シナリオ詳細
<ヴィーグリーズ会戦>欠けた璧玉
オープニング
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「……ヴィーグリーズ、ヴィーグリーズだよ!
はっ、せいぜい急ぐがいいさ。そして、愚かな兄に伝えるがいい!
お父様はミーミルンドに賭けた! 愚かな腕無しに反省してな!」
隔離された牢獄に閉じ込められていた少年――アムシェルが、嘲るように笑う。
「別にいいさ。全部終わる、全部、全部――この国は無くなっちまうだろうよ!
新しい国の――始まりだ!」
にやりと笑うアムシェルを見ていた久住・舞花(p3p005056)は、その言葉を聞いて視線を隣に向けた。
「……そうか、父は国を売った者に味方するか」
「レガリア――王権の象徴は、ミーミルンド派が強奪したという話です。
それを名分に現在の王家を否定して王権を簒奪するつもりなのでしょう」
それが筋書きであろうとの推察を舞花が告げれば、ヘルフリートが静かに目を閉じた。
「――であれば、父を討つのに理由は充分。
だが、それは私ではならない。私は――廃嫡された身」
そういったヘルフリートがちらりと視線を投げかけたのはシラス(p3p004421)の方。
シラスは自分へ暗殺者を送った張本人――イェルン・フォン・ザヴァリシュの居場所を狂気の気配が薄まったアムシェルから問いただすつもりだった。
「勇者殿、貴方を殺そうとした男を倒すのは、貴方や現代の勇者――イレギュラーズの仕事のように思う」
「あんたはそれでいいのかよ」
「あぁ――私は、俺は既に貴族ではなくなった。
だから、ひとりの戦士としてやるべきことをしたい」
多くを語らず、そう言ってヘルフリートは先に立ち去って行った。
●
奴隷市や魔獣の大量発生などから始まった一連のミーミルンド派の謀略とイレギュラーズの戦いは、遂に終わりに近づいてきつつあった。
多くの謀略をイレギュラーズに食い止められたミーミルンド派は、フレイスネフィラの『黄昏の秘術』を頼りに、巨人や古代獣を戦力として幻想『レガドイルシオン』王国へと反旗を翻した。
広大な平野を中心として勃発するヴィーグリーズ会戦。
「貴族は完璧であれ。それは国家に忠実に、民を守るために作られたはず。
――お前達は、それを忘れて何をするというのだ!!」
広大な平野の一箇所にて、ヘルフリートの怒号が響いた。
戦場を劈くような怒号に、眼前にいる兵士達の動きが停止する。
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)はその様子を見ながら、視線を魔獣の群れへ向けた。
最奥にいる魔種――イェルン・フォン・ザヴァリシュまではまだ遠い。
「――過ちは雪がなければならない。父は、国を見限った。
即ちは『貴族の責務を為すべく完璧であることを捨て、売国奴に成り下がったのだ』。
お前達は、それに従うか!」
もう一押しの大喝に、兵士達が完全に動きを止める。
「私に――いや、イレギュラーズに着け。さすればきっと、その過ちを救えるだろう!」
そんなヘルフリートの言葉に、誰かが『おー』と言った。
それは連鎖するように伝播して、ザヴァリシュ兵が次々とイレギュラーズの方へ集まっていく。
「スティア殿、シラス殿、舞花殿……それに、イレギュラーズの方々。
魔獣どもは我々で抑える。その間に、父を頼む」
「いいんだね、それで」
「あぁ。貴族ではなくなることは変わらぬ。
そう思えば――英雄の道を切り開くというのは、中々に胸が躍る」
「……うん、それじゃあ、後ろは任せるね」
ヘルフリートにスティアが頷けば、ザヴァリシュ軍が動き出す。
ザヴァリシュ軍の動きに押されるように開かれた道を、イレギュラーズは駆け抜けた。
●
気分がいい。あまりにも、気分が良かった。
長らく煩わしかった心の底から膨れ上がる苛立ちが、憎しみが、不思議と晴れている。
「――雑草風情が。出来損ない風情が」
