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シナリオ詳細

<神異>月夜に踊れやアルテミス

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●異変
華やかなりし帝都――時は諦星(たいしょう)十五年。
華やかなりし帝都――時は諦星(たいしょう)十五年。
華やかなりし帝都――時は、時は、ときは――。トキハ

現在時刻は:再現性、東京(アデプト・トーキョー)2010です。

>patch3.0『日イヅル森と正義の行方』を現実世界に適応しました。
ようこそ!

 ここは「現実の世界」であるべきだ。R.O.Oは「虚構」であるはずだった。
 しかしマザーのシステム障害により、現実と虚構の境目が侵食されつつある。

 電気というものが絶えた希望ヶ浜で、人々は何と無力なことだろうか。
 ただひとつあるのは『侵食の月』 。
 ぽっかりと空に浮かんだ、美しき魔性の月。

 あちこちから、消防車と救急車のサイレンが聞こえてくる……。

●儂を起こすのは何者ぞ
 豊小路。
 ここは、日出神社と呼ばれた異世界の入り口がある場所である。
 消防車と救急車の耳慣れないサイレン音を聞いて、「ああ、やかましいわ」と彼女は言った。
「どうせならもっと派手にやらんか? うるさかったりそうでなかったり、どっちかにせい。こっちは耳が良いんじゃ」

 むくり、と身体を起こした彼女、『ルウナ・アームストロング』は――R.O.OのNPCである。しかし現実、ここは希望ヶ浜の『高天大社』であった。現実に、彼女はもういない。
 再現性東京が許容しえない「非現実」がここに広がっている。
 とはいえ、彼女はそれを知らない。ゲームの登場人物である。「なんじゃ、ここは」とだけ言ったが、自分の姿にも大して動揺はしていなかった。
 何をしていたかは覚えていないが、自分が何者なのかはひどくはっきりしていたからだ。
 彼女は、『愛と平和の語り部』ルウナ・アームストロングである。

 スウウウ、スウウウウ。

「っ!」
 ルウナは素早く飛びのいた。
 何らかの音。通行人がどさりと倒れる。外傷はないが、びくびくと痙攣しては意味のない言葉を吐いている。
「なんじゃ、これは」
 それは生き物の寝息だった。
 神社の小道、行く手をふさぐように、顔のない羊がべっそりと寝そべっている。巨大な生き物である。その周りを、何やら奇妙な雨雲のような、ブキミな精霊たちが守るように取り囲んでいる。
 おそらくは、あの羊に『精神をやられている』のであろう。

 スウウウ、スウウウウ。

「あれか」
 あれが、ここの首領(ボス)か。
 そして、なんとなく、自分の存在も『あれ』に引きずられたのだとわかった。

 巨大な羊に立ち向かう研究員達が必死に何らかの術を施している。「それ」は見た目は何らか術式でも張っているかのように思えるだろうが、要するにプログラムへのアンチウイルスソフトだった。
「ふん、あれを『眠らせよう』という腹か? ――悪手じゃ。溜め込まれた瘴気が、今にも爆発せんとなっているのが見えぬのか」
 あれを「押さえつければ」どうなるか。時間は稼げるかもしれない。だが……それは得策ではない。別の場所に送り込まれたエネルギーによって、もっと最悪の事態になる。
「景気よくぼんといくのが礼儀ってもんじゃろうが?」

●強襲
「歌を歌って聞かせよう。子守歌ではないぞ。まあ、鎮魂歌といったところか?」
 ルウナは歌い、舞うようにして羊に接近するのだった。
「それとも、英雄譚がいいか?」
 群がる雨雲を跳ね飛ばして笑った。

「も、目標、攻撃されています!」
 研究員たちは現れた第三勢力を敵と誤認する。
 それはそうだろう。端から見れば、『封印の邪魔をしている』としか思えなかった。
 眠れる『神異』を目覚めさせようとしているのだから……。
 けれども、ルウナは安寧を良しとはしない。
「甘い、甘い。たしかに今はしのげるかもしれん。だが、状況は悪化するのみよ。今ここで倒さねば、いつ倒す?」
 苛烈なオフェンスだ。
 しかし、その戦い方は敵の目を引いて、一般市民を守るようにも思える。ルウナは何かを「守って」いた。
 それは矜持か、何なのか。舞うようにステップを踏んで、踏み込み、声を張り上げて注意を引いた。

