シナリオ詳細
吹きあがる風に逆らい、潜り、深淵を探れ!
オープニング
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最初に気が付いたのは通りがかりの農夫だった。
いつも通る道の向こう。牧草が生える丘がなんだか低くなっている気がする。
あの辺りはバカでかい何やらいうのが通り過ぎたところで、縁起が悪いと放牧も使っていないところだ。
最初は気のせいかと思ったが、数日のうちにあれよあれよと地面はへこみ、ぼこりと巨大な穴が開いた。
地の底から冷たい風が吹きあがってくる。底をのぞいてもどうなっているのかは光が届かなさ過ぎてさっぱりわからない。石を投げ入れてみても吸い込まれて底にたどり着いた音がしない。
農夫から村長、代官から領主。
得体のしれない穴に降りて見てきてくれる人を探す。
こういう時のためのローレットだ。
だって、穴の底から冷たい風が吹きあがってきて、泣いているように聞こえるのだもの。
一度降りたら帰ってこられないような気がするのだもの。
キオオオオオオオオオオオと、何がが哭くような音がするのだもの。
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「穴が開いてるから、降りて見てきて」
『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)は、コケモモのジャムのスプーンを口に含んだ。続け様、茶を口に含んで飲み込む。
「鉄帝でギア・バシリカが暴れまわってけっこうたったんだけど、こうじわじわ影響が出てるところがあるんだよね。物理的に。地盤沈下的な意味で」
超弩級要塞が移動したのだ。母なる大地は寛容だが岩盤には物理的限界がある。結果。ある日突然、がぼおっと大穴が開いたというのだ。
幸い、耕作地ではない荒れ地だったということで、今のところ人的被害はないがこの先どうなるかわからない。
ギア・バシリカ――ほどの規模はないにしても、自走兵器がこんにちはしたらしゃれにならない。ということで、臨機応変・困った時のローレットに依頼が来たという訳だ。
「こう。滑車に命綱つけてころころと。飛行で降りた場合、下から吹き上げる風に吹っ飛ばされる恐れがあるから、命綱はつけといたほうがいいと思うね、俺は」
地下に巨大空間があったりするのだ、鉄帝は。たまっていた空気がドーンとくるのは十分想定しておかないといけない。
「いうまでもないが、下からの風で大変なことになりかねないので下半身の装備は各自後悔のないよう選別すること」
恥ずかしいかどうかは個人による。己の心の平安は自分で構築するものだ。
「実際馬鹿に出来ないほどの風だとさ。すっごい音がするらしいよ。こう、魂がやせ細るような? 聞いたら最後、眠ることもできずに夜明けを迎えちゃうくらいらしい」
ちょっと待て。それ、比喩か。ホントだったら、なんかヤバい効果があるんじゃないのか。
「それも調べてほしいんだって。怖がり村人がもってんのか、ガチでそうなのかによって対策が変わってくるから」
坑道のカナリアして来いってことですね、つらい。
「実際音がしてもおかしくはないんだよ。半径3メートル。円周20メートル。ただ、そこがどのくらい深いかわからないだけで。つまり笛で言うと高い音が出るから物理的音響兵器的におやばいのかもしれない。ヒトの情緒をゆすぶる音のロクでもない奴かもしれない。あと、俺の範疇だと有毒物を含んだ空気が吹きあがって来てんのかもしれない――でもさ。大体食らってみればわかるじゃん?」
なにを言っているのかな、このヒトは。
「具合悪くなったイレギュラーズに解毒試みて効いたら、原因は毒だし」
リトマス試験紙のように調べて来い。という薬師はひどい奴だ。
メクレオから提示された基礎プランは、こうだ。
まず二人一組になる。
片方が穴に降りて探索する方。片方が命綱を持って穴の上に待機する方。滑車を使えば、負担は軽減できる。とはいえ、穴の中では何が起こるかわからないので臨機応変にふるまえる方が下りるのが望ましい。
石を採取したり、穴の中の空気を採取したり、ひょっとしたら音源がいたりあったりするかもしれない。
「――とりあえず。俺につかまった二人には絶対行ってもらうとして。もう三組くらいは行けそうだな」
メクレオにつかまった『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)と『龍柱朋友』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は顔を見合わせた。
「誰がどう組むかは、来た面子で相談してもらうとして――地上に残る方も大変だぞ。支えながら、穴に降りたやつに接近する危険を排除してもらわないと行かんからな」
なに?
