シナリオ詳細
<ダブルフォルト・エンバーミング>ブラックアゲートの猛攻
オープニング
●
Rapid Origin Online, Patch4.0<ダブルフォルト・エンバーミング>。
プレイヤーたちへもたらされた新たなるパッチは、R.O.Oと混沌練達の双方に降りかかる災厄と呼べるだろう。
ネクストと共に生まれた大魔種のコピー『イノリ』が本物と同様に世界を壊そうとしている。それに呼応してネクスト中へバグをまき散らしたのはマザーの兄、クリストであった。バグは時にパラディーゾとなり、時に真性怪異・神異となり、シャドーレギオンとなり、大樹の嘆きとなり、ワールドイーターとなった。
多種多様な有り得ざるモノが産まれたのはイノリの絶大なる権能のおかげであり、クリストの高い演算能力のおかげでもあった。
そしてそれらが今、ネクストの全てを蹂躙しにかかっている。
イノリとクリストの狙いはR.O.Oの崩壊のみに留まらない。イノリのオリジナルが終焉を望むのはR.O.Oではなく混沌であり、クリストの目的とオリジナル大魔種の動機は共感できるものであったから。
彼らの望むままにR.O.Oが壊れたなら、防御限界を迎え『呑み込まれた』クラリスによってセフィロトは崩壊するだろう。現実への多大な被害が容易に想像されるも、その規模となれば考えたくないものである。
R.O.Oでの戦いはゲーム内に留まらない、イレギュラーズが全力をかけて阻止すべきものとなっていた。
●
「随分とでっけェやつが来たもンだ」
部下からの報告に男は絶望するでも嘆くでもなく――笑う。愉快そうに。楽しくてたまらないと言いたげに。砂嵐の南からやって来た終焉の足音を前にして、このように在れるのは一握りだろう。
ようやくだ。ようやく面白いことになってきた。こんな窮地でも来なければ、退屈過ぎていつか砂嵐の掌握にかかっていたかもしれない。
部下を呼び集めた男は彼らを見渡し、にやりと笑みを浮かべる。
「てめェら、事態は把握してンな? この世の終わりがやってきたらしい!」
凡そ表情と声音に似つかわしくない内容である。だが事実でもある。
終焉の獣は砂嵐の地へ踏み込み、全てを飲み込み進んでいるらしい。このままならば砂嵐は無に還るだろう。
「だがよォ、砂嵐をタダで通らせるか? 終焉サマだからって道を明け渡すか?」
砂嵐を安全に通りたいのならば、砂嵐の民に友好的であれ。すなわち金品を払えというのは、子供でも知っている事である。そうでなければ命の保証をされないのがこの国なのだから。
それは何者であっても変わらない。金品がないのであれば通しなどするものか。
「てめェら、やることはわかったな。友好の証がねェヤツは総じてぶっ潰す! ネズミ1匹たりとて抜かすなよ!!」
「「うおおおおお!!」」
拠点内に雄叫びが満ち、いくつもの拳が突き上げられる。その様子に男『大鴉傭兵団頭領』コルボは満足そうに笑うと、次いで声を上げた。
「武器を取れ! 色宝も忘れンなよ! ヤツらに泣きっ面かかせてやれ!!」
●
終焉(ラスト・ラスト)より出現した闇の軍勢に蹂躙されるサンドストーム。しかしそこへ果敢に進撃し、敵勢力を打ち破らんとする動きがある。
その作戦本部へ顔を出していたすあま(p3x000271)は、新たにやって来た人影にあれっと声を上げた。
「レーヴェン!」
「やあ」
声に視線を向けたレーヴェン・ルメス――中身のいないNPCだ――はすあまへ片手をあげ、それからその傍らにいる全身鎧にも小さく手を振った。
「傷はもう大丈夫?」
「うん、キミたちのおかげですっかり良くなったよ。だから今度は私が手助けする番さ」
じっとしていても仕方がない、と彼女は言う。九重ツルギ(p3x007105)確かにと頷いた。このパッチは世界崩壊に向かう物語だ。そうなっては流浪の生活を続けるどころではないだろう。
「皆が元の生活に戻れるよう、俺も手を尽くそう」
「助かるよ。特に……今回はかなり強大な相手みたいだから」
神妙な表情でレーヴェンは壁へ貼り付けられた地図を見る。ネクストの世界地図であるそれは混沌と非常に酷似しているが、ラサに当たる場所――砂嵐の地を蹂躙するモンスターたちはその勢力を広げにかかっている。
「よお、レーヴェン。アンタも行くのか」
宜しく頼むぜ、と片手を上げるクシィ(p3x000244)。レーヴェンと会うのはいつぞやにコルボの進撃を食い止めた時以来だったか。
(コルボ……この状況でアンタは何をしてる……?)
