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シナリオ詳細

小芝居しないと進めないダンジョン~社畜編~

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●小芝居しないと進めないダンジョン
 そこは幻想で最近発見されたダンジョン。
 奥には素晴らしい宝があるとされながらも、誰もクリアできないでいた。
 その理由は、そのダンジョンのギミックにあった。
 そして今……ダンジョンギミックをクリアできなかった敗者たちがダンジョンの外に射出されてくる。
「ぐあー!」
「うおおおお!」
 スパーン、とダンジョン外に怪我1つなく排出された男2人だが……悔しそうに地面を叩く。
「くそっ! そんなにたくさん社畜小芝居なんか出てくるわけねえだろ!」
「そもそも社畜になりたくねえからこんなダンジョンに来てんだしよう……!」
 中々苦労しているようだが、ダンジョンギミックはその辺りに忖度してはくれない。
 再挑戦するか、帰るか。2人に出来るのはそれだけなのだ。
「おい、ジョン。さっきのテンションでもう1回いけるか……?」
「無理っす。大体社畜時代思い出すと心が痛ぇんすよ」
「だよなあ……俺もだ」
「次やったら3日は立ち直れない自信ありますぜ」
 2人の男達は顔を見合わせると、溜息をついて立ち上がる。
「……帰るか」
「ええ。もっとマトモなダンジョン探しましょう」
「つーか、前にも似たようなダンジョンあったよな」
「3度目ですぜ? なんで来ようと思ったんすか」
「お前が止めねえから……」

●小芝居しろってことだよ、社畜系の
「というわけでダンジョン探索の依頼です」
 チーサ・ナコックはそう言うとダンジョンの資料を取り出した。
 正式名称は不明。
 愛称は「小芝居しないと進めないダンジョン~社畜編~」だ。
 前に「青春編」があったが似たようなギミックのダンジョンがまだあったらしい。古代人マジ怖い。
 ちなみにこのダンジョンの情報を掴んできたのは散々・未散(p3p008200)だ。
「なんで見つけてきちゃったですか? これで3つ目なんですが?」
「楽しかったから……」
 真面目な顔で問いかけるチーサから、未散はサッと視線を逸らす。
 しかし、見つけてしまったものは仕方ない。
「ルールは簡単で、部屋に入った後に社畜をテーマにした小芝居をする。2人1組でも3人1組でもいいらしいです」
 必要なのは芝居にかける「熱」……つまり演技だ。
 それを部屋の古代機械が判定し、クリアすれば次に進めるという仕組みだ。
「必要な芝居数は不明ですが……ま、前回を考えるに芝居の熱量次第だと思うです」
 芝居自体も難しいものではなく、本当に小芝居で良いらしい。
 社畜をテーマにしてさえいればシリアスでも恋愛でも残酷譚でもなんでもいい。
 というか古代にも社畜がいたのだろうか、こんなダンジョンが3つも存在する辺りヤバげではある。
 そして、奥に進めば進むほど熱量の高い演技が必要になってくるだろう。
 恥ずかしがらずにそういう事を出来る度胸が大切ということだ。
 失敗したらダンジョンの外に射出されるが、再挑戦は可能だ。
 また熱量が足り無さそうだな……と思うなら演技の追加なども可能だ。
 これぞ社畜と一撃で分かるような、そういうのである。
 無論、それは最後の手段ではあるだろうが……そういう手もあるということだ。
「無事に奥にある宝を手に入れれば完遂です。ま、頑張ってくるですよ」

GMコメント

今回は散々・未散さんからのアフターアクションです。ありがとうございます。
まさかの小芝居しないと進めないダンジョン、三作目です。

さて、小芝居しないと進めないダンジョン~社畜編~です。
チームを組んで社畜系の小芝居を実施しましょう。
プレイング全部を内容と相手で埋めてOKです。
互いにNGシーンを打ち合わせてプレイングを決めると良いと思います。
なお、相手が見つからない悲しい子はチーサを拉致できます。ちゃんと適宜合わせてくれます。

