々 喜元およびその部下の撃退(生死不問)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 水都と沙武の領境付近の上空。時間は深夜。天候は雪。
 OP中にもあるように、高高度での戦闘となります。
 地上からは攻撃が届かない高度となるため、「飛行」スキルが無い場合は後述するオスプレイズ達によって空中へと運ばれている扱いとなります。
 なお、夜間であるため本来は「暗視」スキルが無ければ命中回避にペナルティーがかかりますが、オスプレイズの持つ暗視ゴーグルを借りられるため、今回に関してはペナルティーはかかりません。

●初期配置
 イレギュラーズ最前衛と、敵の最前衛にいる喜元まで、40メートル離れているものとします。
 なお、喜元とその部下は、位置や高度も様々に広く散開しています。

●夜々 喜元
 沙武四天王の一人です。フクロウの飛行種の魔種。
 上空からの夜襲を得意としており、イレギュラーズ達が立ちはだからなければ、司馬公苑に集まった人々を空から急襲して虐殺するつもりでした。
 能力傾向はいわゆるスピード型で、反応、回避、EXAが極めて高くなっています。一撃の重さよりも、手数でダメージを与えてくるタイプです。

・攻撃手段など
 槍 物至単 【移】【邪道】【弱点】【出血】【流血】【失血】【滂沱】【致死毒】【廃滅】
 槍 物至範 【移】【邪道】【弱点】【出血】【流血】【失血】【致死毒】
 衝撃波 神遠単 【鬼道】【麻痺】【呪縛】【停滞】【退化】
 禍々しき鳴き声 神自域 【鬼道】【魔境】【塔】

●喜元の部下 ✕30
 喜元が率いる兵達です。種類は様々ですが、いずれも飛行種の荒くれ者です。
 基本的な能力傾向は、さすがに喜元ほどではないですが喜元と似ているスピード型。
 半数が白兵装備、半数が射撃戦装備となっており、射撃戦装備の方は回避と防御技術が劣る代わりに命中と攻撃力が高くなっています。

・攻撃手段など(白兵装備)
 刀or槍 物至単 【移】【出血】【流血】【毒】【猛毒】
 刀or槍 物至範 【移】【出血】【毒】

・攻撃手段など(射撃戦装備)
 弓 物遠単 【出欠】【流血】【失血】【致死毒】

●オスプレイズ ✕十数名
 海洋軍に所属する、ミサゴの飛行種で構成される輸送部隊です。機動力6の、「運搬性能」持ち。これまで、勘蔵の要請を受けて何度かイレギュラーズ達を空へと運んできました。
 ロケーションでも触れましたが、「飛行」スキルがない場合は、彼らによって戦場へと運ばれている扱いとなります。その場合、以下のように扱われます。

・移動はイレギュラーズの任意のタイミングで、オスプレイズの機動力を用いて行われます。
・【移】のあるスキルに関しては、移動が発生しなくなります(つまり、ヒットアンドアウェイのような動きは不可能となります)。
・回避は、運ばれているイレギュラーズと運んでいるオスプレイズの平均となります。なお、オスプレイズの回避はそこそこ高めです。
・範囲攻撃などでオスプレイズがダメージを受けて昏倒した場合、待機している交代要員達がすぐさまイレギュラーズと昏倒したオスプレイズを拾い上げます。そのため、オスプレイズの昏倒による落下ダメージ等に関しては考える必要はありません。

●外村 伝衛門
 水都は朝豊に『外村屋』と言う店を構える商人です。ヒィロさんの関係者。
 OP中にもあるとおり、豊穣は水都にグラオ・クローネの風習を持ち込み、チョコで儲けました。その際と、その後のトラブルの解決にイレギュラーズの力を借りたことがあり、神使、特にヒィロさんと美咲さんのコンビを強く信頼しています。
 シャイネンナハトでも商売をしようと考え、初秋くらいからクリスマスイベントの準備をしてきました。しかし、そのクリスマスイベントを狙って沙武が動いてこようとは、さすがに考えていませんでした。
 水都領主の翠がローレットに依頼を出したことを知ると、翠にかけあってヒィロさんと美咲さんを推薦し、依頼に参加してもらうよう要請しています。

