PandoraPartyProject

シナリオ詳細

それいけ妖精探検隊!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●春の国からのお客さん
 深緑、大樹ファルカウ。
 その根が張り巡らされた麓の都の、木漏れ日に照らしだされた小さな広場。
 かつてハーモニア達だけが集まり太陽の恵みをその身に浴びる事を許されたその癒しの空間は、今では他国の使者が訪れ、深緑の中と外との情報を語り合う場へと変わりつつあった。
 そして、その中にはハーモニアとは異なる深緑の住民の姿も――

「ねえねえ、あれメープルじゃない?」
 依頼のきっかけはほんの数時間前、『おてんばメープル』メープル・ツリー(p3n000199)が翅を休めていた頃だった。
「やっぱりメープルだ、ホントに生きてたんだね!」
「誰だい、私を勝手に死なせる奴は……げっ!?」
 声が響いた後方を振りむき硬直したメープルの瞳に映ったものは、彼女と同じく昆虫の翅を持った小さな妖精たち。メープルが逃げようと思い立つ間も無く、あっと言う間に取り囲まれてしまって。
「あっはは、おっひさぁ……妖精探検隊の諸君……その、いやぁ」
 思いがけない再会に蜻蛉の翅を持つ妖精たちから目を逸らし挨拶をするメープルにお構いなしに妖精達は次々と彼女の手を握りしめ握手を交わす。
「帰ろうとか、お手紙とか出そうと思ったんだよ? でも大げさかなぁって思ってさ、だって妖精の六か月なんてさぁ……」
「相変わらずだなあ。メープル、今はイレギュラーズ、頑張ってるんでしょ?」
「う、うん。今はちょっとしたお仕事の帰りで」
 言い訳を並べようとするメープルに妖精たちは「丁度良かった!」と安堵のポーズを取って見せる。妖精達がそっとメープルから少し離れると彼らの中で少し大きな、見事なヤママユガの翅を持つ少年がふわりと彼女の前に立って会釈をする。
「話は後にしよう、メープル、ローレットのみんなを連れて来てくれないかな? アルヴィオンに来れるのは彼らくらいのものだから……」
「え? アルヴィオンから何か依頼するん? 何かあったの?」
 ヤママユガの翅の妖精はその言葉に頷き、メープルに事情を説明し始めた。
「友達のノームから助けて欲しいって。急に地震があったと思ったら、見たことのない遺跡が急に現れたんだって――」

●そして、数時間後
「そんで、遺跡から危険な物が飛び出してこないか、調べて欲しいんだよね?」
 青々とした草原の丘を駆け、キノコの森を抜け、その苔むした入口はイレギュラーズ達の前に姿を露わにした。
「あー、これかぁ」
 メープルが一目見て頷いたのはキノコの繁殖が同心円状にぴたりと止み、さらけ出された赤茶色の土の広場の中央にぽかりと真四角に開いた大きな穴。よく見ればそれは人かそれよりも大きな存在が入ってくるのを想定したかのように階段が続き、地下深くまで続いているようであった。
(なるほど、誰がどう見ても立派なダンジョンだ)
 それを眺めるイレギュラーズ――多分深緑や妖精郷に居た所をメープルにおねだりされて連れてこられた――はその苔むした階段の材質をじっと眺めて考え込む。昨日土の中から出てきたとはとてもじゃないが思えない、あまりにもなじんでいる、まるで数千年は前からそこにあったかの様な……。
「妖精郷じゃ良くあることだけどさー、やっぱり不思議な物なのかな?」
 メープルはその思考を読んだかのようにうんうんと頷き、妖精達に声をかける。
「それで、いつもの様にアレを持ってきたらいいのかな?」
「ああ、リーダー……じゃなくてメープルの言う通り、遺跡には大体危険と『おたから』が潜んでる」
 ヤママユガの翅の妖精はメープルに頷き、イレギュラーズに説明する。
「みんなは遺跡の危険を排除した証拠として、最低でも人数分『おたから』を持ってきてほしい。僕達はせめてここで万が一の傷の手当と、『おたから』の真偽を見極めるお手伝いをするよ」
 お宝は見ればわかるけど、たまに偽物があるからね。そう少年はほほ笑むと、最後に爽やかな笑顔を浮かべながら丁寧にお辞儀をするのであった。
「報酬になるものもちゃんと用意しよう、だから……どうか君たちは妖精探検隊の一員として、僕達を手伝って欲しいんだ!」

 かくして、妖精郷の遺跡探検はこうやって始まった。頑張れイレギュラーズ! 沢山見つけてねメープルが楽できるくらい!

