PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<月没>鬼灯ル赫赫ト

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●くれなゐに染まる
 諦星(たいしょう)十五年、夏から秋にかけ、神咒曙光(ヒイズル)は元種(アサクサ)の地にて市が立つ。
 永く続いているこの市は、文明開化でモダンやハイカラが溢れようとも廃れることはなく、人々は「今年もそろそろか」と風物詩として待ち望むものであった。
 現実の豊穣では夏の数日間のみ開かれるその市は、ROOでは地域イベントとして夏から秋にかけて行われているらしい。
 元種寺の境内には、赤いぼんぼりめいた実をいくつも付けた数多の鉢植えのほおずきが並べられ、寺の参拝客へと販売される。それに合わせて仲見世通りはいつもより賑わい、縁日のように美味い香りを漂わせる屋台も並ぶ。屋台目当ての子供も、ほおずき目当ての大人も、山と訪れる賑わい溢れる市であった。
 市の名を『元種のほおずき市』と云う。

――――――
――――
――

 からり、からり。
 ほしよみキネマが唄いながら、つまびらかにする。

 人力車が走る通りを、軍服の男が往く。
 男がふと足を止めたのは、赤い特徴的な大きな提灯が掲げられた門前。
 人々で賑わう仲見世通り。
 子供の手と赤いりんご飴。
 赤いほおずきの鉢が、赤々と並ぶ。
 楽しげな人々の表情。
 少女の頭に止まる蝶のような赤い絹紐(リボン)。
 赤い祭り提灯。

 映っているのは、男が目で追ったものなのだろうか。
 人混みの中を歩んでいた男の足が、次に向かうのは……。

 屋台前の人混みの中で、幼い少女が転ぶ。
 手にしていたりんご飴が砕け、割れたびいどろのように地に赤が散った。
 ワッと火がついたように泣く少女の手と膝にもまた、赤。
 鈍く光る鐵。
 逃げ惑う人々が赤に染まり、倒れたまま動かない。

 からり、からから、かたん。

●名探偵が云ふことには
「皆さんにお願いしたいことがあります」
 映写機が止まるのを待ってから、『名探偵』猫屋敷・スイ(p3y000218)は口を開いた。
「今見てもらった通り、『元種のほおずき市』に夜妖『紅マント』が現れます。紅マントは市に訪れた人たちを次々に殺め、惨劇を起こします。これを撃破し、帝都の平和を守ってください」
 この情報は星読幻灯機によるものなので確実に起こりますよ、と如何にも探偵らしい手帳を広げて読み上げたスイが顔を上げる。蒼空色の瞳を真っ直ぐに向けてから、少年は再度手帳へと視線を落とした。
「此度の犯人――紅マントの姿は解っています」
 性別は男性。
 服装は黒の軍服。
 殺した者たちの返り血でマントがてらてらと赤く濡れるから、紅マント。
「ですが、警邏中であったり、休憩がてら……もしくは非番の軍人さんも市には来ていて、姿を知っているだけでは犯人を見つけることは叶いません」
 けれどひとつ、重要な情報を掴んでいるとスイは口にする。
 それは、臭いがするのだと云う。
 濃厚な、消しても消しきれない、染み付いた血の臭い。
 人混みでたくさんの香りが溢れているため気付き難いかも知れないが、鼻が良い方はいらっしゃいますよね? とスイはイレギュラーズたちの顔を見渡す。
「僕は探偵なので、同行した方がよいことは解っているのですが……今回僕は同行できません。僕にはこの手の依頼(クエスト)が沢山舞い込んで来てしまいまして……」
 他にも沢山の夜妖絡みの案件を抱えているのだと、申し訳無さそうに一度視線を下げるものの、スイはパッと顔を上げて手を合わせる。
「ですが! 皆さんは僕の優秀な『助手』なので! 問題ないと思います!」
 信じてますね! 子供特有の明るい笑みでスイが笑った。
「あとは……そうですね、戦闘場所を気をつけた方が良いでしょうね」
 ぺらりと手帳をめくって首を傾げ、これは考えて貰わないといけません、と低く唸る。
「本当なら市を中止すべきなのでしょうが……辞めた場合は予知された未来の状況と異なってしまい、犯人が現れない可能性が高いです。――いえ、現れないでしょう」
 他所で戦う場合、どうやって誘い出すか。どこへ誘い出すか。
 それをしっかりと話し合っておくと良いかも知れませんねとスイは言う。
「寺の境内の裏は人が殆どいません。続く道はまばらに人がいるでしょうが……」
 裏手、あるいは続く道を人払いしてイレギュラーズが一般人を装えば――。
 パタリと手帳を閉じたスイが、一片の曇りもない無邪気な顔で笑った。
「あ、そうそう、そうでした。皆さん、『月閃』を使ったことがありますか?」
 『月閃』とは、現在ヒイズルに発生している『侵食の月』を転用した異能である。禍々しいオーラを身に纏うことで、普段よりも強い――まるで反転したかのような力を振るうことが可能となるシステムだ。
 紅マントは強いが、それを上手く用いればいい線に持ち込めるだろう。
「それでは助手のおにいさん、おねえさん。後はよろしくお願いしますね!」

