シナリオ詳細
<Genius Game Next>ひとのこころの感情を述べよ
オープニング
●きれいなもの
――人の気持ちはわからない。
――何を美しいと思えばいいのかも。
オアシスの都ネフェレストの郊外にある、黄金の屋敷。
ぜいたくの粋を極めた美術品があちこちらに配置されていて、大粒の宝石が無造作に転がっている。
まるで、全体が宝物庫のようなその場所は、燭台の明かりを目いっぱいに照り返していた。
目のくらんだ侵入者が、今日も一人。
……哀れな悲鳴を響かせた。
「……そんなにも、財宝というものは、ひとを、ひきつけるものなのか……」
『黄金卿』恋屍・愛無は、この屋敷の主だった。
黄金目当てでこの屋敷に入って、無事に出られた者はいない。
「!」
頭上から、何か投げられた。
思わず腕を振りかぶって、直前で止める。
ひらひらと舞い落ちてきたそれは、一輪の青い花だった。
「なんだ……ルウナか」
『愛と平和の語り部』ルウナ・アームストロング。彼女は、たびたびここを訪れる旅人だった。山積みの宝には目もくれずに、気まぐれに話をして去っていく。
「のう、愛無。百年に一度しか咲かぬ花を知っているか?」
「……これが、それか?」
「いいや、違う。
これとそっくりの青い花。『夜光花』というのじゃがな。本物は、自分で光る」
「自分で……」
「儂は見たことがあるぞ」、と、ルウナ・アームストロングは勝ち誇った笑みを浮かべた。
「……」
光る花とは、どういうものだろうか。かすかに思ったのは、「目立つと、標的になりそうだ」というものだ。
「といっても、儂も、実際に咲いているのを見たわけではない。
忍び込んだ遺跡の墓室の氷室に一輪、横たわっておったのじゃ。持ち帰ってこようとしたが、すぐに枯れてしまった……そいつは、いかなる魔術で処理しても、不思議なことに、長持ちせんのよ」
「なら、金にはならないな」
金よりも、この世界にはもっと面白いことがあるのだと、彼女は言った。
「あるところに盲目の娘がおった」
「そいつに惚れた男がおった」
「盲目の娘は、毎朝、オアシスに手のひらを浸すのが好きだった。……ところがのう、オアシスは枯れてしまったのよ」
「それでも、青年は、長いこと砂漠をさまよって、毎日冷たい水を汲んできた」
「そして、盗賊に襲われて、青年がいなくなったとき、はじめて娘は、オアシスがもうないことに気がついた」
「娘は『夜光花』に姿を変えた……男は、砂蛍になって、娘に水を運んでおる」
美しい声で歌い上げる。声が愛無を震わせる。情報と、展開。話の構造については少しわかってきた。
……どういう感想を抱けばいいのか、わからなかったけれど。
「……脈絡がないな……それは、報われているのか?」
「どうじゃろう? しかし、100年に一度の花が咲く。ほれ、愛無」
それは、かつての思い出話。
……いつしか、窓辺の来訪者を待つようになっていて。
化け物は、次第に人の心をまねるようになっていた。
●依頼の目的は
「今回の任務は……」
『黄金卿』恋屍・愛無は少し言いよどんだ。
「……『砂蠍』の討伐だ。……彼らに秩序はない。伝承のフィッツバルディ領を略奪する気のようだ。それについては、僕は。とくに思うところはない、はずだ……いや、なんでもない」
さざ波だつ心。これを形容する言葉は、まだない。
「ただ、彼らは人を集めるときに、『黄金卿』の名をほのめかしたらしい。もちろん、僕はそんなことはしていない。……僕が、依頼するのはそのためだ」
幻想のほど近くの辺境の村。
フィッツバルディ領。
……そこは、かつてのオアシスの場所だった。
「これは、依頼とは関係がないことだが。
もうすぐ珍しい花が、咲く……かもしれない。
すぐに枯れてしまうので、金にはならないが。