ちなみにですが、無理矢理突破しようとした場合には古代ゴーレムが現れます。
無茶苦茶強いので、無理矢理突破はしない方が無難でしょう。
一応こんな感じです。

・無粋な奴をぶっ飛ばす古代ゴーレム
全長10Mの謎金属製の古代ゴーレム。
ゴーレムパンチと範囲攻撃のゴーレムビームを使います。
もうとんでもない強さです。

一番重要なのは「最後の部屋」なので、そこの担当はしっかり決めておいた方が良いでしょう。
なお、お宝は「各演技の激熱シーンを激写したクリスタル板」です。
破壊不能のすげーやつです。思い出は永遠に……。

それでは、皆様の熱い演技をお待ちしております!

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 小芝居しないと進めないダンジョン~社畜編~完了
  • GM名天野ハザマ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年11月25日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
ティフォン・テンタクルス(p3p007865)
仕事の後の一杯
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士
エルシア・クレンオータ(p3p008209)
自然を想う心
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
航空猟兵

リプレイ

●準備せよ、小芝居の為に
「なんだってこんな小芝居しないと進めないダンジョンが沢山あるというのか」
『天穹を翔ける銀狼』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)が、そんなどう考えても当然の疑問を口にする。
 しかも今回のテーマは社畜なのだ。古代から社畜が存在したとか、かなり絶望が凄いがそれはさておき。
「社畜……練達で読んだ本にそんな感じのものがあったな。どう考えても普通では無い労働環境、あからさまな上司のパワハラに晒されながらも何故か会社に従って労働に準じる者達の事なんだとか……そもそも会社とかよく知らないが、本で読んだ知識で頑張るしかあるまい」
「社畜……」
『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)の視線は自然と『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)に向けられる。
 何故だろうか、社畜のオーラを感じたのか社畜を作り出す側のオーラを感じたのか。どちらであるかで寛治の背負うカルマの量が違いそうだ。
「パワハラ担当の新田部長です。芝居ですからね。しかたないな~」
 何やら怪しげなことを言っているので後者かもしれない。
「さて、社畜編ということですがシャチクとは何でしょう……?」
 この系統のダンジョンのちょっとばかりプロと言ってもいい『決死防盾』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)は、何やら衣装を用意してきたようだった。
「とりあえずわかりませんし皆様の真似のようなことをしてみましょうか。ということでまずはこうやって……こうやって……はい。女装します」
 はい、女装しますではない。
「ストッキング(風に見えるタイツ)に、タイトスカートに、化粧はチル様にお願いしつつ。おじさんでもいい感じの女装になったのではないでしょうか。ええ。これで煽ればいい感じのお局様? っぽくなるでしょう。ですので、ええ、頑張らせていただきます」
 ヴィクトールの躊躇いのない女装に、入り口からたまたま見ていたらしい【自信過剰】スタニスラフ・グレイヘンガウスが吐いていた。
 説明しよう!スタニスラフ・グレイヘンガウスはヴィクトール=エルステッド=アラステアのことを蛇蝎のごとく嫌っている男だ!
 そんなスタニスラフのもとに届いたのは、その“蛇蝎のごとく嫌っている男”の女装姿。
 問答無用で吐いた。
 これを始末しろ! と執事に命じたのは言うまでもなく。
 しかしそれはこれから始まる地獄とは別の話である。
 あと気持ち悪さに耐えられなくなって運ばれて行ったスタニスラフを誰かが運んで行ったのを『仕事の後の一杯』ティフォン・テンタクルス(p3p007865)が疑問符を浮かべて見ていた。可哀想。
 ちなみにヴィクトールに化粧をポフポフと施しているのは『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)である。
 その隣には制服一式を着て厚化粧をしている『自然を想う心』エルシア・クレンオータ(p3p008209)の姿もある。
 こちらもやる気満々だが、なんだろうか。寛治のマネージメントがすでに炸裂しているのだろうか?
「社畜……確か、お家に帰れないとか仕事があほみたいに渡されてる人の事を言うって聞いたですよ! それなら、ある程度の模倣は出来るですよ! がんばるですよ! 演技、がんばるですよー!」
 そんな『エルフレームMarkSin』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)の元気な声が恐ろしくも響いていた。
 そう、地獄の小芝居の始まりである。
 すでにこの小芝居系ダンジョンのことは分かっている。
 すなわちクリアに必要な回数は芝居の熱量が全てを決める。
 だからこそ、今回の社畜小芝居は二部構成の1本絞り!
 これが吉と出るか凶と出るかは……まだ、分からない。

