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シナリオ詳細

<蒼穹のハルモニア>夢現の檻

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 夢を見せましょう。
 夢に現に囚われて。もう二度と目覚めなくても良いような――その輝きは、君の瞳のような。

「遺跡探索ぅ?」
 何言ってんだと言うように眉を寄せたリア・クォーツ (p3p004937)にサンディ・カルタ (p3p000438)は「丁度、依頼書が張ってあったんだ」と指し示した。
 ラサのとある遺跡。未だ手付かずであったというその古代遺跡を探索し、最奥がどうなっているかを見てきて欲しいという依頼である。
「へえ、見てくるだけでいいのかい?」
「そう。宝も俺達で山分けして良いらしい」
 面白そうだろうと笑うサンディにシキ・ナイトアッシュ (p3p000229)は「見てくるだけなら良さそうだね」と微笑んだ。
 少しばかりの散歩だ。R.O.Oも大忙しではあるが現実世界で身体を動かさなければ身も鈍ると言う事で。
 一行はその遺跡へと向かった。予想以上にするすると攻略が可能であったことで、どうしてこんな依頼があったのだろうかとリアは疑問に思ったが――それも気にしすぎだろうかと言葉にする事は無かった。
「ここが最奥? 案外簡単に……」
「何か彼処にあるけど。あれがお宝かな?」
 顔を見合わせた三人は最奥に設置されていた宝箱に手を伸ばし――飲み込まれた。

 気付けばいつもの日常が広がっている。おかしい、とサンディは感じた。先程まで遺跡を探索していたのにだ。
「リア?」
 返答は無い。
「シキ?」
 返答は、矢張り無い。
 サンディは普段と変わらぬローレットの中を歩き回り、扉に手を掛けた途端に何かに背を押された。

 ――さっさと外に出て、助けを読んでこいバカ野郎!
 ――任せるからね。

 二人の声が聞こえて、振り向いたサンディは光を湛えたサファイアに気付き、直ぐにローレットへと向かった。


「――と言う訳なんだ。頼む、誰か力を貸してくれないか」
 サンディ曰く、リアとシキが『夢見るサファイア』と呼ばれた魔法道具に飲み込まれて仕舞ったのだそうだ。
 自身が外に出てこれたのは二人が抗い、無理矢理外へと押し出したからだという。
「それは、困った事態になったっすね……。夢見るサファイア、聞いたことはあったっすよ。
 夢の世界で幸せに過ごすためにって何処かの貴族が特注で作った深緑の魔法的な道具っすよね」
 リヴィエール・ルメス (p3n000038)の言葉にサンディは頷いた。調べてみれば、異世界を作り出し、その世界で自由に過ごせるという魔法道具であったそうだが、使い手がいなくなったことで『管理者』であった精霊が寂しがり暴走しているのだという。
 同じ事を繰り返さないために『夢見るサファイア』は破壊した方が良いだろう。だが、問題は精霊が暴走している故に、囚われたリアとシキを救出しなくては壊す事もできないという点だ。
「先ずは『夢見るサファイア』に入り込んで、リアさんとシキさんを救い出さなくっては為らないっすね……」
「救うって、どうやって」
「実力行使っす。リアさんとシキさんの幻躯を撃破して、無理矢理引きずり出す。
 ただ、そうすると、リアさんとシキさんそのものに攻撃をしているような……何とも言えない気持ちになるかも知れないっすけど……」
 夢見るサファイアが作り出した『幻』はローレットの中で人を殺す事も戦闘も無く幸せそうに過ごしている二人だ。彼女たちに攻撃を仕掛けて、倒さなくては為らないのだという。
 彼女たちは幻であれども、本人のデータを飲み込んで作られている。それ故に容易に倒せる存在では無い事は確かだ。
「でも、そうするしか救う事はできないんだろ?」
「はいっす。それしかないかと……けれど、その攻撃を受けている最中にリアさんとシキさんがどうなるかまでは……」
 そう悔しげに呟いたリヴィエールに礼を言ってからサンディはやるしかないと心に決めた。

