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シナリオ詳細

囚われの迷い鳥。或いは、人売り組のデュラン…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●囚われの迷い鳥
 幻想王国。
 イレギュラーズたちの本拠地であるその国にも、当然ながら闇と呼ばれる側面がある。
 華やかな貴族の生活の裏で、職を失い、家を失い、食うや食わずの日々を送る者がいる。
 表裏一体というか、光と影というべきか。
 王都『メフ・メフィート』郊外に行けば、そういう者の数は増す。
 スラム街と呼ばれる区画だ。
 法の監視も届かぬ場所である故か、得てしてそういう区画には犯罪組織が深く根を張っているものだ。

 2メートルを超す長身に、筋肉質な細い体。
 短い丈のパンツから伸びる鳥の脚。
 茶色い髪に日焼けした肌の年若い少女が、鎖に繋がれ牢の中に転がっていた。
 彼女の名は“オストリッチ”。
 寒い国から来たという彼女には、些かこの時期、この国の気候は暑すぎた。
 どこかぐったりとした様子で、冷たい床に横たわり、うぅ、と時折呻き声を零している。

「あぁ、どうしてこんなことになっちゃったんだ」
 そう呟いたオストリッチの脳裏には、刀を構えた1人の武芸者の姿が浮かぶ。
 故郷を賊に奪われて、命からがら逃げた彼女を安全な場所へ逃がしてくれた恩人だ。
「あの人を追って、幻想にまで来ちゃったけれど……私ってば、運が悪いのか、それとも壊滅的に人を見る目が無いのかもしれない」
 なんて。
 ぶつぶつと独り言を零し続けるオストリッチの円らな瞳から、零れた涙が頬を伝って冷たい床に染みを作った。
 右も左も分からぬ国で、彼女に声をかけたのは身なりの良い男性だった。
 親切にも、彼女の恩人を探す手伝いをしてくれるというその男に、付いて行った結果がこれだ。
 睡眠薬を盛られ、鎖で縛られ、牢に転がされたオストリッチはきっと誰かに売られるのだろう。
「故郷を奪われ、恩人は見つけられないまま、この後私はどうなっちゃうんだ? なぁ、どうなっちゃうんだ?」
 重たい頭を持ち上げて、牢の外にいる見張りの男へそう問うた。
 顔の半分を包帯で覆ったその男は、面倒そうな顔をしてオストリッチへ視線を向ける。
 禿頭を掻いて、男は告げた。
「そりゃ、おめぇ……売られんだろ。誰が買うのかは知らないが、せいぜい良い買い手が付くといいよなぁ」
「いやだぁ」
「誰だっていやだろうよ、そりゃ。とはいえ、おめぇ、この世は弱肉強食だからよぉ」
「それはそうだけど。騙された私が悪いんだけど。敗者は全てを失うのは、そりゃあ当然なんだけど……でもいやだぁ!!」
「……物分かりがいいんだか悪いんだか」
 変な奴を捕えちまったな。
 そんな風なぼやきを零し、禿頭の男は愛用の槍へ手を伸ばす。

