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シナリオ詳細

<オンネリネン>ラヴィ・ラヴァ。或いは、優しい復讐者…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●貴女は優しい人だから
「まぁ、また怪我をしたの? いいえ、いいの。いいのよ、名誉の負傷ですものねぇ」
 さぁ、治療してあげましょう。
 そんな優しい言葉とともに、差し伸べられた彼女の手は陽だまりみたいに暖かかった。

 シュリ・シュリ。
 今は亡きアドラステイアのマザーを務めた女の名前だ。
 彼女はその手で、結果として多くの子どもを殺めた。
 ある少年は命を落とし、ある少女は理性のない怪物へと姿を変えた。
 それはまさしく非道といって差し支えない行いだろう。
 因果応報、悪因悪果……己の行いは、必ず己に帰ってくるものだ。
 シュリ・シュリはその行いにより、イレギュラーズと交戦……激闘の末に命を落とした。
 冷たくなった血塗れの遺体を抱きしめて、少女が1人泣いている。
『あぁ、優しい子ね。貴女はとっても、優しい人……どうか、その優しさを見失わないで』
 森の木の葉が揺れるみたいな優しい声を2度と聞くことは無いのだろう。
 頭を撫でてくれた暖かな手は、すっかり冷たくなっている。
「あの人たち……なぜ、マザーを……優しかったマザーを」
 声が震える。
 涙が溢れて止まらない。
 噛み締めた唇からは血の雫が零れた。
 その日、少女……ラヴィ・ラヴァは“復讐者”となったのだ。

●“月”の導き
 所は王都メフ・メフィート郊外。
 どこか陰鬱、されど空気の流れは良好。
 汚濁と清流の狭間といったような土地を、褐色肌の女が歩く。
 流れ着いた犯罪者により治安がひどく悪化していた過去ならいざしらず、ある占い師が領主の座について以降は徐々に治安も改善している今ならば、女の1人歩きも危険は少ないだろうか。
 もっとも、この土地で彼女の命や身体を狙うような者はいない。
 ある者は親し気に、ある者は恭しく首を垂れて、歩く女を見送った。
 女の名はヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)。
 彼女こそが、かつて荒れ果てたこの地を治め、治安の改善に尽力している領主である。
「……こっちでしょうか」
 すん、と形の良い鼻を鳴らし、ヴァイオレットは領地の一角にあるスラムの方へと進路を変えた。
 普段であればそれなりに人の姿も見えるのだが、どういうわけか今日に限っては誰も彼もが息を潜めて自身のねぐらに引きこもっている。
「あぁ、領主……来られたか」
 そんな中、1人の老婆がヴァイオレットに声をかけた。
 スラムの奥の薄暗い路地からヴァイオレットを手招きしている。軽く手をあげ了承の意を示したヴァイオレットは、誘われるままに路地へと足を踏み入れた。
 鼻を突く腐敗と血の臭い。
 それから、唇の辺りがベタつく感覚。
 近くに焼死体があるのだと、ヴァイオレットは理解する。
「何人、やられましたか?」
 路地の奥を覗き込み、ヴァイオレットはそう問うた。
 隣に立った老婆は静かに首を振り「分かりかねます」と答えを返す。
 2人の視線の先にあるのは、地面や壁にぶちまけられた血と肉片の痕跡だ。
 その中心には、何かが焼けた痕がある。
 焚火のように長い時間をかけて熱を加えたのではなく、ほんの一瞬だけ高火力で焼いたのだろう。
「【紅焔】でしょうか。それに【滂沱】と」
「抵抗をしている風ではありませんでしたからな。【呪縛】でも受けたところでやられたようです」
「……“風ではなかった”とおっしゃいました? ご老人、現場を見ていたのですか?」
「遠目にですじゃ。下手人の数は3人……ただ、もっと大勢の仲間がいるというようなことを言っていましたな」
「ふむ……声を聞いたのですね? 性別や年頃は? ほかに何か言ってはいませんでしたか?」
「うむ……そうですな」
 ヴァイオレットの問いかけに、老婆は暫し思案する。
 それから、記憶の底から引っ張り出したキーワードを、ポツリと渇いた唇に乗せた。
「“オンネリネン”だとか“旅人”や“居場所”、それに“断罪”だとか……“シュリ・シュリの意思”とか……あぁ、主犯格らしき少女は“ラヴィ・ラヴァ”と呼ばれていましたな」
 ぴくり、と。
 ヴァイオレットの肩が跳ねた。
 老婆の聞いた言葉の中に幾つか聞いたことのある単語が混じっていたからだ。
 アドラステイアに関しての調査を行っていたことを、気取られたのかもしれない。
 確かに、最近の情勢もあり“オンネリオン”について探っていた記憶がある。
 路地で犠牲になった誰かは、ヴァイオレットの素性や居場所について尋問を受けたのだ。
 その結果、どれだけの情報が敵に渡ったのかは分からない。
 名前や容姿、戦い方はどうだろうか……その程度で済めばよいが、交友関係まで割れたとなると面倒なことにもなりかねない。
 或いは、犠牲になった誰かは「口を割らず」に命を落としたという線は無いか?
 その辺りについては、思案するだけで答えが出せるものではない。
「ラヴィ・ラヴァですか……ひとまず、その方を探して」
「領主。実はですな……そのような名前の者に心当たりがございます」
「それは重畳。その方はどちらに?」
「……領地のすぐ外に流れの難民たちが住みついております。最近、そこに流れ着いた少女たちの1人が、そのような名前でして」
「何やら口ぶりが重たいですねぇ」
「えぇ、まぁ……彼女たちは難民たちの手伝いや、怪我人の治療といった行為にせっせと励んでいるそうです。何でも、かつて大切な人を失った経験があるとか……そんなことを言っていましたな」
「……そう、ですか」
 老婆の言葉に、ヴァイオレットは応えを返すことが出来なかった。
 思案し、彼女はふと思いついてカードの束から1枚を抜き出す。
「……“月”の正位置ですか」
 なんて。
 そう呟いて、彼女は小さな吐息を零す。
「アドラステイアに関して調査していたことを気取られましたかね? ワタクシだけでは、些か手に余りそうです」

