PandoraPartyProject

シナリオ詳細

年に一回だけ男女でブン殴り合っても割と大丈夫な日

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●伝承(曲解)
 とある地に、機織りを生業とする娘がいた。
 娘は糸を紡いで機を織るだけでは飽き足らず、獣……或いは獣種の毛を毟り取っては機を織り、或いは鉄騎種の機械化部を奪い去っては鋳融かして糸状に引き伸ばしてみたりして織ってみたりと、おおよそ機織りと呼ぶには異常なほどの好奇心と精神性に満ちた女であった。
 だが、流石にそのような暴挙を続ければ悪評が広まり、彼女を鬼か悪魔のように扱う者だって現れる。いや、現にそうなのだが。
 機織りの娘をなんとかすべく手を挙げたのは、辺り構わず暴れまわる猛牛を手懐けたと評判の、勇猛果敢な戦士の男。
「お前の機織りは間違っている! 俺が矯正してやる!」
「アタシの熟練の業に文句があるってのかい!? アンタの髪を織ってやろうか!」
 売り言葉に買い言葉。機織りの娘と暴れ牛乗りの戦士は正面から殴り合い、決着がつかぬまま7日7晩を過ぎようとしていた。
 だが、折しもその時雨季の終わりから通り雨の季節にかわったばかり。山の上流に溜まった水からの土石流で両者は流され、気付いた時には土石流の対岸にいたという。
「これは何れ決着をつけよという神の思し召し! 貴様の暴虐は何れ俺が止めてみせよう!」
「ええい猪口才な! なれば一年後、ここで決着をつけてやろうではないか! それまでは好きにさせてもらうがな! カカカーッ!」
 ……と、まあこういう話があったからかなんなのか、この地域の女性はどいつもこいつも気が強く男達は概ね尻に敷かれて生きているのだ。
 だが、この風習に則って1年に1度、男性側が女性に挑戦状を叩きつけ素手喧嘩(スデゴロ)に興じることで、男が勝てばその権威を取り戻すことができる……という、なんとも名状しがたい風習ができたのである。
 なお取り返せる権威は1年限定だ。故事由来にしたってもうすこし慎みというか、手心というものをだな……。

●旧暦七夕をこういう感じでアレンジしたそうです
「……そんな……」
 一条 佐里(p3p007118)はあんまりといえばあんまりな故郷の風習の曲解に、思わず頭を抱えてうずくまってしまった。
 彼女はそれなりに理知的で冷静な方であるが、なんぼなんでも脳のキャパが超えることはないわけではない。だもんで、無理やりにもほどがある上天帝の影も形もない物語にうんざりした気持ちになった。
「ガハハ、さしものイレギュラーズの御仁にも理解が至らぬと見える! ワシもだ!」
 と、笑い声を豪快にあげるのはこの町(鉄帝)の町長。女だ。
 もう一度いうが、女だ。
「ワシの旦那はもうかれこれ付き合ってる頃から20数回ほど挑んできたが張り合いがなくてな! 若い連中は頑張っているが不甲斐ない! ……ああ、諸氏には殴り合ってもらう必要はないぞ? 誰かの手伝いをするのは止めんが!」
 止めないんだ。その辺り、なんか止めなくてもワシら強いし? みたいな女性らしい強気の姿勢を感じなくもない。
「だが、まあ、挑みたいというなら止めはせん! 未婚の女性も、相手がおらずに力を持て余している者もおるでな! だが、イレギュラーズ諸氏の『戦闘技術と魔術』は自分が戦う為、攻撃する為には使わないでもらえると有り難い! 不甲斐ない男どもに魔術の援助はいいが、飽く迄催事の殴り合い、命や運命の力を奪い合うまでやる必要性がないでな!」
 わかりやすくいうと、アクティブスキルは付与以外使うなよ、武器を装備してきてもいいけど抜くなよ、ということらしい。
 そして、飽く迄『男が女に挑む日』である。この辺りをしっかり理解した上で、救護であるとか助力であるとか、はたまたブックメーカーになってもいいだろう。
 思わぬ形で佐里が引き当ててしまったイベント、楽しむしかないだろう。