GMコメント

 こんにちは、塩魔法使いです
 暑い夏に遺跡探検などいかがでしょう。

●依頼内容
『おたから』を9個手に入れる。

●迷宮について
 数日前に妖精郷に新たに現れた迷宮です。
 苔むした入口の向こう側は石造りの古ぼけたダンジョン、上下感覚が鈍くなる宇宙空間の様な幻の部屋、罠が一杯・慎重に潜り抜けないと大変な大部屋……などが入り混じったうす暗い空間です。光源は不要ですが、あれば魔物の目を眩ませることができるかもしれません。
 目標の『おたから』は決まって輝いている何らかの魔力を秘めたものです。金色の玉からねずみの尻尾、果てはイレギュラーズの苦手なものの形まで……色々想像して書いても面白いかもしれませんね。
 壁の窪み、透明な宝箱、魔物からのドロップ……持つスキルを最大限活用してみてください。

●エネミー
・ファンキー・ドラゴン
 ずんぐりむっくりとしたちょっとファンシーな邪妖精(アンシーリーコート)の化身です。ドラゴンと名が付いていますが当然竜種であるはずはなく、こういう姿のモンスターです。
 偽物とは言え竜の姿をしているだけはあり、巨体を生かした高い体力と体当たりによる攻撃力、回避が困難なブレスは手馴れであっても苦戦は免れらないでしょう。
 高い確率で『おたから』を複数個持っていると推測されますが、無視も一つの手です。
 こちらが攻撃を仕掛けるまで寝ていますが、初撃を受けた時に【カ至】を付与します。

・魔物たち
 邪妖精が作った幻のスケルトンナイト(アンデッド属性あり)や、かつて妖精郷に侵攻した魔種が作ったスライムなどの錬金術モンスターの残党がうろついていると推測されます。こちらを発見次第襲ってくる可能性があります。

●NPC
・メープル
 春の妖精なのに機械と秋を好む変わり者の妖精、イレギュラーズ。
 ヒーラーとして非常に優秀な治療術と念力による自衛の術を持ちますが、FBが高くAPが不安、典型的な期待値信者。
 何も言われなくても無難に治療を試みますが指示を出す事ができます。
 特に絡みが無ければリプレイ内の登場はありません。

・妖精たち
 依頼人、遺跡の調査と『おたから』の提供を希望している。
『おたから』は彼らの手で妖精女王に贈る魔法薬に加工するらしい。
 彼らは遺跡の入り口で『おたから』が本物か高い確率で鑑定してくれます(確実ではありません)。

●妖精郷アルヴィオンとは
 アルティオ=エルム(深緑)に眠る遺跡の果てにある、伝説の土地です。
 妖精達が平和に暮らしています。
 魔種に蹂躙されたアルヴィオンをイレギュラーズが救いました。
 妖精達はイレギュラーズに深い感謝と信頼を抱いているでしょう

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 それではレッツ・お宝探し! 頑張りましょう!

  • それいけ妖精探検隊!Lv:1以上完了
  • GM名塩魔法使い
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年08月04日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
海音寺 潮(p3p001498)
揺蕩う老魚
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
エルシア・クレンオータ(p3p008209)
自然を想う心
ルビー・アールオース(p3p009378)
正義の味方
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女