●人売り組のデュラン
「まったく、どんな心の色をしていれば人を売ろうなんて考えに至るのかしら」
 嫌な話ね。
 そう呟いて『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)は窓の外へと目を向けた。
 雨が降り出す予兆だろうか。
 遠くの空に、灰色の雲が浮いている。
「今回の標的は“人売り組”のデュランと呼ばれる悪党よ。彼は各地を転々としながら、珍しい“商品”を高く金持ちに売りつけることを生業としているわ」
 絶えず場所を移動し続け、売る商品も毎回1人~3人程度とごく少数。
 “人売り組”という組織に属する人間であるが、基本的に4人前後の小規模なチームで活動するため足取りを追うことは難しい。
 今回、プルーがデュランの仕事を知ったのは、偶然に近い幸運だった。
 もちろん、デュランとその仲間を捕えたところで“人売り組”が壊滅することは無い。
 けれど彼らを捕らえれば“人売り組”の情報を得ることも不可能ではないはずだ。
「ついでに囚われている人も救出してあげてほしいわね。今捕まっているのは、オストリッチという名前の翼種の少女1人よ」
 彼女は非常に力が強く、そして脚が速いらしい。
 身長2メートルを超える長身ということもあり、オストリッチはよく目立つ。
 そんな彼女は行く先々で人目を引いた。
 そんな彼女を背負って運ぶ“人売り組”も、ついでとばかりに注目を集め、結果として潜伏場所が判明するに至ったのである。
「デュランたちは3人でチームを組んでいるようね。仲間2人は【猛毒】や【麻痺】【混乱】を付与する魔術を使うわ」
 彼らの仕事は“売り物”の調達ということだろう。
 正面切っての戦いより、身を隠しての援護を得意としているようだ。
 一方、デュランはというと、槍を得物としていることからも分かる通り、接近戦を得手としている。
 名前が通っていることからも分かる通り、なかなかに腕も立つようだ。
「彼の得物は【重圧】と【懊悩】を与える魔槍ね」
 デュランと、その仲間が2人。
 以上3人を捕縛し、オストリッチを救出すること。
 それが今回の任務の内容だ。
「あぁ、それと“人売り組”の潜伏場所は地下よ。スラムの一角にある古い洋館……その地下にある倉庫にオストリッチは捕らわれているわ」
 倉庫に至るまでの間に、幾つかの鉄の扉があるらしい。
 デュランやその仲間たちの持つ鍵を使って開けるか、数分ほどの時間をかけて殴り壊す以外に突破する術はないという。
 また、地下へと続く道は洋館の1階、裏庭、洋館脇の倉庫の3か所に存在している。
「鍵は1本だけしか無いんですって。【ファミリアー】に似た技を用いて、3人は連絡を取り合うと言うわ」
 イレギュラーズの襲撃に気づいた時に、彼らがどういう行動を取るかは分からない。
 迎撃に向かうのか、それともオストリッチを連れて逃げるのか。
 場合によっては、オストリッチを捨てて逃走するかもしれない。
「こちらの動きが“人売り組”にばれてしまうのも面倒ね。可能な限り3人ともを捕縛して」

GMコメント

●ミッション
“人売り組”の捕縛


●ターゲット
・“人売り組”のデュラン
顔の半分ほどを包帯で覆った禿頭の男。
どこか飄々、かつ軽い言動の男だが腕は確かなようだ。
チームのリーダー格らしく、名もなき魔槍を携えている。

魔槍:物近単に大ダメージ、重圧、懊悩
 不気味な気配を纏った槍による刺突。


・“人売り組”の魔術師
人売り組所属の魔術師。
フードを被った男性2人。フードの下には、呪物や各種アイテムを備えているらしい。
基本的には身を隠しての援護射撃や、隠密行動を得意としている。

阻害魔術(単):魔遠単に中ダメージ、猛毒、麻痺、混乱
 発動の速い魔弾による攻撃。


阻害魔術(連):魔中範に中ダメージ、猛毒、麻痺
 魔弾を広範囲に連射する攻撃。


・オストリッチ
人売り組に囚われている翼種の少女。
日に焼けた肌に2メートルを超える長身。
下半身が鳥。力が強く、脚が速い。
恩人を追って幻想に来たところを、人売り組に囚われたらしい。
鎖に拘束された状態で牢に入れられている。


●フィールド
幻想、スラムの端にある洋館。
洋館横の倉庫、裏庭、洋館1階に地下へと続く階段がある。
地下室へ到着するまでに、鉄の扉が3、4ほど仕掛けられている。
鉄の扉を突破するには、数分かけて破壊するか、デュランたちの持つ鍵が必要。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 囚われの迷い鳥。或いは、人売り組のデュラン…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年08月16日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
白薊 小夜(p3p006668)
永夜
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者
ノワール・G・白鷺(p3p009316)
《Seven of Cups》
ブライアン・ブレイズ(p3p009563)
鬼火憑き
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ
暁 無黒(p3p009772)
No.696