 だが、其れにも限度がある。
「……手数が、足りんな」
 おそらく、すべては救えまい、とルウナは悟った。
 時間稼ぎのつもりであった。
 隙を作っているうちに、研究員たちが上手く避難させてくれればと思っていた。けれども、思ったようには上手くいっていない。
 羊の化け物はルウナによってゆすり起こされる。けれどもまたそれを守る従者たちに守られ、あくびをしてまた深い眠りに落ちていく。このままでは確実に、「この羊によって」別の場所で大きな被害が出る。
「ちいっ……手加減できん」
 腹を決めるか。
 それは残酷なトリアージだった。
「守れるだけは」「守る」。今ここにいるものが守りきれないのだとしたら、今、ここで敵を倒して守れるものを守ろう。
「叩き起こして見せようぞ。今を生きるためにのう」
 ならば、全力で。

 ルウナが「闘う」真意に気が付いたのは、くしくもその場にたどり着いたイレギュラーズだけである。

GMコメント

●目標
『眠ル』の討伐、あるいは封印
一般人の保護(オプション)

●敵
『神異』眠ル
 ぼやぼやとした物体です。顔のない、綿だけの羊のように見えます。『建国さん』の守護幻影です。まだすやすやと眠っています。

 眠っていることで貯めたエネルギーを、じわじわと『建国さん』に送り続ける存在でもあります。そのため、起こされない限りはあまり戦いたくありません。
 攻撃は範囲の神秘型、低反応です。
 静けさを好み、どんちゃん騒ぎは苦手です。思い切り騒いだり、派手に注意をひいたりなどして起こすと、凶暴化しますが、完璧に倒せます。

・スリープクラウド×20
 綿のようなヨルです。
 眠ルの眠りを妨げるものを妨害します。体勢不利(防御技術-40)や停滞(回避、反応、機動力マイナス)系のBSをを付与してきます。比較的やわらかいです。こちらは賑やかな場所では能力が低下します。

●状況
場所は豊小路周辺の『異世界』、R.O.Oとこの世界のあわいです。
現実とR.O.Oの世界がまじりあっています。

一般人10名ほどが道端に倒れています。敵の攻撃をかいくぐり救出する必要があるでしょう。

『眠ル』を封印する
 →一時的にこの場はしのげるが、おそらく、別の場所で大きな被害が出る。
  この場合、ルウナとはおそらく敵対します。ただ、説得可能です。

『眠ル』を起こし、討伐する
 →ルウナとの共闘ルートになります。状況がしんどくなりますが、倒しきれるとしたらこちらでしょう。

●味方?
『愛と平和の語り部』ルウナ・アームストロング
 R.O.O.に存在したNPCです。姿は現実のものと重なっても見えます。R.O,Oでの彼女は、自らを『愛と平和の語り部』と称する、曲芸団『幻戯』、「語り部」にして若き団長という設定です。
『神異』眠ルを起こし、完全に眠らせるために舞を踊ります。
 過激派ですが、割と話は通じます。

●Danger!(真性怪異による狂気)
 当シナリオでは『見てはいけないものを見たときに狂気に陥る』や『反転に類似する判定』の可能性が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●侵食度<神異>
 <神異>の冠題を有するシナリオ全てとの結果連動になります。シナリオを成功することで侵食を遅らせることができますが失敗することで大幅に侵食度を上昇させます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●重要な備考
 <神異>には敵側から『トロフィー』の救出チャンスが与えられています。
 <神異>ではその達成度に応じて一定数のキャラクターが『デスカウントの少ない順』から解放されます。
(達成度はR.O.Oと現実で共有されます)

 又、『R.O.O側の<神異>』ではMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。

 『R.O.O側の<神異>』で、MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
 指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
 但し、<神異>ではデスカウント値(及びその他事由)等により、更なるログアウト不能が生じる可能性がありますのでご注意下さい。