GMコメント

 時事ネタのアフターアクションが積み上がっているのに今日気付きました。

●成功条件
 鉄帝オリヒコ喧嘩祭りの成功
(オプション)男側の勝利に貢献する

●鉄帝オリヒコ喧嘩祭りの成功
 ごちゃごちゃ書いてますが、「女性上位の町で男性が女性に挑んでいい唯一の日」です。そのため、女性から男性にアプローチしての戦闘ははしたないことと(今日だけは)判断されます。
 女性は軒並みエグみ強めに強く、普通の男ではある程度鍛えても太刀打ちできないでしょう。
 助けてあげるとか、あわよくば勝たせてあげるとかするといいのかもしれません。
 なお、攻撃魔法、攻撃アクティブスキル、描写上での武器攻撃(装備は可。装備後の数値準拠)などは避けましょう。あと、あなた方が倒しちゃうと男性諸氏の自尊心がマッハで消えるのでやめましょう。
 あと、割と普通に相手の居ない女性もいます。挑戦してこないのか? とこちらをみている。

●まつりの運営補助
 治療してあげたり、倒れた男を救護スペースにつれていったり女性たちよなぜそこまで荒ぶるのか。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 年に一回だけ男女でブン殴り合っても割と大丈夫な日完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年08月14日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
一条 佐里(p3p007118)
砂上に座す
長谷部 朋子(p3p008321)
蛮族令嬢
郷田 京(p3p009529)
ハイテンションガール
皿倉 咲良(p3p009816)
正義の味方
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標

