PandoraPartyProject

シナリオ詳細

魔獣の贄

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 針葉樹の森を駆ける人影が2つ。
 木々の合間を裂くように照り付ける日差しに、影が揺らめいている。
「あ、あの! 大丈夫でしょうか」
 先を行く方が声を上げた。まだ年若い少女のようだった。
「黙って走らないと無駄に体力を減らすだけよ。
 振り返る暇も同じだと思いなさい、良いから走って!」
 追い立てているようにも見える女が叫ぶ。
 その会話内容から察するに、2人の関係は逃亡者なのだろう。
「で、でもどこまで走れば!」
「そんなこと――知った事じゃないわ。
 ともかく、奴らの拠点から脱出したんだから、あいつらは追ってきてるはず。
 さっさと逃げ切らなきゃ――死ぬわよ」
 先を行く方を脅すような言葉と共に、舌打ちを一つ。
「ったく、私は間諜とかその手であって正面切ってやるのは柄じゃないってのに」
 振り返りざま、飛び掛かってきた狼風の魔物を槍で叩き倒し、地面を削るようにして立ち止まる。
「狼が……1、2、3」
 敵の数を見て、くるりと槍を翻してはたった今叩き倒した奴にトドメを入れる。
 その後ろ、影がどんどんと増えていきつつあった。


 幻想の南にある交易都市エーレンフェルト。
 そこでネクストのマルク・シリングは難しい顔をしていた。
「マルクさん、どうかしましたか?」
 それに気づいた主君――テレーゼ・フォン・ブラウベルクが休憩がてらに飲んでいた紅茶をテーブルに置いた。
「いえ……カルラさんから情報が届いたんです。
 なんでも、調査中に魔獣の群れに襲われる民間人がいたので助けて追われていると」
 カルラ――それはテレーゼが直々に雇い入れたという、主に諜報・偵察を任務の主目的とする槍使いの女性である。
「それは困りましたね。カルラさんはたしか今、近郊によく出るようになったとかいう賊のことを調査してませんでした?」
「はい。その途中で見つけた魔物の群れのようです」
「大変ですね。今すぐ救出に向かいませんと……」
 ふむ、と顔を上げたテレーゼが、少しばかり考えて微笑する。
「そういえば、近頃、特異運命座標の皆さんが依頼によく顔を出されるようになったとか。
 折角ですし、あの方々にお願いしてみましょうか」
 穏やかに、けれどどことなく野心的な光を覗かせて、テレーゼが笑っていた。

GMコメント

こんばんは、春野紅葉です。ROOでございます。
NPCがROOで先だしとなりました。いつか幻想の方でも顔を出すことでしょう。

なんてことはさておき、さっそく詳細に参りましょう。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline
●オーダー
【1】魔獣の群れの討伐。

●フィールド
 伝承の南部にある平野部に築かれている小さな砦です。
 街道沿いに作られ、領主が近隣の治安維持のために築いたばかりで
 まだ人員配備がされておらず近く配備予定の空城です。
 視界は抜群、奇襲には向きませんが遮蔽物がなく、射程の確保に支障はありません。

●エネミーデータ
・魔獣の群れ×20
 多種多様な魔物の群れです。単体であれば大したことはありません。
 群れのボスとして他の魔物よりも2回り大きいネームド個体がいます。
 サイズ的にすぐわかります。ネームド個体のみ他の19匹とは明確に一線を画す実力を有します。

●NPCデータ
・カルラ
 槍使いの女性です。ブラウベルク家、特にテレーゼに属する間諜です。
 ばれても逃げおおせることができるようにするためか、腕も立つようです。
 高めの反応とEXA、平均よりやや上の機動力のスピードアタッカーです。

  • 魔獣の贄完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年06月22日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフルハンマ(p3x000319)
冷たき地獄の果てを行くもの
マーク(p3x001309)
データの旅人
夢見・ヴァレ家(p3x001837)
航空海賊忍者
天魔殿ノロウ(p3x002087)
無法
Teth=Steiner(p3x002831)
Lightning-Magus
ルフラン・アントルメ(p3x006816)
決死の優花
キサラギ(p3x009715)
呉越同舟
フィーネ(p3x009867)
ヒーラー

