シナリオ詳細
<神異>高等警察アト&イーリン
オープニング
●インポッシブル
「「高天京特務高等警察だ!」」
扉を勢いよく蹴破り、手帳を同時に突き出す二人の男女。
部屋中にズンと響きよく通るその声を、聞き漏らすものは少ない。
現に拳銃を握りしめた一人の男が、二人に向けてぶるりと震えた。
「アト&イーリン……一課の狂犬共がなんの用だ!」
震え、叫ぶ。それだけではない。男は銃のひきがねを引き発砲した……が。
紫神の女性イーリンはフッと小さく笑って手帳を突き出すのみ。
彼女の髪と同じ微光を放った手帳を中心にレンズ状のフィールドが形成され、弾丸がとめられる。
「私が格好付けるためだけにこうしてるとでも、思ったの?」
くわえ煙草からあがる紫煙。首を小さくかしげて見せれば、隣に立つ茶髪の男性アトは片手でネクタイを器用にきゅっと締め直した。
「いや? 僕は格好いいと思ってやってるけど? 君は違うのかい、『司書』?」
「それを相手の前で言わないのよ、『観光客』」
互いをあだ名で呼び合うと、ポケットから特殊な呪具を取り出した。手錠にも似たそれは、二人が放ったと同時に男の両手にガシャリとはまり、太い鎖が奇妙に伸びて彼の胴体をぐるぐると巻き付き拘束した。
どさりと倒れた男に近づき、ついでとばかりに口に布を突っ込むアト。
その横を通り抜けて板間の部屋を歩くイーリン。
薄暗い部屋にはパイプ椅子が一つ。長机がひとつ。机の上には競馬新聞とくしゃくしゃになった馬券。そして山盛りの灰皿。
他になにかないかと部屋を見回してから、イーリンは頭に手を当てくしゃりとやった。
「やられたわ。また架空企業(ペーパーカンパニー)よ……」
「最近増えたね、この手のシステム。いつからかな」
高天京特務高等警察一課の名物コンビアト&イーリン。彼らは凶悪事件や特殊事件の捜査を担当するグループに所属していながら、八扇と天香遮那の間に生まれた不自然な確執を嗅ぎつけていた。
己の職務に反するとしりながらも調査を続け、ついに二人はこの世界の真実に近づきつつあったのだ。
「けど証拠は見つけた。そこの男もちゃんと仕事はしてたみたいだね。えらいえらい」
アトは家具を強引にどかすと、裏に仕込まれていた隠しファイルを抜き取った。
開いてみれば、遮那と高天京特務高等警察:月将七課が結託している旨の情報と、その協力者たちのリスト。そして一部にはマーカーがつけられ、監視や拉致といった言葉が書き込まれていた。実際、拉致マークがついた者の中には行方不明者も含まれている。
「八扇にとって都合の悪い人間をコイツは秘密裏に拉致。被害届が出ても『永遠の行方不明』として処理される。高等警察も一部は八扇の息がかかってると見て間違いなさそうだ」
「そりゃあ、国家機関ですもの。政治と無縁なわけないでしょ」
煙草を手に取り、灰皿にぎゅっと押しつけるイーリン。そして、ブラインドのかかった窓際へと歩いて行く。
「おっと、まずいわね」
ブラインドシャッターに指をくいこませてスキマを明けると、外の風景が見える。
ガス灯に照らされた表通りには無数の馬車がとまり、統率された動きで人間たちが展開している。
彼らの顔には大きな目のような黒布がかかり、纏う衣服も含め呪物であるように見えた。
それどころか、彼らはキュッと右手で狐のような形を作り生き物のように動かすと、フワリと半透明な狐状の霊体を召喚した。
「裏四課だわ」
「夜妖憑きで構成された抹殺部隊のこと? あー、あれがね……」
同じくブラインドに指を突っ込んでのぞき見るアト。
「狙いはこの男だと思う?」
振り返り、今まさにムームー言って拘束されている男を見る。
イーリンは苦笑した。
「そんなわけないでしょ」
決まっている。彼女たちは踏み込みすぎたのだ。裏で抹殺命令が出ていてもおかしくない。
けれど、証拠と拉致被害者リストはいま手元にある。
この場を生き延びて、これを月将七課の元へ届けなくては……。
●国全てが敵になった夜
豊底比売。それはヒイズルの国を実質的に支配する神である。
