シナリオ詳細
再現性倫敦一九八四:糾『燃え落ちる真実』
オープニング
●再現性倫敦・糾
ニュー・ブリタニアの街は、今は混沌の中にあった。
二度のイレギュラーズの介入の結果、最下層民たるプロレタリアートたちは、革命を志し決起。
その手始めに親愛省を武装制圧。此処に革命軍本拠地を築くこととなった。
そして『政府』に対して明確な反逆行為を開始したプロレタリアートたちを先導するのは、大規模な派閥を作り上げた散々・未散(p3p008200)である。
「ぼくたちは待った。待ち続けた。それではだめだという事を知りました。
動かなければ、今日は代わらない。
戦わなければ、明日は得られない。
奴らはぶどうをくすねる悪です」
未散の言葉に、プロレタリアートたちが囂々と叫ぶ。そしてプロレタリアートたちの士気をさらに引き上げたのは、かつて政府によって虐げられ、死したと思われていたはずの聖女、エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)の帰還であった。
「マリアは帰ってきた。マリアは確かに、一度失敗した。でも、もう一度失敗するつもりはない。
今、マリアはみんなの力を必要としている。皆の力を束ねて、もう一度政府と戦う。
みんなは、マリアに力を貸してほしい。そして、この不平等な世界を、変えて欲しい」
おう、おう、おう、プロレタリアートたちが声をあげる。歓声をあげる。鬨をあげる。
「やるねぇ、今まさに暴発寸前、って感じだ」
ブライアン・ブレイズ(p3p009563)が、その様子を見やりながらにやにやと笑った。破壊工作員たちを束ねあげ、『ブライアン一味』という国家の敵を作り上げたブライアンは、今ここにプロレタリアートたちと合流。勢力を大幅に拡大させる一因となっていた。
「そうですわね。皆怖い顔をしていますわ。
皆さん、人を持ち上げるのがお上手ですのね」
くすくすと笑う薫・アイラ(p3p008443)。ブライアンは肩をすくめた。
「よく言うぜ。アンタが持ってるそれも、爆弾みたいなもんだ。うまいこと使えば、相当な威力を発揮するだろうぜ?」
と、指さす先には薫が持っているパンフレットがある。そのパンフレットには、『テーマパーク・再現性倫敦』についてのあれやこれやが記載されていた。つまり、これこそが『この再現性国家が真実の再現性倫敦ではない』ことの証左であり、『独特の精神状態』に陥っている公務員たちへの大きなカウンターとなりうるという事だ。
「そうですわね。使いどころは……どうしましょうか?」
くすくすと笑う薫。涼やかな薫の笑いとは裏腹に、プロレタリアートたちの熱気はますますヒートアップしていく。今まさに、暴発の時は訪れようとしていた。
●真実省
真実省――今や政府の最大拠点となったこの省には、残存する多くの公務員たちが顔を見せていた。
奪われた親愛省や、破壊された平穏省から退避してきた公務員たち。彼らは黎明院・ゼフィラ(p3p002101)やセララ(p3p000273)を始めとする上級公務員たちに率いられ、革命軍の迎撃を画策していた。
その、最上部。上級公務員ブライアンの私室に、ゼフィラとセララはいる。
「『彼』が実在しないとするならば」
ゼフィラは小説、『ニュー・ブリタニアについての諸説』を片手に、ブライアンに言う。
「この国の統治体制は一体どうなっているんだい?」
「簡単な事だ。要するに、私のような上級公務員複数による合議制だよ」
「結局、そういうからくりなんだねー」
セララが言うのへ、ブライアンは笑った。
「そうすることが一番適切だ。その小説にも書いてあるだろう?」
「確かに、そう書いてあるね」
セララが言うのへ、ゼフィラが頷く。
「まぁ、そのあたりのことは今は良いだろう。君はこの国を、結局どうしたいんだい?
君自身もまた、『独特な精神状態』に囚われているように見える……破滅と、生存を、同時に望んでいるのだろう?」
「それが、この国の在り方だ」
ブライアンは、椅子に深く腰掛けた。
「だが、それはこの国に限った事じゃない……人は、自分に都合のいい事ばかりを信じるものだ。
例えば、希望ヶ浜――あそこに住む者達もまた、『ここが混沌であると理解し』/『ここは地球であると心から信じている』。
この国だけが特別なのではない。人は容易に転ぶものさ」
「ここまで滅茶苦茶なのはそうそうないと思うけどねぇ?」
セララが言うのへ、ゼフィラが小説を閉じた。
(……だが、何か彼はまだ隠しているな。そのピースを手に入れるまで、もう少し一緒に踊ってもらおうか)
ゼフィラが静かに目を閉じるのへ、セララはむぅ、と唸った。
(なんか企んでるなー。ま、でも最終の目的は一緒のはずだから、好きにやればいいと思うけどねー)
三者三様、真実を胸に秘めながら、而して時は過ぎていく。
●革命の日
そして、その時は訪れる。
親愛省あらため革命軍本部より出立したプロレタリアートたちは、街を縦断し真実省へと向けて進軍を開始。
同時、政府に与する者たちも、真実省より出発して革命軍本部を目指す。
ここに、再現性倫敦を二分する革命の時は訪れた。
ロンドンの行く末が決まる、これが黙示の日。
イレギュラーズ達の、倫敦での最後の活動が、今始まろうとしていた。
- 再現性倫敦一九八四:糾『燃え落ちる真実』完了
- GM名洗井落雲
- 種別長編
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年09月05日 22時05分
- 参加人数20/20人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 20 人
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参加者一覧(20人)
リプレイ
●革命、開始
「ハビーブ。この暴動の間接的な原因は、君であるといっても過言ではない」
ブライアンは真実省の資料室の一室で、『何でも屋』ハビーブ・アッスルターン(p3p009802)へとそう告げる。ハビーブは椅子に縛り付けられていた、周りには元・親愛省の公務員たちがいる。これから何が行われるかなどは、想像するに難くはあるまい。
「おや……わしは、『暴動と言う、鎮圧を通じて政府の支配を盤石にするためのイベントを企画した』だけだよ。この様は……ははっ、まさに想定外だったがな!」