……良ければ。
……見ることがあれば。
どう感じたのか、聞かせてほしい」
愛無は言った。
「きれいだな、でも、これは、自分には必要ないな、でもいい。心のままに、聞かせてほしい……僕が『どう、感じるべき』なのか。
人が、『どう、感じているのか』。……参考にしたい。よろしく、頼む」
- <Genius Game Next>ひとのこころの感情を述べよ完了
- GM名布川
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年06月20日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●問1:盗賊団と夜光花
(恋屍・愛無……前に依頼で一緒に戦ったけど、R.O.Oにいるのは別人……なんだよな)
『マスカレイド・ナイト』リック(p3x007033)はちらりと『恋屍・愛無のアバター』真読・流雨(p3x007296)を見た。
(己と同じ顔をした者がいる、というのは妙な気分だな。まぁ、僕の場合は、それも少々「不適切」ではあるのだろうが。何にせよ、金払いの良いクライアントは何処の世界でも大切にするべきだ)
本人はしれっとしたもので、淡々と依頼を受けている。
(混沌のとは別の人生を生きてるし、不思議な感じだぜ)
「R.O.O.で再現された『感情』は、果たして一体誰のものなのか。それは本当に『感情』なのか。あるいはそれが演算(エミュレート)されたものであっても、出力結果が等しければ『感情』なのか。これはなかなかに”深い”命題ですね」
『仮想ファンドマネージャ』ファン・ドルド(p3x005073)は冷静に現状を分析していた。
「我々がアバターを通じて得る感情はプレイヤーのものとして、ではNPCには『感情』があると言えるのか。
ネクスト世界を知るための、一つの実験と捉える事もできますね」
「お兄さんは盲目のお姉さんの事が大好きだったんだね」
『モフが好き』ルゥ(p3x009805)は、楽しそうに耳を揺らす。
「ああ。大筋は間違いがないはずなのだが、……僕の語りでは、ちゃんと伝わっているのか、分からないな」
NPCは首をかしげる。どうにも、欠落があるような気がするのは、どうしてなのか。
それを……理解したい。
……そういう依頼だった。
(お姉さんは、お兄さんのことどう思ってたのかな。
『夜光花』になったのは、暗い時でもお兄さんがお姉さんのところに帰ってきてくれるように願ったのかな)
ルゥはぴょい、と椅子から飛び降りる。
「100年に一度の再会、ちゃんとお兄さんとお姉さん、合わせてあげないとね! その為にも盗賊退治頑張ろう!」
フィールドは、枯れたオアシス。
天候は雨、そして大嵐。
「遺跡に珍しい花ですか……オアシスが枯れているのに咲くのは不思議ですね
凄い生命力があるとかなら分かりますが」
『陽光のような焔』梨尾(p3x000561)はぴんと耳を立てる。ふんふんと横でルゥがかがんだ。……ちょっとかわいい。
お兄さん扱いされているようだったので、梨尾は、心なしかきりっとしておいた。
「大丈夫、落ち着いて行こうぜ」
リックの言葉にルゥが頷いた。
「すぐに枯れてしまうらしいですし……どうしてなのか見て感じる為にも、砂蠍達はしっかりと討伐しますか」
「悪人をぶったおす、単純明快なクエストでいいね!ㅤその後の事はまぁ一旦置いといて、とりあえずさっさとこれクリアしちゃおう!」
『開墾魂!』きうりん(p3x008356)は盗賊にじわじわはいよっていった。「なんだ、雑草か……」と、スルーした。彼らが腰かけている遺跡の装飾は見事な建造物の一部。焚き火をしている場所の近くには珍しい植物があった。
「文化財とかを強盗が価値を理解してると思うか?