リプレイ


 未完の城塞を中心に、20匹の魔獣が取り囲むように存在している。
 それらの魔獣のほぼ中央、サイズ感がおかしい魔獣が見える。
 身体は狼だろうか。大きな二対の鳥類の翼、尾は蛇の顔になっている。
 キメラの類であることは明らかで――同時にあれがネームドであることも明らかだ。
 残念ながら個体名はここからはまだ見えない。
(ROOのテレーゼさんか……この世界では色々と逆になると聞いたが……
 混沌の方のテレーゼさんとどう違うのかな……?)
 今回の依頼人のことを『妖精粒子』シフルハンマ(p3x000319)の向こう側で思考する。
 ネクストと混沌では在り方や立ち位置が混沌の場合とは違っている場合が多い。
「色々と気になるが、今は依頼を熟して生き残ろう」
 視線を前へ。ひしめくように未完の城塞を囲う魔獣に向けた。
「依頼者のテレーゼさんもその参謀のマルクさんも本物じゃなくて、
 ここに居るのはマークさんで! あ、頭がこんがらがりそう……」
 知恵熱でぷしゅーって感じのエフェクトが出そうな『ひよっこヒーラー』ルフラン・アントルメ(p3x006816)に、『マルク・シリングのアバター』マーク(p3x001309)が頷く。
「今回の依頼人はテレーゼ様とマルクで、僕はマークで、でも僕の中の人はマルクで……たしかにややこしいね。
 テレーゼ様の参謀という立ち位置は、現実の僕に近いと言えば近いけど、それだけに思惑には注意したいな」
 告げると共に、脳裏では別の事を考える。
「『こっち』のテレーゼ様と僕の思惑はまだ分からないけど……
 助けを求めている人がいて、助けられるのが僕たちなら、今は迷っている時間は無い」
「うん、そうだよね! どっちのテレーゼさんの依頼だろうと頑張るよー!」
 大きな尻尾をふりふりしながら、ルフランも気合を入れて前を見た。
「人助けの為に、たった一人で魔物の群れを引き付けるたーな。間諜だってのによぉ?」
 大型ハンドガン『Castor』を握り『Lightning-Magus』Teth=Steiner(p3x002831)は声に出す。
 間諜というからには生きて情報を持ち帰ることこそが任務。
 決して魔物を相手に民間人を引っ張って逃げる役目ではない。
 そんなことをするとしたらそれはきっと。
「……そんなお人好し、放っておけるわけねぇだろうが!」
 きっと、とんでもないお人よしだ。
(魔獣がどこから湧いたのでしょうか。
 ネームド個体がとても気になりますね……とても強力な個体で能力も高いはず)
 敵を眺めながらフィーネ(p3x009867)も考えていた。
「でもまずは……絶対誰も死なせないこと……! 間に合ってください!」
 それを考えるのを一度やめると、ひしめく魔獣を見据えてポーションの入ったカバンを握り締めた。
「ええ、気持ちよくお酒を飲むために、精々頑張るとしましょうかっ!」
 あくまで仮想現実、現実の人の命が係わるわけではない。
 それでも、このネクストに生きるNPCにとってはこここそが現実。
 頼まれた以上、放っておくのは夢見が悪いと『航空海賊忍者』夢見・ヴァレ家(p3x001837)は笑う。
「オレはどっちかっつーと対人のが得意なんだが」
 少しばかり渋い顔をする『無法』天魔殿ノロウ(p3x002087)は短刀を握り、少し体勢を整え。
「獣はなァ、換金すんのに手間がかかんだよなー。
 ま、殺るだけならヒトもケダモノも変わんねーか!
 ――獰猛に笑ったかと思えば、一気に疾走する。
 反応を示した魔獣がこちらを向くころには肉薄していた。
「ひい、ふう、みい……普通のが19にデケェのが1か。流石、情報通りだな。
 んじゃさっさと行こうぜ。アレを突っ切って合流すんだろ」
 堂々と三本の愛刀を抜き、『雷火、烈霜を呼ぶ』キサラギ(p3x009715)が構えて。
「よっしゃキサラギ一番乗りィー……」
 普段通りに最速で速攻を駆けんと走るその横を、風のようにノロウが走り抜けていった。。
「アイツ速ェな! オレも負けてらンねェ!」
 最速を取られつつも、キサラギも負けじと最速に近い圧倒的速度で駆け抜ける。