「色々出るだろ、小さいのはミミズから大きいのは大ミミズくらいは――繰り返すけど、音源が残存戦力である可能性もなくはない」
無限湧きだったし。と、情報屋は言う。
「埋めるにしても、下準備ってもんがあるからさ。まずは降りて見てきてよって話。場合によってはローレットで工事を請け負わなきゃならなくなるかも。その辺、よろしくねえ?」
- 吹きあがる風に逆らい、潜り、深淵を探れ!完了
- GM名田奈アガサ
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年08月30日 22時06分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費200RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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「中々に随分と大きく深い穴ではあるな……」
『穴が開いてるから、降りて見てきて』とは言われたものの。
『アサルトサラリーマン』雑賀 才蔵(p3p009175)の声が穴に満ちた虚空に吸い取られる。
「しかも毒物混じりの強風が吹き荒れる中に入れとは……危険手当は全員分きっちり戴くからな?」
もちろんである。ローレットの報酬体系は明朗にしてできる限り公正だ。
「村では不眠者が……ふむ?」
『明日を希う』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は、情報屋に首根っこをつかまれてしまった筆頭被害者である。薬用ドロップ食べる? なんていうのに引っかかるとは。
「この風の音自体が不安にさせているのか、それとも他の要因か…。ま、なんにせよいけば分かるさね」
シキは、腹に縄を縛り付けた。
「シキちゃんは下に降りるのね」
『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)は、念のため確認した。
(大丈夫かな……ま、俺がしっかりしてりゃ大丈夫だよな)
サンディの心配に気が付いているのかいないのか、シキは漂々としている。
「うん。――瑠璃は才蔵と組んだから、サンディ君よろしくね」
自分が支えるのはシキと思い込んで現場入りしていたサンディは、大きく二回瞬きした。
「――分かってる」
俺がしっかりしないと。サンディは更に強固にした。
鋼鉄のロープを長めにとった。それを自身とGRNDの間に括り付けておく。
「や、いざって時にしか使わねーけどな」
サイバートカゲのGRNDは軍馬並みだ。モルダーがうまく誘導してくれる。
(力がもっと必要になったりなんかの事情で俺が離れなきゃいけない時はこの1頭と1人の力を借りることとするぜ。こいつでまぁなんとかなるだろ)
余力の分、シキの様子をしっかり観察できるというものだ。例えシキが強がりを言っても、意図的に隠したり心を閉ざしたりしない限り気づく自信はある。
「日常の落とし穴、ってこういう意味ではなかった筈ですが……」
本人のあずかり知らぬところで人間関係に巻き込まれている『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)が、穴の淵に立つ。
「まあ、直近でよく似た大事件などあれば心安らかにならないのも理解できます」
こんな穴に知らずはまるには、ウエスト20メートルのナイスバディジャイアント推定身長35メートルから40メートルが想定される。
「さくりと解決してしまいたいところですが、さて鬼が出るか蛇が出るか――とはいえ、まずは滑車ですね」
すでに村人によって滑車が四基用意されている。
瑠璃も馬力リソースの準備に余念はなかった。
穴が深かった時のため継ぎ足し用のロープを用意し、緊急で引き上げるときの動力として馬車も用意した。馬力という単位は伊達ではない。