理解してたら馬鹿騒ぎわざわざしないもんな。末端ってのは所詮こんなもんなんだろうな。な、俺?」
『結界師のひとりしばい』カイト(p3x007128)は皮肉気に分身に語り掛ける。
「……ま、そうだよな」
「文化や、自然や、綺麗な花や……そういうものを美しく感じられないのは、少し悲しい事なのだわ」
『憧れと望みを詰め込んで』レモン(p3x004864)は目を伏せた。
「それが出来るようになる為には、心と暮らしに余裕が必要な筈だから……きっと彼らは、そういう事なのだわ」
それが彼らの日常だ。
(私の力で、どうにかしてあげられるわけではないのだけれど……)
「まあ、やり口は褒められた物ではないが、彼らも砂の民。同胞のようなモノには変わりない。それに「僕」の名を騙る事が、どうなるかを広めてもらわねば困る。二度とこんな事が無いようにな」
流雨が、じっと盗賊を睨んでいた。
「そう……ね。もし彼らにこの”先”があれば、このうちの誰かは、理解することがあるかもしれないのだわね」
●問2:盗賊団を奇襲するとき最適な角度を求めよ
(わかった……敵が多いし、まずは奇襲だね!)
ルゥが伏せの体勢をとる。
敵が焚き火を囲んで飲み食いしている所に、気付かれぬよう可能な限り物陰から近づく。――それが、今回の作戦だ。
(暗視……が軽くありゃあ焚き火で勝手に光源作ってくれるだろうしな)
「モノクルスコープ」が、しっかりと敵の影をとらえていた。気が付かれていない。
問題なく見える。
カイトは、ファン・ドルドと頷き合った。
カイトが慎重に辺りを動き、遠くから陣地を構築する。
七星結界・極天の加護。
(よしっ……)
曇り空と雨。リックにとって、水の音は心地よいものだった。
たいまつを目印に、少しずつ、少しずつ敵に近づいていく。今なら大丈夫だ。……レモンに合図する。
レモンはこほん……と一つ咳払い。
「ま、分かりやすい役割で助かるわな。ぼちぼち頑張っていくとしましょうかね」
憧れの人を思い浮かべる。そうすると自然と振る舞えるような気がするのだ。
梨尾が、じりじりと迫っていく。
抜き足差し足忍び足。雨音は、うまいこと気配を隠す盾になる。
(わたしは遠くからだね!)
(はい。まだです。一気に仕掛けます)
ファン・ドルドがジェスチャーをして、ルゥをとどめた。
immutable(IDEAScript)が、理不尽な雨をはねのける。流雨の闇のけものはゆっくりと影に紛れた。
20m、10m……遺跡を利用して、背後に回った。
遠すぎず、近すぎずを意識しつつ奇襲と言う名のいきなり上から封殺……あるいは呪縛。
カイトの分身たちは話し合った。
(……あっちと比べたらヘマはしないけど、なんか俺がやるっていったらめっちゃ怒られたんだよなぁ。なんで?)
●問3:合図のあと、戦闘を開始する
雷がとどろいた。
同時だった。
流雨は飛び上がった。くるりと光を避け、絶ぱんだ祭りが思い切り焚き火の火を一瞬弱めた。武器をとり、立ち上がろうとするまもなく、暗闇でばき、ぼき、と鋭い音が聞こえた。
『破軍の呪剣』――。
カイトは流雨と連携をとり、陣に追い詰めていった。
これだけ、敵が油断して時間をくれたのであれば。
あとはもう、まな板の上の敵を調理するだけだ。
「お騒ぎのところ大変申し訳無いですが冷水ぶっかけに参りました――って感じだな!!」
思い通りになど、思惑通りになど――カイトを前にしては無意味だ。盗賊が仕掛けておいたおそまつな罠は、七星結界・破軍の呪剣。凍り付いていて作動すらしない。
「冷水じゃなくって氷獄からの産地直送冷気だけどな!