 最速で肉薄したノロウの標的は、ちょうどいい具合に『人間っぽい』魔獣だ。
 頭頂部から肩辺りまでが牛、胴部が人間で太腿以下も牛。
 身長こそ2mぐらいはあろうか。
「――ちょうどいいや、アンタからだ」
 にんまりと笑って、短刀をくるり。
 腹部を掻っ捌くように横に薙ぎ、呻いて身体が屈むその瞬間に心臓へと突きを一つ。
 バランスを崩してがら空きになった所へ、鳩尾と首筋に連撃を叩き込めば、そのまま敵を蹴り飛ばして後退する。
 刹那の遅れに続けるようにして、キサラギも魔獣の群れへと突貫する。
「道を開けてやんのよ。一切合切燃え尽きろ――『風燼』!」
 射程圏内には狼型の魔獣が2と、ライオン風の魔獣が1。
 焦熱を帯びた三本の刀を振り抜く。
 それは神楽でも舞うかのような神秘性を帯びた舞。
 熱を帯びた刃は3匹の魔物を泣きながら炎獄の残り火を引いて切り裂く。
 舞の終わり、跳ね上げた刀の動きに合わせるようにもう一度。
 都合四度に及ぶ連撃が魔獣たちの身体を焼き付ける。
「――ルートは見えた」
 テスは出力デバイスを起動してコマンドを入力し、座標を指定する。
「――見てな、お待ちかねの援軍登場だぜ!」
 視線を魔獣が集まっている方へ向けてから、決定を叩く。
 刹那、テスが指定した場所へ、空から金属杭が降下する。
 着弾と同時、高濃度の個体プラズマを含むソレは貫いた魔獣と結合――そこを起点に強烈な電磁荷重を引き起こす。
 空間が改ざんされるが如く重圧を帯びて魔獣たちの動きを食い止める。
 中でも大物が、全身を震わせた。それを受けたネームド個体がイレギュラーズを向く。
 同時に浮かぶは、『魔狼凰』ディスグリージア――恐らくはあのネームドの個体名だ。
 それが出たという事は恐らく――
「ハッ! こっちに気づいたか」
 テスが呟くのに応えるように、雄叫びが戦場を劈いてイレギュラーズの方へ魔獣が視線を向けた。
「ああもう、ルル家に全ての罪と責任を押し付けて、楽してお酒を飲むだけのつもりでしたのに!
 こんな割に合わない事をするの、今回だけですからね。分かっていますか、マーク殿!」
 魔獣の群れへ走りながら、ヴァレ家が叫ぶ。
 それは言っちゃ意味なくなるのでは?とかはまぁ、さておこう。
 ディスグリージアを見上げてその下あご辺りへと殴りつけると同時に腕に仕込む刃で斬りつける。
 注意を引けたのか、ディスグリージアが雄叫びを上げ、翼をはためかせる。
 瞬間、暴風が刃となってヴァレ家の身体を切り裂いた。
 深緑色の法衣を風になびかせ、ルフランは走り抜ける。
「攻撃も回復の内! いっけー!」
 こちらへ近づこうとする魔獣たちとかち合うようにして進行方向でぶつかり合う。
 その瞬間に、お皿に乗ったりんごのような杖の先端を魔獣の方に向ける。
 瞬間、扇状に広がる範囲にサイズを大きくした砂糖菓子が降り注ぐ。
 ある魔獣は頭を撃ち抜かれ、ある魔物は地面に落ちたソレを踏みつけてバランスを崩して倒れこむ。
 もう一度の砂糖菓子が隙のできた魔獣に降り注ぐ。
 花盾を構えたシフルハンマは魔術書を開いて魔術を発動させる。
 今のところ魔獣の中で明らかに弱った個体などいないが、それでも比較的強く当たった個体はいる。
(ひとまずは完璧に依頼をこなそう。そしたらテレーゼさんとも交流を作れるかもしれない)
 魔術書から開かれた無数の矢が、疲弊を見せる魔獣の1匹へと炸裂する。
 連続する矢は防御の意味をなさず魔獣の身体へと打撃を叩き込んでいく。
 イレギュラーズの猛攻を受けて4匹ほどの魔獣が血を残して電子の海に消えていく。
 まるでそれに対する怒りとばかりに、獣が吼え、反撃を前衛へと叩き込んでいく。
 フィーネは連撃の開始と共に徐々に前へ進んでいた。
(私は攻撃する手段がほとんどありませんから、孤立しないようにしないと)
 最悪の場合通常攻撃で殴ることは出来るし、ROOの使用を考えれば、それだけでも有効な攻撃手段ではあるが――薬師としての本懐は回復だ。
 最前衛で武器を振るう仲間達へ向け、フィーネはポーションを投げた。
 くるくると回転しながら空を舞うポーションが戦場へと散り、仲間の傷を癒していく。
「カルラさん、テレーゼ様からの依頼で助けに来ました! 共闘しましょう!」
 マークは意図的に声を上げながら走り抜けた。
 視線の先で顔から胸元までがヤギ、両腕を含む胴体が人間、下半身がヤギの魔獣がぐらりと動いて地面へ倒れて消える。
 それとほぼ同時にその向こう側にいた女性の姿が見えた。
「マルクさん!? 貴方が直接きたの!? っていうか、刀と盾……? 貴方、魔術師とかの類じゃ……」
 その言葉に思わずピクリと身体が動く。
 そういえば、身長をちょっとだけ盛ったぐらいで混沌の容姿と変わらない――ということは逆に言えばネクストのマルクとも同じなのだ。
「話をすると長くなりますけど、僕はマルクじゃないんです。
 ひとまず、仲間がいるのでここから出て合流しましょう」
「え、えぇ……分かったわ。あっちの人たちね」
 ちらりと視線を向けてカルラが動き出すのを見ながら、マルクは視線をディスグリージアに向けた。
 ここから先の仕事は、アレをヴァレ家と止めることだ。