・これまでの伝衛門関連シナリオ等(経緯を詳しく知りたい方向けです。基本的に読む必要はありません)
 『<グラオ・クローネ2021>チョコで商売 蟻が襲来』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5228
 『チョコで繁盛 賊が参上』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5554
 『商いは真摯、救いしは神使』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/1830

●朝豊 翠
 水都領主で、今回の依頼人です。
 クリスマスイベントを狙っての沙武の動きについては、領主としてクリスマスイベントを中止させることも一度は考えましたが、民の楽しみを奪うようなことはしたくないと言う思いと、また、イベントを中止させても沙武はいずれまた水都に侵略の手を伸ばすだろうという判断から、喜元を迎撃する依頼をローレットに出しました。

●【水都風雲録】とは
 豊穣の地方では、各地の大名や豪族による覇権を巡っての争いが始まりました。
 【水都風雲録】は水都領を巡るそうした戦乱をテーマにした、不定期かつ継続的に運営していく予定の単発シナリオのシリーズとなります。
 単発シナリオのシリーズですから、前回をご存じない方もお気軽にご参加頂ければと思います。

・これまでの【水都風雲録】(経緯を詳しく知りたい方向けです。基本的に読む必要はありません)
 『【水都風雲録】悲嘆を越え、責を負い』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5350
 『【水都風雲録】敵は朝豊にあり!』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5958
 『【水都風雲録】敗残の四天王、民を肉腫と為して』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/6550

 それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。

  • 【水都風雲録】クリスマスの民 苦しますは闇Lv:30以上完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年01月11日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
幻夢桜・獅門(p3p009000)
竜驤劍鬼
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女
プラハ・ユズハ・ハッセルバッハ(p3p010206)
想い、花ひらく

リプレイ

●冬の夜空を飛ぶイレギュラーズ
(……あの、とーーーっても寒いのですが!?)
 『春を取り戻し者』プラハ・ユズハ・ハッセルバッハ(p3p010206)が寒さに震えながらそう思うのも、無理からぬ事であった。何しろ、プラハは雪のチラつく豊穣の冬の夜空を、ミサゴの飛行種部隊『オスプレイズ』に運ばれながら高高度で飛んでいるのだ。 
 クリスマスを聖なる祈りの日と考えるプラハにとって、そんな日にイベントを襲撃せんとする沙武四天王、夜々 喜元は、到底捨て置けるものではない。故に、実力不足かもと言う不安を抱きつつも、喜元迎撃の依頼に身を投じた……のだが、空から迫り来る喜元を迎え撃つためとは言え、冬の夜空を飛んでいくのはプラハの想像以上に寒いものであった。
(――争いの雪が解けて、みんなが穏やかに過ごせる春が来ますように)
 そんな寒さの中、プラハは父の形見であるヤギの人形をぎゅっと胸に抱きしめつつ、祈る。
「プラハさん、大丈夫ッスか?」
 そんなプラハの様子を、新人――今回参加しているイレギュラーズ達の中では、であるが――故に緊張しているのではないかと見た『琥珀の約束』鹿ノ子(p3p007279)が、横から声をかける。
 コクリと頷きつつもプラハが不安を隠せない様子でいると、鹿ノ子は安心するように説いた。想い人のいる豊穣を乱すことは許すまじと、沙武四天王との戦いに幾度も身を投じてきた鹿ノ子は、その全てに勝利している。さらに、今回もその時の仲間が何人か同行しているとなれば、勝利への自信はたっぷりだった。
「だから、僕達をドーンと頼りにするッス!」
 そう言いながら鹿ノ子が元気な笑顔を向けると、不安が薄れてきたプラハは微笑みを浮かべつつしっかりと頷き返した。