砂嵐を、いや全土を危機に陥れる災厄。未だ彼ら大鴉傭兵団の動きは聞かない。足取りを掴ませないのは混沌でもネクストでも変わらないところだが、この状況においては不安が募る。
けれどそんな胸中を現状は推し量ってなどくれない。一同は砂嵐へ現れた終焉獣を討伐するため、サクラメントを経由して近場まで向かう。
「大きいねー!」
「だいぶ近づいたんじゃないか?」
すあまの感心する声と、ツルギの冷静な声が続く。けれどレーヴェンはふと首を傾げ、黒曜の翼を広げた。
「レーヴェン?」
「なんだか、違和感が……」
クシィにそう返して空へ舞い上がったレーヴェンは、それなりの高度まで上がったように思う。一同が見守る中、急降下して地に降り立った彼女は顔を強張らせて「全然遠かった」と告げた。
「この先に村が2つあって、その先にいるんだ。歩けばかなり距離がある、けれど……」
「……奴さんが向かってくる速度はそれより速いってか」
苦虫を噛み潰したような顔をして、クシィは一同に行こうぜと促す。できるだけ他の国から遠い地点で食い止めておきたい。そうすれば万が一があったとしても、多少の猶予があるはずだ。
駆け出す一同とすれ違うように人々が逃げてくる。手前の村か、それとも奥の村の出身者だろう。1つ目の村を抜けた先で、滑空するレーヴェンが何者かの存在を仲間たちへ知らせる。
イレギュラーズではない。しかしモンスターの類でもなさそうだ。あれは――。
「コルボ!」
「あ? てめェら、『大鴉』の獲物を狙うたァいい度胸してるぜ」
クシィの声にコルボがニィと笑う。彼が獲物と示したのはイレギュラーズたちが討伐せんとしている終焉獣。その口ぶりだと獲物の横取りは許さないと言いたげだ。
「――だが生憎、四の五の言ってられねェ状況だ。手を組もうじゃねェか。なあ、クシィ?」
「えっ……えっっ!?!?」
名前を呼ばれたことだとか、その申し出だとか、色々なことに驚いてクシィは目を白黒させる。その反応にコルボはニタニタと笑いながら一同を見回した。
大鴉傭兵団は気前よく砂嵐を縦断させる気などないし、イレギュラーズとしてはかの危険なモンスターをのさばらせておくわけにはいかない。利害の一致というやつだ。
「光栄に思えよ、この俺様と『大鴉傭兵団』が手を貸してやるって言ってンだ。『生き抜く覚悟』のあるヤツは付いてこい!!」
- <ダブルフォルト・エンバーミング>ブラックアゲートの猛攻完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年12月07日 22時26分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(10人)
リプレイ
●
「へっ、傭兵団頭領直々にお出ましたァ随分なお出迎えだなァ――なんてな」
『呉越同舟』キサラギ(p3x009715)の言葉に『大鴉傭兵団頭領』コルボがにやりと笑う。お互い、このセリフを3度言い、3度聞くとは思っても居なかっただろう。
(人生何があるかわからんものだな)
だから面白い、というべきか。最も、キサラギは人ではなく狐だが。
「あの大鴉と2度も肩を並べられるなんざ身に余る光栄だなァ」
「おう、ありがたく思え。とはいえ、この前のように殺されるンじゃねェぞ」
この前、というのはコルボと殺りあった時のことだろう。殺したと思っている相手に平然と言葉を返しているというのは、彼にとって中々奇妙な状況ではないのだろうか。
そう問えば、はっとコルボは鼻で笑った。
「てめェはここに立っている。それだけで十分だ。そもそも、イレギュラーズってのはその辺り奇妙なヤツが多いらしいじゃねェか」
恐らくはデスカウントやログアウトなどの事を示唆したいのだろう。NPCだからそれを正しく理解することは難しいのかもしれないが。
「成程な。ま、あの時はオマエの腹を満たせたようで何よりだぜ」
口端を上げて頷いたキサラギは不意に視線を滑らせる。キサラギとしては一先ず敵の元へ向かいたいところであるが――。
「ひゃえ……な、名前……初めて……」
「あ? 俺に呼ばれるのが不満か? なァ――クシィ」
「はわぁ……」
顔を真っ赤にして目をぐるぐるさせた『大鴉を追うもの』クシィ(p3x000244)の名をコルボが今一度呼ぶ。どうしようこれ夢じゃないみたいもう一度呼んでくれないかないや呼ばれるたびに心臓マッハで戦いどころじゃないんだけど!!!