「やっぱゲームなんだし戦ってた方が面白れェなっと!」
 目の前の魔獣を跳躍して躱し、まるで別方向へと走り抜ける。
 鮮やかな跳躍と共に踏み込みに力を入れて、速度をはねる。
 刹那の間合いを、そのままに短刀をその魔獣へ突き立てると、血の花が咲いてその魔獣が地面へと倒れた。
「さぁて、次は……」
 視線を次へ。もう人に近い魔獣はいない。
「流石に無傷ってわけにもいかねぇが――ここからがオレの本領だぜ」
 射程はディスグリージアを含めるように。
「奥義『湖月』」
 三振り全てを収め、眼を閉じる。
 深呼吸と共に放つべきは絶剱。湖面の月さえ断ち斬る絶刀。
「オレの前に立つなよ? 加減は効かねぇからな、向こうの端まで真っ二つだぜ!」
 目を開くと同時、その剣は走る。
 眼前の魔獣をなます斬りに捨て、大地を切り裂き、遥かな巨躯へ。
「いやしかし。カルラさんよ、随分とデケェ無茶をするもんだな?
 曲がりなりにも間諜、生きて情報を持ち帰る事こそが第一だろうに」
 テスは一度下がってきているカルラへ声をかけた。
「まぁね、生きて帰る自信はあったわ。でも、ここまで正面切ってやるつもりなかったわよ」
「だろうな……これが終わったら、飯の一つでも奢ってもらうぜ?」
「――えぇ。奢りでもいいし、なんならうちの主に頼んであげるわ」
 軽口を言い合いながら、視線を前へ。
 魔獣の数は減ってきている。それでもまだ多い。
 デバイスの入力と同時、空中に形成されたのは二基のマイクロロケットランチャー。
「目標を確定――いくぜ」
 決定の直後――二基から多量のペンシルロケットが発射されていく。
 砲撃は瞬く間に寂しくなりつつある戦場に未だ存在する魔獣を凍てつかせていく。
「はい、これでよし。ひと先ずはこれくらい! 一緒に倒そ!」
 りんごの形をした光に包まれていたカルラの傷がある程度癒えていくのを見て、ルフランは過剰にならない程度で魔術を止めた。
「ええ、ありがとう。助かるわ。それじゃ行ってくるわね」
 いうや、カルラが走り去っていった。
「よし、ここからはあたしの腕の見せ所!」
 視線を巡らせれば、傷の深い者がちらほらと見える。
 握りしめた杖に魔力を籠める。
「ほらほら、カルラさんも無事に救い出せましたし、拙者達を倒さないと彼女を倒せませんよ!」
 ヴァレ家はディスグリージアをマークしつつ、他の敵を見る。
 魔獣の数は順調に減り、自分の体力も減りつつある。
(もうそろそろいいかもしれないですね。問題は……絶妙にこれの攻撃が痛い事ですね!)
 相手の注意を引かねばならぬ状況はほとんどない。
 判断してからは速い。踏み込むと同時、近くにいる魔獣の方へと腕を振るう。
 放射状に広がる暗器がディスグリージアとごく近くにいた魔獣1匹を貫いた。
(ん? あいつ……)
 後衛に陣取り攻撃を加えていたシフルハンマは、不意に魔獣の群れから零れ落ちるようにして離れようとしている個体をみた。
「……逃がすのは後々の禍になりそうだし、あれを狙おうか」
 思考するとほぼ同時、魔術書が輝き、魔力を帯びた矢が複数姿を見せて、戦場を離れようとする狼っぽいその魔獣を貫いた。
 マークは刀を握り締めた。
「混沌(げんじつ)では守られてばかりだからね。こっちではせめて、誰かを守れるようになるって決めたんだ」
 それは基本的な動作でしかない。けれど何よりも大事な基本の動作だ。
 刀を振り下ろせば、相対していた魔獣の身体が二つに割れて倒れていった。
「私がやれることは回復することだけ……だからこそ、私がやらないといけないんです!」
 ぐいっと煽ったのは実験的に作った自分用の特殊調合ポーション。
 魔力を循環し、異常を取り除く特殊なポーションによって充実させた魔力を籠めなおして、大きなポーションを戦場に向かって投擲する。
 鮮やか放物線を描いて空を舞ったポーションは仲間達の身体を癒していく。
 秘蔵品のそれをぶちまけれるのは消費的には損だが――数が多かったこれまでは必然的にそうする場合が多かった。