GMコメント

 ごきげんよう、イレギュラーズの皆さん。壱花と申します。
 タイトルは「きさらぎともる、あかあかと」と読みます。

●情報精度なし
 ヒイズル『帝都星読キネマ譚』には、情報精度が存在しません。
 未来が予知されているからです。

●成功条件
 市を中止せず『血塗れ』紅マントを誘い出し、討伐

●シナリオについて
 時間帯は昼間。
 市(いち)への被害が出ず、早期解決できた場合、戦闘終了後にほおずき市を楽しめます。
 ほおずきをお迎えしたり、屋台を楽しめたり、参拝できます。

●夜妖『血塗れ』紅マント
 軍服姿に軍帽、マントを着た軍人。
 色んな所で噂になるくらい沢山の人を殺めてきており、血の臭いが消えません。
 一人ではなく、より多くを殺したがります。
 彼が興味を抱くもの、より強く抱くものはOPに出ています。
 噂が広がっているため強く、抑えるにしても数人がかりでの連携が必要となるでしょう。
 軍刀での斬りつけや衝撃波、今まで殺してきた者たちの血による範囲攻撃を得意とします。血を自在に操れ、遠距離の相手を攻撃することも出来ます。

・血獣×10体
 血で出来たドーベルマンのような姿をしており、通常時の皆さんと同等か少し弱いかなといったくらいの強さです。しかし獣たちは、紅マントが討伐されるまで自動的に2ターン後に復活します。
 動きは素早く、噛み砕く力に長けています。

●魔哭天焦『月閃』
 当シナリオは『月閃』という能力を、一人につき一度だけ使用することが出来ます。
 プレイングで月閃を宣言した際には、数ターンの間、戦闘能力がハネ上がります。
 夜妖を纏うため、禍々しいオーラに包まれます。
 またこの時『反転イラスト』などの姿になることも出来ます。
 月閃はイレギュラーズに強大な力を与えますが、その代償は謎に包まれています。

※性格や姿を変えることが可能となります。技等もこんな感じにエフェクトが変わる、等のこだわりを考えてみるのも楽しいかと思います。

●侵食度
 当シナリオは成功することで希望ヶ浜及び神光の共通パラメーターである『侵食度』の進行を遅らせることが出来ます。

●重要な備考:デスカウント
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

※今回の復活地点は境内の外、歩いて五分程度の位置にあるサクラメントです。割と近いです。

 それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。

  • <月没>鬼灯ル赫赫ト完了
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年10月01日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ちゅん太(p3x000141)
あたたかな羽
梨尾(p3x000561)
不転の境界
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107)
不明なエラーを検出しました
Teth=Steiner(p3x002831)
Lightning-Magus
焔迅(p3x007500)
ころころわんこ
イズル(p3x008599)
夜告鳥の幻影
キサラギ(p3x009715)
呉越同舟
フィーネ(p3x009867)
ヒーラー

