シナリオ詳細
Ognuno ha la sua croce
オープニング
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「憶えて居るかしら? 皆に対応して貰った村の話……なのだけれど」
そう、口を開いたのは『灰薔薇の司教』フランツェル・ロア・ヘクセンハウス (p3n000115)であった。
幻想のとある村の話だ。
盗賊団はある村を襲った。勿論、略奪略取のためである。
だが、その情報は盗賊団から齎されたのだる。村を襲った不届き者がローレットに助けを求める。
その理由というのが、彼等はその村から命辛々逃げ伸びた。両親と子供一人の三人家族の家を襲った時、彼等は直ぐに盗賊団を壊滅させた。
――それは、その両親が『魔種』であったからに他ならない。
子供達を護る為に強欲にも力を欲した彼等。それを責められる謂れはない。幼い子供と、その当時は腹の中に居た生まれる間近の娘を護る為だった。
親ならばそうする。そうした。其れだけの話であった。
彼等の呼び声が聞こえ、魔種が増える可能性もある。これ以上野放しには出来ない。
「――だから、貴方達は両親を殺害した。依頼の内容通りよ。
それに……母親ルネの腹の中に居たリリアンの命を救って――それから……」
フランツェルは言葉に詰る。エミールとルネ。両親へと『娘さんは保護します』と告げたイレギュラーズ達。
だが、腹の中で呼び声を受け続けたリリアンは『反転していた』
其処まで聞いてから、アレクシア・アトリー・アバークロンビー (p3p004630)は「まさか」と呟く。腕の中にあった少年のぬくもり。まだ、思い出すことの出来る優しい感覚。
「……レオーネくんは、保護されたよ? そ、そうだよね、フランツェルちゃん」
炎堂 焔 (p3p004727)はフランツェルを見詰める。彼女は、何も言わない。その灰の眸は静かな色彩を讃えているだけだ。
「そう、そうです。保護をお願いしました。然るべき場所に、と孤児院も探し、確りとお願いをしました」
クラリーチェ・カヴァッツァ (p3p000236)にマリア・レイシス (p3p006685)は同意し、頷く。「君の言葉の続きを聞いても?」と穏やかな声音は僅かに固い音色を響かせた。
「近頃、あの村の近辺で魔種が活動していると報告があったわ」
「魔種……? も、もしかしてルネさんとエミールさんを反転させた!?」
身を乗り出したフラン・ヴィラネル (p3p006816)を落ち着かせるようにベネディクト=レベンディス=マナガルム (p3p008160)が制し「フランツェル、言葉の続きを」と促す。
どうにも嫌な予感がする。雨が降る前のような、じめじめと湿った気色の悪い気配だ。
「それから、手紙が。ローレットに」
「手紙? ……ああ、そういうことかよ」
差し出されたそれを手にしてからシラス (p3p004421)は「くそ」とぼやいた。苛立ちが滲む彼の横顔を見てからリア・クォーツ (p3p004937)は恐る恐ると其れを手にして。
「くそったれだわ」
人は皆、誰かに祝福されるために、生まれてくるのだから。
だから、主よ。
どうして、こんなにも恐ろしい事ばかりが起こるというのですか。
――ぼくは おまえたちをゆるさない――
●Ognuno ha la sua croce
魔種という存在なんて、知らなかった。
不幸になる人。孤児院の先生からそう教わった。
不幸になる人を沢山作る人で、とても恐ろしい伝承の魔物。
だから、それに取り憑かれた人は一生治ることない病気になって仕舞うから、苦しくなる前に英雄が殺(すく)ってくれるらしい。
けれど、残された僕は?
