PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Liar Break>せっかちな信奉者

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 王の後押しの下、公演を行っていた幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』が王都を離脱してからはや数日間。
 庇護者を失った幻想楽団を討ち取り、己の権益を得んと野心を燃やす幻想貴族と、宿敵たる魔種の気配を感じ取ったローレットのオーナーたるレオンが画策したレガド・イルシオンという名の牢獄は、徐々にその大きさを狭めていた。
「ひゃっはー! おもしろぉ! あーひゃははは!」
 刈り上げた髪に手に持つナイフが特徴的な男が、閑散とした村の中央部、巨大な木の枝に立ち、とち狂ったように笑っていた。
 ピエロとも紳士とも取れる不思議な装いだが、その本質がどちらであるかなど考えるまでもない。
 男の近くには、傍らに物騒にも獅子を侍らせ、ドン引きした様子で彼を見上げ少女と、シルクハットに燕尾服を纏った女性がいて、女性の方が男に文句を言っている。
「ダンテ、あんたはまぁたそんなところに昇って……あたしらのやること分かってんの??」
「っせぇなぁ、ババア。分かってるっての」
 男は木の上からべーっと舌を出して女を侮辱する。誰の目にもわかるように、ぶちぎれたのが分かる。煌々と輝く火の玉を掌に出現させる。
「おじさん、そんなところでボケっとしてると死ぬよ?」
 それに続けるように、少女がおじさんを見上げて冷たく告げる。
「あぁん?」
「落ちてきたとき、うっかりうちの子が殺しちゃうから」
 事も無げに少女は告げて、隣の獅子を優しくなでる。
「たはぁー! 怖い怖い」
 そんなことを言いながら、大仰な仕草をすると、下にいたシルクハットの女が掌から出した火の玉を男に向けて打ち込んだ。
 火の玉は木にある枝を揺らしざわめきを起こして男にぶつからんと突っ込んでいく。
「うぉっ!?」
 それを躱したダンテはしかし、バランスを崩してそのまま枝からつるりと滑る。くるっくる回りながらおち、危なげなく綺麗に着地すると同時、飛び込んできた獅子に思いっきり横腹をくいつかれる。
「ぐああああいてぇえ、いてぇえ!?!?」
 ざっくり喰らわれ、どばどばと血を垂らす。まるで演技とは思えぬ末恐ろしい光景を、村人たちは各々の町の中からひそかに覗き見ていた。
「ビアンカ、ないす」
「アルタもよくやったわ」
 少女、アルタが女性――ビアンカに手を向け、ぱしんと手を合わせた。
「何がないすだ、このクソアマどもがぁ!! 死ぬわぼけぇ!!」
 いつの間にか獅子から逃れ、そう叫ぶ。女性二人の視線は冷たかった。
「うるさいわよ」
「そうそう、そも、自業自得」
 立ち上がったダンテに対するようにして、三人がにらみ合いを始めた。各々が武器を構え、いまにも衝突せんばかり状況に
「……何をしている。村の制圧はすんだのか? クラリーチェ様への手土産なのだ。ちゃんとしてもらわねば……分かっておろうな?」
 そうやって再び喧嘩を開始しようとする三人を制するようにして、一人の男が現れた。男は右手に老人の頭部を持って三人の方に近寄ると、無造作に頭部を獅子へと投げ捨てた。
 獅子はすんすんと頭部を嗅いだ後、それを貪り喰らいだす。ぐちゃぐちゃという不気味な咀嚼音のすぐ隣で、ビアンカが男にひれ伏した。
「申し訳ございません。マルクス様」
「けっ」
 ひれ伏すビアンカに対して、ダンテは反省の意思を見せずに視線を外す。
「ごめんなさい」
 アルタは男――マルクスに近づくと、服装の裾をつまんで申し訳なさそうに呟いた。
「まぁ、いい。村人どもも顔を出そうとせん。こっちに敵対してくれた方がいいが……さて、どうだろうな」
 男がそう、静かに呟いた。それまで吹いていなかった静かな風が、唐突に村の建物の間を駆け抜け音を奏でた。
 静かな町に、狂奔の火種が確かに芽を出した。
 それを確かめて、男が一人、ひそかに町を出ていったことを、彼ら4人は気づかなかった。