豊かさをもたらし、国を護る神でありながら、この国を大きく大きく歪めていった。
そのことに気付いた天香遮那は機関を離脱し独自に調査を開始。時を同じくしてヒイズルの闇に気がついたイレギュラーズたちは『高天京特務高等警察:月将七課』という立場を強引な方法で獲得し、事件の調査や協力者の救助のため動いていた。
そんな中、国家の頂点である霞帝及び政治中枢機関八扇は遮那の処刑を宣言。並びに月将七課を国賊と断定し、各所の拠点を襲撃し始めた。
そんなさなかで起きた……これは真実と正義の物語。
「一課の狂犬コンビ、アト&イーリン。
彼女たちは俺たちと同じく八扇の陰謀に気付き調査を進めていた」
そう説明するのは、裏路地に隠れ捜査の目をかいくぐっていた名無しの退魔師 (p3y000170)であった。
「その中でついに見つけたのが拉致被害者リスト。協力者のなかで行方不明になっている人間たちと、その居場所を探るための重要なヒントになる」
協力者といっても様々だ。相手がそう思っているだけで本当は関係のない人間や、間接的に協力しただけで狙われた人間だっている。その全てをこちら側から把握し監視し続けることは難しく、そしてピンポイントで狙われた場合守り切ることはできない。
だが、相手とて情報は欲っしている筈。そこまで『致命的でない協力者』なら捕まえて尋問したほうが利益になる。つまり、助け出すことが可能なのだ。
「だがこのまま放置すれば捜査員は抹殺され、証拠も奪われるだろう。
現場に突入し、抹殺部隊を撃退。証拠を手に入れろ。俺からのオーダーは、それだけだ」
こうして、一課と七課の運命は交差する。終末の動乱のなかで。
- <神異>高等警察アト&イーリン完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年11月01日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●敵か味方か、月将七課
月明かりの差し込むブラインド越しに、アト&イーリンは懐から拳銃を抜いて外を見た。
「逃げ切れる数に見える?」
「んー、僕が相手の立場だったら100%逃がさない自信あるね」
「じゃあムリそうね」
自分と同程度かそれ以上の実力者はいて然るべき。相手が賢く、こちらの情報を持っており、それを殲滅するために送り込んだ戦力であるなら『確実に勝てる勝負』を相手は仕掛けたことになる。もうこの時点で詰んでいるのだ。
ふと振り返る。鎖でぐるぐる巻きにされた参考人が倒れ、困惑した様子できょろきょろと目だけ動かしている。
こいつを使って不意をつくか? などとイーリン考えているとアトが『うぇ!?』という奇妙な声をあげた。
何事かと顔をしかめて見てみると、ビルの下に集まる高等警察裏四課『貪狐』が一様に空を見上げている。
こちら側ではない。向かい側のビルの……。
「うぇ!?」
イーリンも、同じ声をあげた。
「アト&イーリーン! 見てるー!?」
手をかざし、っていうか手帳をかざして振り回す『妖精勇者』セララ(p3x000273)。
本人が手のひらサイズなので手帳が掛け布団くらいデカくみえる。
そんな彼女から大きく視点を引いてみると。
「こーんばーんわー!」
「生きてるかー」
向かいのビルの屋上。
『助けに来ました』とものすごくデカい字で書かれた横断幕を、『アイアンウルフ』うるふ(p3x008288)と『結界師のひとりしばい』カイト(p3x007128)が広げて手を振っていた。
親友がプロスポーツ選手を夢見て上京する時さりゆく電車にむけた見送りの時に見せる動きである。絶対、今から抹殺される二人の警察官に送るものではない。
が、それがとてもよく効いた。
「あれ、本当だと思う?」
「僕ならああやって味方をアピールするね」
「じゃあ信用できそうね。あとイカれてるわあいつら」
窓際。アトとイーリンはそんな風に彼らを評価した。
これが敵のブラフとかだったら下手すぎるし、勘違いした部外者だとしたら貪狐たちを刺激しすぎる。
視点を戻して、カイト。
