PandoraPartyProject

シナリオ詳細

灯台守の朝食

完了

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オープニング


 灰色の海、灰色の砂浜、灰色の空。
 見渡す限りモノクロームの世界には、寒々とした地平線以外何もない。
 否。遠く岩崖に建つ灯台だけが打ち捨てられた世界に唯一存在する人工物であった。
 歩く度に砂浜が音を立てる。波が足を洗う。
 ちらほらと降る花びらのような灰は、もしかして雪だろうか。どうりで冷えるはずだ。
 そこまで考えて、ふと立ち止まる。
 雪とは、寒いとは、なんだ――?

「客か。それとも遭難者か?」
 呼び止められて顔を上げた。
 後ろをふりむくと灰色のマフラーと重々しいコートを着こんだ男が砂浜に立っている。
 表情は見えない。が、スコップを肩にかついで身体を揺らす姿はどこか気まずそうにも、困っているようにも見えた。
「アンタ、海に気に入られてる。早く上がったほうがいい」

 男は『灯台守』と名乗った。
 この場所に誰かが来るのは珍しく困惑していること。
 ここの海は気に入った人間の大切な記憶をさらってしまうこと。
 無くした記憶はしばらく経てば浜辺に打ち上げられること。
 そんなことを歩きながらぽつりぽつりと話した、気がする。
「記憶か。無くしたばかりなら、すぐに戻る」
 波の音が邪魔をする。
 霞みがかったように意識がはっきりとしない。自分という個が揺らぐ。
「その様子だとしばらく灯台にいた方が良いな。……ああ、霧が出てきたか」
 男はコートのポケットから懐中時計を取り出し、盤面を見下ろすと頷いた。

「朝食の時間だ。アンタも食っていくだろう?」

●失われた思い出
「思い出に残っている朝食はありますか?」
 焼けたパンと柔らかい珈琲の香り。規則正しい包丁の音。まだ暗い朝の廊下。
 大切な誰かと交わした挨拶。温かい記憶の景色。
「この世界には『自分の望んだ朝食が出てくる場所』があるそうなんです。けれども該当ページが灰色で塗り潰されてしまって……あの、調査をお願いできないでしょうか?」
 何も無ければ美味しい朝食を食べて帰るだけの依頼。そのはず、だった。

NMコメント

こんにちは、駒米と申します。
記憶喪失ネタをやってみたかったのでお手軽記憶喪失です。
全一章を予定しています。

●世界説明
 モノクロの世界。
 灰色の海岸と崖の上の灯台が舞台です。
『食べたい朝食』『朝食の思い出』のどちらかをプレイングに記入すると脱出可能となります。
 
●出来る事
 すてきな朝食をたべる
 灯台守の話相手になる
 浜辺で自分の記憶をさがす(忘れたはずの記憶を発掘することもあります)

●NPC
 灯台守 攻撃しなければ味方です

  • 灯台守の朝食完了
  • NM名駒米
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年11月24日 22時10分
  • 章数1章
  • 総採用数6人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
白いわたがし

DAY1 おめざめのごはん
 
 灯台守の靴跡と上品な蹄の足跡。砂浜ってまるで楽器みたいと少女は言葉を綾取った。
「ワタシの好きな素敵な朝食は」
 マ●の作った美味しいごはん。
 ところでマ●って何かしら?
 首をかしげて不思議そう。
 砂浜で拾った小さな花を抱いて、微睡むように目を伏せた。
「マのつくダレカのお名前? そしたらワタシはポポですね」
 蝶々のように浮かぶ名前も知らない小さなふわふわさんが、そっと彼女に寄り添った。
「あなたはだあれ? 可愛こさん」
 はじめまして、こんにちは。
「灯台守のあなた、この子にも何かいただけないかしら」
「流石に海鮮パエリアは無い」
「ぱえりあ?」
「何でもない。忘れてろ」
 灯台守は扉を開けた。

 くつくつ。
 暖炉の火にくべられた魔女の鍋。
 中身は隣に浮かぶ可愛こさんと同じ色のポタージュスープ。
 お湯が沸いたと鳴く銅色のケトルの行方をグレーダイヤモンドの瞳が見守った。
 エメラルド色のティーポット。
 おやすみなさいの色をした優しい金色のマグカップ。
 お●達と一緒に食べた美味しいごはん。
 焼きたてのパンみたいな可愛い子。
 ダレだったかは、まだ思い出せないけれど。
 受け取った白鍵のようなミルクと薔薇の紅茶が踊る。
 謳う南瓜のスープに金色のふわふわパン。ウッドテーブルの食卓にはちいさな月光花が一輪。

