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シナリオ詳細

大乱闘アイアンクラッシュズ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 鉄帝にある大衆酒場『アイアン・クラッシュズ』
 そこはこの辺りでは中々大きめの酒場であった――
 吹き抜けの構造で二階まであり、今日という日は特に盛況なのか満員御礼。
 あちらこちらで騒がしくも楽し気な声が響いており……だが。

「あぁん!? 今なんつったごるぁ!!」
「御託ほざいたのはテメェだろが表でろやオラァ!!」

 突如として席の一角で荒々しい雰囲気が発生する。
 それは口論。事の始まりがなんだったのか分からぬが……今にも喧嘩が始まりそうだ。
 睨みを効かせる二人の男――本来ならば周りが止めに入ったりするのだろう、が。
「おっ、喧嘩か? やれやれ――!!」
「おいどっちが勝つに賭けるよ。俺ぁ、あっちのガタイが良い方にするぜ!」
「じゃあ俺は逆だ! 負けんじゃねぇーぞ、オイ!!」
 しかしここは武を尊ぶ鉄帝である――路上喧嘩など日常茶飯事!
 であれば止める所か囃し立てる連中が大勢いた。アルコールも入っているからか、賭け事まで始まる有り様だ……どこかの誰かが素早く用意したゴングを鳴らせば、クロスカウンター気味に殴り合いが始まって。
「いいぞいいぞ――!! おい兄ちゃん、何ちびちびと飲んでやがるガッと行けやガッとよ!」
「……やかましい連中だ」
 さすれば――その様子をゲルツ・ゲブラー(p3n000131)は冷ややかな目で見据えていた。
 なんとなし入った店でこのような騒ぎに巻き込まれてしまうとは。
 まぁ今日はオフだ。殴り合いたい連中がいるというのなら好きにすればいい――
 己には関係のない事だと、眼前の酒を呷る様に喉の奥へと運んだ、その時。
「うおおおおおおおおおおくらえ、酒瓶アタック!!」
「はっ、そんなんが当たるかよ!! 躱すなんて余裕だぜ!!」
 喧嘩していた片方の男が――酒瓶をぶん投げた。
 ソレは当たらず彼方へと飛ぶ。勢い付けて回る様に。
 そしたら――ゲルツの顔面真横に直撃した。

「…………」

 盛大な音を鳴り響かせながら壊れる酒瓶。
 頭からアルコール塗れになるゲルツ。
 しかし周りは白熱する戦いに集中しているのか、ほとんどの人間が気付いていない……
「がはははは! やれ、そこだ! ボディに行けボディに!!
 あん? なんだ兄ちゃん。ここは俺の特等席なんだから邪魔すん……ぼげぇあ!!?」
 そう。『気付いていない』のだ。
 ゲルツの眼鏡がその衝撃で壊れ果てている事に。
 砕け散っている眼鏡のレンズ。それを胸元のポケットにいれ、ゲルツは往く。
 え、どこにって? そりゃあ勿論……
「今日はオフのつもりだったんだがな……」
「ぁあん!? なんだ兄ちゃん、テメェもやんのかごるぁ!!」
「銃は置いてきたが、丁度いいハンデだろう――かかってこい。
 お 前 ら 全 員 ブ チ の め し て や る」
 喧嘩の渦中に。押しのける様に、邪魔な観客達もぶっ飛ばしながら。
 ゲルツ・ゲブラーの鉄拳が――相手の顔面に打ち抜かれた。


