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シナリオ詳細

麒麟一番漬けビール製造計画! ~黄野を漬けて~

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 麒麟。その名をご存じだろうか?
 異世界においては瑞獣の一種とされる伝説上の動物――
 泰平の世に現れ吉兆を指し示す聖獣ともされている。
 斯様な存在がその異世界に実在したかはともかく……そういう伝説があり、故にこそ麒麟は『縁起の良い存在』としても見られているのは事実だ。かの獣こそ幸運を齎すと――
 そして、そういった風潮は混沌世界にも存在しており。

「ええい、離せ! おぬしら、オレを縛り上げて……一体なにが目的だッ!」

 ――しかしだからこそ、その麒麟の縁起の良さを狙う者も存在するものである。
 豊穣のある街。そこで突如縛り上げられたのは野黄(p3p009183)であった。
 正に一瞬の出来事……走る馬車が黄野の眼前にて止まったと思えば、黄野の服を掴みて荷台に引きずり込んだのだ。その後あれやこれやと抵抗もしたものだが結局全身を拘束され、視界も塞がれどこぞの家の中へと連れ込まれた段階である。
 一体この誘拐犯共が何が目的なのか。
 警戒しながら黄野が声を荒げれ――ば。
「ククク……何、抵抗しなければ傷つけたりなどしない。
 ただ少しばかり協力してほしいだけなのだ――『麒麟』たる貴方にね……」
 主犯の者だろうか? 怪しげな黒子で身を隠す者が奥より現れ黄野に言を。
 ――そう。まず大前提として黄野は『麒麟』である。
 まぁ麒麟と言っても黄野は旅人であり……つまり異世界の、であるが。更に厳密には瑞獣・麒麟それと非常によく似た性質を持つ存在と言った所なのだが、しかしその姿は人間形態以外に、金に輝く毛並みに脚は馬たる姿を持つことも出来る。
 傍目には正に『麒麟そのもの』と認識されてもおかしくはないと言える。
 だが――それがどうしたというのか。
 元の世界ではまだしも、混沌肯定の世界法則により黄野はあくまで一介の旅人と言えて……
「麒麟たる貴方がいれば、完成するものがあるのだ……それが、これだ――ッ!!」
 だがその疑問を晴らすかのように――男は黄野の目隠しを取る。
 さすれば――そこに在ったのは大きな大きな樽で、中にはなんか液体が……
 うわなにこれなんか凄い匂いがするけどこれって。

「…………酒か、これ?」
「然り! これぞ我らが今度新発売しようと思っている秘蔵酒『麒麟・一番漬けビール』だ!! 貴方にはこれの材料の一端となってもらうッ――!!」
「正気かおぬしらッ――!!」

 嘘でしょまさかそんな事考える奴いるか止めろ離せ帰るッ――!!
 黄野、必死の抵抗。もうなんか大体ネーミングで分かったが、こいつら文字通り『縁起のいい麒麟を使った(浸かった)ビール』とかいう触れ込みで大量に売るつもりだ!!
 そんなの売れるのかと思うが、カムイグラの地には実際にこの世界の麒麟がおり信仰対象にもなっている……ちょっと麒麟にあやかりたいと思う住民がいるかもしれない。でもそんな事情知るか、酒に漬けられるなど冗談ではない!!
「大人しくしろ! 大丈夫、ちょっとだけ! ちょっとだけだから!
 これに漬かってもらった後は髪の毛とか貰ってそれをお守りに入れるだけだから!」
「何を次の商業展開を考えておるのだ! ええいそんなのオレの知った事では……」
 複数人に抑えられあわや樽の中に放り込まれんとする黄野――しかしその時。

