シナリオ詳細
Lost Code - ERROR:Rabbit Hole
オープニング
●
――Project:IDEA ユーザーネームを入力してください。
『m.saeki:administrator』
――Project:IDEA パスワードを入力してください。
『m.saeki:■■■■■■■■■■■■■■■■』
――Project:IDEA ユーザーを承認しました。お早うございます。Dr.佐伯。
ディスプレイに表示される文字列はこの世界に転移してから見慣れた物であった。
現代日本で生まれ育ち、其れなりに修羅の道を歩んできたとは思うが異世界転移などと言う荒唐無稽な出来事に巻込まれる事は想像していなかった。
傍らで楽しげに笑っている男が幼少期に絵本で読んだ『気狂い帽子屋(マッドハッター)』となる事さえ予想外だ。
組み上げたコードも随分と改変されている。管理者権限を駆使しても介入できる部分は限られているか。
だが、唯一と言って良いほどに『穴』が開いていた。
隣で楽しげに笑っている男の詭弁を其の儘に伝えるならば『ウサギの穴は世界へ招く準備をしていて呉れたようだね』である。
「ドクター、どうやら残されている介入手段は此処だけのようだが」
「ああ、そうだね。操。相手は此方を玩具にしているのだろう。さながら主人公(アリス)がウサギの真似事をして、新たな異世界への来訪を待ち望んでいるかのような。不思議の国へと招く彼女はさぞ楽しいであろうね。自身こそが『赤の女王』の真似事をしているのだから!」
「……成程? 『彼女』達が此方で遊ぶためのチャンスを『ゲームマスター』から与えて貰っているとでも?」
「そうさ。そうに違いない。彼女たちは『ゲームマスター』からその権限を一部譲渡され、私たちを招き入れようとしているのさ。
君だって知っているだろう『悪趣味な遊戯(ゲイム)』の主催は何時だってトランプ兵達の誘いで行われているのさ! あの世界での法律は全てが女王の名の下に。女王(システム)が許容したというならば、私たちは満を持して飛び込まねばならない!」
佐伯・操はドクターマッドハッターに「簡単な言葉で、端的に」と指示をした。男は大きく頷いて笑う。
――『穴へ飛び込みますか?』
コマンドが表示されている。操はマッドハッターを振り返る。
R.O.O内に残されていた痕跡を辿っては来たが……成程、アリスが『足跡』を残したのはこの穴へと招くためか。
――おめでとうございます。特殊イベント『Lost Code - ERROR:Rabbit Hole』が解放されました。
●
「ねえ、ピエロ。『この世界』もバージョンがアップデートされたんですって!」
「いやねぇ、アリスったら。それって本当? まったくゥ、どうして事前に告知してくれないんですかねェエ!? あ。メイク崩れてないすか?
ちょっぴり昨日、夜更かししちゃったから、肌の調子が悪いのヨッ! パックも必要なんだから! 人前に出るピエロはキュゥゥゥティクルにも気を遣うの! ンフフッ、かわい~~~いピエロじゃないとオーディエエエエエンスも残念でしょッ!? そうでしょ、アリスッ!? そうと言ってよア・リ・スゥ!」
「そうね」
――彼女は何も聞いていない。
傍らで『よく回る口』から言葉を並べるピエロをBGMにでもしながら少女『ジェーン・ドゥ』はR.O.Oに作り上げた『ひみつのおうこく』に立っていた。
黄金色の昼下がり。穏やかなるアリスの『故郷』。もはや、失われて言った世界の残像。
R.O.Oにアリスのためのフィールドを作ってくれた『黄泉ちゃん』の事がジェーン・ドゥは好きだ。理由は端的に『面白いから』だ。
「私は嫌じゃ無いわよ。黄泉ちゃんの思いつきでしょう? 面白いじゃない。
だって、物語というものは何時だって愉快に話を進めなくってはならないもの。『ウサギの穴』に飛び込むまで少しだけ時間が掛かったでしょうけど……屹度、屹度よ。あの人達は私に会いに来てくれる筈なの」
「ンフフッ、アリスったら『恋する乙女』ェ! ピエロ妬いちゃうッ! 嫉妬の炎に包まれて放火犯になっちゃうッ! アチチッ! 焼ける焼けるガチで焼けちゃう!! 火・だるまピエーロォ!!」
「そうね」
『アリス』は『ピエロ』と共にその空間に立っていた。
この空間には『チケット』を持った物しか入れない。その様に『黄泉ちゃん』にお願いしておいたのだ。
「ねェ~~~、アリス。演目はもう決めた? プログラムを教えて貰っても良いかしらっ!? いいわよね、ね、教えて頂戴よ~~~!!」
「ええ。簡単な話よ。出たいかって聞くの」
「ええッ!? そんな簡単にッ!?」
「ええ。簡単に。けれどね、『黄泉ちゃん』にお願いするなら代償が必要でしょ?
それに『そうなっていた方が役立つ動きが出来る可能性』だってあるもの。選ぶのはあの人達よ。
私たちって、黄泉ちゃんの思いつきといたずらに付き合っているだけでしょう? それだけじゃ、暇じゃ無い。暇よ。
『暇な登場人物』はお昼寝ばかりで登場もなくなっちゃうから無理矢理私は穴を開けておいたのよ。見つけてくれたなら、早く来て欲しいわね」
●
『ログアウト不可能』となっていたイレギュラーズへと佐伯操から緊急でメッセージが届いたのは『穴』を見つけて直ぐのことであった。
m.saeki : すまないが協力して欲しいことがある。特殊イベントの発生を突き止めた。
<イベント『Lost Code - ERROR:Rabbit Hole』>
当イベントは特殊イベントとなります。さあ、穴に飛び込んで世界の真実を覗きに行きましょう!
胡散臭い文字列が踊っている。だが、このイベントの『最優先の招待事項』が『ゲームマスターから招待されている者』と規定されているのだ。つまり、このイベントでは『ログアウト不可能』となっているイレギュラーズを優先して呼び込みたいと考えているのだろう。
m.saeki : 罠かどうかと聞かれればなんとも答えられないが……一先ず参加してみてほしい。
The Mad Hatter : 君たちが解放されるヒントがあるかも知れない。だが、無理をしてはいけないよAlice.
双方からのメッセージを受け取って貴方は『指定座標』へと向かうこととなる。何の変哲も無い、フィールドに指定座標のピンが刺さっているのは些か不自然ではある。
m.saeki : 着いただろうか。イベントが始まれば私からの観測も不可能になる――どうか、武運を。
空間が突如として歪む。
周辺座標が狂う。天と地が拉げて行く。黄金蜜の光が垂れ下がり、川の潺が聞こえ始めた。
空間を転移したのだろうか。虫の鳴く声に誰かの歌う声が聞こえている。
「おはよう!」
「グンッッモォォォニィィ~~~ン!!! 朝一の食事はするめが良い、ピエロでェっす!!」
目を開ければ、其処に立っていたのは『ジェーン・ドゥ』と名乗る主人公(アリス)と愉快そうに微笑んだピエロなのであった。
「イベントの『進行役』を務めるアリスと」
「かっンわぁいいいいい~~~にして! ドチャクソイケメンのピエロですよ!!」
「簡単にこのゲイムフィールドについて紹介するわ。招待状を折角入手してきてくれたんだもの! 歓迎しなくっちゃ!
端的に言えば『私は黄泉ちゃんから一部権限を委任されている』の。だから、これはゲイムなの。取引と言い換えても良いのよ?」
少女はにんまりと微笑んだ。簡単には解放してくれないと言うことだろう。
「ログアウト不可能状態を解きたいなら、誰かを身代わりに立ててね。
不自然に数が減っていたら黄泉ちゃんに私がどやされちゃうじゃない。だから、『仲良く』考えてくれればいいの」
にんまりと微笑んだアリスにピエロが「アリスったら、本題は?」と問いかける。
「ええ。このイベントについて簡単に紹介しなくっちゃね。
このフロアにはバグが沢山暮らしているわ。『データエネミー』、廃棄物。本来なら必要なかった存在ばかりね。
其れを全て集めておいたわ。数は、いち、にぃ、さん、しぃ……ええと、いくつだったかしら?」
「も~~~ォ!!! 100よ、ひゃぁっく! アリスったら忘れんぼさんッ!
え、だよね。ガチでそうだよねぇ。ちょっと待ってくださいねぇ、今からもう一回数えるから……ああメンドイ!! 100でしょ100!! ファイナルアンサーッ!」
「らしいわ。それだけの数を倒しきればイベントはクリアよ。ね? 簡単でしょ。
けど『こんな機会はそうそうと無いわ』。だから私たちとお茶会をする事も選べちゃうの。
レジャーシートにバスケットを置いておいたわ。ハムとレタスのサンドウィッチ、紅茶だって置いてあるの。ふふふ、何か話したいならばどうか私とお話しにいらっしゃい?
けれどね、欲張りさんはいけないわ! 何か一つにして頂戴ね。私たちも大忙しなの。そうよね? ピエロ」
「モチのロンだわ、ねぇ、そうでしょ? アリス。もう予定だってパッツパツ。スケジュール帳にびっしり書いてあるものね! 例えばァ」
「例えば?」
「――ヒミツッ!!!!!」
彼らは語り始めれば二人揃ってジョークに塗れる。まるで幼い子供が囁き合うかのような、悪戯めいた響きで。
クエストについての説明が表示されている。アリスはにんまりと微笑んでからレジャーシートに腰掛けた。
「さあ、楽しい『昼下がり』にしましょうね?」
- Lost Code - ERROR:Rabbit Hole完了
- GM名夏あかね
- 種別長編
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年10月21日 22時25分
- 参加人数30/30人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 30 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(30人)
リプレイ
●『至高天』あるいは読み取った記録。
――ねえ、この箱庭に閉じ込めたって聞いたのだけれど。
ふん……ふん、そうね。ええ、特別な事はないのよね。ふふ、それってとっても意地悪だわ!