「……はっ!」
そう、戦いである。これから一同は戦場へ向かうのだ。その返事をまだ、クシィはしていない。
「折角の共闘の申し出、受けねェ手はないさ!」
「それは何より。てめェらをぶちのめすのは流石に準備運動の範囲に収まらねェからな」
イレギュラーズともなれば、少なくともそこらの雑魚とは違う――そういう認識なのだろう。うんうんと『煉獄の覇者』†漆黒の竜皇†ブラッド(p3x008325)は非常に満足そうな顔で頷いていた。
「良いぞ、コルボとやら! 我と共に戦える栄誉に震えるが良い!!」
「ほお? じゃあ震えるくれェに強い姿を見せてくれよ」
コルボの言うそれは強敵を認識した際の喜びから起こるものに思えるが――ともあれ、鼻で笑われるような戦いをする気はさらさらない。
(こっちのコルボが魔種じゃにゃいのはわかってるけど、協力までしてくれるのは不思議な事にゃね)
『夢見リカ家』神谷マリア(p3x001254)はちらりとコルボを窺う。大鴉傭兵団のトップを担う男。その配下も傭兵を名乗って入るものの、実態は盗賊のようなものであるらしい。
マリアはきらりんと目を光らせると、さりげなくコルボに近寄って声をかけた。
「にゃーが頑張ったらコネを付けて貰えたりとか……しないかにゃあ? こう見えても怪盗なのにゃ。夜も困らせないし――」
「夜!?!?」
ここで過剰反応したのは当然、クシィである。その反応に目をぱちくりさせたマリアは冗談だと笑い飛ばした。うん、冗談である。半分くらい。
「ふん、悪いがウチは実力主義でな。例えガチだったとしてもそう簡単にコネなんぞはやらねェよ。ま、てめェがそれを覆すくらいの働きと執念を見せたら、覆すかもしれねェがな!」
コルボは呵々としながら答え、行くぜと一同を促す。こうしている間にも、あの巨人たちは砂嵐を進んでいるのだ。早くとっちめてぶちのめしてやりたいと言ったところだろう。
ばさり、と黒の翼が広がる。『黒ノ翼』メレム(p3x002535)は足回りを確認し、一同に続いた。
(さてさてと? まさかコルボが共闘してくれることになるとはね)
現実とは異なる世界。わかってはいたが、こういったこともあり得るということか。一方のレーヴェン・ルメスも現実世界では変わらず味方だったが、R.O.Oでは戦闘能力を持っているらしい。その在り方は相変わらずであるようだが。
「レーヴェンさんが何の憂いもなく各国を巡れる様、死力を尽くします」
「ふふ、ありがとう。もちろん私自身も頑張るけれどね!」
レーヴェンの力こぶを作るような仕草に『アルコ空団“輝翼”』九重ツルギ(p3x007105)は小さく笑みを浮かべて頷いた。しかしその表情はすぐさま引き締まる。
モルケ然り、ノーネーム然り。ここで食い止めなければ。
(砂嵐の地は……少し、故郷を思い出す)
『夜告鳥の幻影』イズル(p3x008599)はけれど、とも思う。懐かしさを感じると同時に、無くなろうとしている場所でもあるのだと。故郷という感傷に浸る暇は、ないのだと。
「そこのアンタ」
視界に入った大鴉傭兵団のメンバーを呼んだクシィは出来ればでいいんだが、と前置いて。
「レーヴェンは大鴉の一員じゃねェが、もしもの時は色宝を使ってやってくれねェかな?」
彼らに本来その義務はない。しかし戦場は異なれど、共に戦う仲間だ。
そんなクシィの想いに、団員は二ッと笑った。
「今この時は同士っすよ。他のヤツらにも伝えておきますんで」
「ああ、よろしく頼むよ」
時には敵。時には味方。彼らに頼みごとなんて変な気持ちだった。
「ノーネームはご自慢の傭兵団に任せていいだろう?」
「おうよ。あの程度なら丁度いい運動だ。なァ?」
前半はキサラギへ返し、後半は傍らを並走していた団員へ告げられた言葉だ。コルボの言葉に団員は元気よく返事する。
「ま、そういう訳だ。だが、」
「オマエと俺らはあのデカブツ。だろ?」
「そういうことだ」
キサラギとコルボは視線を交錯させ、にぃと笑みを浮かべた。
「こういうのが出てくると、終焉って分かりやすくて実感持てるよね!」