嵐も凍り果てて砂混じりのお国に帰れるなんて思わせねぇ、北国も真っ青な世界へようこそ!!」
「うわあ、俺の飯に雑草が!」
「雑草じゃないよ! 美味しい雑草だよ! 美味しいよ!」
ひょっこりと姿を現したきうりん。
ウィークネス――怒りが、きうりんにめらめらと向いている。
「ふざけるなよ! 雑草なんて食わせやがって!」
「サラダにしてやる! ……意外と美味いぞ!?」
「よおし、ぼこぼこにされたいやつからかかってこーい!!」
引き寄せてしまえばこっちのものだ。
とはいえ、攻撃をするのはきうりんではない。みんながやること。けれどもタダで倒れるわけにはいかない。
「とりゃー!」
雑草の一撃。平らげたはずの雑草が復活していった。
「落ち着け! この暗い中、相手だって迂闊に攻撃なんてできるわけない」
「果たして、そうでしょうか?」
ファン・ドルドが敵陣に降り立った。レーダーマップの一点に、仲間の位置取りが表示されている。
「な、なんだそれは!?」
「……お持ちではありませんでしたか? それは失礼。次回から用意されることをお勧めします」
アクティブスキル2……鋭い一撃に表示される『RESIST!』の文字。よし、当たらなかった……と確信したところで、抵抗の文字は掠れて粉々になった。
「な、なんで……!?」
「少し余裕を持たせてあります」
ばらまかれる呪縛と麻痺が、敵の戦意を刈り取っていった。
獣のような唸り声。
梨尾が吠えるように叫んだ。
「奇襲に気づかないでくれてありがとうございます! 他者から奪う事しかできない盗賊さん達でも気づかない優しさがあったんですね!」
錨火――錨の形の火が、心にひっかかる。
盗賊たちの頭の中で、めらめらと怒りが燃えた。
自分に意識を向けさせて……ここまでの手順は、いくつもなぞってきた。
いつもと違いがあるとするなら……。
(死なせたりはしないさ)
この身も、自分の命よりも――矛盾するようだが、大切だということだ。仲間も自分も。梨尾は吠える様に一撃をかませると後ろに下がった。
「梨尾お兄さんときうりんお姉さんがあそこ、だから……よーし、ここだね!」
「はい、存分に」
ファン・ドルドが中央を指し示す。
混戦し始めた、今がチャンス。
(出来るだけみんなでお花見て、黄金卿さんにお話聞いて貰うんだ!
だからね、みんなで帰れるように頑張る!)
ルゥのアクティブスキル1が、一気に敵を打ちのめした。どの距離からでも、しっかり狙って打ちのめして見せる。
「おい、しっかりしろ、てめぇら、こっから反撃だ……!」
「……おれっちはこの時を待っていたぜ!」
波間から飛び出す捕食者のように。
リックがそこに潜んでいた。
狙いは、仲間たちの攻撃から逸れた奴らだ。
「さあ、騙(カタ)りがあって敬意がない悪い盗賊団は神妙に縛に付きやがれ!」
三叉戟『ナーメルギア』。三つの刃先が、ぎらりと敵を睨んでいる。
槍を高加速して衝撃を円錐状に放つ一撃。
(まだ改良の余地はあるけど……これでまとめて吹っ飛ばすぜ!)