GMコメント

こちらのシナリオは「シュリ・シュリ。或いは、優しい人…。」のアフターアクション・シナリオとなります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4210


●ミッション
ラヴィ・ラヴァおよびその仲間の討伐or捕縛

●ターゲット
・ラヴィ・ラヴァ×1
赤い布で飾られた、鍔の広い帽子を被った15歳ほどの少女。
『オンネリネン』の一部隊を率いるリーダー。
仲間たちからの人望は篤い。
かつて大切な人を失ったことがあるらしい。

???:物中単に大ダメージ、紅焔、滂沱、呪縛
正体不明の攻撃手段。
犠牲になった者はバラバラのミンチになって焼かれていた。

・少女行動隊×12
子供達だけで構成された傭兵部隊『オンネリネン』の構成員。
ラヴィ・ラヴァをリーダーに、12~15歳ほどの少女たけで構成されている。
何らかの任務のため幻想に訪れているようだ。
彼女たちは人当たりがよく、敵対していない者に対して非常に「優しい」。
しかし、訓練を積んだ傭兵であることに変わりはなく、いざ戦闘となれば素早い身のこなしと、容赦のない攻撃を行うだろう。

???:物中単に中ダメージ、紅焔、滂沱、呪縛
正体不明の攻撃手段。
犠牲になった者はバラバラのミンチになって焼かれていた。


●フィールド
幻想郊外。
ヴァイオレット領のすぐ近くにある難民キャンプ。
流れの難民たちが住みついている区画。
布や藁で造られた粗末な家屋が無秩序に並んでいる。
住人はおよそ30名ほど。
最近、ラヴィ・ラヴァたちが合流した。