●小芝居せよ、クリアのために
 カタカタと謎の小道具の音が響く舞台で、アーリアにスポットライトが当たる。
「私、アーリア・スピリッツ28歳。新卒でPPP商事に入社して早7年、後輩も増えてそこそこいい年頃。新卒の頃は「アフター5でヨガとかお料理教室にも行って、再現性東京のコリドー街で総合商社の人に出会って結婚、産休――」なんて思っていたのに今私は休日の誰もいないオフィスで仕事中。出会いなんてないわ。人事異動で新田部長の下で働くことになってしばらく、どんどん人が減っていったの。なのに新田部長は「アイツは使えなかった」「皆が努力して効率よく仕事をすれば本来この人数で回せるはずだ」って……うっうっ、どうしてなの」
 スポットライトが消えていき、次に照らされたのはヴィクトールと未散。
「ちょっとアナタ」
 給湯室で見かけた大人しいあの子。具体的には未散である。
「あ、おつb……ヴィク子さん今日和」
 お局と言おうとした。かなりの胆力ではある。
「アナタ如きが社長に近づいていいと思っていらして?」
 大柄な身長を活用し圧をかけていく姿は、かなりのものだ。
「朝だって社長と随分と仲良く一緒に居られたじゃない? 盛ったメス猫みたいにニャンニャン甘えまくって」
「やだぁ、朝のランニング中に 『た ま た ま』 会って意気投合しただけですよ」
「はあ!?」
「社長には秘書にならないかと言われていて……冗談だと思いますけど」
 ちなみにヴィクトールとしては本来女性にこの様な事を言うのは不本意なのだが……こういう演技なので仕方ない。
 事前にちゃんと未散には謝っている。
 しかしなんか必要なかったような気がしないでもない。
「枕? 何の事でしょう、強いて云うならそうですね……ヴィク子さんに無くてわたしにある物。『可愛げ』ってやつの問題で御座います」
「煩いわね、アナタもいつまでもちやほやされてると思ったら大間違いですからね」
「あっと失礼します、社長室に呼ばれているので……ディナーを一緒にしないかと。当然現秘書であるあなたさまなら予定は把握していらっしゃる筈ですが」
 にらみ合いのあとに……ヴィクトールは握っていたカップをぐっと握りしめて割る。
 バキャーン、と凄い音をたてて割れているのが相当怖い。
「そんなに睨まないでもヴィク子さんの事は『いい先輩』だと言っておきますから、結婚のチャンスがあると良いですねぇ?」
 言いながら去っていく未散だが、内心「2m(凡そ自動販売機)の女装の圧すっごい」とか考えている。
「全く……あんな雌猫に奪われてたまりますか! 社長の秘書は私だけで十分ですのよ! それに結婚のことも含めて……きいい!!」
 はー……あの媚び媚びの雌猫と一緒に忘年会なんてやってられないわ、などとぼやきながら茶をくんでヴィクトールは給湯室をあとにする。
「社長秘書の座は絶対に渡しませんわよ。私が! 絶対に! 夫人の座につくのですわ!!」
 ちなみに社長の役はいなかったので一瞬だけチーサにスポットライトが当たる。今回出番はこれだけなのでホッとしていた。
 さて……場面が切り替わり、スポットライトが当たるのはティフォンである。
「俺はブランシュと休日出勤タスクを消化するぜ! これを時間内に終えて忘年会か、終わるか? いや終わらせるんだろ!? 無理なら業務→忘年会→業務コース確定だな……どんな形であれ仕事上がりに酒が飲めるなら頑張れるぜ」
 その理屈で言うとかなり肝臓に悪そうなのだが……さておきブランシュにもスポットライトが当たる。
「えっ、仕様変更? 納期2営業日前ですよ? 日数は伸びない。あっはい。かしこまりました」
 すでに何か黒いオーラがヒシヒシと出ている。