でも困ったなあ、と速度を緩めず眉尻を下げる『CATLUTONNY』すあま(p3x000271)。この巨人がどこへ行きつこうとしているのか定かではないが、ここで倒しておかなければ翡翠まで行ってしまうかもしれない。
「そうならないために、お互い最善を尽くそうね」
「うん。また後でね、レーヴェン!」
すあまはレーヴェンの言葉に頷いて道を変える。あちらはノーネームたちを食い止める為に。こちらはモルケを倒す為に。戦場は離れてしまうけれど、きっとまた後で会えると信じて。
(この距離で、あの巨体……凄まじく強大そうな敵です)
まだ射程へ収めるにはもう少し。それでも十分大きな姿に『仮想世界の冒険者』カノン(p3x008357)は睫毛を震わせる。
それでも負ける訳にはいかない。コルボの言う通り使えるものは何でも使って、協力していかなけばいけない状況だろう。
地響きが大きく、大きく、なって――さあ、始まる。
●
「巨人の弱点てどこだろう? 届く範囲だと――踵とか?」
心臓か、眉間か、うなじか。やってみなければわからない。届かないなら届く距離までおろしてもらえば良い。
手にした妖刀をすあまは大きく振りかぶり、勢いよく下ろす。闇色の身体がほんの少し抉られるが、内側からむくむくと闇が膨らみ、一見元通りに見えた。
(繰り返していったら、かき氷みたいに小さくなるのかな)
「マリアのぶぐー術ってやつ見せてやるのにゃ!」
前へ回り込んだマリアが勢いよく敵へ飛び掛かる。
膝関節部分の闇が切り払われていき、内側から膨らんできた闇も再びマリアが切り裂いた。瞬間、モルケの動きが不自然に固まる。
反応速度を上げたツルギは輝く無数の細剣を魔力で作り上げ、モルケの膝裏めがけ一気にけしかけた。それは吸い込まれるように僅かに軌道を変え、狙った位置へと向かっていく。同じように素早く踏み込んだイズルは聖晶の翼を広げる。舞った羽は刃となって、薄いであろう膝関節の裏側を裂いた。
「流石に、すぐ膝をつくことはない、か」
けれど夜告鳥の勘は間違っていないと思う。あくまでこの敵は人型を元としており、関節の裏は薄くならざるを得ないだろうし、その重さを支える膝や足首などは一度損傷してしまえば一気に弱体化するだろう。
「さァさァ、お先に行かせてもらうぜコルボ! 剣鬼キサラギ、参る!」
雲耀の如き足捌きは柔らかな砂地をものともせず。間合いまで踏み込んだキサラギの太刀筋が複数箇所を一気に斬りつけた。返すは六花の太刀。
「これだけデカけりゃ斬りがいがあるってモンだ!」
デカすぎて斬っても斬ってもまだ余りあるが、それくらいが丁度良い。そうでなければ物足りない。
Recon_Droneを飛ばした『Lightning-Magus』Teth=Steiner(p3x002831)は、コルボを抜かしてニィと笑みを浮かべる。
「いやはや、何とも頼もしいじゃねーの。あのコルボと共同戦線となれば百人力だぜ!」
目標は先に見えるデカブツ1体。自動反撃ドローンによる恩恵で軽く浮いたTethは鋭く肉薄し、ビームの如く雷撃を放つ。
かの図体は非常に大きく、かつこれだけの近さで放った攻撃は見事にモルケの膝へと命中した。
「サッサとブッ倒して、他の連中も潰しに行こうぜ」
「おうよ。精々楽に終わらない事を願いたいモンだ」
クシィとコルボは砂地を並走し、モルケの膝裏向けて攻撃を仕掛けていく。その後方から、メレムの歌とも声ともつかぬ音がさざ波のように広がった。
精神を削り、命を屠る波長。それはモルケの後をついてくるようだったノーネームをも巻き添えにする。内数体が同士討ちを始め、メレムはにんまりと笑った。
「世界を壊す輩には早々に退場願うとしましょうか」
全てを無と還すため、進もうとするモルケとノーネームたち。その行先はやはり、もう少し先の村のようだ。ブラッドはTethの放ったドローンの方向を見て確信する。
(いやまぁ別にぃ? それらが壊れて、不特定多数がどうなろうと? 我は、別に――)
ごめんちょっと嘘つこうとした。構わなくないし少々、いや多少寝覚めが悪い。
