シナリオ詳細
<神異>氷雪の帝君
オープニング
●
『――ERROR――ERROR――』
けたたましい警告音が耳障りに響き渡る。
『システムエラーが発生しています。
システムエラーが発生しています』
『冷却システムエラーが発生しています。
指示系統の破損を確認。予備電源を発動し、冷凍庫の冷却を開始します――』
電力の殆どが切られた薄ぼんやりとした室内を、虚しくアナウンスが響き渡る。
『冷凍庫内部に熱源を確認繰り返します。
冷凍庫内部に熱源を確認――食品への悪影響を鑑み、内部気温をマイナス200度へ設定』
ガガガガガとめちゃくちゃな音が響き、冷凍庫内部では、瞬く間に室温を下げる冷気が吹き付けていく。
「ふ、ふ、はっ、はっ……」
浅い呼吸をするのは、冷凍庫の中にいる3人の職員たち。
吐く呼吸は白く、十分な冷凍庫用の装備は、所々がパキパキと音を立てている。
「おい、大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ……とにかく、外に出ないと……」
集まっている3人は思わず顔を突き合わせてぶるりと震える。
その時だった。冷凍庫内部の奥、最小限の光しかないはずの室内をさぁと照らす光のようなものを見た。
「……なによあれ」
振り返り、女は思わず口に出した。
後光を道に、こちらへ姿を見せたのは、人よりも大きな四足歩行の生き物。
すらりとしたフォルムと水色と青色を基調とした色合いを持ち、頭部には後頭部へ真っすぐに伸びる角が2本。
全体的に恐怖よりも美しさを感じさせた。その周囲には大型の猫型に近い碧色の綺麗な生物が相次いで姿を見せる。
「……ありえない、ありえない、ありえない」
それを見た1人がぶつぶつと呟きながら震え出す。
「どうしたのよ?」
「あれが現実にいるわけない! あれはゲームの世界の存在のはずだろ!」
そう言って大声を発した男は、その場で頭を抱え込む。
「馬鹿! 大声を出したら――」
その瞬間、声に反応するように生き物たちが一斉にこちらを向いた。
●
練達は今、国家事業たるROOに力を入れている。
だが、そんなROOの奥側に産まれた強烈なる『悪意』――いわゆるコンピュータウイルスによって、練達側に攻撃が加えられた。
練達そのものともいえる『マザー』はこれに対して自身の防衛に集中することになった。
だがそれによってマザーの手ではおえない部分が生じ、生まれた隙はシステム障害となって現実に不安感をもたらした。
その不安感に付け込むように『真性怪異』が牙を剥いた。
現実世界――希望ヶ浜広域に広がるネットワーク障害、いわば『震災』にも等しき恐慌状態。
急速に侵食速度を上げた真性怪異たちは、虚構の世界に構築した世界を現実のものとせんばかりに本格的な攻撃――侵略を始めたのである。
中天にて不気味に輝く浸食の月が見下ろす中、イレギュラーズは呼び出された場所へ到着していた。
そこには巨大な建築物が存在していた。見た限りでは、工場のような物の類のようだ。
「お待ちしてましたっす! 先輩たち、先に状況の説明をした方が良いっすかね?」
先にいたらしい佐熊 凛桜(p3n000220)が棒付きの飴ちゃんを舐めながら声をかけてきた。
「ライフラインは混乱してるっすし、電気回線やらなにやらもオジャンっす。
先輩たちもここまで来る間に方向感覚とか失ったりしそうにならなかったっすか?