  • <神異>月夜に踊れやアルテミス完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年11月01日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
オライオン(p3p009186)
最果にて、報われたのだ
ルビー・アールオース(p3p009378)
正義の味方
ウルファ=ハウラ(p3p009914)
砂礫の風狼

リプレイ

●開幕
「仕事か……」
 虚実入り混じる空の中で、捻じ曲がる世界の境界を睨む。
「虚構と混じりあったこの事態、終わらせねばな」
 かすかな唸り声を発し、書物が震えた。
『元神父』オライオン(p3p009186)は黒革の表紙に手を添える。
 頁がふわりとめくれた。そこから灰の獣――翼の生えた獅子が舞い上がる。
「追いかけるよ、スピネル」
『正義の味方』ルビー・アールオース(p3p009378)とスピネルは獅子の影を追った。
「大丈夫。スピネルがサポートしてくれるんだよね? まずは、出てきた敵をやっつけてあそこで倒れてる人達を助けなきゃ!」
 スピネルの返事も待たず、ルビーはまっすぐに駆けていく。
「行こうスピネル、皆! 練達の平和は私たちが守るんだ!」
「ああ!」
「当然だ」
『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)と『竜食い』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)がそれぞれに応えた。
(僕も……)
 一緒に冒険すると誓った。
 陸鮫に飛び乗り、スピネルは後を追う。
「怪異はわかる。異界もわかる。しかしなんじゃ? あの者は」
『砂礫の風狼』ウルファ=ハウラ(p3p009914)はすんすんと鋭い鼻を動かした。
 闖入者が一撃を放つ。
 それは静かにウルファの横を通り過ぎて怪異を蹴散らす。加勢だ。……だが、助太刀というには荒っぽい。こちらの出方をうかがっているような。
「敵対せぬなら、……まあ、よいか。『砂嵐』よ!」
 ウルファが鋭い声を発するやいなや、精霊が雲を蹴散らした。
「ほう」
「うむ」
 やるな、と言わんばかりのすれすれの打ち込み。
――実力十分。
「汝もあの怪異を撃破するつもりのようじゃな? 助太刀を頼もう」
「共闘か、それに足るか?」
(あれは)
 愛無は息をのむ。砂嵐の合間に、その人が見えた。
 蜃気楼のように、一瞬。一瞬だけ、「昔」の光景が見えた気がした。虚実に呑まれて仮初のすがたとなる。
「……」
 団長。
(出会う事があるとすれば、ROOの世界だろうと思っていたが。しかも。あの時と同じような姿で。変わらないままで。やはり団長は、何処にいても「団長」なのだな)
『獏馬の夜妖憑き』恋屍・愛無(p3p007296)は僅かに目をつむった。
 一瞬の晴れ間に覗く景色のようだ。見えずとも匂いは消えない。
(神だの運命だのは碌でもない無いモノと思ってはいたが、偶には粋な事もするらしい。ははっ。涙が出そうになる。化物たる僕に涙など存在せぬが)
「……さて。仕事といこう」

 ルウナは彼らを観察していた。
 日和って現状維持に努めるのではつまらない。まとめて斬りはらうべきか。立ち向かうならば……ともに戦うこともあるだろう。
(と、まあ。一口で言うのは簡単じゃが、そう単純ではない。愛と平和はいつだって困難なもの)
 全員救いきれるかは、賭けとなる。
 現状維持を選ぶのであれば、少なくともこの場は収まる。良心の呵責は感じずに済むのだ。

