シナリオ詳細
<ヴィーグリーズ会戦>束縛ディスティネーション
オープニング
●
イミルの民。
かつて幻想王国が王国として成る前に存在していた豪族が一つ。
彼らは秘術によって巨人へと変じた。
己らを罠に嵌めた別なる一族への抵抗と復讐の為に……
「しかしかの怨敵クラウディウス氏族はとうに滅んだ。
いや。もしかしたら血ぐらいは残っているかもしれないけどね。
明確に残るは勇者王の末裔――と、彼が成したこの国そのものも、か」
「いずれにせよ我が一族に退却の道は無し」
そして今その一族は封印が解かれ。
長たるフレイス・ネフィラの号令の下に――王都へと進軍しつつあった。
全ては過去の因縁から故に。この国に鉄槌を下すべく……
その内容を語るのは『ある男』と、魔物へ変じた巨人の中では比較的知性が高いように見られる個体――まだ人だった折にはクルベスという名を持っていた者だ。
周辺には他にも似たような巨人たちが群れを成している。
正に軍勢。尤も、この段階に至るまでの数々の戦いによって巨人や、それらと共に行くミーミルンド派の戦力は大きなダメージを受けている。多くの巨人がいる様は壮観でもあるが……もはや後は無き、最後の力でしかない訳でもある。
ともあれこの動きを幻想軍が静観しているはずもない。
向こうも防衛線を張るべく戦力を展開しており――
そして今、ヴィーグリーズという丘にて会戦が繰り広げられようとしていた。
「ふふっ。さてさてどうなるのかな。
ここで仮に君たちが勝利したとして――その先には何がある?
もう人間に戻れる訳でもないだろうに」
クルベスらが布陣しているのは巨人戦力側でも後方側……
所謂かな、補給線の防衛を担当しているのだ。同時に後方を突かんとする幻想軍がいればそれを阻む役割も持っている。
――故に前線で戦いが始まりかけている今でも些かの語らいの余裕はあった。
『男』はまるで他人事のように、しかし或いは興味ありげに――クルベスへと言を紡ぐ。
どうするのか、と。
「何を求めて戦うんだい? 栄光? 復讐?」
「愚問。我らは常に姫と共にある。姫が行かれるならば我らも往くだけの事」
例え行く先が地獄の先であろうとも。
……ここを守っている巨人はクルベスを含め、かつてフレイス姫の近衛的な存在であった者達を中心に構成されている。つまりイミルの民の中でも特に姫に忠義を尽くす者達だ。
だから彼らはこの戦いが勝てるか負けるかなどどうでも良いのだ。
ただ姫が行くならば。
どこまでも供をするのみ。
「無用な言を弄すな。貴様には『我らと同じ血』が掠れる程だが流れていると聞く。
故にこの場への参席を許されたのであろう――振るうは武のみではないか?」
「はは――そうだね。うん。そうだそうだ、じゃあ私も私の役割を果たすとしよう」
フードを被る『男』は――クルベスと比べれば小人程度のサイズだった。
つまりは通常の人間だろうという事が伺えるが……はたして彼は何者か。
突如として現れた謎の協力者。
フレイス姫が『好きにさせよ』と言ったが故にクルベスも放置しているが。
「じゃあ、少し離れるよ」
「どこへ?」
「きっともうすぐ彼らが来る――戦に勝つには大体包囲殲滅こそが最上だよ」
イミルの民にとって味方の様な、そうでないような。
嫌な気質をその男は纏っていた。
名をたしか――アルテリウス。
アルテリウス=エスカ=ノルンと名乗っていただろうか。
●
「突撃ッ――!! ここを崩せば敵の防衛に穴が開くぞ!!
栄えある幻想の騎士達よ、我らこそが国防の要であると証明せよ――!!」
激しい剣撃。鳴り響く軍靴の音。
軍馬が突撃し弓が放たれどこかで誰かが地に倒れ伏す音が次々と――
ついに始まったヴィーグリーズ会戦は正に熾烈であった。
優勢なのはどちらか――『角笛』を掲げ、こちらこそ正統であると強弁するミーミルンドと、フレイス姫率いる巨人を擁する側か? それとも新たな世代の勇者と共に幻想の未来を担うべく戦う側か?