「開発部のブランシュですよ。急に顧客から「この辺イケてないんで、もうちょっとこうしましょう!後はいい感じによろしくお願いいたします」と言われましたですよ。これを解決するにはもう、土日出勤するしかないですよ。ティフォンさん、一緒に土日出ましょうですよ」
 ここで一瞬舞台が暗くなり、明るくなると2人の机に空き瓶が積み重なっている。
「えっ、メンテナンスの都合で入退館システムは止まってる? 勤怠システムは機能しない? いきなりサービス出勤になることが決まったですよ。ティフォンさんの14連勤には負けるけど、ブランシュも12連勤くらいしてるですよ。3勤くらいは徹夜だったと思うですよ。しかもこの間タイムカード見たら、定時に上がっていた事になってたですよ。こいつは死んでいい奴ですよ。つい本音が出たですよ。これは閉まっておくですよ。今日も財布からエナドリ代の小銭が飛んでいくですよ」
 遠い目になるブランシュだが、ティフォンも中々だ。
「なぁ……休日出勤組は俺とブランシュだけのはずなんだが、なんでどいつもこいつも連絡したら即連絡が返ってくるんだ?」
 しかも5コール以内である。恐ろしい。
 たぶん上司とかが休日を仕事の準備期間とか言っているに違いない。自分は遊んでるくせに。
「平日と変わらない形で業務が進んでいく……これらの業務には勤怠はつかない故に手当も発生しない。ただただ平日休日かわらずに業務が遂行され、その行為自体に誰も疑問符をもっていやがらねぇ……恐ろしいッ!?」
「恐ろしいです……」
 天を仰ぐ2人を残して場面は切り替わり……スポットライトが照らすのはエルシアだ。
「私は、知っているのです……社畜とは、セクハラやパワハラに耐えて仕事をせねばならない種族だと……いいえ、直接の売上に繋がらない事務OLたる私の業務は、一線で働かれる皆様の仕事効率を少しでも上げる事。だとすれば、お尻を触られたり怒鳴られたりする事も、社員の皆様のストレス発散に貢献して仕事効率を上げる、OLの立派なお仕事に違いありません!」
 そんなオペラの如きエルシアの独白が響くが、色々と間違っている。念のため。
「お茶汲みもコピーもてきぱきと! セクハラ? パワハラ? 私達が報告書を作らなければ起こった事になりません!」
 尤も、私自身はお茶汲みもコピーもやった事ないんですけれどね! と叫ぶエルシア。
 あと言ってる事がヤバいが実際にそういうタイプの企業が社畜世界には存在するのが更にヤバい。
 ヤバいのに社畜世界の現実に即しているのが凄くヤバい。さておいて。
「ですから、失敗してセクハラされながらパワハラな叱られ方をするのも甘んじて受け容れましょう……先輩が自ら理不尽の中に身を置いてみせる事で、後輩達も見習うようになってくれる筈なんです!」
 それはどうだろうか。このPPP商事、凄くヤバそうである。
 そしてスポットが当たるのはゲオルグだ。
「何故か並行して進めることになってしまったプロジェクト。無理な労働環境から発生する業務の遅れ。遅延を解消するために人員投入されるも破綻し始める情報伝達」
 語りだすのは酷くブラックな現状だ。
「それでもようやく終わりが見えたと思ってきた頃に唐突に突きつけられる仕様変更、変わらない納期。発覚する同僚のやらかしに納品後に発見される不具合……その上、出席強制の忘年会まで追加。やることが……やることが多い!?」
 そして場面は寛治とアーリア、未散中心に全員に切り替わる。
「アーリア君、この書類昼までに処理しといて。契約条件に変更入ったんで、急遽決済取り直さなきゃいけないから。未散君、この資料は全然ダメ。ボツ。私の言ったこと全然反映されてないよね? 入社何年目だっけ? 何、昨日と言ってることが違う?そんなの臨機応変に対応しなさいよ。期日に間にあわせるのも仕事ですからね」