 検問と関所の類の封鎖によって、幻想楽団はレガド・イルシオンから逃亡することもできない。
 それを打破するためには、何とかして貴族とローレットの連携を突き崩す必要がある。
「……頭がおかしいのでしょうか? それにしても、せっかちな方たちなのです……他の所ではまだ聞いてませんし、早すぎる気がするのですが」
 だからと言って、それが散発的な――暴発の類であれば、連携を突き崩すには到底足らないだろう。
 『蒼の貴族令嬢』テレーゼ・フォン・ブラウベルクは集まったイレギュラーズ達に対して資料を手渡すと共に、そういった。
 ブラウベルクが領主館の執務室、椅子に座ったテレーゼはそのまま近隣の地図をテーブルの上に広げる。
「この町のずっと東の方に、三代だったか二代だったかの前まで私の家の領地だった町があるのです。今は王国に返上したので直轄地だったのですが……」
 地図を広げて大体の位置を指し示す。
「その町に住んでる人がこの町に逃げ延びてきておっしゃったんです。なんでも、サーカス団の一部が町に乗り込んできて町長を殺して占領したらしくて。イレギュラーズの皆さんとしてはきっと、不倶戴天の敵に与する者……なのですよね?」
 少し不思議そうにきょとんとしながら語る。イレギュラーズが首肯するのを見て、テレーゼは嬉しそうに笑った。
「でしたら、この町の救出を皆様にお任せしたいのです。魔種の狂気? もそうなんですけど、私が使える戦力は出払ってまして……お願いしますね」
 にっこりと笑って、テレーゼは締めくくるとはふっと欠伸を一つ。
「出発前にお菓子とお茶を用意しましたので、軽食を済ませていってらっしゃいませ。ご武運をお祈りしてますね」
 そういうと、ぐぐっと体を伸ばし、椅子を立ち上がって窓の外を遠くを見つめるようにして眺めだす。
「あっ、すっかり忘れてました。生死に関しては皆様にお任せしますね?」
 ぽんと手を叩いて振り返り、そう言ってイレギュラーズ達に笑いかけた。

GMコメント

こんばんは、春野紅葉です。

さて、というわけで今回の全体依頼では二本ほど参加させたいただきます。
敵の生死は問いません。

以下、敵情報をば。

【ダンテ】
・基本情報
道化師。
とち狂った性格。
・特徴
無軌道なターゲティング。
ブロック、マークなどで警戒するのをお勧めします。
・スキル、エスプリ
<マッド>
格闘、奇襲攻撃、自己再生

【ビアンカ】
・特徴
マジシャン。
おばさん呼ばわりされると怒ります。
・スキル、エスプリ
<奇術使い>
焔式、ミスティックロア、SPO

【アルタ】
・特徴
猛獣使い。
連れている動物は獅子。戦闘では基本的に獅子が暴れる形です。
・スキル、エスプリ
<猛獣親和>
格闘、肉薄戦

【マルクス】
・特徴
シュヴァリエ
詳細不明。クラリーチェの信奉者らしい。
現状のイレギュラーズより格上と思われます。相対する際は気を付けてください。
・スキル、エスプリ
<タイプエリート>
ブロッキングバッシュ、リッターブリッツ、フリーオフェンス、紫電一閃
●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <Liar Break>せっかちな信奉者完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年07月01日 21時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (10人)

スウェン・アルバート(p3p000005)
最速願望
アート・パンクアシャシュ(p3p000146)
ストレンジャー
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
シロン・ポチリュアス(p3p001787)
まおうさま
エイヴ・ベル・エレミア(p3p003451)
ShadowRecon
ハロルド(p3p004465)
聖断刃
城之崎・遼人(p3p004667)
自称・埋め立てゴミ
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
アリス・フィン・アーデルハイド(p3p005015)
煌きのハイドランジア
折紙 ココロ(p3p005507)
運命迷子