父さんも、母さんも、リリアンも。
リリアンなんて、産まれたときからその病気だったっていうのか。
ぎゅっとおねえさんに抱き締められながら。
生暖かい春風の中で、僕は。
――あのひとたちをゆるしてはいけない。
――あのひとたちは、ぼくのかぞくをころした ひとごろしなんだから。
- Ognuno ha la sua croce完了
- GM名夏あかね
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年06月18日 23時20分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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――今日という日が毎日続く保証は、何処にもありはしない。そして、誰にとっても同じ事。
殺して、殺して……明日を掴んで来たんだ。
嘘、と。
零れた言葉を肯定する者は居なかった。現に、事は起こってしまっている。
『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は何度も「嘘」と繰り返した。嘘、嘘でしょ。嘘であって。そんな、子供みたいな駄々を捏ねても時間は戻らない。
「――だって、だって、こんな……」
レオーネ。小さな少年を助ける為の事だった。納得できない、と零れる声音は震えている。
「レオーネくんのこと、助けられたって思ったの。恨んでいいよ、それを生きる理由にしたっていいって、そうも言った。
だって生きていれば、きっと未来があるって信じてたから。そ、そうでしょ? 生きてさえいてくれれば――」
震える指先が、己を抱き締めた。『青と翠の謡い手』フラン・ヴィラネル(p3p006816)をそっと抱き締めた『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は苦しげに「ああ」と息を吐く。大丈夫だと背をさする指先にだけ、感情は滲んでいた。
(こういうとき、どうするのが正しいんだろうね……。
全然わからないよ……『兄さん』は……ヒーローは、こういうときどうするの?)
不安を胸に仕舞い込み、毅然に振る舞う。フランを抱き締める腕は、あの日、レオーネを抱き締めていたのに!
「レオーネくんの描いた未来は、真っ暗だったのかな。あの時家族と一緒に殺してあげれば……?」
「フラン」
首を振った『黒狼の勇者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は「言っても無駄だ」と静かに言った。
ベネディクトは予感していた。それは現実に期待をしなくなったというだけなのかもしれない。だが――何時かその手が、あの日に救った子供を殺める可能性を彼は認識していたのだから。
何時の日か、自身らが殺される時が来ることだって彼は分かっていた。それでも、その日は今日じゃない。
「俺達を待つならば、行かねばならん。それが俺達の責任だ。……例え、どの様な結末が待ち受けて居ようとも」
ぐ、と息を飲んだ焔とフランは俯くことしか出来なかった。
「人は生まれ落ちた時から罪を背負っている。即ち生きるとは贖罪の道。命尽きし時、罪は許され天に還る。
この世界のためには必要な事だった。私達は間違っていない。この家族の運命は変えられない」
神様に祈るように、『罪のアントニウム』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)は指を組み合わせた。それは、自分を納得させるためだけの言葉だ。
「――なんて、思い切れたらどんなに楽だったことか。救いたいものを救えずして、なんのための力か。
そして、なんのための信仰か。神がおわしますならば、幸せな家庭をどうしてこのような不幸に陥れたのか」
神様にだって恨み言の一つや二つ、届けたくない。救う為に誰かを傷付ける。永訣の日が此程近くに訪れるなど、有り得てはいけないのに。
「主よ……罪とは、何処にあるものなのでしょうか」
『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)は震える指先で祈った。
「魔種は存在そのものが罪なのでしょうか、だから罰するのが正しいのでしょうか。
出会ったら、救えたであろう罪無き子が魔種になるのを指を咥えて見ていたわたしは、どうなのでしょうか――教えてください、主よ」
神様なんて、くそくらえだ。
その言葉を飲み込んで『竜剣』シラス(p3p004421)は一言だけ漏らした。
「残念だ」
●
取り返しが付かない一線がそこにはあった。それを心から望んで越えてしまう人間なんていやしない。
フランが『彼の未来が真っ暗だったのか』と呟いたその言葉をシラスは肯定も否定もできやしない。彼は、甘い言葉に惑わされた。
そうやって手を差し伸べただけなのだ。レオーネは気の毒な身の上で、気の毒な選択を与えられた。それを気の毒だ、と思えども悲しむ資格なんて『ひとごろし』にはないことを知っているのだから。
「そうか」
目を伏せた『雷はただ前へ』マリア・レイシス(p3p006685)は「彼はそっちの選択をしてしまったんだね……」と呟いた。
軍人として、選ぶことには慣れている。その心に惑いが生じるのは愛する人を思う心が大きくなったからだろうか。故に、不憫な少年に心が揺らいだ。
「彼は……私達がどんな言葉をかけようとも決して納得は出来ないだろうね。当たり前のことだ……。
なら、私達に……私に、何が出来る? 彼はきっと家族の仇を取りたいに違いない。けれど、取らせてやる事も出来ないんだ」
此処で死ぬわけには行かなかった。ベネディクトが『今日ではない』と決別の日ではないと宣言するように。マリアとて、生きてゆかねばならない理由があった。
マリィと呼んで綻んで、白い指先が髪を梳く。愛しい人の――愛しい姿。彼女から『自分』を奪わせてはいけないのだから。
「――……だったら取ったつもりにさせてやればいい! やることは決まった!