ハビーブが笑ってみせるのへ、ブライアンは自分の禿頭を撫でて見せた。
「君は頭がいい。この都市の独特の精神状態とも、うまく付き合っている様だ。もし君が、真実私達の仲間であったなら……と、あり得ない妄想をしてしまうよ。
プロレタリアートたちは良い武器や防具をそろえているね。その資金の出どころは、君なのだろう? ハビーブ」
ブライアンが頷くと、公務員の一人が、ハビーブを力強く殴りつけた。鈍い痛みが、頬を走る。
ハビーブは、確かに革命の下準備として、独特の精神状態を利用していた。『暴動という、鎮圧を通じて政府の支配を盤石にするためのイベントを企画した/革命機運を高めつつ、革命後に財力だけを背景に新政府のポストを得ようとする者らから未然に財力を削いだ』。これを同時に実行していたのだ。そしてその目論見は上手くいった。『無垢な少女』をまつり上げた効果もあるとはいえ、革命の火種はついに着火し、多くの仲間達によって燃え上がり、親愛省が市民により掌握されるという事態にまで発展した。
「その様子だと、気づいているのか……違うな。ブライアン君、君もまた『倫敦症候群』にかかっているとみた」
「倫敦症候群?」
「『独特の精神状態』のことだよ。『我々』としても、かれこれ半年近い付き合いだ。いい加減分かりやすい名前を付けたいと思ってな。
しかし当然か。君はこの都市の象徴だ。その君が、倫敦症候群から逃れられなくても……違うな。君は、この状態を『心から愛している』な?」
「私はこの都市を『心から愛している』よ。そしてこの都市の人間も『心から愛している』。故に、私はこの都市を永続させなくてはならない」
「永遠などないよ、ブライアン君。君はこの都市の『原作』……『ニュー・ブリタニアについての諸説』でも、この都市が打倒される可能性が示されているのを理解しているだろう?」
「あれは『フィクション』だよ、ハビーブ」
「この街は『リアル』だ、ブライアン君」
ハビーブが笑ってみせるのへ、ブライアンは笑った。
「丁重に扱え。そののちに、ここに放置しろ。市民に見つかれば殺されるだろう。それを見過ごすのは些かしのびない。此処ならば……運が良ければ生き延びるだろう」
「倫敦症候群か。良い名だ。この街の狂騒全てを象徴しているみたいだ」
『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は、小説、『ニュー・ブリタニアについての諸説』を閉じた。
「読み終えたか」
「ああ。興味深い内容だったよ。異世界の文学と言うのも心が躍るね」
「どんな内容だったの……って聞こうと思ったけど、やっぱりいいや。大体この国を見ればわかるよね」
『魔法騎士』セララ(p3p000273)は、ブライアンの執務室、その大きな執務机に腰かけて、足をパタパタさせていた。やがてぴょん、と飛び降りると、
「ブライアン。分かってると思うけれど反乱軍は強いよ。正直に言えば負ける可能性は高いと思う」
そう言うのへ、ブライアンはふぅ、とため息をついた。
「そうだろうな。憂慮すべき/歓迎すべき事態だ」
「現実逃避は良くない。ボク達は戦闘で負けた後の事を考える必要があるんだ。最終的な勝利を目指すためにね。
逃げて、隠れて、生き延び……再起を目指す。そういうプランも考えよう」
セララがそう言うのへ、刹那、ゼフィラと目くばせをする。ゼフィラは素知らぬ顔をしたが、一瞬だけ小さく頷いた。
「セララ君の言うとおりであるのは確かだ。ブライアン、この国を動かしている合議メンバーを教えてくれ。
彼らへの護衛を最優先にするように、下のメンバーにも伝えて来よう。
頭を潰されなければ我々はまだ再起ができる。違うかい?」
「その通りだ。いいだろう、黎明院。そこのファイルを持っていけ。すべての上位メンバーが載っている」
視線で指し示された先、本棚がず、と音を立ててスライドした。奥にある数冊のファイル、その内の一冊のラベルを確認したゼフィラが、それを取り出す。
「どうも。最善を尽くすよ、『この国のために』」
「ああ、『この国のために』」
ゼフィラはそう言うと、執務室から出ていく。直掩の護衛であるセララは、ブライアンの傍に残っていた。
「再起に重要なのはいかに盤面をひっくり返すかだよね。その時のためにボクにも教えて欲しいんだ。
この倫敦でキミが『盤面を掌握した(テーマパークを本物にした)』秘密をさ」
ブライアンは笑う。
「時が来たら教えよう。その時は、もうすぐだ」
諦観/焦燥。嘆き/喜び。そのどちらも感じさせる表情で、ブライアンは言った。
(……同時に違う感情も持つ。これが倫敦症候群の怖い所だね。でも、これは誰もが持つ心の防衛本能でもあるのかな……)
そう気づいたときに、セララは少し、嫌な思いを抱いた。誰だって、簡単にこうなる。人間は、強いだけではいられないのだから。
旧親愛省前・現革命軍本部入り口では、多くの市民たちが、武器を手に出発の時を今か今かと待ち構えている。彼らの前に『雨上がりの少女』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)が現れた時、辺りに歓声が響き渡る。
革命の/虐げられし、象徴たる聖女。それがエクスマリアの役割(ロール)だ。
(聖女、か。ことの真実を知ればむしろ、魔女と呼ばれるかもしれない、な。
ハビーブ。マリア自身の意思で協力したが、この場所はあまり居心地は良くないぞ)
胸中でそう呟きつつ、しかしエクスマリアは役割を果たすべく口を開いた。
「さあ、行こう、皆。縮こまって振り下ろされる拳をやり過ごす日々は、終わりにしよう。
マリア達にも、明日を見る目が、ある。先へ進む足が、ある。そして、殴り返す拳が、ある。
高いところから見下ろす奴等を、同じところまで連れてこよう。
全ては、これから始まる。マリア達の怒りを、思い知らせる時、だ」
エクスマリアは、この都市で普通の少女として振る舞ってきた。家族のように、友のように、時に母のように。当たり前の隣人として振る舞ってきた。
その『ごく普通の少女』が夢を抱き、その夢は国によって踏みにじられた。それは市民たちの怒りを増幅させる。そして虐げられた少女が、今ここに、革命を願う。
「倫敦に、火を灯せ……!」
エクスマリアがそう言うのへ、市民たちは鬨をあげた。
かくして革命軍は進撃する。向かうは圧政の象徴! 真実を謳う偽り、真実省!