 夢見のサファイアは、何の苦しみも無い世界に貴女を誘うの。
 そうして、いつまでもこの場所で幸福に暮らしましょう?
 もう、恐ろしい事なんて、ないのですから――

GMコメント

夏あかねです。部分リク有難うございます。

●目的
 ・リア・クォーツ (p3p004937)、シキ・ナイトアッシュ (p3p000229)の救出
 ・『夢見るサファイア』の破壊

●場所情報
 ラサのとある古代遺跡。サンディさん達三人が『遊びに行った』場所です。
 フィールドは普通に入り込めます。それ程広くは在りませんが夢見るサファイアに近付いただけで『囚われます』

 ・夢のフィールド(side:ALL)
 リアさんとシキさん以外には突然普通のローレットの風景が広がります。
 リアさんとシキさんが何気なく座っています。何気ない日常を暮らしています。
 皆さんに普通に声を掛けてきて、気安い友人のように微笑みかけてくれます。其処に本当の日常があるような……。
 分かっているはずなのに、どうしてか「此処が現実だ」と思い込んでしまう強い錯覚、そして『リアさん』と『シキさん』を攻撃しなくては為らないという躊躇いが皆さんを襲います。
 攻撃を仕掛ければ、反撃として立ち上がり皆さんに攻撃を仕掛けてくるでしょう。
 心ない言葉を繰り返すかも知れませんし、物言わず攻撃を仕掛けてくるかも知れません。
 彼女たちの背後にはサファイアの精霊がふわふわと漂い、攻撃を繰り返してきます。

 ・夢のフィールド(side:……)
 リアさんとシキさんには暗闇の中で、突然イレギュラーズが自身を攻撃してくる光景が見えます。
 それは容赦も無い攻撃のように感じます。攻撃を受ければ受けるほどに『恐ろしい風景』が見えます。
 例えば大事な人が死ぬ場面や、過去の恐ろしい事など。
 そうした事に飲まれないように抗い、仲間を信じて下さい。心情で対抗判定です。
 (※心情で対抗判定を行う事で『夢見の姿』にもダメージを与える事が可能です)

●エネミー情報
 ・『夢見の』リア・クォーツ
 ・『夢見の』シキ・ナイトアッシュ
 ステータスはリアさんシキさんとほぼ同様。二人の姿をし二人の声音をしたサファイアの悪霊による模造品です。
 彼女たちは痛がりますし、此方の名を呼んできます。倒すことで二人を救出することが可能です。
 二人はこんな所には居ないため幻であると認識できますが余りにも自然体で『ずっとここに居よう』と進めてきます。
 どうやら、『三人』で訪れたためにサンディ・カルタ (p3p000438)さんの攻撃が大ダメージを与えます。ですが、その度に「アニキなのに傷付けるのか」という囁きが聞こえてくるようです。

 ・『サファイアの精霊』
 夢見のサファイアに取憑いている精霊です。寂しさの余りに、近付いた人々を取り込み、ずっと一緒に居ようと望んでいます。
 かなり危険なマジックアイテムである事は確かですので、サファイアを破壊することが必須となります。
 リアさんとシキさんを失えば徹底的な攻勢に転じることが想定されます。

 ・夢見のサファイア
 遺跡に存在したマジックアイテムです。元は夢を見せるだけのアイテムでしたが放置されたことで精霊が暴走し、無差別に人々を取り込もうとしてきます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <蒼穹のハルモニア>夢現の檻完了
  • GM名夏あかね
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年07月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
優しき咆哮
※参加確定済み※
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
※参加確定済み※
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
※参加確定済み※
プラック・クラケーン(p3p006804)
昔日の青年
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
咲き誇る菫、友に抱かれ
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀

リプレイ


「うわ、真っ暗。サンディ君は上手く遺跡から出られたかねぇ。
 ……ま、大丈夫か。他でもない君だもんね。リアはまだ遺跡の中にいるはず……。ひとりよりいいよね、どうにか探そう」
 蒼い瞳は、決意を湛えて。『雨は止まない』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は一人、暗澹たる道を行く。

