PandoraPartyProject

シナリオ詳細

雨降って晴

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 しとしと。ぱたぱた。
 時には優しく、時に荒々しく注がれる天の涙は『いつだって降っている』。

「おじーちゃん、きょうもはやいね」
「雨神様がな、起こして下さるんじゃよ」
 きょとりと首を傾げる孫娘に老人は笑みを浮かべる。若い者にはまだまだわからないだろうが、この村には雨神様が確かに存在しているのだ。起きる時も、眠る時も、雨を通して見守ってくれているように感じられる。
 雨神様を感じがたい者は村を出て行ってしまったが、神との共存ができる者たちはこうして村に残っていた。

「あーあ、今日も雨かあ」
「罰当たりなこというんじゃありません」
 窓の外を見た少年のボヤキに母親が眉尻を吊り上げる。少年はやべ、とつぶやくとぺろりと舌を出した。すたこらさっさと逃げていく少年は家を飛び出し、柔らかな雫を浴びながら泥を跳ね上げどこかへ駆けていく。いつものことだから外まで追いかける気にもならない。きっとまた友達の家まで行って遊んでいるのだろう。
 母としては子の気持ちもわからなくはない。自身が年端もいかぬ少女だった頃、憂鬱に思った時期とてあったのだから。

「おーい、風邪ひくぞ!」
「大丈夫よ! だって、雨神様が降らせている雨だもの!」
 楽し気に雨の中を踊る少女に、幼馴染が声をかけるものの効果は薄い。この村の人間は雨による風邪をひいたことがない、というのは村の中でよく知られた話。また事実でもあるのだから。
 ではなぜそんな言葉をかけるのかと言えば――数年前より爆発的に増えたウォーカーの存在があった。



「見て、この傘。綺麗でしょ。貰ったんだ」
 『Blue Rose』シャルル(p3n000032)はぱっと傘を広げてイレギュラーズたちに見せる。その内側は快晴の空の如く青く澄み渡っていた。彼女はそれを、今回の依頼先へ赴いた折に貰ったのだと言う。
「この傘を交易に出したいそうなんだ。交易路の確保が今回の依頼だよ」
 その村は孤島に在り、年中『雨神様』の存在によって雲がかかっている。常に降る雨は村人や周囲の生態系に対して恵みとなる、正に神の雨であるのだとか。孤島であるが故に、悪人らしい悪人が忍び込むこともないと言うが――村人たちが気づかぬ間に、神の鉄槌をくらっている可能性も否定できない。
 彼らはこれまで島で得られる恵みと、まれに来る商船での取引で日々を過ごしていたのだそう。しかしこの傘を作り出す特殊製法を持つウォーカーが訪れ、晴れを見ることのない村人たちを想って製法を授けたのだとか。
「孤島にある島でそうそう人は増えないからね。そこで暮らしを豊かにしようって、交易を考えたらしい」
 そのウォーカーは村の中だけに技術を留めておく必要はないと告げ、島から旅立ったという。その行く先は不明であるが、傘が流通すればそのウォーカーも知ることになるだろう。自分の伝えた技術がそうして広まっていく姿をどのように見るかはわからない。けれどそれは恐らく、悪いものではないから。
「交易路となる海域のモンスターを倒して、船が通れるようにしよう。……それに、皆もこういうの、持ってみたくない?」
 陰鬱としてしまうような雨の中でも、透き通るような快晴を。或いは滲む様な茜色を。或いは――梟の鳴き声が聞こえてきそうな宵の帳を。かの海域を抜けたならば、見にいこう。

GMコメント

●成功条件
 キングオクタンの討伐

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。

●キングオクタン
 超巨大なタコです。8本の触手をうねうねさせています。
 本体と触手でHPは別ですが、本体を撃破すれば触手も倒せます。
 触手は一定時間経過することで復活します。また、復活とは別に一定時間経つことで強力な範囲攻撃を仕掛けてきます。この攻撃は触手の本数が多い程、より強力な一撃となるでしょう。

・本体
 タコ墨を吐く、水流を起こすなどして攻撃してきます。これらには【スプラッシュ】【暗闇】【停滞】などの効果が付く場合があります。
 非常に頑強ですが、触手を倒すと本体のHPにも影響するようです。意志疎通はできなさそうですが、どうやらこの海域に踏み入った事を怒っているような雰囲気です。