難民キャンプの中央付近には古い井戸がある。
キャンプ周辺は乾いた荒地。
また、キャンプ西方向には命を落とした者たちが埋葬されている。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <オンネリネン>ラヴィ・ラヴァ。或いは、優しい復讐者…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年10月12日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

咲々宮 幻介(p3p001387)
刀身不屈
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
咲き誇る菫、友に抱かれ
カルウェット コーラス(p3p008549)
旅の果てに、銀の盾
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ブライアン・ブレイズ(p3p009563)
鬼火憑き
佐藤 美咲(p3p009818)
無職

リプレイ

●難民キャンプ
 戦争、疫病、魔物の襲撃。
 住処を失い、帰る場所も行く宛てもなく彷徨っている者たちも、決して珍しい存在ではない。
「今、幻想本国の軍が向かってるらしいですよ……目的まではわかりませんが。何を狙ってるのかわかります?」
 難民キャンプの片隅で、肩を寄せ合いじっとしていた若い夫婦へ、『ダメ人間に見える』佐藤 美咲(p3p009818)はそう問いかけた。
 美咲の言葉を聞いた夫婦は、ビクリと肩を震わせる。
 見ていてかわいそうになるほどリアクションが大きいのは、彼らが幻想本国の軍に対し、良い印象を抱いていない証拠だろう。
「さ、さぁ? 分かりかねますが……いつ頃到着するんです?」
「早ければ今夜か明日の朝か……もし何かあるのなら、逃げた方がいいかもしれないですね。できればキャンプごと移動するのが確実かも」
 と、そう言って美咲はその場を後にする。

 年齢も性別も種族も様々。
 共通点といえば、帰る場所が無いということぐらいだろうか。
 いたって健康そのものといった男もいれば、目を悪くし自力で身動きできない状態の女性もいる。
 そんな女性に肩を貸しながら『旅色コットンキャンディ』カルウェット コーラス(p3p008549)は難民キャンプを彷徨っていた。
「うぅ、おうち、どっち?」
 一緒に行動していた友人とはぐれ、自分の住処へ帰れなくなった彼女をカルウェットは送っているのだ。
「ねぇ。その人の住居を探しているの? だったら、ほら、あっちの方だよ」
「うぇ?」
 背後から若い女性がカルウェットへと声をかける。
 そこにいたのは、15歳ほどの少女であった。
 赤い布で飾られた、鍔の広い帽子を被っていることから、彼女こそが今回の討伐対象であるラヴィ・ラヴァだとカルウェットは判断する。
「うん? どうかした?」
「うぅん。何でも、無い、ぞ」
「ふふっ、おかしーの」
 なんて。
 ラヴィは朗らかな笑顔を浮かべ、カルウェットを先導して歩き始める。女性の住処へ案内してくれるつもりなのだろう。
 ラヴィの案内もあり、そう長い時間もかからずカルウェットは目的の場所へと着いた。
「その人、確か友達と一緒に住んでるんだったよね。私、探してきてあげる」
 そう言い残して駆けだすラヴィの細い背中を、カルウェットはただ黙って見送っていた。

 日が暮れて、闇の帳が下りた頃。
 昼間より人数が減った難民キャンプの片隅に、1人の男が現れる。
 背丈はさほど高くはないが、その体は鍛え抜かれて隆々としている。腰には刀、首には赤い布を巻いた彼の名は『傷跡を分かつ』咲々宮 幻介(p3p001387)といった。
「あっち」
 テントの影に立つカルウェットは、難民キャンプの奥の方……焚火の炊かれた一角を指し示す。
 そこにいるのはラヴィ・ラヴァをはじめとした数人の少女たち。
 彼女たちがオンネリネンの構成員であり、また『影を歩くもの』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)が治める領地の住人を、無残に殺した下手人であることは既に調べが付いていた。
 オンネリネン。
 それはアドラステイアの組織した子供達だけで構成された傭兵部隊の名である。
「夜分遅くに失礼する。お主ら旅人を探していると聞いたが……」
 数メートルの距離を開け、幻介は少女たちに声をかけた。
 13人の部隊と聞いていたが、数が足りない。おそらく数人はどこかに出かけているのだろう。
「拙者、まさしく“旅人”で御座る。お主ら“オンネリネン”に相違ないな?」
 そう言って。
 幻介は腰の刀へと手を伸ばし。
 瞬間、空気を切り裂く音が鳴り響く。