「やれやれ――神使を浚おうとは、大胆というか無謀というか、だよなぁ」

 施設の扉が突如として破られた。
 そこから現れたのは――白萩 (p3p009280)だ!
「たすけに、きました! だいじょうぶですか?」
「通報があってよかったの――まぁ悪い事は出来んもんじゃ」
 いや白萩だけではない。
 続く形でニル (p3p009185)と藤袴 (p3p009289)も施設内へと姿を現すものである――
 実は黄野誘拐の場面は目撃されていたのであった。すぐさまそれはローレットへと連絡され、イレギュラーズ達が救助に向かって来たという訳である。目撃情報から連れ込まれたと思わしき滅茶苦茶怪しい建物があったので、踏み込んでみた。
 そうすれば当たりだ。滅茶苦茶デカい酒樽に叩き込まれんとしていた場面に間に合って――!
「……んっ? だがよ、何か変な音がしねぇか?」
 しかし、トキノエ (p3p009181)が気付いた。眼前の大樽から――なんか変な音がしてる、と。
 具体的に言うとなんか樽が軋む様な感じの音だ。
 ああそうそう、こういう大きな樽ってさ。どこかにヒビとかでも入ってたりすると中からの圧的にそこに集中的に重みが掛かってやがて壊れた利とかそういう事があるらし……あっ、なんか亀裂見つけた――
「あっ」
「あっ」
 直後。まるで爆発するように――酒樽が寿命を迎えた。
 さすれば何が起こるのかなど一目瞭然ッ――!! 周辺にまるで波の様に迫りくるビール――つまり大量のアルコールッ! うわ神使達だけでなく黄野を浚った連中も巻き込まれた――!!
「うわ溺れる、うわがぼがぼ」
 広がるは激しいアルコール臭も、だ――鼻がねじ曲がりそうな程に強烈。
 直に飲んでいなくても、これだけでも酔っぱらってしまいそうな……
「うう、なんて、なんて事だ……はっ! だがまだだ、麒麟様を第二工場にお連れしろー!」
「いい加減離さぬかおぬしら本当に!!」
 全員動きがおぼつかない。千鳥足だらけの体で、しかし諦めんと皆動く。
「ま、まってください、にがさな……あわわ、なんだかぽかぽかするです……」
「ったく、酒を集めるにしろ加減ってもんがねぇかねコイツはよ……!」
 それを追わんとするイレギュラーズ――しかしニルはおめめぐるぐる。酒好きのトキノエはなんだか耐性がある気もするが、しかしそれでも幾らか身体がフラつく気がするものだ。この酒……さては特別なアルコールでも使っているのだろうか……?
 ともあれここまで来て黄野を見捨てる選択肢もなし。
 奴らを追おう――! めっちゃ酒に酔っぱらってるけど、なんとか頑張って!

GMコメント

●依頼達成条件
 黄野さんを救出せよ! 

●フィールド・シチュエーション
 豊穣のとある街中……に存在していた酒類工場です。
 なんだか特別な酒の製造を目論んでいたのか、めっちゃ大量に酒が備蓄されています。が、その中でも滅茶苦茶バカデカイ大樽が破裂してしまいました。結果フィールド全体がアルコール塗れです、ぴえー!!

 皆さんはこの影響により、大なり小なり体に影響が出てしまっています!
 お酒に強い人でもなんだか体がふらついてしまうでしょう。
 お酒に弱い人は……もっととんでもない事になったりするかもしれません。幻覚が見えたり泣き上戸になったり笑い上戸になったり、逃げる連中を追う筈が間違って別の道に張り込んでしまったりなど……戦闘・非戦スキルなども上手く使えないかもしれませんね。

 でも逃がしてはなりません。このままでは黄野さん印のお酒が悪党どもによって販売されてしまうばかりか、髪の毛がむしられてしまうかもしれません! ぴえー!

 なお、黄野さんを浚った連中は工場を(めっちゃフラフラになりながら)脱出しようと通路を駆け抜けて(フラフラなのでまっすぐ走れてないけど)いるようです。
 罠の類とかはないと思いますが、全域アルコール塗れなので普通に滑ったりするかもしれません。お気を付けを!