どちらも戦いの趨勢を、流れを引き寄せるべく各地にて激戦を繰り広げている。
――そしてその一環として、幻想軍の一部は巨人勢力の後ろを突く作戦に出た。
勇士を募った上での奇襲作戦。
ここを崩せば敵の陣形にも乱れが生じ始めようと……無論、ここを守る巨人達も相応なる力を持っており突破は容易ではない、が。
「イレギュラーズもいるのだ! 臆するな、進め――!!」
英雄たる彼ら――イレギュラーズもいるのであれば幻想軍の士気は高かった。
その一人がリウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)だ。
彼女は幻想貴族たるノルン家の一人……だ。尤も、イレギュラーズとして召喚されてからは実家と関係が断絶したような状態にあったのだが――本来の『当主』が突如として失踪してからは名代として領地の運営も行っている。
ともあれその関係からか、ここにはノルン家の騎士も馳せ参じていた。
或いは彼らがいたからリウィルディアも来たか――
いずれにせよ多くの者が入り乱れた戦場となりつつあった。
周囲では常に殺意と闘志に満ち溢れており、油断は禁物。
流れ弾の一発が命を奪う事になるやもしれぬ――場所にて。
「……リウィル?」
刹那。リウィルディアの注意が戦の最中に目前より逸れた。
何事かと言葉を紡いだのはアオイ=アークライト(p3p005658)だ。
彼女は後方を振り向いている。
じっ、と。まるで、何かの到来を感知しているのかの様に。
「……何か、嫌な予感がする。皆、気を付けてくれ。後ろから敵が来るのかもしれない」
後方から――何か、胸騒ぎがする様な気配を感じている。
ここは敵陣の方に近いのだ。増援がある可能性ぐらい勿論あるが、しかし。
それだけではないような『何か』を――リウィルディアは確かに感じていたのだ。
- <ヴィーグリーズ会戦>束縛ディスティネーション完了
- GM名茶零四
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年07月06日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談6日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(10人)
リプレイ
●
退けば故郷が害される幻想軍の士気は高く。
もはやどこにも退く故郷が無き巨人共は――強い。
互いに退けぬ理由があらば勝つのはどちらか。
「ついて来い! この戦いは紛れもなく歴史に残るぞ!!
未来に語り継がれる御伽噺に乗る誉れはこの瞬間にしかない――俺達が伝説だ!」
故にこそ。流れを引き寄せんと先導する一人が『竜剣』シラス(p3p004421)だ。
勇者として名高き彼の一声は周囲で戦う者らにとっての希望。
――おお新たな勇者と共に闊歩せよ。
――勇者万歳! この国の新しき未来の為に!!
士気が猛り挙がるものだ。
特にシラスは竜剣と称えられし頂点に座し者。周囲で戦う中で――特にフィッツバルディ派に属する騎士達は彼の一声に奮い立つものだ。巨人達を押し込めと全霊を賭して。
「――足を止めてはなりません、進軍せよ!
勇者の国の……その礎を築いた者らの末裔たる力を見せるのです!」
更に『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)も剣を掲げて皆を奮い立たせる。幻想の騎士なればファーレルの名を――そして彼女自身の名を聞いた事もあるだろう。
紅炎の勇者――ファーレル家の令嬢――リースリット。
見た目麗しき彼女が凛とした一声を放てば、まるで戦場の女神が如く。
シラスとはまた別の統率を見せて彼女は往くものだ。
この戦いを制する為に。
幻想の騎士達と共に――勝つべく。
「なんとも、派閥の垣根を越えて集められた精鋭――と言えば聞こえはいいですが。
隣で戦う方がどこの方とも判らないとはすごい寄せ集めなのです」
「人間の事情はさっぱりだけど――でも皆気合は入ってるみたいね!」
同時。奇襲の勢いを保ったまま『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)が前へ、前へと進み続け――『スピリトへの言葉』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)もまた目指すは敵陣中枢。
この奇襲作戦を成功させるために巨人たちの統率者を倒すのだ。
ここはあくまで敵陣であり、時間が掛かれば敵の方が数で優勢となるだろう……防衛の態勢が整う前に一気に食い破るのだ。『穴』を開ける事が出来れば、作戦のリターンも多かろう。
「それではいつも通り、ゆるりと参りませうか」
折角にも勇猛な物達が集っているのだから、と。
敵将の首を狙う――邪魔立てする者があらばこじ開けよう。
ヘイゼルが敵の気を引き付け、オデットが撃を叩き込む。
それは熱砂の精霊を使役して。彼方の、巨人達しかいない所へと――打ち込もう。
多くを巻き込むソレは、この乱戦の状況下では中々に連発はし辛いが。
されど狙えるのならば穿つ。
味方の数も多いが――しかし同時に、敵の数もまた多いのだから。
「厄い気配も『あちら』からしてくるとなれば……
成程。敵の狙いもわかるものだな。ならば尚の事、早急に眼前の敵陣を食い破る!」
「ああ――行こう。勝利への道を切り開くんだ」
そしてオデットらの開けた穴をより深い傷跡として先陣を切るのは『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)だ。最前列で突撃の矛とならんとする彼女は、巨人らの肩や首などを狙おう。簡易なれど飛行できればある程度は狙える。
更に巨人達を邪魔だとばかりに粉砕せん一撃を放つのが『神翼の勇者』ジェック・アーロン(p3p004755)である。彼女の目線は常に敵の指揮官級にあり――その者への道を一直線に狙わんと。
「忘れないで。キミ達が一緒に戦っているのは──勇者だよ」
言葉と共に――穿つのだ。
無数の弾丸が距離を超越し、跳ねまわる様に。
跳弾の連続が敵の身を貫こう。
神翼の勇者たる者が此処に在るのだと示さんばかりに。
――道を作ろう。
声を掛け、皆を鼓舞するようにしながら共に戦うのだ。
「させぬ。貴様らは此処にて――果てよ」
されど、巨人達とて早々に抜かせはせぬ。
巨人達の中では小柄――しかし随一の力量を持つがクルベス。
彼がジェックの放った銃弾を切り落とすように抜き放つは太刀の一閃。
――通さぬ。これより先は我らが女王が控えるのだと。
「頭が高い。死ね」
「いいえ。滅びるのは――あんた達よ!」
直後。第二の刃をもって人間を打ち倒さんとし――しかし止めたのが『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)であった。
それは流星の如き一撃。刀には剣をもって幾度と打ち込む。
金属音が鳴り響くのだ。
――剣撃の応酬。銀の長剣の軌跡が場に煌めき、交差する度に死線を巡る。
「あんた達に幻想の大地を踏み荒らさせない。
これ以上進ませてなるもんですか……ここで大人しく倒れていなさいッ!