一方で、『あなたの世界』八田 悠(p3p000687)は静かに歌を紡ぐ。
それは、ブドウをかすめ取られた歌ではない。
真実に気づき、行軍するための歌。
ブドウが10ある事を知り、皆で10のブドウを勝ち取るための歌。
その第一楽章が奏でられ、謳われ、歌われる。その歌を背に、革命軍たちは往く!
夜明けとともに進軍した革命軍たちは、多くの戦力を伴って街を進軍する。この時、倫敦の長い一日が、その幕を開けた。
●革命進行中・崩壊進行中
「こちら、件のパンフレットです」
と、『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)へ、薄い小冊子を手渡した。『再現性倫敦テーマパークをようこそ!』と書かれたそれを受け取り、目を落としながら、ジェイクは笑う。
革命軍の進軍ルートから外れた路地裏。寛治の立場は公務員であったから、接触するには人気のない方が良い。
「助かる。こいつを印刷して、ばらまくとしようか」
「ふふ。革命ですか。以前はされた方でしたが、する側に回るというのもまた面白いものですね」
『永久の新婚されど母』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)がうっすらと笑った。
「今から印刷すれば、お昼ごろには充分な数が印刷できるはずなのです。早速、印刷に回しましょう」
「頼む。やってくれるか?」
ジェイクが言うのへ、マグタレーナが優雅に一礼。パンフレットを受け取ると、足取り軽く印刷所の方へと消えていった。
「……しかし、霊能者ですか。なかなか思い切ったことをしますね」
寛治がそう言うのへ、ジェイクは怪しげなローブを広げて見せた。
「似合うか? ま、目論見は正解だった。結構な数の人間がついてきてくれてるよ」
「ふふ、よくお似合いで。さて、私はそろそろ戻ります。首尾よく革命が成功することを」
寛治がそう言って、路地の影へと消えていく。ジェイクはそれを見送ると、少しだけ耳を澄ませた。果たして路地の方からは、怒号と衝突音が響き、ついに公務員と革命軍の衝突が始まったのだとジェイクに理解させた。
「さて……印刷が完了するまでしばし。繋ぐか」
そう言うと、ジェイクは咳払い一つ。自身の霊能者であると思い込むと、ゆっくりとした様子で大通りへと戻っていく。
大通りでは大規模な衝突が始まっていた。以前の破壊工作により、近代兵器のほとんどが使い物にならなくなった結果、公務員側の武器レベルは大幅に減退している。具体的には、銃などの武器のほとんどが不良品として使用不可になり、警棒などの打撃武器程度しか使用できなくなっていたのである。
では、革命軍側に銃などの近代兵器が装備されていたか……と言われればそうでもない。元より、そう言ったものを扱うにはそれなりの訓練と心構えが必要である。『スチームメカニック』リサ・ディーラング(p3p008016)に言わせてみれば、革命軍たちのほとんどは『普通の人達』だ。だったら、例えばこちらも警棒や鉄パイプのような、原始的な武器を使用した方がいい。
「その代わりと言っては何ですけど……防具とか、ヘルメットとか、出来る限り作ってきたっす! 皆さん、ちゃんと付けて行ってほしいっす!」
「助かるよ……まさかお前が残業してたのが、このためだったとはな……」
リサからヘルメットを受け取りつつ、労働者の男が言った。
「お前はあの時からずっと、未来のことを考えてたんだな……俺はその日を暮らすことに精いっぱいだった。恥ずかしいよ」
「買いかぶりっすよ……先輩も頑張るっすよ!」
リサはそう言って笑う。労働者の男はヘルメットをかぶり、鉄パイプを片手に前線へと向かっていく。
(……こっちも、目的のために利用してるようなもんっす。だから、そんな風に言わないでほしいっすよ)
リサは胸中でそう呟いた。
「左様なら、ぼくが指揮を執りましょう。
指揮棒なら、此処に。さあ、さあ、さあ!
――オーダー。『引き摺り下ろせ』!」
『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)がその手を掲げる。『よわむし』たちは、今は革命の戦士と成った。未散の言葉に従いて、彼らは勇猛に戦線を進む。衝突。振るわれる警棒。
「進め、進め、今宵を以て此の都市は倒壊するでしょう。
高らかに挙げた腕を振り下ろせ、此処には無常にもかみさまは居ない。
人の悪意が作った、茹だる夏の様なまぼろしだったので御座いますから」
未散の指揮に従いて、戦士たちは進軍する! 打ち据えられる警棒が、公務員たちを打ちのめした。公務員たちとて、本来は暴徒を取り締まるような役目を持つものが多かったが、しかし今や士気の向上した革命の戦士たちを抑えるには至らない。それに、数の面でも公務員たちは不利であった。もとよりピラミッド構造を描いていた分布なのである。この国家の土台を支えていた、最も数の多いプロレタリアートたちが反旗を翻したとなれば、ピラミッドなどは後は崩れるしかない。
「ひるむなよ! 選択肢はいつも俺達の目の前にある! どれを選ぶか、どう選ぶかを決めるのは俺たち自身だ。テメェの意志が全てを決める!」
最前線、人々を率いて公務員たちをなぎ倒す『名無しの』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)。
「私ができるのは先導だ。決着は君たち自身がつけなければ意味がない。だが安心しろ。君たちを絶対に真実省に連れて行ってやる!」
『猪突!邁進!』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)もまた、人々を先導し、その刃を振るう。その姿はまさに導きの戦乙女か。
「よう! 随分とデカく花が咲いたもんだな!」
ニコラスが笑って言うのへ、ブレンダも力強く笑んだ。
「ああ。だが、ここが正念場だ。見事咲いた花、これが枯れるか咲き誇るか。私達の最後の働きの場はここだぞ」
「わかってるさ!
