シナリオ詳細
イレブンシス
オープニング
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ふ、と。
瞼を閉じていると思い出す事もある。
それはかつての記憶。古ぼけた、しかし確かにあるヴェルグリーズ (p3p008566)の残滓。
かつて彼がただ一振りの剣であった折……多くの持ち手が現れた。
勇猛なりし者。穏やかなりし者。
多様なる主人がいたものだが――誰もが常に戦の中に身を置いていた訳ではない。
午後の休日には剣から手を放し、本を読む者もいた。
或いは家族との団欒を楽しみ。或いは友との語らいを楽しみ。
それらの光景を――時折思い出す事がある。
傍にあった一振りの剣として。
……そして。その中でも最近『気になる』べき記憶が思い起こされている。
あれは何故だったのだろうかと。
それは一時の茶を楽しんだ剣士の記憶。
戦場にて果敢なりし達人が、しかし茶を口にすれば――口端を解けさせていた。
あれほど鬼神めいた顔を見せていた者が一変するかの様で。
――何故?
あの茶にはそれほど強い効力でもあったのだろうか?
それとも何か秘密でもあったのだろうか?
……消えかけていた程度の、左程重要でもない筈の彼の一片。
しかし一度気になれば、解消されねば――気が晴れぬ。
あの日の遠い光景はどこにあるのだろうか。
瞼を開いた彼は――ゆっくりと体を起こして――
●
「――お茶の淹れ方?」
エルス・ティーネ (p3p007325)がヴェルグリーズより掛けられた言葉は意外と言えば意外だった。相談があるとは聞いていたのだが、まさかそれがお茶の事とは。
「でも、どうして突然?」
「……なん、と言えばいいのかな。俺にも上手く説明できないのだけれども」
ただ記憶の端にある――鬼が如き剣士すら穏やかにする『茶』の味が気になるのだと。
試しに適当に茶葉を買って湯を沸かして淹れてみたはいいのだ、が。
「どうにも『普通』にしかならなくて」
今エルス達に出している茶――まずくはない、が。特段旨いかと言われればそうでもない。
元々あまりヴェルグリーズは上手い茶を淹れようと――そう思い立った事自体が無かった気がする。故に彼の淹れ方はただお湯を注いだ程度のモノなのだ。良い悪い、ではなくそもそも『知らぬ』
――だから再現できない。人を笑顔にするような。
あの日の茶の一時を。
あの日の記憶を。
……いやそもそも記憶の底にあるその光景の茶の葉がなんであったのか覚えていない。故に完全に一致させる事は恐らく不可能に近いだろう――ただ、彼自身別にあの日を完全に再現したい訳でもない。
「ただ――知りたい」
茶の旨さというものを。あの日の心の一端を。
ただ気になっただけ――ではあるが。
それでも。瞼の裏からあの一時が剥がれぬのだ。
数多の別れを経る剣であったとしても。
魂に刻まれた出会いだけは消えないのだ。
「だからお願いしたいんだ。俺にお茶の淹れ方と言うのを」
「なぁご……そういう事なら、とりあえず茶葉も沢山そろえた方が良いかもしれないにゃ」
であればと――言うはティエル (p3p004975)だ。
「そもそも沸騰させればいい、というものでもないにゃ。
茶葉はそれぞれ丁度いい温度と時間があるものだにゃ」
「そうね――紅茶なら沸騰してるぐらいがいいけれど、緑茶とかは一段ぬるくしないと」
茶にも様々なモノがある。
例えば紅茶。旨味や成分をしっかりと感じたい場合は沸騰の領域にて抽出せねばならぬ。
しかしそれでは渋みの成分が多い事もあるのだ。渋みを押さえたい場合などはあえて沸騰状態から冷ました上で入れる必要がある。緑茶の類に至ってはそもそも沸騰近い温度は適正ではない事が多い――
抽出時間も奥深い。一分程度。或いは四十五秒程度など……
量にもよるがこれまた種類によって異なるのだ。
更に拘るのならば水も硬水と軟水という違いがあり――!!