あんたの道は――此処で終わりよ!」
護るべき者達がこの国にはいるのだからと。
直上からの振り下ろし――を躱したリアは直後に一閃。クルベスへと傷を齎して。
「伝説の巨人達が相手とは光栄だね。だけれども……君たちの好きにはさせられないんだ」
直後。『洗礼名『プィリアム』』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)より放たれる輝きがクルベスの周囲へと満ちる。それは敵のみを穿つ、聖なる輝き。
皮膚を焼くような鋭い痛みが生じたと思えば――それだけでは終わらない。
「そして時間をかけるつもりもない。一気に行かせてもらうよッ!」
「笑止。この程度で討ち果たされるものか」
踏み込み、彼が行くは神秘の力を携えて、だ。
それはゼロ距離で放つ極大の破壊魔術。防に優れている者だろうが、打ち砕けるほどの威力を秘めた極撃だ。無論、至近へと至ればそこはクルベスの領域でもある――ウィリアムが放った一撃があらば、反撃にと振るう一撃もまた存在するものだ。
どちらにも高き戦意があり、どちらにも退けぬ理由がある。
次第に深まる乱戦の状況。あちらでもこちらでも籠る熱意と殺意が場を混迷とさせて――
しかし。
「……来る」
その時、『銀なる者』リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)は気付いた。
周囲の活力を奮い立たせる号令を放ちながら――後方より至る『影』があるのだと。
それは敵の増援。後ろを突かれれば完全に包囲される形となろう。
させる訳にはいかない――だから声を飛ばし、後ろにも対応しなければならぬ……
だというのに。
(この、感覚は……)
リウィルディアは胸中にある焦燥感の『正体』に勘付いていた。
まさか――どうして『あの人』が――
「リウィル」
そんな彼女の思考の狭間で。
言葉を紡いだのは『機工技師』アオイ=アークライト(p3p005658)である。
ここの所、幻想で騒乱があるのは知っていたが……まさかこのような巨人達がいたとは。気合を入れていかないと――と思っていれば。
刹那、後方に意識を向けた彼女を横から襲わんとしてきた巨人へ大量の歯車を放ちながら彼は傍へと至るものだ。ノルン家の名代として積極的に前に立たんとする彼女の在り様は分かっている、が。
「――大丈夫か? 顔色が……」
「あ、あぁ。すまない」
それでも今のリウィルディアの様子には、どこか不安が過るから。
彼女の事は気にかけておこう。言葉を使い、近くに在り。
さすれば――リウィルディアは再度、戦場に響く様に。
「……一人で相手取らず分隊を組め! 巨人たちの足を崩すんだ!
臆すな! 何が起ころうと――我々は勝利せねばならぬのだと心に刻めェ!」
声を張り上げる。
不安を圧し潰すように。どこか遠くへ――置き去る様に。
●
ここの巨人らは補給線の防衛を担っているとアオイは聞いた。
勝てれば他の戦場も有利になるかもしれない。少なくとも敵陣にはある程度の影響もあろう――
だからリースリットは言うのだ。
「奇襲は速度と勢いが勝敗を別つ。
態勢を整えてくる前に浸透し、陣形を引き裂き――狙うは将の首唯一つ」
雑兵の首より、将一つの首にこそ己が身命を賭せよ。
割り出されたクルベスの位置を既にリースリットも把握していた。他には構うまい……奇襲とは殲滅戦ではなく、敵陣の真っただ中で長期戦など愚策極まる。故に邪魔立てする巨人共あらば。
「斬り捨てます。お覚悟ッ!」
その手に抱く細き剣にて道を開こう。
纏う雷の魔術が荒れ狂う。彼女の振るう一閃あらば引き摺られる様に追随し――薙ぎ払う。
輝きが紫電へと到達し、敵を飲み込む様は正に光鎖の蒼蛇。
「穴を封じさせるなッ! 逃すな! 勝機は指先から容易く零れるのだと知れッ――!」
「ふふふ、この体に秘められた神秘の力ってやつを見せてやろうじゃない……
全力で行くわよ。こんなに派手に大暴れしていい機会なんて――早々ないんだから!」
直後。広く周囲を見渡す、まるで俯瞰するが如き視点からクルベスへの道筋を悟った汰磨羈は超速で移動を行う。木々を蹴る様に飛び跳ね、そして形成させしは輪状たる霊刃。
かつて在りし太陰神の権能が一端。猛烈たる遠心力の塊が万物を切り裂く一閃となろう。
次いで、その動きに合わせる様にオデットが紡ぐのは熱砂の嵐である。
まるでかの砂漠の国を思わせる術は敵のみに絡みつく。
汰磨羈の動きは邪魔せず。クルベスとその周辺だけを捉える猛追は凄まじい。
――とにかく倒す。何が待ち構えていようともその前に喉笛を食い破ればそれで良し。
「甘い」
だがクルベスに焦りは見えない――振るう太刀筋はイレギュラーズの攻撃に合わせる様に。
激突。生じる衝撃は周囲にも感じられるほどに――
「ぬ、ぬぁ!? こ、これが巨人と勇者の戦い……!?」
幻想の騎士は見た。最早目で追えぬ速度で太刀を放つクルベス、と。
その一撃と真っ向から応酬を果たすイレギュラーズ達を。
汰磨羈の無数に至る動きが剣撃の隙間を縫わんとし、オデットの魔術は太刀諸共ねじ伏せんと。彼方からはジェックの放つ銃弾が嵐の如き太刀筋の防衛線を突き抜け穿たん。
――それでも。受けるクルベスはまだ崩れない。
どころか刹那の隙でもあろうものなら的確なる撃を放つものだ。
首を落とす? やってみせよ、こちらの方が先に落として進ぜよう――
只人では接触すらままならぬ空間、されど。
「おや、周りを見ている余裕などあるのです?