必要ないなら私に遊び道具で頂戴よ。あの子達も転た寝しているばかりではパーティーに遅刻してしまうわ。
私、とびっきりの事を思いついたの。『ピエロ』の事も誘うわ。一人より二人。パーティーは面白おかしく派手にしなくっちゃね。
……え? どうしてそんなことをするのかって。
いやぁね、サプライズに理由って必要かしら? 強いて言うなら……もっとあの子達と遊びたくなったの。
●『ERROR:Rabbit Hole』
――イベントを開始します。
――データを取得します。『Lost Code』……特殊イベントを認識しました。
――『穴に飛び込みますか?』
Yes.と選択するだけで直ぐさまに景色は変貌してゆく。招待状をくしゃりと握りしめて『ホシガリ』ロード(p3x000788)は「招待状とはなかなか良い趣味して」と開きかけた唇を一直線に引き結ぶ。
「……なんだお前達かよ。褒めて損した。あーやだやだ。赤い赤い。別の所行こ」
「あら失礼ね? とっても失礼だわ。誰を期待したのかしら? 『私たち以上に』逢いたい人が居るなんてそれこそ許せないことじゃない? ねえ、ピエロ」
「酷いッ! こぉぉんなに可愛いピエロを振るなんてェッ! けどけどぉ……逢いに来てくれたって事はツンデレ!? ツンデレなのかしらねェ!? ねぇ、そうでしょ、アリスゥッ!! ぜったいそうだわこれぞ正しく相思相愛――ピエロポイントあげちゃうぅっぅう!」
饒舌にも輪をかけて。楽しげに話し続けるノン・プレイヤー・キャラクター。一方はモザイクに塗れたモノクロの少女。もう一方は対照的なほどに明るい装いのピエロであった。
ロードは答えない。基本的には彼らを無視してワールドを探索するかと背を向ける。少女――ジェーン・ドゥは「サクラメントは無いわよ? 必要ないから」と彼の心を見透かしたかのように言った。
さて、ロードが期待していたのはイデアかエイスからの招待状だ。だが、イベントの内容を見れば見るほどその可能性は無かったかと嘆息する。このイベントは随分と『性格が悪く』出来ている。『データエネミー討伐数 上位5名』のみのアカウントをトロフィーとして解放すると語られている。表面だけ見れば随分と『性格の良い』イベントだ。楽しそうに笑うアリス&ピエロを眺めるだけでさえそう思える。
『仮想世界の冒険者』カノン(p3x008357)は招待状をまじまじと眺めていた。
「昨今この混沌世界とROOの世界を騒がせている元凶からの招待状、参加券。
直接招待された方々とは違って偶発的に招待状を手に入れた私には本来因縁も由縁もない、ですが
――“さあ、穴に飛び込んで世界の真実を覗きに行きましょう!”
こんな誘い文句を言われて乗らない冒険者ではありません! 何もかも、多くが分からないこの状況ですが真実の一欠片でも見つかるでしょうか?」
冒険者たるもの、この世界を見て『世界の真実』を覗き込みたいのである。……その誘い文句で得られるかどうかが腕の見せ所なのだ。
「まさか自分がログアウト不可になるとは思ってなかったが、こうしてチャンスをくれるあたりがゲームだな。
まったく悪趣味なゲイムだが、せっかくお膳立てしてくれたわけだし乗るよ。いつかひっくり返すためにもな。
……それにしてもこのフィールド、いちいち造形が不思議だ。敵なのかそうでないのか、きちんと見極めないとだな」
そうぼやいた『アルコ空団“路を聴く者”』アズハ(p3x009471)は眼前で微笑んでいるアリスを眺めていた。
ログアウトが不可能となった現状を打開するにはイベントを攻略しなくてはならないか。飛行で段差を乗り越え、効率的に移動するが為にアズハは中へと大きく躍り出る。
「はーん? 『穴に飛び込んで世界の真実を覗きに行こう』って何このクソイベ。
ご指名ありがとうございまぁーす、ってお酌でもしたいとこだけど『昼下がり』のお茶会じゃそうもいかないわーけ」
いやなんですけどぉと不満を漏らした『???のアバター』エイル・サカヅキ(p3x004400)にピエロは「ギャル怖い!!!」と叫んだ。
「てゆかアリぴーだかピエぴだかヨミヨミだか知んないけど、随分手荒すぎるっしょ。ガン萎えチョベリバでテン下げーよマジ」
「黄泉ちゃんに言って頂戴な。わたしったら、ピエロと『折角だから遊び相手になりたいな』って黄泉ちゃんをぶん殴る勢いで皆に招待状を配ったのだから」
「ねー。アリスゥー。感謝されたいわよねー。アタシ達ったら……来る日も来る日も皆の事を考えてたんだから、ネェッ!」
「はいはい」
エイルが肩を竦めればジェーン・ドゥとピエロは顔を見合わせて『女子』のように姦しく語らい合う。その輪に交ざることも『ガン萎え』な調子なのである。
「誰かを解放する代わりに、誰かがこの世界に閉じ込められる……ね。全く、厭らしい『ゲイム』だ」
『ノスフェラトゥ』ヨハンナ(p3x000394)にとってはこれはチャンスだ。この世界を知るための――『兄妹(クリストとクラリス)の物語』へ近付く為の。
ヨハンナは美しい物語が好きだ。バッドエンドは気に食わず他が為の英雄譚を奏でることは忘れやしない。
「……バッドエンドを拒絶する為には、知識が必要だ。深淵の先を知るには深淵に堕ちる必要があるだろ?」
「あなたの求める答えがここにあれば良いけれど」
黄泉ちゃんは秘密主義だから。そう微笑んだジェーン・ドゥに「どちらでもいいさ」とヨハンナは返した。
(ジェーン・ドゥと名前不明の『ピエロ』、混沌にも存在しないはずのROOのイレギュラー存在。
二人が何のために『ゲームマスター』に協力をして、何を目的としているのか分かりませんね……。
こうして対話が出来る機会は滅多にない事、ならここで少しでも情報を手にしたいところですが……)
悩ましげに呟いたのは『『恵』の守護者』ハウメア(p3x001981)。彼女たちからは今のところは敵意は感じないが、このエリアでは彼女たちこそが絶対的な権限を持っている。
刃向かうことは愚策だろうかとハウメアは考えた。裏を返せば、手を出さなければ安全だろうか。……食べ物の悪戯以外は。
「こんにちは、アリス。招待状を受け取った方々は練達で意識を失っているアバター……所謂、『ログアウト不可能』の皆さんでしょうが。
私は以前『あなた』にお会いしたコトがありましたし、私がこのイベントに入れたのはその縁があったりするのですかね?」
ピエロは初めまして、ですけれどと付け足した『蒼迅』ドウ(p3x000172)に「名前が似ているからじゃない?」と冗談めかして笑ったジェーン・ドゥにドウは「確かに似ていますね」と首を捻った。
「やっだァ~~~!!! ピエロのことは? 無視? 可愛いし、知り合いたいってなりません? なりませんか? ならないのッ!? なんでッ!?
折角メイクも整えてきたのに! 酷いわ! キィー! アリスに焼き餅灼いて膨れちゃう。プクゥ~~~~~~~~ンッ・ポンッ!」
「そうね」
饒舌なピエロには塩対応であるジェーン・ドゥの様子にドウはぱちりと瞬いた。『妖精勇者』セララ(p3x000273)は「ピクニックするんでしょ?」と何事も無かったように微笑んでいる。バスケットには沢山のお菓子を詰め込んで、幸福の妖精は友人との出会いを喜ぶように曇りなき笑みにピエロは「かわいくなぁ~い?」と揶揄うようにジェーン・ドゥを肘で突く。
「アリっち!ㅤピエピエ!ㅤきうりんDAYO!」
距離感が『バグ』った詰め方をした『雑草魂』きうりん(p3x008356)は『アリピエ』と仲良くなるためにびしっとポーズで声をかけた。
正直、ちょっと引かれたらどうしようかと思ってはいた。「まあ、敵だし良いか」の精神でこのまま突き通すことにしたのだった。
「1発芸します!ㅤ……きうり!」
きうりに変化したきうりん。その様子を複数のイレギュラーズが見守っている。
「……そう、このきうりでサンドイッチ作ってきたから食べようぜ!
バターを塗ったパンにスライスしたきうりを挟んだ特製サンドイッチだよ!ㅤめちゃ不味いよ!」
「ねえ、ピエロ。『この子を選んだのって正解だったんじゃない?』」
「アヒィンッ!? そんなこと言いながらッ! アッ! 何で殴るの、ねェッ! ありすったらぁっ! あっ! もうちょっと強く! もっと、もっとぉん!!」
――楽しい楽しい『昼下がり』のスタートなのである。
●『データエネミー』
大前提として『悪食竜』ヴァリフィルド(p3x000072)は自身の討伐数は全て『シスター』マチルダ(p3x009315)へと委譲すると決めていた。
「ったく、訳もわからねぇうちに閉じ込めやがって……得物を銃にしておいて良かったわ。遠慮なくぶち抜いて出てやろうじゃねーの」
苛立ちにそう呟いたマチルダへヴァリフィルドは「この場ではお互い様だ」と頷いた。
「外や自分の体の状況が気にならぬと言えば嘘になるが、少なくとも俺以上に戻りたいと願うやつがいるんだ。だったら手伝わない理由はないわな?」
体のことは外に出るマチルダやログアウトが可能で逢うrイレギュラーズに任せれば良いか。ヴァリフィルドはその巨体を揺らがせて銃の調子を確かめるマチルダを見遣った。
「……ここはアタシが立つ土俵じゃねぇんでな。
すまねぇが世話になるわよエイル、ヴァリフィルド。ここじゃアタシも立ったばかりのひよっこだ。力を貸してくれ」
「でもそれと同時にちょーキレてんのアタシ!
小難しいことは任せて、バグだかなんだかぶっ飛ばそーぜまっちー!