馬車とトカゲとサイボーグ少年が待機している光景はいかにも何でもありのローレットらしい。
「ありがとう農夫さん。とっても助かりますわー!」
『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は、ほほ笑んだ。
司祭様のお手伝いだ。天国につながる功徳が積まれたことでしょう。主はいつも見ておいでです。
「一体この穴はなんなんだろう? 当時の関係者としてヴァリューシャには心当たりあるかい?」
穴をのぞき込む『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)は、愛しの太陽に尋ねた。
「どうだったかしら。当時は必死だったから、よく覚えていませんわね」
覚えていたら支障をきたすから脳に制限がかけられているのだ。断じて日々の飲酒でぼやけているわけではない。正常な防御本能だ。
「歯車大聖堂の大きさからすると、こういう崩落があってもおかしくはないけれど」
これが当たり前とは思いたくない。あの大聖堂の歩み一歩一歩がこの大地に刻んだ苦しみを受け流すことはできない。受け止め、解決するのだ。
「我々が鉱山のカナリヤとは。高くつかなければ良いのでありますけどね」
『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)が言った。 一農村が依頼主の依頼に、偵察任務に英雄級のイレギュラーズを動員する情報屋の取り分を心配してくれているのだ。ものすごく優しい。口調はさておき。
「――」
そんなエッダをじっと見ている『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)。大柄で筋肉質で全身鎧。
(自分は突入役です。命綱はフロールリジさんに支えてもらいます)
命綱装備済みです。農夫さんが二度見しています。命綱を握っているのはエッダさんです。
「彼女の膂力と頑強なら、戦いながら支えるのも十分にこなせるでしょう」
鉄帝の農夫である。鉄騎種の膂力と見た目に一切関連性はないのはわかっている。エッダも当たり前という顔をしている。
(人柄も信頼出来……多分……出来ると思いますし、大丈夫だと思います。はい)
もちろん信頼できる。人柄は。ただ、手段が一直線なだけで。
「オリーブ様の命綱を保持するであります。お任せ下さい」
圧倒的安定感。頑健かつ極寒超越、さらに戦乙女に愛されているオリーブが穴に入れば損耗率が低く抑えられる。まさにこの冬の大地の凍てつく大穴に降りるための人材と言って過言ではない。飛んで火にいる何とやらである。自分の活かし方を知ってイレギュラーズは成長する。
それに不測の事態の際、上部から指揮を執るのはエッダの方が適任だ。メンタルが違う。
「最終確認であります。下からの合図としては、綱を引いてもらうことを提案するところであります」
物理。一本の縄は確実につながっている。
「三回引いたら停止。四回引いたら降下再開。二回が無いのは、風などで揺られた動きを合図と誤認しない為――」
「了解です」
オリーブは了承した。
「それで伝えられない時は、ただ音と光だけでは不安なので、風を利用する手も用意します」
それはロープが切れたとき。考えないわけには行けない事態だ。
「紙吹雪のような風に乗って飛ぶ物を用意しておき、それを吹き上がらせる事で知らせましょう」
知らせさえつけば何とかしてくれるだろう。
「最悪の場合、自力で登るしかありませんね」
エッダは、それも想定しておくであります。と、オリーブに告げた。
「そんな事態にならないための自分であります。ですが。覚悟とプランは承ったのでありますよ」
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「それではみなさん。息を合わせるのでありますよ。身長差も考えて。あまり位置がずれても連携が難しくなるのであります。そーれ」