・触手×8
 タコの本体から生える触手です。叩いたり締め付けたりしてきます。【窒息】【体勢不利】【流血】などの効果が付く場合があります。
 攻撃力とEXAが高いです。防御技術はそこまででもありませんが、1撃で倒せるほどヤワではないでしょう。

●NPC
『Blue Rose』シャルル(p3n000032)
 元精霊のウォーカー。中~遠距離の神秘攻撃ができます。船から落ちないようにしつつ、敵の足を叩きます。
 もらった傘はお気に入りのようです。モンスターを倒した後は航路確認で孤島まで行くため、他の傘も見せて貰おうと思っています。

●ご挨拶
 愁と申します。
 皆様には小型船が1隻貸し出されていますので、こちらに乗って海域へ向かいます。素敵な傘を流通させるために、安全な海域を確保しましょう!
 それではよろしくお願い致します!

  • 雨降って晴完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年09月13日 23時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
鳶島 津々流(p3p000141)
かそけき花霞
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
辻岡 真(p3p004665)
旅慣れた
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
綾志 以蔵(p3p008975)
煙草のくゆるは

リプレイ


「天気は快晴、航路は順調。……このまま進みたいところだね」
 煙草を模した精神安定剤は林檎味。それをくゆらせながら『旅慣れた』辻岡 真(p3p004665)は器用に船を操り進んでいく。件のモンスター以外では航路に特筆されるものはなかったが、海の天気は実に気まぐれだ。
「タコさんには悪いけど、道を譲ってもらわないとね。折角の素敵な傘なんだもの」
 『Blue Rose』シャルル(p3n000032)のお気に入り――雨晴兼用の傘を見せてもらった『四季の奏者』鳶島 津々流(p3p000141)がふわりと微笑む。こんな素敵な品ならきっと、たくさん流通するだろう。
「ええ。私も欲しいくらいだわ」
「ボクもボクも! 内側が綺麗なお空になってるの、すっごい素敵だよね!」
「これから島の外へ売り出していくんだし……この後行けば、先行販売ってことで売ってくれるかもよ。広告塔にもなるし、ね」
 『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)と『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)にシャルルは視線で先を示す。この海域を抜けてもっと先、年中雲のかかっている島こそが今回の依頼先だ。
(曇り空しかない島……か)
 ずっと曇り空で、ジメジメとした空気で。そんな場所では誰だって気が滅入ってしまうだろうけれど、島の住人はそれ以外を知らない。そんな場所での生活は、想像もつかなかった。だからこそ訪れたウォーカーは思ったのだろう。
「青空を見せてあげたかったのね」
「傘の作り方を教えてくれたウォーカーさん?」
 焔の問いにイリスは首肯する。島の誰も、ローレットだってその人物の足取りは知らない。情報屋たちならばいつしか突き止めるかもしれないが。
「この傘が流通してくれたら、こんな風に皆が頑張って作ってるんだよって伝わるよね!」
「……ええ。きっと」
 沢山の人がこれを手にして、使って。大きな噂になれば、何処にいるとも知れぬウォーカーにだって伝わるだろうと。伝える為に頑張らねばと焔は気合を入れ、まだ安全圏であることを確かめておさかなパンを取り出した。
「いっただっきまーす!」
 くるみ亭特製のサンドは時間が経っても、携帯用に作られているだけあって美味しい。魚のフライはサクサク、パンはふわふわだ。
 おさかなパンを堪能する焔の傍ら、『煙草のくゆるは』綾志 以蔵(p3p008975)は航路の先を見据える。いつ現れても良いように。『交易路を拓く』なんて自分好みの仕事、失敗するわけにはいかない。
「傘ですか」
「傘だな」
 『挽いても叩いても食えない』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)と『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)はちらりと互いを見やる。
「……傘、使うほうですか?」
「ま、時と場合に依るがね。雨に濡れるのも嫌いじゃあない」
(……あぁ、だが――)
 シャルルの傘を見て小さく目を細める縁。ベークはそれを見て倣うようにそちらを見る。
 珍しいことはわかる。だが、それだけ。如何せんベークにとっては無用の長物だ。
(傘といえば、師匠の傘の中は綺麗な星空でしたねぇ)
 このような傘ではなくて、海月の傘だけれども。
 そろそろキングオクタンの出没する海域に入る、というところで焔が神の遣いを呼び出す。縁は海上へ出てくる際の波を感じるべく、意識を集中させた。同時に聞こえてくるのは、魂に刻まれた"声"。