 民間人が雲に取り込まれる――すんでのところで、白いマントがたなびいて守り切った。
 シューヴェルトが、怯える民間人をかばい、優雅に敵を斬りはらったのだ。
 一点の曇りもなし。
 そのすきに、だ。眠りをまき散らしていた雲が、地面に吸い込まれるように消えた。風牙の一撃は、あり得ぬほど低い姿勢から繰り出される一撃。音もなく雲を引きちぎった。
「無事だろうか」
「待たせたな! イレギュラーズ、ただいま到着だ! あれが封印対象ってやつだな……って、ありゃあ……」
 すうすうと寝息を立てる怪異は強大なものだった。
 シューヴェルトが刃を振るう。雲を貫いた一撃が歪んだ境界を映し出す。ここから先踏み入れば、恐ろしいことが起こるとわかるだろう。
 だが、それが?
(シェヴァリエのものがこれくらいで動じるものか)
 今までに、何度も乗り越えてきた。
「はン、なるほどな。状況はわかった。研究員さん、予定変更だ。アレは封印せず、この場で討伐する!」
「なんだって……?」
「ありゃあ、寝てるだけでエネルギーをどこかに送ってるんだ。ほっとけばどこかで大惨事になる」
「だが……」
「君たちは、そのままそこに」
「任せとけ、オレたちがキッチリ仕留める。あんたたちは、倒れてる人たちの保護を頼む」
「……できる、のか?」
「『人の世に仇為す『魔』を討ち、平穏な世を拓く』
使命を果たす!」
「同じく、貴族としての責務を果たそう。いざ、人々の剣とならん」
 強大な敵を前にしても――。
 彼らは怯えることはない。
「方針は決まったな。中々に面倒な奴だ、だがここで討滅しておかねば後の憂いとなるだけ……恨みがある訳ではないがここで墜ちてもらおう」
「うん! 後回しにして被害が大きくなるなら例え今が辛くなろうとも戦おう」
 オライオンに応えて、『黒武護』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)ははっきりと言う。襲い来る雲の群れ、眠りに誘う攻撃――。
 けれどもムスティスラーフのきらめきはそれをはねのけた。
「そしてその上で全員を救ってみせるさ」
 イレギュラーズたちは、あっさりと困難の道を選んだ。
「右からだ」
 オライオンの合図に従ってムスティスラーフとシューヴェルトはそれぞれ攻撃を避ける。ムスティスラーフが受け止めて切り開いた道を、シェヴァリオンに乗ったシューヴェルトが勇ましく抜けていく。
「そうね、夢は覚めるもの」
『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)は謡うように微笑む。
「さぁさゆりかごを揺らしましょう。起きて起きてと揺らしましょう。
眠る子起きて、壊しましょう」

●「最初ばかりはどうかお静かに」
 砂嵐が止む。
 それくらいか? と問いかけるルウナに、にやり、とウルファが笑った。
「何、先のあやつらは我らが来るまでの足止めよ……倒しきれるほどの力量がなかったゆえの封印……今とは状況が違うのじゃ」
 ウルヴァの口ぶりに嘘はなさそうだ。
 粘膜で生成された爪を突きつけて雲を切り裂き、愛無は、いったん風牙に攻撃を任せて引いた。
 突出してはいけない。集団だ。集団での戦いを覚えなくてはならない――それは団に入った時の教えだった。
『愛無、お前は強い。だが、複数人でないと出来ない動きというものがある』
(ああ、そうだ)
 戦場を読んで、息を合わせる。
 ただし手加減は必要ない。この場にいるのは手練れの仲間だ。
「やるな? 誰から教わった?」
「……」
 言いかけた愛無は口をつぐんだ。
(いや。違う。ROOの存在だ。問題は「この」団長とは僕の面識が無い事か。おまけに色々とややこしい。だが、団長は団長だ。何とかなるだろう。志は共にあるのだから)
 愛無の思考回路はめまぐるしく巡った。どうすれば、自分を証明できるか。
(取捨選択。大事の前に、まどっろこしいのは僕も嫌いだが。仕事となれば是非も無し)
 出てきた答えは簡単だ。逃げ出す民間人を閉じ込めようと動く雲を、愛無の一撃が貫いた。
「事が済めば一杯おごるゆえ。手伝ってはくれまいか」
「承知」
 それは、最善の自己紹介となる。
(この非常時にべらべらと言葉を重ねたところで「五月蠅い」で一蹴するような人ゆえ)
 まぁ、なるようになるだろう。大切なのは行動する事だ。