(何度も、ご縁のある伝衛門さんに頼ってもらえるなんて嬉しいなぁ)
 イレギュラーズ達の先頭を飛ぶ『激情の踊り子』ヒィロ=エヒト(p3p002503)は、かねてよりの知己でありイベントの主催者である外村 伝衛門が、水都領主からの喜元迎撃の依頼にヒィロと『あの虹を見よ』美咲・マクスウェル(p3p005192)のコンビを推したと言う事実に、喜びを感じていた。
 伝衛門のイベントを成功裏に終わらせるためにも、ヒィロはしっかりとその信頼と期待に応えるつもりだ。
「そしたらボク達の報酬も……えへっ」
 思わず口に出たパートナーの言葉に、防寒を兼ねたサンタ服を着て『オスプレイズ』に運ばれている美咲は、優しい微笑みを浮かべる。
 ヒィロと共に混沌各地を巡り、その文化や催事に触れる。混沌を楽しく生きることを第一とする美咲にとって、それは至高の時間だ。それだけに。
「――こういう連中が減れば、世界はもっと楽しいのに」
 西より迫り来る喜元と部下達を視認すると、美咲は嘆息した。

「……全く、聖夜に無粋な輩共だね」
「ホント、折角のクリスマスを妨害して来るなんて、空気が読めない連中だわ!」
 水都と沙武の領境、その上空に姿を現した喜元と部下達の姿を見た『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)が呆れたように批難すると、『狐です』長月・イナリ(p3p008096)もプンプンと怒りを露わにする。
「争いがお望みなら望み通り、尋常に成敗して見せようじゃないか!」
「ああ。本来争いのない日だそうだが、聖女も許してくれるだろうさ」
 民に娯楽は不要とする傲慢は許せないとばかりにカインが気勢を上げると、『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)も静かに頷きながら続く。
 娯楽を求める心は発明の母と考える錬にとって、娯楽は不要と言う沙武領主の狭量さは蔑むべきものである。
 しかも、娯楽を楽しむ民を襲撃するなど自領であったとしても眉を顰めると言うのに、他領である水都でやろうというあたり「躾がなってない」と断じざるを得ない。
 カインと錬の言を耳にした喜元の顔には、「できるものならやってみろ」と言わんばかりの、あからさまな嘲りの笑みが浮かぶ。
「おうよ。シャイネンだかクリスマスだか何だか知らねえけど、つまり祭りって事だろ?
 良いじゃねぇか、お祭り。楽しい事は多けりゃ多い方が良い。
 それに水都はお前らの領地じゃねぇんだから、ちょっかい出してくるんじゃねぇよ。
 もちろんこれからも、そうなる予定は無しだ。全員ここで叩き落してやるぜ!」
 その喜元の嘲りなど全く気にならないと言った様子で、『竜驤劍鬼』幻夢桜・獅門(p3p009000)が豪放な笑みを浮かべ、破竜刀を構えた。
「幸せな時間は大切な思い出になるのよ! それを奪う人はめっ! なのよ!!」
 獅門が構えると、『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)はここで喜元達を止めるという意志を込めつつ、喜元と部下達を叱りつけるかのように叫ぶ。
 今回、『オスプレイズ』達の協力を得られた故に空中で迎え撃つことはできたが、そうでなければ対処は困難であったろう。ましてや、キルシェ達が抜かれれば、司馬公苑に集まる民の虐殺は不可避である。ならば、何としてもここで止めねばならなかった。
「民に娯楽は必要ないって、言い出しっぺは娯楽をしないのか?」
 今にも戦端が開かれそうな雰囲気の中で、『隻腕の射手』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)が問うた。
「殿は沙武を、そしてゆくゆくは豊穣を治めるお方。民共とは、立場が違うわ」
「そうか。じゃあ、覚悟しとけよ」
 回答自体はどうでもよいし、そもそも期待さえしていなかったが、ともかく問いへの回答は得た。ならばあとは決着を付けるまでと、アルヴァは狙撃銃に手をかける。
 喜元が魔種である時点で救いようはないし、今宵待たせている相手も居る。となれば、さっさと終わらせるまでだった。

