PandoraPartyProject

シナリオ詳細

孤独の残穢

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 砂の上を巨大な骸骨が滑って行く。
 その後ろには荷車が付けられ、砂の上に轍を作っていた。
 夜空には三日月が浮かんでいる。

『骸骨運送』リズクッラーは気怠げな瞳でイレギュラーズに振り返った。
「本当にこの先に行くのか?」
 眉を寄せてアーマデル・アル・アマル (p3p008599)へと問いかけるリズックラー。
 荷車の軋む音が静かに響く。
「ああ。行けるところまでで構わない」
 アーマデルは静かに頷いて進行方向の砂漠を見つめた。

 この先には近寄ってはならない場所がある。
 湧き出す水は病毒を孕み、草木も生えず動物も決して近寄らない穢れた地。
 此処にはかつてハージェスと呼ばれた村があったのだという。
「ここもクロウ・クルァクによって滅ぼされたのだろうか?」
 北は鉄帝国、ヴィーザル地方の村リブラディオンにあった石碑に準えれば、と恋屍・愛無 (p3p007296)は紫瞳をリズックラーに向けた。
「この辺に伝わる伝承では、村を滅ぼしたのは他の魔物だったという話しだが」
「どういう事でしょうか?」
 エル・エ・ルーエ (p3p008216)はフードの下から顔を覗かせる。
「クロウ・クルァクは悪神ではあったが、同時に周囲への抑止力でもあったのだろうな」
 リズックラーはこの地に伝わる御伽噺を紡ぐ。

 北の地から流れて来た流浪の悪神クロウ・クルァク。
 どの地域に行くにも追い出された悪神は深い流砂の中で眠りについた。
 同じく流浪の一族がハージェスに流れ着き他の部族との争いに巻き込まれている所に目覚めた悪神は、その毒を以て人間を死に追いやったという。自分と同じく流浪してきた民に思う所があったのかもしれない。
 長い間、悪神は一族に奉られ信仰を得た。

「信仰を得た……神様になったということかなぁ?」
 こてりと首を傾げたシルキィ (p3p008115)の隣に居た燈堂 廻(p3n000160)がこくりと頷く。
「恐らく、クロウ・クルァクはハージェスで信仰を得て大精霊から神様になったんでしょうね」
 自然発生したのか呪術的な儀式で生み出されたのかは定かでは無いが、精霊として存在したクロウ・クルァクが人々の信仰を糧に神格を得たのだろう。
「でも流れ着いた時から悪神って呼ばれてたのよねぇ?」
 アーリア・スピリッツ (p3p004400)の言葉にヴェルグリーズ (p3p008566)は首を振る。
「伝承は往々にして事実とは異なる部分がある。後から『人』が分かりやすく作ったものだから」
「名前も伝わっていなかったそうだから。クロウ・クルァクという名も通称になる」
 リズックラーの言葉に愛無は瞳を閉じた。
「だったら、北の地から流れてきたというモノは別なのか?」
「神様は色々な伝承と合わさってしまうと暁月さんが言ってたので、ヴィーザル地方に居た時より更に属性が増えているのかもしれませんね」
「ということは、ハージェスから南下したクロウ・クルァクが『繰切』と呼ばれるようになったのも、何かと合わさったり、属性が増えている可能性があるのかね?」
 愛無の言葉に廻はこくりと頷く。
「その可能性はあると思います」
 神の遍歴を辿るには骨が折れるとアーマデルは視線を落した。


「酷い瘴気ね……」
 アーリアは辺り一帯を漂う瘴気に眉を顰める。
 ハージェスの地に降り立ったアーリア達は澱んだ空気に息を詰まらせた。
「じゃあ、オレはあの岩山の所に居るから、終わったら知らせてくれ。気を付けてな」
 UMAを連れたリズックラーは心配そうな表情を浮かべながらハージェスの地を後にする。

 アーマデルは周囲を見渡し、何かめぼしい物が無いか物陰を覗き込んだ。
 月明かりが影を作り出す。蛇が好きそうな場所。暗くて狭い通路。
「例えば、家の床下に抜け穴があったり」
 朽ち果てた床板の隙間に見えた大きな岩。自然に此処に存在したものではない。
 人為的に置かれたであろう平たい岩蓋だ。
「これって……」
 エルとシルキィが岩蓋を覗き込み。ヴェルグリーズと愛無が力を合わせて横にずらせば。
 ――地下への階段が現れたのだ。

 暗い地下の階段を降りて行く。
 じわりと足下から毒が這い上がってくるようで、廻は唾を飲み込んだ。
 月祈の儀に向かう時と同じような恐怖が身体を支配する。
 震える肩をアーリアがそっと抱いた。姉貴分の優しさにほっと息を吐く廻。
「リズックラーさんの所で待っててもいいのよ?」
「……いえ。一緒に行きます。行かなきゃならないような気がするんです」
「そうね。でも、無理はしないようにね」
 廻がこんなに不安がっているということは、この場所はクロウ・クルァクの気配が強いのだろう。
「エルは、きっとこの先に何かあるって思います」
 階段を降りた先には広い洞窟が広がっていた。
 愛無は濃い瘴気を嗅ぎ取る。
「気を付けたまえ。何か居るぞ」
 周囲の岩陰から黒い粒子を纏った何かが姿を現した。
 蛇の形であったりヒトガタだったり。どろどろした何かだったり。