リプレイ


「村人は出てこないか」
「ええ、村長が死のうが立て籠もってこちらに敵対もしません」
 マルクスに対してビアンカは言う。
「ケケケ、あんな陳腐な扉なんざ蹴り破って殺しちまえばいいんじゃねえか! そしたら動揺もすんだろしよ!」
「ふん。ダンテ、貴様も時には真理をいう。アルタ」
「んっ」
 マルクスが静かに一軒の家に視線を投げると、アルタがライオンに指示を出す。ライオンが遠吠えを上げ、その扉に向かって突っかかっていく。
 村人を殺さんと家の窓に飛び込もうとしたその瞬間だった。
 ズガンッ。狙いすまされた弾丸が、ライオンの鼻先すれすれを駆け抜けていった。
「何者だ!」
「皆様、落ち着いて屋内に潜んでいてください。ここは我々はローレットの者だ」
 マルクスが剣を抜き、視線を遥か町の入口に向けると、そこには『ストレンジャー』アート・パンクアシャシュ(p3p000146)が立っていた。
 アートは村人たちへ出来る限り多く聞こえるように告げながら、真っすぐにマルクスの方へと歩み寄っていく。
「ローレット!! そうか――貴様が!!」
 闘志を燃やすマルクスが剣を構え迎え撃たんとする中、そのアートの後ろから、幾つもの超遠距離攻撃が放たれ、真っすぐに飛んでいく。
 それはマルクスを悠々と無視し、その後方、構えを取っていたビアンカへと炸裂した。
「きゃあ!? なに!?!?」
 ボロボロになりながらも真っすぐに射線の方を見る。
「奇術師は奇跡を起こして魅せる者。人々を喜ばせることが奇術師の糧、人々を狂わせて何が奇術師でしょうか」
 そう珍しく怒気すら感じさせながら『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)は真っすぐにビアンカを見据える。
 同じ奇術師として、彼女のありようは幻が嫌いな無粋な相手――客とさえ思うことも出来なかった。
「ビアンカ様、いえ、ビアンカ、貴女だけは許せません。貴女が殺した数だけ、狂わせた人の数だけ、何度も殺して差し上げましょう」
 そういうと、瞬間記憶を利用してシルクハットからビアンカの顔を模した何かを生み出して放り投げる。
「そうじゃ! 町で暴れるなんて許せん!道化師は道化師らしく笑われておけばよいのじゃ! わらわだって我慢してるのに! 村や町や城や国を襲うのは魔王の役目なのに!!」
 横やりから現れた『まおうさま』シロン・ポチリュアス(p3p001787)はつい口走りながら、魔力を純粋な破壊力に変えて打ち込んでいく。

「はははっ! テメェをブッ潰せばようやくあの小物くせぇ団長とスカしたピエロのツラを歪ませに行けるぜ! 今から楽しみだ! 特にあのピエロ! ああいう狂気ぶってる奴ほど中身は女々しいと相場が決まってるからな!」
 ビアンカに振り返り、その間にいるシロンへ攻撃しようと振りかぶるのにあわせ、『聖剣使い』ハロルド(p3p004465)は挑発と共に手に持つ聖剣の力を僅かながら取り戻して銀色に輝く斬撃を放つ。
「――なんだと?」
 その効果はてきめんだった。ハロルドの方を向きざま、マルクスは叩き込まれたハロルドの攻撃の勢いを利用して反撃を叩きこむ。

「ローレット、ケケケ、こりゃおもしれぇ!」
 ダンテは笑い、イレギュラーズを完全に無視して近くの家に向けて突っ込んでいく。
「させないッスよ!」
 立ちふさがった 『最速願望』スウェン・アルバート(p3p000005)は思考にギアを入れ、ダンテを逃がさぬようにマークする。
「うひゃひゃ、あんちゃん、あんたすげえ早えじゃん!」
 けらけら笑いながら、不意に手に持つナイフを放り投げてくる。スウェンはそれを試作型輪導機脚で蹴り返すと、そのまま構えを崩さずダンテの懐に向けて走りこむ。
「アクロバティックに立ち回るのも結構、ッスけどもこっちも早さで名前を売ってるもんで!」
「あひゃひゃ! こりゃ、たのしくやれあえそうじゃねえか!」
 そのままダンテとスウェンは持ち前の軽業を駆使して高速に戦闘を開始した。