「可能な限り止めるぞ、皆の衆!!」
ブラッドの両翼が大きく羽ばたく。霧散した魔力が周囲で黒く凝り、無数の黒槍を形成した。
「我が牙は何者も貫かん! ディザスター・ファントム!!」
側面から撃たれた槍が皆の狙う部位を貫き、反対の膝関節まで到達する。しかし一瞬で傷の見えなくなった闇にブラッドは剣呑な表情を浮かべた。
「相手が巨大なら、それに適した戦い方もあるものです……!」
ふわりと足元を浮かせたカノンは妨害魔法をモルケの膝へと叩き込んだ。どれだけ大きな体であっても二足歩行、その身を支えている足の中でも強度が低そうな部位を観察する。その足がゆっくりと動き、前へ。地響きが重く響いた。その周りを揃って進むノーネームたちがイレギュラーズたちに襲い掛かる。
「おいおい、邪魔すんなよ」
小さく舌打ちをするTeth。雑魚に構っている場合ではないが、今ばかりは仕方ない。このままではモルケを攻撃するにも一苦労だし、放置して後々まで邪魔される方が面倒だ。
Tethの放った呪雷が縦横無尽に駆け回り、そこに内包された呪詛をノーネームたちへ伝播させていく。
「その先には行かせない! 通せんぼだよ!」
そしてモルケが動き始めるより早く、すあまが前へ回ってマークする。マリア、Tethに続きすあまがマークしたことでモルケが前へ進めなくなる。
「皆さんっ、巨人の腕がきます!」
モルケを視界に収めていたカノンが叫び、ほぼ同時に巨体の腕が振り回される。風と共に砂埃が舞った。
膝をついてさえしまえば、体を支えようとして攻撃は大きく制限される。そこまでの辛抱と言えば聞こえはいいが、どれだけの攻撃を与えればその状況まで持ち込めるのか。
イズルの薬液が味方へ向かって撒かれる。散開しているので全員へ行き渡るわけではないが、取り急ぎ必要なメンバーを回復しなければ。
その一方で逆境を作り上げたいメンバーがいるのも承知の上。それを考慮しながら回復を施すイズルは、ちらりとツルギへ視線を向ける。
「あまり無理はしないようにね。……特に、ツルギさん?」
「……善処しましょう」
この戦場だ、どうしてもという時はあるだろう。ならばより自身も、必要とする者へ回復が行き届くよう力を注がなければ。
「倒れろにゃあっ!!」
マリアは傷つきながらも攻撃の手を緩めない。少しでも緩めたならば押し負けてしまうかもしれない。
「おい、」
「平気! 色宝はコルボがなった時に使って!」
コルボの言葉を遮るすあま。そしてマークしたまま、躊躇いなくモルケの足にがぶりと噛みつく。
むっしゃむっしゃもぐもぐもぐごっくん。意外に弾力のある噛み心地であった。美味しいとまでは言わないが、別にまずくもない。しかし例えるのが難しい、奇妙な味である。
「はいはーい、割り込み失礼するよ」
黒い影がモルケの前へ滑り込み、再びその巨体は止められる。ビロードネイビーの外套を翻させたメレムはにぃと笑った。
「動かれちゃうと面倒なのさ。ここで倒れてもらえる?」
「そういうこった。意地でも通さねぇぜ!」
Tethも変わらずそこに在り。彼女らの背後にある村へ進行させぬよう、その身を張り続ける。それを厭うように闇の巨人は手で、足で、イレギュラーズたちを翻弄した。
「チッ! 残像も何もないってか!」
モルケの攻撃はあまりにも広く、大きく、重く。ゴーストシステムごとキサラギ自身を巻き込む。
「死んだか?」
「死んでねェ!」
「そいつァなによりだ」
コルボとそんな軽口をたたき、再び刀を構えるキサラギ。コルボも笑ってこそいるものの、その戦い方に手加減は見られない。
「石花の呪い……!」
背にある光の翼が徐々に石化していく。それを見たツルギは、しかしキッと鋭い視線を細剣と共にモルケへ向けた。
死したならばサクラメントから戻るのみ。しかしその前に少しでも生き延び、少しでもかの敵を削らなければ。
(原動天を生み出し、大樹を傷付けてしまった俺のけじめの為に)
この世界を消させてなるものか。何処へ行くにも怯えるような世界で在ってなるものか!