『……ほう。久々の来訪者ではないか。何をしに来たのだ? 墓荒らしでもしにきたか?』
 洞窟全体に響く禍々しい声。
 廻は聞き覚えのある声に目を見開き「繰切様」と小さく零した。
 ヴェルグリーズは仲間を庇うように手を開き、黒い影に首を振る。
「いいえ。貴方の事を知るために此処に来た」
『我の事を?』
 ヴェルグリーズの言葉に影がゆらりと動いた。
『無闇な好奇心は命取りだぞ小僧。だが、久々の人間だ。我を愉しませるが良い。さすれば我を知る事もできるかもしれんからな』
 一斉に黒い粒子が空間を満たす。渇いた地面から染み出すのは毒だ。

「この黒い影は、恐らく『残穢』です。本物じゃない、けど。この地に残ったクロウ・クルァクの思念のようなものだと思います」
 廻は震える指を握り絞めながら仲間に告げる。
「でも、愉しませるってどういうことだ?」
 アーマデルは近づいて来る残穢に金の瞳を向けた。
『くく……、そうだな。試練を与えようぞ。さあ、存分に味わうが良い』
「試練? どういう事なの?」
 シルキィの言葉に愛無が本来の姿に変幻する。
「難しい話しは後だ。全部吐かせて、喰らい尽くせばいいのだろう?」
 黒い影が愛無の爪に切り裂かれ。
 長い夜が始まる――

GMコメント

 もみじです。このシナリオの時間軸は少し前になります。
『<祓い屋>薄紫の涼風』後、『R.O.Oログアウト不可能』までの間に紡がれたものです。
 時間的な細かい部分は横に置いて物語を楽しんで行きましょう。

●目的
・試練に打ち勝ち、クロウ・クルァクの残穢を祓う
・クロウ・クルァクの情報を手に入れる

●ロケーションとあらすじ
 砂漠の村ハージェスの跡地。今は遺跡のようになっています。
 地下に続く道を発見した一行は階段を降りて行きます。
 降りた先には広い洞窟がありました。
 灯りを照らすと壁面にはクロウ・クルァクとハージェスの民の事が書かれています。

 何処からとも無く声が聞こえました。
 この地に残穢として残ったクロウ・クルァクの思念です。
 彼は久方ぶりの来訪者に喜びました。
 人間を玩具としてしかみていないクロウ・クルァクは試練を与えてきます。
 一人一人違う試練に立ち向かわなければなりません。

●敵
○クロウ・クルァクの残穢
 真性怪異『繰切』の前身とも呼べる存在の残穢です。
 洞窟の中に潜み攻撃を仕掛けて来ます。
 実体としては黒い影のようなものに見えます。
 剣の様に切り裂いたり、纏わり付いたり、締め付けてきたりします。

・また、戦場は病毒の沼が一面に広がっており侵食される恐れがあります。
・更に、この地で起こった悲惨な出来事が思念として流れ込んできます。
・残穢は元来の性格なのか長い間地下で漂っていたからなのか、すごくお喋りです。
 上記三項目はフレーバーです。ご活用下さい。

●試練の内容
○恋屍・愛無 (p3p007296)
 無限とも言えるクロウ・クルァクの残穢と戦い続けます。
 新たに得た『獏馬の夜妖憑き』の真価を試すときです。
 残穢と愛無、どちらが喰らい尽くすかの勝負となります。
 廻に負担が掛かりますが、生命力を犠牲にしてでも切り抜けるほかありません。

○アーリア・スピリッツ (p3p004400)
 クロウ・クルァクの残穢を祓う為の月の魔力を集め続け無ければいけません。
 戦場の只中、無防備な状態です。
 アーリアの身体にはクロウ・クルァクの毒が染みこんで行きます。
 それに耐え続けると、次第にこの地に起こった悲惨な出来事が流れ込んできます。
 毒で身体を流れ込む記憶で心を苛まれるでしょう。
 集めた月の魔力はシルキィが因果を繋ぎなおすのに使用します。

○ヴェルグリーズ (p3p008566)
 仲間を護りながらクロウ・クルァクの残穢と戦います。
 鉄の精霊種であるヴェルグリーズと毒の戦場の相性は最悪です。
 足を毒沼に浸す度に痛みが走るでしょう。
 その痛みに顔を歪ませるのをクロウ・クルァクの残穢は喜びます。
 しかし、ヴェルグリーズは最後まで立って居なければなりません。
『絡む病毒の蛇の壺』とこの地の因果を断ち切らねばいけないからです。

○シルキィ (p3p008115)
 アーマデルが迷わぬよう、愛無が暴走しすぎないよう、アーリアが意識を失わないよう、ヴェルグリーズが倒れないよう繋ぎ止めるのがシルキィの試練です。
 ヴェルグリーズと共に仲間を護りながら残穢と戦います。
 廻へ一番効果的に生命力の譲渡を行えます。
 シルキィもまた最後まで倒れる事は出来ません。
 ヴェルグリーズによって断ち切られたこの地の因果を繋ぎなおさなければいけないからです。