 爆音がひとつ鳴り響く。
 その音と炎の光を目にした瞬間顔を見合わせ、駆け出した。
 彼女たちにとって、それが聞き慣れた音だったからだ。
 爆音が鳴り響いたということは、つまり仲間の誰かが戦闘を開始したということだ。
 けれど、しかし……。
「仲間が心配? でも、そっちを気にしてる余裕ってあるのかな?」
 少女たちの眼前で、ごうと業火の柱があがる。
 その向こうには赤い髪の少女が1人。『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は掲げた右手に火炎を灯し、どこか辛そうな視線を少女たちへと向けている。
「貴女方の狙いは、ワタクシでございましょう?」
 焔の隣に立っていたのはヴァイオレットだ。
 その姿を目にした瞬間、少女たちはその目に明らかな殺意を灯した。
 その様子を見て、ヴァイオレットは内心で「やはり」とため息を零す。
「シュリ・シュリも、アナタ方も、人の命を奪った者に変わりはなく……人の命より重い思想などございません」
「何をいけしゃあしゃあと……それを言うのなら」
「ええ、そう。ワタクシもまた悪です。ワタクシは、悪たるアナタ方が何も果たせず死んでいく様を見れれば……それで良いのですよ」
 なんて。
 冷たい視線を少女たちへと向けながら、ヴァイオレットはそう言った。

 作戦に参加したイレギュラーズは8名。
 難民キャンプにて避難活動を補助している美咲、カルウェットや、少女たちの誘導に向かった幻介、焔、ヴァイオレットを除く3名は荒地の一角で息を潜めて、その時が来るのを待っていた。
「あー、くそ……暇だぜ」
 退屈そうに空を見上げて『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)は欠伸を零す。
 彼が現場に到着したのは、今から半日ほど前のこと。
 しかし、日中の間、彼がやったことと言えば、カルウェットに目薬を差してやっただけ。それ以外の時間は、少女たちに居場所を気取られないよう、荒野の外れで息を潜めていたのである。
 なるほど、それは確かに退屈だっただろう。
 しかし、次の瞬間、難民キャンプで爆音が鳴った。
 それは、ブライアンの退屈を終わらせる福音に他ならない。
「おっと、始まったか。幻介の奴は上手くやるかな?」
「そっちは心配ないだろう。それより、気になるのは正体不明の攻撃手段の方だ。ミンチもそうだけど、鉄くずになりたくはない」
 細剣を抜いた『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は、空を見上げて立ち上がる。
 少女たちが荒野に辿り着くまで、どれぐらいの時間が必要だろうか。
 先ほどから数度、難民キャンプでは爆音が鳴り響いている。
「これが故郷なら爆弾って片付けられたんだが、生憎混沌だし検討が付かんな」
 ヴァイオレットから預かっていたタロットカードを懐へ仕舞い『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)もまた、己の武器へと手を伸ばした。
 タロットカードに描かれているのは、月と荒野。
 今、自分たちが立っている場とよく似た景色が描かれていた。