リプレイ

●春の風を抜けて
 身を屈め、土壁に手を付け鳥の鳴き声が響く階段を慎重に下っていく。季節外れの涼し気な空気がイレギュラーズ達の横を掠めていく。暗闇へどこまでも階段は続き、無限に地下に潜っていけそうな、そんな気がしていた。
 10段、20段、50段……最後尾を歩いていた『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)が何かに気づいた様に声を上げたのは、ちょうど100段を数えたその時であった。
「みんな、止まって! ……きゃあっ!」
 次の瞬間、突然階段の床が抜けたかのようにイレギュラーズの体は闇へと沈み、無重力へと放り出される。
「はは、手厚い歓迎じゃのう……さしずめ小さな宇宙といったところかのう」
 モルモットをクッション代わりに落っこちていくキルシェを横目に『揺蕩う老魚』海音寺 潮(p3p001498)の体が宙でひらりと一回転。見れば出口も入り口も見当たらない見渡す限りの黒い空間に星のような微かな明りがちらつき、足の付かぬ浮遊感に方向感覚が失われてしまいそうで。
「その大きな羽で飛ぶのじゃよお嬢ちゃん達、ほれ」
「ひゃんっ」
 潮はくるくる縦に回るメープルの回転を止めてあげると、目を回すメープルを支える様に『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)が肩を抑え、そっと離れ離れにならぬ様にと彼女に本体と妖精体をつなぐ鎖を持たせてあげた。
「よし……潮さん、皆はどこに?」
「散り散りという奴じゃのう、じゃが――」
 虚空に向け潮が手刀を飛ばすと何か黒い球が割れる音。次の瞬間体から浮遊感が失われ、サイズ達はすっと石の床へと着地した。
「……罠を解除する方が早いということか、ご老人」
 上機嫌な潮に応えながらゆっくりと倒れた体を起こした『ただの死神』クロバ・フユツキ(p3p000145)は肩を回すと、彼もまた楽し気な様子で遺跡を照らす光を灯す。
「探検っていうからには、これくらいじゃないとな!」
 その灯りを頼りに、大部屋のあちらこちらに落ちていた仲間がゆっくりと集まっていく。幻覚を見せていたであろう罠が解除された今となってはなんてことはない遺跡の一部屋だった、光が差し込む天井に空いている穴から、自分たちがそこから落ちた事は容易く推理できた。
「なるほど、妖精達が探検隊を作る気持ちがわかってきたよ」
 これほど未知と危険にありふれたダンジョンが定期的に湧き出るなら、冒険心をくすぐられるというもの。『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)は涼しい顔で身についた埃を払う。この程度のこけおどし、イレギュラーズ達にとっては彼らをわくわくさせる材料程度にしかなるまい。
「つまりこれだけ危ないって事はお宝もたくさんあるって事だよね!」
『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は皆の代わりに胸中を語り、ランタンを持つ手を部屋の出口らしき大穴へと向ける。いったいどんな『おたから』があるだろうか、そう心を躍らせて先陣を切って駆け込んでいく。
「行こう、みんな!」
 冒険の準備を手早く済ませ次々とイレギュラーズは大穴から次の部屋へと向かっていく、その中で一人、『自然を想う心』エルシア・クレンオータ(p3p008209)は天井に空いた穴を眺めながら考え込んでしまう。飛べる仲間にロープを垂らして貰えば脱出はできるであろう、しかし……このダンジョンはどこからきたのだろうかと。
「森の中に、土の中に住むノームさん達も気づかなかったこんなに大きなダンジョンが一晩で……一体どこから?」
 眉に唾をつけたいというのはこの事だろうか。
「気にしない気にしない! ダンジョンがいきなり出てくるなんてファンタジーっぽくて最高じゃん! 初めての冒険はこれくらいじゃないとね、スピネル!」
 幼馴染と一緒に揺れる心を抱え迷宮の中へと駆けていく『正義の味方』ルビー・アールオース(p3p009378)に声をかけられ、エルシアは小さくうなずく。
「そうですね、今はダンジョンの出処を気にする段階ではないですね……」
 そう、心配そうに呟くと遺跡の通路へと歩いていくのであった。