「という訳で、早速色々試すためにもまずは仕入れる必要があるにゃ」
色々なモノを、と。至高を求めるならばまずは『物』からだ。
幸いと言うべきかなんというべきか――事、『商品』に関しては世界各地から様々なモノが集うラサに縁深いのがエルスとティエルだ。かの地に出向けばよほど珍しいモノでもない限り揃うだろう……多くの茶葉を見ても良し、或いはひたすら茶の抽出に丹念しても良し。
「……ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします、で良いのかなこういう場合は?」
「ふふ――ヴェルグリーズさんが納得できるものが作れると良いのだけれどね」
エルスの微笑み。さて、記憶の彼方にあるあの一時を再現できるか否か。
時刻は約11時頃か。鳥の鳴き声も聞こえし、穏やかなる時の中で。
緩やかに事が始まろうとしていた。
- イレブンシス完了
- GM名茶零四
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年06月22日 23時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「お茶……お茶はいいわよ。茶葉によって淹れ方は変わるし、ふふ」
納得のいく淹れ方に出会えるといいわね――そう紡ぐのは『竜首狩り』エルス・ティーネ(p3p007325)だ。
まずは、と彼女はラサの方へ買い出しに出向いている……ラサと言えば傭兵業の方がイメージとして先行するかもしれないが交易に優れる国でもあるのだ。騒がしいと言えるほどの喧噪――まぁ、エルスとしては慣れた騒がしさ――の中に歩を進めて。
「そういえばお茶と言えば、以前エルスさんの所で飲ませてもらったな――
あれも美味しかった。湯の淹れ方だけであんなにも変わるとはなぁ……」
「へぇ、色が変わるハーブティーとかあるんだ。バタフライピーとマロウブルー? 温度とか、レモンを加えると反応して……」
同時。ラサの中で買い出しをせんとエルスと共に行くのは『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)と『Re'drum'er』眞田(p3p008414)の二人だ。イズマは以前エルスより頂いた紅茶の味を、その一時を想起しながら店先を眺めている。
色褪せもせぬ程に覚えている。あの時ほど茶葉の存在を感じた事があっただろうか。
一時は青薔薇の名を冠する才知に興味があったほどだ。その感動を今、この時再びに。
再現の為にもまずは茶葉を揃える所からと思考して……眞田が見据える先に在るのはハーブティーの一種だ。
「面白そうだな……これで一度、試してみたい。
というかお茶って健康効果もあるんだ? 口寂しさも紛らわすって……?」
「ああ。タバコを吸ってたりしたら紛らわしに良いんじゃないかな。
こういう機会はあんまりないしね、折角だから試してみるといいよ」
既に見ているだけでも勉強になると頷いている眞田の背後から更に除く様に顔を出したのは『機工技師』アオイ=アークライト(p3p005658)だ。普段はイレギュラーズ故というか……戦うような依頼に行く事が多い。
だが今日と言う日に不穏な影も闘争の気配もありはしない。
人々の喧噪の中の、只一人であれるのだ。
「ま、かくいう俺も一人じゃコーヒーとかココアばっかり飲んでたものだけど……最近は『あっち』でお茶を淹れる事も増えたしなぁ――偶には積極的に別のも試してみようかね、っと」
ともあれ己も目当ての茶葉を探すとしよう。
目指すはダージリンだ。その中でも夏摘みの一品たるセカンドフラッシュ。