 ――1人は嫌よ。
 ――寂しいの。
 ――ねえ、どうして、

 声が聞こえる。それを聞きながら、縁は足の下でうねる波の予兆を感じ取った。
「――奴さん、来るぜ」
 その言葉と共に、ぐわりと波が割れる。一同が船の縁に捕まってやり過ごすと、第2波と共に触手があちこちから飛びだした。
「その傘、お気に入りなんだろ、嬢ちゃん。落とさねぇようにしっかり持っておくんだぜ」
「……アンタこそ、大切なものは落とさないようにね」
 シャルルの言葉にひとつ瞬いて、縁は海の中へと飛び込んでいく。真はそのまま敵本体へと船を向けた。
「行くぜ! こちとら逃走はお得意ってねえ! ハッハー!!」
 焔の展開した保護結界の中、波にもまれながら船は進んでいく。いつ触手に叩き壊されるともしれない恐怖――だがしかし、これも冒険の醍醐味だと。
 縁に続き、進んでいく船から『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)、ベーク、イリスと泳げる者たちが船縁を蹴り、水柱を上げる。彼らはそのまま水中へと潜り、各々が成すべきことのために散っていく。

 ふんぐるい むぐるうなふ くつるぅ るる=りえ うがふなぐる うたぐん

 人ならざる精神を伝播する歌。夢見る呼び声。水中を震わせる声が広がっていく。その声に惹かれてしまわぬよう泳ぐベークは自らの香りで触手を呼び寄せた。
「……あなた方、どこに嗅覚持ってるんです?」
 引き付けられなかったらそれはそれで困るのだが、突っ込まずにはいられない。自身を狙いだした触手にぼやきながら、ベークはイリスの方を見やる。あちらもうまく引き付けられているようだ。
(海種の面目躍如ですね)
 船が狙われぬよう、良く見えるようにと海上へ上がっていくベーク。イリスは船に乗っている仲間たちが狙いやすい様にと触手を誘導していく。
「恨みは無いけど、ここは通させてもらうよ」
 クレマァダの歌に続き、津々流の放った桜吹雪が触手たちを取り囲む。まるで激流のようなそれは、海流のうねりのように敵を離さない。
(やるべき事自体は単純。でも、大きいって事はそれだけ脅威だから油断はできない)
 揺らめく波の向こう側で、炎が飛んでいくのが見えた。焔の放った斬撃だ。うねる触手はその大きさもあって、当てるのはそう難しくなさそうか。
「それじゃ、おっさんも頑張りますかね」
 すらりと刀を抜く。『禍黒の将』が用いていたそれの、レプリカ。弱く見えるのならばそれで正解だ。
 弱さは強さ。
 弱さは罪。
「――さあ、ちょいと付き合ってくれや」
 本体へと攻撃を叩き込めば、ぎょろりと目が動く。そう、それで良い。海上に在る船、そこに乗る仲間たちへなど向けさせはしない。
 縁が本体を引き付ける間、触手たちはベークとイリスを中心に襲い掛かる。その大きさに反して動きは俊敏だ。
「っ……この触手、まぁまぁ勢い有りますね」