●月と荒野
 闇夜に火炎の軌跡を描き、幻介の背を切り裂くそれは細い爪。
 否、硬化した血管と言うべきか。
 とにもかくにも、少女たちの腕を突き破り伸びたそれは十分な切れ味と硬度、そして攻撃に足る速度を持った武器であることに違いは無い。
「っ……容赦が無いな」
 右から迫る血管を、幻介は刀の腹で弾く。さらに、下方と上方から迫る2撃は一閃により斬り払う。弾かれた血管が、付近のあばら家へと当たり崩壊させた。
「ぬ、しまっ……」
「大丈夫でスよ! それより、ほら、走れ! 西だ! 西に走れば助かるから何も考えず走れ!!」
 崩壊するあばら家には人が住んでいたのだろう。
 若い女性を脇に抱えた美咲が、あばら屋の中から、転がるように飛び出して来た。彼女は女性を立たせると、有無を言わさず「走れ!」と叫ぶ。
「大丈夫…! 絶対、ボクたち、護る、するから! 気にせず、走れ!!」
 別の方向からは、カルウェットの叫ぶ声が聞こえた。
 彼女もまた、火炎と粉塵の渦巻く難民キャンプのどこかで、住人の避難に当たっているのだ。
「……良かった」
 避難していく女性を見て、ラヴィ・ラヴァが安堵の表情を浮かべた瞬間を、幻介は見た。

 住人の避難を美咲に任せ、幻介は荒野へと至る。
 背や腕には無数の裂傷と火傷の痕。
 満身創痍といっても過言ではない重症だ。
「いい加減に観念しなさい!」
 そう叫んだラヴィは、腕を大きく一閃させた。
 沸騰する血の雫を散らし、黒く硬化した血管が幻介の胸部を深く斬り裂く。
「やるからには当然……やられる覚悟もあるので御座ろう」
 刀を一閃。
 血管の鞭を斬り裂いて幻介は言う。
「主らは越えてはならぬ一線を越えた、なればその身を以て……その罪を贖ってもらう」
 そう言って幻介は、ラヴィの血管を素手で掴む。
 じゅ、と皮膚の焼ける音と異臭が漂う。
 構わず、幻介は力任せにそれを引いた。必然、ラヴィは姿勢を崩し、数歩ほど前によろけながら足を踏み出す。
「っ……やば」
「殺せばいつか回って来る。分かってただろ」
 ラヴィが異変に気が付いたのは、その眼に鈍く光る刃が映った瞬間だった。
 刃を振るうマカライトの放つ斬撃は、防御も回避も出来ないでいるラヴィの首へ向けて迫る。
 一瞬。
 襲い来るであろう衝撃に、ラヴィはきつく目を閉じて……。
「……え?」
 困惑の声をあげたラヴィの顔いっぱいに、誰かの血が降り注ぐ。

 12年。
 彼女がこの世に生を受け、そして終えるまでの時間だ。
 ラヴィの率いる隊の中で最も若く、背の低い少女は、迷うことなく剣の前に身を躍らせた。
 受け身を取る時間も無かった。
 ラヴィを非難させる余裕も無かった。
 だから彼女は、自分の体を盾にした。顔から胸部、腹部までを深く裂かれ、血を吐く彼女はしかし息を引き取る瞬間、確かに笑っていたのである。
「あり、がとう」
 最後に残したその言葉は、ラヴィへと向けられたものだ。
「……祈れる身じゃないが」
 次が幸せであるように。
 血に濡れた少女へ向け、マカライトはそう告げた。

 炎が荒野を朱に照らす。
 焔の撒いた燃える小石がその光源だ。
 1人、黒焦げた少女が地に伏した。その片腕は、イズマに斬られたことにより既に失われている。
 攻撃手段を失った彼女は、抵抗することも、逃げることも出来ないまま、焔の火炎に焼かれて果てた。
 きっと、苦しかっただろう。
 痛かっただろう。
 泣き出したかったことだろう。
「確かに凄く悪い事はしちゃったかもしれないけど……もう十分に罰は受けたよね」
 元の容姿も判別つかぬ遺体を前に、焔はポツリと言葉を零す。
「なぁ、焔さん……優しさの定義って何だろうな」
「……イズマ君」
「彼女たちは無関係の人を殺めた。けれど、困っている難民キャンプの人たちの手伝いをしていたのも事実だ」
 黒く焦げた右の義手に触れながら、イズマは告げる。
 傷だらけの義手は、所々が熱で歪んでいた。
「シュリ・シュリは“優しさ”の果てに子供たちを殺めていた。けれど、そんなシュリ・シュリはこの娘たちに慕われていた」
 立場が変われば見方も変わる。
 誰かにとっての善行が、別の誰かにとっては悪行であることもある。
 イズマや焔の視点から見れば、少女たちの行いは赦しておけない“悪”である。
 けれど、少女たちの目からはイレギュラーズこそが“悪”に見えていたのだろう。
「人と人が争うのって、きっといつもそんな風なものなんだ」
「正義の反対は、また別の正義……だったか」
 ままならないな、なんて。
 そう呟いたイズマと焔の眼前に、傷ついた少女たちが立ちはだかる。彼女たちへ刃を向け、火炎を撃ち込み、2人はそれっきり言葉を交わすことはなかった。