リプレイ

●スラムの異変
 夜の闇に紛れ、8人の影がスラムを進む。
『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)の指揮のもと、進む彼らはまるで狼の群れである。
「相手が組織の一員であり、組織が情報漏えいを拒むのなら、襲撃に対する最適解は逃走のはず」
 向かう先はスラムの端に建つ洋館。
 正しくは、その地下にある一室だ。
「周辺に罠など無いようね。単なる廃墟を装いたいから……かしら? まぁ、都合がいいわ」
 ハンドサインで仲間たちへ指示を下せば、まるで一個の部隊のごとく4人が洋館へと駆けていく。

 洋館1階、地下へと続く階段の途中に鋼の扉は存在していた。
 それを拳で軽く叩いて、『盲御前』白薊 小夜(p3p006668)は白杖を構える。
「蝶番を叩き斬るのが速いかしら」
 1歩、大きく踏み込むと同時に扉目掛けて抜き打ちを放った。
 暗い通路に火花が散って、蝶番に深い裂傷が刻まれる。
「小夜さん、やばいっす……俺より遥かに強いっす!」
 思わず見惚れた『No.696』暁 無黒(p3p009772)の頬に冷や汗が伝う。
 研ぎ澄まされたその技に、本能的な畏怖と驚嘆を禁じ得ないのだ。
「無黒さんも協力してね。巻きで行くわよ」
「はいっす!」
 小夜の言葉に応を返して、無黒は姿勢を低くした。

 鋼の震える音が響いた。
 拳を扉へ叩き込みつつ『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)が吠え猛る。
「はっはー!  人攫いなんて儲からねえビズだろ? さっさと廃業しちまや良かったんだ!」
「パ・ド・ドゥの相手はブライアンね。えぇ、困った人攫いにお灸を据えましょうか」
 ブライアンが剛とするなら『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)のそれは、迅といったところだろうか。
 踊るようにテンポよく、鋭い蹴撃を鋼の扉へ浴びせる彼女の踵には、鈍く輝く刃が備え付けられている。
 鋼の扉に拳と蹴りを浴びせ続けること数分。
 バキ、と金属の砕ける音と共に扉は、うちへ向かって倒れていった。
「次だ次!」
「えぇ、ド派手にいくわ」
 倒れた扉を乗り越えて、通路を進む2人はしかしそこでピタリと足を止めた。
「やぁ、ご苦労。商売敵か、それとも別の何かかな? とにもかくにも、ここから先へは進ませない」
 2人の視線の先にいたのは黒いローブを纏った男だ。
 翳した両の腕の前には魔法陣が展開していた。
「そんじゃ、さよなら」
 男がパチンと指を弾けば、魔法陣が緑色に瞬いた。
 そして次の瞬間に、解き放たれた無数の魔弾が2人の視界を埋め尽くす。

“人売り組”
 今回のターゲットである組織の名前だ。
 組織の規模や構成員の人数は不明。彼らは3、4人でチームを作り、各地で人を攫っては、それを求める何処かの誰かにそれなりの額へ売り渡す。
 売る商品も1人や2人とごく少数というその形態から、これまで足を辿ることができないでいた“人売り組”だが、今回ついにチームの1つを補足したのだ。
 情報を得るべく構成員を捕縛する。
 そのために一行は、スラム街を訪れていた。
 