 攻撃をいなし、打って出るベーク。幸いにして本数は減ってきたため、防戦一方とまではいかない。
(とはいえ、このままじゃ強力な攻撃が来る……!)
 イリスの乱撃が触手へと刺さる。焔の放った火炎弾がその先を焦がし、海へと沈めた。その傍らではクレマァダの消波が触手を撃ち、海上で真の強烈なカウンターを叩き込まれる。
「こっちも早々に倒したいもんだ」
 その攻勢を横目に、縁の刀が翻る。一撃の赤、二撃の黒。容赦は不要、可能な限り敵の攻撃を封じなくては。
 痛覚を刺激されたか、キングオクタンがぶるぶると蠢く。その口からぶわりと墨が吐かれ、縁の辺り一面は暗闇と化した。不利と判断した彼はすぐさま海上へ向けて泳ぎ始める。
 そのすぐ上では以蔵へ向かって触手が迫ってくる。死の凶弾へひるむことなく迫ったそれに、津々流は龍笛を構えた。活力を与える妙なる響きが以蔵を、次いでベークや縁たち海中で戦う者たちへも順に届いていく。
 触手の本数が減り、キングオクタンの範囲攻撃を凌ぎ。ここで本体へ畳みかけんとするイレギュラーズたちに、復活した触手が迫った。
「次から次へと……!」
 イリスはすぐさま敵視を拾い上げ、ベークへ視線を向ける。彼は――うん。その香ばしい匂いでばっちり触手を引き付けていた。
「僕は餌じゃありません!!!!」
 ベークを絡み取ろうという動きから逃れながら攻撃を放つ。攻めるなら触手の本数が減り、キングオクタンの範囲攻撃が放たれる前か。ならば早々に再撃退して本体の方へ向かわねば。
「もう一度沈んでもらうよ!」
 焔の火炎弾が容赦なく触手を焦がし、海へと潜らせていく。縁の黒顎魔王が本体を直撃し、敵の身体が大きく揺らいだ。
「皆、落ちないように気を付けて!」
 叫ぶ真はイモータリティで自身の力を沸き立たせる。シャルルに見せてもらった傘に文字通り魅せられてしまったのだ、ここで撤退するわけにはいかない。全てはあの素敵な傘の交易路確保のため!
「――っ、」
 荒波を船上で耐えていた津々流へ、生き残っていた触手が伸びる。下手に逃げれば船へ被弾しかねない状況に、津々流は時移りの緞帳を展開した。幾重にも展開される帳は触手を捉え、その生命力を奪っていく。
「もう少し、ってところか?」
 以蔵の煙草が燻る。触手はもういない。本体は疲弊の色を見せている。畳みかけるなら今だとイレギュラーズの猛攻が叩き込まれた。
(――海王種よりモスカを守っていた己が、今度は彼らの棲み家を脅かす、か)
 クレマァダもその勢いに乗りながら、しかし静かに瞑目した。それは力を溜める為であり、自身の精神統一の為でもあり。
 護り手がその手を返す事は決して珍しくなく、自然の摂理とさえ言えよう。けれども傲慢になってはいけない。当然だと思ってはいけない。あくまで今求め、奪っているのは自分たちなのだ。
「海へお還り。全ての母なるものに抱かれ、また生まれておいで。