四基の滑車がからからと音を立てる。瑠璃が点検してオリーブが三人位ぶら下がっても大丈夫な強度があるのは確認された。
「ヴァリューシャ、どうか気を付けて!」
ひらひらと手を振りながらやみに飲まれていく恋人の命綱を、マリアはしっかり握りしめた。
「降下は慎重にゆっくりと。すばやい踏破よりも、危険を感じた時の停止、それ以上すすめないと判断した時の撤退を確実に。を、徹底するのでありますよ」
降ろされる方は、徐々にエッダの声が小さくなり周囲が暗くなっていくことで降ろされているのが如実にわかる。
下から吹きあがってくる風で体の表面をやすりでこすっていくようにひりつく。鎧を着ているオリーブには鎧が冷えていく感覚が骨身に染みる。寒くなった方が調子がいいオリーブにとってはありがたいことだが他の者には辛かろう。
「さぁ、鬼が出るか蛇が出るか……仕事の時間だ」
才蔵はそう呟き、いや。と、思い直した。
不気味な風の音の響く闇の中だ降りる面々の精神がやられる可能性もある、人心掌握術を駆使したちょっとした話で気を紛らわせたい。サラリーマンは和を以て尊しとするものである。
「なに大丈夫さ、それよりも此処を出たら皆で何か美味いものでも食いに行こうか――さぁ、早い者勝ち、なに食べたい?」
防止釵が怒濤の勢いでご当地お酒情報を垂れ流すのに相槌を打ちつつ、いつもの眼鏡を暗視グラスに取り換えた才蔵が舌打ちをした。エコーロケーション。乾いた音が響くがすぐに吹き上げてくる風にかき消される。
風は常時吹いてくるのではなく、一定の間隔を置いて吹きあがってくるようだ。
「――風の音が中々に煩い、が暗闇の中で状況を把握するのには音が大事だ」
常人には聞こえない音を探る。
「毒っぽい臭いはしないんだがな――今のところは」
「あー、目玉が乾きますわぁ」
ヴァレーリヤは、何度か瞬きをした。何というか悲壮感が足りない。耐性を持たない生物が活動困難になる過酷な状況でも一定の活動が期待できる――司祭様。尊くあらせられます。緊張感が抜け落ちるだけで。いや。片の力が抜けていいかもしれない。平常心は大事だ。
「キツくなるまではガスマスクを着けず薬剤を試しつつ凌ぐ」
エッダいうところのカナリアはシキと才蔵が担う。敏感なので、本格的に人体に影響が出る前に対処できるだろう。
「キツくなる前にガスマスクを着けよう」
そのとき、耳をつんざく悲鳴のような音がローレット・イレギュラーズを襲った。
今までとは比べ物にならない強い風――いや、空気の塊だ。圧縮された空気の壁。
重力に逆らうように持ち上げられる。
ふっと縄にかかる負荷がなくなったのを感じた支え手の脳裏にアラートが走る。
マリアはロープを全力で引っ張った。
ロープのたわみを出来るだけなくすことで揺られる幅を軽減する。同時に 揺れに合わせて自分の位置を調節して揺れを軽減する。
エッダの指示で、地上組も激しく動く。
その意図を酌み、更に最適の指示を出すサンディに、エッダは目を丸くし、更に高度な要求をする。
交差し、ロープを互いの身の位置でくぐらせては戻す様は戦闘武闘のようだ。全員甲板員にスカウトされそうだ。
一本のロープを介して安定を図るのは恋の駆け引きにも似ているが、穴の中でほんろうされているヴァレーリヤはそれどころではない。幸い、まともな三半規管を持っていたら嘔吐必須な脳みそシェイク状態も、持ち前の俯瞰視点で軽減し、過酷な酩酊で鈍化しているので飲み込むくらいの余裕はある。いや、物理的にではなく比ゆ的意味で。
「ヴァリューシャ、そっちの様子はどうだい!? 何か変わったことは? 要望があればいつでもいっておくれ!」
マリアは穴の中に向かって叫んだ。
「毒物の可能性もあるらしいし、危なそうなら薬も試すんだよ?」
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ため……だぉ……。