リプレイ

●ぶっちゃけ何もわからないままこの道を進んでいる
「……全然分かりません」
「あたしの知ってる七夕と違う……」
「……これがいわゆる『鉄帝ナイズ』というやつだろうか」
「七夕が喧嘩祭になるとか、流石は鉄帝。この手の展開においては信頼度抜群だな……!」
「七夕ってもっとロマンチックなものだって、京ちゃんは思うのです……」
 以上、常識的な七夕観をもつ『砂上に座す』一条 佐里(p3p007118)、『正義の味方(自称)』皿倉 咲良(p3p009816)、『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)、『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)、そして『ハイテンションガール』郷田 京(p3p009529)、以上5名の感想であった。
 そもそも佐里は端午の節句でも似たような脳筋イベントだったことでちょっとだけ(本当にちょっとだけ)覚悟はしていたが、事実は斜め上をカッ飛んでいくわけで。
 女性陣の中でも汰磨羈の覚悟というか腹のくくり方が1人違うように思うが、「ホントに鉄帝って、鉄帝だなぁって感じ!」とか爽やかに受け止めてる京、「そんな七夕もあるよね☆」で済ませてる咲良もぶっちゃけ大分毒されているような気がしないでもない。2人とも、成長速度は兎も角として召喚されてからそこまで時間が経ってないのに。どうしてこうなった。
「ふふん、ついにやって来ましたわね。私の冴え渡る智謀を発揮する時が!」
「……恥冒の間違いでは?」
「……何をそんな不安でたまらなそうな顔をしていますの?ぶっ飛ばしますわよ!」
 『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)の素直なノリは、しかし『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)によって即否定されそうになる。こいつらいつもどおりの小競り合いしてんな。
「少々鍛えたところで意味がないならアホほど鍛えればいいのでは? というか祭り当日に全てがスタートだとは誰も言っていないのでは??」
「「「「え?」」」
 エッダの唐突な一言に、一同は一様に首を傾げる。よく見ろ、周囲の雰囲気を。完全に開催日当日のノリで準備を進めているじゃあないかッ!
 そう抗議しようとした面々は、しかし彼女の後ろに控える「めっちゃ限界まで張り詰めた疲労とヤル気の両輪ブン回したノリの連中」の姿を見た。男どもだ、この町の。どうやら、エッダがアホほど鍛えたらしい。筋肉痛とか大丈夫? 休ませた? そっかぁ……。
「あたしが鉄帝オリヒコ喧嘩祭り特別教官、長谷部朋子であるーーーーっっ!!!」
 そして、自慢気にエッダが数歩前進すると、その間に『蛮族令嬢』長谷部 朋子(p3p008321)が割って入り、高らかに教官的仕草で一同に活を入れる。
 君等このぶっつけ本番で打ち合わせなしにそれやってんの?
「見たところキサマらは街の女性諸君に比べて貧弱極まるもやしのようだ。それが悪いとは言わん、そういう文化なのだから仕方なかろう。だがしかーし! 年に一度の下剋上が許される日にまで腑抜けでいることは断じて許さーん!!!」
「「「押忍!!!!」」」
 いやノリよ。
「話は簡単ですの。まともにぶつかっては勝てないのであれば、そうしなければ良いのでございますわ!相手の守っていないところを攻める、兵法の常道でしてよ」
 ヴァレーリヤは朋子の話が本題に入る前にいきなり割り込むと、キメ顔でカメラ目線(どっちだよ)を割り込ませた。エッダはいつもの事だからと止める気配がない。馴染みの相手だろ止めろよ。
「今からでは付け焼き刃にすらならんだろう。今更鍛え込んでいる時間も無い。故にキサマらに喧嘩の極意を伝授しよう!」
 朋子から『極意』の一言が出ると、一同のざわめきは大きなものになった。明らかに雰囲気に飲まれてない? 大丈夫?
「それはズバリ! 『大きな声を出す』、だ!」
「おおおおおおおお……!」
 いやなんで感動しているのか。ヒョロガリもやしからエッダの追い込みでちょっとデキるもやしにランクアップした程度なのだが、しかしその声には確かな活力が満ちていた。
「私にも妙案がありますわー!」
 バレーリヤは再び手を挙げ、言わせろとばかりに身を乗り出した。なお、村の女共は祭りの開始時刻まで家の中だそうだ。なるほど準備までもカカア天下であったか。好都合だ。
「話は簡単ですの。まともにぶつかっては勝てないのであれば、そうしなければ良いのでございますわ! 私が提案するのは、ぱぱーん! これでございますわっ!」
「今、ヴァレーリヤさん自分で『ばばーん』って言ったな」
「凄くいいところっぽいから突っ込まないであげて……ほしいかなー」
「御主等、甘く見てはいかん。あれでもヴァレーリヤもひとかどのイレギュラーズ、きっと何か……」
 ヴァレーリヤの言動に不安を覚えるエーレン、苦しいフォローを入れる咲良。汰磨羈もワケ知り顔で喉を鳴らすが、視線の先にあったのは、酒と、滅茶苦茶油の強い食事の数々だった。こころなしか赤くテカっている。
「名付けて、八岐の大蛇作戦! 机の上にさりげなく置いておいたお酒で酔わせて、ついでに辛味オイルを大量に仕込んだ脂っこいおつまみを食べさせてぽんぽんぺいんにしたところを、ボッコボコにすれば完全勝利間違い無しでしてよ!」
「……解散! 朋子、引き続き教導を頼む!」
「あいよ!」