リプレイ

●赫揺れて
 文明開化の音がして、和洋混じりし諦星(たいしょう)十五年の神咒曙光(ヒイズル)。そこは現実の豊穣とは違う独自の文化を形成しており、『ふっくらすずめ』ちゅん太(p3x000141)は思わず瞳を丸くした。
 しかし、大きな赤い提灯が吊るされた寺の門を潜れば、そこはたちまち懐かしい姿となる。
 吊るされた鉢に青々と茂る緑に、赤。
 賑わう仲見世通りに、小腹が空く香りに満たされた屋台。
 豊穣と違うのは、町人たちの姿がハイカラなものであったり、夜になれば灯るであろう水銀燈があちらこちらに『のっぽ』な姿を見せていることだろう。
「ねえ、聞いた? 境内裏で何かしているみたいだよ」
 人の多いところへとぱたたと降り立てば、そんな言葉が耳に飛び込んでくる。仲間たちが人払いをしているのを見た人が噂をしているのだろう。
「そうなの? 見に行ってみる?」
「止めておいたほうがいいよ。喧嘩って話も聞くし、お化けが出たって話も聞いたよ」
「えっ、そうなの?」
「そうなんだ? って、あれ? 今の声、誰?」
「さあ……」
 林檎飴を手に噂話をしていた娘たちがきょろきょろと振り返れば、そこには愛くるしい瞳の大きな雀しか居ない。きっと親切な誰かが教えてくれたのだろう、近寄らないでおきましょう、と洋長靴(ブーツ)の踵を鳴らした娘たちは人混みに消えていった。
 境内裏付近へ近寄ったとしても、きっと人々はその先へはいかないことだろう。境内裏へ続く道辺りから立入禁止のテープが張られ、テープには『立入禁止』の張り紙が垂れ下がっているからだ。それはひとつではなく何箇所にも張られ、境内裏には最後の念押しまであり、心善き者がひと目見れば『入ってはダメなのだな』と理解できるようにしてあった。
 そして巡邏をしている刑部関係者。……と思われるように行動しているイレギュラーズたちが目を光らせ――目の届かぬところはドローンを飛ばし、人払いに当たっていた。
「ここ最近、人気の無い所で襲われるって事件が増えてんだ。二の舞になりたくなきゃ、帰った帰った!」
「へぇ、そんなおっかねぇことが。くわばらくわばら」
 野次馬根性を出した町人に警備の休憩所らしき椅子から立ち上がった『Lightning-Magus』Teth=Steiner(p3x002831)が近寄り警察手帳を見せれば、特務警察が国家の獅子身中の虫とは知らぬ町人は簡単に信じて退散する。
 寺社の関係者や警邏の者とて、そうだ。神使たちが国家と神霊に叛逆していることは、まだ、知らない。白衣を纏った『夜告鳥の幻影』イズル(p3x008599)が霊に話を聞きに行っている最中も、手帳を信じ切った彼等はお勤めご苦労さまですと頭を下げてくるほどだった。
『ヒト ぃた』
 イズルの脳内に響く、ノイズめいた『声』。それが『不明なエラーを検出しました』縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107)からのテレパシーだと理解する数秒の間に『この寺の付近では今まで見ていないから解らないが、嫌な気配は既に敷地内に居る』と情報をくれた霊に謝辞を告げ、イズルは姿を見えなくしている縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の代わりに人払いをすべく境内裏へ続く道へ向かおうとする町人に声を掛けにいく。
「この先は喧嘩をしているので危ないですよ」
 境内裏までの道を上空から確認し、仲間からの合図がないかと目を光らせていた『ケモ竜』焔迅(p3x007500)は恋人関係と思われる男女の前にふわりと降り立ち、そう告げた。屋台も仲見世通りも賑やかだからだろう。少し静かなところで休憩しようか、と向かう者がどうにも多い。
「軍人さんと酔っぱらいさんの喧嘩なので巻き込まれるかもしれません」
 もっともらしいことを告げればそうかと納得して引き返してくれる者たちばかりなのは、みな一様に市を心から楽しみに来ているからなのだろう。
(しっかりと紅マントから一般人の皆様をお守りしなくてはいけませんね!)
 強い決意を胸に焔迅は羽ばたき、空へと戻った。