●喜元を止めつつ、部下を削り
 イレギュラーズ達と喜元達との戦端で、真っ先に動いたのは喜元だった。手始めにとヒィロに槍で突きかかるが、回避の技量が極めて高いヒィロにはまともに傷を負わせられない。
「これは、挨拶代わりだよ!」
「ぐうっ、此奴、小癪なあっ!」
 存在し得た自身の可能性を身に纏ったカインが、悔しげにヒィロから離れた喜元を狙い、無数の魔弾を発した。その全ては避けきれず、いくつかの魔弾をその身に受けると、喜元は呻くように叫んだ。カインの魔弾に込められた、かつて自身を苦しめた状態異常を付与する効力が、喜元相手に発揮されたからだ。
「さて、ローストしても美味しくなさそうな鳥たちにはご退場願おうかね!」
「ぐあっ、おのれえっ!」
 錬は式符で創り出した炎の大砲から、炎の砲弾を喜元に向けて撃ち放つ。砲弾は喜元の側で色鮮やかに爆発し、カインに注意を奪われていた喜元はその爆発をモロに受けることになった。さらに、爆発の光は夜空に喜元に姿をはっきりと照らし出す。
「ありがとう、錬さん。はっきりと、よく見えるわ」
「ぐうぉっ!」
 美咲は錬に礼を述べると、魔眼の魔力を込めて喜元を睨み付けた。常人なら殺めていてもおかしくはないほどの魔力が篭もった視線を受けて、喜元はビクン! と身体を震わせる。そうして出来た隙を衝いて、ヒィロに敵を釘付けにさせる、黄金パターンだ。
「ねー、喜元さん、だっけ? 愛と平和のシャイネンナハトのイベントで『虐殺』だなんて、おっかないよねー。
 そんな喜元さんは、逆に自分が虐殺される覚悟もきっとあるんだよねー。
 だから、全員血祭りにあげて血だるまにして、血の雨を降らしちゃっていいんだよねー。
 こっちもあっちも、サンタみたいな真っ赤な服に染めちゃおーね! あはっ」
「あらあら、ヒィロ。血塗れだと後で黒くなるわよ? でも、ブラックサンタなら今日は似合いかな」
「おのれ! 某相手に出来ると思うなら、やってみるがいい!」
 無邪気な笑みを浮かべながら物騒な事を言うヒィロの挑発に、喜元はすっかり頭に血を上らせた。だが、ヒィロに攻撃を当てきれず、イレギュラーズ達からの攻撃は次々と受けていることもあり、喜元の叫びはいささか迫力に欠けた。
「俺も飛ぶのには自信があってね! 空なら自分が一番とでも思ったか?」
 喜元の敵意がヒィロに釘付けになったことを確認すると、アルヴァは空はお前だけのものではないと言わんばかりに叫びながら、空中ならではの立体的な機動で喜元を惑わしつつ狙撃銃を撃ち込んで畳みかける。アルヴァからの銃弾を避けきれなかった喜元の横腹に、じわりと紅い血が滲んだ。

「さあ、こっちに来るッスよ!」
 鹿ノ子は喜元の部下のうち、弓を持った一人に向けて、遠くから白く透き通った刀身の刀を振るう。その一閃が疾風の如く突き進んで狙った敵を斬りつけると、斬られた敵は敵意に満ちた視線を鹿ノ子に向けた。
「何時までも、そうして飛んでいられると思わない事ね!」
 その隙を衝いて、イナリが仕掛ける。稲荷神の式を身体に降ろしての連続攻撃が、鹿ノ子に注意を集中して無防備となっている喜元の部下の、翼を狙って繰り出された。鋼鉄のような固さの木剣による翼への集中攻撃に、喜元の部下はたちまち飛んでいるのもやっととなる。
(これで……倒れて下さい)
 その喜元の部下に、プラハは邪悪を裁く神聖なる光を浴びせた。既に力尽きかけていた喜元の部下は、プラハから放たれた聖光に照らし出されると全身を灼かれて昏倒し、地面へと墜落していった。
「嬢ちゃん、案外やるねえ。それじゃ、次と行こうかァ!」
 今にも力尽きそうな敵を見逃すことなく、聖光で仕留めて頭数を減らしたプラハの手際を褒めながら、獅門は「次」にかかっていった。やはり弓を持った喜元の部下に急接近すると、大太刀を斬り上げてから斬り下ろすという、高速の二連撃を放った。それはまるで、獅子の顎が獲物を上下から噛み砕くが如く。上下からの斬撃をほぼ同時に受けた喜元の部下は、浅くはない傷を受けながらも、獅門から距離を取って反撃の準備へと入った。