我々は将の首――つまりは貴方の首に手を掛けているのですよ」
されど、そう。これだけで終わりと思うのならば、そちらの目算こそ甘いとヘイゼルは往く。
クルベスは今、視線を別に向けた。それは指揮官として周囲の状況を確認せんとしたのかもしれない――だがそれは余りにも目の前を舐めすぎだ。巨人側の指揮官が今どれ程狙われているのか分かっているのか?
「こちらは『討ち』に来ているのですよ」
「無理だな。貴様らには」
「では証左のお時間と往きませうか」
時刻は段々と夜へと至る。が、ヘイゼルの瞳には闇夜すら見通す雫の加護があるのだ。
――捉える。敵の、その姿を。
赤き糸が空を舞う。敵を捕らえる様に、その注意の全てをコレにて啜るように。
「――全員、顔を上げなさい!!」
同時。ヘイゼルがクルベスの注意を引き付ければ、響いたのはリアの声だ。
この領域における頂上の戦いぶりを見て呆ける暇も自らの力を、存在を疑う暇もあるものか。此処に至っている時点で貴方達には資格があるのだ。
「勇者とは、勇気ある者の事。であるなら、巨人の軍勢に挑む貴方達も勇者よ! あたし達は負けられない! あたし達の背後には守るべき大切な人々が居るのよ! だから全員……顔を上げて戦いなさい!」
彼女の奏でる旋律が周囲を満たす。
悪意ありし外敵に立ち向かう者は須らく勇者だ。その一歩を刻むのがどれほどの勇気か。
皆を諭す天使の旋律が優しく覆い包み――彼らの力と成す。
そうだ戦うのだ。その為に我らは来たのだ!
再び満ちるは体力のみならず戦意も、か。
イレギュラーズに、新たな勇者に続けと誰もが口にして攻め立て――そして。
「は、背後から強襲だッ――!!」
まるで狙ったかのようなタイミングで巨人達の増援が現れる。
幻想側が勢いに乗ろうとし、されど冷や水を掛けられたかのようだ。
誰もが分かる。包囲されれば不利だという事ぐらい――しかし!
「怯むな! 武勲の機会が増えただけの事!! 巨人たちを、撃滅せよッ!」
機敏に気配を察知したリウィルディアの声が周囲へと響き渡る。
「どうした――お前たちを裏切ったノルンの末裔はここだ。この首が欲しければ来い!」
鼓舞し、己に注意を引き付けんとするのだ。
クルベス。事が進んでしまう前に、奴めを倒してしまえるのが最上であったが――流石にこの付近一帯を任される強者だけはあるのか、まだ倒れるには早い様子であった。だがとにもかくにも奴を倒さんとする意志で突き進んだ故にか、傷も浅くない。
あと数歩。一歩でも二歩でも三歩でも――時を稼ぐのだ。
周囲を活力で満たし、或いは治癒の術をもって支援すれ、ば。
「ははは立派になったものだね、リウィルディア」
瞬間。戦場の片隅で発せられた『誰か』の声、が。
何故だか耳に届いた。
煽情の喧噪で満たされ、とても声など届くはずがないというのに――しかし――
「おっと、させるかよッ……!」
同時。周囲の治癒を果たすリウィルディア――を狙った一撃を防いだのはアオイだ。
飛ばす歯車が放たれた銃弾を受け止める様に。甲高い金属音が鳴り響き、更に。
「リウィル、注意しろ! ――狙われてるぞ!」
彼女を狙った人物へと放つのはネジだ。
それは彼の錬金術の産物。30センチ程のタッピンネジが瞬時に形成され――射出する。彼の腕の振りに合わせて空間を穿ち、超速で飛来するソレは直撃すれば肉など容易く割く、故に。リウィルディアを狙った人物は潜って躱すように――身を低くして――
「――――」
直後、見えた。
アオイのネジが、攻撃者のフードを抉れば隠されていた顔が見える。
そこに在ったのは。そこにいたのは。
「――兄さん」
それはアルテリウス=エスカ=ノルン。
リウィルディアの兄にして、ノルン家の――失踪していた筈の当主だ。
そしてその事実は遠くにいる他派閥の幻想騎士はともかく、ノルン家から来ている幻想騎士はすぐにも気付くものだ。
『当主――?』
『おお、当主が援軍として――』
『いやしかし巨人に乗じて今攻撃を――』
次いで生じるのは困惑と躊躇いだ。理解できる顔が、しかし理解出来ぬ。
戦場は生き物。ほんの微かな隙が命を奪うに繋がる――だから。
「怯むな……全員構えろ! 言った筈だ! 誰が相手でも、ここは抑えきる!