さぁ、お前ら! 大一番でまた選択肢が生まれたぞ。この街に叛逆を示すのか。それとも家で縮こまって嵐が止むのを待つのか。はたまた秩序側に着くってのも選択肢の一つじゃあるがよ。
テメェらはテメェらの意志で選べ。その意志で選んだもんがお前らの最善だ。
俺か? 俺はすでに決めてるさ。
さぁ、今こそ革命の時だ!」
『おう!』
人々が声をあげる。その士気に、公務員たちが思わず怯む。ニコラス、そしてブレンダを筆頭になだれ込む革命の戦士たちを、公務員たちは抑えることができない。
「諦めるな! 今ここが分岐点なんだ。ここで未来が決まる。どんな未来かを決めるのは君たち。その手で掴み取れ!」
導きの戦乙女(ブレンダ)が叫ぶ。その刃を旗印のごとく掲げ。率いられた人々が、波濤のごとく、大地を飲み込んで進む。
公務員たちの劣勢のまま、真実省への道は少しづつ押し広げられていく。そして日が頂点に達したころ――。
「おい、このままだと此処も落とされるんだろう!?」
「だからってどこに逃げるんだ……!?」
真実省内、公務員たちの焦りの声が響いてる。『CAOL ILA』薫・アイラ(p3p008443)は、その声が奏でる最終楽章を、涼しい顔で聞いていた。
平和、革命、戦争のワルツ。楽器は人々の声。美しく残酷な、歴史と言うタクトに振り回される人々の声。それはこの国で変わらずに行われる。
「あの……」
薫は申し訳なさそうな顔しながら、公務員たちに声をかける。
「なんだ? 今は忙しい……」
慌てた様子の公務員へ、薫は縋りついた。
「わたくし、わたくし……資料庫でこんな物を見つけてしまいましたの……とても困ってしまって」
そう言って差し出したのは、『ようこそ、再現性倫敦テーマパークへ』などと刷られた小冊子だ。倫敦が倫敦ではないという確たる証拠。瓦解する現実。いや、皆本当は知っていたのだ。此処が倫敦ではないと。だが、倫敦症候群により思考に蓋をして、その思考の果てに封印していた……。
「おい、これは……!」
「ああ、クソ! どうすればいいんだよ!」
「わたくし、思いますの。これはわたくしたちだけの秘密にして……わたくしたちを利用しようとする者から隠れましょう。きっと、監視の目はあちこちにあるはずです。『彼は見ている』のでしょう? ああ、なんと恐ろしい。隣にいるものも敵かもしれないなんて……」
さめざめと泣いて見せる薫。公務員は、
「あ、ああ……そうだな、これは俺達だけの秘密にして……ひとまずどうするか考えるよ。アンタも『彼』には気をつけろ……」
そう言って、仲間達ともに何やら言い合いながら去っていく。薫はぺろり、と舌を出すと、先ほどまでの泣き顔をも嘘のように、優雅に笑ってみせた。
「疑心暗鬼は内部を腐らせる。元より疑心暗鬼などはこの国の病のようなもの。それを加速させれば、内部から崩壊させることなど容易いですわね」
薫(フォボス)は笑う。混乱、狼狽、恐怖をもたらす恐怖を司る神。
「ましてや今は、大木は腐り落ちてあと一押し、と言う所。これは良くおききになるのではないかしら?
……さて、おおよそ噂もばらまき終えましたし。わたくしは姿を隠しましょうか。
ことはエレガントに、優雅に――ではごきげんよう、皆々様方。最高のワルツをお楽しみくださいまし?」
かくてフォボスは不和のタネをまき散らし、その姿を真実省から消した。
日が昇り、傾き始める。公務員たちの士気は落ち、前線は強く強く押され続けていた。
「敵の足並みが乱れた――」
『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)は静かに呟いた。どうやら、真実省側でも何やら動きがあったらしい。内部には、イレギュラーズ達が潜入している。彼らの策が成ったとみるべきか。
「よぉし、皆! チャンスは今だよ!」
茄子子の叫びに、戦士たちは応えた。一歩、前進する。一歩、敵は後退する。一歩、前進する。一歩、敵は後退する。
「私が加護を授けます。貴方達が諦めない限り、貴方達は何度だって蘇ります!」
真実は正しくなく。
「臆する必要はありません。戦って、そして勝つのです。貴方達が信じた神は、すでに綻びを隠せずにいます!」
親愛は優しくなく。
「勝利は目前です!ㅤ進むのです!ㅤ『真実を取り戻せ』!」
平等は正義ではなく。
そして平穏は平和ではない。
嘘で塗り固めた国。偽りの真実、偽りだらけの国を、今!
「壊せ!」
轟! 戦士たちの雄たけびが、また一歩、道を推し進める。その戦線の中に、ブラム・ヴィンセント(p3p009278)がいた。
「これが革命の空気か……びりびりするな。まるで戦場みたいな……」
ブラムが呟く。そうだろう。此度はまさに戦。己が自由をかけた最後の聖戦。
(俺の故郷も、いつか変わるのか……? でも、俺がそう思ったのは、召喚されたから……外の世界を知ったからだ。
……召喚されてなかったら、俺はどうして/どうなっていたんだろう? 召喚されなかった故郷の人々は、何を選ぶんだ……?)
答えは出ない。だが、その答えをこの地に見出すことはできるのかもしれない。
もし、人々の中に希望が眠っているのだとしたら――。
「頼むぜ、難しいかもしれないが、なるべく殺しはなしにしよう! 『みんな』は希望なんだ。その手を汚しちゃいけない……!」
「ブラムの言う通りだ!」
そう言ったのは、かつてプロレタリアートとしてブラムが潜入した時に、共に働いた友人たちだ。
「この国では、簡単に俺たちは口を封じられてきた……奴らとは違うって事を見せてやろう!