「にしても、高等警察一課の狂犬か。狂犬って言われて本当に納得しかできねぇんだよなぁ……。……いやアトは別の意味でも狂ってる気はするけど」
「ひゅー、かっけぇ。証拠を手に入れ、必ず皆で生きて帰るぞ!!」
ちょっと遠い目をしてるカイトの一方で、うるふはなんだか楽しそうだった。
刑事ドラマの中に入ったみたいで楽しいのか、それともアト&イーリンを助けるミッションが嬉しいのか。
立場的には一番動揺しそうな『ゴースト・イン・ザ・マシン』レイ(p3x001394)はというと、全くそんなことはなかった。ものすごく他人事の空気を見せている。
(誰だか知らない、でも亡霊が行けと囁いている……)
涼しい顔というと語弊があるが、アトの視線が自分にむいていてもなんとも思っていない様子だった。
実際一番動揺しているのは『人型戦車』IJ0854(p3x000854)。もといその中身である。
(ウソでしょ……なんで私あんなことやってんの……。
もしかして私、あの状況楽しんでる……? こっわ)
『パイロット、あれは』
「おだまり!」
ウィンドウをゴッと叩いてから、頭をかきむしった。
「ああもう、助けてやるわよ!」
次に、IJ0854が首を巡らせ他の仲間達に視線を送った。
冷静にこれからのプランを確認している『夜桜』アルヴェール(p3x009235)。
(アト&イーリンか。こちらの世界にも居て、それぞれ身分を得ている。なんだか不思議な感じがするね
あちらではそれぞれ1度かそこら一緒に仕事をした程度だけれども……まあ、知ってる顔に死なれても寝覚めが悪いしね)
クエストの成功条件は『証拠の獲得』。アト&イーリンの生死は問われていないし、最悪彼らを倒して手に入れたっていい。
それでも満場一致で二人を助け出すプランに決まったのは、少なくともアルヴェールのように考える者からすればさもあらんといった所である。
『傘の天使』アカネ(p3x007217)が畳んだ傘の代わりに旗をかかげ、『アトさんこっち見て』と書かれたそれを振り回している。
「救出対象がアトさんとイーリンさんとか!
いや、警察の狂犬コンビとか実に『らしい』ですけどね!」
いかにも強引な捜査しそうじゃないですかーとケラケラ笑うアカネに、IJ0854が謎の視線を送っていた。
一方の『女王候補』アンジェラ・クレオマトラ(p3x007241)はパラソルを畳んで、『イーリンさんこっち見て』の旗をぱったぱったとカーワイパーみたいに正確に振っている。
「死んでリアルに戻らずに済むように防御性能ばっかり上げてた私には、こういうのは得意だわ!
だって、自分の脱出は考えず、標的2人の脱出まで耐えればいいだけなんだもの。
死ぬのはタダどころか、今となってはこっちに居っぱなしになれるかもしれないチャンスだものね」
ログアウト不能状態を歓迎する人間はあまり多くないが、アンジェラはそっち側であったらしい。
「それで、みんな準備はいい?」
パラソルを広げたアンジェラに対して、アカネも赤い和傘を広げてみせる。
「いつでも!」
二人は頷き、そして数歩後方に下がると、『せーの』と声をあわせ……。
「「作戦開始!」」
助走を付けて屋上からジャンプした。
●スカイミッション
ビル前に集まり、裏手にまで舞台を回し、一階を既にクリアリングし罠まで仕掛け始めていた裏四課抹殺部隊『貪狐』たちにとって、それは思いがけない出来事だった。
「隊長、月将七課です!」
顔を目のシンボルがついた布で覆った僧服の男が、空を見上げて叫んだ。
「『リスト』を横取りにきたか。迎え撃――」
手を狐の形にして狐霊を召喚した夜妖憑き呪術師は、その姿勢のままぴたりと止まった。
屋上から飛び立ったアカネとアンジェラは広げた傘とパラソルをそれぞれ回転させながら向かいのビルの窓めがけて突撃。
ガラス窓をフレームごと破壊しながら突入したのだった。
「そっちか!」
貪狐の部隊が急いで階段を駆け上がり、アト&イーリンのいる三階を目指す。
「ボクは月将七課のセララ! 君達のピンチを予知して助けに来たんだ」