熟した果実の様な香気と風味――そして何よりカップの中で煌めく色合いの良さ。
『紅茶の女王』と呼ばれるソレこそが正に茶会の場に相応しいと吟味して。
「お茶には色々あるからにゃー。ガラスの茶器で色合いを楽しむにゃ。
あっ、少なくとも白以外の色付きはやめておいた方がいいにゃー」
更に人ごみをかき分け『なぁごなぁご』ティエル(p3p004975)も模索する。
彼女は茶葉と言うよりも茶器の方を優先していて探している形だ。緑茶などであれば鉄の器が用いられることもあるが……しかし紅茶は余計な香りや色が付くなどあってはならぬ。
故にガラス製の陶器を探し、そして茶漉しとチャイティー用のヤカンも一つ。
「キャットニップのハーブティーだけは駄目にゃ。アレは……マタタビにゃ。マタタビと変わらないにゃ。飲んでる内に楽しむとかそういう次元じゃなくなってしまうにゃー、なぁごなご……とっても危険にゃ」
「ふふ。それは確かに、ティエルさんにとっては死活問題ね」
「飲むのは必ず『人』だけって訳でもないよね、そういえば……」
アレだけはダメだとティエルは警戒し、さすればエルスとイズマも『その』光景を思い浮かべれば――ついぞ笑みが零れてしまうものだ。
飲む者の気持ちにも思考を馳せて買い出しをするとしよう。
それがきっと――至高の一飲みに繋がるのだから。
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「さてさて、そろそろラサの方に出向いたメンバーも戻ってくる頃かな?」
一方で『幻想の貴族騎士』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)は幻想の、己も時折訪れる行きつけの店にてティーカップを揃えていた。
こうしてゆっくりとした時間を過ごすのもなんとも久しぶり。
より皆の心に平穏を齎すために、各々に合いそうなカップを仕入れるのだ――
「ラサでは様々な物が集まるでしょうね。ふふ、それにしても……
ヴェルグリーズ様がご指導なさっている領地、初めて来ました」
「ははは――こうして人を招くのは中々ないけどね」
ともあれ集まってくれてありがとうと、招かれた『星雛鳥』星穹(p3p008330)の微笑みに言を返すのは此度の招待の主たる『全てを断つ剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)だ。
道中を歩いただけでも星穹は感じていた、この領地の優しさを。
ここは人が優しくて――いい所だ。
そう、まるでヴェルグリーズの……彼の人柄が反映されているかのように……
「……なんて、言いませんけれど、ね」
「ん、なにか言ったかい?」
「いいえ――それより皆様が戻って参りそうですね。私、菓子の準備の方をしてきます」
小声で。彼に聴き取れぬ様に呟いて。
返す踵の先にはシューヴェルトと同様に幻想で揃えた茶葉や菓子の数々だ――
彼女としてもラサの茶葉は気になる所であったが、しかし皆がラサで多様を揃えるならば自らは幻想主流にしようかと。ヴェルグリーズの領地も此処にあるのであれば、買うはやはり幻想産の機会もきっと多かろう。
それに、ローレット自体が幻想にあるからか自身もよく周囲の店には通っている。
「ついつい美味しそうなお菓子やパンを買って帰ってしまったりすると、水や珈琲では限界があるのですよね……やはり風味豊かな紅茶の味が恋しくなる所です」
故に色々と揃えやすいと。星穹は茶葉の缶を四つ程購入、それから聞いた所によるとドライフルーツなどを浮かせる事もあるそうで――馴染みのある果物屋から普通のフルーツ、ドライフルーツにミルク、蜂蜜なんかも諸々取り寄せて……あ、あれ? ちょっと多くなったかな?