――今は眼前の敵のみに集中せよ!」
「御主等はノルン家の、リウィルディアの騎士だろう! 成すべき事を見失うな!」
もう一度リウィルディアは声を張るものだ。
目標は敵陣の突破、いや敵将を討つことなのだからと。汰磨羈も同様に衝撃が走っていた騎士達を叱咤するように。『誰』が現れようとも己らの役目は変わらないのだから。
――誰よりも心に動揺を重ねながら、しかしリウィルディアは役割を果たさんとして。
「リウィルディア、気をつけろ。嫌な感じだぜ? だけど――任せるからな」
そしてシラスも巨人増援側から感じる不穏を機敏に感じ取る。
されど――そちらはリウィルディア達に任せよう。
彼女らを信じ、己らは前に進むのだ。
勝機は前にしか存在しない。行く手を阻む敵は拘束の呪にてその動きを縛りながら。
「組になって急所を狙え! 敵の数が増えたからってなんだ――
そんなのは敵陣じゃあり得ることだ!
承知の上で来たのなら力を見せろ! 怯えて竦む奴がこの場にいるかよッ――!!」
引き続き彼は周囲の騎士らの熱量を、鬨の声を継続させる。
熱は伝播するものだ。広く、どこまでも。己が視界に見えぬ者達にすら――伝わる。
そしてそれらはそのまま力となるのだ。
胸の奥底から湧き出る。ああ己は一人ではないのだと!
刃を向けよ。後ろに倒れるな、この一大舞台の主役は己であると知れ。
「どうだ巨人共。お前らにもできるかよ?
他人を蹂躙する事しか考えてないお前らに……他人を奮い立たせる、勇者の様な動きがよ!」
同時、シラスは一気に前進すればクルベスへと接敵するものだ。
如何に優れた力を持とうとも、撃が重なればいつまでも全力とはいくまい――
防御の構えにも崩れが生じ始めるものだ。例えそれが針の穴程の崩れであろうと、も。
「――アタシなら狙えるよ」
それだけの暇があれば、ジェックの眼差しには容易く穿てる目標物である。
呼吸一つ。肺の中で空気を留め、体の揺れを最小に抑えて。
覗き込む果てに在りし敵を見通す視座と共に――引き金を絞り上げる。
命を奪わんとする死神の如く。かの者の嘲笑いが如き射撃音を響かせれば穿つものだ。
その胸元を。
「む、ぐ――」
「流石に巨人ともなれば肉が厚いみたいだね……でも見えたよ、君の底が」
鈍る。クルベスの動きが。
さればそこへと至るのがウィリアムだ。ジェックの成したその傷跡を更に抉る様に。
魔力の渦を纏いてその懐へと飛び込む。
――太刀の暴風が弱まっている今この時にこそ行かねばいつ往くのか。
後方からの巨人の増援にも対処せねばならぬのだ、だから。
「君には倒れてもらうよ。このままねッ――!」
「小癪。この程度でなにするものぞッ」
全霊の一撃を掌底と共に。神秘的絶大なる破壊の力が傷跡から内部へと差し込まれて。
されどクルベスの返しの一撃も同時に彼へと放たれれば――
互いに生じた圧倒的な衝撃が、両者の身を吹き飛ばすものだった。
●
「今だ! 全軍突撃ッ!! 奴らは総崩れだ、俺たちで狩り尽くすぞッ――!!」
ウィリアムの一撃が炸裂したと同時。
クルベスが地に膝をついたのを見たシラスは号令を下した――
今この瞬間こそ最大の好機。戦線を一気に押し上げ、敵陣の崩れを決定的にするのだと。
「――迎え撃て。女王に死を捧げよ! 我らが命を賭してあの方の為に――!!」
だがクルベスはあと一歩で倒れそうな状況ながら――それでも立ち続ける。
吐血。そんなものは大した事ではない。
疲労。そんなものは大した事ではない。
死ぬ。そんなものは大した事ではない。
ただただあの女王の為に尽くせぬ事こそが我らにとって恐れるべき事。
――巨人側も人間に対抗せんと鬨の声を腹の底から絞りだす。彼らの振るう棍棒は人を容易く吹き飛ばし、彼らの振るう刃は深々と人の身を抉るものだ。勿論、幻想の騎士達もそれは承知の上で――己が心に従い、刃で応酬する。
されば一人、騎士が倒れ。
一人、巨人がまた倒れる。
「前へ! 行くわよッ……!