よろしくーねっ! と言いながら横ピースするセララ。
砕け散ったガラス。
拉げた窓フレーム。
ひっくり返った灰皿とまき散らされた煙草の吸い殻。
頭から血を流してけいれんしている重要参考人。
そんな風景のまんなかで、スチールデスクの上のライトをスポットライトのごとく浴びながら、セララは『ねっ』とポーズを逆向きにした。
あのダブルスパイラルパラソルアタックが窓に炸裂した最中、アト&イーリンはちょうど窓際にいた。
まさか突っ込んでくると思っていなかった二人は慌てて部屋の反対側へ走り、デスクの裏へと滑り込んだ。
部屋の中が大変なことになったあとやっと出てきたのだが……。
ちらりとイーリンがIJ0854を見た。『どうしてくれんのよ』という顔で。
「おはようございます。当機はIJ0854、お二人の健康を守りま――」
パコンッとプラスチック製のファイルケースでIJ0854をひっぱたくと、それを捨てて振り返る。
「あんな目立つ突入の仕方して。大急ぎで裏四課の連中が駆け上がってくるわよ。どうやって逃げる気?」
「今度は反対側のビルに突入するとか?」
笑って言うアト。にらみ付けるイーリン。
「それも楽しそうだけど、やっぱここは上だろ」
うるふはトイガンを両手に握ると、その銃口をキュッと上に向けた。
アルヴェールが『そういうこと』と言って肩をすくめる。
レイに同意を求めたが、レイはよく分からない顔をしていた。
「一課……イーリン・ジョーンズ、アト・サイン。
あなた達は……とても危険な状況にある。
月将七課と合流が懸命かつ合理的……アト・サインならそれがわかる、はず。
だってそう、亡霊が囁いているから」
「なるほど」
アトは頷き、説明を加えようとしていたアルヴェールが瞬きをした。
「今ので分かったの?」
「大体は。けど……できれば貪狐を全滅して行きたくない?」
「うん、そういうと思った」
傘についたガラス片を払い落としていたアカネとアンジェラがこちらを見る。
『本当にそんなことをするの?』という目である。
「だって、僕ら二人だけを狙うにしたって対航空戦力ゼロで挑むほど抜けちゃいないだろうし、無防備にビルからビルに飛び移るのは危険でしょ。ある程度は潰していかなきゃならないし……」
アトはそれっぽい理屈をいくつか積み上げたあと、『あー』と半眼になって虚空を見た。
まだ何か詰もうとしている顔だと判断したカイトもまた半眼となる。
「アンタ、『暗殺部隊を全滅させた上で逃げ切ったら凄い』くらいの考え方してないか?」
キュッと口を引き結んで固まるアト。
カイトは苦笑し、そして肩をすくめる。
「わからねえでもないな。けど、アンタらに生き残って貰うのもミッションなんでね。悪いがここは協力してもらうぜ」
「なら仕方ないかな」
あっさり意見を撤回したアトに、カイトは苦笑を深くした。彼らの生存は条件に含まれていない。これは言うなれば、自分たちが自分たちに課したミッションだ。
「話は纏まった? じゃあ、そろそろ私がお仕事する時間かしら」
アンジェラが綺麗に整えたパラソルを開き直した。
●貪狐
扉を蹴破る、などという生易しい行動はとらない。
貪狐にて幾多の暗殺をこなしてきた彼らが真正面から敵の前に姿を見せるということは、その時点で殺す見積もりがあるということだ。
「食らいつくせ、稲荷参式!」
ドアごと破壊した巨大な狐の首が、室内にあるものを喰らう。夜妖よ夜妖憑きであっても一撃で殺せるだけの威力をもったそれに、『彼女』は直撃した。
身体の半分をもっていかれたアンジェラは――。
「生殖階級の私を、殺す?」
鈴が転がるように彼女は笑った。
食いちぎり喪失したはずの身体は、まるで何事もなかったかのように揃っている。健康的で、背が高く、見る者がため息をつくほど美しい、遺伝子を残すべき生物がそこにはいた。
「ばかな……まさか、『月閃』か!?」
パラソルを畳み、そして急接近をかける。
「おしえてあげない」
貪狐隊員の胸をパラソルが軽々と貫いた。
その横を、四匹もの管狐が走った。