 胸を貫く血管を、ブライアンは力任せに引きちぎる。
 血管に刺された箇所の血肉は沸騰し、内側から爆発。破れた皮膚と肉の欠片が散らばった。
 胸を血で赤く濡らし、口から滂沱と血を吐いて、けれど彼は吠え猛る。
 血に濡れた拳を振り上げて、身体を前へと倒して駆けた。
 蹴った地面が僅かに窪み、彼の巨体を砲弾のように前へと撃ち出す。
「ハッハー! 脆いぜ!」
 駆ける速度を乗せた一撃。
 腕を抑え、呻く少女へ接近すると、その顔面に殴打を叩き込むのであった。

 難民キャンプが燃えている。
 しかし、カルウェットと美咲の活躍により、難民たちは誰1人として命を落としてはいなかった。
「本当は、みんな、助けたい……人傷付ける、嫌だけど、ダメ、なんだな」
 燃える難民キャンプの真ん中、裂傷の残る少女の遺体を前にしてカルウェットはそう呟いた。
 そんなカルウェットの背後で、ごとり、と何かが崩れる音が鳴り響く。
 振り返れば、そこにいたのは美咲であった。
「……子供が戦場にしゃしゃり出てくると、私の仕事がやりにくくなりまスね」
 さぁ、お仕事でス。
 囁くようにそう言って、美咲は荒野へと向かう。
 その後に続くカルウェットは、そこでふと気が付いた。
 何でもないかのようにふるまう美咲の肩が、ほんの少しだけ震えていることを。
 
 熱を帯びた血管をブライアンが掴んで引いた。
 背負い投げの要領で、少女が1人、宙を舞う。受け身も取れず地面に落ちた少女の首が鈍い音を立て、へし折れた。
 しかし、辛うじてまだ息はある。
 苦しみに喘ぐ少女の胸に剣を突き立て、マカライトはほんの一時、祈りを捧げた。
「あぁ……サリ」
 ラヴィは今にも泣きだしそうな声音で、死んだ少女の名を呼んだ。
 返事は無い。
 あるはずが無い。
「貴女たちは難民キャンプで何を? その手は……シュリ・シュリの薬で?」
「っ……えぇ、そうよ。この力は彼女からもらったの。私たちが、奪われるだけだった私たちが、これ以上苦しまないようにって!」
 ヴァイオレットの問いかけに、ラヴィは叫ぶように答えた。
「何か悪い!? シュリ・シュリの意思を継いで“優しい人”でいることに、何か問題があるかしら!?」
「……」
「なにか言ってよ」
「……いいえ、何も。何もございませんとも。えぇ、えぇ、ワタクシは、悪たるアナタ方が何も果たせず死んでいく様を見れれば……それで良いのですよ」
 短剣を手にヴァイオレットはそう告げた。
 ずるり、と。
 まるで意思を持つかのように、彼女の影が蠢いた。