イェルン・フォン・ザヴァリシュは全身から濃密なる魔力を溢れ出させながら、つい先ほど陣の外から聞こえた怒号を思い出す。
「――待っていたぞ、イレギュラーズども。愚なる者どもよ」
眼前に姿を見せたイレギュラーズを見て、イェルンは嘲るように笑う。
「貴様らが誠に勇者というのなら、我ら青き血の在り方を超えてみせるがいい」
胡乱な瞳が、イレギュラーズを射抜く。
「――やっと会えたな。借りを返しにきてやったぜ」
眼前に立つ、壮年騎士を思わせるその男へ、シラスは静かに声を上げた。
- <ヴィーグリーズ会戦>欠けた璧玉完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年07月06日 22時06分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「雑草だと? 笑わせんなよ」
傲慢なる男に目を向けた『竜剣』シラス(p3p004421)は、余裕ありげなその姿を見据えて、推測を立てる。
(踏んだ場数は年寄り共にも負けねえ。
……あの手のタイプ(高CT)を倒すには手数が要る。それならば)
培ってきた数多の強敵との戦いの記憶から、フル回転で導き出した答えに応じるように、シラスは跳ねるように身を翻した。
「――こっちが先だ」
圧倒的な最高速度を伴い、魔獣の群れへと走り抜けた。
「それじゃあヘルフリートさんとシラスさんをよろしくね。私はイェルンを止めに行くから!」
ギフトを全開に『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は魔獣と戦うザヴァリシュ兵に声をかけた。
その視線はそのまま、続こうとするヘルフリートに向く。
「自らの誇りを忘れず、立ち上がったのはとても凄いことだと思う。
だから過ちを恥じることなく、その力を奮って欲しいな。
自分達より弱い人達を守る為にも!」
「ああ、最善を尽くそう」
受けてヘルフリートが頷き、魔獣へとカウンター気味に剣を走らせた。
(どうしようもなく破綻しています。
血が尊いというなら、その最たる王に弓引く振る舞いは何なのか。
上に立つ器ではない? それこそ己に刃を向けられている理由でしょう。
その鍛錬、その求道には価値を認めますが、それでも。魔種に堕ちる以前に、アレは貴族失格です)
真っすぐに伸びる刀身の刀を抜き払い、『幻想の勇者』志屍 瑠璃(p3p000416)は静かに魔種を侮蔑する。
赫い瞳で見据えたイェルンの身体の動きに合わせるように射干玉を振り抜けば、斬撃は疾走していく。
不可視の剣閃は着弾と同時にスパークを放つ忍びの御業。
「ひゅう!」
口笛ひとつ。『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)はザヴァリシュ軍の様子を流し見る。
「なかなか壮観な景色だ。コッチの世界に来て半年程度の俺には義なのか利なのか俺判らねーが、
一人の男がその言動とカリスマだけで兵を掌握する……さらには味方に付ける。
驚きだぜ! まるでおとぎ話だ! 熱いねェ! 嫌いじゃあない!」
豪快に笑い、ブライアンは腰を落とした。
「ヘルフリートさん。――ザヴァリシュ軍の皆さん、御武運を」
そう言い残して、『月花銀閃』久住・舞花(p3p005056)はイェルンの前へ。
短い言葉、それだけで十分。
「貴方の兵は皆離れたようね。誰も付いてこない等と、そのようなものは王道に非ず。完璧には程遠い」
舞花の言葉に、イェルンの眉がピクリと動いてすぐに傲慢に見下すようなソレに代わる。
「王道、くだらぬ。王の道らはここより始まるもの。
我らの行く道の後ろに道ができるのだ」
全てを見下す魔種がせせら笑うように言った。
「そうですか……ですが」
踏み込み、舞花は刀を閃かせた。
凡百には理解さえ及ばぬ武の奥義がイェルンの身体に走る。
(……廃嫡とはいえ、捨てられはしない血のつながり。