……そうだろ、ブラム? これでいいんだろ?」
そう尋ねる共に、ブラムは「ああ」と力強く頷いた。ブラムが、友が、『みんな』が駆けだす。力強く、しかし可能な限り命奪うことなく、群衆の波をかき分け、道を作り上げる。
「進め! みんなで――俺達で!」
ブラムは叫んだ。かくして道はかき分けられ、革命の波はまた少し、世界を飲み込む。
●燃え落ちる真実
「これより革命軍は戦闘に入る! 公務員どもよ、死にたくなければ逃げろ! 背中を撃ったりはしマセン、邪魔さえしなきゃなァ!」
そして国家の敵たるブライアン一味、その『顔』の一人でもある『シャウト&クラッシュ』わんこ(p3p008288)率いる破壊工作員たちもプロレタリアートたちへと合流。此方はよく訓練された破壊工作員たちと言う言事もあり、非常に高い戦闘能力を以て公務員たちを無力化していった。
「政府に歯向かう狂犬ども! 俺達の勝利は目前だ! 既に栄光は掌の上にある!
どうする?
真実省が降伏するのをお行儀良く待つのか?
『待て』をされた犬みたいに従順に、盲目的に?
――そんなのは飽き飽きだ!そうだろ!?」
ある意味で、この都市のキーマンであったもう一人のブライアン、『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)もまた、麾下の破壊工作員たちを率いてわんこと共にプロレタリアートたちへと合流。前線切込み部隊として一気に革命の炎を燃え上がらせていた。
「眠たい事を言う奴にはテムズ川の水を浴びせろ!
目をかっ開きやがれ! ボンファイアーナイトだ!
現実から目を背け続ける公務員どもの横っ面を引っ叩きに行くぜ! Yeah!!!」
『Yeah!!』
破壊工作員たちは実にノリよく叫ぶと、手にした小銃を高らかに鳴り響かせる。
「シィナサマ、こいつ等が今日、あなたの部下デス! 存分に使ってくだサイ!」
わんこがキャヒヒ、と笑うのへ、シィナ・マシーナが呆れたように笑った。
「本当に、破壊工作員が板についてきたわね、貴女」
「結構性に合った役割デシタね!」
「無茶しないでよ? 直すのは私なのだから」
思えば、シィナも随分とこの国で無茶をしたものだ。だが、この国の解体は練達のため。そう考えれば、手を抜くわけにはいかない。
「おう、わんこ! そろそろ突破だ! 行くか、ブライアンの面を拝みに!」
「キャヒヒ! もちろん! シィナサマ、後はよろしく!」
ブライアンに声をかけられ、わんこは勢いよく手をあげた。シィナは手を振りつつ、
「ええ、この国の立役者によろしくね」
そう言った。
真実省に残された公務員たちの士気は必然的に下がっていた。敗色濃厚な外の様子もそうだが、何より内部にばらまかれた不和のタネも理由だ。
(薫さんの仕業ですね。よくやってくださる)
寛治は胸中で呟く。同じ情報を持っている者同士だ。薫、それを不和を生み出し、ストレスと為すために使った。再現性倫敦の一つの真実は、公務員たちの心をかき乱し、士気を下げ、お互いを敵ではないかと疑心暗鬼を生ずこととなっている。
(一度乱れ、救いを求める状態。ではこの状態をまとめ上げることなどは容易い)
寛治はゆっくりと立ち上がる。内部の公務員たちの視線が集まる位置へ、歩いていく。あえて大きく靴音を立てて。目を引くように。目立つように。
「では、真実をお話ししましょう。これを視なさい。このテーマパークのパンフレットを。皆さん本当はご存じだったのでしょう。
ニュー・ブリタニアを外部から定義付けする『他国』など、もともと存在しなかったのですよ」
ざわ、と公務員たちの内部に動揺が走った。あたりをきょろきょろと見まわす。
「悪しきは何者か――もうお分かりでしょう。この場を取り仕切る上級公務員は、ブライアンの私室にいるものです。
我々は、ブライアンにこの事を問い質さなければならない。暴徒達の相手など、もはやどうでもいい。ブライアンの所に向かいましょう」
それは、悪魔の言葉であり。
しかし救い主の言葉のように、人々には聞こえた。
「そうだ、ブライアン……あいつを探そう!」
誰かがそう言った。その言葉は波のようにうねり、公務員たちの心を揺らしていく。
同時、窓という窓から、無数の矢のようなものが飛び込んできた。矢じりの潰されたそれは、先端に無数の『パンフレット』が取り付けられている。
「ふふ、良い具合にいったようですね」
マグダレーナが矢を番えながらそういう。量産された無数の『パンフレット』は、今マグダレーナを始めとする有志たちの手によって、今この地にばらまかれていた。
「さぁ、真実をばらまきましょう。現実をばらまきましょう。
真実を知り、現実を知り、立っていた足場が朽ちた襤褸板の上だと知った時に、あなた達は何を選びますか?
ああ、その選択を! その想いを! 母は楽しみにしています! そしてすべてを母は受け入れましょう!」
マグダレーナはその両手を広げた。
降り注ぐ。降り注ぐ。真実が降り注ぐ。現実が降り注ぐ。ばらまかれるビラ。露悪される現実。
「ああ、シスター。シスター。私たちはもはや、何を信じれば……」
くずおれる男に、『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)は優しく跪いて、視線を合わせた。
「ええ。ならば、我らが神を」
ライは笑う。女神の笑みである。
「そして、あなたのなすべきことを為すのです。ええ、ええ、我らが神もこの革命を喜ばれるでしょう。我らが神は、あなたを肯定します。
『神は貴方を見ている』。見守っている。ならば何を為すべきかはわかりますよね?