これは異世界とやらが染み出してるかららしいっす。
こればっかりは、相手が真性怪異(かみさま)だってことを実感せざるを得ないっすね」
そこまでいうと、こちらを向いたまま凛桜は端末を建物の液晶へ向け、ロックが開く音がした。
「んで、あたし達がやるべきことなんっすけど。ここは希望ヶ浜の食肉と魚とかを保存してる工場の1つっす。
流石にここが潰れたからって直ぐに肉や魚が食べれなくなるわけじゃないっすけど……
実は、明日の出荷物を纏めてるはずの人達から救難信号が届いたそうっす。
中には『ゲームの中に出てきた化け物が冷凍庫の中にいる』って悲鳴を上げる人たちの声があったっす」
ゲームの中の化け物――その言葉に訝しむような視線を向けると、凛桜は端末を動かして言われた化け物の元ネタを表示した。
「――で、ここからなんっすけど、こいつらが本当にいるのなら、それはまず確実に夜妖のはずっす。
取り残された人達を助ける必要があるっす。それに加えて、あたしは冷凍庫の異常を一旦停止させるプログラムを貰ってきてるっす。
なんで、あたしがそのプログラムを起動させる間、何とか耐えてほしいっす」
そう言って、凛桜は端末を軽く叩いてみせた。
- <神異>氷雪の帝君完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年11月03日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
潜入を果たした9人のイレギュラーズは、冷凍庫用の防寒具を着込んで問題の部屋へと足を踏み入れる。
パキリと音がして下を見れば、何かしかの水滴が凍り付いたらしく、罅割れている。
「……しかし寒いな。少しは着こんで来れば良かっただろうか」
現場が食糧庫ということもあって、『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)の表情はいつも以上のやる気が見え隠れする。
とはいえ、いくら冷凍庫と言えど、危うく絶対零度まで届かんばかりに温度になることはそうはない。
肌寒さを覚えるのも仕方なかろうという者か。
「ええ、流石にいつもの服装では心が折れるところでした」
それでもなお寒すぎる空間に『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)がふるりと身震いする。
そんな彼女が抱えているのは、ケミカルライトだった。
こんな物でも停電時の光源代わりになるならば――と、在庫がないことがほとんどだったが、何とか買い集めてきた代物である。
環境が整うまでおおよそ1分程度あるという。
それまではこの極寒の空間での戦いにならざるを得ない。
「やれ、建国様のころから懸念はあったが、実際に混沌へ侵食してくるとはね」
入り口に会った室内の地図を写し取った物を流し見ながら、『闇之雲』武器商人(p3p001107)もいつもの調子に笑う。
情報網を駆使するまでもなく、冷凍庫室の入り口に地図はあった。
(となると次はどこが隠れやすいかを探る所だけど……)
棚積みされた一部の肉や、使用前の包装用具が積まれているらしい場所が隠れるには一番であろうか。
「くはははッ、時間との勝負になりそうだねぇ!」
ギフトを用いて自らの体格を細く変化させた『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は笑いながら耳をピクリと動かした。
か細い助けを呼ぶ声を感じ取り、視線をそちらへ向ける。
「どうにもあっちの方だな。あとは行ってみて探す方が良いんじゃねえか?」
ゴリョウの意見に頷く者は多い。
(いやはや頭がバグると全部駄目になるのはどの世界や街でも変わらないかぁ。
こういう時は人命が最優先だったかな)
俯瞰的に、冷静に分析する『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は、根本の本質を覗かせず。
「あんまり放置してるとコロッと昇天しちゃいそうだし、手早く助けて合流しましょうか」
ゆらりと答えて、ゴリョウの言葉に頷く様子を見せた後、耳を良くすませた。
しかし、ガガガガガと喧しいクーラーの音に他の音がかき消されかねない。
「ええ、ご主人様がいらっしゃれば、救えと仰るはずです」
こくりと頷いた『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)は、入り口に書かれていた冷凍庫内の地図と情報を照らし合わせていく。
進行ルートは簡単に割り出せた。冷凍庫ということでそう複雑な作りになっているわけではないというのが大きい。
「練達の食卓からご飯消えちゃうのは危険なのよ!」
そう言う『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)はもっこもこに包まれている。
あったかい格好してきたその上から、ここにあった防寒具を着込んだためである。
「お家帰ったら寝込むって宣言したし、頑張るわ!」
なんていった彼女は、冷凍庫に入る前に、入り口に保湿可能な水筒にあったかい飲み物を入れ、毛布も持ってきている。
「さむっ! 寒いいい!! お家帰りたい! え? どうして皆平気なの……」
防寒具を着込みつつも、ぶるぶると震える『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)が周囲を見る。
「どっちにしろ、終わらないと帰れない……?