●敵(?)戦力
・麒麟信仰過激派×5
 黄野さんを拉致した人たちです。麒麟への信仰心が行き過ぎて『麒麟・一番漬けビール』という黄野さんを文字通りお酒に漬けこんだビールを販売しようと計画してる連中です。正気かよ!!
 彼らもまたアルコールによりフラフラになっています。でも計画を諦めていないのか、黄野さんを連れて逃げようとしている様です……! めっちゃフラフラになってるけど。

 戦闘能力はぶっちゃけ大したことないので、追いつけばなんとかなるでしょう。ええ――問題は誰も彼もが酔っぱらっているという事でしょうか!

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAlcoholです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。起こりませんよ、うぃーひっく!

  • 麒麟一番漬けビール製造計画! ~黄野を漬けて~完了
  • GM名茶零四
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年10月31日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
ライ・ガネット(p3p008854)
カーバンクル(元人間)
トキノエ(p3p009181)
恨み辛みも肴にかえて
※参加確定済み※
黄野(p3p009183)
ダメキリン
※参加確定済み※
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
※参加確定済み※
白萩(p3p009280)
虚構現実
※参加確定済み※
藤袴(p3p009289)
猫とたわむれ
※参加確定済み※

リプレイ


 酒。人によっては命の水とも崇めるソレは、太古より数多の者を魅了した――が。
「いくら何でもソレに漬けこもうとか言う発想どうなんじゃ――!? 確かに俺は美しく麗しき理想にして崇められて然るべき当然の神の獣(※自称)じゃが!!」
 冗談ではないのだと『愉快な麒麟』黄野(p3p009183)は抵抗する――! ありがたがられるのは本来なら好むべく所なのだがイヤアア! 危ない趣味の香りしかしないのだ!! 自らを漬けこんだ挙句その酒をあやかるなど!
「てゆーかなんか熱くないかの? てゆーか俺を担いだおぬしら、さっきからずっと右回りに同じとこばかり回ってない? 気のせい? 気のせいか? ホントか?」
「ハイ! お任せください麒麟様! 我々が迷う事なんてありえませにょうぃーひっく!」
 もはや不安しかない一直線! が、その影を追うのは。
「こ……この程度……! 酔ってねえ、俺は酔ってねえぞッ!!」
「はわわ、ふらふらの、ぽかぽか……ふふ、ニルはなんだかとっても、ほわほわで、たのしいのです。はっ。でも、黄野様をたすけなきゃ、いけないのです……あうあう~……」
 『酒豪』トキノエ(p3p009181)や『はらぺこフレンズ』ニル(p3p009185)だ――二人とも盛大にアルコール臭により酔いが回っており大変な事になってはおりますが!
 ふらつく視界。上手く動かぬ足。
「が、ぁ! くそ! ん、んな事があってたまるかよ……!」
 同時。彼が思考するのは――そもそも黄野が油断してたりしなければこんな事になってないのでは……? と――まずい! 酒の所為でイライラと短気気味になってるぞ! 一方のニルはほんわかほんわか穏やかに。べしゃりと転んでも楽しいものです……ふふふ。