「てめェもへばるンじゃねェぞ。それとも、その程度か?」
「は……ッ、そんなワケ!!」
コルボからの激励――にしては言葉が粗雑だがこれが通常運転であり、当然ながらクシィには伝わっていることだろう――にクシィは飛び起き、ナイフを手元へ出現させて再びモルケに飛び掛かる。
「テメェはここで終わりだ!!」
これ以上人の営みを破壊させてなるものか。その全身全てを武器として、クシィは闇色の巨体を抉った。
「きたぜ! 奴さん、潰れやがる!」
Tethは倒れてくるモルケから後退する。彼女が先ほどまでいた場所はモルケの大きな腕に潰された。
ズズ、ズ、とモルケの身じろぐ音が大きく響くが、その巨体を支える膝を負傷したとあって立ち上がることが難しいのだろう。
「まさに大物よなァ……だがお陰で当てやすい事この上ない!」
「図体がデカけりゃ人間を羽虫のように潰せたかもしれねぇけどよ。相応にデメリットもデカいって事を思い知りやがれ!」
背面へ回り込んだブラッドが黒槍を展開し、その広い背中へと浴びせかけた。Tethはその隙を見逃さず攻撃を畳みかけていく。モルケは腕の力だけでも進もうとしているのか、地面に僅かな跡がついた。
「進ませません……!」
カノンのインタラプトが降り注ぐ。頭部に命中したそれに、モルケが一瞬動きを止めた。今だ、とマリアの鉤爪がより深く闇を抉る。
止まれ、止まれ。そう全身全霊を込めて、短時間で屠る技術全てを込めて。それでもしぶとく在るのは強敵の証であろう。
「――何度殺されても諦めませんよ。この世界は教えてくれた……不屈の意志は力になると!」
上空に影が差す。モルケが見上げる間もなく、その背に無数の魔力矢が刺さった。
「ツルギさん!」
イズルの声にひらりと片手を振って応えるツルギ。光の翼を広げた彼は、起き上がることを許さないと言うようにモルケを頭上から猛攻する。
(キミの心情と信条は知っている、だけど――)
ここにも居ることを覚えていてほしい。力が足りないと嘆く者が。弱く、歯がゆい気持ちである者が。
だって、私はキミひとりですら回復して支えきれないんだ。
「……わかっているさ」
雫の輝きが味方を癒す。勝手な事を思っているだけ。イズルの我儘。その自覚はある。
今は今の自分が出来る事を、精一杯やる他ない。
「戻ったよー! お待たせ!」
すあまがモルケの抑えを代わり、再び通せんぼする。些か巨人が前進したようだが、その身はすでに膝をついている。ここからいきなり猛進し始めることはなさそうだ。
ならば、一気に叩き込むのみとすあまは妖刀を構える。
その足元で、不意に巨人の影が揺らめく。それは一瞬にして伸びあがるとモルケを殴りつけ、再び影へと戻った。
「己が分身の反逆を味わった気持ちはどう? あ、気持ちってものを持ち合わせてるのかな」
かの影を操ったメレムが再び指先を動かす。こちらの"私"は遠距離だけが取り柄ではない。ノーネームも途切れた今、あとはモルケを徹底的に叩きのめすのみだ。
だがしかし、モルケとてここで屈するわけにはいかないのだろう。より一層全身を邪魔する者たちへ攻撃を浴びせ、その余波とも言える流れ弾が周囲のイレギュラーズたちを襲った。
石花の呪いにかかったマリアは夢魔術を用いた一撃で縦に闇を切り裂く。足りない? それならもう一度。何度だって食らわせてやる!