 そしていつの間にかその喧嘩騒ぎは店全体に広がっていた。
「うおおおお俺がナンバーワンだああああ!!」
「しゃらくせぇ、死ねやおらあああああ!!」
 過激な言葉が飛び交いながら店内はもう大乱闘。
 が、あくまで売り言葉に買い言葉であるだけなのか、誰も本気の殺意を抱いている訳ではない。ただ単純に殴り合いを楽しんでいるだけの雰囲気といった感じだ。これぞ鉄帝。流石鉄帝。店の店主が頭を抱えているが、まぁ些細な問題だよ、うん!!
 ただ――問題があるとするならば――
「うわあああどうしてこんな事に!!?」
「まずいぞ、店の入り口の方なんか混雑してる……逃げられるかこれ!!?」
 そこに『貴方達』もいた事だろうか。
 依頼の帰りか、それとも偶々この店に寄っていただけだったか、事情はそれぞれだろう。
 とにかくこの大乱闘に巻き込まれてしまったのは間違いない――
 周囲では皿の割れる音。机が砕かれる音。殴る音。魔法が放たれる音。囃し立てる声などなどなど。誰一人として止めようという人物がいない――なんて状況だ。
 終わるまで机の下に隠れていようかとも思ったが、流石にこれほど騒ぎが大きくなればその内憲兵でもやってくることだろう……そしたらここにいる連中、全員拘留されてもおかしくない。
「はぁ……さて、どうしたもんかねこれ……!?」
 逃げるか。それともこの喧嘩に乗って己も楽しんでみるか?
 とんでもない事態に巻き込まれたものだと、誰かが吐息を零していた。

GMコメント

●依頼達成条件
 生き残る!!!!!!!!!!!!!

●フィールド
 鉄帝の大衆酒場『アイアン・クラッシュズ』です。
 酒が大量にあって料理もおいしくて量も沢山出てくるいい店なんだとか。二階の、吹き抜けの構造になっており大人数を収容できる酒場――なのですが、一体なにが原因なのか大喧嘩が勃発しました!! 周りの無関係であった筈の客も巻き込んで皆大乱闘中です!!!!! うわー!!!!!

 皆さんは依頼の帰りか、それとも偶々この店に寄っていただけだったか……事情はそれぞれかもしれません。が、とにかくこのままでは巻き込まれてしまいそうです。ああ、美味しい料理を乗せた皿が宙を舞ってる……

 ちなみに暫くすれば憲兵が駆けつけて全員鎮圧される事でしょう。
 その前に脱出を試みてもいいですし、或いは存分に殴り合っても構いません。
 というわけで、ファイ!!!!!!!!(カーンッ!!)

●ゲルツ・ゲブラー
 ブチギレ状態のゲルツ・ゲブラーです!!!
 とっても危ないです!!! キレながら周辺の連中なぎ倒してます!!!!
 今回銃は持ってきてないみたいなので鉄拳連打してます。
 それでも結構以上に強いです。
 ただ冷静じゃないので周りにいる奴次々とぶちのめしてます。あぶなーい!

●暴れてる客共×たくさん
 常連も偶々いた客も大乱闘状態です。
 全員、命を奪うようなレベルの攻撃はせず、ただ単純に酔っぱらいながら乱闘を楽しんでいるだけの様です。これだから鉄帝はッ!!!!!!!!! タフな奴。魔法放ってくる奴。攻撃力が高い奴。酒瓶持って暴れまわってる奴。みんな違って、みんな良い。(鉄帝脳)

●店主
 アイアン・クラッシュズの店主です。何故か発生した喧嘩に頭抱えています。
 フライパン持って喧嘩してる客をぶん殴ってます。
 こらー! てめぇらその酒とか料理の金はちゃんと払えよオラー!

●空を舞って(ぶん投げられて)る料理たち
 唐揚げとかスパゲッティとかお肉とかその他いろいろ。食べると美味しい。

●空を舞って(ぶん投げられて)る酒瓶たち
 中がまだ入ってたり空だったりするけれど、全部割れる運命にある物達。ばりーん!

●情報精度
 このシナリオの情報精度はDです。
 多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
 様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さ……うわ、酒瓶が飛んできた!!