「なんだか、浮いちゃってるみたいな……と、逃げられちゃったらたいへんなのです……よね」
「……わしの所感じゃと麒麟はもうちっとこう……高貴な生き物と思っておったが。なんというか……あのようにちんまい上に叫び倒す麒麟は想像の埒外なのじゃ……それともあれが麒麟の本来の姿なのかの……? いやそんな訳はないの」
 フラフラしながらも追うニル、に続いて黄野が運ばれていったであろう方角を見据えるのは『探索上手』藤袴(p3p009289)だ。ここ数分ぐらいで今まで抱いていた麒麟のイメージが瓦解気味であるが、うーんお酒の所為だと思いたい!
「それはそれとして神獣を酒に漬けよう等という発想も埒外なのじゃが……しかも! この! またたびでも嗅いだような感覚は何なのじゃ! 抗えぬ! 抗えぬぞ!! 背筋をなぞる様なこの感覚はいったい何なのじゃ~!!」
「ぶはははッうぃっく! 全くどこの国でも与太なことしやがる愉快な馬鹿どもは居るもんだねぇ! わーざわざ麒麟を浚って……おっと正確には黄野だったか! ぶはははッ! まぁなんでもいいか、よぉし、そんじゃあまずはお酒に合うおつまみ作らねぇとな!」
「待て待て。そいつは大歓迎な所だが――まずは黄野の奴からだろ。なッ!?」
 しかし思わずこの壮大なアルコールの匂いには藤袴も抗えぬ――! なんたって大柄の『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)までご覧の有り様なレベルなのだから!
 比較的マシと言えるのは『虚構現実』白萩(p3p009280)ぐらいだろうか……彼は酒には強い。ああ、そりゃもう『強ェ』と自信をもって言えるほどだ、が。
「限度ってもんがあるだろうよ……この量を貯蔵してるとか何考えてんだここの連中は。つーかビールっつうのも頂けねェ。どうにも視界がブレて見えやがる……」
「ふにゃぁ、ふらふらするぅ……おれはそんなに酒弱くないはずなんだが……
 こ、こいつは豊穣の特別な酒とかだったのか……? うう~~ぇぅぇぅ」
 やっぱり案の定、白萩にも少なからぬ被害が出ている様だ……
 視界が揺らぎ、多少のフラつきもある状況では簡単に追いつくとも言えぬ。隣を見れば『カーバンクル(元人間)』ライ・ガネット(p3p008854)もこのアルコールに浸食されていた――お目目ぐるぐるばたんきゅ~……
 誰も彼も似たような状況だ。ゴリョウなんて火を使わない魔力コンロをどこぞから出して既に調理モードですよ。え、『こいつぁ火を使えない場所でも調理が出来るいわば電気コンロ的なアレだ!』って――? 便利だけど酔ってますねゴリョウさん!? ゴリョウさーん! ああ、どこぞから見つけたジャガイモを手早く調理し始めちゃった!!
 ニルは楽しくなってきたのかちょっと泳ぎ始めて、藤袴はなんだか本能の疼きを感じている……そう、その。またたびに揺らぐ寸前の猫の様な……!
 敵もだがイレギュラーズもあわや全滅寸前――しかし。
「な、なんスかこのお酒……!? 飲んだわけじゃないのに、どうしてこんなに……!
 うう、なんだか頭の奥がガンガンするッス……!!」
 が。どうにかこうにか進もうと努力している『琥珀の約束』鹿ノ子(p3p007279)もいるものだ! 優れた嗅覚がアダとなってなんだか酔っぱらう速度が加速している様な気もするが……くそう、未成年にこんな事をして許されると思っているのか!
「と、とにかく黄野さんを助けないと……! どっち行ったんッスか、黄野さーん!!」
 鼻は使えない。けれど耳があればなんとかなると信じて!
 赤く染まる頬に熱を感じながらも――彼女はなんとか歩みを進めんとしていた。