風にかき消されるマリアの声の片鱗に愛を感じる。はやし立てる余裕はない。地上で命綱を握っている四人がそれぞれ飛んだり跳ねたりしてくれたおかげで、まったくの無傷ではないにせよ、それなりにダメージは軽減されている。
互いの傷を治し合い、万全の態勢を維持する。戦乙女の祝福は戦士には格別に聞くものだ。
頭上遥かに、瑠璃のファミリアーのフクロウが旋回している。
あまり潜航組に近づくと、ヴァレーリヤの妖精殺しに引っかかって無力化するのだ。逆に考えれば、少し突入してフクロウがぐらつけば少なくともヴァレーリヤの無事はわかる。ヴァレーリヤが無事なら
「なんとも悲しい風の音だけれど……すくんではいられないさね。意外と心配性なサンディ君に心配かけるわけにもいかないし。ふふ、それも悪くないけどね」
シキと才蔵は、暗視で暗闇を見透かす。身体中の神経を研ぎ澄ませる。聴覚、何かが膨らむ音、細く漏れる音、嗅覚、洞窟でするわけがない鉄と機械油と胸が悪くなる焼き付いた合成樹脂の匂い。味覚、空気にわずかな苦み。リコリスの味と鉄の味。触覚。圧倒的に飲み込まれて翻弄してくる突風。
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カラカラカラカラ……。
ロープにまだ若干の余裕はあるけれど、正直まだ潜るのかと胸中にもやもやが降り積もる。
一度戻って再エントリーでいいんじゃなかろうか。
「一、二、三、四――まだ『降ろせ』でありますか」
地上組の表情が厳しくなる。随分降りている。もはや地上から治癒術式が届く距離ではない。
瑠璃のファミリアーが夜目の利くフクロウでよかった。共有した視界に四人の無事な姿が確認されている。
「――何か。見つけたようです」
「おっとっと!?」
瑠璃がそう言ったとたん、急にマリアが姿勢を崩した。穴の中でヴァレーリヤが激しく何かしたらしい。
「な、何かあったかい!? すごい揺れたけど!?」
マリアの問いに答えられる者はいない。穴の中で何かが起こっているのだけはわかった。
「皆さん。緊急離脱の準備をして下さい。何かとぶち当たったら戦闘も勘定に入れなくては。早々に穴から引き揚げて地上戦に移行するでありますよ」
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カンテラをXに振りほら貝を吹く才蔵。随分とシュールな光景ではあるが、よく分かるから。と、なりふり構わない彼は誠実な仕事人である。
穴にすっぽり巨大な金属円に柔らかい素材。それの中央に真っすぐ切れ込みが淹れてある――。
「これは――弁だな。サイズがありえない大きさだが。こう、空気とか液体とかが逆流しないようにつけられる奴だ」
才蔵が言った。サラリーマンって、機械のこともわかってすごいなあ。大体力任せで生きている人間はなるほどーと言った。
「ギアバジリカから脱落した部品じゃないか? それが地面にめり込んで、ちょうど地下の空洞のところでぴったりはまったんだろう。でその空気がこの穴から漏れだして、変な音がしていた。と」
「気分が悪くなるっていうのは?」
「金属がこすれる音ってのはそもそも生物には不快なもんだし、地面からも共鳴してるから、調子を崩してもおかしくはない。後、この臭いはロクなもんじゃない」
男は黙ってガスマスク装着。
「濃度が薄くなってる分普通に吸い込んでるから、影響も出るだろうさ。後、どう考えても怖いだろ」
有害物質と騒音と心理的圧迫の複合要因。
「つまり、これを撤去して、埋めちまえば一挙解決だ」
厚さは一メートルくらいだ。上から引っ張ってもらって引っこ抜けばいい。
いそいそとロープを弁に固定し、自分達のロープに括りつける。四方向から引っ張れば、ちょっとずつ引っ張るタイミングをずらして穏便に引き上げられるだろう。
「フロールリジさん。引き揚げていただけますか」
くいくいくい。ロープは三度引かれた。このロープを引き上げ切れば、大体片が付く!