その思いの上で託すのですね、結末を勇者へと)
過去巡りの書巻を開いた『夜咲紡ぎ』リンディス=クァドラータ(p3p007979)はその言葉に目を閉じた。
「戸惑いのある方もまだ在りましょう、されど今、この場はきっと将来新たな『勇者の物語』となる1ページ。
貴方がたは――未来の伝説を共に切り拓くのです!」
身動きの悪い兵士達へ向けて、リンディスはそう声をかけてから紅き羽筆を走らせていく。
文字が踊り、魔力を以って仲間達に最適解を伝播させていく。
(ひとりの戦士として、か。ならば俺もひとりのイレギュラーズとして、微力ながら力を貸そう。
そういう熱い心の持ちようは、案外俺も嫌いではない……ヘルフリート、向こうの指揮は任せたぞ)
魔獣を前にこちらへ背を向けた隻腕の武人へ視線を投げかけ、『破滅を滅ぼす者』R.R.(p3p000021)は視線を前へ。
「イェルン・フォン・ザヴァリシュと言ったな。
まぁ俺は正直あんた達の確執とやら何やらは知らんし、興味もない。
だが、俺はあんたのいる処から破滅の謡う声を確かに“聴いた”
――ならば、あんたを滅ぼす事だけが俺の為すべき事だ」
エコーへと収束する滅びの魔力を銃口へ集め、引き金を弾いた。
滅びの魔弾は真っすぐに駆け抜け、連撃を受けるイェルンの身体に傷をつけた。
「完璧であろうとすることを捨てて清々している人が何を青い血だとか言っているのです?
新しい勝ち馬に乗ったとて、勝った後はどうするつもりだったのでせうか」
術式を起動させ『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)は呆れはてながらイェルンを見る。
「まあ、続かぬ路を夢想する必要もありませんか」
起動させた術式と共に、ヘイゼルはイェルンへ肉薄する。
数多に紡がれた朱い魔力糸が全周からイェルンを取り囲むように走る。
それはさながら巣の中に入り込んだ獲物のように。
スティアも連撃の終わりを待っていた。
「完璧を求めた先が魔種というのは随分皮肉が効いているね。
国を見限り、守るべき民を見捨て、貴族としての責務を忘れた貴方には絶対に負けない!」
起動したセラフィムが天使の羽根を散りばめる。
指向性を施して放たれた天使の羽根がイェルンの身体へと幾つも降り注せば、その身体が封じ込められたように動きを止める。
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「迷うな、分からないことは考えるな!
俺達は兵士で目の前には魔物の群れだ。剣を抜け、俺に続け!」
ただでさえ圧倒的な速度を更に跳ね上げて、シラスは叫ぶ。
その瞬間、戦場に大きな魔方陣が浮かび上がる。
光を放った陣から鎖が鋭く迸り、多数の魔獣に絡みついて締め上げる。
それは茨となって魔獣の身動きを拘束する。
鋭い連撃がヘイゼルの身体を傷つけていた。
結界術式を行使しながら、ヘイゼルは魔術を励起した。
「先に続くのは、あなたでもミーミルンドでもなく、世紀末小魚伝説なのですよ」
深く呼吸して、体を落ち着かせる。
自らに残った賦活力を活性化させ、自らの身体に還元する。
「幻想の祖たる勇者がどうやって国を興したと考えていますか?
まさか貴い血をもって呼び掛けたとか夢のような事を?
それのどこが勇者と呼ぶに値するか理解に苦しみます。
行動で勇気を示したから、彼は勇者と呼び続けられているのでしょう」
瑠璃は自ら印を結びながら魔種めがけて挑発の言葉を残す。
「この世界の者でもない雑草如きが、知った風な口をきくな!」
激昂する魔種の周囲を黒い棺が姿を見せ、中へ引きずむ。
苛烈なる連撃が殺到する。
ブライアンは挑発を続ける瑠璃の前へ駆け抜け身を晒すように立ちふさがった。
多数の幻影を持つ刃がブライアンの身体を幾度にも渡って削りっていく。
「ハッハー! 託されたってンなら、期待に応えなけりゃ男が廃るだろうよ!