……みーんな覚悟しい!速攻終わらせてやるー!」
残酷な現実に自棄になった少女であった。
音の反響を頼りに、アリアが走り出す。それに続くように他の7人も動き出す。
●
すぐに3人の姿は発見できた――と同時に、夜妖の姿も。
『フゥロォォォ』
鳴き声であろうか、大きな4足歩行の動物らしき存在が見える。
すらりとしたフォルムと水色と青色を基調とした色合い。
後頭部へ真っすぐに伸びるのは、平らな角っぽいなにか。
その周囲には、猫っぽい生き物たちが群がっている。
『ニャァァ』
猫らしき生き物の鳴き声。
「いた! 私の体温の為に犠牲になれー!」
やけくそになったアリアが、会敵一番、蛇骨の調を掻き鳴らす。
紅蓮の蛇となった呪詛の詩。
のたうち蛇行して、すさまじい速度ですらりとしたフォルムの生き物――グラキエスを包み込む。
いつもより力強く思わせるところがアリアの本心を如実に示している。
しかし、グラキエスはそんなアリアを振り払うと、口を大きく開き、そこへ冷気を集めていく。
「――さっむ!! やめてー!」
おかげで、集まっていく冷気にアリアが非難の声を上げた直後――収束した冷気が光線となって射出された。
「あ、アァ、あああ!!」
引きつった顔から、言葉にならぬ声を漏らす3人の業者に声をかけるのはドラマ。
「大丈夫ですか?」
平常心を保つため深呼吸――しようとすると、今度は恐ろしいほどの冷気を吸い込んで芯から冷える悪循環。
3人の様子が極限状態のそれに見えるのも致し方ない。
「外で温かい飲み物と毛布を用意してあります。
私に着いてきてください」
そう告げれば、2人はこくこくとしきりに頷いて答えてくれる。
「う、後ろ!」
引きつった声で女性が言う。
言葉に振り返り――迫りくる冷気の光線を見た。
ドラマは咄嗟に女性を庇ってそれに直撃する。
全身が裂けるような冷気に蝕まれて激痛を呼ぶ。
「立てますか?」
リュティスが声をかけた人物は、立ち上がろうとして再び尻もちをつく。
足場が滑るというのもあるが、この男性の場合は、腰が抜けているらしい。
「難しいようですね、担いでいきましょう」
そう言うや否や、リュティスはその男性を背負って立ち上がる。
「立てるかな?」
ルーキスが問えば、男性は頷いて立ち上がるが、直ぐに足を押さえてうずくまる。
「……仕方ない、私が背負うよ」
男はその言葉にそこまでは大丈夫、と否定する。
そんな男をスルーして、ルーキスは彼を背負った。
「そっちは大丈夫だよね?」
ドラマの方を見れば、彼女はガッツリ凍った防寒具の下で小さく頷いた。
「血の饗宴の時間だね。まずは気持ちを高めていこうか」
ドラマとほぼ同時に到着を果たしたマルベートは、自らの内側に秘めたる者をこじ開ける。
迸る黒きマナがマルベートの身体を包み込み、神秘への親和性を高めていく。
そのまま呼び込んだのは大いなる夜の加護。
仮初の不滅をもたらす帳の王となったマルベートの赤き瞳が、数多の獲物へ歓喜に揺れる。
「くははは、遅れちまった分、取り戻さねえとな」
ゴリョウは笑い、その後すぐに重く響く重低音でニクスへ声をかける。
数匹のニクスが視線をゴリョウに向けてくる。
ゴリョウへの警戒心をあらわにした数匹が、一気に向かってくる。
ある一匹が歯を立てんと食らいついてくるのを四海腕『八方祭』で防ぎながら、別のニクスへ天狼盾『天蓋』を向けて弾くことを試みる。
八方祭に噛みついていたニクスを振り払い、天蓋に突撃してきたニクスを押し返して、他の個体を狙うべく視線を巡らせる。
「ヒヒ、待たせたねぇ、ここからは我(アタシ)が遊んであげようねぇ」
たどり着いた武器商人がグラキエスの眼前に立ちふさがれば、身を低く屈めて警戒を露わにされる。
その一方で、武器商人はジャミングを試みるが、こちらは失敗だった。
テレパスの類ではなく、生物の習性として連携が取れているのだろう。
すぐにハイテレパスでそれを仲間に知らせながら、唸る子を見た。
さてそこへたどり着いたキルシェは、救出班の3人を見つけて声をかける。
「従業員さんたち、お外に毛布とあったかい飲み物おいてあるからあったまってね!