まっちー&ヴァリぴ&激カワギャルエイルちゃんのトリオでパーペキっしょ!」
「……ヴァリぴとは俺のことだろうか?」
可愛らしいあだ名に困惑をするヴァリフィルドにエイルはにんまりと微笑んだ。
「じゃ、まっちー、ヴァリぴ、行くぜぃ。この恩はいつか酒でも奢ってね~。ま、アタシが誰とかは秘密だけど! いつか会えるっしょ!」
頑張って『ログアウト』しようとやる気を満ちあふれさせたエイルにマチルダはこくりと頷いた。
彼女が外に出て、更に連携をとることが出来たならば『ログアウト出来ないイレギュラーズ』にとっても得るものはあるはずだ。
「さて――討伐数を稼げば良いのだったか。討伐数を稼ぐ為ならば敵を集めねば話にならぬ」
ヴァリフィルドは周辺に向けて咆哮を放つ。じわじわと位置を調整して多数を集め続けて敵を固定するのが彼の役目だ。
索敵しながら進む事にはなるだろうが、多勢を集めてマチルダとエイルと共に討伐し続ける。
彼は自身が倒した討伐数をマチルダへと譲渡するコマンドを事前に調べておいた。これで彼女が外に出る手筈は整っている。
「チッ……!
テメェで作っておいてなんだけどこの姿で得物を持つ事になろうとは……もう少し考えて作りゃよかったわ」
そうぼやいたマチルダは彼女にとっては『義母』をモデルとしたアバターであったらしい。姿を変化できる事を知らない彼女の苛立ちは滲んでいる。
基本的にはレベリングを優先し、余裕を持って先に進む慎重派であったマチルダにとっては『理不尽な状況』は我慢できないのである。
ヴァリフィルドが引き寄せた敵を後方から穿ち続ける。
「アタシをこんな目に遭わせた奴をぶん殴りてぇ気持ちはあるが……どうやらそれは他の奴らがやってくれそうだ。
後の憂いは無くなったし遠慮無く脱出を目指そうとするかね!」
リフレクティア:ジェミニがかつりかつりと音を立てた。『ぶん殴ってくれる仲間』のケアも重要な仕事だ。
(……本当はさっさと出てのんびりお酒を飲みたい所だけど。でも、元凶を殴ってすっきり出たいのよねぇ、なぁんて)
言葉にせずとも内心は大好きなお酒を浴びて、大好きな彼とのんびり過ごしたい。そんなエイルがマチルダの代わりにぶん殴ってくれるだろう。
無事な水準に居るマチルダに無用なデスカウントを与える前に自身が増えた方がましだとエイルは全戦で戦い続ける。
「……出たくは無いのか?」
「だってまっちーは何かの気まぐれのとばっちりっしょ? それはかわいそすぎだっての!
まー自分はけっこー死んでるからね! いーのいーの。
んでさ、ヴァリぴが最高の盾! アタシは斬り込み隊長! そんでまっちーが後ろからブチかませばサイコーっしょ!?」
こんな時ティーカップじゃなくてジョッキで一杯キメれたら嬉しいけどとエイルはからからと笑った。勿論、お茶会より飲み会が優先でアリよりのアリなのだ。
「何を企んでこんな催しを企画したかはわからないけど、折角のご招待だもの、ゲイムを楽しませてもらおうかしら?」
『硝子色の煌めき』ザミエラ(p3x000787)は全力で勝ちに行かせて貰うとやる気を漲らせていた。ポイントを貰うつもりも、譲るつもりもない。
詰まるところ自分の実力で何処まで行けるかを試したいというわけだ。お茶会や散策に向かう面々の時間が割けるようにと気を配ることも忘れずに。
「あ、ねえ主催者さん! BSで同士討ちで倒れたエネミーは付与させたプレイヤーのポイントで良いのよね? それならソロプレイでも多少は稼ぎやすくなるし!」
「いいわ」
どこからか聞こえたジェーン・ドゥの声に「OK♪」と座見え等は楽しげに返す。基本パターンは確立されている。ある意味で作業タイムとも言えるだろうか。
「あとは、そうね。ゲイムっていうからには魅せるプレイを心掛けてみようかしら?
だってこの場は『アリス』のお膝元、『黄金色の昼下がり』。
不思議の国の住人たちと、遊ぶように、踊るように戦うわ。逃げる兎を追い立てて、嗤う猫を打ち抜いて、赤い女王様の首を切る。
――ねぇどうかしら『アリス』、いいえ、混ざり物の『ジェーン・ドゥ』?」
歌うようにザミエラは『第七世界』にスキルを乗せる。アバターの体を削ってでも、踊ることは忘れずに。
ハンディなんて感じさせない程に楽しげに。
「あなたの『アリス』より私のほうが上手だったりしないかしら? よければあなたも一緒に踊らない?」
ジェーン・ドゥは応えない。それでもザミエラは自身の力試しのために努力を続けるのである。
『ご安全に!プリンセス』現場・ネイコ(p3x008689)は「はあー」と息を吐いた。
「それにしてもログアウト不可……かぁ。
以前ひよのさんに参加しないのかってお話したことがあったけど、いざこうなってみてひよのさんが参加してなくてよかったって本当にそう思うよ。
――ヨシ! 考え事はこの辺にして私は私の為すべき事を果たしに行こうかっ!」
現実世界でひよのが心配していると告げられればネイコも早く帰ってあげたいと思うが、今日は『竜空』シラス(p3x004421)の脱出に協力する構えである。
名付けてシラス隊の人員はネイコ、シラスと『天真爛漫』スティア(p3x001034)、『雪風』玲(p3x006862)である。
「現実に戻りたいとは思うけど、この状況に苦しんでいる人がいるなら助けてあげたいかな。私はまだまだ平気だしね!
まあイルちゃんのお誕生日を祝えないことは気掛かりだけど……戻ったら盛大に祝いしないと!
この恨みは全部黒幕にぶつけてやるー! 絶対に許さないー!」
「代わりにシラス殿に祝っておいて貰うかの?」
「えっ、俺が?」
ぷんすこモードのスティアに玲はサンドウィッチをもぐもぐと囓りながら提案する。提案された側のシラスはぎょっとした様子であった。
――ちなみに彼女はと言えば。
「にゃっはっは、面白いことをしておるではないか! グ、グンッモーニーン! 朝一の食事は焼いたパンじゃろ! 玲じゃ!!!
こいつらか! またこいつらか! 結局なんなんじゃ、おぬしらは!
高倉某と同じくらい神出鬼没じゃのう……アレとは関係なさそうじゃが。今回で何度目じゃ、いい加減何がしたいのか明かしてくれぬかのー。どうせまた禄でもない事を企んでおるのじゃろう?」
ピエロもびっくりの勢いでまくし立てておいたのであった。サンドイッチを一つ奪ってきた彼女にピエロは「ああ~ん、それはお気に入りなのにィ!」と叫んでいたが……もう気にしないことにしておこう。
「さーて、妾単独で瞬殺できるのならいいのじゃが……ここは同じチームで行動したほうがよさそうじゃな!
数を稼ぐことに集中じゃ! 早く終わった分あのクソピエロを……じゃなかった進行役から情報をもらう時間も手に入りそうじゃしな!」
「ご招待ね、有難すぎて涙が出そうだぜ。
確かにさ、連中が俺達をネクストの中に閉じ込めた理由は分からない。
このイベントが初めての手がかりってわけだ。悔しいが素直にクリアするとしよう。でもどうせやるならハイスコアを出したい――と言うわけだ」
「うむ、勇者よ!」
やんややんやともり立てる玲に「よっし、頼む。恩に着るぜ」とシラスは大きく頷いた。
ある意味、MMOでは良くあるパーティー狩りという行いに身を委ねることになった。スティアは「普段は来れない所のようだし、何か重要な情報があるかもしれないしね」とパーティーでの協力を行いながら情報収集を行うことを考えていた。
「うんうんってサメちゃんもそう言ってる気がする!」
「えっ」
「え?」
思わず「えっ」と呟いたネイコは首をぶんぶんと振った。
「やってみると本当にゲームみたくなってきたな」
そう、パーティプレイは協力が大切だ。スティアと玲、ネイコと協力してスキルを駆使して多数を殺し続ける。
「ワンダーランドって言ってるだけあってここは随分メルヘンチックな感じだよね。それもモザイクだらけで壊れかけみたいだけど。
アリスにピエロ、今回の一件以外にも色々と関わってるっぽい二人だとか、気になる事は多々あるけど、それは他の皆がきっと何とかしてくれるよね。
イベントはイベントでちゃんと目的を達成しないと、此処からの脱出自体も出来なくなりそうだし……。その為にも気合を入れていかないとっ! 頑張るぞ、オーッ!」
「オーッ!」
えいえいおーとやる気を溢れさせた玲の側からネイコがぐんと前へと飛び出した。叩きつけたのはプリンセスストライク。
それらしいエフェクトが花と散る。続いて、玲がアナザーツインハンドガンアーツモードバレットリベリオン壱式を放つ。
「この緋憑の幻影が、貴様らを冥土に送ってやるぞ!」
アタックモードは長期戦でも『死ねばなんとかなる』の精神だ。
「にゃっはっは! 死んでもすぐ復活できるのは便利じゃのー
無理して避ける必要はなし! ガンガン死のう! ……逆に恐怖心が無くなるのもマズいかのう」
ぼそりと呟いた玲に「たしかにー」とスティアが返す。そのデスカウントは四人の中でも群を抜いているが、気にせずにおこうか。
『カニ』Ignat(p3x002377)はブラッド・ウォンに『適当』に声を掛けていた。
「師兄ヒマ? オレ、ゲームから出られなくなっちゃったんだけどこっちでお茶でも飲まない? 酒の席じゃないからさ!」という伝言ゲームはきちんと届いたのだろうが彼はR.O.Oにはログインできていない。運が良ければ来てくれるだろうが、何分遠すぎた――だが、師兄から一言である。
「倒していけ! あと、巻込むならもうちょい早く言ってくれ!」とのことである。
「さーて、師兄は間に合わなかったけどさ、オレは移動し回ってデータエネミー倒すね! 討伐数トップを目指すよ!