「人を売り買いしようって人は本当にたくさんいるんだね……放っておくわけにはいかないよ!」
『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)の志気は高い。
 思わず声を荒げた彼女へ、イーリンは静かにせよと仕草で意思を伝えた。
「このような事をする連中が後を絶たないですね……こうして情報を得た以上は捕らえて突き出すのみ」
 アレクシアに同意を示す『断ち斬りの』蓮杖 綾姫(p3p008658)も、機械仕掛けの剣を構えて構成員の登場に備える。
 現在、彼女たちは洋館裏手に回り込み、物陰に身を潜めていた。
「まぁ、人攫いも立派なお仕事ですものね。お仕事無しには生きていけませんから仕方ありません」
 洋館の壁に背を預け『《Seven of Cups》』ノワール・G・白鷺(p3p009316)はそう言った。よくよく見れば、彼女の足元に影はない。自身のギフトで切り離し、裏庭の隅に置いているのだ。
『っと、足音が聞こえてきましたよ』
 ノワールの声が脳裏に響く。
 それを受けたイーリンが、仲間たちの顔を順に見回した。
 志気は上々。
 準備は万端。
 なれば、後顧の憂いがあろうはずもない。
「では、仕事を始めましょう……奪ってあげるわ」
 神がそれを望まれる。
 口の中で呟くように彼女が言ったその直後。
 地下へと続く扉が開き、2人の男が現れた。

●人売り組
 閃く小夜の斬撃が、牢の格子を断ち斬った。
 しゃらん、と意外なほどに軽い音を鳴らして鉄の檻が開かれる。
 牢の中に転がる巨躯の少女はぽかんと、目と口を開いて小夜を見上げていた。
「はぁ?」
「オストリッチさんね。私達はローレットの者よ、もう大丈夫だから」
 刀を仕込み杖に仕舞って、小夜は褐色肌の少女……オストリッチへと手を差し伸べた。
「小夜さん。その娘、鎖でぐるぐる巻きにされてるっす」
 オストリッチに駆け寄ると、無黒はその身に巻き付く鎖を解いていった。鎖から解放され、立ち上がったオストリッチの背丈は2メートルを超えている。
 鳥のそれである足で試すように地面を蹴れば、石敷きの床に深い爪痕が刻まれた。
「開放されたぁ! 助かったぁ! あいつら、私を置いて逃げやがったぁ!! 逃げやがったけど、でもおかげで助かったぁ! あ、助かったの? どう?」
「まぁ……一応は。けど満身は良くないっす、気合い入れて行くっすよ」
 いつまでも地下でもたもたしていても仕方ない。
 来たのと同じルートを辿って、無黒と小夜、オストリッチは地上を目指す。
 途中、足を止めた小夜は視線を別の扉へ向けた。
 扉の先から、僅かな戦闘音が聞こえたからだ。
「小夜さん? どうかしたっすか?」
「いえ……気にはなりますが、人攫いの捕縛とオストリッチさんの助命に注力しましょう」
 躊躇は一瞬。
 小夜は地上へ向けて駆け出す。