「――リアちゃんとシキちゃんが!?」
 身を乗り出した『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)のかんばせには驚愕の色が滲んでいた。依頼を持ってきた立場である『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)は思わずたじろぐ。頷く彼曰く、シキと『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)と共に行った探索で彼女たちがマジックアイテムに囚われてしまっているのだと言う。己は彼女たちの奮闘で辛うじて外に逃されたのだと気落ちするサンディの言葉を並べて『青き砂彩』チェレンチィ(p3p008318)はふむと小さく呟いた。
「夢見るサファイア……ですか。その中にリアさんとシキさんが囚われているんですよねぇ。
 たまたま通りかかりにサンディさんに声を掛けられ、これも何かの縁。ボクでよければお力添えを」
 穏やかに微笑んだチェレンチィに「有難うな」と笑いかけるサンディ。レディであるチェレンチィは本人がそうで在ると言わなければ『女性』らしさも匂わせぬ笑みを浮かべている。
「……決して、知らない仲ではありません。
 幻を使う相手のやり方を知っていて、助ける方法も分かっている。であるなら、何を躊躇うコトがあるでしょう……必ず助けだします!」
 その為の困難など、知った事かと『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)は宣言した。
 一行が訪れたラサの遺跡は容易に最奥まで辿り着く事が叶う。チェレンチィが「アレがサファイアですか?」と囁く。
 そのサファイアの中に入れば『決して容易ではない選択』の前に立つことになるだろう。
『影を歩くもの』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)はそのミステリアスな美貌に「何を今更」と言いたげな表情を張り付けてから暫し目を閉じる。影に寄り添うように過ごしていた彼女らしからぬ『誰かを思いやる』心を滲ませて小さく笑う。
「迷いなどありませんよ」
「ああ。迷うわけがねぇ。サンディさんに頼まれたから助けるんじゃねぇ。
 仲間は助ける、必ず助ける。いつだってそうして来たし、これからだってそうする。だろ?」
 それがローレットのヒーローであると『救海の灯火』プラック・クラケーン(p3p006804)は悪戯めいた笑みを浮かべた。
 サンディはならば行こうと手を伸ばし――眼前の景色が、変化する。


 誰にも言うつもりもなく。誰かに悟られるつもりもなく。
 サンディ・カルタにとって『レディは平和な世界で気ままに暮らすのが一番』であった。レディは平和な世界で、戦いなんて無縁で、微笑んで待っている。世界のために闘って、だとか、仲間のために傷付いて、だとか。そんな役割は男だけで十分だと――そう思って居たのだ。
 だからこそ、彼は酷く狼狽した。穏やかな日常の広がるローレット。リアとシキは仕事を受けず「おかえり」とサンディに微笑みかけてくれるのだ。
 有り得ない光景に真っ先に幻影だと気付いても、その幻影以上の平和なんてものはサンディ・カルタという男が今後、一生を掛けても命を投じても得られる物ではない。あの二人に用意してやれない事位分かっている。『俺』という存在がそれだけちっぽけである事にも。
「サンディ君」
「バカ、入り口に突っ立ってないで」
 ああ、ほら。二人が笑ってる。平和に生きて欲しいんだ。俺の知らない平和な日常って奴をさ。
 ……そんなの、今になって考えればサンディにとっての夢でしかなくて、二人が望んでいるかすら分かりゃしない。

「って、あれ? ローレット? それにリアちゃんとシキちゃん……これが幻躯?
 2人を返してもらうためにも、倒さないといけないんだよね。え、こんなに『普通に見える二人』を……?」

 焔の声にサンディの意識は引き戻される。此処に仲間を連れてきたのだ。こんな幻影に甘えていられるわけも無い。
 サンディ・カルタの甘い夢。平和な世界で平和に過ごしたリアとシキ。そんな『サンディの幻想』を砕く仲間を連れてきたのは紛れもなく自分自身なのだから。
「ああ。そうだな。くそ……頭で理解してても此処が現実だと思っちまう。どう見たって、二人とも『普通』にいるじゃねぇか。
 ……なるほど、コレが夢見るサファイアか。皆が手を出し難いなら不意打ち気味に真っ先に殴りに行くぜ、悪いな」
 いいか、と問うたプラックにヴァイオレットは「ワタクシだって迷いません。お二人を撃破するのでしょう?」と唇を三日月に歪めてみせる。
「……いいのか」
 誰かの手が汚れるなら率先して手を汚すことを選ぶプラックに。
「宜しいのですよ」
 元から、手なんて汚れていると自嘲気味に笑ったヴァイオレットは真っ直ぐに見詰める。
「ええ。ええ。ここはローレットで、普通にリアさん、シキさんが居ます。幻とはいえ、同じギルドの方に刃を向けるのは些か不本意ではありますが……やるしかありませんねぇ」
 チェレンチィは肩を竦める。二人を救うためにはどれだけ途惑おうともシキを、リアを倒さねばならないのだという。
 唇を噛んだドラマは「……見ると躊躇しますね」と肩を竦めた。躊躇せども、倒さねばならないことを彼女は知っている。
「サンディさん」
 ドラマの声にサンディは首を振った。人助けセンサーに二人の声は聞こえない。惑う焔はぎゅ、と力を込めて「作戦は了解してるから」と顔を上げた。