「サーカスって皆を楽しませて笑顔にしてくれる素敵なものだと思ってたのに……こんなことをする人たちだったなんて! そんな悪い人たちは許さないよ!」
 神の炎で鍛え上げられた愛槍カグツチで斬り下ろしながら、『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は前衛としてビアンカの前に躍り込む。
 その横で『運命迷子』折紙 ココ ロ(p3p005507)ビアンカの支援をしようとしてくるライオンの前に割り込んでいた。
 例え自らが倒れようと、自分以外の誰かが敵を倒せばこちらの勝ち。けなげな少女は、真っ向から防御を固めてライオンを押し返す。
「例え、それが私じゃなくても、最後に立っていた者が勝ちなんだ」
 他の皆を守る。そんな強い意志で、ココロは守り続ける。
 低空を飛行しながら 『魔法少女』アリス・フィン・アーデルハイド(p3p005015)はいつもの魔法少女姿で戦場を見下ろしていた。
「これ以上誰かが悲しむ顔を見ないために――私の力はあるんだから」
 真っすぐに見下ろし、超長距離術式を展開し、杖を媒介にドウと放つ。


最初の一撃でライオンの鼻先を掠めた『ShadowRecon』エイヴ・ベル・エレミア(p3p003451)は、矢や場所を移動していた。
 周囲にエネミーサーチを施して、村人から少なくとも暴徒が出てくることはないであろうと辺りを付けると、隣にいた『自称・埋め立てゴミ』城之崎・遼人(p3p004667)にしっかりと伝える。
 遼人が村の中へと入っていく中で、エイヴは静かに相応の距離を取り、銃を構える。
 息を整え、集中。僅かな音の一つ一つ、映像の一つ一つを切り離し、自らの心音さえ気にならなくなるまで、徹底的に集中して、一瞬、息を止める。
 そして、銃身を握り引き金に指をそえる。
 これより放つはただの一矢。
 極限まで集中して放たれたその精密狙撃の行く末を、エイヴはすでに見ていなかった。

 前線にまで出てきた遼人はナイフを投げ、振るい、突き出して攻撃する打案手に向けて弾丸を打ち込む。
 スウェンの大胆なまでに戦い方を変える蹴撃と、ダンテの突き斬りかかりの間。強烈な魔力の一撃はダンテの足元の大地を砕く。
「うおっ! あっぶ……あ」
 体勢を崩しながらも軽業のように転げ立ち上がろうとするダンテ。しかしその隙は大きすぎた。
 更に速度を上げたスウェンの脚が、ダンテの鳩尾を捉えた。
 相手の骨を砕く確かな感触。痛みに呻きころげマークから逃れていくダンテは、ふらふらと立ち上がる。
 その体の傷は、徐々に癒えている。それでも癒えていく傷の数は減ってきていた。
「サーカスの娯楽程度で町一つ弄ばせるわけにはいかないんスよ。ここでキッチリ仕留めさせてもらうッス」
「アハハハハ、良いねェ、うけけ」
 笑いながら、ダンテは遼人に向けてナイフを投げつける。遼人はそれをすんでのことを躱して、反撃とばかりに魔力の塊を打ち込んだ。


「力の無い人間しか殺せない、ってわけじゃないんだろう?」
 多くの傷を受けたハロルドに代わるようにして前に出たアートは雷光の如き鋭い突きをぎりぎりのところで捌き、その力を利用して戦旗をマルクスに叩き込む。
 後ろにやや下がったハロルドは聖剣に力を収束させ、銀色に輝く光の柱をマルクスへと打ち込んでいく。
「ちっ……思ったより傷が浅いか」
 加護の力で傷を癒しながら、眼前の相手の様子を見る。一撃一撃が酷く重い。二人で交代する戦術を取らなかったら、恐らくは敗れていただろう。だが、負ける気はなかった。真っすぐにマルクスを見据え、次の一撃を為す隙を探す。

 対物ライフルに狙撃され鎖骨から片口当たりをまるまる消し飛ばされたビアンカの命は、もはや致命的なまでに零れ落ちていた。
 神秘性を高めた焔を放つ術式や毒の薬瓶はもう尽きた。あまりにもありすぎた人数差と、エイヴから放たれた致命的な一撃により、彼女の身体はボロボロだ。
「僕が貴方の走馬灯の最後を飾るなんて反吐がでますね」
 幻は吐き捨て、自らの魔力を爆発させた。
「あぁぁ――――」
 こと切れゆく女の口から洩れる怨嗟にも満たぬ声は、そのまま消えていった。