 顔の前で腕を交差し、ブライアンは魔弾の壁へと跳び込んだ。
 頭から身体ごと投げ出すような跳躍。
 被弾範囲を最小限まで削ろうという心算だろう。
「っ⁉ 思った以上に無茶苦茶だな」
 魔術師然とした青年は、慌てたように背後へ退る。しかし、そこには鋼の扉。どうやら内側から鍵をかけられているらしく、それが開くことはなかった。
「あ、開かない! おい、デュランさん!?」
 フードの耳元を押さえながらまじゅつしは仲間に呼びかける。しかし、どうやら仲間からの応答はないようだ。アレクシアのジャミングが功を発しているらしい。
「運が悪かったなオタクら。これまでも、そして今も、だ」
 焼け焦げ、血に濡れた両腕を払うとブライアンは怒号をあげて駆けだした。
 舌打ちを零した魔術師が、ブライアンへと魔弾を放つ。
「う、ぐ……ぉ!?」
 顔面にそれを受けたブライアンは、ピタリとその場で足を止めた。
 どこか虚ろな瞳で虚空を見つめつつ、震えた拳を振り上げる。そして、ブライアンは背後に迫ったヴィリスへ向けて拳を放った。
 ヴィリスはそれを回避すると、滑るように魔術師の足元へと接近。
「あれだけ大きな音を出したのだから、どうせもう逃げてると思ってたのだけど?」
 タタン、と響く軽い音。
 リズミカルに小気味よく、振り上げられた剣踵が魔術師の腕と胸、顎を裂いた。飛び散る鮮血がヴィリスの頬を赤く濡らす。
「少数相手なら1人討ち取れるとでも思ったのかしら? 残念だけれど、お仲間はきっともう逃げてるわ」
 フードが脱げて顕わになった顔だちは若い。
 おそらくは“人売り組”に入って間もない新人だろう。
 血気に逸って大局を見誤るあたり、経験も不足しているようだ。
 デュランとやらが彼の行動を止めなかったのは、足止めのための囮として利用するためか。となれば、彼が大した情報を握っていないことも容易に予想できる。
「う、くそっ!! うるせぇなぁ、おい!!」
 展開された魔法陣から、無数の魔弾が放たれる。
 ヴィリスは床を蹴って跳躍。
 次いで、壁、天井、壁、床、天井とボールのように跳ね回って後ろへ下がる。長い髪をたなびかせながら、移動を続けるヴィリスを追って魔弾が奔った。
 そのうち1つがヴィリスの足首へと着弾。
 姿勢を崩したヴィリスが床に倒れ込む。
「よし!」
「よかねぇよ」
 魔術師の男は、ヴィリスへ向けて手を翳し……直後、伸ばしたその腕は、ブライアンの剣によって落とされた。
「は、あぁぁ!?」
「ま、なんだ。生きてたら、ほら、アンタの運は悪かねーってコトで」
 ブライアンの大きな拳が、悲鳴を上げる魔術師の顔を打ち抜いた。

 洋館裏手。
 塀へと向かった魔術師の男が、ワイヤーに足を取られて転倒していた。
 イーリンの仕掛けた罠にかかったのである。
「この先は通行止めだよ! 通りたければ、倒してみなさい!」
 ごう、と風が渦巻いて花吹雪が舞い踊る。
 その中心に転移したのは、緑の衣装をその身に纏った女性であった。
 アレクシアは手を翳すと、それを魔術師へと向ける。
 直後、降り注ぐのは花弁にも似た火炎の雨だ。
 悲鳴を上げる魔術師の男は、アレクシアへ向け魔弾を撃ち込む。それを受けたアレクシアは、急ぎ後方へと下がる。
「あ? 何でそっちに罠なんか?」
「閃いたからよ。あの辺りに逃走経路を用意しているかもね、って」
 額から流れる赤い血が、イーリンの顔を濡らしている。
 油断なく槍を構えたデュランは、背後を見やってぎょっと目を見開いた。デュラン1人で、4人を押さえ続けるのにも限界がある。
 その隙に、仲間に逃走経路を開かせる算段だったが、どうやらそれは失敗に終わったようだ。
「あーあ、ったく。囮役を買って出たってのに……」
 策に嵌ったことを悟って、デュランはくっくと肩を揺らした。
 瞬間、隙と見たのか綾姫が剣を一閃させる。
 放たれるは飛ぶ斬撃。
 機剣『黒蓮』に備わる神秘の解放である。
「っと、あぶねぇ」
 綾姫が狙った先には、転倒した魔術師の姿があった。妨害魔術を行使する彼を、先に戦闘不能にしようという心算か。
 しかしデュランは、魔槍を振るい綾姫の斬撃を相殺してみせる。
「よい槍ですね。私たちが勝った暁には、ぜひ譲っていただきたいです」
「まぁ、いい槍っちゃいい槍だな。いい槍だが、そんな攻撃、何度も受け止めてちゃ保たねぇわ」
 なんて、呟きながらデュランは地面に転がった。
 先ほどまでデュランの居た位置を、白い波動が通過する。
「んーーはずれ。生け捕りって中々面倒ですね? そういう意味では、人身売買も楽な仕事ではないんでしょうかねぇ」
 嘲るようなノワールの声。
 翳した手の周囲には、不気味な気配を纏った砂が渦巻いていた。
「あんたらみたいのに追われることもあるからな。楽な仕事じゃねぇけどもよ……何で、それなりに戦える面子でチームを組んでるのさ。おい!!」
 地面を蹴ってデュランが駆ける。
 その背後には、幾つもの魔法陣が展開していた。地面に倒れた姿勢のまま、魔術師の男が準備を進めていたものだ。
 直後、轟音と共に無数の魔弾が放たれる。
「おっとっと!? 貴方様方も妨害とかそういう質ですか。キャラ被ってるんですが」
「これは……全部を叩き斬るのは無理そうですね」
 回避に移るノワールと、迎撃を試みる綾姫。
 戦線が僅かに破綻した。その綻びを、デュランは見逃しはしない。
「多少の被害は仕方ねぇ。そのまま魔弾をばらまいとけよ!」
 魔術師へ指示を出しながら、デュランは綾姫へと迫る。
「くっ」
「はい、じゃ、1人」
 地面を這うような起動から、繰り出された魔槍の一撃。
 それは正しく綾姫の喉元を狙い……。
「正直プロの仕事だったわ……籠城先さえ間違わなければ、私達が負けてた」
 イーリンの伸ばした戦旗が、デュランの槍を受け止める。
 金属同士の擦れる音が鳴り響く。
「あ、お前さん、傷は?」
「治したわ。時間は十分あったもの」
「ちっ」
 舌打ちを零し、デュランは1歩前へと進む。イーリンへ向け、前蹴りを放つと同時に、槍を引いて旋回させた。
 横から迫るアレクシアへと牽制をかけ、素早く周囲へ視線を巡らし状況確認。
「やべぇ」
 1人か2人は倒さなければ、逃げることは叶わない。
 そう判断し、綾姫の脚へ槍を突き刺す。