 ちなみにこの手の上司はこういうのを状況に応じた即断即決とか言って自分を即断力のある奴だと自慢したりする。
 何かあれば部下のせいであるし一生治らないので覚悟が必要である。
「あ、それから部の皆、ちょっと早いけど金曜日に忘年会の第一弾をやるから、全員出席必須でよろしく。未散君とアーリア君はお店探して予約しといて。費用? 出るわけじゃなでしょ。今経費で落とすの厳しいんだから。じゃ、私はこの後外回りから接待に直行だから。接待の領収書は明日持ってくるんで経費申請よろしく」
 この場合全員(寛治除く)から参加費を徴収し寛治に「ごちそうさまです」と言うのが通例である。地獄かな?
「えっ新田部長、忘年会ですか。あのその日はどうしても外せない先約があって、参加は任意だって……あっはい、ずらせるので参加できます」
 そうして始まるのはアーリアの独白だ。
 バックで響くカタカタという謎の音が物悲しい。
「こうして趣味のライブチケットを紙切れにしたことも何度あったか。散々先輩と調べた候補店を業務後に回って忘年会の店を探さないとね。接待で使ったジャンルと被らず、喫煙ブースも広くて皆の路線で帰りやすく、あと途中で女子社員の出し物が出来るスペースを確保して、それと2時間制限の所を交渉で3時間に」
 プランの描かれた大きな紙がアーリアの後ろを幾つも通り過ぎていく。
 ちなみにやっているのはこの独白の間手すきの面々である。何気に寛治も混ざっている。
「そんな中でも年末に向けた業務は減らない、あっ今週中に。はい。今日木曜です。新田部長この領収書宛名が空欄……あっはい筆跡変えて書いておきます。えっこの前この案件はAって、あっBですか。はい。もうやだ」
 ちなみに5分前に言ったことも即断即決臨機応変の名の下に変わるので注意である。
 そういうのは朝令暮改って言うんだ馬鹿。
「でも私、もう決めてるの。来年には転職して、超絶ホワイトな合同会社Re-versionで黒くて羽の生えた無害なねこたんのお世話するって! なのでここまでのまずそうな会話も瞬間記憶でメモ、リピートサウンドで録音よ。忘年会の時もお酌をして色んなハラスメントを笑顔で流すし、流行のダンスだって踊ってみせる。あとは最後に労基に証拠品を突き付ける! 新田部長……お疲れ様でしたぁ♡」
 アーリアに見える明るい未来。
 転職は上手くいくかもしれないが、労なんとかが動いて解決するかは別問題である。さておいて。
「何!?このタイミングで仕様変更だと……だめだ、間に合わねぇ。あと30分以内にオフィスをでないと忘年会会場には間に合わない。いや、まだだ。最速でタクシーを拾って店の前まで着ければあと20分は余裕がある。ギリギリまで対応しつつ仕事をこなすための道具をかばんに突っ込んで……タクシー拾うぞ。一応領収書切っとく?」
「ふとキーボードを叩きつつ思ったんですよ。こうしてメール打って返ってくるのが早いと、相手方も休日出勤を強いられているんだなって……」
「おいしっかりしろ! 受け答え能力を最低限残しとかないと後々面倒だぞ!」
 舞台は変わって、忘年会である。
 全員参加の忘年会で、寛治が乾杯の音頭を取る。
「今日は無礼講でいいんで、楽しく飲みましょう、乾杯!」
 無礼講とは言ったが無礼を働いていいとは言っていないし命令に逆らえとも言ってはいない。
 あと上司の機嫌を取らなくていいとも言っていない。
 言っとくと「俺は気遣える上司」感が出せるというだけなので空気を読むのが社会人マナーである。念のため。
「男はちゃんと飲めよー。ほらイッキ! イッキ! 男なら瓶で行け瓶で。ビール瓶イッキだ! 女性はちゃんとお酌してもらわなきゃ困るよー。ほら隣座って。相変わらずいい尻してるねえアーリアさん」
 ここは台本には「触る」と書いた後に二重線で消してある。