●苔むす岩を潜り抜け
 慎重に歩みを進める一行に幾多の魔物が飛び掛かる、岩から染み出した毒々しいスライムの群れ、石壁が集まり巨大な大理石の瞳で凝視するゴーレム。
「ちょろいもんじゃのう、それ」
 潮が腕を振り上げるとともに放つ光がその目をつぶし、狼狽えた所をエルシアの破壊的熱線が薙ぎ払う。燃え盛る魔物の匂いと灰が遺跡の中へと充満していく。
「……この遺跡の魔物が生命で無い事に、感謝します」
 灰まみれになった壁に手を付けながら、エルシアはそっと崩れ落ちたゴーレムの破片に手を乗せる。忘れようとも思えども妖精郷に積もる自責の念を感じ瞳を閉じる。
「エルシアさん、大丈夫?」
 スティアの心配そうな声とともに自らに魔力が戻っていくのを感じる、大魔法の行使による疲労と誤解させてしまったのだろう――エルシアはマイナスの思考を振り払うと、スティアの方へと顔を向け礼を述べる。
「はい、ゴーレムが何か温かいものを落としたのが見えまして……」
「これは、腕時計かな?」
 それは光を放つ金属のような腕時計であった。そこに書かれている暦は混沌のものではなかったが、まだ動き続けているようだった。
 スティアはエルシアから受け取った腕時計をサイズに手渡すと、サイズはしばらく触れた後に大きく頷いて。
「外から込められたものじゃない……少なくとも、この時計自体が持ってる魔力だな、これは」
「つまりこれが『おたから』……同じ魔力を籠っているのを探せば!」
 ゴーレムを動かすほどの魔力が籠っているのならそれは確かに『おたから』なのだろう。
「幸先いいね、これならすぐに集まりそう――」
 スティアはその腕時計を大切そうに懐に仕舞い先を急ごうとした、と同時に背後に走る悪寒。振り向けば灰が集まり、魔物の姿を形成しているではないか。
「みんな、後ろ!」
 だがスティアは危機感を感じていなかった。現れた骨人間が腕を振り上げるより早く、紅の閃光が刃を震わせるクロバの会心の一撃がアンデッドを縦に両断したのだ。その勢いはなおも止まらず、黒い風となった彼の体は大きな一歩を踏みこみ、奥に居たもう一体魔物を横なぎに切り倒す――
「これは、ニグレドだと?」
 どろどろと崩れ落ちたその正体を確かめ、クロバは目を見開いた。とうの昔に腐り果てたか殺し切ったはずだが、幸運にもまだ生き延びていた個体がいたのか。
 かつて妖精郷を狂わせた、その元凶となる男の影を感じ首を横に振るクロバの元にメープルが駆けつける。
「クロバさん――」
「メープルか、気にするな、こいつを倒すのは俺の――」
「――それ、かっこいー!」
 だが、キラキラ光るメープルの瞳の先は完全に魔物の残骸ではなくクロバの両手に握りしめられていた二振りの銃剣に向けられていた。クロバは少し惑うも微笑み、その全体像を彼女に見せる様に掲げて見せる。
「そうか、メープルは機械兵器が好きだったな。触ってみるか?」
「え、いいの!」
 あたふたと腕を伸ばすメープルの様子に妖精と話すきっかけを見つけたようで、ルビーもメープルの前に歩み寄るとその手に握る両手剣を彼女に見せて。
「お、機械が好きなの? じゃあこの子はどうかな、こうやってここを動かすと……」
「わ、わ、ちょ、あわわ」
 目の前で両手剣を展開されて大鎌に切り替えられた日にはもうメープルの目は渦を巻いてふらふらと混乱、クロバとルビーをいったりきたり。どっちにしようかと手を伸ばしかけたその時、ぽんとメープルの肩をサイズが叩いた。
「メープル、行くぞ」
「ほへっ……サイズ? べべ別に目的忘れてないし! 他の武器見て妬いてんのかー!?」
 素っ頓狂に声を裏返らせるメープルの慌てぶりに、通路に大きな笑い声が響く。緊迫した空気が和らいだのだろう、それからの探索はスムーズなものであった。開けた大部屋に出ると「止まって」と声を押し殺して伝えたのはウィリアムであった。
「ウィリアムさん、わかる?」
「ああ、ここから3歩先――だよね、初歩的な物だが、こういうものこそ侮れないね」
 ウィリアムとキルシェは頷きあうと、キルシェの意図を汲み取ってか、彼女の胴までありそうな巨大なモルモットが「ぷいぷー!」と飛び出し、ちょこんと座り鳴いて合図を出す。
「みんな! リチェの前の出っ張りみたいなものを踏んだらダメなのよ!」
 なるほど、いつの間にか灯りをつけられていたモルモット――リチェルカーレの前にはなにやら怪しげな三角形の石の出っ張りが。
 それを眺めていたルビーに、後ろで観察していたスピネルが何かを手に彼女に話をもちかけるのであった。
「なら、道中で拾ったこのゴーレムのかけらをチョーク代わりに目印をつけよう、鮮やかなオレンジで書きやすいよ」
「お、いいアイデアだねスピネル! それじゃあみんなで手分けして塗ろう!」
 ゴーレムの欠片を手に、イレギュラーズ達は手分けして罠を一つ一つ調べ上げていく。改めて見れば見るほど奇妙なダンジョンであった。確かに床は石畳のそれだが、この大部屋はまるで大聖堂のようでもあり、練達で見たライブ会場の様でも自然の大空洞の様でもあった。
「罠を解除したら念願の宝探しかのう、でもその前に……まずは一つ、腹ごしらえが必要か」
 潮はその巨体をふわりと浮かび上がらせ、足元の罠を踏まぬよう大雑把な円を描いていく。その最中、彼の隣でふわふわと飛ぶ小さな子鮫に声をかけるのであった。
「ポチ、印のないところにお弁当とシートを広げるのじゃ、水は……わしより適任がおるのう」
 潮は罠解除にいそしむ二人の顔を眺め、少し苦笑いを浮かべて見せるのであった。