って、言っても最後はマチルダかアズハのどちらか討伐数の少ない方にプレゼントすることになるけれどね!」
そんなIgnatは序盤は奪い合いを避けることを考えてドローン・ライフルと共に人数が少ない場所を狙っていた。
「茶番としても戦いで手を抜くのは主義に反するからね! 派手に暴れて行くよ!」
エネミーの数は多い。主砲から放った光でデータエネミーを灼き続ける。
人がアタバターへの『アーリーチェンジ』を行って戦うIgnatの姿に気付いて『赤龍』リュカ・ファブニル(p3x007268)はひらりと手を振った。
「さて、と」
彼と『蛮族女帝』トモコ・ザ・バーバリアン(p3x008321)は共闘の姿勢である。
「ピエロってのは客を笑わせるもんで、客を笑うものじゃねえだろ?
客が笑えねえでピエロだけ笑ってるなんざお粗末も良いところだ。
ま、つまらねえ趣向じゃあるが……戻りたい奴を戻らせるなら拒否する理由もねえからな。やってやろうじゃねえか」
リュカがやる気を溢れさせる一方で、アズハに『討伐数』を分ける『大樹の嘆きを知りし者』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)は「そうだな」と頷いた。
「この立場でしか出来ない事もあるかも知れないからな。待たせる皆には悪いが……土産話の一つくらいで許して貰えるだろうか?」
「メイドが泣くぜ?」
「彼女なら許してくれるだろう。、特殊なクエストが発生したと来てみればどうやらこの状況を少しでも動かす事は出来る様だ。
であれば、俺達は俺達の為すべき事をするとしよう。真実の欠片が集まれば、やがては何かに届くだろう」
ならばデータエネミーを倒し続けるだけである。
「さてと、異常事態の元凶から招待状が届いたわけだが……別に興味はねぇんだよな。
アタシとしては単純に息抜きで遊んでたゲームだし、ぽっと出の黒幕なんぞどうでもいいや。
だがそれで迷惑被ってるのは看過できねぇ、なんとかして現状を打破する必要はある。
……そうだな、アタシはデータエネミーとやらを駆除して脱出に回るか。
どうも大半のやつは元凶やこのワールドに興味があるみてぇだし、それならアタシが一足先にログアウトして外に救援を呼びかけるとすっかね」
にい、と唇をつり上げたトモコがデルさんを担ぎ上げる。
「つーわけでリュカさんよ、ここはいっちょ手を組もうや。
見たとこアンタも相当つえぇ、おまけに都合良く不殺も持ってると来た。
これならアタシの必殺スキルで確実に仕留められるし、互いにカバーもできるだろうぜ」
「おう、トモコ。アテにしてるぜ」
バトルスタイルで言えば気が合いそうだ。好感も持てる。詰まらない趣向だとは感じたが彼女のような戦士と戦えるならば捨てたもんじゃないとリュカは小さく笑った。
リュカの鋭きオーラは爪の如くデータエネミーを薙ぎ払う。とどめを刺すのはトモコの仕事だ。
「逸ってやられちまったなんて事になりゃああのピエロも失笑だろうよ。だから慌てねえ。
敵の数を減らし、こっちのダメージを減らして確実に葬っていくぜ。冥府の王の手から脱出させようってんだからな!」
リュカの攻撃に続いたのはトモコ。自身のアクティブスキルを使えばデータエネミーなんて簡単に倒しきれる。
「急ぐこたぁねぇさ、持久戦でじっくり確実にヤるぜ」
「一撃で倒しちまったら悪ぃな!」
「はっ! おもしれぇことを言うじゃねぇか!」
二人が背を合わせ共闘する光景を『星が聞こえぬ代わりに』入江・星(p3x008000)は見つめていた。
「さて、データエネミー狩りに参加することに決めたのは良いのですが。
……見事に周囲の空気に乗り遅れましたねこれ!!! 徒党を組んで戦ったり、ポイントを譲渡し合ったり、んー」
ちょっと言えばそこに混ざりたかった気がする星はむうと唇を尖らせた。
「まあ、良いでしょう。後悔先に立たず。
とりあえず私は私でエネミーを狩って、脱出を目指していてかつ討伐数が最下位の方にでもポイントを譲渡させていただきましょうか」
ポイント譲渡がいらないというザミエラ以外に譲渡すれば良いだけだ。それまでは体の動きも慣れてきたが肩慣らしのついでに戦うのも良いだろう。
「それにしても、黄泉ちゃん、とは一体……?
黄泉と言えば死後の世界、でしたか。ふぅむ、何故でしょうその名を聞いただけで身震いしそうになるのですが……。
風邪……? ゲームの中でも風邪って」
「何者なのだろうな」
ベネディクトは悩ましげに呟いた。星は「知りませんか?」と問いかける。
「ああ。だが、この世界がその黄泉ちゃんの『趣味』ではない事は確かだろう。
どれもこれも、本当に物語に出て来る様な姿ばかりだ……偶然か、それとも意図的に形を与えられたのか」
「意図的に、でしょうね。ジェーン・ドゥ……アリスは己の世界を此処に構築したのでしょう。
慣れ親しんだ場所で自身をゲームマスターとしての立場に確立したのだと思います」
ベネディクトの竜刀『夢幻白光』が竜をも呑む勢いで閃いた。その傍ら、星は天に輝く星の光を纏い、毒手となる一撃を放っていた。
強く生き抜くというペリドットのアンクレットを揺らし、星はまじまじとデータエネミーを見遣る。
「ですが、ここはデータの廃棄場……黄泉ちゃんとやらにとっては『いらない物ばかりだった』筈なのでしょうね」
「再利用ってか?」
トモコの問いかけに星は「んー」と首を捻った。
「黄泉ちゃんとやらに権限を貰って、ちょうど良い場所を探したら此処だったんじゃねぇか」
リュカにトモコは「それっぽいな」と頷いた。この地はデータの廃棄場。大きく意味を有しては居ないのだろう。
蓄積された『データの廃棄』がジェーン・ドゥ達にとっては何らかの利用方法があったと見るべきか。
「……胸糞悪ィイベントだとは思ったが、次に仕掛けてくるんなら『蓄積されたデータ』を利用しますって意思表示か?」
「或いは、『お前達のデータを取得したぞ』という意味なのかも知れない」
リュカとベネディクトの神妙な表情にIgnatは「使用料が欲しいね!」と叫んだのだった。
データエネミーへとアズハは直ぐさまに飛び込んだ。マギタリーレギオンがきゅるりと音を立てガンタイプに変化する。
アクティブスキルを充填し、歌い続ける花を穿った弾丸はマギタリーレギオンに吸収され、刃のエフェクトに変貌した。次は接近戦だ。
「……100というのは途方もない数だね」
アズハはぼそりと呟く。響界感測を駆使して『音』を辿っては来たが斯うも賑やかであると困惑を覚えるほどである。
攻撃を仕掛けたは良いが、倒しきれぬか。ダメージを負う可能性を感じ取りながら目を伏せたアズハの前にヴァリフィルドがぐんと飛び込んだ。
鋭き牙がデータエネミーを噛み砕く。
「せっかくのキル数勝負であるなら、そういった妨害も多少は楽しむのも悪くなかろう?」
「紳士的に、友好的に、恨みっこなしで奪い合おうか! FIRE IN THE HOLE!」
楽しげなIgnatの声を聞きトモコが「勝負ノった!」とデルさんを振りかざす。
「それにしてもこんな所に皆を集めて何がしたいんだろう? 競争みたいなことをさせる意味は……?
私達の戦闘データでも収集しているのかな。とはいえ、それを何に使うかわからないなぁ。
分身を作れたりするなら別だと思うけど……そんなことあるわけないよね」
呟いたスティアにシラスは神妙な表情をした。データであるならば『分身を作れる可能性』はある。
例えば、ログアウトが不可能になったキャラクターデータを入手して、分身を作成する。
そして、戦闘データを得たことによって更にそれを強固にし彼女たちの私兵として運用される――とか、だ。
「……全く訳が分からないぜ」
ぼやいたシラスはぞっとしないと身を揺らした。
●ピクニックI
「おおー! これってレアイベってやつですよね! 姫たるひめにピッタリなイベントですね!」
にんまりと微笑んだ『勧善懲悪超絶美少女姫天使』ひめにゃこ(p3x008456)は『ひめにゃこ焼き』と名付けた自身の顔のカステラを持ち込んでいた。
「超絶可愛いでしょう! 可愛すぎて食べづらい……うわー! そんな躊躇せず食べないでもろて!?」
もぐもぐと食べるジェーン・ドゥを見遣ってからひめにゃこは「わあー!」と叫んだ。とりあえず目的はピエロである。
「自分で自身の事可愛いとか言って恥ずかしくないんですか!?
どう考えてもひめの方が可愛いじゃないですか! ひめの前で軽々しく可愛いとか口にしたら駄目ですよ!」
「えっ……うそ。こんな色男捕まえて、そんな言動がとびでてくるなんて!」
――衝撃を受けるピエロにジェーン・ドゥはひめにゃこ焼きをごくんと喉に落とす。
「なんですか納得がいかないならひめと姫バトルでもしますか!?
ここで決着をつけてもいいんですけど今回はそれどころじゃないんで向こう行っててもらっていいですか!? ひめはアリスちゃんとお話に来たんです!」
「ちょっとォ、アリス? ねえねえ、聞いてます? 酷くない? 酷いよね、ピエロこんなにかわいいのに。ていうかバトル売られておきながらそのまま飛び出していかれるとかど~~なってんですかこれ!! ぴえ~んぷんぷん! ピエぷんぷん!」
「そうね」
――聞いてない!