 さて。こうして始まった逃走&追撃劇だったが――早くもぐだぐだ感を見せていた!
「だめだ、我慢できない……。ちょ、ちょっとくらいならあそんでも良いよな……?
 ……うにゃ、ふみゃ! うーぐるぐる、うにゃ――!!」
 その内の一人がライだ――酔いで理性が解かれ、本能が湧き出ているからだろうか。自らの尻尾で遊び始めるライ。
 手で弾いて尻尾が跳ね上がり、それに反応して再び手を動かし弾けば尻尾が別方向へ――そしてそれに反応して――エンドレス。ふふ、実に楽しくなってき……違う違う違う!
「にゃ!? こんなことしてる場合じゃないにゃ! 誘拐犯を捕まえにゃいと!
 この! この! こんな尻尾があるから!! うーふみゃみゃみゃ――!!」
 また本能に負けそうになるライ。頑張れライ! 今度猫じゃらしあげるから!!
 なんとか飛行しながら過激派たちがどこへ行ったかと追わんとする。こういう時は跳べるのが幸いであった……足元がどうであろうと関係ないから楽ちんである――と?
 おや。なんかどこからか良い匂いがしてきたぞ?
 思わず引き寄せられるライの本能。香ばしい匂いがする、その正体は――

「ぶははははっ! ビールに合うつったらやっぱ揚げ物だよなぁ。まずはこれ! ポテトフライだろ!! ホックホクのジャガイモを持ってきたからな! これでたーんと腹を膨らませてくれや!」

 そう! ゴリョウの三分クッキング、は~じまるよ~!
「ん? なんだこれだけじゃあねぇぜ? フィッシュフライに唐揚げッ! ここがメイン所ってやつだろ!! だがあんまりにもメジャーすぎるってんなら――こいつだ! 椎茸のチーズ焼きに長芋のステーキ!!」
 絶好調のゴリョウさん。次々と名料理を生み出していますね~……
 んっ? 過激派はどうするのかって?
「なんだなんだそいつは心配いらねぇよ。
 ――そら! 大樽をソリにして、滑りゃ移動も楽ってな!
 まぁブレーキに関しては――各々で工夫してくれや!」
「にゃるほど! そいつはグッドアイディア……ってうわわっわわ!」
 という訳なので探索は皆に任せるぜ! え、俺? 俺はデカいんで破片に乗るなんてちょいと出来ねぇし、投げる側さ! ほぉら行ってこぉぉおい!!
 ライを捕まえ、まるでソリの様に射手する――であれば。
「うう。ゴリョウ様の、ごはん、たのしみなのです……でもでも、黄野様もだいじなのです……」
 くんくん。嗅ぎつけたニルはお腹が空いたのです……
 でも負けません。楽しみはあと、なのです!
「はわはわ……あ、いたのです黄野様! ま、まてまて~……!」
 なんとか頑張ってふらふら――していれば、偶然にも見つけたのは黄野(※なお、いつのまにか引き摺られてる形に移行してます)であった。慌てて放つ氷の術式が、アルコールを凍らせ動きを止めん――!
「うわわわ! まずい追いつかれるぞ逃げろ逃げろ!」
「こら! おぬしらせめて運ぶならもう少し丁寧に……ぬぐあああ摩擦で削れる!!」
 さすれば脱兎。簀巻きの黄野は引き摺られつつ離れる様に――!
 うーむ、なんか力ずくで抜け出すような事が出来なくもなさそうなのだが……しかし蹴っ飛ばして逃げるのは仁の獣的にナシナシなのじゃ。うむ。麒麟チェックヨシ! あ、でも引き摺るのは減点じゃ減点! 麒麟チェックダメ!!
「ぬああああ待て~! 待たんか!
 えぇい、飛びかかろうにも狙いが定まらん!! 待て! 待つのじゃ――!!」
 次いで藤袴も襲来――せんとするのだが、か、体が上手く動かない!!
 逃げんとする者に向けて撃を放つのだが、全然逸れてしまう~! ええいこうなってしまえば!
「数打てば当たるというもの……そのうち当たるのじゃ! きっと! 多分!! にゃー!! あっ、黄野を掠めてしもうた――すまん!」
「まちやがれてめえコラ!! ウップ……うぉい! んな適当に狙うな!! まだ無事なビール樽にあたってぶっ壊れたら勿体ねぇだろ――どうせ当てるなら黄野の奴に直に当てやがれ!!」
「トキノエ!? なにを言っておるか――!?」
 うるせー! 元はと言えばお前が捕まったのが悪いんだろ――!
 短気MAXのトキノエは黄野に言葉と、召喚した空の酒便放りながら一喝す。
「あァ、そっちの声は……何だ、トキノエか?
 オイ、いっそ一杯やらねェか。ぶちまけられちまってるがね!
 何。喉元通り過ぎりゃ全部一緒だろうよ!!」
 そうこうしていれば逃げる過激派達の目前に現れし白萩が足元奇襲ッ――!
 スライディングすれば広がるビールがまるで割れる様に跳ね散って、そして!
「ぬ、ぬああああ!! しまった麒麟様が――!」
「あッ。悪ィな黄野、お前の着地は保証出来ねェからなんとか頑張れ!」
「何この扱い麒麟ぞ? 俺麒麟ぞ――!?」
 回避しようとした瞬間、簀巻きの黄野はそう素早く受け身は取れぬ――!
 ぐぇあ。妙な声が響いて、しかし。今の衝撃で縄が解けたか!
 自由の身となった黄野――さぁ、であれば!
「さあ遠からずば音に聞け、近ければ寄って目にも見よ!!」
 再び捕まえんとしてくる過激派を前に行うは一つ!
 両の手を地に。膝を地に付け、こ、この構えは!!