リックの一撃は、敵をなぎ倒していった。
●問4:この戦闘に勝利せよ
「ふぅ! 良い天気になってきたな!」
「くそ、なんで自由に動けるんだ……」
嵐になりつつあった。
リックはウキウキの様子である。
波の精霊種であるリックは、雷の精霊とも近しいのだ。
「楽しめないなら損してるぜ!」
(夜光花の生態は解らぬが。種から一晩で咲くということもあるまい。野卑な連中が暴れまわって、花の芽が踏みにじられたなどとなれば笑い話にもならぬ。疾く殲滅するとしよう)
闇夜に潜むぱんだは跳んだ。
びゅ、と暗闇から何かが飛んでくる。
「ぐあっ」
鋭い竹槍だった。
影を縫い留め、急所を露わにした敵。
「それじゃ、勝負してもらおうかな」
レモンは武器を構えて、わざと隙を作った。痺れて体のロクに動かない敵をかわして、狙いすまして後頭部を一撃。倒れたところを、邪魔にならないように蹴り飛ばす。
「まあ、良いだろ、不殺でさ、そいつは幸運だったってことだよな」
「そっちの方がめんどくせえけどな、まあ、たいした難易度でもないし?」
カイトの七星結界・破軍の呪剣が、武器を取ろうとした敵を打ちのめした。
「各個撃破が基本ですね」
「げっ、こっちにくるのかよ……」
ファン・ドルドはダメージを負い、身を隠そうとした相手を識別していた。逃げ出す敵を追い詰めて、確実に、最小限の力でトドメをさした。
「お互いに、労力は節約しましょう」
ちょうどぴったり、無駄のない動きで、盾を思い切り吹き飛ばして、一撃。
「いいから押せ、数は有利なはずだ!」
梨尾に傷をつけた盗賊は、思わず後ずさった。
その瞳には、憤怒が宿っていた。
……自己保身の為でもない。傷ついた痛みからでもない。なぜか、その表情は他者を思いやるような顔だった。
怒っているのは、俺に対してじゃない。
それは、息子の身体を傷つけられた怒り。
息子を守れなかった自身への怒り。
父親ゆえに、子を思う気持ちだった。
だから、盗賊は致命傷を負わない。誰かを殺すための技ではない。
(花が咲く場所に、誰かが住んでいた場所に血は流したくないですし)
その場にふわりと倒れる。ただそれだけだ。
再び、梨尾の錨火が心を引っかける。
「よし、じゃあ私ごとやっちゃって!!」
きうりんがぐっと親指を立てる。
「え?」
「私は生命力と再生力には自信があるからね!ㅤ腕とか頭が吹っ飛んだくらいなら、直ぐに再生しちゃうんだから!」
「えっと、えっと……うん、わかった!」
ルゥがこくんと頷いた。
「こいつら、正気か!?」
「きうりは不滅だよ……!」
ぼかんと結構な攻撃が舞ったのだが。
言葉の通り、壮大な死亡フラグを立てておきながら再び茂っている。
「あ、よかった!」
エメラルドプラントを齧れば、全てが上手くいくのだ。
「大変お買い得ですね」
きりっとファン・ドルドが宣材を確保する。
「……食事とは、不思議だな」
流雨が無表情でぽりぽりした。
「よし、そろそろホンキだしとくか」
レモンはくるりと武器を回して、重量まかせに振り下ろす。
「ぐっ、なんだ、この技は?」
「何だと思う?」
と、不敵に笑いつつ。
(……スキルの名前が未だに決まらないのだわ……!)
なんてことを、中の人は思っていたりもする。
揺らぐ一撃。計算された一撃。鎧のすき間を狙い、転ばせて、一撃。
(堅実に与えるダメージは予測できる筈だ)
相手は死に物狂いとなっているが、こちらは計算ずくなのだ。
(憧れの人の真似をして使う技だと思うと、下手な名前は付けられないのだわよ……!!!)