「最後の諦めの悪さ、見せつけてやるにゃよ……!」
石花の呪いが完成し、一輪の花を咲かせて死ぬか。それとも運を掴み取って生き残れるか。どちらにしたって最後まで殴り続けるだけである。
「焼き尽くされて消えな!」
キサラギの刀が焦熱を帯びる。闇でさえも飲み込んで焼き尽くし、塵ひとつだって残さない。巨人が痛みを覚えたかのように体をよじる。
「やー連発はしんどいね。そうも言ってられないけど」
シルヴァ・イーラを奏でるメレム。モルケの身体は段々と穴が塞がらなくなり抉られた場所がそのままになり、随分ボロボロだ。
「まだ耐え忍ぶとは……しかし我の前であとどれだけ持つかな!?」
ブラッドの黒槍が確実にダメージを蓄積させ、モルケの身体に穴を開けていく。もはやすぐに塞がらないそれは限界が近いことをイレギュラーズたちへ知らしめていた。
(貴方の研究は解らないままですが、この先――この世界が続くのなら。その時も来るのでしょうか)
攻撃を浴びせながら、ぼさぼさ頭の男を思い出すツルギ。興味があるかと問われれば、そこまでと答えるが。それでも信じていいと思える男だ。
弱いからこそ人を、仲間を信じられる。この勝利は1人ではなく、皆で勝ち取る勝利だ。
「こいつで仕舞いだ――消えな!」
モルケの周囲に無数の演算端子が召喚される。Tethはそれらで数術結界を展開し、その内部にあるモノを崩壊させていった。
頭部が結界の中で崩れる。
首から下が砂上へ落ちる。
その四肢から力が抜ける。
そして――全ては、掻き消えた。
「……ふん、ざまァみろってヤツだ。タダでここ(砂嵐)を通ろうなンざ誰が許したってこの俺が許さねェよ」
(かぁっこいいーーーー!!!!)
闇が霧散したそこへ吐き捨てるコルボにクシィの心臓が先ほどとは別の意味で速く動き始める。流石は世界をも狙う男。
「すあまー!」
「あ、レーヴェン! そっちも終わったんだね!」
空を飛んでくるレーヴェンにすあまは大きく手を振って応える。あちらもひと段落し、巨人の姿も消えたからやってきたのだろう。
「やあ疲れた疲れた。これから先がどう転がるやらだ」
メレムは砂の上に座り込み、空を見上げた。
青い空は綺麗で、終焉などそしらぬ顔だ。全く以て他人事な――そうひとりごちて、メレムは座っているのも疲れたのかごろんと砂の上に転がった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
無事にモルケ討伐となりました。
それでは、またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●成功条件
終焉獣の討伐
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。不測の事態に気を付けてください。
●フィールド
砂上のフィールドです。足元のマイナス補正があります。
OP上で示されていた2つの村のうち、遠い方の村付近で会敵します。この時点で村は壊滅状態です。もう1つの村は通り過ぎる際に無人であることが確認されています。
サクラメントはOPでエネミーの姿を確認した場所が最寄りです。それなりに距離があります。
●エネミー
・終焉獣『モルケ』
闇で形作られた巨大な人型です。小さな村程度なら片足で踏み潰せてしまうでしょう。動きを見ていると、関節の曲がり方などで前後ろが判別できます。尚、言葉は発しません。
モルケはシャドーレギオンたちを追いかけるような形で進軍しています。近くに村や町を見つけた場合、その破壊を優先します。3人以上でのブロックorマークで止める事が可能です。また、範囲攻撃などで多段ヒットを狙えるでしょう。
手で払う、足で踏み潰すなど単調な動作が多いですが、全ての攻撃が広範囲に届く攻撃となり、場合によってはノーネームと友軍の戦場まで届くでしょう。また『石花の呪い』のステータスが付与される場合があります。(『石花の呪い』については後述参照)
手数は少なく、命中率は非常に高いです。モルケが動くことで地響きが起こります。
・シャドーレギオン『ノーネーム』×???