○エル・エ・ルーエ (p3p008216)
 仲間の回復を一手に引き受けるパーティーの要です。
 エルが倒れるということは全滅の危機が訪れます。
 けれど不安で泣いてしまえば、クロウ・クルァクの残穢を喜ばせる事になります。
 エルにもこの地で起こった悲惨な出来事が次第に流れ込んできます。
 気をしっかり持って試練に挑みましょう。

○アーマデル・アル・アマル (p3p008599)
 気付いた時には一人でした。
 蛇の道を知るアーマデルは洞窟の先にある地底まで一人で行くことになります。
 クロウ・クルァクの残穢の元凶である『絡む病毒の蛇の壺』を持って来る役目です。
 悪神の領域は時間が引き延ばされ、巫女の記憶を追体験する事になります。
 次第に自分の記憶か巫女の記憶か分からなくなってしまうかもしれません。
 残酷で無体な所業を見せつけられ、精神崩壊を起こしかねません。
 無事に『絡む病毒の蛇の壺』を持ち帰れば、それを自分で持つか廻に預けるかの選択が出来ます。

○燈堂 廻(p3n000160)
 愛無の『ブースター』となります。
 生命力を愛無に渡して能力強化するのです。
 しかしリスクもあります。苦痛に血を吐き動けなくなるでしょう。
 毒が身体を蝕み、この地の記憶が流れ込みます。
 クロウ・クルァクの残穢はその姿に喜びます。
 生命力の譲渡を受けると少し楽になります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • 孤独の残穢完了
  • GM名もみじ
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年10月28日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談9日
  • 参加費300RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
※参加確定済み※
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
※参加確定済み※
シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者
※参加確定済み※
エル・エ・ルーエ(p3p008216)
小さな願い
※参加確定済み※
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
※参加確定済み※
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
※参加確定済み※

リプレイ


 薄暗い地下洞窟の中。オレンジ色の光が反射する。
 壁面に記された文字に『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は眉を寄せる。
「最後の巫女は神を追放し、この地に安寧が訪れたかに見えた。されど、加護を失った地は他の魔物の手で壊滅――残ったのは蛇神の毒だけ」
 イレギュラーズだった最後の巫女は、蛇神の力を恐れた他部族に捕まり、投薬による洗脳を受けた。神毒に侵された蛇巫女を御するのは、それを上回る毒だと残虐な仕打ちをしたのだろう。
「洗脳されて神逐を行ったということか」
 自身が信じる神を裏切った巫女は正気に戻った後、罪に耐えきれず自決したのだろうと『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は記された文字を指でなぞった。

「そう、此処にいるのが『繰切』さんの残穢なのねぇ」
 這い出る黒い影にアーリアは振り向く。
 クロウ・クルァク、繰切。北の大地で生まれたという神は名を得るにつれ、戒めの中の悪意や恐怖から生まれた伝承等の負の因果を飲み込んでいったのだろう。
「名前は祝福であり、呪いだもの。照らすもの、導くものの『燈堂』って名前だって……」
 深道から派生した燈堂と周藤。その名も繰切と同じように真意から変じたものだ。
 蛇の道だった『巳道』と、そこから陽出流る方角へ導く『東導』、あまねく輪を廻り回帰する『周堂』。
 真名を避けるのは、隠匿する意味合いもある。
「私はね、燈堂って名前の彼等も照らしてあげたいの。だからこの試練、受けて立つわぁ!」
「はい! エルは皆さんと一緒に頑張ります。だから、終わったら一緒にご飯を食べましょう!」
 タンザナイトの瞳に輝きを宿した『ふゆのこころ』エル・エ・ルーエ(p3p008216)は楽しい時間を思い浮かべる。エルの後ろにいる『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)も頷く。
「アーリアさんが、お酒をたくさんたくさん、楽しんで。シルキィさんが、廻さんに、美味しいものを、あーんしてあげて、それを恋屍さんが、お酒を飲みながら、見守っていて!」
 ふわりと空気に浮かぶ雪の結晶。
「ヴェルグリーズさんが、目新しいお料理に、目を輝かせて。エルは、アーデマルさんに、どれが美味しいか、教えてもらうのです! だから、絶対に勝つのです!」
 エルの声は仲間を勇気づけるもの。『獏馬の夜妖憑き』恋屍・愛無(p3p007296)は彼女の声に頷いてみせる。
「事が済めば皆で食事か。それも、きっと楽しいだろうな。楽しみだ」
 愛無は自分が紡いだ言葉に既視感を覚える。『あの時』もそうだった。全てが終わったらと思っていた。
 胸の奥に僅かに走る寂しさに愛無は首を振る。
「だが不安に思う事など何もない。僕は『あの時』とは違う」
 この砂の国でルウナを『喰らった』時とは違うのだ。愛無はあの時より強い。肉体的にも。精神的にも強くなった。何も不安などは無いと奮い立たせる。自分には『守るべき者』が出来たから。
「僕は戦う。戦える。戦わなければならない」
 愛無の言葉に呼応してクロウ・クルァクの残穢が一斉に動き出す。