下記、運営(SD)によるマスターコメントへの加筆
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●重要
 夏あかね優先(メモ)
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  • 大乱闘アイアンクラッシュズ完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2021年11月29日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
策士
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
白萩(p3p009280)
虚構現実
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
シュロット(p3p009930)
青眼の灰狼
ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)
凶狼

リプレイ


 『ダメ人間に見える』佐藤 美咲(p3p009818)は思考していた。
 再現性東京にある自宅。今からでは遅くなってしまうなと……だから外食にと酒場に入ったのだ。ちょっといつもと雰囲気が違うようだが鉄帝の人間ではない私が関係のない乱闘になど参加する道理もない――故に粛々と食事を済ませスマートに帰宅するだけ……

 そんな感じの事を思ってたら届いた料理が一瞬で吹っ飛んだ。

「これだから鉄帝はッ!!!」
 どこぞより至った乱闘の衝撃で全てが犠牲にッ!
 殴りかかる美咲の一撃! おのれ折角の唐揚げがッ――! 顔面へと右ストレートッ!
「ちゃんこにしてやろうかァッ! オラ、かかってこいッス!
 佐藤美咲様っスよ、死にたい奴から並べ――っす!」
「おお! 威勢のいい嬢ちゃんがいるぞ! いけいけオラ――!!」
 食い物の恨みは深いと。ぶっ飛ばしていこうではないかッ――!
 そして食事が吹っ飛んだのは美咲だけではない。
「……はぁ、まさかシチューが来たと同時に消滅するとは……」
 『青眼の灰狼』シュロット(p3p009930)の眼前にあった(過去形)のシチューもだ。暖かさが身に沁みる様なシチューを楽しみにスプーンを入れ……たら、飛んできた人がテーブルごと押し倒しシチューは今や只の残骸!
 あぁ昔の事は思い出せないが鉄帝の依頼を受けていて分かった事がある……
「――こういう時、積極的に参加するのが鉄帝民だと」
「あぁん、兄ちゃんなんだぁ! お前さんもやるつもぐぉあ!!」
 これは決して折角のシチューが台無しになった事の仕返しではない――が。とりあえずシチュー皿に飛び込んだ不届きものに肘鉄(金属製)を叩き込んでおこう。如何なる時でも全力を出すのが鉄帝流だろうから!
「ハァー……なんたってこんな事に……しょうがねェ、やるか。しゃらくせェ」
 と、同時。深いため息を思わず零した『虚構現実』白萩(p3p009280)もいた。
 たまにはゆっくり一人酒でもと思っていたのにどうしてこうなったのか――
 前に来た時にゃァ此処まで物理的な面倒事がある感じじゃ……いやそうだった。"そういう"界隈だったわ。ったく、ここ最近酒絡みでロクな目に遭ってない気がする。この前なんて豊穣でも……まぁ過去の事はともかく。自らの酒瓶を確保し様子を窺う――
 どこが台風の中心なのか見据えてみれ、ば。
「わああああ止めるのだ! ヘルちゃんも巻き込んでしまってるのだ!
 あ、イタイ! 酒瓶が! 酒瓶が飛んでく……ァアアアア――!
 ヘルちゃんの頼んだご飯とお酒がァ――! 木端微塵に――ッ!」
「わぁ♪ この雰囲気、まるでヴァリューシャが酔ってる時みたいだね!
 酔ってるヴァリューシャも可愛いんだよね……この前なんて酒瓶抱いて寝てたなぁ……」
 渦中の勢いはヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)と『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)の下へとも波及していた――『な、何をする貴様らー!』と楽しみにしていた料理が消え失せてしまった事にブチギレモードのヘルミーネ。
 跳躍一閃。優れた速度を活かして酒瓶投げてくる連中を殴る――!
 一方でマリアはうっとりと過去を想起し惚気る様に。
 ふふっ。ヴァリューシャはいつだって素敵だけど、あの日は酒瓶振り回してすっぽぬけて柱にガシャーンとなっちゃった勇ましい姿が見れた日だったなぁ――って、そうだこの場にはゲルツ君がいるんだった!
「はっ! こんな貴重な機会、レインボータイガー社代表としては見過ごせないよ!
 さぁ退くんだ君たち! 邪魔をするというのなら容赦はしないよ!」
「うわなんだこいつ! つえぇぞ囲め囲め!」
 威嚇のポーズと共に拳繰り出すマリア。闘争の渦は更に加熱する――さすればこれはもうダメだと『全てを断つ剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は確信の領域に至っていた。
「ははは。これでも昔鉄帝の料理屋で包丁代わりに使われてたこともあってね――何度かこういった乱闘騒ぎも見てきたよ。だから分かる。もうこれは最後まで止まらないね……しかしまさか当事者になるとは思ってもいなかったけど」
「やれやれ。厨房の手伝いに来ただけのつもりだったんだがな……しかしこのままではタダ食いも容易く発生してしまうだろう――店主の為にも、少しでも被害を喰い止めてやらねばな」
 吐息一つ。同じく『チャンスを活かして』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)もヴェルグリーズと顔を見合わせるものである。シューヴェルトは一時的だがこの店の従業員として。ヴェルグリーズは過去の経験より店主に肩入れする気持ちがあり――
 故に往く。この乱痴気騒ぎを止める為に。
 シューヴェルトはこっそり代金払わず逃走しようとしている客を捕まえんとし。
「わるいがそこを通して逃げてもらうわけにはいかない! 翠刃・逢魔!」
 抜き放つは彼の抜刀術。形なき呪詛の刃が背に突き刺さり、その身を縛らんとし。
「まぁもうこうなったら仕方ないよね……
 解決方法は一つだ。全 員 殴 り 倒 せ ば 終 わ る よ ね」
 そしてヴェルグリーズは――鉄帝脳に染まりつつあるぞ!
 ふふっ。無益な殺生はよくないけれど……剣の精霊が戦嫌いな訳ないだろ?
「たまにはこういうのも悪くないよね……! そう、これは不可抗力……!」
 飛び掛かる。これは仕方のない事なのだと、自らに言い聞かせるようにしながら。
 酒瓶投げまくってる輩の顔面に――蹴りをぶちこんでやった。