「こんにちわ! ボクの名前はセララだよ」
「わたしはジェーン・ドゥと呼ばれているわ。アリスでも構わないの」
ティーパーティーはこじんまりとした空間で。レジャーシートに腰掛けたジェーン・ドゥは常の調子で答えを返す。
「ねぇ、アリスって何で色が無いの?何か色をつける方法とかってあるのかな? ボクのリボンをあげるよ。これも着けたら色が無くなっちゃうの?」
「あら。可愛らしいわね」
紅いリボンをジェーン・ドゥに飾れば、それはその色彩だけを誇張している。カラフルナドーナツをモノクロームの少女が口にするのは奇妙な光景だ。
「ねぇねぇ。アリスが好きな物って何かな?」
「……どうして?」
「え? それはねー。ボクとしてはアリスと友達になれたら嬉しいなって。敵同士でも友達になるとか、よくあることだしね。連絡先とかも交換しておこうよ。ねっ?」
フレンド登録って出来るのかなと首を傾いだセララにジェーン・ドゥは首を振る。彼女たちはそもそもの立場が違うのだろう。
セララがフレンド登録を試し見てもエラーサインが吐き出されるばかりである。
「アリスがボク達にやって欲しい事ってどんな事? 実行するとは限らないけど知っておきたいなって」
現実世界に行きたいのだろうか。何か、叶えてられるものならばこの距離を詰められるのでは無いかとも考えられた。
「あ、それに君達もボクに質問してくれていいよ。答えられる事だったら答えるね。これなら公平でしょ?」
「そうね。ドーナツ、美味しい?」
「えっ? え、うん」
あまりにも簡単な言葉が返ってきたことにセララはぱちりと瞬いた。彼女の遣って欲しいことは読み取れない。煙に巻いたか、それとも『何も考えなかった』のかは分からないが――さて。
妹は度胸である。『絶対妹黙示録』ルージュ(p3x009532)はEatMeと表面に書かれたアップルクーヘンをお土産に、Aliceを期限とする自分事でもあるのだと彼女を穴が開くほど眺めていた。
「ああ、楽しいティータイムね。あなたたち『イベントのトロフィー』にならないことを選んでるのよね?」
「少なくとも今は脱出する気はねぇよ。俺はこの世界でやらなきゃいけない事を見つけたからなァ。それを果たすまでは嫌がられても居座ってやる」
アリスの問いかけに頷いたのはヨハンナと『プロトコル・ペルセポネー』P.P.(p3x004937)。
向こうに帰れなくてそこそこの時間が経ったP.P.にとっては小さな体にも慣れてきたのだ。くそ野郎どもとのピクニックを楽しむつもりもなく皆がエネミー討伐をしている様子を眺めていたP.P.にとってはジェーン・ドゥが疑問を投じたことに驚いたのだろう。
「え?あたしは出たく無いのかって? 出ないわよ、まだ。それに、アンタ達が用意した席を譲って貰うの、死ぬ程癪なので。
アンタ達の事はこれっぽっちも信用してないから聞く事なんて何も無いけど……そうね、ひとつだけ言う事があるわ」
手にしていたカップのお茶をジェーン・ドゥへとばしゃりと掛けた。だが、直ぐに『データがブレ』て何事も無かったかのように彼女は微笑んでいる。
「あつい」
「……何も感じてないくせに」
苛立ちを滲ませるP.P.にジェーン・ドゥは表情を崩さないままである。
「アンタ達はこの世界をただのデータだと思ってんでしょうけど……あまりふざけんじゃ無いわよ。
みんな、生きているのよ、この世界に。一人一人に、確かに命が宿っているのよ。
練達の超技術とか、そもそもゲームとか言うのも分かんないし、あたしにしてみれば此処はもう一つの混沌なの。
ただのデータ呼ばわりする事は、作られた世界だからと好き勝手弄ぶのは、絶対に許さないわ! この世界を、無意味にはさせない!」
「わたしの世界は、この世界は本来ならば混沌の外にあったの。
けれどね、『イレギュラーズが活動したことで混沌世界に飲み込まれた』。蓄積したパンドラが、あなたたちがよかれと思った可能性が、わたしたちを喰らって無にした。
……それでも同じ事を言えるのかしら? ねえ、『かわいいP.P.ちゃん』。黄泉ちゃんはあなたがだぁーすきだから、聞いて頂戴」
ティーカップを手にしたアリスがにんまりと微笑んで眼前に立っている。ばしゃり、と音を立てた其れは彼女の時と同じようにかかった気配がした瞬間に消え去った。
「『わたしの世界を返して』。
セララが聞いたわよね。私のお願い。救われない『かわいそうな自我を持ってしまった物語のおんなのこ』のおねがいよ」
「……ッ」
P.P.は唇を噛みしめた。劣悪なるのは『黄泉ちゃん』か。ジェーン・ドゥは悪戯めいて確かに『手酷いこと』ばかりを行うが彼女と『クリスト』の目的は余所にあるとでも言うのか。ならば、にんまりと笑っているあのピエロもそうであろうか。
「そう、けどね……これは宣戦布告よ。どうせ、アンタも聞いているんでしょう? 『黄泉ちゃん』?」
空気が僅かに乱れただろうか――ヨハンナは小さく息をのんだ。
ヨハンナにとっての目的も黄泉ちゃんと呼ばれた存在。『Hades』に逢う事だ。逢ったらぶん殴ってマザーとシュペルの元へと引きずっていきたい。
兄も妹も無事なことを『先生』が望んだのならば。望んだからこそ、イレギュラーズに賭けたのならば。
そしてこれは個人的な感傷だ。兄と妹は個人的には放っておけないのだ。バッドエンドは、嫌だから。
「ずっと考えてたんだ。豊底比売は少し違うにしても、姉ヶ崎、ディアナ、バンビール、アリス……。
ねーちゃん達の産まれはここ(ROO)じゃないだろ? 全員が別の世界の住人、それも混沌に拒絶された、な」
『二人』は何も言わずにルージュを眺めている。
「ねーちゃん達がこの事件に介入する理由が判らなかった。たぶんイノリじゃなくてクリストの方と取引したんだろうけど。
あんた達が世界にバグを巻き散らす利点はなんだ?
このままROOの混乱(バグ)が広がれば、マザーは処理能力の限界を超えてクリミナル・オファーで反転する。
そうなった時に起きる何かが、ねーちゃん達の望みなんだろう?
ここに自分が主役になれる世界を作る事かもしれねーし、拒絶されたはずの混沌世界に出られるようになるのかもしれねー」
「そうね。『黄泉ちゃん』との取引は正解よ。でも、各のことはわたしったら分からないの。どうしてって聞かないでね? 『応えられない』から」
「まあ、いいさ。けどな、おれ達は止めるぞ。なにがなんでも絶対に止めてみせるぞ」
拗ねたようなルージュは諦めたクリストは妹の代わりにぶん殴ってやる。それが妹の役目だ。
そしてこっちのイノリは――彼もまた兄である。ならば妹がぶん殴っても構いやしない。
ルージュはジェーン・ドゥの事は自身と同じ起源の存在である以上は有り得たかも知れないもう一人の自分のように感じられて堪らなかった。
ジェーン・ドゥは誰が生み出した存在なのか。『お母様』が誰であるかを彼女は黙秘している。
だが、彼女が消えても忘れないように.そう願うからこそルージュは『堂々と顔を見て宣言』した。
「つまり、ねーちゃん達の望みはかなわねー。それだけは、今、ここに断言する。イレギュラーズを舐めるな、だぜ!!」
●ピクニックII
『バケネコ』にゃこらす(p3x007576)はジェーン・ドゥのその発言に思うところがある。寧ろ、P.P.が引き出した彼女の本音は何処までも自信に突き刺さるような気がしてならない。
にゃこらすは名前(やくわり)を失い、彼女は役割(なまえ)を失っている.それ故に、少しばかりは驚愕してしまう。彼女にとっては余計なお世話かも知れないが。何か話しておきたいというのが彼の本音であった。
「お招きいただき恐悦至極。アイスティーはあったりするかい?何せこの姿じゃ猫舌なものでね」
「猫ってアイスティー飲めるのかしらね」
けろっとした様子のジェーン・ドゥににゃこらすは「そこか」と尾を揺らす。
「まあ、つまりだ。混沌かROOどちらの名前で自己紹介するのがお好みだい? それと俺はお前らをなんて呼べばいい?
ピエロにアリス? もしくは名無し(ジェーン・ドゥ)か?