「お花はいかがですか? ほおずきに添えるのにぴったりのお花がありますよ」
 色彩豊かな花々を籠に盛った花売りの乙女が道を行く。その声にひとつ見繕ってくれないかと声を掛けた老夫婦に笑顔を返しながらも、『ヒーラー』フィーネ(p3x009867)は人混みの中にそれらしい人物がいないかと警戒を欠かさない。
「人が多いから気をつけて。お母さんと手を繋いだらどうかな」
 予知に出ていた少女を飴売りの前で見つけた『父が想像した』梨尾(p3x000561)が屋台に気を取られている少女へと声を掛けると、傍らに居た母親と思しき女性が手を繋ぎましょうかと少女へと手を伸ばす。これで少女はきっと転ばない。泣いてしまう子供が一人でも減ったことに小さな安堵を覚えた梨尾はりんご飴をぺろりと舐め、人混みに紛れ込む。
 鼻をひくりと蠢かし、探すのは血の匂い。
 血の匂いと一言で言っても、様々な理由で血を流している人は日常的に多くいる。その中から探し出すのは、より濃く、染み付いたような血の匂いだ。
(血は嫌い……ですけど)
 血は、嫌なことを思い出す。嗅がずに済むのなら其れが一番だ。だがこれは、梨尾にしか果たせない役目でもあった。
 軍服の男性の側を通る時にはより一層気をつけて匂いを嗅げば、
(あ……)
 強く香った――厭だと鼻頭にシワを寄せそうなほどに感じてしまった血の香りに顔を上げれば、軍帽の下から覗く感情のない瞳と目があった。すれ違いざまに梨尾の赤い舌とりんご飴へと視線が注がれ――ふいと背けられる視線。男はそのまま通りを進んでいく。
(いましたー! いましたよ!)
 手振りで上空の焔迅へと合図を送る。それに気付いた彼が近くにいる仲間たちへ知らせてくれる手はずだ。梨尾は急ぎ、別ルートから境内裏へ続く道へと向かった。
(――アイツだな)
 仲間からの報せで紅マントを視界に捕捉した『雷火、烈霜を呼ぶ』キサラギ(p3x009715)は自然な合流を装い、横道から姿を現した。
 辺りにあるどの赤よりも赤の面積が多い緋袴を揺らして歩むのは、紅マントの前方。食いつかねば適当に身体を切るつもりでいたが、そこですぐさま紅マントが軍刀を抜く可能性がある点と、その必要もなくちゃんと着いてきている事を肩越しに確認し、仲間たちが待つ境内裏へと鼻緒の先を向けた。
 紅マントの接近に合わせてテープを一時的に外し、そこを紅マントが通過した後に姿を見えなくしている縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧が戦闘中も人が寄らぬようにと配慮し、改めてテープを張り直す。
「あ。いたた、思ったより深く切ってしまいました……」
 紅マントの眼前では、花籠を抱えたフィーネが紅い雫を零して、境内裏へと曲がり往く。
 ターゲットを決めたと言わんばかりに、紅マントの足運びが早くなった。キサラギを追い抜きざまにマントの下で動いた手は、腰に刷いた軍刀へと伸びているのだろう。
 足早に境内裏へと続く道を抜け、角を曲がり、建物の影となったそこで――。