 地下へと続く鉄の扉が吹き飛んだ。
「おぉぉらぁ!」
 直後、響いた女の怒声。
 全力疾走。
 そして、放たれる飛び蹴りがデュランの脇腹を打ち抜いた。
「ご、ぁ!?」
「復讐だぁ!」
 拘束された腹いせか。
 怒り心頭といった様子で飛び出して来たオストリッチ。
 その後に続く無黒と小夜が、デュラン目掛けて斬り込んだ。

●大捕り物
 作戦は既に破綻した。
 魔術師の男は錯乱し、焦った顔で弾幕を辺りにばら撒いている。
 それを回避しながら、オストリッチや小夜の攻撃を捌き続けているあたり、デュランの練度は高いのだろうが、多勢に無勢はいかんともしがたい。
「無理してでも連れて来りゃよかった。人質ぐらいにゃなっただろうに」
 なんて、ぼやきながらも突き出す槍で小夜の右肩を抉る。
 逃げることを優先したデュランの判断は誤りではない。小夜や無黒の進行速度が思いのほか速かったことに起因するミスだ。
「今からでも遅くねぇかもな」
 なんて、呟いて。
 オストリッチの足首目掛けて槍を薙ぐ。
 足首を裂かれたオストリッチがその場に転倒。捕獲すべく手を伸ばすが、それより速く降り注いだ淡い燐光が、オストリッチの傷を癒した。
 ひらり、と揺れる花弁をデュランは見た。
「盾にされちゃ適わない。オストリッチ君は少し下がってて!」
「っ……またあいつかよ」
 オストリッチと小夜を治療しながら、アレクシアは視線を地下への扉へ向けた。つられてそちらを見たデュランは、再度舌打ちを零すこととなる。
 ブライアンとヴィリスが追い付いてきたのだ。
「まずは弾幕を止めるわ。ブライアンと綾姫は、弾幕の範囲外から塀を壊して」
 イーリンの指示を受け、ブライアンは塀へと駆けた。
 一方、綾姫は剣を大上段へと構え、それに魔力を纏わせる。
 一閃。
 放たれた飛ぶ斬撃が、兵を穿つのと合わせ、ブライアンが雄叫びを上げる。
「おぉ! パワーにはちょっと自信があるぜ!」
 踏み込みと共に放たれた、ブライアン渾身の一撃は塀の下部を吹き飛ばした。
 