あとは突き進むのみ! 涙は見せるものか! 泣きたいのは彼だ! 泣きたかったのは彼の家族達だ――!」
泣きたかったのは彼の家族達だった。
子供を預けて下さいと告げた唇が、彼を殺す事を選択する罪深さ。その重荷にフランの心は押しつぶされそうになる。
「あたし達は、『人殺し』だ」
その言葉を紡ぐ度に、心が苦しくなった。潰れてしまいそうな、恐怖感。人を殺す事を厭う普通の少女が、己をそうであると断言することはどれ程に苦しいことか。
「悪党だから、人殺しだから、『――』だからって理由をつけたって変わらない……あたしの手は、人を救うけど殺す手でもあるんだね」
癒すことで、誰かを殺す手を貸した。己が手を下さないだけで――誰かを殺める手伝いをして居ることには変わりない。
息を潜めたベネディクトは「大丈夫か」とだけ問うた。人を殺す事にも慣れて、褪めてしまった男はレオーネ少年に掛ける言葉も無いのだと彼の元へと急ぐ脚を僅かに緩める。
「大丈夫、なんて。……そんなこと無いわ。そんなこと無いじゃない。
レオーネの怒りも悲しみも、溢れてくる旋律(かんじょう)すべてが、もうこの距離から聞こえてくるのに――!」
唇を噛んだリアはベネディクトに「ごめん」と小さく溢した。彼やシラスを責めるのは間違いだ。仕事であれば人を殺めてきたシラスは小さな子供でも手を掛けてきた、今更『真人間ぶって』見せることは出来ないとリアから視線を逸らす。
「別に、誰が何を思おうたって、それは自分らしさだろ。……あの家族のために手を尽くしたのは知っている」
シラスの言葉がアレクシアを指していることに気付いてリアは唇を噛んだ。心優しき魔法使い、救う手を伸ばすことを厭わぬ彼女は泣き出すことも苦しむ事もないように『慣れきった』顔で焔とフランの手を引いている。
(――あんな平気な顔をさせちまってんだ、俺は。出来れば救いのある結果になって欲しかった……)
アレクシア、と名を呼んで何か言葉を掛けることさえ憚られて。シラスは「早く終わらせてやろう」とだけ呟きリアの肩を叩いた。
神様が不公平なことぐらい知っていた。クラリーチェは祈る指先をだらりと溢してから唇に音を乗せる。
――『家族そろって魔種になっていれば、少なくとも本人達は幸せを享受できた』
リアが顔を上げ、行き場のない感情を溢れさせたまま、クラリーチェを見る。信心深き乙女は「それを引き裂いたのは、私達です」と冷たく言った。
「どんなに恨まれてもあの子だけはと思っていた。最悪の目が出てしまったと嘆くのは最後。今は……行きましょう。私達の『役割』を果たすために」
●
「レオーネ君……だよね」
アレクシアは少年を見た。あの日、握りしめた子供特有の温かな体温も、柔らかな気配も感じられない。酷く痩せ細ってぎゅっとテディベアを抱き締める幼い子供。
「……ひとごろしが、きた」
呟かれた言葉にアレクシアの目頭が熱くなった。違う、泣いてはいけない。泣きたいのは彼で――『私が言われた言葉は何一つ間違ってない』
「うん。レオーネくん、来たよ。おうちを壊したくないから、お外で話そう?」
涙が流れぬようにと堪えた表情は強張っていただろうか。フランはレオーネを促した。レオーネはおずおずと彼女に従う。
「私たちの事、覚えていらっしゃるようですね」
クラリーチェは静かに言った。思い出に溢れた家を壊すのは忍びないと『善人ぶった』言葉でも、それが彼のよりどころであるならば、その地を破壊する者にはなりたくなくて。