 これが優しいポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)の朝ごはん。

成否

成功


第1章 第2節

イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って

DAY2 賑やかな朝食

 ちゃぷちゃぷ、ざざーん
 天井の梁でランタンが揺れる。どうしてここには薬草がないんだろう?
「俺、この音知ってるよ」
 さっきも聞いたとぶっきらぼうに窓辺から。
「そうだったっけ」
 ぬいぐるみのようにお行儀よく座り、足を揃えた彼はランタンの灯を見あげた。
「貴方は灯台守さんって言うんだね」
 さっきも言ったと心配そうに暖炉から。
「そうだったっけ」
 ちゃぷちゃぷ、ざざーん
 波の音で勝手にダ・カーポ四周目。

 お腹の前でウサギのぬいぐるみを抱きしめる。手を放したら灰色の音に溺れてしまいそうだなんて言ったら笑われるかなぁ?
「朝ごはんはね、焼き立てふわふわのパンが好き。林檎と蜂蜜のジャムを塗って食べるんだよ」
 それは初耳と近くから。
「でも、ごはんは甘いものだけじゃダメなんだ。だって、いつもあの子がそう言うもの……あの子ってどの子だろうね、兎さん?」
 ぎゅっと抱いて誰何したって答えは無言。
 森の中の小屋に住んでる人なら教えてくれるかも?
「俺が食事をすると、三人とも嬉しそうなんだ。だから野菜のスープも飲むよ」
 テーブルクロスを埋め尽くす秋色。たっぷりキノコが入ったスープと真っ白な食パンとジャム。陶器のスプーンと白いボウルにはワンポイントに青幻薔薇。
 寂しがりやのイーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)の朝食を運んだ灯台守は呆れ顔。
「さっきから一人で誰と喋っているんだ?」

成否

成功


第1章 第3節

松元 聖霊(p3p008208)
それでも前へ

DAY3 憧憬の朝食

 朝食のリクエストを聞かれた時、白い麗人は頬杖をつき夢を診るように言った。
「月並みではあるけど、バターをたっぷり塗ったトーストに熱い淹れたての珈琲がいいな」

 伏せ目がちの片紫が黒々とした水面に映りこむ。マグカップのふちを指でなぞると青年は無邪気に笑った。
「今はブラックだけど、ガキの頃は砂糖とミルク入れて飲んでたんだよな。目の前に座るあの人に憧れて背伸びして珈琲にしたんだけど苦くて飲めなくてよ……」
 湯気をまとった真っ黒な液体をひとくち。
 粗い焙煎と灰汁のような雑味が舌に広がる。思わずにがいと顔をしかめた。
 テーブルの向かいに座った灯台守は、断りもいれずにミルクの入ったピッチャーを傾けた。
 ぐるぐる。マーブル模様に砂糖が三杯沈んでいく。
 飲みやすくなったが何かが違う。
 あの人の味じゃないと顔を顰める。
「……あ? あの人って誰だっけ、思い出せねぇ」
 華やかな顔から色が抜け落ちる。惚けた青年の顔は美しく、どこまでも幻想的だった。
「記憶が戻らないのか」
「そういや此処では一時的に記憶が攫われるとか言ってたな」
 患者の爺さんみたいにボケちまったかと思ったと冗談めかして言うと、存外真面目な視線が青年を見つめていた。
「故人の記憶は戻り難い」
 テーブルの上には延齢草が一輪、役目を果たした薬瓶の中に供されている。

 憧れの背中を追いかける、松元 聖霊(p3p008208)の朝食。

成否

成功


第1章 第4節

マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔

DAY4 悪魔の早餐

「朝食か」
 テーブルクロスの上にはテーブルナプキンの蓮の華。手慣れたようにそれを広げた彼女は、捧げられた純白の皿を前にして貴族のように微笑んだ。
「一杯のコーヒーと、あれはクロワッサンだったかな。それとベリーのジャム」
 記憶の五感を引き出すように葡萄酒色の瞳を閉じ、熱いコーヒーに舌鼓をうつ。
「どれも香り高く私の目を覚ましてくれて、簡素ながらも至高の朝の時間を彩ってくれたものだ」
 灰色の空。銀のナイフとフォーク。バターの香りと焼き色が芳しい虎柄のクロワッサン。簡素だが優雅な朝の風景だ。
「落ち着いているな」
「そうでもないさ、動揺してる」
 彼女は答えた。
「記憶を失うのは座りが悪い。自分のレゾンデートルを忘れて冷静で居られる者がいるだろうか。……今だって、君のすぐに戻るという言葉にすがっているだけだよ」
 その言葉に、ひどく比護欲をかきたてられる。自らの意思が正常なものか、灯台守には分からない。
「後はデザートに……そう、白い羽根の様なものを食べた記憶があるな」
「羽根?」
 灯台守は聞きかえした。
「あぁ、あの極上の甘味をもう一度味わってみたいものだ」
 赤いジャムを塗る彼女の周りが軋む。
 彼女の言うところの『甘味』が近くを通ったのだろう。とんだ大物を引き寄せたものだ。
「羽毛クッションで我慢してくれ」
「ん?」