悪くないシチュエーションかもなァ!!」
翠の瞳を爛々と輝かせ、挑むようにブライアンは吼える。
そのまま、その身に宿る力の限り、蹴り飛ばした。
蹴撃は風となって疾走し、魔種へ衝撃となって叩きつけられた。
リンディスは爆発的な連撃を見据え、紅筆を走らせた。
美しき魔力の文字列が綴られ、仲間達を掬い上げる。
続けるように記したのは癒し手の記録。
魔力で構成された天使のような姿が戦場に姿を見せ、温かい光を放つ。
それは猛攻に晒された仲間の傷を癒していく。
「あんたは幸運で躱すらしいが、果たしてどこまで続く?
――滅べ、これは俺からの手向けだ」
R.R.は真っすぐに敵を見据えていた。
滅びの魔力は幾重にも銃口へ集まっては膨張と集束を繰り返して密度を増していく。
静かに引き金を弾いた砲撃は、真っすぐに戦場を駆ける。
前衛に気を取られたイェルンへと撃ち抜かれる紅の魔力がその身体を穿つ。
「己を完璧と称して歩みを止めた者と違い、彼は何れそこに辿り着くでしょう。
――貴方達ザヴァリシュの中でその理想に最も近いのは、今も尚、彼に他ならない」
舞花は踏み込みながら忌々し気にこちらを見るイェルンへ突きつけるように告げた。
美しき冴えある銀閃の向こう側で、イェルンが顔を歪めていた。
リンディスに呼応するように、スティアもセラフィムの出力を上げる。
福音の言の葉を紡げば、鮮やかな天使の羽根が多くの傷を受けるヘイゼルへと降り注ぐ。
傷を癒し、心を落ち着かせる鮮やかな祝福が下りていく。
幻想の福音、救いを齎す天使の羽の舞うその中で、仲間の傷が癒えていく。
●
「あの男は魔種に堕ちた、国も民もお前たちのことも捨てたんだ!
もう主と思うな! その手でザヴァリシュを守れ!」
シラスは魔獣の処理を終えるや、連携の取れた数人のサヴァリシュ軍を連れて集める。
兵たちの動きは良い。それは、きっとここにはいないある男の工作もあったのかもしれない――が。
それでも、イレギュラーズに導かれるように、兵士達の眼には光があった。
「来い、状況を変えるぞ!」
爆ぜるように走り抜けた。
もう一度、ヘイゼルは自らに残る力を振り絞って身を起こす。
(……流石にここまでで一息入れる必要がありそうでせうか……)
しかし最前線で狙い続けられるその身に刻まれる傷は思いのほか大きい。
回復役の2人が共同でもたらす回復魔術はどちらも強大で、自身も守りに徹していることもあり、まだ倒れないで済んでいる。
それでも爆発力は恐ろしいものがあった。
ちらりと視線を後ろへ。後退の合図を告げる。
「雑草共がッ……死に来たか――!!」
璧を握り締めたイェルンが魔力を爆ぜるように膨れ上がらせ、近づいてくる兵士達へ激昂する。
降り注ぐ魔力の嵐が複数のザヴァリシュ兵を巻き込んでいく。
その最中を突っ切るように姿を見せたヘルフリートがイェルンに剣を入れた。
「薬と毒の見分けも付かない無知を、一括りに雑草と見下してごまかせたつもりですか。
貴方がユリやダリアというなら、私はノコギリソウで結構」
それを見据えながらルリは静かに刀を握りなおす。
かき集めた魔力を刀身へ集束させながら、瑠璃は短く呼吸を入れ、刀を払う。
放たれた斬撃が真っすぐにイェルンへと駆け抜けた。
戦場に姿を見せたザヴァリシュ軍へそう声を掛けながら、スティアはセラフィムの出力を上げた。
「貴方達が頑張ってくれているおかげで余計な邪魔が入らなくて助かったよ!