あたし達が……あたしが付いている。
だから、絶対勝つわ。泣き言言ってたら尻蹴とばすわよ! 幻想の騎士の矜持を見せなさい!」
いよいよもって戦闘の佳境。さすればリアの奏でる旋律もまた、最高潮へと達するものだ。
士気は下げさせない。彼女の声は人の心を動かし、音色は奥底から力を湧かせる。
それは神託の少女を思わせる音の連鎖――を、止めんと一体の巨人が後方よりリアに接近。振り上げた拳が地へと炸裂すれば、衝撃に彼女の手と声が止ま……
「ああもうしゃらくさいわね!! あんたなんかに構ってる暇はないのよッ――!!」
らない。痛みが全身に走れど、それがどうしたと言うのか。
射貫く様な視線と共に。振り下ろされた腕を地に駆け走り――ぶち込むのは、蹴りだ。
それはまるで流星の如く。一直線に敵の顔面へと向かい、顎を撃ち抜こう。
これぞ代々伝わりしクォーツ式ドロップキック……! かはともかく、身体の大きさで勝る巨人に一切遅れをとる事なき一撃を刻んでやって。
「ははははは、互いに凄いね。退けない理由をどちらも持っている……
そうは思わないかな。リウィルディア」
そして。それらの様子を見ながら――戦場へと介入したアルテリウスは呟くものだ。
まるで休日の昼下がり。紅茶を飲みながら、他愛もない雑談をしている様な口調で。
――紡ぐのは己が妹たるリウィルディアへと。
「兄さん……何をしているんです。今まで失踪しておきながら、どうしてこんなタイミングで」
「『今この時』しかないと思ったからだよ」
何を、と。彼女が思うも、それより早く同時に放たれるのはアルテリウスの銃弾だ。
――それはリウィルディアの足を狙っている。或いは肩や腕など……
まるで『戦闘能力を削ぐ』事だけを目的としているかのような狙いだ。それは肉親だからこその手加減――ではないのだけは分かる。これは、そう。『生かして捕らえる』為の様な……
なぜ。どうして。
「――どうして、僕に剣を向けるのですか」
それも。かつて見た事のある、変わらぬ笑顔で。
捌き続ける攻撃。駄目だ、動揺してはいけない。駄目だ、疑問を持ってはいけない。
兄さんは敵なのだと思わなければ――!!
「大丈夫だよ、リウィル」
瞬間。己が耳に――いや。
魂に届いたのはアオイの声。
「俺が、ついてるから」
他者に。『奮い立て』と命じておきながら、もしかすれば一番心に亀裂が入っていたかもしれない彼女の背を――支える。
たった一言で。
その声色だけで――救われる魂があったのだ。
「……何かなキミは。リウィルディアの『何』だい?」
「『何』でもないさ」
ただ、彼女の隣に立つ者。護るべき――者。
アルテリウス。そちらこそリウィルの『何』であろうと……彼女の心を乱すならば。
「――容赦はしない」
直後、踏み込んだ。
刃を研ぎ澄ませ……今まで踏み込んでいけなかった一歩先へ……!
今の己は『かつて』程器用には動けず――だから敵を打ち倒す事のみに全霊を。
イレギュラーズの、そしてリウィルの敵を倒す。
再び錬成する鋭きネジを放ちて牽制。狙うは全力を叩き込むべき刹那だ。
アルテリウスはこちらとの距離を窺うように絶妙な位置を保っている。すぐに攻撃から一歩退けるような、或いは一気に踏み込めるような位置を常に保たんとしているのだ。彼より放たれる銃撃がネジを打ち落とし、ネジが彼の銃弾を打ち落として。
「リウィル、か。随分と親し気な――羽虫だなぁ」
直後。彼が一瞬で距離を詰めてきた。
蹴りを一つ。瞬きの間に既に攻撃態勢――されどアオイが腕を差し込ませるのが間に合えば、転じて一撃叩き込んでやろう。あり得る筈だった己が可能性を刹那に纏いて、歯車をぶつける――
が。アルテリウスは歯車が衝突する勢いを利用して再度距離を取るものだ。
そして着地と同時に再度銃撃。
アオイとアルテリウス、二人の行動はどちらも素早く連続的な行動が多かった――ある意味で戦い方が似ている、と言えるのかもしれないが。
――彼の。アルテリウスの思惑は不明瞭だが、分かっている事もある。彼はこの騒動の最中を利用してリウィルディアを『連れ去る』気なのだろう――先程から命を奪う様な行動だけはしてこない事からしても明らかだ。
いやもしかすれば……この包囲戦を経て侵入してきた騎士達が全滅すればリウィルディアも『表向きは死んだ』事になって――
「誰も追わなくなる」
それが狙いか? 『今この時しかない』と言うのは。
こんな大きな戦いなど早々ない。こんな混乱が幻想で生じた、今だからこそ――
「巨人とイミルの民と、そしてノルン家と……全部訳ありの気配、ね。
人間の事情はさっぱりだけど――でも、分かるわ。あなたの狙いは果たされない」
だけれども、と。紡ぐのはオデットだ。
アルテリウスは絶好の機会に、己の目的を果たすためにやってきたのだろう。
何故そこまでリウィルディアを狙うのか――はともかく。しかし彼の狙いは『勝利』する事が大前提だ。この戦域の戦いが、巨人側の勝利にならなければ何の意味もない。連れ去るにしても最低でも優勢でなければきっと無理だろう。
そして今、オデットらの攻勢は最終段階を迎えようとしていたのだ。