凶悪に荒れ狂った狐型の霊たちが、上階へ逃げたであろうアトたちを追跡する。
が、室内の時点でとめられた。広げた赤い和傘にである。
「正直私なら死んでもどうにでもなります。限界までやりましょう♪」
「賛成! 気が合うわね」
アカネは広げた和傘のまま、部屋に入ってきた隊員めがけて突進。
完全武装状態となった隊員達と激突する。
非常階段を上り屋上を目指すイレギュラーズたち。
が、四階層目に到着した時点で『それ』は現れた。
狐の耳と尻尾を生やした『貪狐』の隊員である。
ビルとビルの間をジグザグにジャンプし続けることでその高さへ到達していた女が、非常階段を破壊しながら間へと割り込んだ。
一人だけではない。更に二人が到着し、先頭を走っていたカイトとうるふと交戦状態となる。
とはいえ、一瞬だ。
カイトの繰り出す『破軍の氷槍』と、素早く『A-ブラスター&A-シューター』を抜いて打ちまくるうるふ。だが狐耳隊員たちはそれらを腕の一振りだけで払いのけ、カイトとうるふの首を掴んで壁に叩きつける。
「階段ひとつ壊したくらいで足止めになるかよ」
「ここは任せて貰うってことで、いくぜ――」
「「月閃!」」
うるふは凄まじいパワーで相手の腕を振りほどくと、顔面を掴んで放り投げた。
そして超強化されたトイガンによる射撃を浴びせた。秒間数百発という異常な弾が貪狐隊員の肉体を貫通していく。
その一方で、カイトは分身を消して眼帯を外した。
「「――さーて、『喧嘩しないでいられる』のもこの時ぐらいなんでね。とっとと黙って貰おうか」」
空中に作り出した大量の氷塊すべてが鋭利な槍へと変わり、それらが一斉に貪狐隊員へと放たれる。同じように腕で振り払おうとした彼らだが、その腕がバギリと音をたてて落ちた。
動くより早く、彼らの四肢は凍り付いていたのだ。
次々と突き刺さる、槍。
壊れた非常階段を飛び越え、屋上へと到着するセララたち。
だが、そこに待ち構えていたのは黒い日本刀をさげた一人の女だった。
顔を一つ目紋様の布で覆っていることはかわらないが、紺色のスーツと黄色いネクタイは異様なものである。なにより、彼の抜いた刀からは九本の狐の尾がなびくのがうっすらとみえた。
女は空を指さし、言う。
「さっさと『飛んで』『逃げる』がいい。きっと『空は』『安全』だぞ?」
嫌みなほどのイントネーションで言う女に、アトとイーリンは顔をしかめつつも銃を向けた。
「こいつを倒さずに逃げるのは難しそうね」
「いや、こいつもかな」
アルヴェールが振り返ると、スチール扉が開いた。
屋内の階段を使って誰かがあがってきたのだが、それは三階で足止めをしていたアカネたち……ではなかった。
紺色のスーツに黄色いネクタイの、やはり同じ刀をもった女だ。
味方ではなく敵がそちらからあがってきたことの意味はひとつだ。
そして、最後尾にいたIJ0854が警告音を発しながら後方へ射撃を開始。直後に激しい爆発がおきてIJ0854は吹き飛んだ。
屋上にフレームを滑らせる様に、レイが瞠目する。
「うーん、囲まれちゃったかな?」
振り返るセララ。
非常階段側からは、腕をガトリングガンにした大男がゆっくりとのぼってくる。サングラスをして表情はわからあないが、顔面には狐の顔をかたどったタトゥーが彫られていた。
最初の女が指を突きつける。
「『投降』しろ。リストを渡せば『命だけは』助けてやるぞ?」
「だれが」
と、IJ0854の中から誰かが声を発した。
「緊急コード『知った顔が死ぬのは寝覚めが悪いのよ』承認」
「おなじくしょーにん! 月閃いくよー!」
IJ0854の武装が四倍に増加。
先ほどのガトリング男めがけて一斉射撃。
セララは『デビルフォーム』に変身して刀を持った女へと斬りかかった。
狙うならここだ。
レイは月閃を発動。瞬時に夜のなかに紛れると女の背後に出現。至近距離から自らの持ちうる全ての攻撃手段を一度に全てたたき込んだ。
(これが、ストリート・サムライの真骨頂……!
誰も、私より多く動くことはできない……体を流れるニューロンの反応速度すべてがあなた達より上なのだから……!)