「残った思念だけでこれとは流石の真性怪異。一筋縄ではいかないね」
 剣を抜いた『全てを断つ剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は警戒しながら残穢を睨み付けた。
「受けて立とうクロウ・クルァク。代わりにキミのことを教えてもらうよ」
 ヴェルグリーズは愛無に視線を送り頷く。
「相手の思考が解らんが性格は悪そうだ。一息に終わらせるような真似はしてくるまい。此方が捌けないような数を一気に送り込んでくる事はないだろう。とりあえず手堅くいこう」
「そうだね、行こう!」
 愛無が先陣を切り、ヴェルグリーズがその後を追った。
 ヴェルグリーズは愛無が獣の姿に変容し艶やかな腕で敵に殴りかかるのを見遣る。愛無は戦場を縦横無尽に駆け回り、残穢をなぎ払った。
「そっちは任せる」
 愛無はヴェルグリーズに反対方向の残穢を任せ跳躍する。

「皆を繋ぎ、因果を繋ぐ……けれど、今のわたしに紡げるのは言葉の糸だけ」
 それでも『繋ぐ者』たるシルキィ(p3p008115)はこれっぽっちも諦めてはいないのだ。
 アーマデルの手に紡いだ糸は何処かへ消えてしまった。けれど、切れた訳では無さそうだ。
「大丈夫。繋がってる。夢の中だって辿る事が出来た糸だからねぇ! アーマデル君……キミなら必ず戻ってきてくれるって、わたしは信じてるから。無事でいてくれますように……!」
 シルキィの願いは糸を伝いアーマデルの耳に届く。

 ――――
 ――

 地底へ向かう道をアーマデルは一人で歩いていた。
 薄暗い道は黄泉路を辿るようだとアーマデルは視線を落す。
 耳元で囁く無形の声は振り向いてはならないもの。応えてはならないもの。
 黄金の瞳はただ前だけを見て、歩みを進めるしか無いのだ。

 アーマデルの視界に水の張った地底湖が見える。
 襟首を掴まれて、其処へ投げ入れられた。肺に水が入り苦しみ藻掻く。
「……っ!?」
 首を振ったアーマデルは先ほどまでの通路に立って居る自分を認識した。
「これは巫女の記憶?」
「くく……そうだ。我が巫女に与えた試練よ」
 アーマデルの直ぐ傍にクロウ・クルァクの残穢が現れる。
「ほら、見るが良い。死にそうになる寸前に水から引き上げ、回復を施すのだ。こっちは毒に浸した時の記憶だぞ。痛みに泣き叫んでおるのが愛おしいだろう? 大丈夫だ。直ぐに治してやるのだ。鞭だけでは心が死んでしまって面白くないからな。時には甘飴もやる。ほら、犬のように嬉しそうにしておるだろう」
 これは残穢の見せる死穢。逝けぬ霊が纏う未練、焼き付いた畏怖だとアーマデルは首を振った。
 己を守護する一翼が鱗に変えて纏い、宥めたのと似ている。生前の記憶の中にある影。魂の残響だ。
 この光景は今代の巫女である廻が月祈の儀で繰切から、ネクストの蛇巫女がクロウ・クルァクより与えられているものなのだろう。
 アーマデルは唇を噛み心を落ち着けるため深呼吸をした。
 自分の事のように感じるが、これは巫女の記憶だ。死者と生者の境界を違えてはならない。
 これは、捩れた糸が織り成した悲嘆の残滓なのだ。
 自分は壺を持ち帰り、仲間がこの地の因果を断ち切り、繋ぎなおせば解かれるはず。
 だから、今は死者の魂に寄り添うよりも、現在を見て前に進むのだ。
「死者への祈りは全て終えた後、だ」


「私の役目は――」
 指を組んだアーリアは瞳を瞑り空に浮かぶ月を想う。
 一つ一つ、散らばっている月の魔力を掬いあげるように大事に扱うのだ。
 本音を言うのならば、こんなに真っ暗な洞窟の中で無防備になることは誰だって怖い。
 されど、アーリアには仲間が居る。皆が守ってくれると信じられるから。
「ヴェルグリーズくん、頼むわね」
「必ず、守ります!」
 アーリアに向かう残穢を弾きヴェルグリーズは腰を落し剣尖を突き出した。
「くく……っ、良い友情よな。それを折ってやればさぞ愉しいだろう。玩具のように壊れるか?」
「饒舌さは孤独さの裏返しか。人間は玩具だのと如何にもな台詞だろう」
 愛無はクロウ・クルァクの残穢に言葉を漏らす。
 手堅く行くつもりが挑発してしまったと口の端を上げた愛無。
「たわけ」
 愛無に向かって残穢が数を増す。
「如何に数が多かろうが相手は残り香のようなもの。無限に見えようと、その力は有限」
 大切なのは心が折れぬ事だと愛無は手に力を込める。冷静に。冷徹に。仕事を完遂するのだ。
 可能ならばしゅうの力は使いたくないがと一瞬だけ廻に視線を向ける愛無。
「愛無さん! 僕は大丈夫ですから!」
 廻は先陣を切り敵を叩く愛無に叫んだ。
「そうよ。愛無ちゃん、全部食べちゃって! 廻くんも、愛無ちゃんをよろしくね」
「愛無ちゃん……廻君の生命は、わたしが繋ぎ止める。無理も無茶もして欲しくないけれど……それ以上に、躊躇はしないで。大丈夫、キミの事だってわたしが必ず止めるから」
 廻の言葉にアーリアとシルキィの激励が重なる。