「流石にそろそろ限界でしょう? 一気に行くわよッ――!!」
「如何に増援が来ようとも、流れを引き寄せる事が出来なければなんの意味もないのです」
クルベスを討ち果たす。そうすれば戦況は一気にイレギュラーズ側のものとなるのだ。
戦闘は基本、前も後ろも包囲している側が有利――であるが。そういう形になったからと言って勝ちが確定するものではないのだ。ヘイゼルの言うように、全ては戦闘の流れを己が勢力に引き込む事が出来てこそ初めて意味がある。
その点においてとにかくクルベスを討つために全力を尽くしていたのが功を奏した。
彼の位置を見つける為に素早く索敵し、邪魔する巨人を押しのけて。
早期から攻撃を重ね続けてきた、今――
「ぬぅ……! まだだ。まだこの程度では終われんッ……!!」
最早クルベスの命は風前の灯火。彼を援護せんとする巨人達も勿論いる、が。
「おぉぉ――!! 勇者殿らに続けッ、武勇を刻むのだ――!!」
「幻想王国万歳――ッ!!」
シラスやリースリットが指揮官として幻想の騎士達を統率し続けた結果、彼らが文字通り『壁』となっていた。士気高く勇猛な彼らは巨人達を押さえ続ける……当然、前面に出れば倒れる騎士の数も増えている、が。
「あと一息です! 総員、奮起せよ!!」
それでもあと一歩なのだとリースリットは鼓舞し続ける。
彼女自体も無傷ではない。彼女自体はクルベスよりも奴めに精鋭――つまり他のイレギュラーズを送り込む事を主眼にしている為、彼の太刀自体は受けていない、が。その分通常の巨人たちの攻勢を受け止め続けていたからだ。
イレギュラーズ達が指揮官たるクルベスを狙う様に、巨人側も目立つ指揮官を狙うは必然。
――それでも。周りに命を懸けよと言っている側が倒れてどうするか。
「如何なる苦境も乗り越えてこそ……!
あぁ勇者王アイオンよ、我らの戦をどうぞ天より御照覧あれ!
――新たなる勇者は偉大なる先達に勝利を捧げましょう!!」
眼前。山の様に聳える巨人へと、彼女が紡ぐは精霊の力。
それは意思と共に。勇者王の栄光を汚す戦いなど出来るものか!
全てを灼き斬るは光の剣。斬り伏せ倒し、尚に前へ。
「終わりだクルベス。そっ首貰い受けるッ!!」
「なんの――人間如きに――!」
リースリットが打ち倒した巨人――倒れると同時にその影から飛来するのは汰磨羈か。
幾度も見据えた奴の太刀筋。この身に刻まれた痛みが、しかとその脅威を伝えてくる――
だがもう見破ったものだ。太刀が放たれる瞬間を、その始まりを捉えれば!
「なッ!」
抜刀した瞬間の鍔を弾いて逸らす。彼女の蹴りが、本来の狙いを逸らさせて。
木々に直撃すれば一閃される――が。当然それは汰磨羈には届かず。
――ああなんたる強き一閃か。これを幾度も受ければ、流石に体にガタも来るものだが。
「させないよ……皆で勝利を掴むんだ……!」
ウィリアムの治癒の援護が届けば――『あと一歩』の力が残るものだ。
踏み込み、そして。
「悪いが。御主らに如何な戦う理由があろうとも負けてなぞやれんのでな」
汰磨羈の剣閃が――クルベスの首元へと直撃した。
一歩。奴の領域へとあえて踏み込んだが故に生まれた勝機。
――掴みとり、奴の体が地へと崩れれ、ば。
「さぁ。残りも片すとしようか……大分キツイけれど、止める理由はならないしね」
「俺達で狩り尽くすぞ! 進めェ!!」
残存の巨人達を追い払うべくジェックが銃弾を。そしてシラスが先陣を切って往く――
クルベスが倒れ、周囲の巨人達が明らかに動揺している。リーダーを失えばかくも脆くなるものか……勿論彼らの巨体は健在であり油断は出来ないが、生きて帰る為にもここでもう少し打撃を加えておく必要がある。
幾度も放った撃により、既にジェックの指先は微かに震える程に疲労困憊気味だが――それは皆も同じだ。強襲の効果を高める為にも全員が最初から全力を加え続ければこうもなろう。
それでも、勝利を確実なものとする為に。
あと少しと皆が最後の力を振り絞る。
シラスの展開する魔法陣が再度拘束の呪を。巨人達へと紡いで攻勢と成せば。
「ここまで来たのならばリターンは全て頂いていかねば割りに合わないのです」
「っぉ、らぁ! 覚悟しておきなさいよ巨人共――! この国の底力を魅せてあげるわ!」
自らに治癒の術を齎すヘイゼルが態勢を整え、再度剣……いやもう完全に只の蹴りをぶち込むリアの勇猛さが追撃戦へと移行させる。元々奇襲と言う、危険度が高く、しかしリターンの大きい作戦であるのだ――折角ならば最大の成果をと求めて。
さすれば段々と巨人側の敗走が決定的となる。
後方に退いて体制を立て直さんとし、更に追撃し殲滅せんとする幻想側――
「……成程。残念だ、どうやらここはキミらの勝利のようだね」
瞬間、アオイと対峙していたアルテリウスは大きく後ろに後退する。
放たれた歯車を躱して。退くつもりか――確かに不利となったこの場に留まっていればやがて逆に包囲される事になりかねない。その前にまだ巨人達との混戦状況が続いている間に退くのは道理だ、が……
「兄さん! 待って、待ってください! どうして貴方は……!」
僕に剣を。