 喜元の部下のうち、遠距離攻撃が可能な弓持ちをイレギュラーズ達が重点的に狙ったのと同様に、喜元の部下達もイレギュラーズ達の中で後衛にあたる者が重点的に狙われた。その中で、プラハが攻撃を当てやすく倒しやすそうだとわかると、喜元の部下達の攻撃は自然とプラハへと集中していくことになった。
「寄って集ってプラハお姉さんを狙おうだなんて……でも、ルシェが守るのよ!」
 喜元の部下達からの攻撃に傷ついていくプラハを癒やすべく、キルシェは天使の福音の如き救済の音色を奏でる。その音色に包まれたプラハの傷は、完全にとはいかないまでも、幾分かは癒えていった。
「ありがとうございます、キルシェさん」
 傷が癒えて身体が楽になったプラハは、心からの感謝を込めて、キルシェに礼を述べた。

●趨勢は決まりて
 ヒィロとアルヴァで喜元を抑えつつ、それ以外のメンバーで喜元の部下達を倒していくと言うイレギュラーズ達の戦術は、概ね成功していると言えた。
 プラハが集中攻撃されているために、プラハ自身やキルシェだけでなく美咲も回復に回らざるを得ず、故に美咲からのアシストを得られなかったヒィロの挑発は時折無視されてしまったものの、その際にはアルヴァが喜元の敵意を上手く煽って、喜元による味方への被害は最小限に食い止めた。
 一方、美咲が回復に回ってもプラハの傷は癒やしきれずに重くなっていき、一時は可能性の力を費やす所までプラハは追い込まれた。だが、その間に鹿ノ子、イナリ、錬、カイン、獅門らによって喜元の部下達は次々と倒されており、喜元の部下達の攻勢はそこまでで止まった。