 ……其方に祝福のあらんことを」



 キングオクタンの起こしていた荒波はすっかり鳴りを潜め、再び穏やかな海が戻ってきた。
 貸出用の小型船へ乗り込んだ真は、自身のそれを鞄へしまう。今しがた倒したキングオクタンは船に繋ぎ、島まで運んでもらう予定だ。キングオクタンの身体は沈む前に浅瀬へ乗り上げてしまい、食せるかに関わらずこの場からは移動させた方が良いという意見が出たのである。
「多分食べられる……し、宴会でも始めそうな大きさだよね」
「まあ、それはそれでいいんじゃないですかね。このサイズのを放っておくと、これを餌にする奴でまた航路が荒れるかもしれませんし」
 ベークはとんでもないサイズの蛸に肩を竦める。これだけの大きさなら、どんなヤバイ奴が来たって驚きはしまい。
「さあ、傘を見せて貰いに行こう!」
「ああ。他の傘も楽しみだ」
 どことなくウキウキとした真と以蔵。彼らに急かされるように船は動き出す。最も、重たい獲物を引いているのだから少しでも早く動き出さねば、日も暮れてしまうだろう。
(……人は、世界に神を見出す)
 真っすぐに正面を見るクレマァダの頬へ、雫が落ちる。
(はっきりと、あるいは静かに、確信を持って、あるいは欺瞞で以て)
 ぽつり、ぽつり。さあああ。
 降り出した雨は優しく。誰もへ平等に降り注ぐ。
「この島の神は……とても穏やかじゃな」
 神が降らせているという雨を浴びながら、クレマァダは呟いた。
 自身の信仰する神とは異なれど、神は神。なれば敬意を以て接せねばなるまい。
 船を小さな港へ付けると、島の住民たちが巨大な蛸に目を丸くしながらどうにかこうにか、その場での解体作業を始める。こんなブツ、そのままで動かせるわけもない。
 その間にイレギュラーズたちは屋内へ、傘の保管場所へと案内された。
「空と言っても色々種類があるのね」
「はい。たまに来る商団の方に空の絵を売って頂いて、それを元に描いています」
 住民の言葉にイリスは成程、と頷いた。技術を持っていても空の景色を知ることはできない。そこは外頼みということか。
「これは試しに差してみても良いのか?」
「はい」
 クレマァダは傘を受け取り、ぱっと広げてみる。美しい。けれども海種であるクレマァダは、やはりベークと同様に濡れる事をいとわない。
(じゃが……雨を受けて軽やかな音が鳴る。そこは、良い)
 許可を得て外へ出るクレマァダ。常なら身を濡らす雨が、傘の上でぱたぱたと跳ねていく。
「……ふ。うん、良いな」
 こういう楽しみの為ならば、1本持っておくのも良いかもしれない。
「ねえ、この交易路の商いが落ち着いたらで良いから、うちのラ・ヴェリタ領とも交易してくれないかな?」
「おっと、抜け駆けはさせいないぜ。ウチでも是非取り扱いさせてくれないか?」
 この島へ来るのを楽しみにしていた真と以蔵は住民へ商売を持ちかける。真は自領の特産品を。以蔵は交易に最適なルートの提案を。2人はイレギュラーズというくくりの仲間であるが、商売の面ではライバルでもある。折角の商売の機会、どちらも縁を繋ぎたいと真剣だ。
 住民はまあまあと目を丸くして、交易が安定したら是非にと頷いた。
「それは良かった。どうぞ商人ギルド・サヨナキドリをご贔屓に、ってな」

 さて、そんな売り込みに熱くなる2人の傍らでは、シャルルを中心として傘を見比べる面々の姿があった。
「こっちは可愛いなあ。でもこっちも素敵! どうしよう、選べないよ!! どっちが良いと思う?」
「え、いや、聞かれても……ボクが選んだやつでいいわけ?」
 焔に2本の傘を示されたシャルルは、なんとも言いたげな表情を浮かべる。選んでしまったら、それはシャルルの趣味になってしまうではないか。
「うっ……そうなんだけど、でも、やっぱり選べないよー!」
 頭を抱えて真剣に悩む焔。その隣でイリスが「これ良いわね」と青空の傘をそっと手に取る。嗚呼、同じようにぱっと決められたら良いのに。
「僕も選べないな。そもそも、持ったことがなくて」
「ええっ? でも、ディープシーじゃないよね?」
 がばっと顔を上げる焔。目の前にいる彼、津々流は焔と同じウォーカーのはずだ。うん、と頷く津々流は自らの頭に生えた枝角を差す。
「角に引っかかってしまうし、雨は恵みだから、降られるのが好きでね」
「確かに……傘を差したら邪魔そうだ」
 シャルルの言葉に微笑みを浮かべた津々流はでも、と傘へ視線を向けた。こんなに綺麗な傘ならば、差しても見たくなるものだと。
「雨が上がった後の月夜、なんてあるのかい?」
「はい、ございますよ」
 縁は住民の言葉を聞いて小さく顔を綻ばせる。自身も傘を必要とする身ではないが、欲しい空はある。奥へ傘を取りに行こうとする住民を呼び止めた縁は、もうひとつの空を告げた。
「海の中から、水面越しに見上げる青空なんて、そういうモンもあったりするのかい?」
 ディープシー以外にはあまり馴染みのない空だろう。水色に水色を重ねた、あの色合いは彼のお気に入り。

 この日から程なくして、島には商船が留まるようになり――雨の日の晴も少しずつ広まり始めたと言う。

成否

成功

MVP

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍

状態異常

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)[重傷]
防戦巧者
イリス・アトラクトス(p3p000883)[重傷]
光鱗の姫

あとがき

 遅くなりまして、申し訳ございませんでした。
 交易路は無事確保され、傘の流通も始まったようです。

 願わくば、またのご縁をお待ちしております。

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