「おねえさんも、おにいさんも、来たんだ」
「うん。……来た、来た、よ。お手紙を出したのは本当にレオーネくんだったんだね。
どうして――なんてわかりきってることだよね。ごめん、ごめんね、今更どうしようもないのはわかってるけど」
「謝らないで!」
鋭い言葉に焔は口内でだけ呟いた。――君の心まで救ってあげられなくて、ごめん、と。彼を救いたかったのに、救う事のできなかった愚かな自分。
指先だけで指示をして鳥に周囲を見晴らせた。落ち着いた様子でマリアはレオーネをまじまじと見詰めていた。遣ることが決まった彼女にとって、心は穏やかな凪であったからだ。
(あの日あの場で両親と一緒に送ってやることも半分位は考えた。もし自分がレオーネならそうして欲しいと思った。
……けれども皆は諦めなかった。その考えが間違っていたとは今でも思わない、でもこうなってしまった以上は長引かせたくはない)
シラスはぐっと息を飲む。攻撃全てをアレクシアが引受けると宣言するならば、それは尚の事だった。
ベネディクトは少年から溢れ出た苛立ちを肌で感じながら槍を一本、ただ、愚直な攻撃を行うように構えた。
「その力はどうやって得た。貰ったのか?」
「知らない人が来た。かわいそうだね、って」
幼い少年にはそれしか分からなかったのだろう。誰かが手を引いていることは確かだ――そう思えばベネディクトは唇を噛み締める。
「それで、俺達を如何したい?」
「ぼくは、おまえたちをゆるさない。ひとごろし……!」
その手を汚したら人殺しになってしまうよ、なんてアレクシアは言えなかった。彼の恨みは当たり前のことだからだ。
「本当にごめんなさい、レオーネ。あたしは、貴方も殺す――今のあたしに、魔種は救えないから、魔種の犠牲になるかもしれない人達を救う」
あの日、リアが彼に言った通りに。ああ、会うのが怖かった。彼の妹をその手で殺めたときにこんな未来は予測できていたのに。
身体が引き千切られてしまいそうな程に痛い旋律を受け止めて、真っ直ぐに向き合う勇気なんてなかった。人殺しだと言われても、罪に向き合うことさえ――出来なかったのだ。
愚か者。そう言われても構わない。リアを支えるアベリアの無垢なる祈りは、如何したことか今の己には似合わないとさえ感じさせた。
「あの日君に、恨むなら恨んでくれていいって言った。それを晴らしに来るなら、正面から受け止めるとも……。
その言葉に嘘はない。だから来なさい、レオーネ君――『ひとごろし』の『わるもの』はここにいるよ」
真っ直ぐに、我武者羅にレオーネがアレクシアの懐へと飛び込んだ。コルチカム・アウトゥムナーレの毒の魔術が少年を誘ったのだろう。
ばちり、と音を立てた。防御魔装にぶつかったその傷みに二種の魔力が一気に花弁を散らす。
「アレクシアちゃん――!」
焔は唇を噛んだ。彼女がそうしてレオーネを受け止めたのならば、自分だって、気持ちを固めなくてはならない。鳴らす、カグツチ天火を。
父神より授けられた清き焔は確実なる死の気配を乗せて。焔は走った。できるだけ、彼が苦しむ事が無いように――
「レオーネ君! 君の全身全霊をぶつけてきたまえ! 全て出し切ったと! もうこれ以上はないと! そう胸を張れるほどに!」
マリアは弾ける紅雷をその身に宿して少年の下へと飛び込んだ。蒼き雷の軌跡の上でマリアは声を張り上げる。
早く――早く、と。
アレクシアが受け止める事を願ったその傷み。少年にとっての全てをぶつけてはくれないか。