「背に腹はかえられぬか」
 躊躇をしている暇も無いと愛無はしゅうを呼び出す。
「やるしかないんでしょ?」
「ああ、皆も戦っている。僕だけが逃げるわけにはいかない」
 退くな。臆すな。ただ戦えと本能が叫ぶ。暴食の獣たる自分にはそれしか出来ないのだから。
「願わくば廻君。僕を信じろとは言わない。言えない。だから皆を信じていてくれ。きっと君を支えてくれるから」
 愛無が獏馬の力を拳に込めた瞬間、アメジストの光が彼女を包み込んだ。
 しゅうからあまねを通して、廻の生命力が急速に愛無へと送られる。
 膝を着いて迫り上がる血を地面に吐いた廻。
 エルは廻に回復を注ぎたい思いをぐっと堪え、ヴェルグリーズに癒やしの加護を与えた。
 廻が血を吐いているのは怪我を負ったからではない。エルもそれを分かっている。
 涙が眦に浮かんできた。
「エルちゃん、泣かないで」
 月の魔力を集めるアーリアがエルに声を掛ける。歯がゆいのはアーリアも同じ。
「はい! どんな時もエルは、平常心を、しっかり保ちたいって思ってますから!」
 今、エルが成すべきことは前線で戦う仲間を癒やす事。

「それに……エルは、本物の繰切さんに、お会いして、お友達になりたいって、思いましたから。ここで、落とし物さんに、意地悪されて、泣いていたら、そんなことは出来ないって、エルは考えました」
 エルにも覚えがある。
 冬は、気温が低いから生命活動を止めてしまう動物や植物が多い。厳しいからと嫌われてしまう事がおおいのだ。冬は無慈悲で、悲惨な事を起こしてしまう。それをエルは知っている。
 けれど、冬は優しくその白さで全てを包み込んでくれる。素敵な所もあるのだ。
「エルは、繰切さんも、冬とそっくりだって、考えました」
 厳しさもあるけれど、魅力もきっとあるから。それを見つけたい。
「エルは、お友達になりたい方の、素敵なところを、知りたいって、思いました。だから、意地悪する、落とし物さんには、負けませんし、泣いたりしませんし、ちゃんとめっ!って、します」
 友達になろうという人が悪いことをしていたのならば、きちんと怒るのも一緒に責任を負うということなのだから。
「それはそれ、これはこれ、なのですよ!」
「ははっ、小娘が我と友達になるだと? ならば、耐えてみせるのだな」
「もちろんなのです! だって、エルだって、ずっと一人で、ずっと怖がられていたら、誰かと、とってもお喋りしたがるって、エルは思いました。いっぱいお喋りもするのですよ!」
 エルの言葉にシルキィは微笑む。
「キミの癒しの力、頼りにさせてもらうよぉ。わたし達は負けないし、わたし達はここにいる。だからキミも、わたし達を頼って」
「はい! 皆さん、ふれーふれー、ですよ!」
 透き通る杖に癒やしの祝福を乗せて。エルは雪の結晶を戦場に舞い上がらせる。

 ――――
 ――

 ヴェルグリーズは靴を侵食してきた毒に顔を歪める。
「……ぐっ!」
 剣の属性を持つヴェルグリーズは全てを溶かす強い毒性に対して為す術も無く侵食されてしまうのだ。
 膝を着くのも難しいこの状況。足の裏が灼けようともヴェルグリーズは歯を食いしばり耐える。
 その様子にクロウ・クルァクの残穢が愉快だと笑った。
「良いぞ。もっと苦痛に顔を歪ませてみろ」
「本当に不本意だよ」
 ヴェルグリーズは戦場とは違う町並みが脳内に入り込んでくるのを知覚する。
「これは……」
「この地で死んでいった巫女や住人の記憶なのね?」
 アーリアも頭を抱え髪を握った。
「ああ、でも痛いわねぇ。酷い二日酔いの毒よりずぅっと痛い」
 流れ込んで来る記憶は余りにも重く、アーリアの心をかき乱す。
「アーリアさん。こんな事しか言えないけれど……負けないで。この地の記憶は辛く悲しいかもしれない。それでも、わたし達は今を生きているんだよぉ」
 シルキィは頭を振るアーリアの肩を抱きしめた。