猫さん達はルシェたちが倒すからもう大丈夫よ!」
ドラマへとクェーサーアナライズでの治療を施す傍らで、男達へとそう告げれば、3人がぺこりと頭を下げてくれる。
キルシェはそれに笑いかけた後、戦場へと戻っていく。
――――――――
――――――
――――
――
ピピ、と音が鳴って、けたたましく鳴り響くアラートが鳴りを潜めていく。
真っ赤の警告灯が停止したのを確認して、少女――凛桜はほっと胸をなでおろす。
「……よし、これで終わりっすね。
あとは先輩たちに合流して……」
凛桜はそう呟きながら外へ出た。
●
ガガガガ――
激しく動くクーラーの音が、静かに代わっていく。
『ERROR ERROR ERROR 工場内のERRORを確認しました。
作業を中断し、報告をお待ちください。
――システムの更新を確認しました』
スピーカーらしき報告を聞きながら、イレギュラーズ達は前を向いた。
ここまでの戦いは、明らかに相手の有利だった。
しかし、冷気の供給が停止し、換気口が動いて外に逃がし始めると、元気だった敵は見る見るうちに鈍っていった。
『ナァァァ!!』
『ロォォォ』
合唱を上げながら、こちらを見るグラキエスとニクス。
「これ以上、美味しそうなお肉を、駄目にはさせませんよ!」
ドラマは魔術礼装を未だに生きている4匹のニクスへ向けた。
思い描いた師の在り方。
深められた術式への理解力。
それらを糧に、顕現するは無垢なる混沌に記憶された『痛み』。
精神を暗い、虚無へと誘う彩禍が、群がるニクスのうち、疲れを見せる1匹へと炸裂する。
ニクスは小さくにゃあ、と声を上げて、燃え尽きたように地面へと倒れ、まるでROOのようにノイズがかって消えた。
ニクスの数は、先程ドラマが倒した個体であと3匹。
「ふふっ、動けば体温も上がってくるね。心地よい空腹すら襲ってくるよ」
笑い、マルベートは両手の魔槍に魔力を籠めた。
ほんのりと宿った漆黒の炎。
「前菜といこうか」
眼前のニクスへと振り下ろす斬撃が、ニクスの身体に黒炎を刻み、傷口から血が出ていく。
最後の一刺し、くるりと片手の魔槍を逆手に持ち替え、真っすぐに振り下ろす。
心臓を貫いた槍が血を望む。
「気を取り直して――あと一回だぁ!」
調和の力を賦活の力へと変じたゴリョウは、おのれに向けてその魔術を行使する。
淡く輝く温かな光は、己こそがもたらした者に違わず。
ゴリョウはもう一歩踏み込んだ。
「くはははは! これが終われば、食事だぜぇ!