レオーネを哀れと思えども、彼の死を悼むことになろうともベネディクトは魔種を殺さねばならないと『使命』付けられていた。
――見逃してはならない、俺達が特異運命座標であるが故に。
人殺しに何の違いも無い。綺麗事だって言うつもりはない。特別であるが故に義務と責任を果たすだけだ。それが、特異運命座標である確かな証。
それでも――「お前は殺した」のだと。「人殺し」だと。「間違っている」と彼が声を張り上げることは、ベネディクトにとっては救いであるのかもしれない。
支えるクラリーチェは感情を殺すように息を飲んでいた。何の慰めにもならない謝罪は、必要なんて無いのだから。
だからこそ、イレギュラーズは自分たちの全てを出し切ると決めていた。それでも、フランは叫んだ。弱い『あたし』が顔を出す。
「だめだよレオーネくん、死んじゃうよ、どこか遠くに、終焉とか行きなよ!」
そうすれば、殺さなくて済むのに。彼は、叫ぶのだ。
「ひとごろし! おとうさんと、おかあさんをかえして! リリアンを! ぼくの妹をかえしてよ!」
返す事なんて出来ない。奪った自分が、己の善性を保つために彼に逃げてと叫んだのだ。
「ッ――」
泣き出しそうなフランをその背に隠してベネディクトは飛び込んだ。槍に乗せたのは無慈悲な衝撃。
続くマリアは俯きながらも「私を殺すのだろう?」と挑発的に声を掛ける。己の命を削ったって――『彼に仇討ち』をさせたかった。
「フラン!」
リアはぴしゃりとその名を呼んだ。逃げて欲しいなんて、願っちゃいけない。唇が震えて、声が出ない。
「俺達は、イレギュラーズだ」
ベネディクトは冷たくそう言った。その眸は『力ある者の責務』を滲ませる。
その様子を見、これから魔種に殺される誰かを救う為、なんて綺麗な言葉をシラスは言えなかった。リアなら、言えただろうか。
彼は「仕事だろ」と苦しげに呟いた。救いなんて、もう、ないのだから。
少年に放たれた無数の攻撃。アレクシアを護る為に立っていた焔はその目に映す、少年が倒れてゆく姿を。
彼の命に残された時間を。
「……お、お願い」
倒れたレオーネの手を握って、フランの聖なる光が周囲を照らす。
「お願いだから……ッ、魔種にだって、届いてよ! レオーネくん、レオーネくん……!」
――痛みを取り除いて、君に幸福な死を与えたかった。
光が霧散する。ああ、駄目なのかも知れない。我武者羅に手を握りしめるフランの肩をそっと抱いてからリアは「もう、いいのよ」と呟いた。
「私達は、人殺しだから――出来ることは、これだけだった」
死の恐怖の間際にマリアは微笑んだ。最大火力を放った身体は傷む。彼女の身体を支えるシラスは、幻影で己を隠し、夢を見せるようにマリアの死に際を眺める少年の横顔を見て居た。『夢の中』で、彼も立派な人殺しだ。
それでもいい。それでも――「見事だ……仇……討てたじゃあないか……」と浅い呼吸で微笑んだマリアの眸から、涙が一筋落ちていった。
●
送り人として、途往きを祈るクラリーチェは彼が迷うことなく家族の元へと導かれることを願い続ける。
「おかしいな……戦場では涙なんて流したことはないのに……ねぇヴァリューシャ……私は弱くなったのかな……」
呟くマリアに、涙をぼろぼろと溢すフランは俯いたままにレオーネの墓を眺めた。リアと焔は両親の隣に眠らせてやろうと準備をしていたのだ。
「家族皆、会えたかなぁ? ……会えたらいいなぁ」
呟いた言葉に、言葉が引っかかる。家族を殺したのは――『あたし達』なのに。