 白いモノが好きなマルベート・トゥールーズ(p3p000736)の朝食。

成否

成功


第1章 第5節

ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針

DAY5 はみだし者の朝食

 狂った秒針に革のこすれる音が混じる。
「外しても良いのか?」
 コートハンガーにかけられた白い装飾具を灯台守は見やった。
「ああ。息苦しいし、正面が見辛いし……何より、今はこの仮面をつけている理由が見当たらない」
 白い髪や服についた灰色の砂を払い落としながら、其の人は何てこと無いように言う。
「それよりも、すまない。助けてもらったのに名乗ることすらできず」
「そういう場所だからな」
 木皿には黒パンが一塊。灯台守はパン屑を散らしながら薄くナイフで切り分けていく。
「もっと美味しい朝食の記憶があれば良かったのだが。しかし、これが大切だったのだ。あの時の私にとって、朝食は二の次だった」
 あの時?
 寒さにかじかむ手で詰め込むように食べた。
 どうして?
「そうしなければ。急がないと、あのくだらない病がやってくる。私が救わないと。それが無理なら、せめて看取るだけでも……」
 ふと、花の香りに顔をあげる。
 白百合と野草が生かった花瓶。ラベンダー入りのハーブティ。
 瓶入りの蜂蜜にキャンディ、クッキーに燻製。雑多にテーブルを賑やかす小皿の中身はどれも甘みが強そうだ。
「……はぁ。帰って、熱い湯に浸かりたい」
 溜息のように弱音を吐きだす。
「私の家は一体何処にあるのかな」
 窓の外は灰色。青空も星も無い世界で朝を摂る。

 皆を救いたかった、ルブラット・メルクライン(p3p009557)の朝食。

成否

成功


第1章 第6節

リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛

DAY6 家族の食卓。

「いただきまーす!」
「朝食にケーキ? 変わってるな」
「ふふー」
 むぐむぐと生クリームとフルーツいっぱいのケーキを頬張る鉄の子供は、目を細めて無邪気に笑った。
「お父さんが試合に勝った次の日は、お母さんがケーキを焼いてくれるんだ! パンもね、お母さんの手作りなんだよ」
「そうか」
「ケーキを一番最後にとっておくと、お兄ちゃんに取られるから一番最初に急いで食べなくちゃいけないんだ」
 朝ごはんってとっても忙しいんだよ、戦場なんだと真面目な顔でオレンジジュースに手を伸ばし、一生懸命飲みこんでいく。
 とる者などいないのに、癖のように。
「ぜシュテル卵のオムレツもふわふわで……あ」
 甘えるように言葉を紡でいた子供の手からフォークが落ちる。
「でも、ええと、うん、そうだった。ホントはもうこんな朝ごはんはあるか、わからないんだった。えへへ、ボク、忘れてたや」
 海は気まぐれだ。時に忘れたはずの痛みを連れてくる。
「覚えていても寂しいだけなら海に持って行かれたままでいいや」
 足を揺らし椅子から飛び降りる。
「灯台守サン、スコップ貸してください!」

 リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)が砂浜に埋めたのは、両手いっぱいのさようなら。
 こんな記憶はしらないよと海に告げて歩きだす。
 崩れた星の砂が靴のなかに潜りこんでいたことに穴掘り人は気づかない。
 特別な日の、賑やかな朝食。

成否

成功


第1章 第7節

DAY7 灰色の朝食

「今朝は静かだな」
 蒸留酒をスキットルに詰め浜辺を散歩する。アルコールをボトルに入れて持ち運ぶ、という文化を彼はつい最近知った。
 モラヴィチェという国では死者の魂を陶器の船で運ぶ。
 その船が無事に死者の国にたどり着けるようにと建てられたのがこの灯台であり、男は唯一の守り番だった。
 一人ゆえに暇を持て余す。
 そんな時、船上ラジオから聞こえてきた悪霊を退ける存在に、久方ぶりに興味をもった。
 見てみたい。
 だが入口とはいえ死者の国に生者を招くことは重罪になる。
「ようは中の連中にバレなければ良い」
 灰色の世界で祝いの酒を飲む。
「良い朝になったよ、イレギュラーズ」

 満足そうな寝ずの灯台守バガの朝食。

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