そいつは役割で個々の名前じゃないんじゃねぇか? まぁないってんなら仕方ないがよ。でもいつか自分の名前がついたなら教えてくれよな」
『宙抱く翼』セフィ(p3x001831)は二人の表情をまじまじと見ていた。「黄泉ちゃんについても教えてもらえますか」と問うたセフィにジェーン・ドゥは首を振って、「ピエロ、名前ってなにかしら?」と問いかける。気まぐれを装って答えやしないのだろうか。
「んもぉ~~~!!! 酷い! 酷いんだからぁっ、ちゃーーんと名前は名乗ったでしょう?」
「あなたの名前を覚えても良いことがなさそうだったから。黄泉ちゃんのことも黄泉ちゃんとしか覚えてないわ」
「アリスって名前を覚えるのがヘタなタイプ!? アレ? アレでしょっ!? 久しぶりに逢った人に『あ、久しぶり~……んー、げんきそうで、んー、うん、なにより』って頑なに名前呼ばない方のタイプでしょ!?」
「そうね」
反応することに飽きたのだろうかジェーン・ドゥはさらりとピエロの発言を躱した。どうやら観測されたデータを見る限り彼にも『バンビール』という名があるようだがジェーン・ドゥは呼ぶ気もないのだろう。
「……さて。……超大変不本意だが!! ヨハ太郎って可愛いだろ?」
空気を和ませるように。ヨハンナはひまわりの種をもひもひしていた。おいしいのだ! と言わんばかりのヨハ太郎。つまり、ハムスターである。
「さぁ、俺を愛でるのだ! 芸達者なぷりちゅーハムスターだぞ! なぁなぁ、俺が此処に残る事で。アリスとピエロは怒られないで済むだろ?」
「ええ、そうね」
「代わりと言ってはなんだが……黄泉ちゃんの話を聞かせてくれないか?」
「お話ししてあげたいことは山々なのだけれど。わたしたちって何も知らないの。ええ、どうしてなのかは聞かないで。
黄泉ちゃんたちは『お忙しい』からわたしたちには何も教えてくれないの。教えたくないのかもしれないわね? ええ、なんでって。わたしとピエロはおしゃべりですもの!」
ハムスターをひょいと掴んでいたピエロにジェーン・ドゥは「おいしくないわよ?」と声を掛ける。
『燃え尽きぬ焔』梨尾(p3x000561)は和やかなピクニックに和梨のタルトをそっと差し入れた。
バグのデータエネミー、廃棄物、本来なら必要なかった存在……生物兵器だった頃に廃棄されかけた身としては戦う気が起きないと彼はピクニックに参加を決めたのだろう。
「この様なイベントを開催してくださってありがとうございます」
何か罠があるかも知れない。純粋な善意であるのかも分からない。突然ログアウト出来なくなった者達にとっては何であれども藁にも縋る思いだ。
ジェーン・ドゥの言動を見る限り、こうした措置は『黄泉ちゃん』によるもので、自身等は後から乗っかったに過ぎないのだろう。
「あら、うれしい」と和梨のタルトを眺めるモノクロームの娘が権限を得たのは後発的な偶然であり、故に特殊イベントの分類を受けていたのだろうか。
「和梨がお嫌いでしたら、こちらもありますよ。アーモンドのアレルギーとか大丈夫です?
それと好きな果物や食べ物を教えてもらえたらまたご縁があったら作りますよ。キャラメルやチョコがお好きならならプリンタルトにできます」
「ピエロはどうかしら?」
「え~~~。好物を聞いちゃうんですかァッ!? ピエロの事気になっちゃった~~~??? アリスったらぁっ!」
「……そうね」
どうにも面倒になるとジェーン・ドゥはピエロから外方を向く癖があるのだろう。にゃこらすと梨尾は顔を見合わせる。
にゃこらすが彼女に同情的であるように梨尾とて彼女を恨めずに居た。元々は金髪に青い瞳であっただろう彼女は脱色された白い髪に憎悪の紅い瞳を持っていた。その色彩が『父』に似ているのだ。
「それとよろしければ貴方を別の名で呼んでもいいでしょうか?
会ったばかりで友達になって名前を呼ぶのは人見知りな自分にはハードルが高いのと……
『アリス』ではなく、今の貴方自身を呼びたいので……大丈夫なら春、春さんと呼びたいのです」
春。それは出会いと別れの季節。願わくば蒲公英の綿毛、もしくは桜の花びらのように。箱庭から混沌へと飛んでいけたら良いのにと梨尾は願わずには居られない。
「呼ばせてくれれば自分をもふもふしてもいいですよー……だめです?」
「もふもふはいらないけれど、勝手にしてもいいわ」
梨尾にとって、それは少しでも何かを変えられないかという意味合いを込めていた。電脳世界に閉じ込められている少女が変わるきっかけにでもなれば。元の世界に変えるまでは必要の無い名を彼女に与える事が賭けの一つであったがジェーン・ドゥは今は其方に意識を向けては居ないのだろう。
にゃこらすは彼女たちの物をちょっとだけ借りておきたいとその所作を眺めていた。盗めたならば『殉教者』九重ツルギ(p3x007105)に渡す算段だ。
ツルギにとっては脱出の機会をフイにしてでも本性を探るべき相手が目の前に居たのだ。鋼鉄で出会ったピエロが翡翠でも何らかの動きをしていることはもはや事実だ。ジェーン・ドゥとてあれだけの怒りを湛えていたがその底が知れないのは本当である。
「眠りネズミの代わりはほら! 今日のピクニックは素敵になりますよね、ヨハ太郎☆」
「……」
ヨハンナがちら、とツルギを見遣れば『Eat me』と書かれたパンケーキを振る舞う準備を続けている。
「アリス。今回はじっくりと慎重に慎重に動いてるみたいだな。前回の反省の結果かい?
ま、それはともかく。お前はどうして『お前だけの』物語を望む。他のやり方を知らないなら知ればいいじゃねぇか。お前さんは今、『生』を楽しめてるか?」
「さあ。『消えてしまったわたし』はどうおもうでしょうね?」
にゃこらすはジェーン・ドゥがセララから受け取ったリボンをそっと盗みツルギの元へと運ぶ。その間にも『気付かれぬように』と話題を振って。
「虚飾塗れのお前に質問を一つ。『嘘』についてどう思ってるか聞いてもいいか?
どれだけ化かそうがどれだけ嘘に塗れようが自分が自分としているのなら俺は『嘘』でもいいと思うんだがそこんとこどうよ」
「さァ~~~? ピエロですからネンッ」
ピエロは厚化粧の裏でにこにこと笑い続けるだけだ。ふと、にゃこらすは思いついたように問いかけた。
「あ、そだそだ。実はあんた、テアドールと関係あったりしない? 理由? 直感」
「ですってェ~~、アリス」
「テアドール。ああ、ああ。そうね、うんうん。テアドール」
「……知ってるのか?」
「知っていることだけ~」
「知ってるもんね~」
――はぐらかされただろうか。ツルギはジェーン・ドゥの声音を借りてみる。
「『ねぇ、ピエロ。翡翠の方で忙しいのは落ち着いた?』」
「まーだ。まだよ、アリス。ってアリスもしってるじゃなーい!」
「『ふーん。正義もおもしろい事になってるけど、あれもピエロがやったのかしら?』」
「ううん。どちらかといえば、わ・た・し」
にこりと微笑んだジェーン・ドゥにツルギははっと彼女を見遣る。『アリスがやったことをアリスが聞くわけがない』。
「『驚いたでござんすか? これが私の一芸でぇ』。貴方の知ってる『九重ツルギ』はこんな事しないかもしれませんね……」
「そうかしら。まあ、そうね。きっとそうだわ。『あなたってもうちょっとおとなしい子』だったと思ったもの!」
くすくすと笑ったジェーン・ドゥにツルギはふむとだけ呟いた。さて、どうして彼女がツルギを知っているのか。そこは疑問だが深く踏み込むのは今では無いか。
「これキュゥゥゥティクルに効くきうりパックだよ!ㅤおしろい溶けること間違いなし!」
明るく微笑んだきうりんにピエロが「まっ!」と頬に手を宛がった。やばい距離の詰め方で相手がどうでるのかを計ってはみたが二人とも普通にきうりんを受け入れているようである。
「あ、そうそう、ピエピエに聞いときたいことがあったんだった!ㅤいいかな!! ピエピエの……胸囲をおせーて!ㅤきゃっ言っちゃった……!」
問いかけるきうりんにピエロが頬を赤く染める――染めた気がした。
セララの傍らでドーナツを食べていたジェーン・ドゥからしらけた空気が醸し出されるがピエロは気にはしない。
「んもぉ!! 最近の若い子ってこんなんなのかしら!!
想像以上にグイグイきますねぇ。だめですよ今そういうのセクハラ! セクハラー! って騒がれるご時世なんですから!!
だ・か・ら……他の人には秘密よ? ……………………120」
そんな『えっち』な会話を余所にしてひめにゃこはこほんと咳払いをした。
「あのですね! 別にひめはログアウト不可状態とかどうでもいいです! むしろ学校サボる口実ができるので全然OKです!
ひめ的にはアリスちゃんについて行った方が楽しそうですので! こんな雑魚倒して終わりーだなんてつまんないイベントじゃないですよね!?」
「期待してるの?」
「モチのロンですよ! まだあるんですよね? とっておきの楽しい事が!
ひめならイベントを楽しむ自信ありますし、面白くする自信もありますよ!
楽しむ為なら何でもしますしね! ……別にゲームですから死んでも大丈夫ですし」
ゲームであるならば死ぬ事さえも恐ろしくは無い。そんなひめにゃこに「今、あなたのアバターは死んだわ数回だけど」とジェーン・ドゥは微笑む。
「さぁよろしくお願いしますアリスちゃん! 次はひめをどこへ連れて行ってくれるんですか!?」
彼女にとって、『次』に繋がるならばここで『アバターの命を賭けても』情報が欲しかった。
教えて欲しいと囁けば耳打ちするように、彼女は囁いてくれる。
「すぐにわかるわ。あなたはわたしといっしょよ」なんて――まるで、口説き文句のような言葉を添えて。
「『二人にとって、この世界――このR.O.Oとは何?』
『混沌』には存在が確認されていない貴方達にとっては、ここはなに? 仮想世界? 遊び場? それとも、貴方達にとっての『現実』?」
ハウメアは煙に巻かれたって二人が此処をどう思っているのかは知っておきたかった。
ハウメアにとっても『たとえ、護りたい人が居たとしても』。此処は仮想世界であることは構いやしない。
全てがデータであることは理解している。それでもここに住んでいる人々は、此処で生きている。それは、誰にとっても嘘偽りもない真実だ。
――例えそれがデータの、0と1の組み合わせなのだとしても。
変わりないハウメアにジェーン・ドゥは微笑んだ。
「『唯一』」
「……え?」
それ以上は彼女は口にしない。それ以外の言葉は彼女は言いやしない。しんと静まった空間できうりんは「よーし!」と背をぐんと伸ばした。
「ちなみにこのデスカウント増えたらなんか困ることある?ㅤないならこのまま自爆して遊び始めるけど」
「……ログアウト不可能になるのはそこに含まれるのかしら?」
いそいそと自爆スイッチを用意していたきうりんにアリスは首を傾げる。今だとセララは彼女の心を読み取ろうとし――「のぞき見はだめよ」
「『天国篇(パラディーゾ)』っていうとびきりのトランプ兵を作っているだけだからあなたたちには何も無いわ!」
穴なんて飛び込んでなんぼだ。その意味も分からないときうりんは『暇になったから自爆スイッチを連打して』居た。
現実の死に直結しないならばきうりんにとってそれはデメリットでは無い。死が怖くなくなれば選択肢が増える。
まだまだ遣ることがあるのだから。良い子になるのには時間をかけては居られない。
――名無しのジェーンに名を語らないバンビールか。どこか自分と重なる気がする。……嫌いだな。
自爆します――3、2、1……。
「わたしったら、まさか自爆スイッチで暇つぶしにデスカウントを重ねる子が居るなんて思っても居なかったの!