「ちっ……暗くなってきたな」
「ここにいます」
梨尾の体は、W発光でぽわぽわと輝いた。注目を集めてしまうかもしれないが、それでもいい。
騒霊の獅子獣人が、辺りを照らしていた。
目立ってもいい。仲間を救えるのであれば。それに、死ぬ気はない。敵へ纏わりついて、炎を纏わせる。
「……そこですね」
ファン・ドルドは自身の喪失分のエネルギーを乗せ、敵を切り伏せた。
「よし、残党の位置は大体わかった。こっちだぜ! よそ見してる暇ないだろ?」
リックが隙間に入り込み、敵の注意をひいていった。
「ありがとうございます」
「いいってことよ! 大したことないぜ」
リックは、自分の役割をよく理解している。……ダメージ分散。
今、誰も倒れていない。
(何にせよ「僕」は舐められるのが嫌いだ。相応の報いは与えねばなるまい)
「不用意に他者の威を借る事がどういう事になるかを教えてやらなねばな。仮にも傭兵を名乗るならば尚更だ」
流雨のぱんだくろーが、さいごの敵を撃ち抜いた。
●配点自由:ひとのこころの感情を述べよ
クエスト・クリアのファンファーレ。
そして、遺跡には再び静寂が戻った。
「よっし、これを引き渡せばおしまいだな」
リックはぐるぐる巻きに盗賊団を縛り上げる。
「倒せた、ね」
ルゥはふう、と汗をぬぐった。きょろきょろと辺りを見回して、オアシスを掃除する。
「掃除、するんですね? 手伝います」
「今日は再会の日だし、特別で大切な場所だからね!」
しばらくすると、恋人たちの逢瀬のように、蝶が花に止まり始めた。
「夜光花か……蛍も舞って綺麗だな」
リックがそっと空を見上げる。邪魔をしないように、声を潜めて。
「花が綺麗なだけじゃなくて、夜光花と砂蛍の物語を聞くと…物悲しいけどただ風景を見る以上に感じる綺麗さもあるな」
「そうだよね。おんなじ風景なのにね」
(これが夜光花ね。うんうん。
……いや、どう感じるべきかってなんだよぅ!ㅤ私だってよくわかんないよ!ㅤあぁ、花だなぁって思うだけだよ!)
ちょっとうとうとすらしてくるきうりん。
(……まてよ、なんかちょっと美味しそうに見えてきたかも知れない。珍しいって言ったって、自然に生えるものなんだからつまり雑草だよね。じゅるり)
ちょっとくらい齧ってもいいんじゃないか?
ぽり……ぽり……と謎の音が響いた。きうりかもしれない。そうでもないかもしれない。
「お花、ふんわり綺麗だね。
優しい光で、あれならお兄さんが迷わず帰って来れるね。
お花だけでも綺麗だけど、お花だけじゃなくて、お花に寄り添う砂蛍が一緒だからすっごく綺麗
黄金卿さんにも見て欲しかったね」
ルゥは両手で頬杖をついて、空を見上げる。
「あ、誰か写真に残せないかな!?
直接じゃなくても、こんな素敵な光景だったよって教えてあげたいんだ!」
「そのつもりです」
ファン・ドルドが言った。
「……しっかし、『夜光花』ね。
一夜限りの特別は、きっと俺の知る夏夜の伝承にも似たモンがあるけど。
俺としては『邪魔するのは間違ってるから彼処は彼処のままでそっとしておくべき』だ、って答えるしかないな。
俺らとてそれは例外じゃないし。摘んで持ち帰るのも『良くはない』しな?」
カイトもただ、見守るだけだ。
どんな気持ちになるだろう?
演算する。想像する。大切な彼ならなんて言う?