 アーリアの中になが込んでくる記憶。クロウ・クルァクに無体な儀式を課せられる巫女達。
 使命感を持って巫女となり、苦痛と情愛を与えられ、神の戯れに人の身では耐えきれず壊れて行く。
 されど、巫女の犠牲の上に長く、それこそ数百年という安寧があった事は事実なのだろう。加護を失った地で無念のまま魔物に襲われ死んでいった人々の記憶も流れて来た。
「私は戦いなんて好きじゃなくて、血の匂いも、肉の感触も、人の死ぬ光景もずっと慣れない。膝をついて、耳を塞いでしまいたい。でも……」
 これが『繰切』の記憶なのだというなら、なんて物悲しいのだろう。
 巫女達が自分と関わる事で壊れて行くのを、繰り返し反芻しているなんて。正気の沙汰じゃない。
 死んでいった人々の記憶を見続ける。それは、なんて孤独なのだろう。
「……私達がそんなもの、塗り替えてやるわ」
 指先を三日月型の小さなブローチに触れて、桃香酒を飲み干すアーリア。
 大切な人達からの贈り物は此処にある。だから、何があっても大丈夫だと自分を奮い立たせる。
「毒だろうがなんだろうが、全部飲み干してやるんだから――!!!!」
 アーリアは瓶を傾け口元を拭った。
 その姿に勇気づけられたのは、他でもないヴェルグリーズだ。

 剣として、長らくを旅してきたヴェルグリーズにとって人が死ぬ事は不可避な出来事であった。
 幾人もの人をこの手で切って。それ以上の人を救ってきた。
 だから、流れ込んで来る記憶もその内の一つだと受け流せる。けれど、辛くない訳では無い。
 気を抜けば自分も巫女達のように、折れてしまうのでは無いかと心が乱れる。
 巫女達が感じた痛みと同じ毒が、ヴェルグリーズを侵食しているのだ。
 苦痛と甘言がヴェルグリーズの内側を徐々に蝕む。冷や汗が背を伝った。
 毒沼から這い出た黒い蛇がヴェルグリーズの身体を締め上げる幻覚に動きが鈍る。
 これも巫女の記憶なのだろうか。
「くく……、囚われたいのか? 弄んでやるぞ?」
「っ……」
 残穢がヴェルグリーズの頬を撫でた。

「わたし達で絶対に皆を護ろうねぇ。誰一人欠けちゃいけない、欠けさせない。その為に!」
 シルキィの声が戦場に響く。ヴェルグリーズは歯を食いしばり、囚われかけていた幻覚を払いのけた。
「ああ、仲間を守り、最後まで立っていることが試練だからね!」
「そうでなくては。すぐ折れてしまっては面白くないからな」
 残穢の言葉にヴェルグリーズは首を振る。
「例えどんなに苦しんでもきちんと役目を果たせるなら、どれだけ嘲られようと俺の心は揺るがないよ。それに聞きたい事があるんだ。キミはどこから来て何処へ行こうとしていたのか、それは何故か」
 挑戦的なヴェルグリーズの言葉に残穢は口の端を上げた。
「生まれた所か? 此処より北の大地。極寒のヴィーザルだ。光神に負け、追放されたのだよ。往く宛て等無く、彷徨いこの地で眠っていたのだ。しかし、妙に地上が騒がしくてな腹が立つから小バエを払ったのだ。そうしたら我を信仰する者達が現れたのだ。それにより、大精霊から神格へと相成った」
 信仰を得、大精霊から神霊に転じた。
「キミを形作る属性は何か。核となるものは何か」
「属性……権能ということなら毒と病だな。蛇故に水神でもあるぞ。しかし、我の核というのは形容しがたいものだ。毒を持った蛇そのものか? だが、お前の言う『核』というものを破壊した時、我を『殺す』に値する事を差すのだとしたら『無い』ぞ。我は神霊だ。神逐をしようとも毒と病がある限り、付随する恐怖と信仰は絶えぬからな。まあ、今目の前に居る我という『人格』では無いかもしれぬが」
 残穢の言葉にヴェルグリーズは眉を寄せる。
 カムイグラで穢れを取り込み凶神と化した黄泉津瑞神を打ち倒した時と同じだ。瑞神が幼子の姿となって再臨したのをヴェルグリーズは知っている。信仰が在る限り神は滅びないということなのだろう。
「じゃあ、キミ本来を指す名前は何?」
「我の真名を問うか小僧。だが、それは失われてしまった。光神と戦った時にな」
 名を奪われ、追放された。それは途方もない闇を彷徨う事を意味していた。


「――全て喰い殺す」
 愛無は黒い爪を残穢に叩きつける。
 同じ味ばかりで飽きてきたのだと残穢を歯で引きちぎりながら喰らった。
 仲間を見て、子供であるしゅうを見て改めて思う事がある。
 暴食の獣である愛無は異質だ。交われないし、変わらない。
 きっとどれだけ悩もうとも、存在するのは『優先順位』だけ。喰らう為の指標のみ。
「なら、それがいい。それでいい。『今』は守る。そのために戦う。そのために喰う」
 難しい事は考えたくないのだ。
 だって、どれだけ人間に近づこうとも、決して相容れる事は無い。
 理解されないし、受入れてくれるとも思えない。たとえ、それが誰であっても同じこと。自分以外の存在に対して思う事は単純明快な一つの衝動。敵でも大切な人でも『喰らいたい』のだ。
 それが愛無にとって最大の『愛情表現』なのだから。
 愛無としゅうが決定的に違う所はその部分。相手を喰らった事に、己の過去に悔いている。もしかしたら己の力を厭うているのかもしれない。
「故に僕が証明してやらねばならない。何も心配はないのだと。人と共に生きれるのだと」
 人間にとって歪な愛情表現しか持ち合わせていない自分とは違う。
 しゅうは、人の枠に寄って行く形で共存出来るはずだから。