リュティスの嬢ちゃん! オレごとやっちまいな!」
笑うゴリョウの眼は喜びに満ちている。
強い衝撃が籠手を、盾を軋ませようが、これから待つ食事を思えば気持ちも楽になる。
「……分かりました」
微かな黙考、不殺さえできれば問題は無かろう。リュティスは静かに弓を引いた。
2匹のニクスを跳び越えて宵闇から矢を射出する。
矢は氷の槍へと姿を変え、真っすぐに2匹のニクス共々貫通させる。
血を流す2匹がゴリョウから崩れ落ちて地面に倒れれば、そのまま消えた。
「そろそろ眠ってくれないと困るんだよ!」
アリアは走り出した。
グラキエスへと紡ぐは悪神の詩。
正常なる大地、豊穣神たる存在へと告げた怨嗟の声が、戦場に響き渡る。
冷凍庫の構成上、反響した音は響き渡り、跳ねては返して、グラキエスを苦しめる。
その最中、アリアは良く動く。
ぴょんぴょんと、わざわざグラキエスの左右に触れるように移っては囁く。
曰く――「寒いから動いてないとやってられないの!!!!」とのことだ。
もたらすは狂気、縛るは呪い。
それに加え、それまでのグラキエスと明らかに違うのは反応だった。
明確に発狂したグラキエスが、自身の身体を傷つける。
「侵食のせいとはいえ外来種はお断りだよ」
ルーキスがそんなアリアに続けとばかりに、ルーキスはメレム・メンシスへと魔力を籠める。
グラキエスの腹部に銃口を突きつけ、星明りの書を媒介に神秘性を高めれば、引き金を弾いた。
ゼロ距離より放たれた魔術的砲撃が、グラキエスの身体に風穴を開ける。
『ルゥゥゥ』
声を上げたグラキエスを無視して、溜めなおした魔力を早速打ち込んでいく。
連撃にグラキエスがたたらを踏んだところで、ルーキスは立ち上がる。
「必要なのは一撃の破壊力ってね」
微笑を浮かべさえしたルーキスに、グラキエスが間合いを開けようとして、武器商人へ食い止められた。
「つれないじゃないか、我(アタシ)を置いてどこへ行く気だい?」
笑う武器商人がグラキエスを抑え込む。
グラキエスが怯えたように震えるのと対照的に、武器商人はいつものように笑みを浮かべる。
夢想より現れ、現実へと染み出したグラキエスへもたらされるには、それは飛び切りの皮肉に違いない。
夢想を以って現実を食らい、滅亡へと誘う神秘を前に、グラキエスの声はあまりに小さく、か細く。
喉の調子を整えたルシェはゴリョウの正面に立つと、もう一度だけ喉の調子を整える。
「美味しいご飯は元気と幸せの元なのよ!
それを守ってくれる冷蔵庫とか従業員さんたち怖い思いさせた悪い子たちは反省しなさい!」
そう啖呵を切って、2匹のニクスめがけて歌うのは慟哭の歌。
あたかも悲しき亡霊の呻く慟哭のような悍ましさに、ルシェの歌声を受けた2匹が飛びあがって跳ねた。
●
「お兄さん、お姉さんルシェの声を聞いて!」
深呼吸と共に紡ぐは天使の詩。
当初に比べて格段に呼吸のしやすくなった戦場で詠う天使の詩が、仲間達の身体を癒していく。
温かくやわらかなルシェの言葉の輝きに、仲間達の疲労感が吹き飛んでいく。
愛らしささえ感じる天使の歌は、まさしく天使のように仲間を叱咤した。
向かい合うは残りグラキエス1匹のみ。そのグラキエスも、明らかに疲弊している。
「いよいよメインディッシュだね」
マルベートが呟きつつ真っすぐに走り抜ける。
地獄の業火は双槍に燃え盛り、グランクトーで斬り伏せ、グランフルシェットで身動きを封じて抑え込む。
鮮やかな手腕の下に、グラキエスの身体に業炎が散り付いた。
「こっからは俺に任せな!」
グラキエスの正面へと割り込むようにゴリョウが布陣する。
『ォォォォ』
グラキエスの口に集束する冷気。
噛みつかんと動いたその頭部に、ゴリョウは思いっきり籠手を振り下ろした。
散った冷気が籠手を冷やし、殴られたグラキエスが顔を揺らす。
「ヒヒ、頼んだよ旦那」
対応するように動いた武器商人が、自らに二種類の加護を降ろす。
驚異的に強化されたソレより齎される夢想の悪夢に、グラキエスが明確に悲鳴を上げた。
後退を赦されず、錯乱した矛先は近くにいたものに向かうも、さほどの脅威にはならない。
敵愾心のみで立っているかのようなグラキエスの方へ、リュティスは近づいた。
「……終わらせてあげましょうか」
踏み込みと同時、舞うように飛翔したリュティスは、グラキエスの首筋に錐刀を突きたてた。
刹那の攻撃と共に、グラキエスの頭部へ体重を乗せれば、そのまま身体が落ちて、消滅した。
●
戦いの後、イレギュラーズは小休止を挟んでいた。
「ぶはははは! あそこまで寒いと腹が減るな!」
豪快に笑うゴリョウは、依頼人から使えなくなった肉の購入を買って出ると、それを使って料理を始めている。
「無駄に寒かったお陰で外出ると違和感がすごいなぁ……」
急激な温度変化にムズムズして、ルーキスは文字通り自分の羽を伸ばしてみる。
ぱりぱりと零れ落ちた氷が、地面に落ちるまでに溶けて消える。
「あ~寒かった!