 酒が舞う。皿が飛ぶ。
 激化する酒場の騒ぎ。収束見えぬ大乱闘――の最中にて。

「よよよ。こんなところで喧嘩に巻き込まれるなんて……自分、怖いでありますぅー。
 お箸より重いものなんて持ったことのない自分にはあまりにも……
 そこな殿方。是非自分を助けてくださいまし! お礼は如何様にでも……」
「んっ? なぁアンタ、エッダ・フロールリジじゃ――」
「自分の事知ってるでありますか。失格。次」

 ぎゃあ! という声が響いた場所で――『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)がマリア・レイシ……じゃない猫を被ってた!
 鉄帝人としてエッダも喧嘩上等。しかしここで普通に殴り合いに行くのもあまりにも『日常』過ぎると彼女の琴線に触れなかったのだ。殴り合いが普通の感覚ってそれ蛮……ゲフンゲフン。
 ともあれ彼女は思考したのだ。偶には趣向を凝らそうと。
 その結果が小切手チラつかせ散財しながら味方を増やす事――ッ!
「ひぃん……よし。次はそこの殿方、あっ。
 問答無用で殴りかかってくるのもダメでありますね。排除。ハイ、次」
 まぁ鉄帝ではかなりの名声がある彼女の顔と名は知れている事もあり非力を装ってもバレる事もあるのだが……そういうのは一撃必殺して沈黙(物理)させれば問題ない。或いは金か脅し付けて言う事聞くならいいか。
 そうでなくてもケンカで血が昇っていても女子供を護ろうとする割と『いいひと』は一定数いるものだ――そういった者らを争わせ己は悠々と高みで見物……
「うひひ。良い席でケンカ祭りを見ながら一杯やるのは最高でありますね――愉悦愉悦」
 その姿、正にフィクサー。後はここから安泰に酒を飲むばかり――
 愉悦のアルコールを喉の奥に運んだ、瞬間。
 エッダの額に『カーンッ!』という音が響き渡る――それは酒瓶。
 ああなんたるや。鉄帝の神は静観を許さぬとでも言うのか。
 ……ぱたぱたとスカートのすそを立ち上がって直す音。
 ……腕をぐるぐる回して調子を確かめる音。
 深呼吸一つおけ、ば。