 戦いは続いている。
 ディスグリージアが羽ばたき、後方へと間合いを開けたかと思うと、真っすぐに突っ込んでくる。
 強靭な刃が、マーク目掛けて飛んでくる。
 殆どの魔獣は消えたが、カルラを救い出してからの行動の殆どは攻撃を受け続ける事だった。
 たとえゲームだとしても、それはやはりどうしようもなく怖かった。
(それでも、倒れて誰かを守れなく成ってしまうほうが、もっと怖いんだ)
 身体から生命力が削れていく。
「――しまった、これ……!」
 その攻撃に【必殺】の文字がついていることに気づいた時――最後の1が消えた。
 ディスグリージアが咆哮を上げる。
 フィーネはそれを耳にしながら、ポーションをヴァレ家めがけて投げつけた。
「これ以上は――損害を増やしません!」
 消費など知った事か。それでも仲間がこれ以上死ぬよりは遥かにマシだ。
 それに続けるようにルフランもポム・オ・ポムをヴァレ家にかける。
 マークが倒れた以上、ディスグリージアには【必殺】が存在している。
 復讐を持つヴァレ家ならば、体力が削れていることは優位だが、【必殺】が存在している以上、減りすぎてもいけない。
「……だから、あたしの腕の見せ所。死なないように……しないと」
 握りしめる杖に力が入る。ディスグリージアの視線を、ひしひしと感じ取った。
 跳躍と同時、ノロウはディスグリージアの背中に着地する。
 暗殺の手口の如く気配を押し殺して、背中からその首元に短刀を叩き込む。
 鮮血があふれ出して、ディスグリージアが雄叫びを上げる。
 どうやら今気づかれたらしい。
「些細な変化に気付かないオトコはモテねーぜ? ケダモノの好みなんざ知ったこっちゃねーがな!」
 そんな言葉を言い残して、退避すべく跳躍する。
「そのデカい図体、まるっと消し飛ばしてやらァ!」
 『Castor』が消失するのと入れ替わるように手に握る魔導機構砲。
 発電が始まり、砲口へプリズマが生成されていく。
 それは高温のプリズマ柱をへと変質し――引き金と弾いた刹那にディスグリージアの身体を貫いた。
「……これが終わったら、絶対にお酒を飲みますわ!!」
 若干中の人が覗くような言葉一つ残して、ヴァレ家は走り出す。
 めためたに疲れながら、踏み込み跳躍する。
 狙うは貫かれた開いた傷口。
 痛撃に獣が吼え、たたらを踏んだ。