もう一人が刀を握って援護にまわるも、アルヴェールの動きのほうが早かった。
「陰と陽よ、転じて廻れ――魔哭天焦『月閃』!」
抜いた刀が桜花を纏い、相手の斬撃よりも早く相手の首を切り落とす。
首を落とされたにも関わらず斬撃を放ちアルヴェールの腕を切り落とす……が、アルヴェールの腕は斬られたその瞬間にくっつきなおし、そしてさらなる斬撃で相手を斜めに切断した。
首がなくとも動こうが、斜めに切断されればまともには動けないらしい。女は文字通りに崩れ落ち、刀がガラランと音をたてて床に落ちた。
さらなる敵が駆け上ってくる気配がするが、アルヴェールは月閃状態を解いて剣を振った。血が床に散る。
「俺は飛行能力がないからね。セララ、IJ0854、レイ。アトとイーリンを頼んだよ」
そう言って微笑むアルヴェールに、レイは少しだけ間を置いてから……aPhoneを自らの口元へと持っていった。
「こちら、レイ。二人を連れて撤退する……よろしく、チャマ」
IJ0854に抱えられる形でアトとイーリンが隣のビルめがけ飛行し、それに随伴する形でセララとレイがついていく。
大勢の貪狐屋上に詰めかけるも、アルヴェールは肩に刀を担いでふりかえるだけだった。
「やあ、遅かったじゃないか」
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
――クエスト完了
GMコメント
●オーダー
建物内へと突入し、裏四課抹殺部隊『貪狐(むさぼりぎつね)』を倒し、そして重要証拠を手に入れましょう。
戦いの中でこちらのアプローチ次第ではアト&イーリンが仲間になるかもしれません。
●フィールドとシチュエーション
ガス灯のならぶ表通りにある一見の四階層テナントビル。
その三階にあたるフロアにアト&イーリンはいます。ついでに確保(拘束)した重要参考人もいます。
既に『貪狐』はビル内へと突入しており、残る面々は逃走を阻止すべく表と裏を固めはじめています。
皆さんは地上から思い切りブッコんでもいいですし、屋上あたりから攻め込んでもかまいません。
おそらくは貪狐を全滅させなければアト&イーリンの生存は難しく、証拠を手に入れるだけなら窓をぶち抜くなりして突入し奪って即逃走というプランでもよさそうです。どのみち奪う際には戦いに巻き込まれるので戦闘せずにイチ抜けするのは極めて困難なようですが……。
●エネミー
『貪狐』は夜妖憑きで構成された特殊な抹殺部隊です。
狐憑きを意図的に起こすことで強化された兵で統率をとり、霊体を飛ばした遠距離攻撃やこちらの動きを鈍らせたり縛ったりするBSを使用します。
武器は様々ですが主に短刀や長刀を使い、身体に纏う呪物による防御もそれなりに固いようです。
人数や結構多いですが、こちらには『月閃』があるので相対戦力的にはノーマル難易度相当といった所でしょう。
●魔哭天焦『月閃』
当シナリオは『月閃』という能力を、一人につき一度だけ使用することが出来ます。
プレイングで月閃を宣言した際には、数ターンの間、戦闘能力がハネ上がります。
夜妖を纏うため、禍々しいオーラに包まれます。
またこの時『反転イラスト』などの姿になることも出来ます。
月閃はイレギュラーズに強大な力を与えますが、侵食度に微量の影響を与えます。
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●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ROOとは
練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
●『侵食の月』
突如として希望ヶ浜と神咒曙光に現われた月です。闇に覆い隠されていますが、徐々に光を取り戻していく様子が見て取れます。
一見すればただの皆既月食ですが、陽がじわじわと月を奪い返そうと動いています。それは、魔的な気配を纏っており人々を狂気に誘います。
佐伯操の観測結果、及び音呂木の巫女・音呂木ひよのの調査の結果、それらは真性怪異の力が『侵食』している様子を顕わしているようです。
R.O.Oではクエストをクリアすることで、希望ヶ浜では夜妖を倒すことで侵食を防ぐ(遅らせる)ことが出来るようですが……
●侵食度<神異>
<神異>の冠題を有するシナリオ全てとの結果連動になります。シナリオを成功することで侵食を遅らせることができますが失敗することで大幅に侵食度を上昇させます。
●重要な備考
<神異>には敵側から『トロフィー』の救出チャンスが与えられています。
<神異>ではその達成度に応じて一定数のキャラクターが『デスカウントの少ない順』から解放されます。
(達成度はR.O.Oと現実で共有されます)
又、『R.O.O側の<神異>』ではMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。
『R.O.O側の<神異>』で、MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
但し、<神異>ではデスカウント値(及びその他事由)等により、更なるログアウト不能が生じる可能性がありますのでご注意下さい。
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