「陰(かげ)と陽(ひ)よ、転じて廻れ――魔哭天焦『月閃』!」

●赫散らせ
 紅マントが境内裏へと入るやいなや、誰よりも早く地を蹴ったのはTethだった。
 声と同時にその身は禍々しい氣を纏い、ここに集う仲間たち誰の目にも解るそれは――夜妖纏いし異能『月閃』。
 ――Teth!
 仲間の誰かが、彼女の名を呼んだ。
 何故ならそれは、リスクを伴う力だからだ。
「守る為の力があり、それを使う覚悟がある。なら、選択肢は一つだろ?」
 リスクがあることなぞ百も承知。しかしそれは、使用を躊躇う理由にはならない。大きな力の反動? 代償がまだ解らない? ――そんなこと、どうだっていい。揮わねばならない局面で揮わずして、何のための力か。
 視線を向けること無く、仲間ごと紅マントを飛び越えて。
 狙うは紅マントの足元にドロリと広がる影のような暗い赤から瞬時に現れた、血獣ども。空気を焦がす蒼い電光とともに現れた超高温と高重力場に血が焼かれ、境内裏には一気に嫌な臭いが満ちた。
「早く自分を狙わないと獲物が他者の手で真っ赤になっちゃいますよ」
 真っ白な腹の毛へ『騒霊さん』に赤い筆跡を付けてもらって『解りやすい的』となった梨尾がわんわんと可愛らしい声で吠え、紅マントと血獣がTethに向かう前に意識を向けさせる。
「こっちにだっているんだよ!」
 紅マントの後方も、境内裏に続く道に待機していたイレギュラーズが塞いでいる。ちゅちゅんと鳴いて人の姿に変じたちゅん太が紅マントと血獣の分断を狙い、梨尾に向かって駆けていく血獣の数体を引き寄せた。
 小さな梨尾の身体に血獣たちが食らうように鋭い牙で噛み付き、大量の赤が散る。
「雫よ……!」
「天使の祝福を……ヒール!」
 イズルの手に生じた美しく煌めく治癒の雫が梨尾の身体に降り注ぎ傷を癒やす。が、彼が一度に負ったダメージからすると微々たるものだ。彼のHPバーは僅かに回復するものの、半分を切っている。天使の祝福の加護を得たフィーネがイズルの後にヒールを三連続で放ち、流れ続ける血を止めた。
「護国の剣たる軍人の姿をとりなりながら守るべき人達に手を掛けるとは……僕は貴殿のような存在を許すわけにはいきません!」
 梨尾へと接近せんとする紅マントの道を焔迅が塞ぎ、奇襲が如く襲いかかる。現実では護国の剣として御国に仕えている焔迅には、軍人(そ)の姿で護るべき国民たちを手に掛けるということは許しがたい行為だ。
 伸ばした爪で切り裂いて、場を空ける。
「辻切りって聞いた時にはどんな奴かと思ったけどよ、どうして中々面白そうじゃねぇか」
 二刀――否、三刀を構えたキサラギが滑り込み、稲妻のごとき太刀筋の居合い――一閃。
「オラ喰らえ! 久しぶりにマトモな剣士が相手なんだ、楽しませてくれよなァ!」
 かんばせに浮かぶは、愉悦。
 思う存分刀を振れる喜びに笑みを浮かべたキサラギが切り結び、紅マントの足を止めさせる。