「そうだわね……こういう美しい物を見ると、大好きな人たちの事を思い出すのだわ
あの人なら何て言うかな……一緒に見たいな、今度一緒にここに来よう……ってね」
レモンは、ふう、と息をついた。
「……蛍が来ると咲く花のように見えますね
まるで蛍を待っていたかのように
たったの一夜だけだとしても
蛍に会う為に頑張って咲いたように感じます」
梨尾が小さく呟いた。
「……何故か大切な人に会いたくなってくるお花でした。
自分も、俺もあの二人のように梨……むす……父に会いたいって切実に思いました」
(……危うく素が出かけた。俺は梨尾、俺は梨尾……)
「そうだね。わたしもリチェに会いたいなあ」
「会う為には特異運命座標として頑張り続けるしかないのですが。あのお花さんのように頑張り続けます」
(お友達や家族や…皆を思い出したけど
八咫姫さんの事も、思い出したのだわ)
叶わぬ恋。悲恋で終わった物語の、少しの続き。
レモンはただ、恋する少女を思って目を伏せた。
(そうだわね……今度彼女のお墓参りにでも行こうかしら
恋の話は尽きないけれど…今見たこの美しい景色のお話しも、お土産にできるかもしれないだわね)
●感情を述べよ
「……そう、か。ありがとう」
アクセスファンドズム――ファン・ドルドの映し出す映像は、鮮明だ。
まるで、ほんとうに目の前にあるかのような花。
依頼人はそっと手を伸ばした。
「私がこの花を見て抱いた感情は『この花を依頼人に見せたら、どんな顔をするだろうか』という好奇心ですよ」
「これが……」
「これを見た貴女が、どんな『感情』を抱くのかを見たい。
それがたとえ、NPCというROOに作られた人格であっても、ね」
「……」
「花は美しかった」
流雨が告げる。
「しかして。その言葉が、彼らの言葉が君に何か与えたかね? どれだけ他人の言葉を聞こうが、所詮は借り物。夢物語のようなモノにすぎぬ。どれだけ他人の言葉を集めたとしても。どれだけ他人の言葉を聞いたとしても、お前は満たされまいよ」
「彼処は『物語の終着点』だ。
どんな蛇足も不要だ、俺達がその完成に付け加える理由は無い」
「……」
「だが、一つだけ。
人の感情は『他人の感情』だ。共感や否定や意見が『なにもでない』だろう?
所詮あんたに取っては『興味深い意見の聴取』に他ならないのさ。
だからこそ直接『赴かせる』べきだとは思うが――」
「そう、だな。そうかもしれない」
「ま、言葉としちゃ不適切だが
あんたは見ても『わからない』んだろうな、きっと。
俺らが何故その答えに至ったのかも」
「「人」とは己の衝動のままに生きるモノだ。花が気になったのであれば、己の目で、それを確かめるべきだった。
次の依頼は護衛にでもしたまえ。安くしておこう。友人価格でな」
NPCはありがとう、と小さく告げた。
「……依頼を受けてくれたのが、君たちでよかった」
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
遺跡の防衛、お疲れ様でした!
きっと、間違ったことも正しいこともない、不確かなものではありますが、
依頼人が何かを感じたのは間違いないことでしょう。
GMコメント
●目標
盗賊団の撃退
『夜光花』についての感想を述べる(オプション)
●敵
『砂蠍』盗賊団×20
松明を持ち、弓とサーベルで武装した盗賊団。
風流を解さない荒くれ者たちで、オアシス跡地の周囲の集落を略奪し、粗野に焚火を囲んで飲み食いをしています。結構油断しているようです。
文化財への敬意などは一切ありません。
ここが特別な場所であることには気が付いていないようです。
●場所
フィッツバルディ領――枯れたオアシス
元、砂嵐の領地。
砂でできたすり鉢状に近い遺跡です。転々と身を隠すような場所があります。
●天候
ぽつらぽつらと雨が降り始め、次第に嵐となります。
戦闘後には晴れるでしょう。
すり鉢にたまった水と、雷が、砂蛍を呼び覚まし、
一晩限り、『夜光花』を咲かせます。
淡く光る、きれいな青い花です。
●登場
『黄金卿』恋屍・愛無
今回のスポンサーです。
砂嵐のお金持ちです。
「人のきもちの勉強の一環」です。
特に美辞麗句を求めているわけでもありません。
何も感じなかった、などでも、その通りに教えてほしいとのことでした。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
※重要な備考『情勢変化』
<Genius Game Next>の結果に応じて『ネクスト』の情勢が激変する可能性があります。
又、詳細は知れませんが結果次第によりR.O.Oより特別報奨が与えられると告知されています
●ROOとは
練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline
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