●『ばばーん!』の代償で軽視されがちなイレギュラーズのアドバイス
「あ、話が終わったなら私からもアドバイスが……」
「なんですのこの雰囲気は?!」
 ヴァレーリヤの『八岐の大蛇作戦』を聞い汰磨羈は踵を返し、朋子と、そして佐里が引き続きアドバイスに回る。妙案ではあるんだろうが、大声で言っちゃダメだろ。
「お前達はアプローチしたい相手、己の細君に適したトレーニングを積んできたであります。自分には教えることはもうなにもないであります」
 エッダもこう言ってる。
「殴るときに叫べ! 殴られるときに叫べ! 全身を襲う痛みを叫んで振り払え!! 声が枯れ果てるほど叫んで、その勢いのまま殴りつけろ!! いいか! キサマらのような貧弱もやしでも、裂帛の気合と共に拳を振り抜けば、それは立派な凶器になる! ……よし、基礎はわかったな? ならば手始めにあたしを殴れ!」
 朋子の『取り敢えず叫ぶ』作戦の指導は続く。続く……までは良かったんだが、何故か自分を殴らせる段になって男性達は流石に一歩引いた。
「どうした? 遠慮はいらんぞ、どうせ効かん。が、実際に女を殴る感触を知らねば土壇場で尻込みする者もいよう。もしあたしに「痛い」と言わせれば大したものだぞ! そのまま街の女を手篭めにすることもできよう!!」
「手篭めとか、いい年の女の子が言っていい台詞ではないですからね?!」
 朋子の言葉に意を決したように彼女目掛け拳を繰り出す男達。流石に佐里の言う通りっちゃそのとおりで、朋子は年頃なんだからもっとこう恥じらって欲しい。なお、男どもは彼女と妙な連帯感が生まれており、「そういう」相手にはノーセンキューの模様。あとエッダ(同様)とヴァレーリヤ(発案からやべーやつ扱いなので)もだ。
「出来る範囲で構いません。避ける動きは最小限に、攻撃は大胆に。避けるのに全力出したら、避けるしかできなくなりますからね。相手の攻撃をかすり傷でもらうくらいが、攻防のバランスを取りやすいです。
 最終的には立っていれば大丈夫です。倒れなければ戦えますし、戦えるならやりようはありますから……たぶん」
 佐里のアドバイスは、付け焼き刃だとしてもそれなりに効果のあるものだ。出来るだけ立って戦い、それでいて弱気に鳴りすぎないラインというものを見極めたようなそれは、成程仲間たちからみても筋が通っている。
「なんか、凄く真面目で建設的なアドバイスを聞いた気がする!」
「そうですか? 朋子さんのアイデアも……ヴァレーリヤさんのものもハマりさえすれば……まあ……」
 感嘆の声をあげた咲良に、佐里はちゃんとフォローを入れる。ヴァレーリヤも案は悪くないんだ。多分。それは使い所が悪いだろってだけで。
「というか! 女の子も女の子よ、相手が好きならちゃんとそういう風に扱うもんでしょ! うちのお母ちゃんも普段はそれはまあ恐ろしかったけど、お父ちゃんにはデレデレだったぞ!!」
「女に負けるような男と、元になった話以降勝てていないのが悪いのでは? 再戦を誓いあった男がこの体たらくでは女達の立つ瀬がないだけでは?」
「こういう時だからこそなんとしても勝つという気持ちを全面に押し出していくのですわー!」
 京のツッコミはいちいち尤もだったのだが、しかし鉄帝の女ども2名には到底通じない理屈だったらしい。
「男である俺が勝利すれば彼らの希望にもなるだろう。恋愛沙汰が絡まない以上、ここはひとつ本気で挑まねばな」
 なお、エーレンは混乱のさなかにある仲間たちや男とは別に、割と真面目に戦いの準備を進めていたりする。この人、顔だけじゃなくて性格もイケメンなのクソズルいでしょ……。
「話と準備はまとまったようだなお前達ィ! 今年も準備ご苦労! 明日からもバリバリこき使ってやるから覚悟しろよォ?」
「なんの! 俺達だってこの日のために鍛えたんだ! 今年こそ1週間といわず1年、亭主関白という概念を味わっていくぞ!」
「「「おおおー!!!!」」」
 頃合いを見計らって現れた町長に、その夫が啖呵を切る。なお、これ毎年恒例らしい。
「『なんで一生俺が関白!』って短靴切れないのかな?」
「すっかり負け慣れてるんじゃないですかね」
 疑問に思った咲良に、佐里が死んだ魚の眼でそう応じた。


「フレー、フレー、だ・ん・し(男子)ー! チアガールの京ちゃんだぞー!」
 京の精一杯の声援が、晴天の町の中に響き渡る。その視線の先では、フィアンセの強烈な鞭捌きに『ハッ!』『ソイヤッ!』みたいな感じで声を出して避けている。声の効果があんのかないのかはさておき、割ときれいに避けながらジリジリ間合いを詰めているあたり、効果はあるのかもしれない。まあ一瞬だけ京に視線いっていいのを一発もらっているようだが、それはそれとして。
「どこも盛り上がってるね! あっちこっち怪我人がいるよー……」
「ひとまず倒れた人はリタイアということで集めましょう。……でも……」
 咲良が目を回しそうな勢いで周囲を走り回り、佐里は彼等の治療を行いつつ視線を巡らせる。おかしい、と異常を感じたのはその時だ。
 否、『おかしい』というのは失礼なのかもしれない。想定よりもずっと、倒れた男が少ないのだ。
「どうした! 御主等はそんなものではないだろう!」
「押忍!」
「御主はまだリタイアするべきではない、下がれ! 治療が終わるまでに私がアドバイスのひとつでもしてやろう!」
「押忍!」
「酒とメシで懐柔できないのなら主夫にすらなれませんわよ! ここ一番で体の使い方が下手ではいけませんわー!」
「すまん、ヴァリューシャ! 私にも一発頼む!」
「お任せあれー!」
 ……という感じで。汰磨羈も治療に回りつつ、リタイアまでいかないものを一度下がらせてアドバイスしたり、檄を飛ばしたり、さきの食事を腐す形でヴァレーリヤが声援を投げたり。あとは京や佐里、咲良といった「比較的気性が静かな女性たち」の存在が彼等に生きる活力を与えているようでもあった。
「そういえば、エーレンさんは?」
「さっき支援した時は楽しそうな顔してたけど……」