「よっと」
 風牙は地面を蹴り、回り込む。雲を引き寄せ、再び地面のすれすれへと身を低くした。明滅する雲はちぎれ、風牙をとらえようとして集合するが、そのどれもが風牙をとらえることができない。
「ほらほら、オレを放置してると、お前らの大将を突っついちゃうぜ?」
 挑発して雲を引き寄せている間に、シューヴェルトが民間人を保護した。
(一人、また助けることができた)
「それにしても、R.O.Oの世界がこっちの世界に浸食してるってどういう事なの?!」
 HPバーが出ては消えた。
「ほんとうにゲームの世界みたいだね、ルビー」
「うん、私はR.O.Oやってないけど、仮想空間の世界が現実に影響を及ぼすなんてとんでもないって事はわかる――そしてその所為で危ない目に遭う人が出てるって事も。……」
 ルビーのすごいところは、とスピネルは思う。敵を見誤らないこと。そして、いつだって、出来る限りの全力を尽くすことだ。
「あのお姉さんは、夜妖? と戦ってる辺り目的は同じなのかな」
「どうする?」
 少し考えて、明瞭な答えが返ってくる。
「臭い物に蓋をするより元から絶った方が後々の憂いは無くなるよね。ここで抑えても他で被害が出るなら意味がないもの」
 そう、だから。
 忍び足で近寄り、あえて跳躍する。
「ルビー、避けて」
「うん!」
 幸い風牙が雲を散らしている。スピネルもいる。1人ではない。
「これは、お返しっ!」
 ルビーがカルミルーナをふるえば天と地、空と地面に雲は分かれた。スピネルは、陸鮫の上に乗って追撃を避けた。
 ふわあ、と羊があくびをするたびに世界が揺れる。
「ルビーは、……あれと戦うの?」
 強大な気配。いまだに眠ル、羊毛の塊。
「うん」
 ルビーならそうするだろうとスピネルは思った。
 追いかけてくる雲が道をふさいだ。
『こっちだよ!』
 ムスティスラーフの声が響き渡った。
 きらきらと輝く宝石と、そしてそれよりもまばゆい宝石の角が上空を通り過ぎる。
「全てを救うのは難しい、けどできない訳じゃない」
 ムスティスラーフがつるつると空を滑っていく。追いかける雲の攻撃を、ジャンプしてかわす。
「だったらやり通して見せる! そのために鍛えた力だからね」
 何物も寄せ付けないジュエルが、きらきらときらめいている。
「よし。……シェヴァリオン、ここは静かに頼んだぞ」
 シェヴァリオンは、主人のいうことに神妙にうなずいたかに見えた。
 空を滑り、雲を飛び越して懸命に駆ける。
「……総員、この人たちは戦闘に巻き込まれないような物陰に運んでくれ」
 優雅な身のこなしは水をたたえているかのように、物音を立てない。貴族のたしなみとはそのようなものだ。
「あの雲、邪魔じゃな」
 オライオンの放ったショウ・ザ・インパクトが、雲を散らし、押しのけてウルファの攻撃範囲へと飛ばす。
「その”呪い”が特権とでも思うたか?」
 ウルファは嗤った。風が揺れる。ビュウビュウと吹き荒れる風は壁となって立ちふさがる。身動きの取れなくなった雲を風牙と愛無が引きずり込み、堕とす。

 欠伸。
 少しばかり水面が揺れる。だが、揺り起こすには足りない。

 フルールの精霊たちがざわめき、心地よさそうにおしゃべりしているかのようだった。主の側にいることを喜ぶ精霊たちの戯れは、フルールの一呼吸で外敵に目を向けた。
 精霊天花。髪が、服が、細い腕と足は焔へと変じる。
(これが私の戦闘形態。これが一番戦いやすいの)
 促し、怒り、揺らめく炎。フルールは唇に人差し指を当てた。少しだけ静かにね。そのお願いを精霊たちは聞き届ける。
 紅蓮の一薙ぎは雲を散らした。
 合間に見える光はまるで雷光のようにきらめいて、雲に意思があったなら見とれていただろう。