「とうとう、残るは喜元さんだけッスよ! 手数で攻めるというなら、僕も負けないッス。
 どちらの身のこなしが優れているが、さぁ勝負といきましょうッス!」
「ぐぬっ……!」
 部下を全て倒して、ここからが本番とばかりに、鹿ノ子が意気込んで喜元に仕掛ける。
 華のように美しく、蝶のように軽やかな、それでいて嵐のように激しい剣閃が、立て続けに喜元を襲う。喜元が如何に回避に優れていようと、直撃を与える技量に優れた鹿ノ子にとっては関係のないことだった。白く透き通るような刀身が、喜元を斬る度に紅く染まっていく。
「安心するのは、まだ早いわよ! 地面に叩き落として、クリスマスツリーで綺麗なモズの速贄にしてやるわ!」
「ぐあああっ……!」
 鹿ノ子による連撃が途切れて喜元が安心する間もなく、『オスプレイズ』に頼んで喜元の背後に回り込んだイナリが巨大な木剣を喜元の翼に連続で叩き込んだ。
 イナリも、鹿ノ子と同じく相手の回避の技量にかかわらず直撃を叩き込む技量に優れており、しかも連撃を得意とするところまで同じである。いつ果てるともなく叩き込まれる鋼のような硬さの木剣に、喜元はたまらず逃げ腰となった。
 だが、イレギュラーズ達が喜元の逃走を許すはずがない。
「折角の空中戦だ! 上下左右と囲んでしまえ」
(行きます、急降下お願いします!)
 喜元の下からは、式符から生み出した真銀の刀を手にした錬が迫る。一方上からは、『オスプレイズ』にハンドサインで依頼して急降下しつつ手に虚無の剣を生み出したプラハが迫っていた。
「貴様ら、よくも……っ!」
 二方向から迫り来る敵を確認したときには、最早喜元に対応する時間は残されていなかった。真銀の刃は喜元の右太股をざっくりと斬り上げて、虚無の剣は喜元の左肩から上腕にかけてを深々とした傷を刻んでいる。
「テメェで、全員だ。逃げられるなんて、思うなよ?」
 正面から喜元に迫った獅門は、必殺の気迫を込めて破竜刀の刀身を真っ直ぐに突き出す。ズブリ、と言う感触と共に刀身が深々と突き刺さり、喜元はガハッ、と血を吐いた。
 だが、相手が魔種である以上、まだ終わりではない。獅門は破竜刀を喜元から引き抜くと、この後に備えた。
(――どうか、アルヴァさんが全力で戦えるようになりますように。その身を蝕む毒も、流れる血も、癒えますように――)
 キルシェは、喜元の槍に傷つけられて毒に犯され、血を流すアルヴァを癒やすべく祈りを捧げる。すると、キルシェを中心に桜色の慈しみの雨が優しく降り注ぎ、それに触れたアルヴァの毒も流血も、綺麗に癒やされた。
「助かるよ、キルシェ」
 身体中を蝕む毒や流血から解放されたアルヴァは、視線は喜元に向けたまま、キルシェに感謝を述べた。
「それだけ囲まれたら、避けるどころではないだろ? こいつを、叩き込んでやるよ」
「ぐうっ!」
 イレギュラーズ達に囲まれて完全に逃げ場を失い、回避もままならなくなった喜元に、カインがなおも畳みかける。存在が不確かな神の力を以て、喜元に対して呪詛を飛ばした。呪詛は、外傷は一切与えることなく、喜元を苦しめその身を呪っていく。
「――できるなら航空猟兵として、一対一でやってみたかったさ。
 でも今回は時間が惜しくてね。それに、お前に自由の翼は似合わない」
 処刑宣告でもするかのように、アルヴァが喜元に告げる。
 実際、アルヴァにとって喜元との戦闘は、仲間達が喜元の部下を全滅させるための時間稼ぎに過ぎなかった。そして、時間稼ぎが成功した時点で、.喜元の勝ち目は失せたのだ。
「堕ちろ、地の果てまで」
「ぐがああっ!!」
 アルヴァは喜元の上を取ると、天から降る雷霆の如き速度で急降下。その勢いのままタックルを仕掛け、喜元を地面に向けて吹き飛ばす。喜元は辛うじて空中で体勢を立て直したが、地に墜ちる時間をわずかに延ばしたに過ぎなかった。

 喜元が魔種で、如何に潤沢な生命力を有していようと、あとはその生命力を削り取られるだけであった。豊富なはずの手数がヒィロやアルヴァによって浪費させられている間に、翼を痛めつけられてついには地に墜ち、虫の息となる。
「あはっ、随分と無様な姿になったね。でも、伝衛門さんの素敵なイベントを血で汚そうとしたんだから、当然の報いだよね。
 ほら、悔しかったら最後にもう一回、かかっておいでよ」
 これが最後の挑発になると見て、ヒィロは伝衛門のイベントを狙ったことへの怒りを込めて、因果応報だと嘲った。そして、喜元の攻撃を誘うように、掌を上に向けて突き出すとクイ、クイと指先を曲げる。もっとも、最後の一回などさせるつもりは、ヒィロにも美咲にもない。
「夜に飛ぶ梟じゃわからないかな……『虹の先には辿り着けない』って」
 美咲は呆れたように呟きながら、喜元がヒィロに敵意を募らせた瞬間を狙って、全身に残る魔力を凝縮させた魔力の砲弾を撃った。「破式」と呼ばれる破壊力に特化された魔力の砲弾は、喜元の腹部を瞬く間に貫いて大穴を空けると共に、その命を奪い去った――。

成否

成功

MVP

アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮

状態異常

アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)[重傷]
航空指揮
プラハ・ユズハ・ハッセルバッハ(p3p010206)[重傷]
想い、花ひらく

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。
 皆さんの活躍によって喜元と部下達は討たれ、司馬公苑のクリスマスイベントは守られました。
 MVPは、重傷を負いながらも喜元からの攻撃を引き付けるのに貢献したアルヴァさんにお送りします。

 それでは、お疲れ様でした!

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