「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。一手お相手願おう」
「イイ男だねェ。イレギュラーズでもなければ、ひとつ押し倒してアタシのものにしたってのにさ」
 エーレンは仲間の支援を受けた上で、凛とした声と真っ直ぐな立ち姿で堂々と名乗りを上げた。声は大きくないのに遠くに届く。大きめな体躯が、殊更大きく見える。町一番の剛の者と噂の、女盛りの者がトゥーハンドソードを手に対峙するとなれば、周囲の空気も間違いなく引き締まる。どころか、彼の佇まいを見てか、他の男達の背筋もこころなしかまっすぐになった気がする。
「いざ、尋常に」
 エーレンは剣を抜かない。相手は武器持ちなのに、だ。
 曰く、彼の修めた鳴神抜刀流はその名の通り抜刀術を得意とするが、その神髄は速度・精妙・柔軟、即ち「刀」「抜き」でも戦えるものだ、と。
 両の手を構え、軽々に近付けぬ雰囲気を宿す彼を見れば、腰に吊った剣を抜かぬことが相手への軽視ではないことくらい女にも分かったはずだ。
「その自信、打ち砕くッ!」
 大上段から、視界に捉えるのも困難な速度で女は飛びかかる。エーレンは身を捌いて手刀を繰り出すと、両者は交錯。
 髪を何本か切り落とされたエーレン。腹部に皮一枚分、一筋のの裂傷を負った女。2人はともに狂気じみた視線を交わし、即座に2合目を打ち合わせた。
「思ったんですけど、イレギュラーズのエーレンさんが苦戦してたら…まぁ最悪負けもあるかもしれませんけど、それって普通に考えて、一般男性が勝つの無理では…??」
「そうでもなさそうだぞ。見てみろ、男達はあ奴の気構えと戦い方を見て多少は学んでいるようだ」
 戦いが熾烈になるということは、エーレンですら苦戦するという話なのだから危機感も募る。が、汰磨羈が指を指した先では、声をあげ、うまく躱して対処出来ている者が増えている。
 どころか、いつの間にかヴァレーリヤが用意した酒と肴にまんまと引っかかっている者まで。本当にそんな子と付き合うとか上に立つとかでいいんか?

「女が女に喧嘩を撃ってはいけないという決まりもないでありますよね――ヴィーシャ」
「ふうん、私に喧嘩を売るとはいい度胸ですわねエッダ?
どこからでも掛かってきなさい、私は逃げも隠れも致しまこれでも喰らいなさい!!!」
「読めているであります!!」
 ヴァレーリヤは、エッダに挑戦を受けるなり不意打ちじみた攻撃で酒瓶を叩きつけ、辛味オイル肉料理を尽くエッダに投げつける。
 本当にイレギュラーズとしての品位は一体……?

 いつもの2人がいつものことをしている間、エーレンは見事勝利を納め勇気をあたえ、他の面々もアチラコチラの支援に回ることで祭りの成功に貢献したらしかった。
 ……なお驚くべきことに、村長は殴り合いからハナ差で勝ち、他の男達も成就率が非常に高かったらしい。すげぇやイレギュラーズ。

成否

成功

MVP

長谷部 朋子(p3p008321)
蛮族令嬢

状態異常

なし

あとがき

 まさか男一人で、しかも非常にイケてる内容になるなんて私も想像していなかったよ。

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