「待たせたな、みんな……とりあえずそれらしい奴を持ってきたよ」
 慎重に罠探知と休息を終え、キルシェの出した聖水と軽食を囲み談笑していたイレギュラーズ達の所へサイズが鑑定した『おたから』を持ち込んだのは、それから数十分後の事であった。
「わあ、みんないっぱい集めてきたんだね、リチェの拾ったお花もあるの!」
 幾つも並ぶ『おたから』の中に自分たちの見つけた花があることに高い声を上げて喜ぶキルシェ。それに対しクロバはどこか不可思議な顔をしていた。
「花から薬草、宝石に聖杯。なんだこれは、ねずみの尻尾か? まったく統一感が無いが……妖精は何に使うんだ?」
「尻尾だろうと機械だろうとなんでもいいのさ、メープル達は中の魔力を――きゃっ!?」
 クロバの質問にメープルが応えようとした矢先、遺跡に大きな物音と振動が沸き起こる。それはまるで巨大な岩が転がりなだれ込んだかのようであった。
「げげ、ちょっとのんびりしすぎたかも……」
「メープルさん、どうしたの?」
 苦い顔をしたメープルに対しスティアが首を傾げる。ばつが悪そうに、メープルはこう応えるのであった。
「どーやら『おたから』探ししてたのがばれちゃったみたい、『わるいこ妖精』のお出ましさ」