「ああ。珈琲の類も悪くはないが、しかし貴族の国と言えば紅茶だろう――そうだ。ついでと言ってはなんだが、僕の領地がある神威神楽から『和菓子』を持ってきてみた。これはちょっとしたものだが、味のアクセントに良い代物になるかと思ってな」
「おや、神威神楽の菓子とはまた珍しいね」
ちょっと内心自分で揃えた量に慌て始める星穹の後ろの方では露知らず、シューヴェルトとヴェルグリーズが珍しき『和菓子』を見据えていた。神威神楽の地が開国されてまだそう時が経っていない故に、幻想では珍しい物であるそれは――『上生菓子』と呼ばれる逸品だった。
小さいながらも形にも凝っており、かつ口当たりがなめらかで、蕩けながらも味わい深い後味を醸し出すそれは濃茶とよく合うとされているものだ。形の上でも華を模した鮮やかさが美しい。
「よし――庭のテラスの方で準備しておこうか。
折角のいい天気なんだ……お茶会のセッティングは、外でやるときっと晴れやかだろう」
にこやかなるヴェルグリーズ。お湯の温度も測れる品を揃えてたっぷり準備。
強すぎない日差しが穏やかなる暖かさを運び、遠くからは小鳥の鳴き声も幾つか。
――さすればラサに出向いていた者達が戻ってくる。
多くの茶葉を携えて。多くの想いを携えて。
「さ、お待たせ――始めましょうか! 紅茶はダージリン、アッサム、ウバ、キーマン等がよく聞くところかしらね? 他にもいろいろ種類があるのだけれど……今回はまず、この辺りにしましょ!」
そして先陣を切ったのがエルスだ。まず重要なのは紅茶の選定であると。
ダージリン、アッサム、ウバ、キーマン――その中でもダージリンは何も入れずにストレートで楽しんでみると良いだろう。かの風味は純粋であるのが最高であり、一方でアッサムやウバはあったかいミルクを混ぜ合わせてミルクティーにするのもお勧め。
「それからキーマンもストレートがお勧めだけど……独特の燻したようなスモーキーな香りが際立つ事が特徴ね。つまりこれ、甘いスイーツとよく合うのよ! ええ、クッキーなんかと合わせると絶品になるわ! 是非味わってみて!!」
「前から思っていたけれど……エルスさん、大分紅茶に詳しいね?」
ちょっと早口になるぐらいにとイズマは気付く。彼女の生き生きとした表情を一体誰が止められようか――煌めく光が見える程の活力だった。
「え、あ、いや、その……紅茶は元の世界でよく飲んでいたし、自分で淹れていたから……ちょ、ちょっと詳しいだけなのっ! そう! ちょっと、ほんのちょっとだけ、ねっ!!」
ハッ、としたように慌てて言を紡ぐエルス。別に嘘を言ってる訳ではない――むしろその時勉強したおかげでやろうと思えば店も開ける程だ。『と、とにかく!』と、咳を一つして場の雰囲気を強引に戻せ、ば。
「お茶って……抽出とかすんの? いやそもそも抽出ってどうするんだ……?
ティーパック突っ込んで色が出るまで待つ、じゃダメなんだよな?」
「そうだね、茶葉を取るのにもタイミングがありそうだけど……そういえば水にも軟水とか硬水もあるよね。それも関係してくるのかな?」
さてさて実際に淹れてみる時間であると、チャレンジしてみんとするのは眞田とヴェルグリーズだ。眞田は煙草を吸う為、炎症を抑える効果があるというマロウブルーを購入してきた訳だが――さてしかしどのように淹れるのが正しいのだろうかと。
「どちらかと言うと軟水の方がいいらしいね。硬水だと、場合によっては紅茶の成分であるタンニンがカルシウムなどの栄養と結合しすぎて……黒く濁ってしまう場合があるんだ。かといって硬度の低すぎる軟水だと、今度は紅茶の成分が抽出されすぎて苦くなってしまう」
それに言を紡ぐのがイズマだ。水一つにもやはり違いがあるのだと。
ともあれ紅茶をオーソドックスに淹れるなら以下の様になるだろう。
①フタ付きのティーポットを使用する。カップも含めて温めておく。
②茶葉を淹れて、沸騰した湯を注ぐ。茶葉が踊るのがポイント。
③数分蒸らしたら注ぐ。
「カップも温めておかないといけない。冷たいと想像以上に温度が下がって、適切な抽出温度にならないからね……そしてすぐに注ぐのも重要だ。いわゆるジャンピングという――酸素を混ぜるやり方だね」
「ジャンピングというのは、これは茶葉が動く現象でもあるが……沸き立ての湯であることが重要なんだ、酸素をたっぷりと含んだ、な」
茶葉を湯の酸素が持ち上げ、沈み、また持ち上げ……
この繰り返しが起こる事がジャンピング。
後は容器の形もまた味に関わってくるものだ。イズマの言に続いてシューヴェルトも己が知識を手繰り寄せながら、皆と試行錯誤を繰り返していく。
取り寄せた茶葉はそれぞれあり、それぞれの特徴があるのだから――
「よし、この茶葉は……90~95℃のお湯でいれて……っと。とりあえずこれでOKかな」
アオイは探し出したダージリンや発酵度の高いウーロン茶を試している。
今日と言う日の為に本でも調べてきたのだ。実際に試すのはこれが初めてであるが故に……成功するかは努力の他には祈るぐらい、か。
「……まぁ者は試しっていうし! それに想像以上に濃いのが出来たとしても――濃いのが好きな奴にとっては、それが最上だよな!」
「ええ。楽しんでいきましょう。新たな事に取り組んでみるのも、また良い事です」
同時。近くでは星穹も高めの温度にて淹れている真っ最中であった。
じっくりと蒸らした方がいいのかと。
いや琥珀色ぐらいになった段階で止めた方がいいだろうか?