ああ、やっぱり『選んで良かった』! いずれはわたしたちの元へと辿り着かんとする『火焔天』たちの中でもとびきりだったものね。『原動天』のあなたって!」
ツルギはにゃこらすから受け取ったジェーン・ドゥのリボンをそっと握りしめる。
――ねえ、パラディーゾの配置は終わったのかしら? ふふ、きっと楽しい祭りになるわ。世界をわっと盛り上げましょうよ。
●ワンダーランド
『マルク・シリングのアバター』マーク(p3x001309)には目的があった。現状はログアウト不可能組は自発的にログアウト出来る手段は存在しない。
ゲームの勝者や『トロフィー』の受け取りなどでクリスト側の介入がなければ脱出できないのである。コレまでのことで予習を終えたマークは考える。
ジェーン・ドゥ達は管理者権限の一部を委譲されているらしい。このメルヒェンに溢れた世界で、彼女らが作った『ワンダーランド』は『管理者権限によるマザーへの介入方法』や『管理者権限を一時的に奪う方法』の手がかりはあるので無いかと考えた。
さて、マップ上の地図には『イベントエリア』のみが表示されている。フィールドの端へと向かうがぶにりと手のひらに『境界』が押し返されるだけである。
デスカウントが増加しても、『ログアウト不能状態』のキャラクターは即時リポップを可能としているのがこのイベントの注目すべき点だろうか。其れが知れただけでも自刃の甲斐もある。死んだが、それを感じさせない程度に簡単にデスカウントを集めてしまえる空間とでも言えるだろうか。
「……管理者権限を委譲された、けれど奪ったわけでは無いか」
そもそもにおいてジェーン・ドゥとは何だろうか?
彼女は一般的なアカウントでは無い。権限をある程度有した別の存在だと認識した方が良い。マザーへの介入を『行えていた』筈の佐伯操などのアカウントから操作権を奪ったのはHades達の側である。
その恩恵の下でジェーン・ドゥ達がこうして『こちらに干渉してきた』とするならば。
「……ジェーン・ドゥとピエロは『黄泉ちゃんと呼ばれた存在は別の思惑で動いている』か?」
――翡翠で何かが起ったとしても、正義で何かが起ったとしても、ヒイズルでさえそうだ。
そこに黄泉ちゃんと呼ばれた存在は噛んでいないだろう。ならば……?
「あら、仲間はずれにしたら黄泉ちゃんが可哀想だわ? けど、そうかも。だって、私たち『暇なのは耐えられないもの!』」
「えぇえぇ! ピエロはねぇ、常におどけるのがし・ご・と♪ ステージ上で固まってちゃ放送事故でショ!! だぁかぁら、イロイロしてるんです・ヨン!」
くすくすと笑う声が降る。マークはその声音を耳にしてから、嘆息するばかりだ。
「『黄金色の昼下がり』……その名前の世界に来たのも三回目、だったでしょうか。
とは言え、前回はセフィロトの街が侵食されたVR世界でしたし、前々回は果ての迷宮に顕現していた滅びゆく世界、でしたので私が来た中では一番真っ当な状態のワンダーランドなのかも知れません」
さて、と周囲を見回したドウにとっては『見知った世界』であるのは確かだ。あてがあるわけではないが眠りネズミやチェシャ猫を探してみても良いだろう。
「今回のジェーン・ドゥが、私達を追いかけてきたあのジェーン・ドゥであるのなら……このR.O.O世界内の、この黄金色の昼下がりに住むアリスもこの世界の何処かにいるのでしょうか?」
それは彼女にとっては『推察』でしかなかった。だが、R.O.O世界のアリスにもしも出会うことが出来たのならば。お茶会を楽しみ彼女から何らかの『鍵』を得ることが出来るはずだ。
……少しだけの下心。此処で出会えるアリスは『物語の少女』であるはずだ。この黄金色の昼下がりと呼ばれたライブノベルでのんびりと過ごしている『何ものでも無かった少女(ジェーン・ドゥ)』ではない普通のアリスが。
探索を行うドウが一人の金髪の少女を見つけたのと同時であっただろうか。『無名騎士』ウーティス(p3x009093)は彼女の周辺は空気が違うことに気付く。救出を行いに来た側である彼はこの地に残ることを前提に動いていたが『それに気付いた時点』でジェーン・ドゥからすると『居て貰っては困る人間』だ。それは無論、ドウも含めてだ。
ジェーン・ドゥはワンダーランドの主人公であった筈の娘だが、その名前は形骸化し個となった時に自分を見失った抜け殻だ。故に、役割(なまえ)に縛られていた彼女は名前(やくわり)を持った本来の自分を遠くに隠していたつもりなのだろうが――
「……見つけてはならなかったのだな。いや、違うか。敢えてこの地に置いていたのか。
エネミーをすべて破壊した時点でこの地は壊れるため、重要な物が分かりやすく置いてあるとは思えん。あるとすれば、それは罠」
「ええ。ですが、彼女の場合は壊れて欲しかったからこそ敢えて此処に設置したデータなのかもしれません」
花畑で穏やかに微笑んだ金髪に青空の瞳の娘。ウーティスはやれやれと肩をすくめる。真実を求める者はこの地で足を止めてしまう。パン屑をわざと落としてこれ以上先には進む無かれと告げるように。
「私はここで彼女と茶会を楽しもうと思います。そちらは?」
「さて……兎の穴からさらに深く進むためには――『黄泉ちゃん』とやらに繋がる何かを手に入れるには、小さな矛盾でも手がかりになるはずだ。
作られたものには、なにかしら、矛盾がある。故に、この地を探り続けるとするか」
ドウはお気を付けてとウーティスを見送った。これがプログラムであるならば何処かにバックドアがあるはずだ。権限を与えられた者であっても完全には無敵と行くまい。
何も見つけられなければ川らしき者を下れば良い。物語の少女のように。レテの川下りでもしながら『黄泉』を辿って煉獄を進めば良い。
「我ながら、馬鹿な賭けに出たものだ」
呟いたウーティスの傍らで、常時、情報伝達を行っていた『Elegantiae arbiter』E-Aが『ぱちん』と音を立てた。管理者権限による使用制限か。
相手も馬鹿ではない。探し求めるウーティスを野放しにはしてはくれないのだろう。
「いけないこ」
――どこからか、声が降った。
「けど、その心意気は気に入ったわ。ねえ、至高天(エンピレオ)へと辿り着くには貴方には『バグ』を侵食させられてないのよ。
だって……この世界では死んでくれていないじゃない。だからね、外から私たちを探せば良いわ。さっき、あなたたちが『あの子』を見つけてしまったから……」
――ボーナスポイントが取得されました。
ワールドの上空に記載されたその文字を、ドウは不思議そうに眺めていた。
和やかな談笑をしていたはずの金髪の娘の姿は掻き消えて。気付けば椅子の上には鍵が一つ落ちている。
同時刻に、ウーティスの目の前にも鍵がぽつねんと落ちていた。どうやら、『ワールド探索』で『存在していないはずのエネミー』と出会った二人にボーナスポイントが加算されたのだろう。
「……死んでいない、か」
それがデスカウントの加算を意味しているのならば。デスカウントを基準にログアウトを不能になったプレイヤー達はアバターに『バグ』が侵食していたとでもいうのだろうか。
ウーティスは鍵を拾い上げてから川の先へと向かい降りていくことだけを選んだ。
「……リセットされた時におこるピクセル化とやらに似ているがこのモザイク化は容量が足りないと見た。それかアリスが不完全だから世界も不完全なんだろうな」
「私と『貴方の思い人』の類似点は探しても意味は無いわ? だって、全く関係ないもの」
「わッ――!?」
ぐん、と至近距離に迫り来たジェーン・ドゥにロードは飛び退いた。世界がモザイクに閉ざされているのは彼が今まで関わってきたイデア崩壊と呼ばれる一連のイベントには関係ないのだろう。
だが『お茶会をしていたはずのアリス』が近寄ってきたのはこのフィールド内のことは彼女の目と耳で認識されていると考えた方が良いだろう。
「私も、この世界も『消える筈だった』だけよ。急造してモザイクだらけで見苦しいことは申し訳ないと思ってるわ。
ええ、ええ、けれどデータワールド・ワンダーランドは急いでピエロと作ったにしてはなかなかの見栄えじゃない?」
「……」
くすくすと笑ったジェーン・ドゥとは会話をせずにロードは探索を続けることにした。
とりあえずはモザイクを破壊してみるが直ぐさまに何事も無かったように復活する。ジェーン・ドゥに言わせれば『イベントが終わるまでは再生するし、終われば消滅するから壊さしても意味ないわ』との事である。
彼女はどうやらロードの目的である姉ヶ崎達とは関係していないらしい。連む相手の違いか。ジェーン・ドゥはピエロと呼んだ男、そして鋼鉄で一連の事件を起こした少女と関わることが多かっただろう。
「空間転移したどこかわからない場所だからやっぱり端っこ気になるな。ここが端……けど、出れたらどうしよう。それはそれで怖い。まあなんとなるだろ!」
ロードが世界の端に当たる部分に触れればぶにりと奇妙な感覚が手のひらに伝わった。ついで目の前に『ERROR!』と言う赤文字とエラーコードが展開される。
「アリスは『このフロアにはバグが沢山』と言っていた。ここはネットワーク上の構造だから『フロア=レイヤー』とみてアリスのアストラルレイヤー?」
「知らない言葉だわ!」
ジェーン・ドゥがからからと笑った。煙に巻いたか、それとも本当に彼女にとっては知らない言葉であったのかは分からない。
●ゲイムクリア
「さぁ、楽しい昼下がりの、未知の真実を探る冒険をしましょう!」とカノンはるんるんと歩き回っていた。
彼女の討伐数は全てトモコに譲る手はずになっている。レリックインベントリーに収納したアイテムを駆使して彼女はくまなく歩き回った。
冒険者としての経験則や直感に反応しなければモザイクの場所に石を投げて見る。