●ドラゴン退治だ!
「……います」
 人差し指を立てたエルシアの言葉に盛り上がっていたイレギュラーズ達は静まり返った。大きな熱源を壁越しに感じ取った彼らは息を殺し、慎重に曲がり角からその魔物を覗き込む。それは黄色い鱗に青や緑のパステルカラーで色々な記号が描かれた太った竜の様な邪妖精の化身であった。
「うん、よく寝てる、近づいても大丈夫」
 先に近づき、竜の様子を観察したルビーの合図でそっと慎重に竜を取り囲む。見ればご丁寧に×印に絆創膏らしきものが貼られた大きなお腹が金色に輝いている、おそらくこの迷宮にあった『おたから』を丸呑みしたのだろう。
「どうやら寝床に戻ってきただけのようだ……無視して通り過ぎるのもできるだろうが……」
 クロバは言葉を区切ると皆の表情を無言で確認する。どうやら皆そのつもりはないらしい、もとより自分もそのつもりだ、妖精達は『遺跡の中の危険を排除してほしい』とも彼らに頼んだのだから。
「みんな、大丈夫そうだね? ……スピネル、みんなをお願い」
「うむ。ほれポチ、あそこのモルモットと遊んできなさい」
「可愛いドラゴンさん、一緒に遊びたいけど……リチェは向こうで待っててね?」「ぷー!」
 そっと非戦闘員達を大部屋の外へと逃がし待つ事1分。ドラゴンが周囲の音に反応したのか寝がえりを打ってその腹部をさらけ出した瞬間……クロバの蒼き刃が火を噴いた。同時に放たれた眩いまでの閃光が暗闇に慣れ切った竜の目をつぶし、錯乱させる。
『ンブモオオ!』
 凄まじい衝撃で吹き飛んだ魔物はもがき、その体に無数にある孔らしきものからガスを噴き出し凄まじい咆哮を放つ。大きく震える遺跡は、まるでここの主はこの邪妖精であるとこちらへ警告を放っているかの様であった。
「急に襲ったりしてごめんね? でもあなたをほっといたら妖精さんたちが安心して眠れないの!」
 目が見えない今のうちが好機、ルビーの両手剣の絡繰りが再び唸りを上げ、深紅のオーラを放つ大鎌へと変貌する。
(それに、スピネルにかっこいいところも見せたいしね!)
 力を貯め集中し、ルビーの体がブレた刹那、竜の腹に振り下ろされた鎌の先端が激突される。振り切れば勢いよく竜の絆創膏がはがれ、開けられた大穴に光る金色の何かが露出した。
「見て! アイツの中に『おたから』があるよ……ひゃ!?」
 メープルが杖を振るい、念力でそれを無理やり引きはがそうとした事に堪忍袋の緒が切れたのだろう。竜の黄色い体は赤く変色し、巨大な火の玉を作り彼女へと弾き飛ばす。紅蓮の炎がメープルへとぶつかる瞬間、蒼い輝きがそれを受け止めた。
「させるか!」
「サイズ!」
 火の玉を受けるサイズからは白煙が上がり、それを支える両手は今にも焼けこげてしまいそうにもかかわらず、サイズは歯を食いしばり踏みとどまる。
「メープル、回復を……」
「うん、わかった!」
 メープルから回復を受けながらサイズは――高熱故とはいえ赤く輝く本体を後ろにいる彼女になるべく見せぬように――反撃の構えをとり、爪を鋭く尖らせ追撃に出た竜の首にフルスイングで鎌を振り上げた!
 赤黒い軌跡が首筋に大きな傷を作り、燃え盛るそこに突き刺さり、花開くは魔物の生命に終焉をもたらす氷の花。邪妖精はカウンターをもらい地面に崩れ落ち、舐めくさった真似をと言わんばかりに巨大な尾をスティアへと振り下ろす、されどスティアの強力な結界を打ち破るにはあまりにも単調すぎるそれは舞い散る花弁に翻弄され芯をとらえきれず、次第にその動きは鈍くなっていく。
「うん、効いてる! みんな、すっごく強いけど頑張って倒そうね!」
 竜の姿を模るだけはあって凄まじい馬鹿力はあるようだが、頭も我慢強さも竜種には遠く及ばないようだ、ならばやり方はできている。疾風迅雷、こいつが暴れるよりも早くその腹を切り裂いてやること、それだけだ。
「頑張るのじゃぞ、お嬢ちゃんたち」
 彼女を支える魔術を展開する潮にスティアは表情に笑みを含み、再び振り下ろされた竜の爪を氷の花で弾き返す。まるでスローモーションのように弾かれのけ反る竜の爪へと向け、飛び上がったキルシェが魔法の式符を放り投げる。
「きっと今がチャンスよ! ドラゴンさんから石ころをもらうのだわ!」
「でもあの子のお腹、ぶよぶよして硬いよ!? 小さな穴はあけられたけどどうしよう?」
 好機をつかみ切れず、ドラゴンのブレスを間一髪で避けながらもどかしそうに叫ぶルビー。その打開策を思いついたのはエルシアであった。
「なら、私が次の隙にドラゴンさんのお腹を柔らかくします、みなさんは、そこを一気に!」
「なるほど、熱で柔らかくするということか、なら隙を作るのは僕に任せてくれないかな?」
 目を見開き、たとえ爪を割られ様とも巨体で押しつぶさんと暴れまわるドラゴンの懐にウィリアムは果敢にも潜り込み、その魔剣に出せる全ての魔力を込める。その刃が赤熱し、眩いまでに輝くと彼はほくそ笑み。
「お腹の『おたから』が割れちゃったら、ごめんね!」
 振り上げられた魔剣から走る強烈な衝撃が火柱の如く上がり、竜の体が打ち上げられる。あらわになった腹部を、ルビー達は今度こそ逃さなかった。
(心が痛みますが……この痛みこそがきっと勝利の証、そう信じます……!)
 エルシアの全身に纏わりつくマナのオーラが一つの形をとる。それはより強い閃光となり、束ねられて幾多の熱戦となると切り裂かれた腹部のただ一点のみに集中する、魔力を受けた『おたから』が幾千度の熱を放ち、ドラゴンの腹を内側から燃やし融解していく!
『ウ、オオ……!』
「おっと、逃げるってのか? それは渡すものを渡してからにするんだな!」
 のたうち回り、一目散に逃げだそうと体をひねった竜を待ち受けていたのは銃剣に弾丸を込め、竜が逃げようとするのを待っていたクロバであった。
 竜が翼を逃げる、その通りすがる一瞬を振動する刀身がさらに熱し爽快な音がなり響く、その音が止むよりも速く、無数の突きが腹部をずたずたに切り刻む。
「今だ、やってやれ!」