いやいや待て。そういえばこれからの時間帯は段々と暑くなってくる――ホットのみならずアイスも用意しておいた方が良いのではないか?
「ああ。フルーツやミルク、蜂蜜を沢山――ええ、沢山買っていますので。
もしも使いたいという方がいらっしゃいましたら是非お使いくださいね。ええ、是非」
「ははは、ありがとう――星穹は優しいなぁ」
であればとヴェルグリーズも一つ、また一つと転してみるものだ。
お茶の淹れ方を教わり、初めての知見も得た。
お湯の温度に蒸らす時間、茶器の扱いまで――
「本当に、色々あるんだね」
己の知らなかった世界が此処にある。
さぁどれから飲み始めようか。豊かな香りは幾つもあり贅沢な悩みで膨れそうで。
「えーと、こう。こう、か? たしかこれは70℃あたりだと色がゆっくり変わるみたいなんだよな……よし。とりあえずはこれで――あっ、しまった。何秒待てばいいんだっけ」
……まぁ色を見て判断したらいいか! と積極的にチャレンジしているのは変わらず眞田だ。『色が変わる』と評判のマロウブルーの茶葉を前に、鮮やかな水色へと変化する様を楽しんでいる――まるでお茶と言うよりもカクテルの様だ、と。
「なごなご……いい香りがしてきたにゃ! あっちもこっちも天国だらけにゃ……!」
そうしていればティエルが茶の完成を素早く嗅ぎ付ける。
彼女が淹れるはチャイティー。紅茶とシナモンを自ら沸騰させ……あぁミルクも温めておこう。お砂糖はたっぷり。たっぷりと多めに。甘く淹れるのが白砂(ビャクサ)のやり方。
――出揃う数々。より取り見取りの絶景が其処にある。
さすればティーカップと共に楽しもう。シューヴェルトが揃えたものや、或いは。
「はは、改めて注いでみると中々凄いデザインだな。ま、こういう時の記念には合いそうだ」
アオイがラサで色々探していた際に見つけた――小さな歯車の装飾が付いたカップなどで、だ。普段使いには些か使いづらい様な気がアオイ本人もしているが、しかし客人との語らいの場では話のタネにもなりそうな逸品だ。
――口へと運ぶ。美しき、透き通る様な褐色を携えたソレを。
さすれば口内に香りが満ちて鼻を擽る。
するり、と。喉の奥へと落ちる様はまずもって『飲みやすい』という印象を与えるものだ。
珈琲などであれば酸味が強かったり苦味が強く、二口目を易々とはいかぬ。
されどコレは違う。二口目を楽しみたいと思える美味があるのだ。
――『美味い』というのは『もっと食べたい』という感情である――
そんな事を述べたのは一体どこの誰だったか。
しかしそれは真理であるかもしれないと感じていた。
もう一口楽しみたい。この至福を、もう一口と。
「ああ……これよね。紅茶の味わいは。
しつこくなくて『優雅』であるという言葉が似あう飲み物は――こうはないわ。っと、そうそうお菓子も一緒に食べましょうか。チョコレイトはドロドロに溶けてしまうから……クッキーなどの焼き菓子が良いかしらね」
「だけど全体的に甘いのが多いな――口直しに、しょっとしょっぱい豆菓子も持ってきたからさ。好きに取ってくれ」
さすればエルスはクッキーを準備し皆に配り、シューヴェルトも事前に用意していた和菓子を此処に。されどやはりというか、甘い物ばかり並びそうだと思考していたアオイはあえて塩っ気のある豆菓子を用意している。
これで色々試すことが出来そうだと。
同時――眞田は待望であったマロウブルーの変化を楽しんでいる。
レモンを淹れたらまた味が変わり、抽出時間によってまた変わり。
見るだけで楽しめる変幻自在。ああ――
「お茶って、こういう楽しみ方もあるんだな」
赤も青も好きな眞田にとっては至福の光景であった。