闇で形作られた人型。こちらはモルケと異なり、皆様と同程度のサイズです。
これまでのシャドーレギオンはNPCにバグが植え付けられていた(実態があった)状態でしたが、ノーネームは実態を持ちません。誰かのDARK†WISHだけを抜き出し、複製されているようです。倒すと消滅しますが、とにかく数がいます。
モルケの存在によりバフがかかっているようです。終焉獣を倒すことで弱体化し、倒しやすくなるでしょう。
ノーネームは一様に『生きたい』と呟いています。それはもしかしたら既に砂嵐で命を落とした者の願いだったのかもしれませんが、彼らは生きる為に他者を殺そうとします。
反応は遅めですが、攻撃力が高いです。また、ひたすら数がいるので袋叩きになる可能性があります。
●友軍
・『大鴉傭兵団頭領』コルボ
現実世界では亡き、大鴉盗賊団頭領コルボ(p3n000204)と瓜二つなNPCです。非常に強欲であり、砂嵐に存在する傭兵団のひとつ、『大鴉傭兵団』を束ねる力を持つだけの男でもあります。また、闘争を愛するバーサーカーでもあります。
イレギュラーズとは交戦や共闘を経た関係であり、基本は敵ながらその実力を認めています。
格闘術で迫る近接ファイターで、とても頑丈です。他のステータスも全体的に高めと想定してください。モルケへ殴り掛かりに行きます。
・大鴉傭兵団団員×30
コルボに従う団員たちです。スカイウェザー、ブルーブラッド等が多く、飛行できる者は飛行状態で戦闘に入ります。コルボと共に『生き抜く覚悟』を決めた者たちであり、士気は非常に高いです。
彼らはコルボと異なり、それなりに指示を聞いてくれます。特になければレーヴェンと共にノーネームを相手します。
彼らは回避力が高く、手数も多いです。反して防御面がやや脆いため、早期撃破が得意なタイプで集まっています。
・レーヴェン・ルメス
レーヴェン・ルメス(p3n000205)のR.O.OにおけるNPCです。本人ではありませんが、性格等は現実に似ています。
翡翠でイレギュラーズに助けられた一件があり、今度は助力になるため参戦しました。現実と異なり、そこそこに戦えます。【飛行】が可能です。
特に指示がなければ、大鴉傭兵団の団員とともにノーネームたちを相手取ります。
●色宝
マジックアイテムの一種です。弱めの願望機として機能し、今回に置いては石花病の試薬の代替品となります。数には限りがあります。
コルボ、及び傭兵団のメンバーが所持しています。彼らはこれにより、数回だけ石花病の治癒が可能です。(2T必要になります)
●ご挨拶
愁と申します。
強敵が相手ですが、皆様にはコルボと傭兵団のメンバー、レーヴェンがついています。力の限り叩きのめしましょう!
それでは、よろしくお願い致します。
●ROOとは
練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
R.O.O_4.0においてデスカウントの数は、なんらかの影響の対象になる可能性があります。
●重要な備考
<ダブルフォルト・エンバーミング>ではログアウト不可能なPCは『デスカウント数』に応じて戦闘力の強化補正を受けます。
但し『ログアウト不能』なPCは、R.O.O4.0『ダブルフォルト・エンバーミング』が敗北に終わった場合、重篤な結果を受ける可能性があります。
又、シナリオの結果、或いは中途においてもデスカウントの急激な上昇等何らかの理由により『ログアウト不能』に陥る場合がございます。
又、<ダブルフォルト・エンバーミング>でMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。
MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
予めご理解の上、ご参加下さいますようお願いいたします。
●石花病と『石花の呪い』
石花病とは『体が徐々に石に変化して、最後にその体に一輪の華を咲かせて崩れて行く』という奇妙な病です。石花病は現実の混沌でも深緑を中心に存在している病です。
R.O.Oではこの病の研究者アレクシア・レッドモンドの尽力により『試薬』が作られました。幻想種達はこれらを駆使して、『石花の呪い』に対抗できます。
『石花の呪い』はバッドステータスと種別を同じくする特殊ステータス状態です。敵の攻撃がクリーンヒットした時に20%程度の確立で『石花の呪い』が付与されます。
『石花の呪い』に感染したキャラクターは3ターン後に体が石に転じ死亡します(デスカウントが付与される状態になります)
Tweet