 烈しい消耗戦の果て、ディスグリージアとの戦いを終えた8人は幻想南部にある交易都市エーレンフェルトに顔を出していた。
 交易都市らしく、商人や彼らが泊る宿場を中心として、活気にあふれている町だった。
 それらの城下町を一望できる位置に、その邸宅は立っていた。
「まずはご協力ありがとうございました」
 邸宅の主、そして依頼人たるテレーゼが緩やかに笑って君達に礼をする。
「皆様が、イレギュラーズの方々ですか……ふふ、なるほど」
 静かに笑うテレーゼの横には、瓜二つのマルクが立っている。
「さて――改めまして、何か特別に話があるとか」
 話を変えるように、テレーゼが微笑する。
「そうでした。見解をお聞きしたいんです。
 僕達が助けたカルラさんは『賊の調査』に向かったはず。
 いったい、どんな賊を探ってるんですか?」
 魔獣が姿を見せるそんな場所にいる『賊』――そんなろくでもなさそうな相手を。
「分かりません」
 答えたのはマルクだった。
「ええ、今のところは不明です。だからこそ、私達も探っているのです」
 それに頷いたテレーゼが静かに告げる。「
 その表情はマークやシフルハンマ辺りは混沌側で幾度か見たことがある。
(俺が知るテレーゼさんは高貴で明るく、身内に優しく、それを害する敵は絶対に許さない。
 身内を害するものはあらゆる手を使ってでも絶対に排除する……そういうタイプだけど)
 どうやら『そこ』はこちらでも変わらないらしい。
 いま目の前で静かに微笑する彼女からはその手の冷たさを感じさせた。
 ――いや、それどころか、混沌よりもより攻撃的にさえ見える。
(あっちだと敵に回ることはないけど、こっちでどうなるかはテレーゼさんのこれからの動き次第。
 ……できるなら敵に回したくないな)
「皆様の方では何か気づきませんでした?」
 返すようにして、テレーゼから問われる。
「……魔獣の中で一番大きかった敵から何か分からないかと思いましたが……ごめんなさい。見つかりませんでした」
 フィーネは静かに頭を下げる。
「……でも、カルラ様以外にも襲われた方がいるかもしれません。
 その辺りの調査もしたほうがいいかもしれません」
 続けるように声を上げれば、テレーゼがちらりとこちらに視線を向ける。
「ええ、それについてはその通りだと思います。
 調査を続けると共に、あの砦はさっさと完成させた方が良さそうですね」
 小さく頷いて、テレーゼがマルクに視線を向けるのが分かった。
 その直後、彼女がぱん、と軽く手を叩いた。
「あぁ、それから。カルラさんに言われたのでお食事の用意をしていますから、準備が整ったら食べていってくださいね」
「そりゃあいい。そうさせてもらうぜ!」
 それに食いついたテスが頷き。
「お酒は良いのを出してもらえます!?」
「えぇ、もちろん。うちの地酒でよろしければ」
 質の悪い毛皮にだいぶショックを受けていたヴァレ家の眼の色が変わる。
(そういえば、カルラさんって現実にもいるのかなぁ)
 その話を聞きながらルフランが思うのは、今回助けることになった彼女の事。
(いるならいつか、会ってみたいなぁ)
 多くの場合、(在り方が変わっているのはさておけば)ネクストのNPCは混沌の人物を反映している。
 であればきっと、彼女のこともまた『自分達がまだ出会ってないだけで混沌にいる可能性がある』のだと。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

マーク(p3x001309)[死亡]
データの旅人
夢見・ヴァレ家(p3x001837)[死亡]
航空海賊忍者
天魔殿ノロウ(p3x002087)[死亡]
無法

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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