「これが――瑞獣秘技・天下泰平土下座よ!!
 さぁさ中々見れぬぞ瑞獣の土下座などぉぉぉ!! 刮目して見据えるが良いわ!
 ――という訳でもう許してたもれええええ!!
 変な酒を売らんと約束するなら代わりにお主らのおみ足をお舐めしたってよい!
 だから漬けるのだけは勘弁してほしいのじゃあああ!!」

 な、なんて麒麟だコイツ!! あ、ちなみに技名は今酔った勢いと共に考えた!!
 なんでここまでするのかって?
 民草の(主に公衆衛生の)ためじゃの。
 あとお主らの(主に社会的な生命の)ためじゃ!!
「分かるか! ハブとかハチみたいにのは嫌なのじゃうわーんだめじゃだめじゃあ! びえー! 助けてくれたらなんでもするから許してほしいのじゃああああ」
「ふわ~……黄野様は、くだものとおんなじって事ですか? お酒にくだものとかつけているの、ニルはみたことあります……つまり、黄野様はおいしい……? ちょっときになります……じっー……」
 黄野の背後。追いついたニルがすごい興味津々に黄野を見据える……ちょっとぐらい……ちょっとぐらい舐めても大丈夫かな……ニルちゃんの判断能力も大分やばいようですが、それはそれとして。
「そう言われても麒麟印のお酒作ってみたいんですもーん! 一回だけですから――!!
 という訳で麒麟様を再確保――」
「――暴れないでね、手元が狂うから」
 まだ諦めぬ過激派たち! 大丈夫? 君たちが捕まえようとしてる麒麟、土下座してるけど、この麒麟でいいの? ただ、諦めぬというのならば――辿り着いた鹿ノ子の一閃が襲来するのみである。
 体が火照って頭がくらくら。未成年なのでお酒の経験はないのだが、これがアルコールを摂取した時の症状なのだろうか――?
 足元はおぼつかず、さっきから何度転んだかもわからず。
 衣類がお酒を吸って重くなって――更にその匂いで酔いが酷くなる。
 動きづらい。熱い。ああでも、助けに行かなければ。
 早く任務を終わらせて。そうして。そうして。

 ……『あのひと』に頭を撫でてもらうんだ

 脳裏に浮かんだたった一人の横顔に集中が至高の領域へと達し――
 精神を研ぎ澄まし、圧倒的な眼力が敵を捉え、一閃。
 逃げんとする者らの足を縫い留める。まともに当たるかはさておき、下手な動きをしてしまえば本当に手元が狂ってしまうと――脅しながら放てば、彼らの戦意と酔いが急速に冷めるものである……
「なぁ所でよ、ずっと思ってたんだが――」
 であればと、彼らの背後より至った白萩が言葉を紡ぐ。
 ビール。それも悪くない。いやむしろ旨いと言えるだろう――だがな。
「――豊穣でやるなら米酒じゃね?」
 成程確かに道理過ぎた……!