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下にいる連中にとっては、引っ張り上げてもらうだけだが、上にいる連中にとってはこれこそが正念場なのである。
「え、なんで。急に重くなって――!?」
「何か見つけたようです。それをロープに括りつけてます!」
瑠璃が医療をたしなむ一族の生まれだったことを何かに感謝するべきだ。
「人工弁です! 数百キロくらいの重さがプラスされてます!」
瑠璃は躊躇なく馬車を走らせた。
それを見たサンディは、覚悟を決めた。
「重いんだな!? GRND、モルダー! ロープを引いてくれ!」
「引っ張り上げるのでありますよ。ちょっと斜めぐらいが穴から向きやすくてちょうどいい!」
「ヴァリューシャヴァリューシャヴァリューシャヴァリューシャ――っ!」
マリアはもう愛する者のためにロープを引っ張り上げる機械と化している。
「俺は穴に入って下に向かう!」
サンディは穴の中に身を躍らせた。
子供の空想。もう一人のサンディの力を借りて、怪盗の力を周囲に分け与える。
知ってるか。怪盗ってのは飛べちまうくらいに身軽なんだぜ!
瑠璃のファミリアーが光の中に飛び出していった。あと20メートル。
「少々スピードが――っ!」
地上で馬車が爆走してるとは思っていないオリーブの意識が若干遠のいていた。いや、フロールリジさんは最善を尽くしておられる。多分。
負荷に耐えられなくなったか、ぶちぶちとロープが嫌な音を立て始める。
光はすぐそこだ。もう少し。
がくんと視界が揺れた。
落ちる?
シキの視界の中、上からサンディが飛んできて、迎えに来た。と、手を握りしめた。
みんなで空飛んで帰ろうぜ。
●
「ふふっ! ヴァリューシャも皆も何事もなくて良かった! お疲れさまだよ! 毒とか大丈夫だった?」
マリアの矢継ぎ早の問いに、ヴァレーリヤは笑みをこぼした。
「私に毒は効きませんわ。さあ、この弁とやらを運びやすいようにぼこぼこにしなくては」
「いや、壊すべきとこだけ壊せば、きれいに片付くから」
サラリーマンの的確な指摘。
後はこの穴を埋める算段をどうするか、この土地の領主が考えるだけのお仕事になった。
「――――」
鉄帝には、先史文明が存在する。
それは紛れもなく事実で、その痕跡を容易とはいかなくとも頻回に見つけられるのに、未だ謎だらけだ。
「この奈落へと至りそうな大穴が、人の手に余るものではないの良いでありますけどね」
エッダは、手指をワキワキと動かした。
ヒトの手に余るものは神の領域。そして、神は意外とこの世界に召喚されているのだ。善神悪神の別もなく。
穴が早急にふさがれんことを。メイド騎士は心からそう思うのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした。臭いと音をまき散らしていた厄介なものは撤去完了です。ゆっくり休んで次のお仕事頑張ってくださいね。
GMコメント
●
田奈です。リクエストありがとうございます。
ろくでもない気流吹き荒れる穴に潜ってもらいます。
風の正体を調べ、原因を特定できれば成功です。
●穴
半径3メートル、円周20メートル弱。ぽっかりと空いた穴です。
イレギュラーズが来るまで、板を渡した上に土山を作り、誰かが入り込んだりできないようになっていました。
滑車の設置は村の農夫さん達がてきぱきやってくれるので、ご心配なく。強度も十分です。
*ダウンバースト・下から突風が吹き上げてきます。物理的にやばいです。飛びます。穴の側面に打ち付けられてダメージが発生しますので、対策して下さい。
*魂がやせ細る音・風の音がすごくて身がすくみます。詳細はわかりません。ひゅおおおおお、きおおおおと物悲しい高音で何かが通り過ぎていくように聞こえるそうです。村では不眠者が続出しています。原因は不明です。
●役割分担
*命綱係
相方の命綱を支える。もちろん、支え方はそれぞれ工夫していい。
相方の調査に支障が発生しないように対策する。
*突入係
命綱を腹に括りつけて穴の底を目指す係。
風を体で味わって、モルモットになるのも重要な仕事。
時として引き上げてもらうのも大事な作戦。
●発生したBSのケア
メクレオが薬を持たせてくれるので、どの薬が効いたかで技能はなくても原因を特定することができます。
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