 消さないと寛治が後でアーリアに消されるし寛治も紳士なので当然の処置である。
「未散君もエルシア君もブランシュ君もこっち着て座りなさいよ。近いって? まあまあ良いじゃないの。無礼講無礼講。まあ飲んで飲んで。何? 私の酒が飲めないのか? なんてねー! まあいいからいいから。ほらほら」
「あっ、もう! 部長は本当駄目なんですからぁ~❤︎」
「この後仕事があるから終電までに終わるよう途中退出? 何の為に会社に寝袋があると思ってるんですか! あ、私はこれからホテルに誘われてるので……」
 未散とエルシアの演技も実に堂に入っている。あと寝袋なんてなくて床で寝ていたりする社畜もいるらしい。
 社畜レベルが上がると寝る事を許されず次の日勤務したりするらしい。それはさておいて。
 そして寛治の演技……本当に演技だろうか、実はどっかで同じことやってないだろうかという疑惑をはらみつつ、ゲオルグの独白が始まる。
「正直、忘年会に参加するくらいなら仕事進めたいのだが……とりあえず、上司の機嫌を損ねないように気をつけよう」
 適当に相槌を打ちながら、上司のコップが空になったら酒を注ぎ、酒を注がれたら嫌な顔をせずに飲む。
 上司役の寛治は楽しそうだが、演技なので用意してあるのは泡の出る麦茶である。
「あぁ、にゃんこが吸いたい……吸いたいよ。もう一ヶ月も吸っていないというのに。ダメな大人よろしく何も考えずにダラダラゴロゴロしつつ、にゃんこを吸って5000兆G貰える……そんな未来を夢見ていたはずなのになぁ……」
 そんな事を言っているゲオルグの横のティフォンにもスポットライトが当たる。
「いつクライアントから仕様変更の詳細が降りてくるかわからねぇから一番下座についていつでも出入りできるようにしとくぜ。連絡が来たらそこからは座席とトイレのシャトルランだ」
 これは座席で電話してると空気読めないとか仕事してるアピールするんじゃねえと罵られるからである。辛い。
「修正内容を確認しつつ対応工数の見積もりをするぜ。忘年会もしっかり参加だ、酒が飲めるからな」
 言いながら、ティフォンは電話を手に取る。
「お、クライアントからの連絡がきたな。どれどれ……何……!? 修正納期は明日、だと……これは、もう……」
「ほら、全員二次会行くぞー! 仕事がある? そんなの明日やればいいだろう。誰か店探しよろしくー」
 ちなみに明日は一応休日ということになっている。
 タイムカード上でも同じである。
 そんな社畜たちの嘆きが響き……ファンファーレが鳴り、ドアが一斉に開いていく。
 衝撃の一発クリアである。演技を終えたエルシアが正気に戻っていたりするが、そんな小さな犠牲と共に全員がお宝である「各演技の激熱シーンを激写したクリスタル板」の前に進み出る。
 見えてくる映像、聞こえてくる声は……。
「相変わらずいい尻してるねえアーリアさん。未散君もエルシア君もブランシュ君もこっち着て座りなさいよ。近いって? まあまあ良いじゃないの。無礼講無礼講。まあ飲んで飲んで」
 素早い動きで水晶板を手に取ろうとするアーリアと寛治が、同時に水晶板を掴む。
 破壊不能である上に悪質な切り抜きである。何処かに永久封印の必要があった。
「この水晶板、私にお任せいただけませんか……!?」
「どうしようかしらねぇ……!」
 新田 寛治、44歳。此処からが交渉の腕の見せ所であった。

成否

大成功

MVP

アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯

状態異常

なし

あとがき

コングラチュレーション!
皆さん、社畜に詳しすぎませんかね?

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