その調子で頑張って貰えると嬉しいな!」
美しき天使の羽根は出力に合わせてその量を増やし、ふわりと戦場に散っていく。
魔獣を狩り終えたばかりということもあり、居並ぶ兵士達の傷は深い者もいる。
その者達を導くように、天使の羽根は輝きを増して、温かな光は荘厳ささえ帯びて兵士達の疲労を癒していく。
続けるように、リンディスが紅筆を走らせる勢いも増していく。
魔力の流れを読むようにして広域を俯瞰するように見れば、疲労の多い兵士達へ向けて、指示を放つ。
魔力を帯びた過去巡りの書巻から放たれた指示はある種は王道ともいえるものであったが、それでよいと思えた。
「皆さん、よろしくお願いします……道を、切り拓きましょう!」
最初にもいった言葉を、もう一度。けれどそれが帯びた希望のような物はたしかに、ザヴァリシュ兵の奮い立つような声が聞こえた。
後退したヘイゼルと変わるように、舞花は前へ。
「――ヘルフリートさんは貴族として騎士として正道を歩んでいます。
その言葉は人の心を動かし、兵達は彼と共に行く」
構えた舞花は静かに銀閃を払う。
冴え冴えとした冷ややかな冷結の太刀筋が構えるイェルンの身体へ駆け抜ける。
縛り付ける変幻の太刀は鮮烈に心臓を捉えんばかりに駆ける。
「ここまでしぶといとは、流石に魔種だな……ならば今度は、その心を滅ぼす魔弾だ――!」
強烈に耳を打つ雑音を聞きながら、R.R.はエコーへ魔力を込めた。
それは肉体に齎す破滅に非ず。集束した滅亡の魔力が疾走する。
真っすぐに走った弾丸は静かに戦場を抜けて魔種の脳髄にこだまする。
ブライアンは戦闘の雑踏に紛れるようにしてイェルンへと肉薄する。
「反撃開始だ――」
そのまま軸足に力を籠め、魔種の後頭部めがけ足を振り下ろした。
大鎌のような鋭さと美しき軌跡を伴い、紅蓮の炎を帯びた打撃はイェルンの後頭部に強かに叩きつけられる。
●
戦いは続いている。
(……あと一歩、あと一歩で――勝てるはず)
真剣に敵を見て、リンディスは結論を立てていた。
敵の動きは明確に鈍り、比例するようにその言動は見苦しいものが増えていた。
さらさらと記した範囲魔術が呼び起こした医師団の伝承が、周囲にいる仲間達の背中を押しように、その傷を癒していく。
苛烈な斬撃が振り下ろされる。その様子を見ながら、スティアはセラフィムの出力を上げた。
6度にも及ぶ斬撃がスティアの体力を削っていく。
それを受け切って、スティアは変わるように花を向けた。
それは終焉を齎す氷結の花。美しき輝きを放つ純白の花。
綺麗なモノには棘があることを示すように、散り行く花弁が刃となってイェルンの体を裂いた。
(かつてはこうでなかったという。
ヘルフリートさんが腕を喪ったのが契機なら、その失望が反転の切欠か
もしそうならば、それこそあまりにも……愚か)
水月の心のままに、全霊の力を込めた斬撃を叩きつける。
その身に刻まれた光輝に導かれて、美しき神威の閃光がイェルンの身体を深く切り裂いた。
斬鬼が燃える。
構えた斬鬼に自身の炎の力が帯びて、鮮やかな輝きを持ちながら、ブライアンはイェルンめがけて剣を撃ち込んだ。
敵の動きを受け切り、合わせるようにして撃ち込んだ斬撃は魔種の身体に傷をつけた。
ヘイゼルは体力を十全の位置まで押し戻すと、スティアと入れ替わるように再び前に出た。
「さて、最後までお付き合いいたしませう」
再び構築する朱き包囲網、絡めとり、封じ込める連撃の糸を張り巡らせた。
鮮やかな朱い巣の内側に絡めとられたイェルンが激昂する。
糸を振り払って、イェルンが前へ走り出した。行く先は――
「やはり、貴様はあの時に殺しておくべきだった!! 小魚がァァ!!」
前へ。前へ。振り抜かれる剣がどれほど激しかろうと、奴の間合いの内側へ、シラスは踏み込んでいく。
胸の奥で何かが燃えている。握る拳にはどこから湧いてきたか分からない力が籠る。