「今投げたのはどいつでありますか!!!
 そっちでありますか! それともこっちでありますか!!
 それともそっちこっちあっちどっちぬおおおおお――!!」

 エッダ、覚醒。神速の拳が敵を捉えて!
 穿つッ! 近場の奴を一体制圧すれば、そのまま往く――!
「かかってこい馬鹿共! 全員殺す!」
 そして特に酷い状況となっているのは――ゲルツの周辺だ。
 頭に血が上っている。近付けば危険、だが!
「やぁやぁ! ゲルツ君! 今ちょっといいかい!? 私はこういうものでね!
 ふふ。一言で言うと虎なんだけど――わぁ危ない! 拳が! 拳が掠め!」
 その渦中へとマリアは飛び込む!
 同時。差し出すは――レインボータイガー社の名刺。
「なんだ! 今俺は忙しいんだ、後にしろ!!」
「ははは! まぁ落ち着きまえ! 実はさるご婦人が君を被写体とした写真が欲しいと仰っていてね! それで我がレインボータイガー社が……うお!? 痛い痛い! なにこれ酒瓶!? は??? なにするんだい邪魔をするんじゃあないよ!! こっちはビジネス中だ!! ヴァリューシャの酒代がかかっているんだ! APを灰にするよ? 虎の一撃を受けたいのかい? はぁーん!? 覚悟は良いんだろうね!!」
 超速度へと至る一撃が酔っ払いの腹に直撃する――!
 如何に普段は温厚な虎とはいえ邪魔は絶対に許さないよ! 拳を叩き込み蹴りを顔面へ! ブチギレゲルツの拳は辛うじて虎回避して営業を続行だ! ゲルツ君! 興味があるなら是非!
「ふふふ……流石ゲルツ殿だね。闘志の名に恥じない素晴らしい戦いぶりだ――
 折角だし。少しばかり手合わせを願おうかな」
「なんだ。お前も酔っ払いの馬鹿か?」
「酔っぱらってはいないけど――いやそうだね、この一時に酔ってはいるのかな?」
 直後。ゲルツの懐へと辿り着くのは――ヴェルグリーズだ。
 地を踏みしめ。もう片方の足で蹴撃一閃。
 ――が。ゲルツが腕を差し込み防御する。
 瞬時に放たれる肘がヴェルグリーズへと。掠めるだけでも意識を持っていかれそうになる一撃が顎を狙ってくる――ああこれがラド・バウ闘士か。その実力か!
「偶にはこういう大暴れも悪くはないかと思ってね……さぁ楽しもうか!!」
 夢の一時に酔わぬヴェルグリーズではなかった。
 脳髄に染みわたる闘争の本能が彼を渇望の最中へと誘う――なぁにどうせ不殺だ。誰も殺さぬ。死ななければ後でなんとでもなろう!
「……よくもまぁマリアにしろヴェルグリーズにしろ近付くもんだよな。ったく。ってうぉ! なにしやがる、こちとら隅の方で大人しくしてんだから来んなやオラァ!」
「うおおお祭りに参加しやがれー! それでも鉄帝人かー!」
「ちげぇよ馬鹿野郎!!」
 直後。そんなゲルツ周辺、というか人間台風の発生地点を白萩はこっそりと眺めていた――のに! 酔っ払いが彼を発見してしまった。酒瓶で襲い掛かってくるので拳一閃。
 我流の喧嘩殺法でねじ伏せる――ああ勿論命まで取りやしねェよ。
「大人しく寝とけや。俺は静かに飲めてればそれでい……げっ! スパゲッティが降ってきやがった!」
 飛んでくる料理は回避、しようとしたのだが零れた一片が白萩の頭に! 馬鹿野郎ご飯を雑に扱うんじゃァありませんよ、ほらみろご主人泣いてるだろうが――! 適当言いながら指差せ、ば。
「くぅ~! やっぱりこの店の料理は美味いのだー! なのに! これを投げるなんて……何をしてくれてるのだー! ヘルちゃんのご飯を返せなのだ――! てや――! 店主―! 後でもう一回作ってほしいのだー! お腹が膨れるまで食べたいのだー!」
「あぁん!? 誰っすか今、私のお腹が膨れてるとか言った奴は――!」