 ――僕を巻き込んでも大丈夫です。

 梨尾は事前にそう告げていた。
 他の仲間たちも、そうだ。巻き込んででも敵を散らせ、と勇ましく。
 縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は逡巡する。縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の力は研ぎ澄まされた強さだ。広い範囲の敵を巻き込め、強力なダメージを与えられる。純粋に強い。――しかしそれは、ソロプレイなら、だ。
 引きつけた獣が、噛み付く獣が、相対する獣が、隙きあらば命を刈り取ろうとする獣が、11メートルも離れてくれる訳がない。必殺のついた純粋な力――それは仲間の命も刈り取る恐れのある諸刃の剣だ。
『さがっぺ』
 味方を巻き込む覚悟で――それでも警告と最小限の被害で済む位置を見定めて、縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は力を揮った。
 梨尾を斬りに行きたいがキサラギと焔迅に立ち塞がられた紅マントは、斬りに往けぬのならばとその場で軍刀を振るう。近寄れないのなら、周囲の障害物を全て巻き込めばいい。軍刀から放たれた扇状の禍々しい衝撃波が、血獣ごとイレギュラーズを斬りつけていく。
「ちっ、まだ多いな」
 Tethとちゅん太が削った血獣が縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の攻撃によってどろりと身を崩し、血が地面に吸い込まれるように消滅した。だが、少し経てば紅マントの足元から伸びる血によって新しい個体が生み出されるのだろう。不殺で制圧したところで、その結果は変わらない。使えなくなった個体は消され、新たな個体が生み出されるだけである。
 イズルとフィーネのふたりは梨尾の回復で手一杯で、着実に仲間たちも削られていく。
「そんなに血が好きなら血まみれにしてあげます!」
 梨尾が吼え、力が爆ぜた。
 左目の赤――『お父さんと同じ色でうれしいです』とそう微笑っていた梨尾(むすこ)の姿が脳裏で鮮やかに再生され――を煌々と輝かせ、赤いマントをなびかせた軍服姿に変じた梨尾が轟と赤い炎を生み出した。
「――お前の血でね!」
 紅マントへと向けられた炎が、血を焼いて。
 烟る厭な臭いの中で月閃を発動させたキサラギが湖面の月さえ絶ち斬る修羅の一刀を放つ。返す刃でもう一閃。鐡に赤を映して、赤を散らせた。
「テメェの凶行もここで終いだ。文字通りに塵となって消えやがれ!」
 蒼い電光が消えたTethも、黒い姿に変じたちゅん太も、血獣を屠るとすぐに紅マントへの攻撃へ加わる。誰かが倒れてしまう前に、早く、速く、疾く――!
 イズルとフィーネも癒やしの祝福を与え続け、善戦している。血獣が復活するまでの僅かな間は立て直しのチャンスであり、イズルにとっては攻撃のチャンスだ。回復量は足りていない分をフィーネの連続回復がカバーをするのに任せ、イズルは仲間に攻撃を与えない位置へと移動した。
「私の診療も受けてくれるかな」
 七色に煌めく聖晶の翼が紅マントの頭上から降り注ぎ、動きが鈍ったのを幸いにイレギュラーズたちは攻め立てた。
 赤が散り、赤が飛び、赤が新たにぞろりと生まれる。
「まだ、です」
 梨尾は踏ん張ることに長けている。血獣に襲われても、仲間の攻撃に巻き込まれても、血を拭い、膝を震わせ、それでも立ち上がる。『ただひとつの条件』を除いて、立ち続けることが出来る。
 紅マントは『ひとを殺す』怪異――夜妖である。彼の行動全てが、殺すためのもの。命あるもの全てを血の詰まった袋程度にしか思っていない彼は、ただ殺すために軍刀を振るい、滴る血で全身をしとどに濡らす。
「梨尾さん……!」
「梨尾様……!」
 斬られて姿を消した彼の名を仲間たちが呼ぶ。ヒーラーとして守りきれなかったせいかフィーネの声は高く、彼女の心の痛みが強く滲んでいた。
 その声とともに、ドロリ、『(解析に失敗しました)』が切り裂かれるように崩れ、紫眼の男が『生まれた』。
「やれ、しかたない。貴様を逃すと小鳥への土産が手に入らん。故に対価を払うとしよう」
 喉奥でクツリと嗤った男――縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧がぞんざいに手を振るう。梨尾が居なくなった『穴』ならば誰も巻き込まれやしないから、ただ罰を与えるように高みから振り下ろしたのだ。
 それは暴力で、ただひたすらに純粋な力だった。