 地響きと共に塀が崩れる。
 悲鳴をあげて魔術師は逃げる。まさに混乱の極みといった様子である。
 必死の形相から、彼の抱く焦りのほどが感じられるが、直後にそれは苦悶に歪んだ。
「私もお仕事ですので。悪く思わないでくださいませ?」
 ノワールの放った魔弾を胸部に受けて、魔術師の男が膝を折る。
 足を止めてはお終いだ。
 魔術師の男に、瓦礫を避ける術はない。

 弾幕が途切れた。
 仲間も2人、失った。
 しかし、塀が崩れたことで逃走経路は開かれた。
 踵を返し、逃げに走ったデュランの前に、しかし旗が振り下ろされる。
 通行止めだというように、イーリンは笑みを浮かべて見せた。咄嗟に槍を振るうデュランの足首に、直後鋭い痛みが走る。
「うぉ!」
 バランスを崩したデュランの視界のその隅を、駆け去る黒い影が1つ。踊るように、きれいなターンを決めたそれはヴィリスであった。
 さらに、眼前へと迫る小夜の姿。
 抜刀と同時に放たれた斬撃を、慌てて槍で受け止める。
 しかし、姿勢が悪かった。万全であればその斬撃を受け流すことも出来たであろうが、姿勢を崩していてはそれも不可能だ。
 斬撃を受け、デュランの魔槍は断ち切られる。
「武器を失いまだ抗いますか?」
「お縄になるのは御免なもんで」
 綾姫の問いにそう返し、デュランは槍を投げ捨てた。
 小夜の手を取り、その体を投げ飛ばす。
 得手は槍術ではあるが、徒手空拳も多少は齧っているのだろう。
 しかし、それは悪手に過ぎる。
 敵に背を向け逃げる獲物を討ち取るために、控えていた者がいるのだ。
 バチ、と空気の爆ぜる音。
 刹那、それはデュランの背後に迫り来る。
「悔い改めてから今度は真っ当なお仕事に就くと良いっすよ!」
 迅雷の軌跡を描き駆ける影。
 無黒の放った手刀の一撃が、デュランの首に叩き込まれた。
 意識を失い倒れるデュランの耳朶に、囁くようなイーリンの声が届く。
「その能力、ローレットならもっと別に活かせるわ。口添えするわよ?」
「……か、考えとくよ」
 なんて、呟いて。
 デュランは意識を失った。

 倒れたデュランの背を踏みつけ、オストリッチが雄叫びを上げた。
「うぉぉぉ!! 勝った! 弱肉強食ぅ! 焼いて食べるぞぉ!」
「止めなさいよ」
 どうにもオストリッチの感性は、野生の獣に近いらしい。
 ヴィリスはそれを察すると、オストリッチの手を引いて洋館の外を指さした。
「これで貴女は自由なのだからもう変な人に捕まってはダメよ? その翼は空を飛ぶためにあるのでしょう?」
「うぉぉ! 飛ぶのは得意じゃないけど、いけるかなぁ!」
「……知らないけど」
 オストリッチはダチョウの翼種らしい。
 先ほどまでの怒りも既に落ち着いているのか。
「ありがとぉ! また逢おうね!」
 恩人を探しに行かなくちゃ!
 そう言い残し、猛スピードで駆け去っていくオストリッチを小夜とヴィリスは肩を並べて見送った。
「騒がしい娘だったわね」
 耳を押さえて小夜は一言、そう呟いた。

成否

成功

MVP

白薊 小夜(p3p006668)
永夜

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
デュランおよび2人の魔術師は捕縛され、オストリッチは救出されました。
依頼は成功となります。
迅速なお仕事、お見事です。

この度はご参加ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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