僕を守ってくれた。味方でいてくれた。妹として、僕も貴方を愛していた。
たった一人の肉親、なのに。
「なのにどうして……!」
「リウィルディア。勘違いしてるかもしれないが、僕はキミに剣なんて向けていない」
傷つける気なんてないんだ。後でちゃんと治療してあげるつもりもあった。
ただ、そう。
――ただキミが『欲しい』だけなんだ。
かつて見た、変わらぬ微笑みがそこに在った。
だけれどもその瞳に在りしは何か。
――肉親へ、妹に向ける純粋たる愛情でなかったのだけは確か。
兄。アルテリウスは自らのギフトにより記憶が蝕まれているという――ある意味難病に掛かっていると言える状態だ。だが、どれだけ蝕まれてもリウィルディアの事だけは覚える事が出来ているようで……
だからこそ執着している。
彼女そのものに。彼の世界に映る、ただ一つだけの宝物に。
「覚える事も出来ないノルン家の当主立場なんてものに価値はない――
また会おうね、リウィルディア」
今度こそキミを手に入れる。
誰にも渡さない。どこへも出さない。己の拠り所……
永遠に手元においておきたいから。
「――させるかよ」
だが。退いていくアルテリウスの背を睨みつける様にアオイは其処にいた。
リウィルディアの傍に。彼女を支える様に、彼女の近くに。
己は、少なくとも彼女にとっての『何』でもないけれど。
「――アオイ」
「言ったろ? 『俺がついてるから』って――な」
それでも彼女の支えにはなろう。
肉親に濁った感情を向けられた彼女の支えになる様に……
守れるように、もっと強くならねばならぬと――願いながら。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ!
奇襲作戦は成功。とにかくクルベスを早期に撃破するための作戦と戦術が上手く機能したが故にこそでしょう。
アルテリウスは巨人たちの趨勢そのものにはどうに転ぼうと興味がなく、故に見切りをつけて撤退したようです。
彼はまたいずれ、どこかで現れるかもしれません。
MVPは攻撃に支援にと多くを担った貴方へ。
ともあれ、ありがとうございました!
GMコメント
●依頼達成条件
敵勢力の撃破
●フィールド
幻想中部に存在するヴィーグリーズの丘で決戦が行われています。
皆さんはその中の一角に存在する巨人勢力の撃破が目標です。
ここは敵の陣形の後方を支えており、上手く突破できれば周辺の戦場の流れを引き寄せる事が出来るでしょう。その為、幻想の騎士でも比較的勇猛な者達が集って奇襲作戦に出ました。
周辺は微かな木々が広がる林の中、という印象です。
時刻は夕方~夜に差し掛かろうとしています。
また、ある程度のターン数が経つと皆さんの後方側から敵の援軍が現れます。
まるで奇襲してきた幻想軍を包囲する様な形です。
その前に目前の巨人勢力に打撃を与えるか。
それとも包囲されることを見越してなんらかの対抗策を練るか。
重要な所となるでしょう――ッ!
●敵戦力
・クルベス
巨人の勢力の中では比較的小柄な様に見える者ですが、その実力は高いです。
大刀の様な武器を抜きはらい繰り出す居合の一閃は強烈。
この周辺の巨人を指揮している様な存在で、いわゆるリーダー格と言えるでしょう。
彼を倒せば巨人側の統制が乱れるかと思いますが、そう易々にはいかないでしょう。
・巨人戦力×40+??
この周辺を防衛している巨人達です。
棍棒や槍などを持ち、優れた膂力から騎士達を薙ぎ払わんとしています。
明確に確認できるのは40体です。
戦場の流れ次第で増援として至る存在がいるかもしれません。
●『退廃伯』アルテリウス=エスカ=ノルン
失踪していたノルン家の当主――です。
不気味な靄を纏う人物で、当初はフードを被っています。
理由は不明ですがイミルの民に味方している(?)様です。フードを取ったりなどして彼の存在が明らかとなると、後述するノルン家の騎士達の士気に動揺が走る可能性があります。
戦闘能力には優れています。短剣とピストルを合わせた近距離主体と、常に移動を繰り返す技法――H&Aを徹底した暗殺術に近い戦法を用いる様です。尤も、彼の行動にはかなり不明な所があり、最初から全霊をもってくるかは一切不明です。
ある程度のターン数が経つと、イレギュラーズ達の少し後方側から巨人の増援を伴って現れます。巨人の数は約20程でしょうか。
●味方戦力
・ノルン家の騎士達×30
・幻想騎士×30+??
周辺で戦っている幻想の騎士です。
入り乱れており、ノルン家以外の騎士の派閥は不明ですが味方には違いないです。比較的勇猛な者が集っているらしく、攻撃力が高めな様に感じます。明確に確認できるのは総勢で60名です。更に周辺の戦場の推移次第で援軍として戦力が増えるかもしれません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●士気ボーナス
今回のシナリオでは、味方の士気を上げるプレイングをかけると判定にボーナスがかかります。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
Tweet