「人の命を奪うということは手前の命が奪われることだってあるということッス。命に上位下位なんてないんス」
 スウェンはダンテを見下ろしてそう漏らす。
「けけけけけけ」
 大地に仰向けに伏したダンテは、未だ笑い続ける。
「けけけ、けけけけ」
 笑う。笑う。笑い続ける。もはや立つ気力はないのか、笑い続ける道化へと、遼人が魔力の砲撃を撃つ。
「ひゃひゃひゃ」
 笑い続けながらソレは動かなくなった。

 アルタをかばうようにライオンが立つ。けれど、それはほぼ意味をなしていない。
 ビアンカが倒れ、ダンテが笑ったまま死んだことで、アルタへと迫るイレギュラーズの数は七人。
 たった一匹のライオンだけでは到底庇いきれる数ではない。
 それに加え、イレギュラーズ達はそもそもライオンのことを歯牙にもかけていなかった。
 接近され攻撃されそうになればココロが防ぎ、着いた傷は幻が癒し、その合間にもアルタへ攻撃を加えていく。シロンと遼人が中距離から魔力をぶちまけ、遥か後方からエイヴ、空からはアリス、そして最前衛では焔が攻め立てる。
「なんで、なんで私なの? どうして」
 少女が悲鳴をそのままに叫ぶ。ライオンの背に隠れながら怯えるように言い切って――直後に冷たい視線をイレギュラーズになげかける。
「あなたは、私が何をしたか知ってるの? なんで。私が殺されなきゃいけないの? ねぇ、なんで。なんでなの? この子がお腹すいたからじゃない。みんな、みんな――好きな物食べてるじゃない」
 喚き散らし、叫び、痛みさえ無視して少女はライオンに指示を出す。けれど、彼女には生きていては困る。
 生きていれば撒き散らされる狂気は、それだけで多くの無辜の民を狂わせる。
「マルクス……兄さま」
 震える声で、少女が言う。しかしそれに対する返答はない。もはや彼女を守るものなど何もなく、ただ――もう一度振り下ろされた幾つもの弾丸に崩れ落ちた。
「ごめんなさい。罪を重ねるとしても、明日を求める誰かと友達との日々を守る為に、貴女を許すわけにはいかない」
 最後、アルタに見上げられたアリスはたしかな覚悟を声に出した。
「おぉぉぉおおおおお!!!!!!」
 アルタが死んだ直後、ライオンが雄叫びを上げた。焔が足元へ産み出した炎を猛然と無視しして、その瞳に露骨な敵意を向ける。
「逃げてくれんのじゃな」
「ならしかたない」
 シロンに続いて遼人は言うと、静かに魔力砲撃を開始した。幾つもの弾丸と魔力砲撃は、指示を失った野生動物にはあまりにも過剰で、瞬く間にその命は消えていく。


 とある町に、あまりにも臆病で――あまりにも堅苦しい優しいだけの男がいました。
 自由を知らず、真面目一辺倒な男は、ある時、町に訪れたサーカスに見に行きました。
 妹にどうしてもと乞われて訪れたそこで、彼は自分よりはるかに幼くて、会ったこともない自由な人達を知りました。
 けれど、それを受け入れるにはあまりにも彼は臆病で。だからこそ、結局は真面目なだけの男は、その中で――。