こんな寒い日はあったかいココアに限るね!」
ルシェが持ってきていた水筒から温かいココアを貰ったアリアは恍惚としている。
「従業員さん達にも怪我はなかったみたいだし、みんなのご飯守れて良かったわ!」
そういうルシェも、温かいココアに舌鼓をうつのだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
お疲れ様です、イレギュラーズ。
お待たせいたしまして大変申し訳ありませんでした。
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
いつかの食卓から肉と魚が消える前に。
何かしらっぽいなにかと戦いましょう。
●オーダー
【1】夜妖の討伐
【2】従業員の生存
【3】出来る限りの食肉への損害阻止
【3】を努力事項とします。
●フィールドデータ
練達某所に存在する食肉工場。
特にその内部にある冷凍庫内です。
都市国家『練達』の食を支える工場の1つだけはあり、戦闘をするのには困らない程度には広大です。
ただし、そこら中にお肉が積まれていたり、吊るされたりしているので注意が必要です。
また冷凍庫潜入後6Tの間、システムエラーに起因する【氷結】BSが付与されてしまいます。
●エネミーデータ
・『凍てつく帝君』グラキエス
人よりも大きな四足歩行の生き物っぽい夜妖です。
すらりとしたフォルムと水色と青色を基調とした色合いを持ち、頭部には後頭部へ真っすぐに伸びる角っぽい何かが2本。
某ゲームで見たような気もしなくもない生物です。何とは言いませんが。
【凍結】系列のBSを持ち、至単、自域、遠貫などの範囲技を駆使します。
また、【凍結】系列に対する耐性を有します。
神攻、EXAが高く、防技がやや高め。
ニクスとは連携のような動きを行ないませんが、ニクスより個体スペックが強力です。
《特性》氷棲生物(P):【凍結】系BSのフィールド効果発生中、全ての能力が上昇しています。
・『氷雪に行く大猫』ニクス×15
猫ほどの大きさの四足歩行の生き物っぽい夜妖です。
独特な尻尾が特徴的な碧色の大型な猫ほどのサイズ感をした生き物。
某ゲームで見たような気もしなくもない生物です。何とは言いませんが。
【凍結】系列、【毒】系列のBSを持ち、多重影、変幻を有します。
至単、近単、遠範などの範囲技を駆使します。
また、【凍結】系列に対する耐性を有します。
物攻、神攻、命中が高め。
ニクス同士は抜群の連携を持ちます。
《特性》氷棲生物(P):【凍結】系BSのフィールド効果発生中、全ての能力が上昇しています。
●NPCデータ
・佐熊 凛桜(p3n000220)
希望ヶ浜の生徒のイレギュラーズです。
最初はコントロールルームでエラーを解除するプログラムを入れています。
皆さんが冷凍庫に入ってから10T後に戦闘に合流します。
基本的にはAP回復も可能なヒーラー型の神秘サポーターですが、やろうとすれば神秘攻撃も可能です。
適当に使い潰しましょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●侵食度<神異>
<神異>の冠題を有するシナリオ全てとの結果連動になります。シナリオを成功することで侵食を遅らせることができますが失敗することで大幅に侵食度を上昇させます。
●重要な備考
<神異>には敵側から『トロフィー』の救出チャンスが与えられています。
<神異>ではその達成度に応じて一定数のキャラクターが『デスカウントの少ない順』から解放されます。
(達成度はR.O.Oと現実で共有されます)
又、『R.O.O側の<神異>』ではMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。
『R.O.O側の<神異>』で、MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
但し、<神異>ではデスカウント値(及びその他事由)等により、更なるログアウト不能が生じる可能性がありますのでご注意下さい。
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