「違うのだ! ヘルちゃんではないのだ――! 誤解なのだ――!」
 その周辺ではヘルミーネと美咲が暴れていた。
 酔っ払いの顔面を足場にヘルミーネは空を舞う。そして狙うは――食材だ!
 こんな程度の滑空スピードならヘルちゃんに掛かればキャッチ&早飲み食いするのは造作もないのだ! ぱく。もぐもぐ。おいしいのだ~! でも近くにいる佐藤親方はなんだか怖いのだ~!
「おらーっ! 体型:肥満なめるんじゃねえぞっす!」
「うるせぇ痩せろよデ――がッ!!」
 滅茶苦茶余計な事口走りそうだった鉄帝人に美咲の拳が叩き込まれた。
 最速たるヘルミーネにも互角たる彼女の機動力から逃れられる者などいようか――全身の体重を乗せてドスコイ張り手の一閃が、屈強なる鉄帝人たちをも沈めていく!
「くらえオラ――!」
「はっは――!! 残念だったっスねー! 私の眼鏡は伊達メガネ! 折れようが粉砕しようが戦闘力に変わりはないんスよ……ちょっ、人が話してるときに顔面を殴るなゼシュテル人! マナーぐらいあるでしょうがこら――ッ!!」
「やれやれ……皆、被害を追わないようにボウルやフライパンなど硬いもので頭を守ってくれ。この場は僕と店主が何とかする。決して頭を机の上に出さないように――いいな?」
 美咲、更にキレる。
 その影でシューヴェルトは激化する酒場の戦場に、従業員を避難させていた。
「さて。殺しはしないが大人しくはしてもらおう。当然代金も徴収だ」
「くらえ酒瓶! 行こうか陸鮫――あ、でも食べちゃダメだからね?」
 出撃するシューヴェルト、の視界の端ではシュロットも存分に暴れていた。
 陸鮫に騎乗し酒瓶に皿をぶん投げ直撃させ。唐揚げとか乗ってたら陸鮫に餌として挙げて――あ、ご満悦だ。そんなに美味しいのかこの唐揚げ。とにかく往こう。シチューの仇だ……!
「いやなに。どうしてもシチューじゃなければいけない訳じゃなかったんだ。でも食べようと思って身構えていたんだ。体も魂も。それがいざ食べれないとなった時の絶望――そう、これは復讐だよ。正当な仇討ちだッ!」
 酔っ払いの頭にドストライク。でも見境なくぶちのめしている訳ではない……物陰に隠れている様な者までは、むしろ怪我をしているのならば治癒術でも掛けようか――
「貴様らー! いい加減にちょっと頭を冷やすのだ――!!
 ここは大衆食堂であるといい加減目を覚まさないと……一篇死ぬのだ?」
「やれやれ落ち着きそうにねぇなこりゃあ! しゃあねぇ、ちっとばかし手伝ってやるか」
「はーん?? 何が酔っ払いだ! 私は虎だ! 虎の恐ろしさを知りたいみたいだね!」
 しかし懸命な活動でも一切止まる様子が見えぬ――
 ヘルミーネがキレかけ、白萩も止む無く参戦しようとし。マリアはゲルツに交渉を続けながら虎の威厳をみせがおー! ヴェルグリーズは相変わらずゲルツと交戦し、シューヴェルトは逃げる様子を見せる客らを追い詰め……
「オラァ何してんでありますか! 今更臆してサボッてんじゃねえぞ働けであります兵隊アリども!! もうテメェらは自分もろとも収賄罪なんでありますよ!!」
「ええ!? そ、そんなー!」
「あぁ!? それが厭なら働け! 声が小さーい! 腹から声だせぇ!
 なんじゃゴラ文句あんのかこちとら大佐様やぞー! ツベリア送りにしてやろうか!」
「エッダ氏ー! そろそろ落ち着くっす!」
 エッダ。動きが鈍くなり始めた尖兵たちを捻じ伏せ突進させる。
 美咲が『ある事』がそろそろかと思い始め慌てる中――しかしどこまでも深く。地獄の様になっていくアイアン・クラッシュズ。最早この流れは全滅するまで止まらないのか。
 誰かがそう思った――しかしその時。