「……はっ! すっかり眠っていたッス!!
 あ、あ、まずい! 急いで黄野さんを追――えっ、黄野さんは無事?」
 ならよかったッス! と、アルコールにより遂に倒れ――その後に目覚めた鹿ノ子は安堵するものだ。どうも黄野救出の一連は大分記憶があやふやになっているようだ……アルコールおそるべし。
 しかしなんだかんだと救出できたのなら――後は祭りである!
「うし! 後は豆腐の味噌田楽とかも用意したぜ! 濃い味の割にカロリーも抑えられるし手早く作れるんだよなぁ……さぁさ焼きたての内に食いねぇ! ぶはははは冷たいビールと相性抜群ってな!」
「は~ゴリョウさんのご飯ッスか! ありがたくいただきますッス!!
 ただ、お酒は成人しても遠慮したいッスね……」
「ニル、ニル、ずっとたのしみだったのです……! かんぱーい、なのです!」
 ゴリョウが次々と料理を生産――さすれば、楽しみにしていたニルは満面の笑みと共に頂くものだ。
 ああ――とってもとってもたのしくて、ふわふわで『おいしい』のだと。
 分からぬ味覚。それでもこれがきっと『おいしい』なのだと思い――ニルは食す。
 で、あれば直後。
「いやー皆の衆、せんきゅーえぶりばでぃ。
 今日という日はどうなる事かと覚悟してしまった所であった……!」
 皆に向けて黄野が感謝の言を紡ぐ――神使達がいなくば今頃、と。
「我が親愛なる友・トキノエどのもご苦労であっ……な、何故額に青筋を浮かべておられるのじゃ!?」
「あ”!? 分かってんのか、てめぇこのバカ!! それでも神使か! 次捕まったら助けねえからな!!」
 そんなー! 黄野の悲痛な叫び。しかしトキノエの激しき言葉も彼を心配しての言葉である……無駄に心配をかけさせるなと。まぁ何はともあれ無事でよかった――
「はぁ……なんか一気に酔いが回ったような…いやいや、俺は酔ってない。酔ってねえからな。仕事が終わった後のビールは全然飲めるぜ。当たり前だろ……かー!やっぱ仕事終わりの酒はたまんねえな~!!」
「ぶははは! まだまだ沢山あるからな――堪能してくれよ!!」
 そして直後には新鮮なビールと旨い食事を喉へと運べば、一気に機嫌も直るもので。
「ふむふむ。本当に良かったもんじゃの。どれ、わしもここは一杯」
「藤チャーン!? キミ何追いビールしようとしてんだ!? こらダメ。メッ」
「はっ!? なにゆえ……って未成年!? 失敬な! わしはこれでも成人じゃぞ!? うわーん!! 呑ませろ――!! 呑ませるのじゃ――!! 一口――!! せめて一口――!!」
 が! この中には酒を飲んではならぬメンバーもいるのだ……! 今白萩が止めた藤袴の様に。全く油断も好きもあったものではない……! 同じ世界より召喚された者として、見過ごせようか。
「くすん……どうしてもだめか……すでにこんなに酔っぱらっておるというに……」
「いや他にも酒飲めねェ奴居るだろ……ほら、おじさんが手ェ貸してやっから、手ェ貸してみな。肴ならあるからよ、そっちにしときな」
「うう、仕方ないの……ゴリョウ殿の作ってくれたおつまみの方を頂くのじゃ……」
 涙ほろり。やむなし酒は諦めてフライの方を……あつあつ……あつぅ!?
「猫には! 猫にはきついのじゃ!! 舌が、舌が――!!」
「おぉおぉ全く、世話が焼けるな」
 熱くて舌をだす藤袴。酒の代わりに白萩が水を持ってくれば――ちびちびと口内を水で満たそうか。
「……ふにゃあ、お腹いっぱい食べたにゃ。
 なんだか……眠くなってきたにゃ……うう……ぐぅぐぅ……」
 更には依頼を果たして安堵もしたのか、その場で丸くなって寝始めるライ――
 傍目からは完全に猫である。満足げな顔で眠るその姿は実に愛らしく……が、後日。
 酔いが醒めた後にこの時の事を聞かされて恥ずかしさで悶絶する事にはなるのだが――
 まぁ、それはまた別の物語。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ!
 黄野漬けビールが販売されるのは回避されましたね……ちょっと残念の様な……!

 ありがとうございました!

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