ひとつだけ――てめぇの勘違いを正してやるよ。
この国はどこもかしこも掃溜めの底だ。
貴族も平民も勇者も違わない。
息をしてるのは雑草にも劣るクソばかり。
だから──
「雑草に負けてくたばりな、お前が生きた全てを否定してやる」
握る拳がまっすぐに。
「ッ雑魚風情がァァ!!!!」
振り下ろされる敵の剣がこの身に入るより前に、鋭くイェルンへと突き立った。
ぽたり、ぽたりと血があふれ出る。
それが受けた傷から零れるものなのか、目の前の敵に浴びたものなのか分からない。
荒い呼吸を零しながら、シラスは息の根の止まった敵を見下ろして。
「――俺は、まだ止まらない。まだまだ上に行く」
覇気に満ちた瞳で、鋭く遥かな次の戦場を見た。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
ヴィーグリーズ会戦3本目でございます。
早速詳細に参りましょう。
●オーダー
【1】イェルン・フォン・ザヴァリシュの討伐。
●フィールド
ヴィーグリーズの丘に存在する平野部。
足場は良好。射程の確保も十分です。
●エネミーデータ
・『罅割れた玉璧』イェルン・フォン・ザヴァリシュ
『傲慢』属性の魔種です。元々が『文武両道に完璧であれ』とする家訓を持つ貴族であるらしく、非常に強力な魔種です。
騎士風の装いをした片手で長剣、片手で璧(円盤状の宝石の一種)を握る男性です。
ハイバランスのトータルファイターでFBとCTを高めています。
失敗する確率もそこそこですが爆発力もえげつないです。
まさに罅割れた宝石のような不完全さです。
<スキル>
戦刃幻影(A):多数の幻影を持った刃が対象を苛烈に追い立てます。
物超単 威力中 【万能】【変幻】【多重影】【邪道】【連】
匕首惨刃(A):弱点を暴き立て切り刻む恐るべき連撃です。
物中単 威力中 【猛毒】【致死毒】【連】【追撃】【スプラッシュ3】
ファタモルガナ(A):蜃気楼の城塞が神秘的に守りを固めます。
神自域 威力中 【自カ至】【自カ近】【氷結】【氷漬】
シュトゥルムリフレクション(A):璧の魔力が嵐の如くあらゆるものを反射し撃ち抜きます。
神超範 威力中 【致死毒】【氷漬】【体勢不利】【鬼道】【連】
完璧たれ(P):自らの身を完璧にあり続けんとする驚異的なまでの執着です。
【反】【再生小】
・古代獣×20
古代獣です。狼やライオン、虎、馬などなど、平原に存在していそうな動物が多種多様。
撃ち漏らしが出たらもしかするとイレギュラーズに襲い掛かってくるかもしれませんが、
基本的にはザヴァリシュ軍に抑え込まれているので放っておいてかまいません。
●友軍データ
・『隻腕の廃嫡子』ヘルフリート・フォン・ザヴァリシュ
ザヴァリシュ家の長男。今回はザヴァリシュ軍を率いて古代獣との戦いに専念します。
貴族としてではなく、あくまで戦士として割り切った行動をしています。
不慮の事故により片腕を失い廃嫡された後、義手を嵌めてハンデを乗り越えた努力の人です。
実力主義でイレギュラーズに好意的な人物です。
戦闘面では卓越した防御技術と抵抗力を攻撃に転換するカウンターファイター。
・ザヴァリシュ兵×20+20
半分は元々ヘルフリートに従い参戦したザヴァリシュ兵、
もう半分は戦場(OP中)でイェルンに反旗を翻してイレギュラーズ側になったザヴァリシュ兵です。
基本的に古代獣の戦闘に従事します。OP中に反旗を翻した方は若干動きが悪いです。
●士気ボーナス
今回のシナリオでは、味方の士気を上げるプレイングをかけると判定にボーナスがかかります。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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