10フィート棒でつんつんしてみる。魔法を掛けてみる。敵対的ではない住人と話してこの世界の事やこの世界の外の事やこの世界の主の事について聞いて見る。
歌う花たちは「アリスはとってもいいこ」と笑い、トランプ兵は「それどころではない」と走り行く。
まるで『本物の世界がここにはあった』。カノンにはジェーン・ドゥが想像した世界そのものは分からないが、これこそが『ジェーン・ドゥ』の知っている世界をネクストに反映した様子なのだろう。
この地はいずれは崩れ去る。イベントの終了と共に崩壊していくのは決まっているのだ。
ふと、カノンは討伐が終わったことに気付いた。摘み取った草花がバックの中でモザイクになって崩れていくことにも気付く。
「え――ッ」
「……だって、この世界は『保ってられない』ものね。
あなたたちみたいな練達(まざー)が与えたデータならば、コピーしたって保持できるのに。この世界は保持できない」
気付けばジェーン・ドゥが後ろに立っている。びくりと肩を揺らしたカノンは「どういう」と呟いた。
「ねえ、『火焔天』さん。わたしたちは『あなたたちと共にしあわせな世界』を作ろうと思うの。
こんな崩れちゃわない世界を。だから、『沢山死んだあなたたち』のデータをコピーする時間を貰っただけなのよ。
大丈夫よ。『おうちへ帰ったってあなたたちはわたしたちが気になってずぅっとこの世界に来てくれるはず』」
カノンが後方へと後ずさる。その背を支えたマークはごくりと息を飲んだ。
「へ、え……?」
後ろにはマークが立っていた。だが、目の前にも『マーク』が存在している。
「それじゃあ、世界もそろそろおしまいかしら?」
『マーク』の唇がジェーン・ドゥの声音を奏でた。そして、カノンとマークは『イレギュラーズ全員が揃えられていたスタート地点』に転移する。
その地から身動き一つ許されやしない。
「さて、討伐数を譲ってくれてありがとう。だが俺が解放されたとしても終わりじゃない。
ログアウトできないメンバーも多いし、R.O.Oの問題はまだ解決してない。……だからネクストでの活動は止めないよ」
自身が外に出られたとしても、仲間達が囚われていることを見過ごせないとアズハは告げた。
「俺らの相手としちゃあちっとばかし物足りなかったな。じゃあなトモコ。次は混沌で会おうぜ」
ひらりと手を振ったリュカにトモコは頷いた。討伐数スコアでは上位五位にしっかりと食い込んだ己の名前を確認出来たことに安堵を覚えて。
トモコ、アズハ、マチルダ、ザミエラにシラス。その五人が今回はトロフィーとして輩出されるのだそうだ。
興味なさそうに聞いていたジェーン・ドゥは「ピエロは先におねむになって帰ったわ」と囁いた。
「イベントクリアでこのフィールドが消えることを君は知ってるのかな――楽しい『昼下がり』は終わりだな」
「『識』っているわ! だって、わたしは何時だってそうやって『この世界から消えてきたんだもの』!」
アズハは響いたジェーン・ドゥの声音に地を見下ろした。彼女の瞳が笑っている。色彩の宿らぬ虚空の色の瞳だ。
だが、その色彩は本来ならば鮮やかな蒼であったのだろうと何故だか認識できる。
「一つ聞きたいのだが、君達と例の黄泉ちゃんとやらは友達なのか?」
ベネディクトの問いかけにジェーン・ドゥは「わたしはそう思ってるのだけれど」とはぐらかしたか、そうでないのか微妙な雰囲気で囁いた。
「けど、わたし反抗期だから」
だからこんなイベントを起こしたのだと笑ったジェーン・ドゥにベネディクトは成程と小さく頷く。最後の魔王に辿り着くまではまだ時間が掛かりそうだが、彼女程度ならば直ぐにでも手が届きそうな錯覚が感じられる。
「頑張ったご褒美にジャバウォックのこと教えてくれよ、ワンダーランドなら居ない訳がないよな?」
シラスが問いかければジェーン・ドゥはにんまりと微笑んだ。
「ええ。いつかお会いしましょうね。ああ、ちがうかしら? 『すぐにあわせてあげる』わ!」
少女の唇が笑みを浮かべた。ぱちん、と手を叩いた。
「おめでとう、『わたしのかわいいおともだち』! けれど、また逢いましょうね。すぐにでも!」
――ぶつん。
音を立てて世界が遮断される。エリア移動のローディングが奇妙な圧力としてイレギュラーズの体へとのしっかった。
イベント『Lost Code - ERROR:Rabbit Hole』クリアおめでとうございます。
――クリア報酬(トロフィー)としてデータエネミー討伐数 上位五名が解放されました。
――ボーナスポイント取得により報酬に上乗せがなされました。
――『デスカウント』が少ないプレイヤー2名の解放が行われます。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
この度はご参加ありがとうございました。
『パラティーゾ』の各位階は火焔天の皆様との出会いを楽しみにお待ちしております。
MVPはボーナスポイントをゲットした貴方にプレゼントします!
GMコメント
夏あかねです。アリス&ピエロが『黄泉ちゃん』にお許しを貰って遊びに来ました。
●目的
イベントクリア
●特殊イベント『Lost Code - ERROR:Rabbit Hole』
R.O.O内に突如として発生した特殊イベントです。参加人数は限られており招待制。
『不明(ログアウト不能)』状態の皆さんは『直接招待』を、その他の参加者の皆さんは『間接的な招待』を受けた事となります。つまり、イベント参加権がランダムで与えられた状況です。
このイベントを『クリア』した場合は『クリア報酬(トロフィー)』として『データエネミー討伐数 上位5名』が解放されます。
また、同時にイベント参加者の上位5名以外のログアウト権利がロックされますのでご注意ください。
『データエネミー討伐数』は『1PCごと』に管理されます(チームを組んでいたとしてもとどめを刺したプレイヤーにカウントされます)。
また、『討伐数』は他PCに譲渡することも可能です。譲渡する場合は譲渡先PCを指名してください。
●行動指針
推奨される行動は以下の3つの何れかです。
ゲイム進行役の『アリス』と『ピエロ』からのオーダーはイベントのクリアです。
下記の選択肢より、行動を選択してください。選択を行っていない場合は【データエネミー破棄】(戦闘)となります。
誰がどれを選んでも大きな影響はありません。倒しきればそれでクリアですから。
好きに行動するも良し、チームを組むもよしです。
また、【誰かと一緒に動く】場合は【プレイング冒頭に指定】を入れて下さい。
【1】ピクニックへの参加
アリスとピエロと共に食事を行います。情報収集を行うも良し、アリスやピエロと楽しく話してイベントを終えるのも良しでしょう。
ピクニックに何か食事を持ち寄って、アリス達と話してみる事が出来ます。
彼女たちは暇つぶしにやってきたようですから、皆さんは何の気なしに参加しても咎められないのです。
【2】データエネミー破棄
イベントの本題。破棄されているデータがバグとして暴れ回っています。データエネミーと呼ばれています。
その姿や形はそれぞれ。謳うお花におしゃべり上手な草木、芋虫さんに踊る卵、ハンプティダンプティ。
物語のような姿を形取っています。通常の戦闘プレイングをかけてくださいね。
其れ等は全て併せて100体。全てを破壊しなくてはイベントは終了しません。
【3】ワールド探索
とりあえずの選択肢です。ワールドを探索してみます。何か情報があればいいですが……
●データワールド・ワンダーランド
『アリス』が作り上げた故郷の幻影。ワンダーランドはモザイクに塗れ、壊れかけの世界を思わせます。
世界の名前は『黄金色の昼下がり』。住民たちはワンダーランドと呼びます。
花々が咲き、メルヘンチックな世界には面白おかしい喋る茸や芋虫さん、ハンプティダンプティ、コーカスレースに眠り鼠など様々な存在が多数に存在しています。
皆さんはウサギの穴に飛び込んだばかり。その位置から、不思議の国を歩き回り物語を終わらすためにデータエネミーを破棄し続けてください。
全てを破壊することで『データワールド・ワンダーランド』は自動的に消失されイベントクリアとなります。
●参加NPC
・『架空』の国のアリス ジェーン・ドゥ
遍く世界の『アリス』がまじりあった存在。便宜上彼女はアリスと名乗りますが、本来の名前は無くマッドハッターはジェーン・ドウ(名無しの権兵衛)と称する。物語と全ての人の思い描くアリス像を塗り固めた存在です。
髪は脱色されて白く、憎悪の色の赤い瞳を乗せた『イレギュラー』の娘
主人公であった形跡が残るのは青の大きなリボンと白いバラのチョーカーだけ。
黄泉ちゃんと呼ぶ存在に許されてイベントを開催したようです。会話は出来ますが、煙に巻くことの多い少女です。
・『ピエロ』
アリスと共に参戦している愉快なピエロです。とても饒舌、雄弁、そして『ちぐはぐ』な言動ばかり。
基本的にはジェーン・ドゥの言葉に「そうね!」と同意ばかりをしています。本心はどこへやら。
彼はアリスに付き合ってイベントに参加したようです。会話することは出来ますが、こちらも煙に巻くばかりです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はDです。
多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さい。
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
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