 どすん、と音がする。
 尻餅をついたのだとリアが理解するまで僅かな時間が生じた。一面の闇の中で、思い返されたのは『同じ顔をした自分』だった。
 鏡面の迷宮でミロワールと対話したことを思い出す。鏡の彼女は、悪辣で、正直で。
「あんたから自分の旋律が聴けるかもって期待したけど……残念ね。耳が腐りそうな、きったねぇ雑音よ、あんた」
「でも、『あんた』もそんな旋律だったら?」
 ――違う、あたしはそうじゃない!
 頭を抱える。頭を抱えた後、リアは顔を上げた。目の前にサンディが見える。ドラマが、焔が、プラックが、その背後で此方を伺うのはチェレンチィとヴァイオレットか。
「皆?」
 リアの喉が引き攣った。冷めた瞳。尻餅をついた理由はサンディが己を押し倒したからか。リアの体内でさあと血潮の引く音がした。指先に震えが生じ、足に上手く力が入らない。
 嘗て、あたし自らの手で拘束の聖女に突き出した罪無き人々を思い出す。
 嘗て、魔種となった両親を殺し、生まれたばかりの赤子を殺し、全てを奪った少年を思い出す。
「リア、お前――」
 人殺しだと指さすように。体を地へと叩き付けられる。
「ち、違う! あたしは、救いたかったの! 救いたかっただけなの……サンディ……みんな……そんな目で、あたしを見ないで」
 震える、掌から力が抜けた。『アンタ』ってそんな目をするんだと唇から滑り落ちた言葉がリア・クォーツの罪を白日の下に晒しているかのようだった。