――革命を。神に捧げる革命を」
女神は。女神は――。
そのようにおっしゃったのだから。
無数の叫びが、辺りを埋め尽くす。ライの集めた信徒たちが、ライを崇め、ライを尊び、そしてその言葉に従う。
その光景に、女神はうっとりと笑いながら、こうおっしゃった。
「ええ、ええ、貴方達は救われた。これも、我らが神の思し召しでありましょう」
一方、燃え落ちる真実の最中、何も変わらず、ただ在り続ける『同一奇譚』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)達がいる。
「不可視に餓える必要も思考を重ねる渇きも赦してはならない、何故ならば此処には我等『物語』が複数と存在するのだ。
最早我等『わたし』を留める毒物は塵箱の底で、嗚呼、深淵はヴェールを剥がされたと知るべきだ。
落ちるべき帳は愈々燃え、朽ちる終だけを指銜えて観察している。
威厭、そろそろのたうった、ぬたぬたとした身体を連中にブチ中てるべきだ――Nyahahahaha!!!」
皆が三日月のように口を釣り上げて。
『Nyahahahaha!!!』
と笑う。偽りであろうとも、真実であろうとも。愛であろうとも、無関心であろうとも。
彼らの前では等しく無価値。
彼らが『物語』で繋がり、個にして群、群にして個であるならば、すなわちそれこそ完成形の『倫敦症候群』に違いは無し。
「故にこの地こそは我らの地である――物語れ、物語れ、騙れ語れ――!」
オラボナ、ライ。二人の指揮する熱情の群れが、横合いから公務員たちを飲み込んでいく。もはやその動きは誰にも留められない。止める事を臨まない。
「――エンドロールはもうすぐに」
悠は呟いた。
「誰が観測しているのかはわからない。それとももう、観測者は去ったのかもわからない。仮に観測されずとも、世界は回り、人は生き続ける。
これより紡ぐは一つの世界の終わり。そして新しい世界の始まり」
日が傾き、夕暮れがあたりを照らしている。あちこちから上がる火の手が、倫敦を赤く彩っている。
「我々には大いなる守護霊が付いています。負けるはずがありません。大義は我らにあるのです。
不正義なのはこの国の本質を隠蔽した真実省! 我々を見ている『彼』なんて存在しない!
それこそ、毎週変わる偽りの敵もいません! この都市は嘘と偽りで出来ている!
なぜなら、この都市はテーマーパークとして作られたからです。今こそ我々で真実省を叩く時なのです!」
霊能者(ジェイク)が謳う。我らこそに正義在り! 我らこそに大義在りと! 民衆たちは吠える! 我らに正義在り!
圧倒的な戦力差に、公務員たちは太刀打ちすることができない。戦線はこじ開けられ、今、真実省に多くの民衆たちがなだれ込む。
「悪霊どもよ覚悟せい! 今こそ正義の鉄槌を受けるのです!」
ジェイクの叫びにおたけびで応え、人々が波となって真実省へと乗り込んでいく。
「さぁ、行くがいい。あとは君たちの手で。それまで、後ろは任せてくれ」
導きの戦乙女(ブレンダ)はそう言って、真実省の前へと立ちはだかる。事が終わるまで、もはや誰一人としてここは通さない。
「この国は変わるべきだ……それを邪魔するのならば、覚悟はしてもらう!」
戦乙女が叫んだ。その圧力に、公務員たちは二の足を踏む。
一方で、『虚言の境界』リュグナー(p3p000614)は真実省を行く。
「恐れるな! 奴らは絶対ではない、故に我は帰還した! 怯えるな! 隣を見よ、同じ志を持つ友がいる!
いつも心の何処かにあったであろう恐怖が、ついに貴様らの目前に姿を現す時が来たのだ。
――故に、断ち切る時は今! 我々は今日、己の意思で戦場へ向かうのだ! 行くぞ……勝利をその手に!!」
リュグナーの言葉が、市民たちを戦士へと変える。内部に突入した市民たちはさっそく公務員たちとの交戦に入った。だが、すっかり混乱した公務員たちは、さほど激しい抵抗を行うには至らない。
リュグナーは彼らをおいて、白い階段を上へ。上へ、登る。目指すは最上、ブライアンの執務室。思いのほかあっけなく、リュグナーは目的地に到着した。内部は相当の混乱の様相を呈していたが、いちいち侵入者を相手にしているほどの余裕も、内部の公務員には無いようだった。
リュグナーはゆっくりと、扉を開く。
中には、ブライアンを始めとする吸う目にの人間の姿があった。
「久しぶりだな、ブライアン。前回の出会いは良いモノではなかったが、此度は――いや、此度もそうかもしれぬな」
リュグナーの言葉に、ブライアンは頷く。
●誰が賽をなげたのか?
「では、そろそろ真実を開陳してもらおうか」
ゼフィラが言った。
「こう言ったらあれだけど、もう手遅れだよ、ブライアン」
セララが言う。
「まさか君が……とは言わんよ、セララ君。この都市で人を真実に信じるものなど居まい」
「そのうえで、貴様の余裕が気になるのだ」
リュグナーが言った。ブライアンは笑う。
「余裕などは無いよ。達成感と、諦観がある」
「ブライアン、何故貴様は、ウィリアムの大事なものを奪わなかったのだ」
「彼は私の友人だ。だから手心を加える気持ちもある。
だが、同時に彼は国家の敵だ。故に処罰は必要だ」
「倫敦症候群か」
ゼフィラが言う。相反するような二つの事象を矛盾なく飲み込む精神状態。
「君は真実、この国の解体も望んでいたのか?」
「YESでありNOだ」
「……正直、ボクはこの件には、黒幕がいると思ってるんだ」
セララが言った。
「ブライアン、キミ一人で動くには、あまりのもやることが大規模すぎるよ。絶対に、協力者がいる筈なんだ」
「YESであり、NOだ。
君達は……例えば、外で言う魔種や狂気に陥ったウォーカーのような存在が、この国を壊したと思っているのかもしれない。
だが、狂うことなど、誰にでもできるのだよ。それこそ、君の隣で笑っている善良な一般人ですら、倫敦症候群にかかることなど容易い。