●月の明るい夜
 2人の少女が腕を振るった。
 空気を焼いて、硬質化した血管の鞭が幻介を襲う。
 しかし、それが幻介の体を打つことはなかった。
「う……護る、よ。気持ち、強く持つ! 折れない!」
 淡い光の膜を纏ったカルウェットが、その身を盾に庇ったからだ。
 瞬間、弾かれたように幻介は駆けた。
 伸びきった血管の真下を潜るように疾駆し、一閃。
 まずは1人の喉を裂く。
「拙者の速さから逃げられると、本気で思っていたので御座るか……おめでたい事で御座るな」
 続けざまにもう一閃。
 血飛沫の舞う中、2人の少女が地に伏した。

 炎の破片が夜闇に散った。
 焔の放つ火炎弾が、ラヴィの振るう血管を撃ち抜いたのだ。
 元より高温の血管が、それだけで燃えることはない。けれど、狙いを逸らすには十分な威力を焔の炎弾は備えていた。
「くそっ、ちくしょう、ちくしょう!!」
 半狂乱になって腕を振り続けているラヴィの姿が、ヴァイオレットには哀れに映る。
 シュリ・シュリの影響か、彼女は己の行動を間違ったものとは思っていない。人を殺したことについても、罪悪感など感じていない。
 必要だったから、彼女たちは人を殺した。
 困っていたから、彼女たちは難民キャンプの人を助けた。
 まっすぐに伸びた血管を、ヴァイオレットは短刀で払い回避する。飛び散った血が頬に付着し、褐色の皮膚を焼き焦がす。
 ずるり、と。
 伸びた影を回避して、ラヴィは数歩後ろへ下がった。
 刹那……。
「悪いけど……別にこれが初めてという話ではありませんし」
 トン、と。
 軽い衝撃がラヴィの背中を貫いた。
 いつの間に回り込んだのか、そこにいたのは美咲である。その手には、血に濡れた木片が握られている。
「あ……え」
 ごぼ、と。
 ラヴィは血を吐きだした。
 木片が背中を貫いている。
 しかし、そのことに気づいた時には既に手遅れ。
「なんで……なんで、私たちがこんな想いをしなきゃならないのよ」
 1歩。
 歩み寄るヴァイオレットへそう問うた。
 返事は無い。
「どうしてシュリ・シュリを殺したの」
 嗚咽を堪え、ラヴィは言った。
 返事は無い。
「こんな世界……もう嫌だ」
 顔を歪め、ラヴィは泣いた。
 瞳の端から涙が零れる。
 死にたくないと、その視線が告げている。
「……っ」
 唇を噛み締め、しかし焔はラヴィから目を離さない。
 助けを求めるようにラヴィは左右へ視線を振るが、既に彼女の仲間は1人も立ってはいない。
「ねぇ、あの人たちは……どうなるの?」
 最後にラヴィは、難民キャンプの住人たちを案じてみせた。
 その薄い胸にヴァイオレットの短剣が突き刺さり……骨を砕き、それは心臓を貫いた。
「ワタクシの領地で受け入れます」
 呼吸を止めたラヴィへ向けて、ヴァイオレットはそう告げた。

「人殺しに向ける温情は無いが……」
 少女の遺体を抱き上げて、マカライトはそう告げた。
「あぁ、酷いことをするのも優しくするのも、等しくその人の一面だ」
 難民に被害は出なかった。
 命を落としたのは、名も知らぬ少女13人だけ。
 溜め息を零すイズマは、チラと視線をブライアンへと向ける。
「ハ。殺して、祈って、また殺すワケだ」
 まったく、ままならねぇなァ……。
 仲間たちに背を向けたまま、彼は空を見上げて言った。
 どこまでも広く、黒い空。
 白い月が浮いている。

成否

成功

MVP

咲々宮 幻介(p3p001387)
刀身不屈

状態異常

咲々宮 幻介(p3p001387)[重傷]
刀身不屈
ブライアン・ブレイズ(p3p009563)[重傷]
鬼火憑き

あとがき

因果応報。
ラヴィ・ラヴァをはじめ、少女たちはその生涯を終えました。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただきありがとうございました。
また、縁があれば別の依頼でお会いしましょう。

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