「オッケー! じゃあさサイズ、右と左、どっちがいいかな?」
「俺はどっちでもいい……合わせるよ!」
 バランスを崩し、クロバの後方で地面に叩きつけられ滑る邪妖精の腹部目掛けてルビーとサイズの大鎌が振るわれる。ぼろぼろのぶよぶよの腹部は一気に切り開かれ、邪妖精は寄生を上げながら大慌てで遺跡の壁という壁を破壊しながら逃げていく。
 しまった、逃げられた――そう思ったのも束の間。地面にごろんと、大きな光の塊が転がったのであった。

「ほっほ、こりゃあ見事にくっついたのう」
 邪妖精が逃げだし、大きく穴の開いた迷宮を上機嫌に潮は出口へ向かって歩いていく。その手の上では王冠や盾やらなんやらが溶け固まった輝くサッカーボール大の金塊がぽんぽんと跳ねていた。
「ちょっと力加減を間違ってしまいましたか……」
 戦いが終わり、精霊たちから魔力を奪われない様に腕時計を護るエルシアに対し、ほほと潮は笑い金塊をウィリアムに放り投げる。ウィリアムは持ち込んだ大きな袋に集めたおたからを丁寧に入れて包むと、再び肩に抱えて。
「必要なのは中の魔力、なんだよね?」
「そうさ、みんな魔女が持ってるみたいにでっかい壺に溶かしてどろどろにして、メープルが生まれた木の樹液と混ぜるんだ、そうして妖精のお薬を作るのさ!」
 メープルの言葉にキルシェはリチェルカーレが咥えた花を名残惜しそうに眺めながら、彼女に質問する。
「お薬! 風邪とかに効くのかしら?」
「あはは、確かに飲んだら妖精はすっごく元気になるからって『二日酔いもすっきりなの!』って飲むお友達もいるけどさ……」
 メープルはサイズを気にする様に視線を動かし――
「そういうのじゃないんだ、『いつまでも輝く魔力で、いつまでも長く生きていられますように』って……おまじないみたいなものなのさ」
「……延命を願うのか、妖精女王の」
 じっと見つめるサイズに相変わらず鋭いね、とどこか寂し気に笑う。女王の短命の定めについては、サイズもよく知っていただろうから。
「みんな……メープルも、こんな付け焼刃じゃダメだってわかってるさ、だから、外の世界でもっといい方法を見つけるまで、ここには戻りたくなかったんだけど、ね……うん、過ぎた事でくよくよしない!」
 メープルはしばし落ち込んでいたが、大きくうなずくとその腕を上げイレギュラーズの皆に感謝をし、出口へと急ぐのであった。
「それじゃあ帰ろっか、みんなまた死んだんじゃないかって心配してるよ、おっきなドラゴンさんが出てきたからさ! 早く出て大丈夫っていってやらないと!」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした! イレギュラーズが集めた『おたから』は『15個』分でした。
 妖精達はイレギュラーズ達の勇敢な行動と奉仕に感謝し、作った魔法薬の一部をイレギュラーズ達に受け取って欲しいと思っているようです。
「女王様の分は気にしなくていいよ、いつもよりずっとずっと多く作れたからさ!」
 また、妖精女王から『イレギュラーズに友好的な人であれば今回を含め妖精郷に入ることを許可する』旨も受け取ったそうです。
 参加ありがとうございました、またの機会をよろしくお願いします。

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