「あの時、貴方たちが守りたかったものを守る為にって言ったのに……。結局こんなことになってしまって、ごめんなさい。
償いになるかわからないけど、貴方たちやレオーネくんを変えてしまった魔種は必ず倒すから、どうか見守っていて」
焔は俯いた。彼等の宝物、可愛い子供達。こんなにも早く送ることになろうとは、と。
「貴方の旋律、それがあたしが一生背負い続けるべき十字架。あたしは、この十字架の重みは消して忘れない。
……強くなりたい。悲しい旋律に喘ぐ全ての人を、救えるくらいに。強く……」
リアはただ、呟いた。あの音は、悲痛だった。助けて欲しいと懇願するわけでもない。
父と母のためだと泣き叫んだ、心が苦しいほどに胸を打つ。
ベネディクトは「迷っている暇はないか」と小さく呟く。彼を『魔種』とした誰かを探さなくてはならないのだ。
「疲れたろ、おやすみなさい」
シラスの呟きに、アレクシアの脚から力が抜けた。魔種になってしまったから、そういって沢山の命を『殺してきた』
仕方が無かったと言い訳もできない。レオーネの思いを否定することなんてできなかった。
「……いつか、君のような想いを抱えずに済む世界にしてみせるから」
――私達は、まだ見ぬ未来と沢山の人の為に、個を殺し続けるのだから。
人を殺して、繰り返して。罪ばかりを重ねていく。
何時もと同じ毎日が続くなんて限らない。そんなこと、ずっと昔から知っていた筈なのに。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。
皆、十字架を背負っている。
GMコメント
夏あかねです。皆で悩んで苦しんで、心に傷が残るような依頼……の、シリーズ2本目。
前回の『legame di famiglia』で生き残った少年が反転してしまったお話。
●成功条件
レオーネの殺害
●レオーネ
魔種となった両親を目の前で殺され、母の腹の中から取り上げられたばかりの妹も魔種であった為にイレギュラーズによって殺された少年。
保護され、孤児院で暮らしていましたがある日を境に行方知れずとなりました。
やんちゃな男の子でした。妹が生まれてくるのを楽しみにしていた何気ない幸せを何気なく普通に送っていた少年です。
両親の変化など気付かず、彼等が『不治の病であった』事など理解出来るわけがありません。勿論、妹のことだって。
彼は、反転してしまっています。
彼の中では皆さんは英雄でも正義の味方でもなく、家族を殺した人殺しです。
人殺しの皆さんは、もう一度人殺しをしなくてはなりません。魔種となった彼を、あなたがたが両親と妹を奪ったその手で。
戦闘方法はただ、我武者羅に、攻撃方法もずさんそのものです。
ですが、それでも、それでも仕方ないのです。
彼には、それしか。
●現場情報
村の片隅にある『レオーネの家』です。戦闘の傷痕が残っています。
周囲には根回し済み。近隣は『できるだけ』避難をしてくれていますが、あくまで怪しまれない程度です。
レオーネは、そこで待っていました。
部屋の中には生まれてくるリリアンが使うはずであったベビーベットやベビーグッズが並んで居ます。
レオーネは小さな『妹のために用意したぬいぐるみ』を抱きしめて待っています。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
それでは、いってらっしゃい。
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