協力者はいない。だが観測者はいた。きっかけと言うのなら、観測者が賽を振ったのだ」
「……練達の人間か?」
リュグナーが尋ねるのへ、ブライアンは頭を振る。
「知らない。素性も、名前も、私は知らない……ただ、この国の在り方に興味があると言っていた。彼は観測者だ。この国の運営に手を加えたわけではない。技術も……ただ、観測するために、私に言葉をくれただけだ」
ごくり、と誰かがつばを飲み干した。
「それが、黒幕か」
ゼフィラが言う。
「その観測者が、この国を滅茶苦茶にしたって言うの?」
セララの言葉に、ブライアンは頭を振った。
「言っただろう、観測者は観測者だ。ただ観測し、満足したら去っていった。国の運営に興味はない。もしこの国を狂わせたとしたら、ただの人間の心だよ。ただ、そうだな。観測者は私にこう言っただけだ。『こうも再現できたんだ』『もっと上手く再現してみたらどうだい?』と。それが、彼が私と言う賽を振った瞬間だろう。私は……ニュー・ブリタニアを再現するという目を選んだ」
「『ニュー・ブリタニアについての諸説』を再現するという事か? だが――」
リュグナーがそう言った瞬間、どたどたと言う足音が響き、二名の新たな人物が部屋へとやってくる。
「おう、お前がブライアンか。初めまして。随分と……なんだ、禿げたおっさんじゃねぇか。俺には似ても似つかねぇ」
「キャヒヒ! なぁんかラスボスにしてはぱっとしないデスね!」
ブライアン……倫敦のブライアンは、ブライアンとわんこの顔を見て、親し気な笑みを浮かべた。
「君達か。君達の行動にも随分と悩まされたものだ。対応を相当検討したものだよ」
「合議制のお仲間も、みんな逃げだしたところを皆で捕まえてマス。後はテメェだけだぜ!」
「君達の手並みは鮮やかだった。本当に、まったく想定外の連続だ。親愛省まで奪われ、こちらの戦力は削られ……こうなっては抵抗のしようもない。だが私は満足だよ。最後に、この国の姿をもう一度見られた」
「ああ、そうか」
ブライアンが言った。
「アンタが妙に穏やかなのが納得いったぜ。アンタはもう、『目的を達成していた』んだ。
奇妙なもんでな、アンタには妙なシンパシーって言うのか、なにか理解しちまうような感覚がある。
……『ここがアンタの故郷』なんだな?」
リュグナーがハッとした。
「そう言う事か!」
ゼフィラもまた、ゆっくりと頷く。
「道理で、この国が嫌にリアルなわけだ」
「え、ちょっと待って、ここがブライアンの故郷って、どういう事?」
セララが小首をかしげるのへ、リュグナーが言った。
「そのままの意味だ。ブライアンは旅人……そしてその出身世界こそが、『ニュー・ブリタニア』なのだ。つまり、奴は真実、『ここに倫敦を再現しようとした』のだよ」
「フィクションはあくまでフィクションだ。いくら精巧にできているからって、それを再現した所で国家運営なんてできるわけがない! つまり、ここには真実、この通りに国家が運営されていたという実績が存在するという事だ! それが――」
「そう。我が祖国、ニュー・ブリタニアだ」
ゼフィラの言葉に、倫敦のブライアンがゆっくりと頷いた。
『ニュー・ブリタニアから来た男』。それがブライアンだったという事だ。
「なんていうかさ、この国、すごくリアルすぎると思ってたんだ」
ブラムが言った。戦闘はすでに停止ししている。もはや戦局は覆ることは無く、多くの公務員たちも白旗をあげだした。
「そうですわね。テーマパークが元とは思えぬほどに、ありとあらゆる空気を再現している。まるで、そのフィクションが現実であるかのように」
薫が日傘をくるり、と回しながら言う。
「俺の故郷も、その、こういうディストピアって奴だったからさ。余計わかるんだよ。ああ、本物なんだって。
何回かこの国に関わって……確信できた」
「この国は、本物を再現した、真実、『再現性倫敦』だったという事ですわね」
「テーマパークとして再現する、と言う所から嘘だったんだ。最初から、この国はニュー・ブリタニアを再現するために生み出された」
ブラムの言葉に、薫は頷いた。
「嘘に嘘をかぶせて、真実を生み出そうとした国。それが、ここですのね」
「故に――物語(われら)は在る」
オラボナが言った。
「此度の物語――いかようにして閉じるか――」
nyahaha。それらは笑う。
「ハビーブ。酷い顔だ」
資料室の一角に、聖女はいた。目の前には、激しい暴力にさらされ、座り込んだ男。男はつまらなさそうに笑った。
「ちっとは痛い目を見なければ君に申し訳が立たん……などとは言わんよ。悪行だろうが善行だろうが、全てわしのモノだ」
「そうだろう。ハビーブは強欲だ」
エクスマリアは笑う。
「行こう。もうこの国に、マリア達は必要ない。
来た時と同じ、当然のように消えよう」
差し出されたエクスマリアの手を、ハビーブは握った。
「貴様の目的は達成されていたという事か」
リュグナーの言葉に、倫敦のブライアンは頷く。
「ああ。後は私が死ぬまで、或いは死んだ後も、この国が永らえることが望みだった。
だが……同時に、この国を壊し、人を救いたいとも思っていた。倫敦症候群だよ」
倫敦のブライアンはゆっくりと、息を吸いこんだ。
「元々は、興味だった。私の故郷をそっくり描いた書物……ウィリアムは、私を熱心なマニアだと思っていたがね。
それを再現してテーマパークにしようと持ち掛けられたとき、僅かな望郷の念があったことは否めない」
「気持ちはわかるよ」
セララが言った。
「後は君たちの知っての通りだ。テーマパークを再現した私は、欲が出た。『観測者』はそれを見抜いたのだろう……」
「『観測者』は今どこに?」
ゼフィラが尋ねるのへ、倫敦のブライアンは頭を振った。
「さぁな。本当に知らないんだ。
さぁ、これがこの国の真実だ。満足したかね?」
「謎解きは充分だ。
アンタの作ったロンドン橋は、歪だし脆過ぎた。
だが、まぁ……結構イイ線いってたよ。
実にスリリングだった! 俺は楽しめたぜ?