 ビアンカとアルタ、ダンテが倒れ、イレギュラーズは最後の一人であるマルクスへと殺到していた。
 縦にも横にも並んで立てば範囲攻撃を喰らうことになる。それゆえにイレギュラーズは抑えを担ったアート、ハロルドに加えてココロも盾役に回り、中距離、遠距離からの徹底した攻撃がマルクスを襲っていく。
「――ふ、ふふふふ……はははは」
 ボロボロになったマルクスは、よろめくようにして身体を前に進め、イレギュラーズ達も警戒しながらやや後ろに下がる。直後、マルクスは納刀した。
 集中の直後の大きな踏み込み。大きく横薙ぎに振るわれた紫電の一撃が、横一列を薙ぎ払う。
 激しい痛みと体の痺れ。窮鼠が猫を噛むように、追い詰められた獣が生存本能のままに暴れるように、血走った目で男が叫ぶ。
「クラリーチェ様……必ずや、私は貴女に――手見上げを」
「道化のためにどうしてそこまで必死になるかね」
 己の身体を再生させながら、ハロルドは敵を見る。
 強力な範囲攻撃は、そう意識していても幾度か味方を巻き込んでいた。もちろん、意識している分、巻き込まれる味方の数は明らかに少ない。
 それがなくとも、騎士の放つ突きとカウンターは強烈な痛みを齎こちらに与えてくる。
「申し訳ございません。もう回復スキルを撃てそうにありません」
 幻は悔しそうに最後の一撃を最前線でまともに紫電を喰らった心を癒して言う。体力よりも早く、魔力が尽きた。もうこれ以上、大きく力を振りしぼらなくてはならないような技は使えない。
 もっともそれは、なにも幻だけではない。自らの血を気力に変えるアートやハロルド、比較的に気力の充実しているアリスを除けば、殆どのイレギュラーズはもう大きく力を振り絞れないだろう。
「羨ましい、恨めしい、ずるい、恐ろしい……なぜだ、なんでそんなことができる……なぜだ。なぜ私はこんなにも生きにくい」
 うわ言のように言いながら、男は真っすぐにイレギュラーズの方へと歩いていく。吠え、猛り、ゆらゆらと手を構えて、真っすぐについてくる。アートはそれを防ぎながら、最初の頃の威力がないことを知る。
「大丈夫だ。もうこいつはほぼ死んでいる」
 蹴り飛ばしてマルクスを後退させて、棒を構えなおす。
 その直後、遥かな後方から打ち込まれたエイヴの弾丸がマルクスの心臓を捉えた。
 後ろへと弾かれるように飛んだマルクスは、剣を杖のようにして震えるように立ち上がり、ぎらぎらとぎらつく瞳でイレギュラーズを見据え、次の一歩を出すと同時に大地へと沈んだ。
「……――――クラリーチェ……様――――――――」
 少しの間。構えを解かなったイレギュラーズだったが、まるで動かないそれを見て、ほうと息を吐く。
「なんじゃ、終わりか」
 シロンは静かに漏らす。
 魔王としては一度倒れてから復活するのがらしいというもの。その機会がなかったことが、ほんの少しばかり残念だった。


 戦いの後、周囲の様子を一応調査したイレギュラーズだったが、別段に何かがあるということはなかった。
「お疲れ様。よく耐えてくれた」
 四人が死んだあと、家の中に立てこもり、それぞれ必死に狂気と抗っていた村人たちに、アートはねぎらいの言葉を残す。
「距離か、果たして精神力か……」
 エイヴは必死に立て籠もり続けた村人たちの焦燥感あふれる様子を見ながらぽつりと残す。
 もしも、彼らの中から暴徒となってサーカス団に協力するような敵が現れていたら、準備をしてはいたものの、もっと面倒な戦いを強いられただろう。
 その健闘をたたえて、幻は幻想楽団のそれとは違う、真っ当に美しく、真っ当に人を笑わせられる奇術を披露し、アリスは青空を舞い、魔法少女らしく人々の心を癒していく。

「ええ、彼はこの町の出身ですよ」
 安全になったと聞くや飛んできたらしい依頼主が、遼人に対してそう答える。
「王家にお返ししたとはいえ、私にとって家族になっていたかもしれない村なので……」
 疲労している村人たちを見つめて、優しく笑っている。
「つまり部下じゃったわけじゃろ?」
「えぇ。正確には、私の代には違いますけど、そうだった家はここにありますから」
 シロンの言葉に頷いて、彼のことは問題ないと、少女は笑う。
「むしろ、私はこれからの彼の方が心配です。新しい代官を入れるのか、はたまた継ぐつもりなのか……」
 そう言いながら、少女は村人から受け取ったらしい野菜と肉の刺された焼く肉の串にもきゅもきゅと食らいついた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。

被害は最小限に収まりました。おめでとうございます。

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