 限界を超えて、更なる高みを目指すようにチェレンチィは蜃気楼の魔術を帯びたマントを揺らがせた。風を断つが如く、シキへと投じた一撃。
 そしてその鮮やかな蒼い瞳は同じ色合いをしたサファイアを見据えていた。
「どうして攻撃するんだい? ……ずっとここに居ればしあわせなのに」
 シキの言葉にチェレンチィははたと足を止めた。己は、二人の旧友では無い。だが、二人を慮る仲間達が其れを許せないと首を振るのだ。
「ずっとここにいよう、ですか? ずっとここにいて何になるんでしょう。
 お二人について詳しくはないですが話は耳にします、こんな所で停滞を望む方々ではないこと位は分かりますよ」
「……そうかな?」
 首を傾いだシキに「そうですよ」とヴァイオレットは囁いた。影纏いのタロットが宙を踊り、全てを否定する――完全なる自由を謳歌する乙女がシキの眼前へと飛び込む。世界法則なんて知った事も無く、デア・アルセーヌは無数の手でシキへと縋る。
「約束したでしょう、アナタの運命を見届ける、と。こんな所で立ち止まるアナタを傍観するのは、約束が違いますからね」
 運命を見届けるという約束は彼女の弟の、柘榴石の話を聞いたときから続いている。漸く、雨の中から抜け出した。その手を引いて歩くリアとサンディを見詰めているだけでもヴァイオレットには眩かったのに。
(ああ――やれやれ、無粋な介入が入ったものです。
 ワタクシが見届けると約束したのは、アナタの続いていく旅路、その果てです。
 停滞を促すなどという存在が出てきたからには……傍観者のままで居る訳にはいきますまい)
 シキ・ナイトアッシュという女が、これから普通の少女になって行く様を見届けたかった。シキへと叩き付けた攻撃は、暗闇に囚われたシキを傷付ける。それがこの『サファイア』の悪辣なる所以だ。ならば、全ての苦痛は早い方が良い。プラックは「シキさんは任せた」と囁いた。
 リアの前に立ちはだかって、プラックは模倣奇跡:蛸髭でリアの前に最大最高の手数を繰り出すだけだった。子鬼の如く狡猾に。謳う様に美しく。シンプルに殴るだけ。それがリアを包む暗闇を濃くしても、彼女はその中から抜け出せると信じていたからだ。
「助けるにはこうしないといけないのはわかってる、けど。やっぱり2人と同じ姿をしてる相手を攻撃するのは……」
「焔」
 微笑んだリアを焔は真っ向から見詰めていた。「焔、こっちに来なさいよ。莫迦なことしてないでさ。のんびり茶でも飲みなさい」と母のように叱る優しい声。テメェなんて言って、何処までも共に進んで笑ってくれる彼女じゃ無い。
「いや、やっぱり違う、これはリアちゃんじゃない! 確かによく口が悪くなってるけど、本当に友達を傷つけるような事を言ったりなんてしない!」
「ふ、」
 サンディは小さく笑った。焔の判断材料が『あまりにもオトモダチ』だったからだ。恵まれてるな、と呟いて、シキの幻影に向けて幾重も攻撃を重ね続ける。
「リアさん、シキさん。アンタらは俺が何を言ってるか分からないと思うが……聞いてくれ。
 俺達はアンタを助ける為に此処に来た。操られてる訳でも、勘違いしてる訳でも無い。
 俺達は自分の意思で、そうしたいと此処に来てんだ……だから信じてくれ、俺達を」
 プラックはそう懇願した。地を蹴ればブリッツボーイ・ガントレットが火の玉ストレートで真っ直ぐに飛び込んでゆく。
「信じてくれないなら、悪いが……押し通る! なぁに、譲り合えないなら喧嘩だ、喧嘩。
 尊厳だったり、女装だったり、コスプレだったり、命だったりを賭けるが……馬鹿らしくてローレットらしいとは思わないか」
 ああ、そんな未来を焦がれるように。チェレンチィとヴァイオレットはシキとリアに向き直る。
「全く。お二人とも随分と腐抜けたのですね……。
 シキさん……初めて見た貴女の笑みは何処か冷たく、少し怖さもありました。ですが最近は、とっても温かな笑顔を浮かべるようになりました。
 リアさん……少し恥ずかしい、恋する気持ちを曝け出しあった、同盟の仲間。
 貴女の護りたい人は、此処に居ますか? 貴女の愛した人は、此処には居ないでしょう!?」
 恋する乙女は強いのだとドラマは声を張り上げた。リアの愛しい人の美しい音色はこんな所では聞こえない。シキの微笑みだって温かく、何時までも見て居られるようになったのに。
 実戦訓練の結果、師の力を模倣する。ドラマはリトルブルー衰μIIを構え、地を蹴った。術式を理解、そして効率化。ならば放つのはむこなる混沌に記憶された痛みだ。
「――早く帰りますよ!!」
 花咲くように痛みが赤い軌跡を描いた。ルビーのように光輝けばシキの動きが止る。柘榴色の軌跡の中でサンディは「シキ!」とその名を呼んだ。

「って、え、なに? 何で攻撃してくるんだい!?」
 瑞神より授かった刀を構え、防戦に徹するだけのシキは「サンディ君? 皆?」と名を呼んで――溜息を吐いた。
 雨が降り荒む。転がる頭と血溜まりに「……ほんと、冗談きついなぁ」と唇から滑り出した言葉は、何処までも曖昧であった。
「どうして、見たくないものばっかみせるのかな……恐ろしい、苦しい記憶。こんな世界もう見たくないのに」
 それでも、シキは手を伸ばした。唇を噛み締めて頭へとそっと手を伸ばす。抱き締めれば、温かく、罪の証のように体に紅がべとりと滲む。
「けど、さ、この身がどれだけ罪深く血塗れだって。リアとサンディ君は手を引いてくれたから。
 私はもう何があってもその手のぬくもりを信じるって決めているんだ。
 勿論、私の運命を見届けると約束してくれた占い師さんのことも、ローレットの皆だって信じたい。
 私がそう思うなら、私は私を信じるだけさね。それにさ、弟のことも背負えるようになりたいんだ。……いつかはね」
 ザクロ。
 唇が音を、空に奏でた。視界が僅かに変化する。首を抱いて居た腕が、誰かにつかまれたことに気付く。