あとは、そうだな。ケジメはつけないとな」
ブライアンが言うのへ、倫敦のブライアンは笑った。
「全くだ。本当に、君には妙な親近感を感じるよ」
ごとり、と音がする。倫敦のブライアンが、引き出しを開いた音だった。
刹那、その手に握られていたのは、一丁の拳銃。
「まずい! 止めろ!」
リュグナーが叫んだ。部屋の者が同時に動いて、しかし間に合わなかった。
倫敦のブライアンが引き金を引くと、放たれた銃弾が倫敦のブライアン頭を打ち抜いて――。
夢は終わった。
●さらば、倫敦
そぉら、そぉら、ご覧なさい。
▲(さんかく)が、くずれる。
「ならば、ならば、今、掲げましょう。
1+1を。
ピースサインを!」
未散がそう言った。多くの人々が、刹那、息をのんで。
勝どきの声をあげた。高々に! 高々とピースサインを掲げて!
1+1は2であると!
そう言える自由。そう言える正しさを。
皆は、勝ち取っていた。
「ならば、ここで私たちはおさらばです。
左様なら、さようなら、倫敦。
次に会うときは、どうか美しい都市のままで」
未散は優雅に一礼をする。悠の歌う歌が、響いていた。自由を勝ち取った歌。革命を勝ち取った歌。
「もう、『彼』はここには必要ないっす」
リサが言う。片に掲げる。手製のシンプルなロケットランチャー。
「ぶっこわすっすよ! 『彼』を!」
マンションの壁面に絵描かれた、『彼』目がけて、リサはロケットをぶっ放した。わずかの後に、爆発が『彼』を瓦礫の山へと変える。わずかに転がる、二つのレンズ。監視体制の終わり。見れば、待っわりには次々と引き倒される『彼』=自由のはじまり。
「空想の神はこれにて堕ちる。この街は解体される。この行動も誰かの意志によるものだ。
結局のところ何を信じたいか。何を支えにするのか。自分が何に騙されたいか。騙されていたいのか。そういう話なんだろうな」
ニコラスの言葉に、茄子子は、んー、と頷いた。
「哲学的だねー。結局人は信じるものが無ければ、怖くて生きていけないのかな。それが、神だった科学だったり、政府だったりする……。
あ、ちょっとまって、今って信者増やすチャンスじゃない?
そうと決まれば早速行動だ! 羽衣教会倫敦支部の設置! とにかく混乱期の今がチャンス! 一等地を手に入れるぞー!」
茄子子がおー、と手をあげて、何処かへと去っていく。ニコラスは、
「人間はけっこー図太いです、神様」
とケタケタと笑った。
かくて倫敦は崩壊した。
居住者たちが、どのような運命をたどるのかはわからない。
だが、少なくとも、今よりは悪くなることは無いだろう。
彼らは、自らの手で戦い。
そして自由を勝ち取ったことを覚えているのだから。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
ご参加ありがとうございました。
ミッションコンプリート。完遂です。
では、またいつか――生まれ変わった倫敦の地でお会いしましょう。
GMコメント
倫敦へおかえりなさい、イレギュラーズ。
いよいよ最後の時です。
革命の下地は整い、今戦士は野に解き放たれました。
再現性倫敦を解体してください。
●成功条件
再現性倫敦の解体。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●状況
今や再現性倫敦は完全に二分されました。
革命を志すプロレタリアートたち。
現国家の維持を目指す公務員たち。
両者は倫敦の街中で衝突。お互い革命軍本拠地を/真実省を目指し、戦いを始めました。
この戦いを止めることはできません。何方かが潰えることでしか、この国に静寂は訪れないのです。
そして、皆さんの目的は、この国を解体する事。
皆さんは革命軍に協力し、この革命を成功させるのです。
そしてすべてが終わった後に、真実/偽りが、その姿を現すのでしょう。
●再現性倫敦の施設
革命軍本拠地
かつて親愛省と呼ばれた場所です。現在は革命軍に占拠され、その本拠地とされています。
革命軍たちはここから出発し、真実省を目指し進軍しています。
多くのイレギュラーズは、こちらの陣営に所属することになるでしょう。
目指すべきは単純です。戦って、勝利を勝ち取るのです。
真実省
現在唯一まともに稼働している政府側の施設が、この真実省です。残存する公務員たちはここに立てこもり、革命軍迎撃の戦いを始めようとしています。
皆さんが公務員としての役割を望むのなら、こちらの陣営に所属することができます。前線に出ても良いですし、真実省内部に侵入しても構いません。
ただいずれにせよ、皆さんの目的はこの街の解体です。あまり公務員側に入れ込みすぎませんよう。
再現性倫敦市街
革命軍本拠地と、真実省を要する倫敦市街です。今やこの街は戦乱に飲み込まれ、革命の戦場と化しました。
日和見主義者は遠くへ逃げ、今ここには戦士しかいません。
戦い、己の真実を勝ち取ってください。
●本シナリオでできること
本シナリオは、全3話を予定しているシリーズの第3話に当たります。本シリーズでは、以下の『役割』を演じ、様々な活動を行い、政府と戦う事になります。
・公務員ルート
真実省に残存する公務員として働きながら、再現性倫敦の真実を探り、外で戦う仲間達のサポートをする役割です。
行えることは、内部情報の攪乱や、この都市の首魁と思わしきブライアンの居場所の確認や接触などでしょうか。
もしあなたが、公務員たちを扇動できるほどの証拠や力を持っているならば、公務員たちを革命側の戦力に変えることができるかもしれません。
・プロレタリアート・破壊工作員ルート
人口の大半を占めるプロレタリアートたち。今や彼らは、革命の戦士として戦場へと解き放たれました。
皆さんは、このプロレタリアートや破壊工作員たちを率いるリーダーとして、戦いを指揮してください。もちろん、一戦士として戦う事も可能です。
公務員たちを倒し、真実省に到達し、この国の首魁と思わしき男、ブライアンを確保するのです。それがおそらく、この国を解体する唯一の路です。
●参考
前回、前々回シナリオのリプレイはこちらになります。読まなくても問題はありませんが、読むとシナリオがもっと楽しくなるはずです。
再現性倫敦一九八四:序『彼は見ている』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5259
再現性倫敦一九八四:破『偽りは真実』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5695
以上となります。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
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