 シルキィは愛無が力を増したのを感じていた。それは廻の生命力が大幅に削られている事を意味する。
 けれど、この戦場ではメリットの方が大きい。
「……廻君」
「大丈夫、ですよ。僕が力になれる事って、これぐらいしか……ごほっ、ごほっ」
 辛そうに血を吐く廻を支えたシルキィは眉を寄せる。きっと、シルキィが想像も出来ないほど廻の身体は蝕まれているのだろう。
「もう、限界に近いよね」
 シルキィとて最後まで倒れる訳には行かない。アーリアの魔力を受け取り因果を繋ぐ役目があるのだ。
「だから。わたしの生命を、キミに分けてあげる」
「シルキィさん……」
「キミの生命を、わたしの生命で繋ぎ止める。……信じて」
 指先を糸で傷つけたシルキィは廻の舌にそれを乗せた。
「……大丈夫。わたし、キミならいいよ」
 廻にとって、シルキィの血は絶大な効果を発揮する。陽だまりと月明かり。相反する力が廻るように。
 シルキィから廻へろ生命力が渡っていく。
「ありがとうございます。シルキィさん。あったかいです」
 彼女の生命力はあたたかく喉から広がるように全身へと行き渡った。

 ――――
 ――

 アーマデルは壺をマントで包み、引き返していた。
 一人で居るというのは、どうしても思考の渦にのまれてしまう。
「廻殿や……多くを苦しめ、害した」
 されど、クロウ・クルァクの存在自体を悪と断じ、憎むことが出来ない。
「ヒトならぬモノはそういうモノ……特に自然より生じたものは。所謂コミュ障……」
「おい。正確な意味は分からんが蔑まれているのは分かるぞ」
 残穢がアーマデルの背後から顔を覗かせる。それを横目に前へと進んでいくアーマデル。
「縁の糸は……絡むだけでは縺れるばかり。縒り合せてこそ強く、しなやかになる」
 誰に聞かせるでもなく、ポツリと零した言葉に残穢は押し黙った。
 クロウ・クルァクもハージェスに住んでいた部族も繋がり方を謝ったのだ。
 過剰に巫女を差し出したヒトと、過度に求めた神。狭く閉じた環の中で、正される事も無く、繰り返し、廻るほどに捩れて歪む。
「神とヒト、縺れぬ距離は、添うには遠く寂しい」
 クロウ・クルァクの来歴を垣間見たアーマデル。黄金の瞳を映し出された記憶に向ける。
「冬は凍てつき、雪解けて氾濫し……毒は流域の鉱山か」
 若い時は気性の激しい急流。老いては幾つもの支流と交わり緩やかになる。
「……だがそこへ至る前に切り離された孤独な川」
 自身を水神と言ったクロウ・クルァクはそういうものなのだろう。
「病はまれびとの負の側面。新たな福と共に齎される未知の不幸」
 異形の神が放浪し、内包するは毒と病。それに水源を侵すとなれば忌避されるのも道理。
「ひとり寂しく、か」
 深くクロウ・クルァクの記憶に潜っていたアーマデルは意識が緩くなっていた。
「我と来るか? お主が居れば愉しいかもしれぬ」
「俺は……」
 残穢の呼び声に惑わされる。
 されど。
「打ち上げー! 美味しい物とお酒! 行くわよぉー!」
 アーリアの声がアーマデルの耳に届く。
 大声を振り絞り、仲間が自分を呼んでいるのだ。それに美味しいものが待っている。
 きっともう一歩。
「こんな所で歩みを止めていては、イシュミルに叱られてしまうな」
 自分の帰りを待っている人達の為に、アーマデルは足をあげた。

「愛無さん、ヴェルグリーズさんを!」
 毒沼の侵食で人の姿を保てなくなったヴェルグリーズを愛無が手に取る。
 この地と『絡む病毒の蛇の壺』の因果を断ち切るため。
 アーマデルの手にした壺から立ち上がる禍々しい残穢を横薙ぎに払った愛無。
 其れに共鳴するように、戦場に犇めいていた黒い影が霧散し、薄れていく。

「導く者から繋ぐ者へ。頼むわよぉ、シルキィちゃん!」
 アーリアが満月の色をした魔力の結晶をシルキィへ手渡せば、七色の光が溢れた。
 眩しい光輝は迸り、溢れて地を走る。
 それはまるで冬の夜空に浮かぶ月のように優しいとエルは目を細めた。
「次はわたしの番だねぇ。因果を繋ぎ直す……!」
「はい!」
 シルキィの糸が戦場を覆い、それを祝福するようにエルの雪の結晶が散りばめられる。
 邪気が払われ、急速に神気を帯びる洞窟の中。シルキィの糸は結ばれ、因果がめぐりだす――