●赫迎ふ
 危険が迫っていたことなど終ぞ知らず、人々は笑顔を咲かせたまま市を楽しんでいる。陽光の下の明るく楽しげな声が聞こえてくるのを、イレギュラーズたちは陰となっている境内裏で聞いていた。
 戦闘が終わっても忙しいのは回復手だ。しかし驚異は過ぎ去っているので、全回復させる必要はない。梨尾がサクラメントから駆け戻ってくる間に癒やしを与え、陽光の下を元気に駆け寄ってくる獣人の男の子の姿を見つけた仲間の声に、まぶしげに彼を見た。
「流石に腹が減ったからよ、屋台行こうぜ?」
 傷を癒やしてくれたイズルとフィーネに謝辞を告げてから両腕を伸ばしたTethが仲間たちへ視線を向ければ、賛成の声と掌とが幾つか挙がる。
「僕も屋台が気になっていました。端から端まで楽しみたいです」
「いい匂いがいっぱいしてたよね!」
「悪くねェな」
 Tethの言葉に、焔迅とちゅん太とキサラギが反応して。
 それぞれ誘い合い、市へと消えていくイレギュラーズたち。
 彼等と別れたフィーネは女子ひとりで甘味巡りをすべく、足取り軽く屋台へと。
「んー!」
 きーんっと直接頭に突き抜けるように響く痛みはかき氷の醍醐味と受け入れてシャクシャクかき込めば、次は可愛らしい色に染まったチョコバナナもペロリ。
「可愛いあんず飴をひとつ……あっ、やっぱりいちご飴もお願いします!」
 フィーネの背後を歩いていったイズル……と、姿を隠した状態の縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧を目で追えば、食べ物を幾つか手にしている。姿を隠している縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の代わりにイズルが店主へと声を掛けて購入していっているのだろう。
「次はどの店へ行こうか」
 縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧のテレパシーを受け取ったイズルが「鬼灯の根付だね」と口にするのを聞いて、あんず飴を食んだフィーネも踵を返した。
「辛いヤツとかねぇかなぁ?」
「あれは辛そうじゃないですか?」
 あれ、と焔迅が示すのはたこ焼き屋だ。店のノボリには、通常のたこ焼き以外にも外ツ国から取り入れた甘唐辛子(ピーマン)に似た赤い野菜を練り込んだものがある、と文字と絵で謳われている。いいねと口にしたTethに続いてたこ焼き屋の前に立った焔迅は、綿菓子の入った袋を背負ったちゅん太とイカ焼きを手にしたキサラギに「おふたりは醤油とソース、どちらがお好みですか?」と尋ね、勿論通常のたこ焼きを購入した。
「あちち……あ! お好み焼きも美味しそうですよ!」
 美味しそうな屋台がたくさんありすぎて、焔迅が食べるのが大変ですねと幸せな悩みを抱いて笑う。
 夜が来て店じまいとなる前に食べねばならない。目指すは全制覇と心に炎の赤を灯し、仲間たちと楽しく屋台を巡っていった。
「ほおずきさん、おひとつください」
 屋台を抜けたほおずき売りの前には、幼い獣人の男の子。
 買ったほおずきの鉢を両手で大事そうに抱えた梨尾は「どんな名前にしましょうか……?」と首を傾げながらほおずき売りの前から移動する。
「私はふたつお願いします」
 楽しげに尾が揺れる後ろ姿を見送って、植物を研究するフィーネが買い求めるのは二鉢。
 買い求めたほおずきをどこへ置こうか。帰ったらずっと見つめていようか。手に下げた赤を見下ろし、フィーネは微笑んだ。
 人々の手にも、赤。
 フィーネの手にも、赤。
 連なる赤を揺らし、その姿は同じ様に赤を揺らす人々の中へと消えていった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

梨尾(p3x000561)[死亡]
不転の境界

あとがき

シナリオへのご参加、ありがとうございました。

皆さんのお陰で紅マントはいなくなり、悲劇は食い止められました。
おつかれさまでした、イレギュラーズ。

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