「シキ!」
 ――君の声は、もう聞き慣れてしまった。
 青空のような眸が笑っている。サンディがシキを連れ出して、目の前の『笑うリア』へとシキは向き合った。


「――って、しっかりしろ! リア・クォーツ! 現状を思い出せ! これはきっと精霊が見せる幻覚!」
 暗闇の中を手探りでリアは奔った。バカらしい贖罪なんて必要としていないのだ。手を伸ばせばシキとサンディが引っ張り上げてくれる。
 だからこそ、リア・クォーツは『全てを背負う』
「あたしは、裁かれるわけには行かない。裁きとは、罪人の魂の救済。
 十字架を背負うと決めたからには、あたしはこんな物に赦しを求めてはいけないの」
 右手を、シキが。左手を、サンディが。そうやって引き上げてくれる彼等の蒼い瞳が、サファイアのように煌めいた。

 ――あぁ、でもサンディ。貴方があたしを裁いてくれるのなら、どんなに良いだろうね。

「此処にはアナタの守る方々は居ませんよ、リア様。早く起きて下さいな」
 微笑むヴァイオレットに、「起きたわよ」とリアは肩を竦めて。こんな所で眠ってはいられないのだから。
 有り得やしない幻想から抜け出せば、焔が一人サファイアの精霊の前に立っていることにリアは気付いた。
「リア、大丈夫?」
「あたしは大丈夫。シキは……?」
「大丈夫だよ」
 けど、と呟いたシキを気遣うヴァイオレットはゆっくりと顔を上げる。鮮やかな、蒼い精霊。ふわふわと浮かんでいるそれを焔は真っ直ぐに見据える。
「ずっと、1人で寂しかったのはわかるよ、だけどどうしてこんなやり方をするの!
 こんな事が出来るなら、もっと楽しい事にも使えるんじゃないの? そうすれば皆とお友達になって、笑いあったりも出来たはずなのに……」
「ここからでられないんだ」
「でられない……?」
 唇が戦慄いた。もしも、夢見るサファイアを壊したとして、精霊が残っていれば共に来てと手を伸ばしたかった。寂しさなんて忘れてしまうほどの、驚きの濁流で包み込んでやりたかったのだ。
「ッ――けど……」
「けど、そうはならなかった。ええ、物語では良く在ることです。
 寂しさに狂っていなければ、宝石は何事もなく持ち帰られ、何れその寂しさも癒えていたかも知れません。
 何の苦しみも無い世界、そんな耳触りの良いモノは夢幻で、我々は現実に生きるのですよ。故に、貴方はその罰を受ける。人を惑わせた、罰です」
 ドラマは花瞼を伏せ首を振った。精霊から伝わってくる気持ちは寂寞ばかり。だが、その精霊は他者を惑わせ閉じ込めた。有り得もしない永遠に、人の刻を喰らおうとしたのだ。
「完璧なアニキなら傷つけずに守れたんだろーけどさ――そいつはもうオシマイなんだよっ!
 テメェは必要ねぇ! 俺が『アニキ』としての最後の仕事でテメェに教えてやる!」
 真っ直ぐに飛び込んだサンディの拳は『夢見るサファイア』を叩き割る。ぱきり、と軌跡が入る。
 傷付けずに守れるほどの力も無い、甘い夢ばかり見て居るアニキに決別するように青年はその様子を静かに見詰めていた。

「よかった、リアも無事だったんだねぇ。ま、私の親友はとっても強いから心配していなかったけど。
 サンディ君もありがとう。君なら大丈夫って信じてた。暗闇の中だって怖くなかったよ。……だから笑って、ね? 私はそれが一番嬉しいんだよ」
 そっと、手を握るシキにサンディは頷く。リアは酷い頭痛を覚えて二人の顔を見詰めていた。如何したことか、シキとサンディの旋律が激痛を齎すのだ。
「リア?」
 リアは首を振る。その背を眺めて居たプラックはサファイアの破片を握り、胸を撫で下ろした。
「夢は覚めるモノ。無理でも無茶でも死ぬ気でも……残酷に前に進むのさ、人間は」
 ヴァイオレットはそっとカードを引いた。示した未来が幸福に溢れていることに胸を撫で下ろし、唇に笑みを乗せる。
「サンディ様に、リア様。アナタを晴れた空の元へお連れ下さったお二人が居れば、きっと……その運命が悪しきものとはならないでしょう」
 ――だから、約束しよう。見届けるから、どうか、迷うことなく歩んで欲しい、と。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 部分リクエスト有難う御座いました。
 アニキにとって、何かの転機になれば嬉しいです。

 これからも、素敵な旋律を奏でていって下さいね!

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