●「騒がしく」
 いち、にい。
 ルウナは、命の数を数えていた。耳で、それから匂いと気配。戦場で判断を見誤ればどれかは捨てなければならぬ。
 しかし。
 気配は、次々と安全圏へと退却していった。
「ほーいっと!」
 ありゃ無理だ、と思った命をムスティスラーフが強引にぴょんと放り上げた。追撃する敵はいない。
「『眠ル』を起こすのね。どうやったら起きるの?」
 終焉のレーヴァテインを手に、フルールは微笑む。燃える覚悟は、燃やす覚悟。と思いながら。紅蓮閃燬は辺りを覆いつくして、羊毛を伝う。
 眠ル羊を揺り起こす。
(ただ眠るだけならいいのにね)
 それなら、きっとぐっすり眠らせてやれていた。
「要救助者はもう居ないか、これで戦闘の妨げになる要素は消えたか?」
 仕事を終えたネメルシアスが戻ってきた。オライオンは合図のために構える。
「できるか」
「ああ。今じゃな?」
「……鳴らすぞ、継続して行うので今のうちに攻勢に移る」
 オライオンの合図と同時、反対側にウルファがアシカールパンツァーを打ち上げた。
「さぁ寝た子を起こそうか。建国さんのバッテリー、ロクでもないこと間違いなしじゃな」
 コクリ、ウルファにうなずいた愛無は発光する。まばゆいばかりの光が戦場を照らした。
「お祭り騒ぎじゃな」
「おねむの時間は終わりだぜ!」
 風牙は声を張り上げる。大胆に踏み込み、溜めた力を開放する。攻勢に転じようとした雲は動きを止める。まるでロケット噴射のような一撃だった。核を貫かれ雲は霧散する。
「ここからは派手にいくよ!」
 カルミルーナが天にまたたく月よりも鋭い、大鎌へと姿を変えた。集中して素早く、ギアをひとつあげる。ルビーの周りに、薔薇が咲き乱れる。ブルーコメットの双星が空を貫いた。
 戦場のあちこちが騒がしくなる。
 ヒュンヒュンヒュンヒュン……。
 と、サイレンのけたたましい音が響きわたった。

●「お待たせ!」
「お待たせ!」
 突っ込んできたのは、ムスティスラーフが拝借したパトカーだった。捕まったわけではない。窓から飛び出す。見えざる手が巧みにハンドルを操っている。
「いっくよー!」
 次の瞬間、大むっち砲が戦場を凪いだ。サテライトのように緑の閃光が走る。
 敵が、ぐずるかに見えて苦しんでいるのがわかる。
「目に見えて弱ったか」
 戦場に打ちあがった派手な一撃にオライオンはふ、と笑った。
「さて、憎悪も感じられぬのでは餌にはならんが……お前の夢ごと喰らってやろう。いくぞ、ネメルシアス」
 ネメルシアスが雲を突き飛ばした。
 オライオンは神気閃光を打ち上げる。目のくらんだところで、すでに愛無が踏み込んでいた。
「どんな夢を見ていたの? 楽しい夢は見られていた? でももうおしまい。夢から覚めたなら、生の微睡みは終わり」
 フルールの声は穏やかなもの。
「ゆっくり寝かせてあげても良かったのだけれど、害ある夢はこの世界では赦されない。さぁさ、命の火を絶って。今度は覚めぬ常闇の微睡みを与えてあげる。永久に無窮にすべてを散らして」
「はっ!」
 風牙の動きはだんだんと研ぎ澄まされていった。地面も、あるいは雲ですら足場にする。
 力をためて、にいと笑う。再びの爆発。舞い上がった姿勢からの一撃。
「遊びましょう遊びましょう。命を懸けて歌いましょう」
 フルールはあやすように歌った。
「これは子守唄。私達が響かせる鎮魂歌。さぁさお眠り永久に無窮に。私達が眠らせてあげる」
「歌を聞かせるって? いいな、オレも好きだぜ歌! アップテンポの、激しいやつがな!!」
 風牙は不敵に笑った。
 不吉な雲が辺りに満ちるが。
「まかせろ」
 シューヴェルトは武器を構えた。敵を数段上回る呪力が満ち満ちている。かばうという意思があるのか。
「見上げたものだ。だが……貴族騎士はその上を行く!」
 スリープクラウドごと、刃を旋回させ、一撃で掻き切ることにした。この位置ならば……。
 オライオンがいる。
 オライオンに吹き飛ばされた雲の塊と羊。そのすべてを巻き込んでの一撃がさく裂する。
「切り裂け! 貴族騎士流抜刀術『翠刃・逢魔』!」
「大きいのが仇になったね!」
「うむ、何処へ向けても当たるわ」
 ムスティスラーフの閃光と、ウルファの魔砲がどかどかと眠ルをぶち抜いていく。
「さてさて、遅れた分、仕事しないとね!」
 雲はちぎれ、綿ははらはらと落ちてゆく。
 ウルファは構えを変えると、深淵から何かを呼び出した。
「『ハンターズ』」
 言葉は呪力を帯びる忍び寄る者たちがたかり、眠ルにかじりついた。
 オライオンが覆いつくす魔性の茨が、眠ルに絡みついた。
 そして、フルールの一撃で蔦は羊毛ごと燃えていく。
「さあ、最後だよ! 起きて、起きて」
 ルリルリィ・ルリルラ。ムスティスラーフの宝石のきらめきが押し寄せてくる。オライオンの回復をうけて、ルビーは飛んだ。
「いくよっ!」
 そしてまたルビーの彗星が空に昇り敵を打ち抜いた。
 咆哮。
 それは意味をなさない生物の声。
 ここにいると示すような音。
 脳を揺らしてバラバラに砕く音。
「っ、なんじゃ、そんな手まで使うのか?」
 言うルウナはとても楽しそうだった。
 そして、愛無もまた。
 背を預けて、くるりと反転する。又の咆哮。
 剣を投げつけて……。
「喰らえ! 貴族騎士流奥義『碧撃』!」
 シューヴェルトの繰り出すそれは蹴りだった。刺さった剣に対する押し込みの一撃。
 ぱきりと、殻が割れる。
 