 アーリアは敵意の無くなったクロウ・クルァクの残穢の前に座る。
「こちらが勝ったんだもの、付き合ってくれてもいいでしょう?」
「まあ、構わぬぞ。それ程時間も無いがな」
 戦場に満ちた月の魔力は残穢を浄化していた。アーリアの前に居るのはアーマデルが持ち帰った壺に残る思念だった。何の力も無いただの精霊。
 アーマデルはその精霊の手にお握りを一つ乗せた。
「鬼切り、御結び。これもまた切り、結ぶもの。今は知らぬだろうが、はるか先、遠い所で。蛇神、運命の糸を繰り断ち切る者よ……これは貴方が紡いだ縁だ」
 座り込んだクロウ・クルァクは大きな口を開けお握りを頬張る。

「残穢とはいえ希望ヶ浜――燈堂の『繰切』と繋がってる貴方のこと、私は何も知らないのよ。ねぇ、貴方は『何』?」
 アーリアの言葉に残穢は考え込むように腰に手を当てた。
「繰切という名。それに、アーマデルが寄越した『お握り』から感じる気配。我とそれ以外のものが混ざっているのだろう。黒き澱みたる我と、白き閃光たるその者が混ざっておる」
 アーリアはクロウ・クルァクの残穢が薄く笑うのを見つめる。
「神である我と混ざる事が出来るのは、同じ神格を持つ者だけだ。我は激しい戦いの末、喰らったのだろう。その者を。血で血を洗うような戦いであったに違いない」
「嬉しそうね」
「……はっ、確かに。我は嬉しいのかもしれぬ。この地から離れた先で、混ざる事が出来る程の相手と出会えたのだ。それは憎きライバルであり、良き友に違いない。子を成したということは伴侶かもしれぬな」
 二つの神が合わさり、溢れ出た余剰の神気が形を得た。それが繰切の子『白銀』なのだ。
「それにしても、我の輪を断ち切る程とは……ヴェルグリーズ、お主と似ているのだろうな。見た目ではなく性質的な所だが」
 因果を断ち切る属性を持って、クロウ・クルァクと混ざり合った神。
 拮抗する両者の力。クロウ・クルァクが勝ったのにも関わらず、繰々と廻る因果を断ち切るという二つの相反する名を持っているのは、彼自身が『残したかった』からなのかもしれない。

 シルキィが怖ず怖ずと視線を上げた。
「聞いて良いかな?」
「どうした。シルキィ」
「廻君は『繰切』の封印を維持する為に頑張ってるの。その負担を減らす事ってできないのかなぁ?」
「我を封印しているだと? そんな風には見えぬが……」
 自分の名前を呼ばれ、何かと近づいて来た廻を掴まえて抱え込むクロウ・クルァク。
「わっ!?」
 残穢は本能的な恐怖に身体を震わせる廻を、人形のように無遠慮に扱う。
「……ふむ。我が巫女に付ける印があるな。繰切は封印されているというより、自らの意志で居座っているが正しいかもしれん。大方、その混ざり合った神との未練なのだろう。我ながら気に入ったものへの執着が凄まじいな。だが、気を付けろ。『廻を壊す』と厄介だぞ。巫女の印は所有物を示すものだ」
 廻をシルキィへと渡したクロウ・クルァクは「負担を軽くする方法」に頭を捻る。
「軽くするのは難しいな。受入れる事は出来ぬだろう? 我の巫女は自らの意志でその身を捧げた。それが巫女にとって名誉な事であり大事な役目だったからだ。幸福であると信じていた。だが、廻は違うだろう」
「……」
 同じ存在である残穢に触れられるだけで、廻は月祈の儀を思い出し恐怖に震えてしまうのだ。
「まあ、シルキィが傍に居て抱きしめてやるだけで救われるだろうよ」
 大切な人の為に頑張るという心の支えは何よりも大事だと残穢は伝う。

「では、そろそろ我は往くぞ。巫女どもが待っておるからな」
 長い間待たせてしまったとクロウ・クルァクの残穢は口の端を上げた。
「アーマデル。その壺は壊してしまって構わぬ。どうせ、何の役にも立たない毒壺だ」
「……いや。毒は転じれば薬にもなる」
 輪を紡ぐ属性を持ちながら、自ら繋がりを絶とうとする『寂しがり』の蛇神に首を振るアーマデル。
「はっ、お主は優しいの。もう少し早く出会っておれば我の巫女にしたかったぞ」

 巫女や死者の記憶を反芻し留め置いていたのは、クロウ・クルァクの意志だったのだろう。
 彼等の未練に寄り添ったのだとアーマデルは胸に手を当てる。
 対等の友も無く、寂しかった。己に加護を授ける一翼も、そうであっただろうから。
「じゃあ、さようなら。クロウ・クルァク」
「ではな」
 月の魔力に包まれて、孤独だった神の落とし物は静かに消えて行った。

成否

成功

MVP

アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切

状態異常

ヴェルグリーズ(p3p008566)[重傷]
約束の瓊剣
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)[重傷]
灰想繰切

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 クロウ・クルァクの残穢との戦いで沢山の情報が手に入りました。
 MVPは残穢の心に寄り添った方へ。

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