「そうだね――よし、今度は緑茶を淹れてみようかな? こっちはちょっと冷やす必要があるし、少し手間もかかるけど美味しくなるよ。飲み比べてみるのもいいかもしれない――」
更にイズマは新たな茶を追加してみるのも良さそうだと席を立って。
「ああ……やっぱりきちんとした淹れ方をした方が味や香りが断然違うものだね。どうしても慣れていないとお湯を注ぐだけになりがちだから……うん、ハッキリと分かる。でも、なんだろう……」
と、その時。
ヴェルグリーズの思考に過ったのは『あの光景』だ。
これは、美味しい。けれど記憶の中の主の笑顔は、もう少し、別の……
「……そうか、ああ、そうだね」
気付きを得たのはカップを置いて先に広がっていた――景色。
親しい友人、素敵なお茶菓子。いい天気に楽しいおしゃべり。
――それに美味しいお茶とくれば、満たされるのは味覚だけではない。
「きっと、心なんだ」
あの時紅茶は同時に。
味覚のみならず――心の満足をも満たしていたのだろうと。
「――みんな今日は本当にありがとう」
だから、彼は礼を言う。
この思い出はお茶を飲む度にきっと思い出す気がする。
「とても大切なものをもらったよ。
だから――今日みたいなお茶会を開いたらまた来てくれると嬉しいな」
「ええ、ヴェルグリーズ様。お招きいただけるなら――きっといつでも」
参りますと、星穹は言葉を紡ぐ。
どうやら彼は楽しめたようだ。そして、答えを得ることが出来たようだ。
――新たなことをひとつ知る楽しみは私も同じ。
「私も、良い思い出になりました」
星穹は感謝する。今日と言うこの日に。素晴らしい一日の縁となったこの日に。
素晴らしき茶葉の香りを楽しみながら。
瞼を閉じてもきっと思い出せる――芳醇なる香りを記憶に留めながら。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お待たせしました。リクエスト、どうもありがとうございました!
穏やかなる一時。偶には戦いの場を離れたこういう時間もよいものですね……
ありがとうございました!
GMコメント
リクエストありがとうございます――
一時の記憶と共に。以下詳細です。
●依頼達成条件
お茶の淹れ方に色々チャレンジしてみましょう!
●シチュエーション
舞台は幻想、ヴェルグリーズさんの領地たるカノッサ男爵領です。
基本的に本作はお茶を淹れる、楽しむことがメインとなります。
茶葉と言っても一口に色々ありますね。紅茶や緑茶など、そしてそれらは一つ一つ最適な温度や抽出時間と言うのが異なります――こればっかりは『やってみる』しかないでしょう。
色々チャレンジして『お茶の上手い淹れ方』にチャレンジしてみてください。
ちなみに紅茶は一般的には沸騰に近い(90~100)温度。緑茶は70~80度ですが、玉露などは50度程度。一方でほうじ茶などは100度程が良いとされています。ええい色々ありおって! 冷ますのがめんどいのじゃ!(心の叫び)
買い出しとかに外に出てもいいかもしれませんね。
幻想の市街地、或いはラサのマーケットなんかに行くと色々なモノが揃う事でしょう。(え、時間はって? こまけぇこたぁ良いんだよ! でお願いします!!)
あ、お茶ばかりだと水だけでおなか一杯になっちゃいそうなのでお菓子とかがあっても良いのかもしれませんね。
●備考
なお、名声ですが基本的には幻想に付与されます。
が、ラサの方に出向いて何か仕入れるなどの行動をした場合、幻想とラサで等分されて名声が付与される事とします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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