 眠ルの中身はからっぽだった。雲みたいな綿とエフェクトがあふれだす。
 しかし、あくまでもここは現実だった。どうとちぎれて、データの海に消える。

●終幕
「っしゃあああ!」
 風牙がこぶしを突き上げて、勝利の雄叫びをあげる。シューヴェルトはマントをほろった。
「っ勝った!」
「ルビー、無事だよね?!」
 鮫に乗ったスピネルがすっ飛んできた。
「いてて。でも、勝った、勝ったよ!」
「ま、こんなもんだよ。どう?」
 ムスティスラーフはふうと汗をぬぐった。
「救えるだけ救ったようだ」
 シューヴェルトは微笑む。
「おやすみなさい」
 フルールはぽつりとつぶやいた。
「それにしても、これも電脳世界とやらが関わった結果なのか……?」
 ウルファは思案する。
 ふわふわとした羊毛があたりに散っていて、恐ろしくメルヘンじみている。
「なかなか退屈せんかったぞ。礼を言おう」
「ああ、よくわからないが、面白いものに会えた」
「さて、一杯奢るよ。僕も今では領土持ちだ。砂ばかりで味気ないところだがね。良い酒場はある」
「そういきたいところなのだがな」
 ルウナの姿が消えていった。
(きっと彼女は帰らねばならないのだろうな。きっと帰る場所があって、そこには待つ者が居るのだろうな)
 だが、団長が生きている世界がある。団長の意志を継ぐ者がいる。そう思えるだけで。
「また会うか?」
 差し出された手をそっと握って、握手がかわされる。
「おねーさん、げんきでね」
「何か気の利いた話の一つも聞かせてくれ。彼方の僕にもよろしく言っておいて欲しい。ついでに知らない人間についていくなと」
「そうだ、名前は――」
 そこで景色は途切れる。
(異界が消失すると仮定して奴はROOに記憶を繋げられるのか、それともここにいるのは蜃気楼の如き存在なのか)
 ウルファはじ、と暗闇と月を眺めた。

成否

成功

MVP

ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護

状態異常

ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)[重傷]
黒武護

あとがき

イレギュラーズたちの決断はより多くを救ったことでしょう。お疲れ様です!
今しばしの休息を。
できればたくさん寝てください!

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