「こらー! お前ら、大人しくしろ――!!」

 ――美咲が懸念していた『ある事』
 つまり『憲兵隊』がご到着なされたとか。


 やがてお縄に着く大量の酔っ払い共。けど、一部のイレギュラーズも捕まってて。
「ゲルツ君! 覚えておいてね、レインボータイガー社を! 絶対だよ――!」
「分かった分かった……今度またゆっくり話そう」
 絶対だからねー! ゲルツから了承を取るも、そのまま憲兵に連れていかれるマリア・ツカマッチャッタ・レイシス……が。連れていかれた先でよく見知った赤毛の人物と出会ったのは――また別の物語。
「さぁて俺は二件目いくかねぇ……どうよ。お前さんも飲み直さねぇか?」
「勿論なのだ! ヘルちゃん満足できてないのだ! 二件どころか三件目も歓迎なのだ!」
「さ。それなら憲兵がこっちを嗅ぎ付ける前に――行こうか」
 一方で白萩、ヘルミーネ、シュロットは捕まる前に逃亡す。
 騒動の所為で碌に食べも飲みも出来ていないのだから……と。さすれば。
「腕っぷしで戯れるってのも鉄帝らしくていいよねぇ……
 さ。お互い大人しく留置場で頭を冷やそうかと思うよ、ねぇゲルツ殿。
 ――もしかしてあれだけ大暴れして自分だけ逃げようとか思ってる?」
「……俺は保安部員だ。言い訳はある程度なら……」
「それはよくないんじゃないかなぁ、一緒に反省しに行こうよ」
 暴れたのは事実なんだからさ――と。ヴェルグリーズはゲルツを逃がす気はない。
 留置所でゆっくりと騒動を語らい合おうではないかと……
「エッダ氏。これなんか逃げる方法無い?」
「ふっ――憲兵とはいえ只の人間……突っ切ればいいのでは? 手配されるかもしないでありますが」
「ハハハ成程! さては囮にしてる間に逃げ」
 そして美咲とエッダが言の葉を交わす。特にエッダは囃し立てまくったのが目撃されたのか厳重に捕縛されている……! 大佐に相手に良い度胸でありますね。顔は覚えたでありますよ。
「ああ――全く」
 が、移動用の馬車に乗る前に――エッダは空を見据える。

 酒のおかわり。
 空を舞う人。
 ああこれぞ――鉄帝の夜の日常風景だと。

 冬の鉄帝。雪降る中――零した吐息が白く染まっていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 うおおおおー! これが鉄帝だー!
 ありがとうございました!!!!!!!!!!!

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